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村田のアルバレスやゴロフキン戦現実的に/大橋秀行

2回、ロブ・ブラントをコーナーに追い詰め右ストレートを見舞う村田諒太(撮影・上田博志)

<プロボクシング:WBA世界ミドル級タイトルマッチ12回戦>◇12日◇エディオンアリーナ大阪

同級4位村田諒太(33=帝拳)が王座に返り咲いた。昨年10月、米ラスベガスで負けた王者ロブ・ブラント(28=米国)との再戦で2回TKO勝ちした。

◇  ◇  ◇

感動した。すごいものを見せてもらった。やっぱり村田は持っている。ミドル級で大差負けからの再戦に大方はブラント有利の予想。それに勝つだけでなく、2回で倒しきった。歴史に残る試合だ。

最初のゴングでブラントは走って出てきた。初防衛もして、より強くなり、自信も持って攻めてきた。これに対して、村田は腹をくくって前に出た。心意気、ハートが違った。

パンチをもらっても前に出た。前戦では、パンチをもらうと前に出られず後手に回った。しかし、この日は負けずに迎え撃ち、前に出てプレッシャーをかけた。打たれても距離をつぶし、追い足もあり、ボディーもよく、重戦車のよう。1回で勝てると思った。

この勝利でボクシング界は“半端ない”盛り上がりとなるはず。村田もまだまだいける。アルバレスやゴロフキン戦も、夢でなく現実的になった。

以前は世界戦といえば悲壮感があった。井上尚弥と村田の2人はそんなそぶりもなく、リングで集中して結果を出す。他競技で活躍する選手もそう。これからの日本を支え、変えていく存在といえる。ボクシングの魅力、すごみを存分に見せてくれ、お礼を言いたい。(元WBA、元WBC世界ミニマム級王者・大橋秀行)

村田諒太はロブ・ブラントに勝利し笑顔で会見する(撮影・加藤哉)

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村田諒太、本来の攻撃力爆発で雪辱へ/運命の再戦3

前日計量を終えブラント(右)とフェイスオフする村田(撮影・加藤哉)

ボクシングWBA世界ミドル級4位村田諒太(33=帝拳)がホームの日本で挑戦する注目カード、ロブ・ブラント戦を「運命の再戦」と題し連載する。

   ◇   ◇   ◇

村田-ブラント第1戦はパンチ数の差が浮き彫りになった。米ボクシングデータ統計・分析会社「COMPU BOX」の調査で、村田のパンチ数が774発に対し、ブラントは1262発。うちヒット数も村田の180発に対し、ブラントは356発と2倍に近い数値をマークしていた。

しかし村田は「ボクシングは相対的なもの。前回のようにガードをあげて『打って下さい』みたいだったらボクだって10回でも、20回でも打てます」と気にしていない。確かにヒット率はブラント第1戦が31・1%だったのに対し、18年4月のブランダムラ戦は59%、17年10月のエンダム戦も56・5%と5割を超えた。前回のブラント戦のパンチ数は村田の不調を表すデータでもあった。

元WBA・WBC世界ミニマム級王者大橋秀行氏(大橋ジム会長、本紙評論家)は「持ち味の前に出て圧力をかけ、つぶしにいけばいい。日本開催の今回はブラントの体力が削られる」と分析。村田本来の攻撃力が爆発すれば、運命の再戦でリベンジは成功する。【藤中栄二】(おわり)

前日計量を終えガッツポーズを見せる村田、右はブラント(撮影・加藤哉)

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井上尚弥いとこ浩樹「テッペン取る」初防衛戦に集中

7月1日の初防衛戦に向けた前日計量をクリアした日本スーパーライト級王者井上浩樹(左)と挑戦者の同級8位池田竜司

ボクシング日本スーパーライト級王者井上浩樹(27=大橋)が英グラスゴー遠征効果で初防衛成功を狙う。

7月1日、東京・後楽園ホールで同級8位池田竜司(24=竹原&畑山)とV1戦を控え、6月30日に都内の日本ボクシングコミッションで前日計量に臨み、井上はリミット(63.5キロ)、池田は200グラム少ない63・3キロでクリアした。

今年4月に同王座奪取後、5月にはいとこのWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝をサポートするため、一緒に英グラスゴーに遠征。バンタム級とダブル世界戦だったスーパーライト級WBSS準決勝を視察した。IBF同級3位のジョシュ・テイラー(英国)が同王者イバン・バランチク(ベラルーシ)に判定勝ちし、王座獲得した瞬間を見届けた。

井上は「ボクの足りないところをたくさん持っていた。自分ならこうするけれど、スタミナが持たないだろうなと思った動きを(テイラーは)最後までしていた。世界とはこういうものだと思いました」と振り返る。帰国後はスタミナ強化のために水泳トレなども導入し、ボクシングに対する姿勢にも変化があった。井上は「大橋(秀行)会長に『この間の試合をみて刺激を受けたな。単純だな』と言われて。本当に会長の言うとおりで。図星です」と触発されたという。

「コンディションはバッチリ。インパクトのあるボクシングを目指したい。上を行きたい気持ちもある。やるからにはテッペンを取りたいので」。いとこの尚弥、拓真の世界王者兄弟に続くため、まずは4月に奪ったばかりの王座の初防衛に集中する。

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井上尚弥、来月中旬メドにWBSS決勝の会場決定へ

5本のベルトを体に巻き付けガッツポーズする井上(撮影・河田真司)

ボクシングWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が年内に臨む予定のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝の会場について、所属ジムの大橋秀行会長(54)は25日、来月中旬を目標に決める方針を示した。

同会長は「村田諒太選手の世界戦(7月12日)あたりを目標に試合会場、日程などを決められば。まもなく決まると思います」と明かした。WBSS決勝の相手となる5階級制覇王者のWBAスーパー王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)は米西海岸が拠点。ただ来日経験も多く、同じアジア勢でもあるため、日本開催にも柔軟に対応できるという。

WBSS主催者はスーパーライト級、クルーザー級を含めた3階級の決勝開催地の興行権を世界各国に売り出している。運営資金を集めたいWBSSは高額提示する開催地を選択するため、オイルマネーが豊富な中東なども候補に挙がっている。

父でトレーナーの井上真氏(左)とミット打ち練習をする井上尚(撮影・河田真司)

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井上尚弥が世界団体5本ベルト披露「歴史感じる」

自ら5本のベルトをリングロープに掛け、指をさして写真に納まる井上(撮影・河田真司)

ボクシングWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が25日、横浜市内の所属ジムでプロ18戦で獲得した世界主要団体など計5本のベルトをお披露目した。WBA、WBC、IBF、WBOの4団体に加え、1922年創刊で歴史と権威のある米老舗ボクシング誌ザ・リング認定のバンタム級ベルトが先週届き、コンプリートした世界的な全ベルトを並べた。

井上は「自分もこうやってベルトを並べたのは初めて。重圧というか、やってきた歴史を感じました。最初にWBCのタイトルを取ってWBO、WBA、IBFと取りましたが、それぞれ思い出があります。これに満足しないで頑張りたいです」と決意を新たにした。

主要4団体のベルト制覇は過去に36戦目で高山勝成が成し遂げたが、5本のベルトの獲得は日本人初となった。所属ジムの大橋秀行会長は「ベルトをみてやり遂げたなと思う。しかし、またあらためてここからがスタートです」と強調した。

井上は14年4月、当時の日本最速となるプロ6戦目で初世界王座となるWBCライトフライ級ベルトを獲得。8戦目となる同年12月にはWBO世界スーパーフライ級王座を奪取し、2階級を制覇。16戦目の18年5月にWBA世界バンタム級ベルトを奪った。昨年10月から階級最強を決めるトーナメント、ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)に参戦。今年5月のWBSS準決勝では、ザ・リング認定ベルトも懸けられ、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回TKOで下し、一気に全ベルトを手中にしていた。

年内に予定されるWBAスーパー王者ノニト・ドネア(フィリピン)とのWBSS決勝に向け、大橋会長は「日時、会場はまもなく決まると思います。このベルト5本とはまた違ったベルトも狙っていきたい」とサポートを約束していた。

★世界主要ベルト★

◆WBA(世界ボクシング協会)1921年発足。本部はパナマ。52年に日本ボクシングコミッション(JBC)認定。全米ボクシング協会が母体。62年に現名改称。ヒルベルト・メンドーサ会長。

◆WBC(世界ボクシング評議会)1963年発足。本部はメキシコ。70年にJBC認定。加盟国がもっとも多い世界最大王座認定団体として知られる。マウリシオ・スライマン会長。

◆IBF(国際ボクシング連盟)1988年発足。本部は米国。13年にJBC認定。ニュージャージー州に本部がある米唯一の団体。ダリル・ピープルズ会長。

◆WBO(世界ボクシング機構)1988年発足。13年にJBC認定。元6階級制覇王者オスカー・デラホーヤ(米国)が最初に獲得した王座として有名に。フランシスコ・バルカルセル会長。

◆ザ・リング 1922年創刊の米老舗ボクシング誌。創刊から独自に各階級ランキングや王者を選出、認定する。階級を超越したパウンド・フォー・パウンドも決めている。ダグ・フィッシャー編集長。

5本のベルトを披露する井上尚 2019/06/25
質問に笑顔で答える井上(撮影・河田真司)

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井岡魂のラッシュ、パワー不足はもう解消/大橋秀行

パリクテ対井岡 10回、井岡はパリクテからのTKO勝ちで4階級制覇を達成しコーナートップで雄たけびを上げる(撮影・小沢裕)

<プロボクシング:WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦>◇19日◇千葉・幕張メッセ

WBO世界スーパーフライ級2位井岡一翔(30=Reason大貴)が、再挑戦で日本男子初の4階級制覇を達成した。同級1位アストン・パリクテ(28=フィリピン)との王座決定戦。長身で強打の強敵を相手に技術を生かして10回1分46秒でTKO勝ちした。

   ◇   ◇   ◇

最後にみせた井岡のたたみかけは素晴らしいものがあったと思う。身長、リーチ差のある相手のペースになるかと思われたが、相手との距離感をつかみ、徐々にパンチを当て、右アッパーまでヒットさせ、次第に自らのペースに引き込んでいた。仕留め切り、終わって見れば必然のTKO勝ちのような展開だった。7回のパンチ連打で疲れたパリクテの失速が早かったこともあるが、それを差し引いても既にパリクテは攻め手がなかったように思う。

大みそかのニエテス戦で感じていた井岡のスーパーフライ級でのパワー不足は、もう解消されていたと言っていい。日本男子初の4階級制覇を達成した後、まずは指名試合をクリアすることになると思う。私は井岡のその後を楽しみにしている。まず私の大橋ジムには井岡と同じ階級で4階級制覇を狙う八重樫東がいる。ミニマム級王座統一戦で1度対戦していますが、ぜひ八重樫の挑戦を受けてほしいと思います。(元WBA、元WBC世界ミニマム級王者・大橋秀行)

パリクテ対井岡 連打を放ちTKO勝ちした井岡(右)(撮影・滝沢徹郎)

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花形進新会長の逸話「あれがなければ井上尚弥も…」

乾杯する花形進会長(左)と三千代夫人

日本プロボクシング協会花形進会長(72)の就任をお祝いする会が、6日に横浜市内で行われた。

4月に東日本ボクシング協会会長と兼務で就任し、約150人がお祝いに駆けつけた。「日本には井上尚弥というスーパースターもいる。1期3年は頑張って、理事たちと話し合いながら、ボクシング界を盛り上げていきたい」とあいさつした。

大橋秀行元協会会長があいさつで逸話を披露した。中学時代は花形会長と同じ協栄河合ジムで、トレーナーになっていた花形会長にも指導を受けた。プロ入門時は強豪ヨネクラジムに勧誘されていたが、半年後に開設する花形ジムに入門予定だった。ところが、花形会長が「まだ経験もないし、自信もない。ヨネクラジムに入った方がいい」とすすめたという。

大橋会長は「すばらしい言葉。あれがなければ、井上尚弥もいなかった。命の恩人とも言える。自分のことより人のことを考える会長らしい。人気復活させましょう」ととっておきのエピソードに会場も盛り上がった。

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タイソンと「ミニ・タイソン」井上尚弥がマカオ競演

英ボクシング誌でミニ・マイク・タイソンと報じられた井上尚弥

タイソンとミニ・タイソンが競演!? ボクシングWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が30日からマカオで開幕するIBF総会に出席することが決まった。大橋秀行会長が23日、明かしたもので、IBFベルトの贈呈式に臨む予定だ。同会長は「IBF王者になったのだから雰囲気を味わうものいいと思う」と歓迎。マカオには井上、WBC世界同級暫定王者の弟拓真(23)、トレーナーの父真吾氏(47)も同行する。

また同会長によれば、元統一ヘビー級王者マイク・タイソン(52=米国)もIBF総会に招待されているという。井上はIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)とのワールド・ボクシング・スーパーシリーズが開催地となる英国ボクシング誌に「ミニ・マイク・タイソン」と命名されており、マカオでタイソンとミニ・タイソンがそろい踏みしそうだ。

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井上尚弥VSドネア、日本開催なら京セラ大阪D有力

井上対ロドリゲス 1回、ロドリゲス(右)にパンチを放つ井上(撮影・滝沢徹郎)

【グラスゴー=藤中栄二】挑戦者でWBA正規王者の井上尚弥(26=大橋)が、2回1分19秒TKOでIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)を下し、決勝進出を決めた。2回に左フックなどで計3度のダウンを奪ってレフェリーストップに追い込み、WBAとIBFの2冠王座に就いた。5階級制覇王者のWBAスーパー王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)との決勝は、日本開催となれば京セラドーム大阪が有力候補として浮上した。

   ◇   ◇   ◇

試合後のリングで、井上はワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)開幕前から対戦希望してきたドネアから祝福を受けた。過去最強の相手となった無敗王者ロドリゲスから計3度のダウンを奪って圧倒的な強さを誇示し、決勝の相手と堂々と向き合った。「尊敬するドネアと戦えることをうれしく思います。そこに向けて1からやっていきたい」。笑顔で抱擁を交わしたドネアから「ベスト・オブ・ベストの戦いができる。戦う運命にある」と認められた。

その運命的な決勝にふさわしい大舞台が浮上してきた。カードが決定したばかりで時期や開催地さえ決まっていないものの、もし日本開催となった場合の有力候補に京セラドーム大阪が挙がった。大橋秀行会長は「やはりドネアは尊敬されるボクサーで、尚弥もあこがれている選手。横浜で私も偶然会ってすしを食べた間柄。それなりの舞台を」と候補として考えていることを認めた。

ボクシング界の国内ドーム大会はマイク・タイソンが88年、90年に東京ドームで2度世界戦に臨み、99年には辰吉丈一郎が当時のWBC世界バンタム級王者ウィラポン(タイ)に挑んだ大阪ドーム(現在の京セラドーム大阪)の3例のみ。もし京セラドーム大阪でボクシング興行が開催されれば20年ぶり。実現すれば令和のボクシングの幕開けにふさわしい大会となる。井上-ドネアのWBSS決勝の意義もさらに高まりそうだ。

井上にとってドネアは特別な存在だ。以前から衝撃の試合として挙げるのは11年2月、ドネアがWBC・WBO世界バンタム級王者モンティエル(メキシコ)を左フック1発で失神KOに追い込んだ世界戦。14年12月、WBO世界スーパーフライ級王者ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦する前には大橋ジムでドネアと合同練習。攻略の助言まで受けた。井上は「人間的にも尊敬できるし、縁もあるので戦いにくい。でも、そこは勝負の世界。やるしかない」と強調した。

フィリピンの閃光(せんこう)と呼ばれるドネアと、モンスターの井上が激突する階級最強を決めるトーナメント決勝。京セラドーム大阪開催が決まれば、機運も最高潮に達することは間違いない。

井上対ロドリゲス 2回、ロドリゲスに勝利し雄たけびを上げる井上(撮影・滝沢徹郎)

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井上尚弥インターバルで修正、2回立ち方変えTKO

WBSSバンタム級準決勝 井上対ロドリゲス 2回、ロドリゲス(右)をパンチのけ反らせる井上(撮影・滝沢徹郎)

<プロボクシング:ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)・バンタム級準決勝>◇18日◇英国・グラスゴー・SSEハイドロ

WBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が2回1分19秒TKOでIBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)を下し、WBSS決勝進出を決めた。

1回にロドリゲスのかけたプレッシャーで後方に下がってロープを背にする場面があったものの、2回にはカウンターの左フックから左ボディーなどで計3度のダウンを奪ってレフェリーストップに追い詰めた。1回と2回にある1分間のインターバルで、井上はスタイルを修正していた。

自らの力みで思うように動けず、さらにIBF王者の前に出る圧力で1回の井上はロープ際に追い込まれた。過去の世界戦でも珍しいシーンだったが「(プレッシャーを)かけてくるなと思ったので、自分は引きながら引きながら展開を作って」。1回終了後は「試合が長引く」と頭をよぎったものの「気持ちの余裕はありましたよ」。コーナーで父真吾トレーナーに「リラックスして柔らかく」との指摘を受けると、体全体から力みが消えていた。

すると2回、井上は少し重心を低くする立ち方に変えた。「予想よりもプレッシャーをかけてきたので、勢いづかせないため」。少し前かがみで体を出すことでのけぞることはなくなった。「自分の重心を抑え、(ロドリゲスの重圧を)抑える。自分の感覚ですね」。必然的に危険な接近戦になったが、井上の独壇場になった。カウンターの左フックが命中。面白いようにボディーに両拳をねじ込ませ「いいパンチが当たった」と振り返った。

たった1分間で修正できる井上のボクシング感覚がモンスターと言われる所以だろう。師匠の大橋秀行会長は「2ラウンドでがらっと変わった。あっぱれです。1ラウンドが終わった時に判定もあるかなと思ったから。予想を上回りました」とうなっていた。

WBSSバンタム級準決勝 井上対ロドリゲス 2回、ロドリゲスに勝利し雄たけびを上げる井上(撮影・滝沢徹郎)
WBSSバンタム級準決勝 井上対ロドリゲス2回、エマヌエル・ロドリゲス(奥)にパンチを見舞う井上(撮影・滝沢徹郎)

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井上尚弥計量パス「過去最高の相手、精進して臨む」

WBSSバンタム級準決勝 井上対ロドリゲス 公開計量をクリアしロドリゲス(右)とにらみ合う井上(撮影・滝沢徹郎)

18日(日本時間19日朝)にワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えるWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が17日、開催地の英グラスゴーで前日計量に臨み、リミットよりも100グラム少ない53・4キロでパスした。無敗王者対決となる対戦相手のIBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)も53・4キロでクリアした。

計量後のオフィシャル撮影の場で井上は15日の会見に続き、ロドリゲスと約15秒間にらみ合いを続けた。両者ともに絞り込んだ肉体も確認。井上は「やっぱり良い具合に仕上げてきている。過去最高の相手といっても過言ではないので、明日、しっかり精進して臨みたい」と決意を口にした。一方のロドリゲスは「12ラウンドでも13ラウンドでも14ラウンドでも戦えるようなコンディションはできている。IBF王座を防衛します」と自信をのぞかせた。

両者のにらみ合いをチェックしていた大橋秀行会長は「ロドリゲスの目が泳いでいた。あれが作戦なのか何なのか」とIBF王者に警戒していた。

計量後の井上はスッポンスープなどで減量で疲れた肉体を癒やし、夕飯にはステーキハウスに足を運んでパワー回復に専念していた。

WBSSバンタム級準決勝 公開計量をクリアし記念撮影に臨む井上(左手前)とロドリゲス(右手前)(撮影・滝沢徹郎)

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大橋会長激励受けた、井上尚弥試合控え元王者から

会見場で取材に応じる大橋会長(2019年5月18日撮影)

ボクシングWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)の所属ジムの大橋秀行会長(54)が、弟子の大一番の前に同級の元世界王者2人のパワーを受け取った。18日(日本時間19日)に英グラスゴーでIBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)とのワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えた井上に代わり、大橋会長が16日、同地で報道陣の取材に応じた。

井上-ロドリゲス戦のテレビ中継の解説のために現地入りしている長谷川穂積氏、山中慎介氏の元WBC世界同級王者コンビと顔を合わせ、激励を受けた。大橋会長は「あの2人の世界王者からしっかりとパワーをもらいました」と満面の笑み。14日にジムワークを打ち上げている井上については、「ホテルで体重調整して明日の計量に備えています。調子は本当に良いです」と強調した。

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井上尚弥、ロドリゲスに15秒間メンチ!会場緊迫…

会見後、向き合う井上(右)とロドリゲス(撮影・滝沢徹郎)

18日(日本時間19日早朝)に英グラスゴーでワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えるWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が15日、同地のホテルで最後の公式会見に臨んだ。

会見後のフェースオフでは、約15秒間にわたるにらみ合いが繰り広げられ、会場が静まりかえる一幕もあった。鳴り響くのはカメラのシャッター音のみ。先に目を離して立ち去ったのはロドリゲスだった。“前哨戦”はピリピリムードに包まれながらも井上は自然体を貫いた。

IBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)との同席会見。昨年10月の米国視察以来の再会に井上は「前の時と印象はそんなに変わらないですね。(体重を)結構、絞っているという印象。気合も感じました」と口にした。14日の公開練習に続き、会見でも司会者からKOに対する期待感が込められた質問を受けた。昨年10月の元WBAスーパー王者フアンカルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)との1回戦で70秒KO勝利を飾った印象とインパクトの強さが海外にも拡散されていることを再認識。井上は「流れの中でチャンスがあれば狙っていきたい」と意欲を示した。

大橋秀行会長は「尚弥とロドリゲスはお互いがリスペクトしている。世界最高峰の戦いになる。無敗王者同士の統一戦は日本人では初めて。1回からスゴイ技術戦になると思う」と予測していた。

井上対ロドリゲス 会見後に取材に応じる井上(撮影・滝沢徹郎)
井上対ロドリゲス 会見場に訪れた長谷川氏(奥)と握手を交わす井上(手前)(撮影・滝沢徹郎)

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井上尚弥公開トレ快調「KOは遅かれ早かれ起こる」

グラスゴーで開催された公開練習に臨んだWBA世界バンタム級王者井上尚弥はグローブにサイン(大橋ジム提供)

18日に英グラスゴーでワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えるWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が14日(同15日)、同地ジムで練習を公開した。

外国メディアが詰めかける中、シャドーボクシングなどを披露。既に8日から現地入りしていることもあり、すっかり環境にも慣れた様子。IBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)とのWBSS準決勝に向けて取材にも応じた。

井上は「調子はいいので、試合が待ち切れない」と声をはずませ「土曜日にはロドリゲスをKOできれば。何ラウンドになるかは分かりませんが、KOは遅かれ早かれ起こると思います。みなさんが自分に何を期待しているかは分かっています」と初上陸の英国でKO勝利への強い決意を口にした。

また公開練習を見守った師匠の大橋秀行会長は「尚弥本人が言っている『過去最高の出来』という言葉にまったく同感です」と仕上がりの良さを強調していた。

英グラスゴーで開催されたWBSS主催の公開練習に出席したWBA世界バンタム級王者井上尚弥(大橋ジム提供)

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井上尚弥-ロドリゲス戦火花 父真吾さんの撮影制止

ロドリゲス陣営のトレーナー(左)から写真撮影をストップされた井上尚弥の父真吾トレーナー(大橋ジム提供)

井上-ロドリゲス戦がヒートアップ!? 18日に英グラスゴーでワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えるWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)を指導する父真吾トレーナー(47)が、IBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)陣営から異例のストップをかけられた。14日(日本時間15日)に同地のジムで行われたロドリゲスの公開練習を視察した真吾氏が練習風景を写真撮影した際、相手陣営のトレーナーに止められた。

真吾氏は「当然、公開練習だったのでスマホで写真を撮影しました。見つけた(相手陣営の)男がやってきて『それはできない』とジムの脇に押していった」と外国メディアに状況を説明した。ロドリゲス本人を含めた相手陣営の神経質な態度に、大橋秀行会長は「ナーバスになっている印象です」と説明。また南米のモンスターとなるIBF王者ロドリゲスの動きについて「シャドー1つにとっても本物の雰囲気でした」と警戒した。

緊張感を高めている様子のロドリゲスは「最後に自分がKOか判定で勝つだろう」と静かに闘志を燃やしていた。

公開練習でインタビューに応じるIBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(中央=大橋ジム提供)

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井上尚弥が技術戦予想「面白さも」弟拓真とスパー

弟拓真(左)を相手に公開スパーリングを披露した井上尚(撮影・小沢裕)

18日に英グラスゴーで階級最強決定トーナメント、ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝を控えるWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が3日、横浜市の所属ジムで練習を公開した。

試合10日前の8日にはボクシング発祥の地に初上陸し、IBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)との準決勝に備える。

練習前の会見で、井上は「同世代でアマチュアのキャリアを含めて一番の相手。緊張感はマックスですけれど、その緊張感を楽しみながらやりたい」と気合十分。キャリア18戦目で迎える過去最強の世界王者との対戦に向けて集中力を研ぎ澄ませた。

父真吾トレーナーは「(ロドリゲスは)若くてスピードがあって反応も早い。五分五分だと思う」と警戒した上で「打ち終わってもガードをすることを意識させている」と隙を与えない動きを繰り返してきた。18年は世界戦2試合連続の1回KO勝ちというインパクトを残した井上は「インパクトも求めますけど、昨年の2試合とは違った面白さもみせたい。フェイントの掛け合いとか技術戦ですね」とハイレベルの戦いになることを予想した。

公開練習では、WBC世界バンタム級暫定王者の弟拓真(23)とヘッドギアなしの軽めのスパーリング2回を公開。ロドリゲスを想定しながらテクニック面のチェック。その後、報道陣シャットアウトでのジムワークに入った。井上は「まだ試合まで日にちもあるし、ゆっくりやりたい。風邪も気になりますし、ピリピリしています」と意図を説明。WBSSバンタム級準決勝の反対ブロックは、WBAスーパー王者の5階級制覇王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)が同級5位のステファン・ヤング(30=米国)を7回KOで下し、決勝進出。ファイナルの相手は決まったものの「試合はボクシングファンとして試合を見ただけ。準決勝で戦うロドリゲスに集中しています」と口調を強めた。

大橋秀行会長は「ここまで完璧な調整内容。ロドリゲスも万能型で1回が始まった時のフェイントの掛け合いも楽しみ。どちらがペースをつかむのか、最初の1回がカギになる」と解説していた。

弟拓真(左)を相手に公開スパーリングを披露した井上尚(撮影・小沢裕)
弟拓真(左)を相手に公開スパーリングを披露した井上尚(撮影・小沢裕)

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井上尚弥が初の非公開トレ、WBSSへ「秘密特訓」

平成最後に5回のスパーリングに臨んだWBA世界バンタム級王者井上尚弥(左)

ボクシングWBA世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が、令和元年に階級最強を証明するために初の非公開トレを敢行した。

18日、英グラスゴーで控えるIBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)とのワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)準決勝に向け、4月30日に横浜市の所属ジムで5回のスパーリングを消化。報道陣シャットアウトでロドリゲス対策を練り、令和を代表するボクサーになる意気込みを示した。

新時代へ、モンスターにスイッチが入った。ボクシング発祥の地で控える大舞台を約2週間半後に控えた平成最後のジムワーク。井上は勢い十分の練習パートナーとピリピリムードのスパーリングを消化した。アマチュアで200勝以上を挙げるWBOスーパーフライ級ユース王者KJカタラジャ(23=フィリピン)と拳を交え、次々とカウンターパンチをヒットさせた。死角なしの内容に「(カウンターは)体が反応しました。仕上がりはいいです」と充実の笑顔をみせた。

スパーリング後、報道陣シャットアウトで約1時半の練習に臨んだ。大橋秀行会長は「(非公開は)初めてのこと。重要な試合なので良いと思う。まさに秘密特訓」と練習内容については明かさなかったが、入念なロドリゲス対策を練ったとみられる。父の真吾トレーナーも「ナオ(井上)は平成と令和をまたいでやってくれると思いますよ。絶好調ですから」と声をはずませた。

26日に米ラファイエットで行われた反対ブロックのWBSSバンタム級準決勝は、5階級制覇王者でWBA世界同級スーパー王者のノニト・ドネアが勝利した。「ドネアが勝つと予想していた」という井上は「今はロドリゲスのことしか見ていない」とあらためて集中する。日本人世界王者として令和で初めて防衛戦に臨む立場。「ボクシング人生が終わったら、令和を代表するボクサーとして名前が残ればいいですね」と決意も新たに最終調整を続ける。【藤中栄二】

練習パートナーとなるKJカタラジャ(左)とのスパーリングに臨んだWBA世界バンタム級王者井上尚弥

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井上尚弥 昭和の王者を超え世界的ヒーローの可能性

18年5月、3階級制覇を果たしベルトを掲げる井上尚弥

<平成とは・バトル編(3)>

5月18日(日本時間19日)、英国のグラスゴーでWBA世界バンタム級王者の井上尚弥(26=大橋)が、IBF同級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)との統一戦に臨む。4人の現役世界王者らが参戦するバンタム級最強を決めるトーナメントの準決勝。無敗の王者対決は今、世界の注目を浴びている。

所属ジム会長で元WBC、WBA世界ミニマム級王者の大橋秀行(54)は「新しい時代にふさわしい試合になる。今は国内だけで防衛戦を重ねていく時代ではない。だから世界に出て勝負をかけた」と、90年2月に平成初の世界王者になった自身の頃と比較しながら、今回の試合の意義を力説する。

90年代まで世界王者になれば、国民的ヒーローになれた。ファイティング原田、具志堅用高、辰吉丈一郎……街を歩けば人が群がった。「世界王座を奪取した翌日に首相官邸に招待されて、海部俊樹首相にネクタイピンをいただきました」と大橋も現役時代を振り返る。しかし、近年は街で囲まれる世界王者は少ない。

「自分の頃はJリーグもなかったし、大リーガーもいなかった。プロスポーツの世界王者はボクシングだけ。今はテニスをはじめあらゆる競技のプロ選手が海外で活躍するようになった。その分、国内で興行を続けてきたボクシングへの注目度が薄れた。自分も責任を感じていた」。日本プロボクシング協会の会長も務めた大橋は自戒も込めて分析する。平成に入ってスポーツ界は海外への門戸が大きく開かれた。イチローや松井秀喜、錦織圭や大坂なおみの活躍で、選手に世界的な評価が求められる時代になった。

現在、日本の男子の世界王者は7人。昨年は一時11人もいた。13年に日本ボクシングコミッション(JBC)がWBAとWBCに加えて、IBFとWBOの王座も承認し、ベルトも倍増した。元WBC世界スーパーライト級王者の浜田剛史(58)は「昔は世界王者が最終目標だった。今は王者になってから何を残すかが問われる時代になった」と話す。

一方で日本選手の技術レベルは飛躍的に伸びた。08年に日本プロボクシング協会がU-15(15歳以下)全国大会をスタート。小中学生から全国規模で活躍できる場ができた。井上尚弥、拓真兄弟、田中恒成らの現役世界王者はこの大会の優勝者。「技術は始めた年齢に比例する。世界のリングでボディーで倒されていた日本選手が、今はボディーで倒すようになった。技術は世界でもずぬけている」と、同大会を協会会長として主導した大橋は言う。11年7月にはWBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃(帝拳)が、日本人で初めて米国の本場ラスベガスで防衛に成功するなど、世界でも日本選手の評価は高まっている。

井上はプロわずか16戦で世界3階級制覇を達成。卓越したボクシングセンスと強打は、海外でも注目され、日本人ボクサーで初めて米ボクシング誌「リングマガジン」の表紙にもなった。あの昭和の王者を超える、世界的なヒーローになる可能性を秘めている。「日本から世界へ。そのレールを井上が敷く」と大橋は力を込める。

世界ヘビー級王者マイク・タイソンの東京ドーム防衛戦(90年)という「ビッグバン」で始まった平成がまもなく終わる。昭和の時代に26人だった世界王者は、平成の約30年間をへて91人まで増えた。今や日本は世界屈指のボクシング大国に躍進した。

令和の時代の幕開けを前に、大橋がこんな予言をした。

「平成はタイソンで盛り上がり、あのミドル級で村田諒太が世界王者になった。そして井上が世界で勝負をかける。日本ボクシング界は大きく変わった。あとはヘビー級。令和の時代に日本人の世界ヘビー級王者が誕生するかもしれない。そうしたら再びビッグバンが起きる」。【首藤正徳】(敬称略)

90年2月、WBC世界ストロー級王座に就いた大橋秀行

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異質な飯田覚士 TV企画、部活の延長から世界王者

平成のボクシング界について語る飯田覚士さん

<平成とは・バトル編(2)>

平成が幕を開けて間もなく、日本ボクシング界に異質なボクサーが現れた。後にWBA世界スーパーフライ級王者になる飯田覚士である。90年(平2)、日本テレビのバラエティー番組「天才たけしの元気が出るテレビ!!」の“ボクシング予備校”という企画に、プロテストを目指す練習生の1人に選ばれた。

当時、飯田は岐阜経済大3年。「ボクシング部でしたが、ツアーコンダクターになりたかったので、プロになるつもりはなかった。練習に物足りなさを感じていたのと、テレビに出れば思い出になると思って応募した」。どこにでもいる普通の大学生で、ボクサーらしからぬ甘いマスクにきゃしゃな体形。そのギャップがボクシングと無縁の若い女性のハートに響いた。

日曜の夜に放送される平均視聴率15%の人気番組で、定期的に成長ぶりが紹介されると、飯田の人気は沸騰した。90年9月の大阪城公園での公開スパーリングには1万人を超えるファンが殺到した。テレビ局の意向に応じて番組内で「チャンピオンになる」と公言していたため「引くに引けなくなった」と飯田。翌91年3月にプロデビュー。翌年の全日本新人王決勝戦には8000人の大観衆が詰めかけた。

昭和の時代、ボクシングには怖い、痛い、危ないというイメージが根強くあった。その象徴が昭和40年代に大ヒットした漫画「あしたのジョー」。貧しい不良少年が拳ひとつでのし上がっていくストーリーで、実際に漫画を地でいくボクサーも多かった。飯田はそんな近寄りがたかったボクシングを、部活の延長のような身近な存在に変えた。飯田自身「パンチパーマなどのいかつい格好で相手を威嚇するのは嫌だった」という。

この頃から飽食の時代に敬遠されつつあったボクシングジムに「僕も挑戦してみよう」と若者が足を向け始めた。飯田が全日本新人王になった翌年度には、100人台だった新人王のエントリーが265人と急増。マイク・タイソンの2度(88、90年)の東京ドーム防衛戦など複合的な要素も重なり、89年に1200人だったプロボクサーは年々増加し、06年には3200人にまで膨れあがった。

もうひとつの要因が89年から現在まで続く「少年マガジン」(講談社)の人気漫画「はじめの一歩」(森川ジョージ著)。いじめられっ子の主人公がボクサーに救われ、自らボクサーとして成長していくストーリーが、平成の若者に圧倒的な支持を受けた。元WBA、IBF世界ライトフライ級王者の田口良一をはじめ、この漫画に刺激を受けてボクシングに興味を持った世界王者も多い。

彼らは根性論が主流だったジムの練習にも新風を吹き込んだ。「根性で勝つんじゃないと自分に言い聞かせてサプリメントをとったり、インナーマッスルや動体視力も鍛えた」と飯田は回想する。元WBC、WBA世界ミニマム級王者で大橋ボクシングジム会長の大橋秀行は「今は昭和の時代と練習方法も食事も180度違う。八重樫東(世界3階級制覇王者)は科学的な筋トレを取り入れて、脂を抜いた食事を心がけている」と明かす。

飯田は世界挑戦2度失敗後の97年12月、ヨックタイ・シスオー(タイ)を判定で下してついに世界王座を奪取。2度の防衛にも成功した。普通の大学生が世界王者にたどりついて気付いたことがある。「根性論が嫌いで、科学的なトレーニングを存分にやった。でも結局、ボクシングは最後はど突き合いなんです。流血しようが構わず打ち合う。行き着いた先は、ストイックで己の身を削らないと勝てない過酷なスポーツでした」。時代は移ってもボクシングの本質、世界の頂点への厳しい道のりに変わりはない。【首藤正徳】

(敬称略)

97年12月、ヨックタイ・シスオーにパンチを放つ飯田(左)

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タイソン東京Dの衝撃 日本ボクシングのビッグバン

90年2月、WBA・IBF・WBC世界ヘビー級タイトルマッチの10回、マイク・タイソン(右)はジェームス・ダグラスの強烈パンチでダウンを喫しKO負けする

<平成とは・バトル編(1)>

日本ボクシング界は7人の世界王者を抱えて、令和時代の幕開けを迎える。現役世界王者不在で始まった平成元年から30年。日本は世界屈指のボクシング大国に躍進した。「平成とは」バトル編のスタートはボクシングで3回連載する。第1回は元統一世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)の東京ドーム防衛戦から平成の時代を検証する。

  ◇   ◇   ◇  

昭和から平成に変わるころ、日本ボクシング界は冬の時代だった。88年(昭63)、89年(平元)の年間最優秀選手は該当者なし。89年は1年を通して現役世界王者がいなかった。日本のジム所属選手の世界挑戦は、88年1月から実に21連続失敗。世界戦のテレビ中継も夜から休日の昼間の時間帯へと移行しつつあった。

そんな時代に世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)は、日本にやってきた。88年3月21日、東京ドームでトニー・タッブス(米国)との防衛戦が実現した。興行した後楽園スタヂアム(現東京ドーム)の当時の興行企画部長で、日本ボクシングコミッション理事長の秋山弘志(81)は「最高10万円のチケットが2、3日で完売した。衝撃的だった」と回想する。会場は5万1000人の大観衆で埋め尽くされた。試合はタイソンの2回KO勝ち。総売上15億円は1日の興行として今も最高という。

デビューからKOの山を築き、無敗のまま3団体の世界王座を統一したタイソンは、あのムハマド・アリと並び歴代最強と評されていた。1試合の報酬が10億円を超える世界で最も稼ぐスポーツ選手で、試合はカジノでも収益が見込めるラスベガスなど米国内の一部に限られていた。タッブス戦は初めて米国以外で開催された防衛戦だった。

「完成した東京ドームを世界に広めるため、こけら落とし興行として企画したのでそれなりの資金は用意した」と秋山は振り返る。それでも交渉は難航した。暗礁に乗り上げかけた時、業界に人脈を持つ帝拳ジムの本田明彦会長がプロモーターに名乗り出た。「失敗したら私は辞職する覚悟だったが、交渉を本ちゃん(本田)に任せたら、とんとん拍子にうまくいった」。

90年2月11日、再び東京ドームでタイソンの防衛戦を実現させた。しかし、最高15万円に設定したチケットは伸び悩んだ。勝って当たり前の試合に、財布のひもが固くなった。ところが、この試合でボクシング史に刻まれる「世紀の大番狂わせ」が起きる。挑戦者ジェームス・ダグラス(米国)に、タイソンが10回KOで初めて負けたのだ。

中継した日本テレビで解説をした元WBC世界スーパーライト級王者の浜田剛史(58)は「タイソンは練習でダウンするなど調子が悪かった。アナウンサーの“時代が変わった”という言葉を覚えている。その試合を日本から発信したことは大きいと思った」と今も鮮明に記憶している。試合は米国をはじめ世界50カ国以上に放送されていた。

国内の視聴率は昼間の試合にもかかわらず38・9%(ビデオリサーチ調べ)。KO負けの瞬間は51・9%を記録。その衝撃が冬の業界に“ビッグバン”を起こした。国内の試合にも観客が押し寄せ、ジムの練習生が急増。91年のプロテスト受検者が88年の1・5倍に増えた。「タイソンはボクシングファンも、そうじゃない人も引きつけた」と浜田は言う。タイソン敗戦の4日前にWBC世界ミニマム級王座を奪取して、平成初の世界王者になった大橋秀行(54)は「タイソン戦の前後、普通の10回戦の興行でも後楽園ホールが超満員になった。ブームが来たと思った」と証言する。

一方で日本の国際的な評価も高まった。「世界の日本を見る目が変わった。試合の解説で米国に行くと対応も全然違った」(浜田)。海外との太いパイプができたことで日本選手の世界戦の興行数も急増。87年には年間5試合まで落ち込んでいたが、辰吉丈一郎が「浪花のタイソン」の異名で一気にスターに駆け上がるなど、92年には19試合に増えて世界王者も5人になった。94年12月の辰吉-薬師寺戦の視聴率は39・4%。タイソンの数字も超えた。

タイソンが東京で王座を失った半年後、日本初の民間衛星テレビ(WOWOW)の放送衛星が打ち上げられた。91年4月に本放送を開始する同局が、開局PRの目玉に選んだのがタイソンだった。復帰第2戦から独占契約で生中継した。チーフプロデューサーの大村和幸(59)は「ビジョンは世界最高峰を伝える。そこでタイソンに目をつけた。負けたとはいえ、知名度と実力は圧倒的だった」と振り返る。

番組名は「エキサイトマッチ」。タイソン戦のほか、毎週2時間枠で、世界で年間約120試合開催されていた世界戦のうち100試合以上を放送した。「当時、ドン・キングら米国3大プロモーターは、それぞれテレビ局が分かれていた。本田会長に交渉をお願いしたらその壁を超えて放送権を獲得できた。これは世界初の画期的なこと。タイソンをプロモートした信頼と人脈のおかげです」と大村は話す。

現在も続くこの同局最長寿番組は、日本人ボクサーのレベル向上に大きく貢献した。「あの番組で日本選手のレベルが飛躍的に上がった。毎週、世界一流の技術を映像で見て、選手がまねするようになった。日本のボクシングを強くした一番の要因」と大橋は分析する。「学生時代から番組を見ていた村田諒太が、俺のトレーナーはエキサイトマッチでしたと言ってくれた」と大村も明かす。

現在、日本の男子の現役世界王者は7人。王座が2団体から4団体に増えたとはいえ、世界王者の数で世界のトップ3に入るボクシング大国へと躍進を遂げた。選手のレベルも向上したが、浜田は「力があるときにチャンスがなければ王者になれない。世界戦という舞台を数多くつくれるようになったプロモートの力も大きい」と話す。

昨秋、元世界ヘビー級王者が東京ドームを訪れた。彼の名はジェームス・ダグラス。あの「世紀の大番狂わせ」を振り返る、米国のテレビ番組の収録だった。インタビュー出演した秋山がしみじみと言った。「いまだに世界で語り継がれている。タイソンの試合を日本で興行した効果は計り知れない」。あのビッグバンの衝撃波は今、令和の時代に達しようとしている。【首藤正徳】(敬称略)

平成のボクシング界について語る元WBC世界スーパーライト級王者の浜田剛史さん
日本ボクシング界の歩み

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