井上尚弥の転向で風雲急を告げるスーパーバンタム級トップ戦線 ネリ対ホバニシャンに注目
井上尚弥(29=大橋)がバンタム級の4団体王座をすべて返上、4階級制覇を狙ってスーパーバンタム級に転向することになった。
それを待っていたかのようにスーパーバンタム級トップ戦線の動きが慌ただしくなってきた。先陣を切るかたちで18日(日本時間19日)にはアメリカのカリフォルニア州ポモナでルイス・ネリ(28=メキシコ)対アザト・ホバニシャン(34=アルメニア)のWBC王座への挑戦者決定戦が行われる。
ネリはトラブルメーカーとして知られている。2017年8月に来日して山中慎介(帝拳)を4回TKOで破ってWBC世界バンタム級王座を獲得したが、のちにドーピング違反が発覚。WBCは王座剥奪をしない代わりに山中との再戦を命じたが、翌年3月のリマッチでは計量で意図的とも思える大幅な体重オーバーで失格、王座を失った(試合では2回TKO勝ち)。そもそも遡って山中との初戦を前にしたWBCバンタム級挑戦者決定戦でもネリは体重超過をしており、山中戦へと続く一連のトラブルは統括団体の対応の甘さが招いた結果ともいえる。
これだけではない。ネリは2019年11月にはWBCバンタム級挑戦者決定戦でまたも体重オーバー。このときは相手に報酬の上乗せを提案したが断られ、試合はキャンセルとなっている。
それを機にスーパーバンタム級に転向し、いきなりWBC王座決定戦に出場して12回判定勝ち、2階級制覇を成し遂げた(2020年9月)。ここにもWBCの行き過ぎた庇護が感じられる。しかし、次戦ではWBA王者のブランドン・フィゲロア(アメリカ)のボディブローを浴びて7回KO負けを喫している。はからずもお灸をすえられたかたちだ。昨年2月に僅差の判定勝ちで再起し、10月には3回TKO勝ちを収めている。戦績は34戦33勝(25KO)1敗。転級後は4戦3勝(1KO)1敗で、かつての勢いは感じられない。
ホバニシャンは世界選手権でベスト8入りするなどアマチュアで活躍後、22歳でプロデビュー。初陣で判定負け、8戦目にも判定負けを喫するなど順風満帆の船出ではなかった。地域王座を獲得し、強豪を破ったあと2018年にはレイ・バルガス(メキシコ)の持つWBC世界スーパーバンタム級王座に挑戦したが、強打を封じられ12回判定負けを喫した。その後は7連勝(6KO)と好調だ。戦績は24戦21勝(17KO)3敗。井上とは昨年9月にロサンゼルスでスパーリングをしたという接点がある。
サウスポーのネリとオーソドックスのホバニシャンと構えに違いはあるが、攻撃型であるという点は同じだ。ネリは弧を描くような軌道で繰り出す左ストレートや右フックを得意とし、ホバニシャンは飛び込むようにして打ち込む左フックと振りの大きな右フックが主武器といえる。身長では168センチのホバニシャンがネリよりも3センチ大きいが、リーチはふたりとも165センチで体格差はないと見ていい。
中近距離での打撃戦を好む選手同士の組み合わせだけに、初回から目の離せない試合になりそうだ。4度の世界戦を経験している元2階級制覇王者のネリが総合力でわずかに上回りそうだが、フィゲロア戦でボディの弱さを露呈しており、ホバニシャンはそこを突いてくるものと思われる。
現在、WBCのスーパーバンタム級王座はWBO王座とともにスティーブン・フルトン(アメリカ)が保持しており、5月にも井上の挑戦を受ける可能性が高いと伝えられる。ネリ対ホバニシャンの勝者はフルトン対井上の勝者への優先挑戦権を握ることになるわけだ。
井上の参入で風雲急を告げるスーパーバンタム級トップ戦線。まずはネリ対ホバニシャンに注目したい。