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au版ニッカン★バトル

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原功「BOX!」

ロマチェンコVSリゴンドー、五輪金メダリスト決戦


 アマチュア時代に五輪で2大会連続して金メダルを獲得し、プロでも世界王座に君臨する天才ボクサー同士が12月9日、アメリカのニューヨークで世界王座をかけて対戦することになった。WBO世界スーパーフェザー級王者ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBA世界スーパーバンタム級王者ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるもの。

 8歳の年齢差があるため両者が五輪で戦うことはなかったが、舞台をプロのリングに移して技巧派サウスポー同士の対決が実現することになった。「ハイテク(高性能)」と呼ばれるロマチェンコが勝つのか、それとも「ジャッカル」の異名を持つリゴンドーが先輩の維持を見せるのか。早くも注目を集めている。

 ロマチェンコは08年北京五輪のフェザー級で優勝し、12年ロンドン五輪ではライト級で金メダルを獲得した。このほか07年世界選手権で準優勝、09年と11年の世界選手権では優勝を果たしている。アマチュアの戦績が397戦396勝1敗というのだから驚く。ちなみに07年世界選手権決勝で敗れた相手には、のちに2勝して倍返ししている。

 13年10月、世界ランカー相手に4回KO勝ちを収めてプロデビュー。2戦目で世界挑戦を果たしたが、このときは体重オーバーで王座を剥奪された前王者の狡猾な戦いの前に惜敗した。スタミナの配分に不安があったのか前半をセーブしたのが裏目に出た印象だった。それでも最終12回には相手をKO寸前に追い込んで才能の一端を披露したものだ。その3カ月後、決定戦を制してWBO世界フェザー級王座についた。3戦目での戴冠はボクシング史上最短タイ記録でもある。プロの水に慣れたこともあり、以後は手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。昨年6月には現在の王座を獲得、7戦目で2階級制覇を成し遂げた。これは井上尚弥(大橋)の8戦を更新する世界最短記録だ。

 一方のリゴンドーも負けてはいない。2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪バンタム級で金メダルを獲得したほか、世界選手権では01年と05年の大会で優勝。475戦463勝12敗というアマチュア戦績を残している。キューバではプロ活動が認められていないためアメリカに亡命し、09年にプロデビューした。

 7戦目でWBA世界スーパーバンタム級王座(当時は暫定王座)を獲得し、王座剥奪と返還を経て通算10度の防衛を果たしている。このなかには、2度のダウンを挽回して天笠尚(FLARE山上)を11回終了TKOで下した勝利も含まれている。卓抜したスピードと勘の持ち主だ。

 ともにディフェンス技術に長けたサウスポーの技巧派だが、年齢に加えベスト体重に3.6キロの差がある。そのためオッズは4対1でロマチェンコ有利と出ているが、リゴンドーは「今度の試合で彼の化けの皮が剥がれる」と自信満々だ。10戦9勝(7KO)1敗のロマチェンコが勲章を増やすのか、それとも18戦17勝(11KO)1無効試合のリゴンドーが時計の針を逆回転させるのか。実現は2カ月先だが、実に興味深いカードだ。

大相撲裏話

白鵬の内弟子炎鵬、背中追い連勝&連続Vへ奮闘中

ぶつかり稽古で安美錦(右)に胸を借りる白鵬の内弟子の炎鵬


 大相撲九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)で楽しみな記録がある。初土俵からの連勝記録と、序ノ口からの連続優勝記録だ。この記録に挑むのは、九州場所で幕下昇進が確実な三段目炎鵬(23=宮城野)。横綱白鵬の内弟子として春場所で初土俵を踏み、序ノ口の夏場所、序二段の名古屋場所、三段目の秋場所で全勝優勝して、昭和以降7人目となる序ノ口からの3場所連続優勝を果たした。さらに、初土俵からの連勝を歴代5位となる「21」に伸ばした。

 初土俵からの連勝記録の1位は元小結板井の「29」だ。九州場所で全勝しても届かないが、まずは2位の佐久間山(現常幸龍)の「27」を追いかける。抜くのには全勝が条件。そうなれば優勝の可能性も大きい。序ノ口からの4場所連続優勝となれば昭和以降では、元横綱羽黒山以来2人目の快挙となる。

 169センチ、94キロと小兵ながらに快進撃を続ける一因には、やはり白鵬の存在があるからだ。「一番一番にかける思い、集中力がすごい。私生活も徹底しているから普段の力が出せていると思う」。白鵬の付け人を務めているからこそ、肌身で感じるものがあった。さらに秋場所中盤に休場していた白鵬から直接、部屋で声をかけられたという。「見てるぞ、って言われました。まさか見てくれてるとは思わなかった。一気に気持ちが引き締まりました」と気合が入っていた。そして、三段目優勝決定戦を制した千秋楽で「横綱からも『来場所はこんなものじゃないぞ』と言われました。今は休みたいけど、休んでる暇もない。明日からでも稽古をやりたい」と浮かれる気持ちを抑えて、先を見据えていた。

 角界入り後に入所した相撲教習所を秋場所後に卒業したため、白鵬の付け人として秋巡業に参加している。初めての巡業参加となった15日の金沢巡業で早速、幕下の申し合い稽古に入ると、幕下上位でしのぎを削る先輩力士らから強烈な張り手やかち上げで“歓迎”を受けた。手荒い歓迎ぶりに苦笑いを浮かべたが「重さは感じたけど、感覚はつかめた」と手応えを口にした。残り約3週間でさらに稽古を積んで、1年の納めの場所で有終を飾る。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

村田、エンダムに勝てば日本のジム今年9人目の新世界王者に


 12年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31=帝拳)が22日、東京・両国国技館でWBA世界ミドル級王者、アッサン・エンダム(33=カメルーン/フランス)に挑む。両者は5月に王座決定戦で拳を交え、4回にダウンを奪った村田が優勢を保ったまま戦い終えたように見えたが、エンダムが2対1の判定で勝利とベルトをもぎ取った。因縁の再戦ということになるが、村田が勝てば95年の竹原慎二(沖)以来22年ぶり、2人目の日本のジム所属の世界ミドル級王者が生まれることになる。それだけではない。村田が勝てば今年になって日本のジムから9人目の新世界王者誕生となるのである。大豊作の年に大輪を添えることができるか。

 日本のジムにとって、今年は過去最高の実り多い年といえる。

 2月に福原辰弥(28=本田フィットネス)がWBOのミニマム級王座を獲得したのに始まり、4月には久保隼(27=真正)がWBAスーパー・バンタム級王座についた。翌5月には比嘉大吾(22=白井・具志堅)がWBCフライ級、拳四朗(25=BMB)がWBCライト・フライ級でそれぞれ戴冠を果たした。7月になると京口紘人(23=ワタナベ)がプロ転向から1年3カ月、8戦目でIBFミニマム級王座に駆け上がった。その5日後、中国の上海で行われたWBOフライ級タイトルマッチでは、圧倒的不利とみられた木村翔(28=青木)が五輪連覇の実績を持つ中国のスター選手、ゾウ・シミン(36)に11回TKO勝ち。敵地で世界奪取を成し遂げた。

 これだけでは終わらない。8月には日本人対決で山中竜也(22=真正)が福原を破ってWBOミニマム級王座を獲得。そして9月、これまた日本人対決で岩佐亮佑(27=セレス)が小國以載(29=角海老宝石)を攻め落とし、6回TKO勝ちでIBFスーパー・バンタム級王座を奪い取った。

 上記のように、すでに今年は8人の新王者(返り咲きや2度目、3度目の戴冠などは除く)が誕生している。これは2011年の5人、2012年の4人を大きく上回る歴代最多である。従来のWBA、WBCに加え4年前にIBFとWBOに加盟したことが要因のひとつともいえるが、その初年度の13年は初めて世界王座を獲得したボクサーは2人に留まった。14年は3人、15年が2人、16年は1人だけだった。こうしてみると今年がいかに大豊作かが分かるだろう。しかも、22日に村田が挑戦するほか、28日(日本時間29日)には英国で元日本スーパー・フライ級王者の石田匠(25=井岡)がWBA王座に挑むことになっている。さらに11月4日(日本時間5日)には元日本ライト級王者の近藤明広(32=一力)が米国ニューヨークでIBFスーパー・ライト級王座決定戦に出場する。この3人が戴冠を果たすと、今年の世界王座獲得者は2桁に乗ることになる。年間表彰選手の選考も嬉しい悲鳴ということになりそうだ。一方で、日本のジム所属の世界王者は現時点でも11人おり、関係者やファンは名前と階級を覚えるのが一苦労という状態でもある。

 そんな状況下、まずは22日に村田が「22年ぶり」と「9人目」を成し遂げることができるかどうか注目したい。

リングにかける男たち

勅使河原弘晶、ボクサーきっかけ 少年院で読んだ本

勅使河原弘晶


 スポーツを始める動機にはいろいろある。親やきょうだいをマネしたり、誘われたり、強制されたり。ボクシングはテレビを見てという例が多い。

 昔ならファイティング原田、取材するようになってよく上がった名は辰吉丈一郎。91年に当時の国内最短となるプロ8戦目で世界王者になった時は、所属の大阪帝拳ジムだけでなく、全国のジムで入門者が激増した。

 あとは漫画を読んで始めたボクサーも多い。最近なら「はじめの一歩」、以前は「あしたのジョー」だった。1冊の本との出会いが、人生を変えたボクサーもいた。

 勅使河原弘晶(27)はWBOアジア・パシフィック・バンタム級のベルトをつかみ、29年目にして輪島ジム初の王者となった。「炎の世界チャンピオン」を読んで、ボクサーを目指すことを決めた。スーパーウエルター級で2度世界王者になり、88年にジムを開いた輪島功一会長(74)の自伝だ。

 会長は北海道で中学から漁師の仕事につき、25歳でプロデビューした苦労人で、炎の男と呼ばれていた。勅使河原は図書室でこの本を手に取り、読み終わった時に人生を方向転換させた。

 図書室があったのは少年院だった。物心がついた5、6歳の頃、父が再婚した。この義母にさまざまな虐待を受けた。地獄の4年を過ごして、ついに交番に駆け込んだという。

 母はいなくなったが、中学から自暴自棄になって非行に走り、16歳で少年院に入った。院内でも傷害事件を起こしたが、あの本を読んだ日には「世界王者になる」と日誌に書いた。

 その後は改心して模範囚となり、卒院するとお金をためて上京し、真っすぐにジムへと向かった。「本にあった会長の根性と努力に打たれた。根性は元々ある。あとは努力すれば王者になれると思った」と振り返った。

 6年目の初のタイトル挑戦でベルトを巻き、会長へ恩返しとなった。まだ通過点で、次は世界のベルトをプレゼントしたい。建設現場で働きながら、さらなる高みへの努力を続けるつもりだ。【河合香】

大相撲裏話

木崎の「技術は絶対に負けてない」の言葉に「へ~」

木崎(2017年9月16日)


 競技者がひんぱんに使う言葉がある。野球なら「1試合1試合を大事に…」。ゴルフなら「目の前の1打に集中して…」。相撲なら「今日の1番に集中して…」。ごもっとも。その通り。しかし、その競技者がプロなら、誰もが使う決まり文句でなく、自分なりの言葉を使ってほしい。そう思ったりもする。

 秋場所の千秋楽で、久々に「へ~」と思う言葉を聞いた。「技術は絶対に負けてない」-。若い力士。西幕下3枚目木崎(24=木瀬)だ。

 西十両13枚目矢後に負けた。3勝3敗で勝ち越しがかかる一番だった。矢後は中大出身の元アマチュア横綱で187センチ、172キロの大型。木崎も名門日大相撲部で主将を務めたキャリアを持つが、現在の注目度では1学年下の矢後に一歩譲る。番付も劣るし、サイズも176センチ、138キロと及ばない。アマチュアでの対戦は「多分3戦全敗」(木崎)、プロでも2戦2敗となった。それでも「技術は負けてない」と言う姿がたのもしかった。

 論理的、具体的に説明できるタイプだ。「課題は多いやろうけど、来場所に向けて、特にコレっちゅうのは?」という、抽象的で荒っぽい質問に「…う~ん、足りない部分が多すぎてわからないです」と前置きして、こう答えた。

 「来場所どうこうじゃないですけど、体重を増やさないとダメですよね。(入門時は115キロで)今は138キロですけど、場所中にどうしても落ちる。最終的に145キロまで、と思うけど、スピードが落ちたらダメです。小さいですからね。時間はかかると思うけど」。ずっと昔から自分を省みて、自己分析を重ねたのだろう。だから、負け惜しみと取られかねない状況で口にした強気な言葉にも納得してしまう。

 昨年夏場所のデビューから9場所目で初の負け越しだった。目前まで迫っていた関取の座は一歩遠のいたが、十両目前で足踏みした先輩力士は多い。「負け越しですか。家に帰ったら、じわっと来るんでしょうね」。木瀬部屋の先輩、宇良のように土俵を沸かせる日が、きっと来る。そんな期待を抱かせる言葉だった。【加藤裕一】

原功「BOX!」

3団体がSウエルター級選手権同時開催、なるか統一戦


 このところ各階級で王座統一戦が実現したり、あるいは同じ階級の王者たちが一堂に会して防衛戦を行ったりというイベントが目立つ。こうしたなか今度は154ポンド(約69.8キロ)を体重上限とするスーパーウエルター級の世界王者3人が14日(日本時間15日)、米国ニューヨークで揃って防衛戦を行う。経験値の高いベテランから22歳の新鋭まで、実力者や人気者が出場するとあって注目を集めている。

 この8月、スーパーライト級ではテレンス・クロフォード(30=米)がWBA、WBC、IBF、WBO主要4団体の王座を統一し、9月には井上尚弥(24=大橋)のV6戦を含むスーパーフライ級のダブル世界戦が開催された。このほかクルーザー級では賞金トーナメントに4人の王者が出場しており、来年の初夏には王座が統一される見通しとなっている。

 14日にニューヨークのバークレイズ・センターで行われるスーパーウエルター級タイトルマッチ3試合は、以下のカードだ。

 ・WBA(スーパー王座) 王者エリスランディ・ララ(34=キューバ/米 28戦24勝14KO2敗2分)vsテレル・グシェイ(30=米 20戦全勝9KO)

 ・WBC 王者ジャメール・チャーロ(27=米 29戦全勝14KO)vsエリクソン・ルビン(22=米 18戦全勝13KO)

 ・IBF 王者ジャレット・ハード(27=米 20戦全勝14KO)vsオースチン・トラウト(32=米 33戦30勝17KO3敗)

 ララ対グシェイは元アマエリート同士の対決となる。05年の世界選手権で優勝したララは08年北京五輪では金メダルが有力視されたが、その前年に亡命してプロに転じたサウスポーで、スキルに定評がある。グシェイは12年ロンドン五輪に出場した実績を持ち(2回戦敗退)、プロでも順調に白星を重ねてきた。マニア好みの技術戦になりそうだ。

 3試合のなかで最も注目を集めているのがチャーロ対ルビンだ。スピードと技巧が売りだったチャーロだが、昨年5月の戴冠試合と今年4月の初防衛戦は鮮やかなKO勝ちを収めており、自信を増している。対するルビンはサウスポーの技巧派強打者で、将来のスター候補生でもある。総合力は拮抗しており、序盤からスリリングな展開になるものと思われる。

 IBFタイトルマッチは若手の王者対ベテランの元王者という構図だ。今年2月の戴冠試合を含めて5連続勝ちと勢いのあるハードに対し、元WBA王者のトラウトはテクニックに定評がある。若いハードが攻め切るのか、それとも経験値の高いトラウトが相手の強打を空転させるのか。王者に分のあるカードといえる。

 勝者同士の統一戦を念頭においているのは、戦う6選手もファンも同じであろう。3試合の勝負はもちろん、その後のスーパーウエルター級トップ戦線の行方から目が離せなくなってきた。

リングにかける男たち

正木脩也「あこがれ世界王者の弟」指導で化学反応

正木(右)とリナレス・トレーナー


 あこがれの世界王者の弟に教わる。アスリートとしてどんな気持ちだろう。

 「一緒にジムにいるときもあるのに、緊張してまだサインとか写真とか頼めてないくらいです」。

 弾む声で教えてくれたのは、7日の東京・後楽園ホール、セミファイナルのスーパーフェザー級(60キロ契約)8回戦に1回1分56秒KO勝ちした正木脩也(23=帝拳)。ボクシングを始めたきっかけは現WBA、WBC世界ライト級王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)。17歳の時にベネズエラから来日して帝拳ジムの門をたたき、輝かしいプロキャリアを歩み、3階級制覇を成し遂げた。先月の防衛戦ではロンドン五輪金メダリストのルーク・キャンベル(英国)を試合中にあばら骨骨折を負いながら判定で破ったばかり。この日、セコンドについたのはその弟カルロス・リナレス(28)トレーナーだった。

 「すごいですよね、そんな人に教えてもらうなんて」。

 コンビを組んだのは8月下旬。兄を追うように来日し、12年には日本ミドル級王座決定戦挑戦経験も持つカルロスが、帝拳ジムでの本格的にトレーナーとして勤め始めてからだった。「ホルヘに似ている」とカルロス・トレーナーに見初められ、練習前には「自分はホルヘや」と自らに暗示をかけて取り組む日々。すぐにストレートを打つ際のバランスの修正に取り組み、それまで上方に打ち気味だったパンチを、思い切って打ち下ろすように心がけた。まるでホルヘ・リナレスのように。

 それから1カ月強。効果はてきめんだった。7日の試合の1回、1発の右ストレートで10カウントを聞かせた相手は、決してかませ犬の外国人選手ではない。東洋太平洋同級9位シソ・モラレス(フィリピン)は、10年2月には世界タイトル挑戦の経歴も持つ。「正直怖かった」という強豪に対し、アゴを打ち抜いての一撃の幕切れは、どこか実感がなさそうに「右ストレートでダウンを取れてうれしい」と振り返ったが、ホルヘに近づこうとしたこの1カ月強の努力ゆえだった。勝利後のインタビューで真っ先に感謝の言葉を述べた教え子に、カルロス・トレーナーもうれしそうだった。控室では高揚しながらニコニコと勝利をたたえていた。

 スーパーフェザー級は内山高志、三浦隆司の名王者が今夏に引退し、新時代を迎えている。日本王座を返上した尾川堅一、その空位となったベルトをかけた7日のメインカードの王座決定戦で新王者となった末吉大は、同じ帝拳ジム所属で正木の先輩。東洋太平洋タイトルを返上した伊藤雅雪(伴流)など世界ランカーも含め、好素材がそろう。23歳、現在日本ランク6位の正木も、その群雄割拠についていきたい。

 あこがれは、現実感を増して、確実に良い化学反応を引き起こしている。まだ日が浅いカルロス・トレーナーとの歩みが、今度どうさらなる変化を見せていくか。注目していきたい。【阿部健吾】

大相撲裏話

3横綱2大関休場の秋場所…地殻変動の起点となるか

大相撲秋場所 千秋楽 優勝賜杯を受け取る日馬富士(2017年9月24日撮影)


 99年ぶりに3横綱2大関が休場し、日本相撲協会にはチケットの返金を求める抗議の電話もあったという秋場所。終わってみて実際にファンは、世間はどう感じたのだろう。面白かったのか、つまらなかったのか。盛り上がったのか、興ざめだったのか。観戦に訪れた友人に聞けば「熱戦が多かった」「これはこれで打ち上げに花が咲いた」などと好意的な声が多かった。

 “中”で取材をしていると、実際の体感温度はよく分からなくなる。優勝成績は11勝4敗と、低レベルと言えば低レベル。そこだけを切り取れば情けなくも見える。ただ、周囲は「誰が優勝するか分からないから面白かった」とも言う。

 終盤に10人以上もの力士に優勝の可能性が残っていたのは、取材する側からすれば実に「ドキドキ」だった。見ている人たちには「ワクワク」だったろうか。豪栄道には申し訳ないが、13日目で優勝が決まっていたら、14日目、千秋楽の話題に困ったかもしれない。本命不在だったからこそ、誰が勝つのか、どちらが勝つのか、ワクワクやドキドキが最後まで続いた。こんな感覚は昨今の大相撲では、なかなかない。

 こんな場所だからこそ、よく「世代交代」という言葉が出た。実際に阿武咲や貴景勝、朝乃山といった20代前半の力士の活躍が場所を盛り上げてくれた。

 ただ、秋場所はまだ、若手の活躍が目立っただけ。「世代交代」という言葉が当てはまる場所ではない。世代交代とは、加齢によって自然と起こることもあるが、我々が求めている形はおそらく、違うからだ。

 かつて「角界のプリンス」と呼ばれた大関貴ノ花を一方的に破って引退を決意させたのが千代の富士。その横綱千代の富士を倒して引退に追い込んだのが、プリンスの息子の貴乃花だった。ここまでドラマチックにはならずとも、若い世代がベテランの上位と実際に対戦して、倒し、引導を渡す-。それがあって初めて、望みの「世代交代」は生まれる。

 上位陣の休場という不可抗力な未対戦はもちろん、仕方がない。ならば、おそらく上位陣が出てくる次の九州場所は、今場所の物語の続き。若手は、上位を倒す力を養えたのか。それとも、両者にまだまだ差はあるのか。地殻変動、世代交代は面白いが、そう簡単に許さないベテランの意地と迫力にも見応えはある。

 99年ぶりの事態が起きた秋場所。どうせ取り返しがつかないなら、ここから「あの物語が始まった」と後々、振り返ってみたい。【今村健人】

リングにかける男たち

ロッキー時代もう終わり?王者京口紘人の「神対応」

大阪・堺市の浜寺小で人生初の講師に挑戦したIBF世界ミニマム級王者京口紘人(撮影・加藤裕一)


 「世界王者が、こんなにええ子ばっかりでええんか?」というのが、数カ月前からボクシング担当になった、52歳記者の率直な感想である。

 WBC世界ライトフライ級王者拳四朗(25=BMB)は中学生顔負け? の幼い見た目と柔らかい空気感に驚いた。WBO世界ミニマム級王者山中竜也(22=真正)は、腰の低さに驚いた。そして今回、IBF世界ミニマム級王者京口紘人(23=ワタナベ)を初めて取材した。

 京口は9月29日、大阪・堺市の浜寺小で特別授業の講師を務めた。6年生の全児童69人に「夢」の大切さを語った。質問コーナーで間断なく手を挙げる児童に「物おじせんなあ…」と舌を巻いたが、質問がどんなものでも同じ目線で懸命に答える姿に感心した。「筋肉見せて!」というムチャぶりにも、そそくさとシャツをまくって腹筋を見せる。井上孝志トレーナー(47)相手に軽いミット打ちを披露した際は、興味津々の男性教諭にもミットを持たせ、パンチ(もちろん軽め)を味わってもらい、児童を大喜びさせた。

 極め付きは授業終了後だ。校長室でひと息ついていると、授業に出ていた児童がサイン目当てに次々と押しかけてきた。クリアファイルにねだるのは上等な方で、ノートの裏面にお願いする子もいた。その1人1人に「名前、なんていうの?」と聞いて、ちゃんと添え書きする。白地のスペースがほぼない、阪神タイガースの下敷きを差し出された時は「うわ~、これ、どこに書こ?」と笑いながら、その児童と相談してサインの場所を決めていた。おそらく授業を受けた6年生ほぼ全員に、たっぷり30分以上かけて対応したと思う。

 今風に言うなら“神対応”のサービス精神。京口は「いや~、思った以上に、興味を持ってくれていて、ほんまにうれしかったです。僕もかなり活発な方やったけど、みんな元気ですね」と笑うだけ。疲れたそぶりを、これっぽっちも見せなかった。

 かつてボクシングといえば、原動力=ハングリー精神やった。ギラついて、とんがって、人付き合いもうまくない。良くも悪くも自己中心的で自分勝手。それでも、許されるのが強者の特権やった。弱肉強食の世界において、それは間違ってへんと思う、思うけど…。もう、そんな時代ではないのかもしれませんなあ。【加藤裕一】

大相撲裏話

松沢亮英、入門して初めて分かった父朝日山の偉大さ

卒業証書を手にする松沢亮英


 やっぱりオヤジは偉大だった-。卒業証書を手に、あらためて実感した。

 角界入りした新弟子は必ず、相撲教習所に入所し6カ月間、実技や相撲史、一般常識、書道などを学ぶ。東京場所終了後、入所及び卒業式が行われ、今回も29日に新弟子が通い慣れた両国国技館内の相撲教習所で行われた。

 今年3月の春場所新弟子検査に合格し、晴れて角界入りした松沢亮英(19=朝日山)も、この卒業式に出席した。千葉・八千代松陰高時代はラグビー部でプロップ、フッカーとして活躍。調理師を目指し専門学校の合格通知も受けたが「やっぱり自分にはスポーツが合っている。挑戦してみたい」と角界の門をたたいた。入門したのは自分の父が興した部屋。父は史上ただ一人、平幕優勝2回を成し遂げ「F1相撲」の異名を取った、元関脇琴錦の朝日山親方(49)だ。

 もちろん親の七光など通用しない、文字通り裸一貫の実力だけの世界。それは百も承知で、決して甘く見たわけではなかった。ただ何せ相撲は初体験。壁には当然、ぶち当たった。番付に初めてしこ名が載った5月の夏場所こそ、5勝2敗と上々のスタートを切ったが、序二段に上がった7月の名古屋場所は1勝6敗。再び序ノ口に番付を下げたこの秋場所も3勝4敗と負け越した。

 「もちろん相撲はまだまだなんですが、一番悪いのはメンタル面。1回負けちゃうと『負け越してしまう』と焦って、尾を引いちゃうんです」。あどけない笑みを浮かべながら松沢は、自分の弱点を分析した。相撲についても「脇が甘い。ラグビーでは甘くても良かったけど、相撲では駄目。なかなか直らないんです」。入門して半年。道半ばどころか、まだ1歩目を踏み出したばかりなのだから、直面して当然の壁だ。

 ただ、悪いようには考えない。名古屋場所は1勝2敗から4連敗したが、秋場所は負け越し決定から、精神面で立て直し連勝で締め「だんだんとメンタル面も良くなっていると思います」と精神的にも落ち着いてきた。168センチ、76キロで新弟子検査をパスした体重も、20キロ増。「石浦関の、あのスピード感のある相撲が好きなので、120キロぐらいまでは増やしたい」と言う。

 入門前の今年2月までは「(父の)言うことは聞いてないこともあった」と、どこにでもいる長男坊だった。入門を境に、それは師弟関係になり「厳しく怒られることが多くなった。今は素直に受け入れてます」と話す。さらに肌で感じた父へのリスペクトも。「入門して序ノ口で1場所取っただけで分かりました。父は偉大すぎます」と脱帽した。

 入門時に挙げた「幕内力士」の第1目標は「厳しい世界と分かりました。関取になることです」と、新十両昇進に“下方修正”した。その父であり師匠の朝日山親方は、相撲教習所の卒業を機に、10月から稽古まわしを締め愛弟子を鍛えるという。「まだまだ勝ち方を知らない。これからですよ」。親子鷹に期待したい。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

王者ウォード、21年間負け知らずの理想的な引退


 WBA、IBF、WBO3団体統一世界ライト・ヘビー級王者、アンドレ・ウォード(33=米)が引退した。04年アテネ五輪の金メダリストでもあるウォードは、プロではスーパー・ミドル級とライト・ヘビー級の2階級を制覇し、32戦全勝(16KO)という戦績を残した。アマチュア、プロを通じてこれほど輝かしい実績を残して無敗のままグローブを置くボクサーは極めて珍しい。

 ウォードは9歳のとき、元アマチュア・ボクサーだった父親の影響でグローブを手にした。運動神経に加え努力する才能にも恵まれていたのだろう、ウォードはアマチュアで119戦114勝5敗(他説あり)の戦績を残した。01年と03年の全米選手権を制し、04年アテネ五輪ではライト・ヘビー級で金メダルを獲得した。ちなみに2000年シドニー大会以降、ボクシング競技で金メダルを獲得した米国人(男子)はウォードだけである。

 04年12月にプロ転向を果たしたが、ルーキー時代にダウンを喫したこともあり「プロでは通用しないのでは?」と大成を危ぶむ声もあった。しかし、ウォードはスピードとテクニックを生かしたボクシングで勝利を重ね、09年にはWBA世界スーパー・ミドル級王座を獲得。11年にはWBC王者にも勝って統一を果たした。

 そのころから膝や肩などの故障、さらにプロモーターとの確執などでブランクをつくることが多くなり、一時は1年7カ月も実戦から遠ざかった。

 こうしたなか2年前に1階級上のライト・ヘビー級に転向し、昨年11月にはWBA、IBF、WBO3団体王者のセルゲイ・コバレフ(露/米)に挑戦。2回にダウンを喫するなど最悪のスタートだったが、中盤からじわじわと追い上げ、僅差の判定勝ちを収めて2階級制覇を成し遂げた。今年6月の再戦ではダウンを奪って8回KO勝ちでけりをつけた。この試合がラストファイトということになる。最後に負けたのがアマチュア時代の96年だというから、それから21年間も敗北を知らないままキャリアを終えることになるわけだ。これほど理想的な引退はないだろう。

 50パーセントのKO率が示しているようにパワーは重量級では平均の域内だったが、ディフェンス技術と駆け引き、戦術などに長けていた。また、キャリアの途中で指導者を変えることが多いトップ選手のなかにあって、ウォードは9歳のときに初めてボクシングの手ほどきしてくれたバージル・ハンター・トレーナーと最後までコンビを組み続けた。そんなところにウォードの人間性の一端をみる思いがする。

 引退に際しウォードは自身のウェブサイトで「ボクシングを通じて出会った人すべてに感謝したい。いま、私はこのスポーツの厳しさに耐えられる肉体ではないし、戦いたいという欲望も湧いてこない」と綴っている。燃え尽きたということなのだろう。

大相撲裏話

稀勢締める 友鵬さん最後の綱


 横綱が締める「綱」は年3回の東京場所前に作られる。「綱打ち」と呼ばれる行事で、一門の力士らが掛け声に合わせ綱をよる。今場所、稀勢の里は休場したため、この時作った綱が使われるのは九州場所だけ。実はこの綱、8日急逝した相撲協会の世話人、友鵬さん(享年60)が携わった最後の綱だ。

 綱打ちは3本の綱をテッポウ柱にくくり、引っ張りながら1本によっていく。柱に近い、より合わせる部分を作る者が重要な役割を担う。ここにいたのが友鵬さんだった。

 当初「肩も腰も痛いから今回はやめておくわ」と言っていたという。稀勢の里の兄弟子、西岩親方(元関脇若の里)は振り返る。「綱打ちは亡くなる2日前でした。友鵬さんがいないときれいな綱ができない。『見てるだけでもいいから来て下さい』とお願いしました。これが最後と言ってましたが、本当に最後になってしまいました」。

 稀勢の里が手形にサインをする際、痛む左腕で紙を押さえられないと、友鵬さんがそっと手助けしてくれたこともあったという。

 九州でこの綱を締める時、いつもと違う思いが込み上げるかもしれない。【佐々木一郎】

リングにかける男たち

大鵬3世納谷◎デビュー!名と素質生かすも自分次第

デビュー戦を勝利で飾り意気揚々と引き揚げる納谷


 昭和の名横綱・大鵬の孫、納谷幸男(23)が14日のリアルジャパン後楽園大会で、プロレスデビューを果たした。初代タイガーマスクの佐山サトルが主宰するプロレス団体へ入団した13年4月から約4年。大鵬3世、将来の大器と期待された納谷が、ようやくプロの第1歩を踏み出した。

 納谷の父は、元大相撲の関脇貴闘力で、息子より先にプロレスデビューを果たしていた。今回、息子のデビュー日が決まり、後楽園大会のチケットを約500枚も売り、息子の援護射撃をした。当日の会場でも、私服姿でチケットを売った友人らを席まで案内するなど、休む間もなく会場を動き回っていた。その貴闘力は「ホッとした。ようやくここまでこぎつけた。これで巣立っていくのかなあ」と感慨深げに話していた。

 幸男は4人兄弟の長男。身長は、団体発表で2メートルと大きいが、気持ちが優しすぎ、闘争心が前面に出てこない。リアルジャパン入りしてからは、内臓を壊し長期休養を強いられたことも。貴闘力は、そんな長男を自分が経営する焼き肉店を手伝わせるこで、かげながら見守ってきた。試合当日は、故大鵬さんの夫人、芳子さんや、大鵬さんの三女で納谷の母親、3人の弟も応援に駆けつけた。

 そんなデビュー戦で、納谷は雷神矢口やそのセコンドからの攻撃に遭いながら、見事勝利を収めた。場外では有刺鉄線ボードに体をたたきつけられ、有刺鉄線バットで殴られた。さらに毒霧攻撃も食らい、顔は真っ赤、体は血だらけというありさまだった。それでも、豪快な右のキック、フライングクロスチョップ、さらに決め技のランニングニーリフトなど、会場を沸かせる大技も披露した。十分合格点をあげられるプロレスデビュー戦だった。

 大鵬さんの遺影や、父母にデビュー戦勝利をプレゼントし、3人の弟には兄としての威厳を示せた。試合翌日の納谷は「緊張したが、お客さんの歓声でいけると思った。勝てて良かった。でも、もっともっと練習してお客さんを喜ばせられるレスラーになりたい」と表情を引き締めた。大鵬3世という自分が背負った運命からは逃れられない。プロレスを知らない人からも注目される。佐山サトルは「アントニオ猪木、タイガーマスクに次ぐプロレスの星になって欲しい」と大きな期待を寄せた。素質と名前を生かすのは本人の努力だけ。そのことは納谷自身が一番分かっているはずだ。【プロレス担当=桝田朗】

大相撲裏話

優勝争い混沌の今場所…幕内全取組に懸賞という皮肉


 今場所、実に3度目だった。中入り後の幕内の全取組で懸賞旗が回ったのは。

 初めて幕内全取組に懸賞を懸けたのは、62年秋場所初日の「岡村製作所」。以来、幾度となくあったが、最近では珍しい。12年夏場所の初日と、翌名古屋場所千秋楽に、タマホーム1社が「大相撲を応援する」という形で全取組に懸けた2例があり、それ以来だ。ただ、複数社を伴う形では、92年名古屋場所以降なかった。

 皮肉にも、休場者が多く出て幕内の取組数が減ったことが要因の1つ。ただ、3横綱と2大関、そして人気者の宇良が休場しても、取りやめる企業は多くなかった。朝乃山には、師匠の高砂親方(元大関朝潮)の現役時代から親交がある東京バスが懸賞を復活させた。九重部屋の4力士にそれぞれ、15日間通して別々の企業から懸賞が懸かる形も例がない。色とりどりの懸賞旗は、上位陣の休場で寂しかった土俵の、にぎやかしになっている。

 そして、優勝争いが混沌(こんとん)とし、14日目の取組前まで5敗までの16人に優勝の可能性があったことを考えれば、懸賞が広く懸かることは良かったともいえる。それもまた、皮肉な話だが。【今村健人】

大相撲裏話

余興で不覚…横綱双葉山が若武者の外掛けに倒される


 10月4日に両国国技館で開かれる「大相撲beyond2020場所」で「横綱五人掛かり」が行われる。国技館では01年のNHK福祉大相撲で披露されて以来16年ぶりの“余興”だ。

 1人の横綱が下位力士5人と次々に勝負するのが五人掛かり。5人は横綱の向かいと四方の房の下に散らばり、同時にちりを切り、四股を踏み、仕切る。いざ勝負ではその場から1人ずつ、間髪を入れず横綱に飛びかかる。あくまでも余興。

 だが下位力士が勝っていけないわけでもない。横綱が敗れたこともある。誰あろう、双葉山だ。

 38年6月開催の帝都日日新聞大相撲。大日本相撲協会が発行した雑誌「相撲」には「2人目に出た元気いっぱいの鹿島洋が、鋭気に外掛けを強襲して双葉山を倒す」と記されている。前月の夏場所で双葉山は前人未到の66連勝。鹿島洋は新入幕ながら優勝次点の若武者だ。無敵の横綱の“黒星”に「満場の観衆は一時にわっと歓声をあげ、さながら館も揺るがんばかりであった」とある。

 次場所の39年春場所4日目、双葉山は安芸ノ海に敗れ連勝が69で止まった。その決まり手も外掛けだったのは、何の奇縁か。“余興”もまた、ドラマになりうる。【今村健人】

大相撲裏話

下から刺激 木瀬部屋願う「関取10人」


 93年春場所、二子山部屋勢が10人も幕内に名を連ねた。優勝は小結若花田、準優勝は大関貴ノ花。史上最多の「同一部屋幕内10人」は翌夏場所まで続いた。

 その伝説には及ばないが、木瀬部屋が「関取10人」を視野に入れている。力士数37人は、佐渡ケ嶽部屋の41人に次ぎ2番目。関取数は幕内に宇良、徳勝龍の2人、十両に英乃海ら4人と現在6人。幕下には関取予備軍の上位15枚目までの5人を含め、15人もいる。

 元十両の28歳、西幕下5枚目志摩ノ海は「ウチは下からガンガン来るから厳しい。宇良の時のように、もう下に抜かれるのはごめんです」。すでに4勝2敗と勝ち越した。自己最高位西幕下3枚目の24歳、木崎は「部屋内の競争は感じます。僕は次勝って、来場所が(十両昇進の)勝負です」。3勝3敗。残る一番は絶対落とせない。

 元小結の29歳、東幕下9枚目常幸龍は、この日敗れて3勝3敗となった。小結の時「木瀬部屋がかつての二子山部屋のように…」と口にした男は「十両も大事ですが、やはり幕内で相撲をとってなんぼですよ」。お互いが刺激し合って、部屋全体がレベルアップすることを願っている。【加藤裕一】

大相撲裏話

前相撲含まぬ新連勝記録なるか


 白鵬の内弟子、西三段目18枚目炎鵬(18=宮城野)が、同20枚目本多を下して、初土俵から20連勝を飾った。史上6位タイの記録だが、協会関係者は頭を悩ませていた。1位は元小結板井の29連勝で、前相撲の3勝が含まれている。炎鵬には前相撲の2勝が含まれていない。初土俵からの連勝記録者が出る度に「なぜか?」と問い合わせがあるという。答えはこうだ。

 前相撲は新弟子検査に合格した力士が、本場所で相撲を取ること。現在は、中日に行われる新序出世披露の順番決めの役割があり、1人が1日に2番取ることもある“非公式戦”だ。

 しかし、73~86年は特定の場所を除き、今と違って取組表に前相撲が載り、1人1日1番。成績を伸ばした力士は中日以降に、序ノ口力士と相撲を取っていたこともあり、“公式戦”扱い。板井は、この時期に前相撲を取っていたので3勝が含まれる。炎鵬は29連勝について「無理ですよ」と苦笑い。協会関係者は「すぱっと記録を抜いてもらいたい」と期待する。3勝の差は大きいが、それに負けじと炎鵬は突き進む。【佐々木隆史】

大相撲裏話

飲んで食って勝つは昔の話


 酒を浴びるように飲み、これでもかというぐらいご飯を食べる。そんな、お相撲さん像は古いのかもしれない。食生活に気を使う力士が多くなったと感じる。

 174センチと小柄ながら175キロと重量級の平幕貴景勝(21)は栄養学を学んでいる。「亜鉛とかアルギニンとかは筋肉に影響する。あと植物性タンパク質は女性ホルモンが出るので注意してます。納豆は食べ過ぎると女性ホルモンが出るので食べ過ぎないようにしています」と言う。夏巡業中には、2つの炭酸飲料の成分表示を見比べて「こっちには砂糖が20個分入っているけど、こっちは60個も入っている」と力説していた。口に入れる物に並々ならぬこだわりを持っている。

 酒量をコントロールする力士も少なくない。平幕の北勝富士(25)は、番付発表後から千秋楽まで約1カ月は酒を1滴も飲まない。睡眠時間を含めて生活のリズムを崩したくないといい、「後援会関係者との食事であっても、絶対に飲みません」と摂生している。平幕の石浦(27)に至っては「個人差はあると思うけど、お酒は筋肉に悪い影響がある。極力飲みません」とまで言う。体が資本。自己管理の大切さは浸透している。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

リナレス有利も挑戦者キャンベルの番狂わせも


 3階級制覇を成し遂げているWBA世界ライト級王者、ホルヘ・リナレス(32=帝拳)が23日(日本時間24日)、米国カリフォルニア州イングルウッドのフォーラムで同級1位のルーク・キャンベル(29=英)の挑戦を受ける。リナレスにとっては2度目の防衛戦だが、今回は12年ロンドン五輪金メダリストが相手とあって、いつも以上に注目度は高い。「ゴールデンボーイ」のニックネームを持つリナレスがスピードとテクニックを武器に防衛を果たすのか、それとも長身サウスポーのキャンベルがプロでも世界一の座を射止めるのか。

 ベネズエラ出身のリナレスは02年12月、17歳のときに大阪でプロデビューした。以来、45戦のキャリアの半分(23試合)を日本で戦ってきた。最近は米国や英国での試合が多いが、日本にも多くのファンを持っている。スピードのある左ジャブを突いて主導権を奪い、チャンスには右ストレートから回転の速いコンビネーションで一気にたたみかける。パワーを売りにする選手ではないが、42勝のうち27KOをマークしている。反面、3敗はいずれもKO(TKO)によるもので、決して打たれ強くはない。それでも最近は敵地での試合でダウンを喫しながら、逆転TKO勝ちで世界王座を防衛するなど逞しさも身につけてきた。

 一方のキャンベルはアマチュア時代、11年の世界選手権で準優勝、翌12年に地元ロンドンで開催された五輪では4試合を勝ち抜いてバンタム級で金メダルを獲得した。準決勝では清水聡(現大橋ジム)にポイント勝ちを収めている。

 プロデビューは13年7月で、以来4年間で18戦17勝(14KO)1敗の戦績を収めている。2年前にダウンを喫して判定負けしたが、以後は元世界王者3人との試合を含むハードなマッチメークのなか5連勝(4KO)を収めて指名挑戦権を手にするまでになった。ライト級では175センチと長身で、その恵まれた体から矢継ぎ早にパンチを繰り出して相手を守勢に追いやり、左ストレートや右フック、左のボディブローなどでKO勝ちを重ねてきた。

 4対1のオッズが出ているように、プロの経験値で勝るリナレス有利は動かないところだ。足をつかいながら角度を変えた速いパンチで翻弄したすえ、中盤から終盤で仕留めるという見方が大勢を占めている。ただ、手足の長い挑戦者の懐の深さに戸惑うようだと苦戦も考えられる。リナレスは決して打たれ強くはないだけに、番狂わせが起こる可能性もある。

 キャンベルが戴冠を果たすと、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、アンソニー・ジョシュア(英)、オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)、ゾウ・シミン(中国)に次いで12年ロンドン五輪金メダリストとして5人目のプロの世界制覇者となる。

大相撲裏話

力士直撃禍 なぜか多い陣幕親方「あきらめてます」

13日、土俵下に落ちる貴景勝(右)。左は陣幕親方(撮影・鈴木正人)


 休場者が多い今場所。ケガが怖いのは力士だけでない。土俵下に座る審判の親方衆も危険と背中合わせだ。

 陣幕親方(元幕内富士乃真)は、特に多くの力士が落ちてくることで知られる。今場所は4日目に貴景勝が飛んできた。受難の連続だが「これはもう、あきらめてます。たまに、磁石のように引き寄せてるんじゃないかと思うことがありますね」と苦笑いする。

 現役時代の89年秋場所12日目、控えに座っていると三杉里が落ちてきて左足首の関節を骨折。土俵に上がれず、不戦敗になった。このケガがきっかけで番付を落とし、1年後に引退した。親方になった後の01年夏場所7日目には須佐の湖が落ちてきて右スネを骨折した。10年初場所10日目には、三段目の力士に左足首を踏まれて休場した。

 「これは運に任せるしかないんです。現役中はあのケガに苦しみましたが、ある時点から運命だと思うようになりました。それでも、勝負はしっかり見ようと思っています。そういえば、錦戸親方のところも何回も落ちてきますね」。今では酒席での笑い話として、ネタにしているという。残り6日間、土俵の無事を祈りたい。【佐々木一郎】

リングにかける男たち

たった5% ボクシング世界戦「日本人対決」の意義

小国以載(おぐにゆきのり)対岩佐亮佑(りょうすけ)6回、岩佐(右)のパンチが小国の顔面にヒットする


 最初は50年前だった。ボクシングの世界戦での日本人対決。IBFスーパーバンタム級で小国以載が岩佐亮佑の挑戦を受けたのが、35試合目だった。

 2人は高校時代に1度対戦し、11年半ぶり再戦となった。ともにプロになって3年前まではよくスパーリングし、プロではいい勝負だったという。アマでは高1の岩佐が高2の小国に8-18で快勝し、決勝にまで進んだ。今回は6回TKOで岩佐がまた勝った。

 岩佐は「初対戦はあまり覚えていないが、鼻血を出して手を上げられた」と話していた。小国は終始弱気発言。「誰だって最初が印象に残る。負けた方は忘れないでしょ」。

 小国は的確にポイントを狙っていき、ダウンを奪っても「この回はもらった」と深追いしない。捨てるラウンドもある。防衛戦だけに「引き分けでもいい」と言っていた。それが初回から前に出た。先制攻撃を仕掛ける玉砕戦法。左が大の苦手だった。逆に岩佐は「6割方下がると予想していたが来てくれた」と思いもよらぬ展開。1、2回に左で3度ダウンを奪って、悲願達成となった。

 67年に王者沼田が小林の挑戦を受けたのが、日本人対決の第1戦だった。12回KOで小林が王座を奪取した。35試合のうち2試合が正規王者と暫定王者、1試合が2団体の王者による統一戦、3試合が王座決定戦。この6試合を除く29試合で、挑戦者で勝ったのは5試合しかない。

 内外で日本人と日本のジム所属外国人が、800試合を超える世界戦を繰り広げてきた。35試合と言えば5%に満たず、5人の勝者は1%もいかない。海外の王者に挑んでいくのが世界戦の基本。日本人対決は、一般には無名の海外王者より少しでも名が通る日本人相手で、安易なマッチメーク、集客、経費抑制、視聴率期待などの思惑が見える。

 前座では昨年世界初挑戦失敗した和気が8回KOで世界ランク復帰を確実にし「勝者に挑戦したい」とアピールした。岩佐は元々「日本人対決の意識はない」と言い、「日本人なら挑戦者決定戦を勝ち上がってきてほしい」と注文をつけた。

 海外で世界初挑戦に失敗し、その後も挑戦者決定戦で相手が計量失格など、苦難の道を1歩ずつ歩んできた。「小国さんのためにも王座を守り続けたい」と先輩に敬意を示すとともに、「海外にも挑戦していって、有名より強くなりたい」。最近は粗製乱造気味と言われる世界王者だが、一家言ある新王者が誕生した。【河合香】

大相撲裏話

休場明け碧山いきなり横綱戦 56年ぶり

結びの一番、日馬富士の攻めを懸命にこらえる碧山(右)(撮影・丹羽敏通)


 左膝骨挫傷で初日から休場していた平幕の碧山が、中日の17日から出場した。休場明けとはいえ、土俵の上に立つ以上は弱音は吐けない。いきなり結びの一番で横綱戦が組まれた。

 休場明け最初の取組が横綱戦となったのは、61年名古屋場所の東前頭5枚目北の洋以来56年ぶり。昭和以降では、今回が8例目となる。いきなり横綱を倒すのは至難の業だが、過去に1度だけある。51年秋場所で5日目から休場していた西張出小結の備州山が、再出場の8日目に張出横綱の千代の山を破った。今回を除く6例は、全て平幕力士によるものだったが金星は1度もなかった。

 昭和以降初の休場明け金星へ臨んだ碧山だったが、達成はならなかった。横綱戦と知った前夜は「びっくりでした。普通はないですよね」と驚いたという。ただ「番付見たらね。横綱、大関休みですからね」と覚悟はあった。さらに「家で見てたら悔しかった。僕も(相撲を)取りたかった。今日は出られてうれしかった」と土俵に上がれる幸せをかみしめていた。【佐々木隆史】

大相撲裏話

場所中に緊急発売!阿武咲錦絵に反響「一種の事件」

急きょ完成した阿武咲の錦絵


 7日目から国技館の売店に新たな商品が加わった。阿武咲の錦絵。99年ぶりに3横綱2大関が休場する異常事態の今場所を盛り上げている若武者とあって「あまりにも多くのお客さんから聞かれるので」。相撲錦絵師の木下大門氏が急きょ、5時間かけて製作した。

 30年以上も錦絵をつくる木下氏が、場所中に急きょ製作したのは3度目のこと。「ざんばら髪の遠藤と、同じくざんばら髪の逸ノ城のとき以来です。今回はあまり相撲観戦に不慣れなご婦人まで求められてきたので一種の事件ですね」。

 今年4月の神奈川・藤沢市巡業で阿武咲の写真を撮った際には若き日の大横綱を思い出したという。「北の湖さんが上がってきたときとすごくダブる。決して表情に出さず、ふてぶてしい雰囲気がとても似ている。目つきも普通の人ではない怖さを感じる。ただものじゃないと思いました」。

 北の湖と体格こそ違えど、大物の雰囲気を醸し出す阿武咲。稀勢の里にも似る武骨な21歳が、相撲ファンの興味を引きつけている。【今村健人】

大相撲裏話

安美錦“とっくり”でご機嫌「一杯やりたいね」


<大相撲秋場所>◇6日目◇15日◇両国国技館

 初土俵から21年目の初体験。東十両2枚目安美錦(38=伊勢ケ浜)が琴勇輝にとっくり投げを見舞った。通算43手目の決まり手だ。

 「技のデパート」と称された元小結舞の海は33手。多彩な取り口で知られた元小結旭鷲山は46手。前人未到の優勝39回の横綱白鵬は41手。そんな名手たちも未経験の珍技だ。相手の首、頭をとっくりに見立て、両手で挟み左右にひねって倒す。01年初場所で新設された12の決まり手の1つで、いまだ幕内では1度も出ていない。安美錦は「当たって右を張って。差そうと思ったら(相手が)前に出てきたからこう…」。ジェスチャー付きで、いかにも説明しづらそうに解説した。

 今場所3日目、新十両の大成道も照強に決めた。十両で約2年ぶりの珍事がわずか3日後に飛び出した。くしくも大成道は同郷の青森出身。「そうなんだ。巡業中にとっくりで一杯やりたいね」。星も4勝2敗。再入幕を目指す大ベテランはご機嫌だった。【加藤裕一】

大相撲裏話

琴奨菊、殊勲白星でもインタビュー断る理由

秋場所3日目、日馬富士を破った琴奨菊(右)(17年9月12日撮影)


 横綱や大関に勝った下位の力士は、NHKのインタビュールームに呼ばれる。ほとんどの力士はこれに応じるが、断る場合もある。

 元大関の琴奨菊は初日から1横綱2大関を破ったが、1度もインタビューを受けなかった。なぜか?

 「その方がいいかなと思った。今後においても、今においても…」。今年初場所まで大関を務めていた自負もあるだろう。日馬富士に勝って初金星を挙げたが「ああいう内容だったからね」と、テレビで喜びを語ることは控えた。

 元大関の初金星は、雅山(現二子山親方)以来10年半ぶりだった。雅山は、大関から陥落して33場所目に横綱朝青龍に勝ち、インタビューを受けた。二子山親方は「僕は強い横綱に勝ってうれしかったので行きました。でも、大関戦に勝っても一切行きませんでした」と振り返る。大関に勝つたび、断り続けた。「現役中は元大関と言われるのが嫌でした。大関に戻るつもりでいましたから」。

 勝ってテレビカメラの前に立つかどうかは、本人次第。放送時間の関係もあるが、殊勲の白星の後にインタビューがなかった場合、そこには力士の生きざまが反映されている。【佐々木一郎】

大相撲裏話

「なんかかわいい」千代丸のCM出演

千代丸(17年8月9日撮影)


 2日目の11日から放送されている東洋水産のカップ麺「QTTA(クッタ)」のCMに、九重部屋の力士が出演している。芸人松本人志が差し入れに訪れ、力士がむしゃぶりつく。その中心にいるのが幕内千代丸。松本に「なんかかわいいな、あいつ」と言われる。

 部屋総出で出演するが、1番の狙いは千代丸だった。「自分に連絡がきたんです。スポーツ編を撮りたくて、相撲なら自分だと。最初で最後のCMっすね」。

 美声で知られる幕内勢も、ウェブ限定でパナソニックのCMに出演。その中でオリジナルの歌「二人で生きよう」を披露している。

 広告代理店関係者は「今まで白鵬関への依頼が多かったですが、最近はいろいろな力士に話が来ます。面白い力士が増えていることもあるでしょう」と言う。白鵬や遠藤、照ノ富士らが出演中で、最近では宇良にも白羽の矢が立っている。

 かつては大鵬、そして高見山や千代の富士が隆盛を極めたCMも、85年7月の理事会で1度は“禁止”された。それが95年から徐々に解禁されて今に至る。3横綱1大関が不在で三役以上の全勝も皆無とまるで底冷えする秋場所の相撲人気を、広く伝わるようになった多くの力士の“個性”で支えている。【今村健人】

大相撲裏話

伏兵現れる楽しみも


 3横綱と平幕の2人が休場して始まった秋場所。3日目の12日に高安と宇良の休場も決まり、幕内で7人が休場となった。肩を落とすファンも多いと思うが、裏を返せば、誰が賜杯を抱くか分からない、手に汗握る展開になったとも言える。

 休場者数が多い場所は、大関に優勝のチャンスがあるようだ。戦後、引退・廃業を除き幕内力士の同時休場数が最多だったのは、02年名古屋場所の9人。横綱貴乃花、大関魁皇、栃東、武双山らが休場した中で、大関千代大海が優勝した。今場所と同じ3横綱1大関が休場した99年春場所は、大関武蔵丸が優勝している。

 しかし、今場所残された2人の大関は、万全の状態とは言い難い。三役力士も序盤ながら星を落としている。この日を終えて全勝は琴奨菊、阿武咲らの平幕勢6人となった。まさに戦国場所。12年夏場所の旭天鵬以来の平幕優勝か。横綱で唯一出場している日馬富士や、大関陣が盛り返すのか。はたまた、予想もしていない伏兵が現れるのか。荒れているからこその、楽しみもある。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

ミドル級統一戦、アルバレスは若さとスタミナでゴロフキンに挑む


 16日(日本時間17日)、米国と英国でミドル級の世界戦2試合が行われる。特に米国ネバダ州ラスベガスで開催されるWBA、WBC、IBF3団体統一タイトルマッチ、王者のゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)対サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)の一戦は、今年の最注目カードといわれる試合だ。豪腕ゴロフキンが19度目の防衛を果たすのか、それとも人気で勝る元2階級制覇王者のアルバレスが再びベルトを腰に巻くのか。

 04年アテネ五輪銀メダリストでもあるゴロフキンは10年にWBA王座(当時は暫定王座)を獲得し、7年間に18度の防衛を重ねてきた。半年前の試合が判定勝ちだったため連続KO防衛は17、無冠時代からの連続KO勝ちは23で止まったが、ミドル級で圧倒的な強さ、存在感を示していることに変わりはない。大きな試合を求めて階級を変える選手が多いなか同じ階級に留まり、相手を選ばずに戦ってきたゴロフキンには潔さ、男臭さが感じられる。

 どちらかといえば童顔のゴロフキンだが、戦い方は獰猛だ。じわじわと相手を追い込み、中間距離になるとハンマーのような左右で襲いかかる。パンチの破壊力は、スパーリングで拳を交えた経験を持つ村田諒太(帝拳)が「異次元の強さ」と驚いたほどだ。五輪で銀メダルを獲得したほどだから、もちろん細かなテクニックも身に着けている。戦績は37戦全勝(33KO)。完璧なレコードといえる。

 挑戦者のアルバレスはスーパーウエルター級で2度、ミドル級でも1度、世界王座を手にした実績を持っている。このWBCミドル級王者時代には、WBC暫定王者だったゴロフキンと戦うよう統括団体から強制されたが、指示に従わずに王座を放棄した経緯がある。そのためゴロフキンが正王者に昇格したわけで、ちょっとした因縁もあるわけだ。

 アルバレスも強打者だが、ゴロフキンほど攻撃が徹底しているわけではなく、ときには適度に足をつかいながら左ジャブを突いて相手をコントロールすることもある。その分、ボクシングの幅という点では上回っているといえよう。もうひとつ勝っているものがあるとすればスタミナだ。37戦のキャリアでゴロフキンは10ラウンド以上の勝負を3度しか経験していないが、アルバレスは10度も12ラウンドをフルに戦いきっているのである。

 10対7のオッズで不利とみられているアルバレスは、若さとスタミナアドバンテージを生かして後半勝負をイメージしているはずだ。直近の試合の終盤、ゴロフキンの攻防が雑になった点も頭に入っていることだろう。中盤までのダメージを最小限に抑えて後半にペースを上げることができれば前評判をひっくり返すことは可能だろう。ただ、それまでゴロフキンの強烈なプレッシャーに抗いきれるかどうか。アルバレスは体格で劣るだけに、ちょっとでも隙をみせれば一気に持って行かれる可能性もある。いずれにしてもスリルに富んだ試合になりそうだ。

 同じ日、厳密にいえばゴロフキン対アルバレスの数時間前、英国ロンドンではミドル級のWBOタイトルマッチが行われる。王者のビリー・ジョー・サンダース(28=英)が2位のウィリー・モンロー(30=米)を迎え撃つ試合だ。スピードが身上のサンダースと懐の深い技巧派のモンロー。サウスポー対決は接戦が予想される。

 1カ月後にはアッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)対村田のWBAタイトルマッチも行われる。9月、そして10月とミドル級ウォーズの行方に要注目だ。

大相撲裏話

びんつけ油の香水大人気も北勝富士「ちょっと違う」


 力士がまげを結うときに使用するびんつけ油の、甘~い香り。力士の代名詞ともいえる香りを、フレグランスメーカー「LUZ」が香水にして発売している。同社が今年に立ち上げたブランド「J-Scent」から7月に発売され、当初用意した500個がすぐに完売するなど、大人気商品になっているという。

 担当者によると「びんつけ油の香りだけだと淡泊になるので、力士の体から漂うパウダリーの香りなども表現したかった」と開発期間に1年半要したという。香りだけでなく、商品名にもこだわった。「びんつけ油」「お相撲さん」「関取」などが候補に挙がったが「強さとたくましさがテーマ」として「力士」に決めた。本格的な香りと商品名が話題になり「こんなに人気が出るとは思わなかった」と担当者も驚いている。

 実際に、においを嗅いだことのある北勝富士は「ん~ちょっと違うかな」とピンとこない様子。しかし、担当者の元には「びんつけ油のにおいでいいにおい」という購買者からの声が多数届いてるという。この1本で、力士気分を味わってみてはどうだろうか。【佐々木隆史】

リングにかける男たち

底が見えない「モンスター」井上尚弥、好敵手求む!

アントニオ・ニエベス(右)に強烈なボディブローを入れる井上尚弥


 「怪物」あらため「Monster」の底はどこにあるのか。

 WBO世界スーパーフライ級王者、井上尚弥(24=大橋)。

 6戦目での世界王座獲得、8戦目での2階級制覇(当時史上最速)、日本の枠にとどまらない金字塔を打ち立ててきたが、今回は恐ろしさすらも感じた。

 日本人ボクサーでは初と言っていい、本場米国からのオファーを受けての海外進出。9日(10日)にカリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターで開催された興行「Superfly」のセミファイナルでのV6戦で同級7位アントニオ・ニエベス(30=米国)と相まみえたが、結果は6回終了時TKO勝ち。5回に左ボディーでダウンを奪い、結末は6回を終えてニエベスが棄権したためだった。攻める意志の欠如は、おそらく初回にストレートのような左ジャブを受けたことが原因。そのあまりの威力に面食らい、予想とのギャップに「倒されないこと」に心理がシフトせざるを得なかったからだろう。「容赦なかった」と敗戦後に語ったとおり、グローブを体にぴったりと貼り付けて極端な防御姿勢を作っても、わずかなすきに連打を打ち込んでくる。怪物の恐怖におびえた30歳の銀行マンが、口座開設の仕事に異常をきたすような倒され方をされる前に、ボクサーの仕事を切り上げたのも無理はない。それほど実力差があった。戦意喪失、相手の心を折ってしまうほどの明瞭で残酷な実力差を見せつける“楽勝”だった。

 これまで日本人が米国での世界戦でKO勝ちしたのは2人しかいなかった。27回の挑戦があり、その確率は7・4%。極東の島国と本場との大きな隔たりを感じさせる数字だったが、井上の勝ちっぷりを見ると、そんな大きな隔たりがあったとはとても思えない。見る者の感覚をまひさせられるような勝利だった。海外での防衛戦という視点でも、日本人史上7人目、9例目。史上かつてないほどの圧倒劇と言っても過言ではないだろう。

 見る者の固定観念を軽やかに覆してしまう米国初参戦。11日に成田空港に帰国した際に聞いたエピソードでも、驚かされた。3日に渡米した際にベルトを日本に忘れてきたことを試合前に明かしていたが、なんと試合日にも宿泊していたコンドミニアムに忘れ、会場で気付いた関係者をあぜんとさせたという。そんなリング外でのおとぼけは、井上の常。帯同した大橋会長は「尚弥は本当に日本にいるときと変わらなかった。私たちのほうが浮足立ってしまいましたね」と、気負いや緊張とは無縁なその強心臓ぶりで、「モンスター」のすごみを証言した。

 そんな遠征だったが、今回唯一足りなかったものは、対戦相手の強さ、だろう。1つ上のバンタム級を主戦場にしてきたアマチュア全米2位の実績を持つニエベスは、好選手であったが、好敵手ではなかった。一方的な展開過ぎたことで、「イノウエ」のすごさを100%本場へ伝えられたかというと、本人も曇り顔。実際、試合後の現地メディアの報道を見ると、絶賛はあれど、そこに書き手の高揚感を感じるような記事が少なかった。評価は確実に手に入れた。ただ、心をわしづかみにしてしまうような試合ではなかった。それが「本場」の雰囲気かなと思う。

 単純に強すぎた。豪快なKO劇をみせる前に、相手が白旗を挙げてしまう。似たような状況をここ3試合続けているのは、井上の8戦という最速記録を越える7戦目での2階級制覇王者となった現WBO世界スーパーフェザー級王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)。同様に圧巻の力量差を見せつける形で、初防衛戦から3戦連続で相手の棄権を呼び込んでいる。そして、その強さにもかかわらず米国では絶対的な人気を誇ってはいない。

 理由はファンの求めるものが違うからだと思う。少なくとも対峙(たいじ)した2人のボクサーに顕著なスキルの差が見て取れるときには、勝って当たり前の心境は、興奮をもたらさない。7、8月と日本人ボクサーを追ってカリフォルニアの会場で感じた空気では、やはり打ち合い、拮抗(きっこう)した実力伯仲の両者が、紙一重のタイミングで拳を交える緊張感、それがダウンを奪う一撃で弾ける瞬間こそが、最上の熱をもたらす。それは世界王者であろうが、8回戦の試合であろうが、変わらなかった。

 いま、井上に求められるのは好敵手だ。どんなスポーツであれ、多くの関心を集めるのはライバル物語というのは世の常。絶対王者が君臨する世界において独り勝ちという状況は、勝利に予定調和の既視感がまとわりつく。人は1度見たもの、体験したことでは極度の興奮には到達しにくい。だからこそ、勝つか負けるか分からない、激しい打ち合いをできる、熱をもった戦いを繰り広げられる「相棒」がほしい。

 その時こそ、「モンスター」の底が見られるかもしれない。きっと本人もその時を待っているのではないか。これが伝説の始まりだとして、楽しみに待ちたい。【阿部健吾】