「史上7例目の親子の世界王者誕生」「兄弟同日同階級世界王座奪取」「史上初の親子同階級日本王者誕生」-この春、ボクシング界は国内外で親子や兄弟の話題が紙面やネットを賑わした。親子ボクサーや兄弟ボクサーは珍しいことではないが、これほど一定期間にトップ選手の注目の試合が集中したのは珍しい。こうした現象に関連性や連続性などあるはずもないが、始まりは3月12日にオーストラリアのシドニーで行われたWBO世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦だ。ティム・チュー(オーストラリア)がトニー・ハリソン(アメリカ)に9回TKO勝ちを収め、父親のコンスタンチン・チューに続いて世界王者になった。親子世界王者は史上7例目となる。ちなみに敗れたハリソンの祖父と父親もボクサーという家系だ。
3月25日にはWBC暫定世界スーパーミドル級王者のデビッド・ベナビデス(アメリカ)が登場。元王者のケイレブ・プラント(アメリカ)を12回判定で退けて防衛を果たした。ベナビデスの兄は元WBA暫定世界スーパーライト級王者で、かつてデビッドは「ホセの弟」として知られていたが、いまや知名度や人気でも兄越えを果たしたといえる。
4月8日、東京・有明アリーナではWBA、WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)が激闘のすえアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)に9回TKO勝ちを収めて2団体王座の防衛に成功した。寺地の父親で元日本、東洋太平洋王者の永(ひさし)氏は「命の削り合いのような試合だった」とハラハラドキドキだったようだ。
寺地の前の試合ではWBA世界バンタム級王座決定戦が行われ、井上拓真(大橋)がリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に12回判定勝ち、3年ぶりの返り咲きを果たした。いうまでもないが拓真の兄は井上尚弥である。拓真は兄が返上した王座のひとつを引き継いだかたちになった。
4月16日、東京・代々木第二体育館では重岡兄弟(ワタナベ)が揃ってミニマム級の暫定王座を獲得した。先に登場した弟・銀次朗がレネ・マーク・クアルト(フィリピン)に9回KO勝ちを収めてIBF暫定王者になると、メインに出場した兄の優大はウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)に7回KO勝ち、WBC暫定王座を手に入れた。同じ日に兄弟で世界王座獲得という例は世界で2例目、日本では初めてのことだった。
その2日後の4月18日、東京・後楽園ホールでは日本フェザー級王座決定戦が行われ、松本圭佑(大橋)が元王者の佐川遼(三迫)に10回判定勝ちを収めて戴冠を果たした。圭佑の父親・好二氏は3度の世界挑戦を経験した元日本フェザー級王者(3度獲得)で、ベルトが父親の手を離れてから27年後に息子が取り戻したことになる。また、この日の前座には元世界スーパーウェルター級王者、輪島功一氏の孫、磯谷大心(輪島)が出場したが、4回判定負けという結果に終わった。
4月22日(日本時間23日)、アメリカのネバダ州ラスベガスではWBA世界スーパーミドル級タイトルマッチ、デビッド・モレル(キューバ)対ヤマグチ・ファルカン(ブラジル)が行われた。2012年ロンドン五輪ライトヘビー級銅メダリストのファルカンは、同五輪ミドル級決勝で村田諒太に惜敗したエスキーバ・ファルカンの兄で、プロ転向後は兄弟で世界一を目指している。この日は残念ながら王座獲得とはならなかったが、巻き返しを期待したい。
5月6日(日本時間7日)には世界スーパーミドル級4団体統一王者のサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)が同級WBO暫定王者のジョン・ライダー(イギリス)と拳を交える。このアルバレスも兄弟ボクサーで、兄のリゴベルトは元WBA暫定世界スーパーウェルター級王者でもある。
このほか試合から遠ざかってはいるが、現役の世界王者としては双子のジャモール・チャーロ(アメリカ=WBCミドル級王者)、ジャーメル・チャーロ(アメリカ=4団体統一世界スーパーウェルター級王者)がいる。
今後も「親子」「兄弟」関連の話題が途切れることはなさそうだ。