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リングにかける男たち

正木脩也「あこがれ世界王者の弟」指導で化学反応

正木(右)とリナレス・トレーナー


 あこがれの世界王者の弟に教わる。アスリートとしてどんな気持ちだろう。

 「一緒にジムにいるときもあるのに、緊張してまだサインとか写真とか頼めてないくらいです」。

 弾む声で教えてくれたのは、7日の東京・後楽園ホール、セミファイナルのスーパーフェザー級(60キロ契約)8回戦に1回1分56秒KO勝ちした正木脩也(23=帝拳)。ボクシングを始めたきっかけは現WBA、WBC世界ライト級王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)。17歳の時にベネズエラから来日して帝拳ジムの門をたたき、輝かしいプロキャリアを歩み、3階級制覇を成し遂げた。先月の防衛戦ではロンドン五輪金メダリストのルーク・キャンベル(英国)を試合中にあばら骨骨折を負いながら判定で破ったばかり。この日、セコンドについたのはその弟カルロス・リナレス(28)トレーナーだった。

 「すごいですよね、そんな人に教えてもらうなんて」。

 コンビを組んだのは8月下旬。兄を追うように来日し、12年には日本ミドル級王座決定戦挑戦経験も持つカルロスが、帝拳ジムでの本格的にトレーナーとして勤め始めてからだった。「ホルヘに似ている」とカルロス・トレーナーに見初められ、練習前には「自分はホルヘや」と自らに暗示をかけて取り組む日々。すぐにストレートを打つ際のバランスの修正に取り組み、それまで上方に打ち気味だったパンチを、思い切って打ち下ろすように心がけた。まるでホルヘ・リナレスのように。

 それから1カ月強。効果はてきめんだった。7日の試合の1回、1発の右ストレートで10カウントを聞かせた相手は、決してかませ犬の外国人選手ではない。東洋太平洋同級9位シソ・モラレス(フィリピン)は、10年2月には世界タイトル挑戦の経歴も持つ。「正直怖かった」という強豪に対し、アゴを打ち抜いての一撃の幕切れは、どこか実感がなさそうに「右ストレートでダウンを取れてうれしい」と振り返ったが、ホルヘに近づこうとしたこの1カ月強の努力ゆえだった。勝利後のインタビューで真っ先に感謝の言葉を述べた教え子に、カルロス・トレーナーもうれしそうだった。控室では高揚しながらニコニコと勝利をたたえていた。

 スーパーフェザー級は内山高志、三浦隆司の名王者が今夏に引退し、新時代を迎えている。日本王座を返上した尾川堅一、その空位となったベルトをかけた7日のメインカードの王座決定戦で新王者となった末吉大は、同じ帝拳ジム所属で正木の先輩。東洋太平洋タイトルを返上した伊藤雅雪(伴流)など世界ランカーも含め、好素材がそろう。23歳、現在日本ランク6位の正木も、その群雄割拠についていきたい。

 あこがれは、現実感を増して、確実に良い化学反応を引き起こしている。まだ日が浅いカルロス・トレーナーとの歩みが、今度どうさらなる変化を見せていくか。注目していきたい。【阿部健吾】

大相撲裏話

「九死に一生」式守与之吉 土俵に戻る

九州場所で土俵に復帰する式守与之吉


幕内格行司の式守与之吉(49=宮城野)が、ギラン・バレー症候群を克服して土俵に戻ってくる。今年の初場所から5場所連続で休場中。秋場所の土俵には上がっていないが、事務方として国技館に出勤できるまでに回復した。「九死に一生を得ました。本場所は、九州場所から土俵に上がります」と声をはずませた。

発症したのは、昨年12月8日の宮崎市巡業の朝。前夜から肩が上がらず「疲れかな?」と思って一夜明けると、症状が重くなっていた。顔を洗うことも、着替えることもできない。現地で診察を受けると、そのまま入院を勧められた。四肢に力が入らなくなる難病「ギラン・バレー症候群」だった。巡業で滞在していたため荷物は十分でなく、まずは緊急帰京。空港では自力で歩けず、車いすでの移動を強いられるほどに病状が進行した。

東京に戻って入院。5日間点滴を受け、回復を待った。病気になった明確な原因は分からなかった。その後、リハビリを開始。「今年の3月までは、自分で起き上がることもできませんでした。寝たきりの時はこたえました。復帰できないと、半分以上はあきらめていました」。

一時は体重が10キロ以上も減った。「リハビリの先生の献身が、折れた心を救ってくれました。『治る病気なんです』と言って、手や足を持ち上げてくれました」。歩けるようになったのは、4月から。それでも、大相撲中継は見る気になれなかった。「自分が土俵に立つ時間は心苦しくて、気の焦りもありました。その時間はあえて院内を歩いたりしていました。ニュースや結果は耳に入りましたが、1~7月は見ていないんです」と振り返った。

6月14日に退院。再発の恐れはなくなり、本格復帰への準備を進めている。9月の秋場所からは国技館に出勤し、行司仲間から「おめでとう!」との声を掛けられた。ファンも多く、館内で気づいた人たちに驚かれる毎日だ。

休場中は、日本相撲協会の配慮で病名は伏せられていた。だが回復した今、与之吉は「公表してもらってかまいません。なってしまったものは、仕方ないですし」と前を向く。

30日の日馬富士引退相撲から土俵に立ち、本場所後の秋巡業に参加しつつ、九州に入る。「こんなに長い間空けたことはなかったので、楽しみも不安も半々です。初心に戻る感じですね」。今や表情は明るく、血色もいい。もう間もなく、あのはつらつとした「ハッキヨイ」の声が土俵に戻ってくる。【佐々木一郎】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

ジョシュアvsポベトキン いよいよ23日にゴング


ヘビー級トップ戦線の主役のひとり、WBA、IBF、WBO3団体統一王者、アンソニー・ジョシュア(28=英)が22日(日本時間23日)、英国ロンドンのウェンブリー・スタジアムで元WBA王者のアレクサンデル・ポベトキン(39=露)を相手に通算6度目の防衛戦を行う。WBC王者のデオンテイ・ワイルダー(32=米)との4団体統一戦プランもあるジョシュアが大一番に向けて存在感を示すのか、それともポベトキンが番狂わせを起こすのか。KO決着が確実視されている注目カードだ。

12年ロンドン五輪のスーパーヘビー級金メダリストでもあるジョシュアは、プロ転向から2年半後の16年4月にIBF王座を獲得。17年4月、元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで下した際にはWBAから「スーパー王者」の称号を与えられた。そして今年3月にはWBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド)に12回判定勝ち。この試合でデビューからの連続KOは20で止まったが、引き換えに三つめのベルトを手に入れた。身長198センチ、リーチ208センチ、体重約110キロの恵まれた体格から速くて正確な左ジャブを突き、射程が合うと破壊力のある右ストレートを打ち抜く。最近は接近戦でアッパーを突き上げるなど攻撃の幅を広げつつある。

21戦全勝(20KO)のジョシュアは人気面でも際立っている。直近の3試合を見てみると、ウェンブリー・スタジアムで行われたクリチコ戦が約9万人、カーディフのプリンシパリティ・スタジアムが会場となった17年10月のカルロス・タカム(37=カメルーン/仏)戦とパーカー戦でも各7万8000人を集めているのだ。この3試合だけでも合計24万6000人の集客となる。最重量級の世界王者に相応しい人気、注目度といえる。今回も実績と知名度のあるポベトキンが相手だけに、ウェンブリー・スタジアムに7万人超の観客が見込まれている。

そのポベトキンは04年アテネ五輪のスーパーヘビー級金メダリストで、プロでは35戦34勝(24KO)1敗の戦績を残している。この1敗は5年前にクリチコに喫したもので、以後は8連勝(6KO)と好調だ。今年3月にはジョシュア対パーカーの前座に出場し、ダウン応酬のすえ豪快な5回KO勝ちを収めている。身長188センチ、リーチ191センチ、体重約103キロと体格ではジョシュアに及ばないが、下から潜り込むようにして打つ左右のパンチは相手にとって脅威といえよう。

とはいえ総合的な戦力と若さに加え地の利もあるジョシュア有利は絶対的なものとみられており、オッズは9対1と出ている。ジョシュアが左ジャブで距離を計り、打ち下ろしの右ストレートでKO勝ち、という可能性が最も高そうだ。

現在のヘビー級はジョシュアを軸にして、統一戦プランが浮上しているWBC王者のワイルダー、さらに戦線復帰した元3団体王者のタイソン・フューリー(30=英)、ワイルダーと激闘を展開した元WBA暫定王者のルイス・オルティス(39=キューバ)、そしてポベトキンと役者が揃っている。こうしたなか、順当にジョシュアが次に駒を進めるのか、それともポベトキンが番狂わせを起こして準主役に躍り出るのか。22日(日本時間23日)、ロンドンのウェンブリー・スタジアムに要注目だ。

リングにかける男たち

スーパー、正規、暫定…乱立王座 誰が真の最強か

村田諒太(2018年6月13日撮影)


ボクシングの「ミドル級頂上決戦第2弾」のゴングが鳴る前に、残念な知らせが届いた。

WBAスーパー、WBCの2団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン対元2階級制覇王者サウル・アルバレスの1年ぶりの決着戦。そのアンダーカードで組まれたWBA同級3位ゲーリー・オサリバン(アイルランド)対同4位デビッド・レミュー(カナダ)戦が、WBAスーパー王者挑戦者決定戦として認められたという報道だった。この決定は、認定団体としてのWBAの方針に関し、さらに疑問を募らせた。

思い返せば17年2月、WBAのメンドーサ・ジュニア会長は日本で会見を開き、スーパー、正規、暫定と王座が乱立する状況に歯止めをかけるために、一本化していく宣言をしていた。具体的には、スーパー王者は他団体のベルトも保持する統一王者に限定すること、統一王者が設置される階級は正規王者を空けること、暫定王座はけがなど正当な理由で正規王者が試合を行えない場合にのみ設置すること、以上を明言。18年までに統一させていくと説いた。

それから1年7カ月、状況は進んでない。レミュー対オサリバン戦の情報を知ると、一層そう思えた。WBAのミドル級の事情で言えば、統一王者として長く君臨してきたゴロフキンの存在が、正規王者や暫定を作らざるを得ない状況を生んだ。そして、現在の正規王者としてベルトを巻くのは村田諒太(32=帝拳)だ。であるならば、一本化という意味ですべきことは、挑戦者決定戦の承認ではなく、スーパー王者と正規王者による統一戦以外にないはずだった。

結果としてゴロフキンは敗れ、アルバレスが新王者となったが、次戦は挑戦者決定戦に勝利したレミューとのV1戦になるとの報道も出ている。統一という機運に傾く流れはなさそうだ。村田自身も、興行面での難しさからアルバレス戦を行うには、「2、3ステップ踏み出さないと行けない」と険しい道のりであることを認識している。

村田を取材する身として知りたいのは、きっと村田自身もそうだが、どれだけ強いのか、ということだ。正規王者にはなったが、スーパー王者がその上にいる事実からして、最強ではない。ただ、それはむしろ前向きな要素で、自分の力がどれほどなのかを追い求めることができる環境に、いま村田は生きがいを感じているように思う。そうであるならば、最強決定戦を見たい。

王座乱立はWBAだけの問題ではなく、ボクシング界全体を覆う。誰が一番強いのか。その単純な事実が分かりにくい状況は、ファン層の拡大への障害にもなる。「だって、誰がチャンピオンか分からないでしょ!」。昨年、具志堅用高氏は、声を荒らげて言った。4団体も王座認定団体があり、ただでさえ王者が大勢いる。その中で、さらにスーパーやら、暫定やら…。その通り、誰が王者か分からない。王者とは最も強い者であるべき。

アルバレス勝利で置かれてた状況を険しいと表現した村田。最強を追い求めるその道にも、しっかりと道筋が敷かれることを願う。

【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」

大相撲裏話

故武蔵川親方の言葉浮かび「描いて残す」錦絵の意義

大露羅の錦絵が描かれたポストカード


「あの言葉が浮かんで、ようやく描けました」。相撲錦絵師の木下大門氏は、国技館の売店でしみじみと話した。

85年初場所に現在の国技館が会場になってから、木下氏の錦絵が館内で販売されている。販売するきっかけは、過去に理事長や相撲博物館館長を務めた元前頭出羽ノ花の故武蔵川親方(本名・市川国一)の勧めだった。その時に「関取うんぬんは関係ない。大童山とか巨人力士も錦絵になっているから、そういうのも描け」と言われたという。

しかしその後、幕下以下で巨漢の注目力士はなかなか現れず。月日は流れて昨年8月。当時三段目の大露羅が元大関小錦を上回る288キロを計測して、歴代最重量になったことが耳に入った。そして今年の名古屋場所で、土俵に上がるのも一苦労の姿を見て「市川さんの言葉を思い出した。これはもう記録に残さないといけないと思った」と序二段大露羅の錦絵を描いた。

今場所初日から錦絵が販売されていたが、相撲協会による幕下以下の力士の商品は販売してはいけないという規則から今は販売されていない。それでも「描くのは問題ない。次は300キロを超えたら描きたい」と夢を膨らませた。【佐々木隆史】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

2人の十両力士が締め込みに込める思い

白鷹山(右)を寄り切りで破った天空海(撮影・狩俣裕三)


明日の幕内入りを目指して、しのぎを削る十両力士。いろいろな思いを胸に1日一番に集中する中、2人の力士が締め込みに特別な思いを込めて本場所に臨んでいる。

新十両の初場所以来の十両返り咲きとなった天空海(立浪)は、ライムグリーンの締め込みを締めている。初場所は青色だったが心機一転。実は、度重なるケガなどで道半ばで引退した、弟弟子の元十両力真から譲り受けたもの。「十両に上がったら締めて下さい」と言われたという。しかも力真が締めることなく引退したため、新品のままだった。「力真の気持ちも引き継いで勝ち越して恩返しをしたい」と誓った。

翔猿(追手風)は、銀色から金色に変えた。本来は名古屋場所で使う予定だったが、間に合わずに今場所から使用。春、夏場所で2場所連続7勝8敗だったため験直しで替えた。「銀の上は金。いつかは金星を取るぞ、という気持ちも入っています」と話した。兄弟子の遠藤も金色の締め込み。2人の“ゴールデンコンビ”が、そろって金星を挙げる日が待ち遠しい。唯一、身に着ける物だけに、関取のこだわりが詰まっている。【佐々木隆史】

大相撲裏話

一山本が燃え尽きてない若者へ勇気

一山本(18年9月9日撮影)


2年前の制度改革が、将来の関取を発掘しつつある。西幕下5枚目の一山本(24=二所ノ関)が、初土俵から11場所目にして十両昇進を目前にしている。

中大時代に全国学生選手権16強など実績を残し、卒業後は地元北海道の福島町役場に就職。半年後、転機が訪れた。一定の実績がある経験者を対象に、新弟子検査の年齢制限が23歳未満から25歳未満へ緩和された。当時23歳で「俺に流れがきたな」。同年秋の国体で喫した初戦敗退が、相撲への情熱を再び燃やした。公務員を辞して二所ノ関部屋に入門。翌年1月の新弟子検査に合格し、年齢制限緩和第1号の力士となった。

十両昇進を果たせば、この制度を利用して入門した力士では初めての関取になる。大学で相撲に区切りをつけながら、気持ちを捨てきれない若者に勇気を与えられる。「そういう存在になれればいいですね」。

北海道地震から1週間。実家や知人は無事だが、道内ではいまだ余震が続き、1500人以上が避難生活を余儀なくされる。今場所は0勝2敗と苦戦しているが、残りの取組次第では十両昇進もあり得る。故郷を勇気づけるためにも「いい報告をしたい」と活躍を誓った。【佐藤礼征】

原功「BOX!」

因縁の再戦ゴロフキンvsアルバレス 勝つのはどっちだ


今年最大の注目カードといわれ、ふたりの合計報酬額が100億円を超える可能性があるスーパーファイト、ゲンナディ・ゴロフキン(36=カザフスタン/米)サウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)の世界ミドル級タイトルマッチが15日(日本時間16日)、米国ネバダ州ラスベガスで行われる。両者は昨年9月に拳を交え、ゴロフキンが攻めアルバレスが迎え撃つという展開になったが、ジャッジ三者の見解が分かれて12回引き分けという結果に終わっている。あれから1年、ゴロフキンの持つWBAスーパー王座とWBC王座がかかった因縁のリマッチは、初戦とほぼ同じ3対2でゴロフキン有利というオッズが出ている。

両者の初戦を見た人の80パーセントほどがゴロフキンの勝利を推し、15パーセントが引き分け、アルバレスの勝利と採点した人は本人を含めて5パーセント程度だったのではないだろうか。「判定に関しては私の仕事ではないのでコメントは控えたい」とゴロフキンが言えば、アルバレスは強気の姿勢は崩さず、「全12ラウンドのうち7か8ラウンドは私が押さえたはず」と勝利をアピールしたものだ。こうした因縁から再戦は必然とみられた。事実、いったんは5月5日にリマッチが決定した。

ところが、発表の直後にアルバレスのドーピング違反が発覚。そのためアルバレスは自ら5月の再戦を辞退した。ラスベガスでの試合を管理するネバダ州アスレチック委員会が2月に遡ってアルバレスに半年の出場停止を言い渡すなか、ゴロフキンは代役を相手に20度目の防衛戦を行い豪快な2回KO勝ちを収めている。初戦の判定に加えアルバレスのドーピング違反も加わり、両者間の因縁は一層深くなったといえる。

リングを下りれば紳士で知られるゴロフキンだが、今回は珍しく感情を隠そうとせず、「アルバレスは尊敬できるスポーツマンとはいえない」とライバルを切り捨てている。試合に関しては「彼はスピードとテクニックの面で優れているが、私は私の仕事をするだけだ」と攻撃的なボクシングを貫くとしている。一方のアルバレスは「外野の声は聞こえている。今回はそれもモチベーションになっている。最初からKOを狙っていく」と完全決着で汚名返上を狙うつもりだ。

39戦38勝(34KO)1分のゴロフキンが初戦のようにプレッシャーをかけながら前進して自慢の強打を叩き込むチャンスをうかがい、52戦49勝(34KO)1敗2分のアルバレスが細かく立ち位置を変えながらカウンターで迎撃する展開になりそうだ。初戦では互いに警戒心が強かったためか両者とも得意とするボディブローが少なかった。それを含め両陣営の戦術にも注目したい。

この試合では、人気で勝るアルバレスに5000万ドル(約55億円)~6000万ドル(約66億円)、勝てばミドル級史上最多、130年を超える近代ボクシングでも全階級通じて4位タイの連続21度の防衛となるゴロフキンに4000万ドル(約44億円)の報酬が見込まれている。課金システムのペイ・パー・ビュー(PPV)の契約件数によっては合計報酬額が100億円を超えそうだ。

1カ月後にWBA王座のV2戦を控える村田諒太(32=帝拳)をはじめ、WBC暫定王者のジャモール・チャーロ(28=米)らも注目するミドル級頂上決戦。どちらの手が挙がるのか。

大相撲裏話

公式売店で“実践”女子大生 相撲協会と産学連携


秋場所初日、国技館内にある相撲協会公式グッズの売店に親方衆に交じって3人の若い女性が接客していた。聞けば実践女子大の学生だという。

昨年12月25日に相撲協会と同大学が産学連携を結んだ。グッズのアイデアを考えていた社会貢献部の三保ケ関親方(元前頭栃栄)が、産学連携の経験が豊富な同大学に提携を依頼。当時は元横綱日馬富士関による傷害事件発覚などで揺れていたが、同大学の秦英貴学長顧問は「学長も理解があり、学生に経験して良いことならやろう、とおっしゃった」と快諾した。

提携後、社会貢献部の親方衆と学生たちが定期的に意見交換をして新商品の開発に努めた。夏場所では、第1弾となるコンパクトミラーが売店に並んだ。そして今場所からは同大学の生活環境学科の3年生3人が、インターンシップとして売店で接客をしている。

学生にとってはこれ以上ない社会経験になり、親方衆にとっても有益だった。社会貢献部の岩友親方(元前頭木村山)は「女性ならではの視点でのアドバイスはすごく参考になる」と感謝していた。【佐々木隆史】

リングにかける男たち

再起戦を完勝、井岡一翔の新ストーリーが始まった

復帰戦判定勝ち後、顔を腫らしながら報道陣の質問に答える井岡一翔(2018年9月8日撮影)


ロサンゼルス郊外で井岡一翔の復帰戦を見て、成田空港に帰国した。税関チェックで、若い検査官のお兄ちゃんに物言いをつけられた。「あの~お客様の荷物なんですが、麻薬犬が興味を示してまして…」

麻薬犬?

「それでですね、別室でチェックさせていただけませんか?」。そりゃあ、嫌とは言えんがな。先輩とおぼしき中年男性の係員も出てきて、3人で別室へ。キャリーバッグを開けて、さあどうぞと見てもらう。パンパンに膨らんだ袋が気になるようで「それ、洗濯物ですよ。洗ってませんから。すみませんね」。当然何も出てこず、無罪放免。私がTシャツに半ズボン姿やったんで怪しまれた気がするけど、麻薬犬て。おったか? そんな犬。

人間、間違ったことをしてなければ、堂々とできるもんです。

9月8日の井岡はどうやったか。昨年大みそかの引退表明で「ボクシングに未練はない」「3階級制覇した時点で(引退を)考えていた」と言いながら、2月に渡米して「SUPERFLY2を見て、米国の空気、雰囲気を感じて」リングに戻ってきた。おいおい話が違うがな、と思った。引退表明から2カ月ちょっとでしょ? 大みそかに語ってた「新しいビジョン」は結局、米国での復帰やったんちゃうの? 整合性の取れんカムバック-。少なくとも、井岡陣営、井岡に近い関係者以外はみんな、ファンも含めてそう感じたはずやし、本人にも気まずさのようなものがあったんちゃうかと思います。

ところが、アローヨ戦は圧巻でした。最初から左をバシバシ打つ。先にジャブ、ボディーを出し、下がることなく、前に出続ける。3ラウンド、きれいなワンツーで奪ったダウンはカウンター気味やったけど、偶然ではなく必然の出来事やったと思います。あんなに激しく、攻撃的な井岡を初めて見ました。

「本当にいっぱいいっぱいでした。余裕がなかった」。スーパーフライ級の試合、米国の試合はともに初めて。その緊張感はあったでしょう。しかし、それ以上に彼を追い込んでいたのは、不可思議な引退表明に終止符を打たんとあかんっちゅうプレッシャーやったんやないでしょうか。

復帰戦の完勝で全部とは言えんまでも、井岡一翔のボクサー人生はほぼリセットされ、新たなストーリーが始まったと思う。決意、意地を拳で語ったととらえましょう。次戦からはきっと、より純粋なボクサー井岡一翔が期待できる。そう思うようにしましょう。【加藤裕一】

大相撲裏話

口数少なく態度で示す 退路断った稀勢の里の挑戦

大相撲秋場所の土俵祭りに臨む稀勢の里(撮影・河田真司)


ファンはもちろん、多くの相撲関係者も、やめてほしいなどと思っていない。何よりも本人が、復活を信じ、現役を続けたいと稽古している。それでも結果が伴わなければ、やめなければならない状況だと腹をくくっている。そんな力士生命をかける思いで秋場所(9日初日、東京・両国国技館)に臨むのが、横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)だ。7月の名古屋場所の休場を表明した際に「来場所、すべてをかけて頑張っていきたい」と、決意を語っていた。

稀勢の里は第72代横綱。江戸時代前期の初代明石志賀之助から数えて、横綱はわずか72人しかいない。師弟ともに横綱というケースは少ないが、稀勢の里の師匠も元横綱隆の里の故先代鳴戸親方。現役時代は口数も少なく、師匠としては「朝稽古」が午後まで続くことも当たり前という、厳しい指導で知られる。その隆の里の師匠も「土俵の鬼」と呼ばれた元横綱の初代若乃花。口数の少なさ、厳しい稽古は、その初代若乃花を引き継いだ。極めて少ない、3代続く横綱の系譜を継いだ稀勢の里が、口数が多いわけもない。言い訳はせず、土俵で結果を示してきた。

口数の少ないことで、誤解されかねないこともある。秋場所初日のちょうど1カ月前となる8月9日。地元茨城県の龍ケ崎市で行われた巡業で、稀勢の里は朝稽古の土俵に立たなかった。その3日前の8月6日から、関取衆相手に本格的な稽古を再開し、翌7日まで2日連続で相撲を取っていた。同8日は稽古土俵に立っていなかったが、幼少期を過ごした龍ケ崎市で目いっぱい稽古するための休養だと、報道陣は勝手に思い込んでいた中で、肩すかしを食った格好となった。「9月場所で活躍できるよう、しっかり頑張りたい」などと、稽古を休んだ理由について、多くは語らなかった。

だが龍ケ崎市での巡業の取組を終えて、花道を引き揚げる際に、明らかに異変があった。地元ファンの盛大な拍手と声援に笑顔をつくることもできず、険しい表情で歩いていた。後日、実は左足裏に傷ができていて「龍ケ崎の時が一番ひどかった」と話している。多くを語らないことで、その日は、地元ファンに稽古も見せず、交流も少なめと、冷たい態度を取ったようにも見られたはず。だが立っているだけでも痛みを感じる中で、稽古場には姿を見せて四股を踏み、横綱土俵入りも取組も行った。龍ケ崎市の巡業の翌日、福島・白河市での巡業では稽古場にも来ることができず、土俵入りも回避したことを考えれば、その時点での目いっぱいのファンサービスだった。

秋場所の出場意思を表明した9月6日も「やるべきことは、やってきた」と、短い言葉に決意を込めた。それまでの稽古を振り返り「良かったり悪かったりというのが、逆に良かったと思う」と、けっして順調ではなかったことも自覚している。それでも「しっかりと準備はできた」と言い切った。8場所連続休場で、相撲勘が鈍くなるのも当たり前。言い訳したくなる状況でも、出場する以上は「準備はできた」と断言し、退路を断って臨む秋場所。横綱として歴代最長の連続休場明けの、誰も経験したことのない挑戦が、いよいよ幕を開ける。

【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

井岡一翔、復帰戦勝てば日本人初4階級制覇も視野に


3階級制覇を成し遂げている元世界王者、井岡一翔(29=SANKYO)が8日(日本時間9日)、米国カリフォルニア州イングルウッドのフォーラムで昨年4月以来の実戦に臨む。復帰戦の相手は、2度の世界挑戦経験を持ちWBCとIBFでスーパーフライ級3位にランクされるマクウィリアムス・アローヨ(32=プエルトリコ)。環境を一新してカムバックを決めた井岡にとって敗北は許されない試合となる。

井岡はミニマム級、ライトフライ級、そして15年4月にはフライ級で世界王座を獲得し、叔父の井岡弘樹さんが4度挑んで達成できなかった3階級制覇を成し遂げた。その王座は5度防衛し、安定王者の仲間入りを果たしていた。しかし、昨年秋になって王座を返上し、大晦日には「3階級制覇という夢を達成できて満足している」として引退を表明した。

それから7カ月半後、井岡は父親のジムを離れ、世界ミドル級王者のゲンナディ・ゴロフキン(36=カザフスタン)らを擁するアメリカのトム・ローフラー氏の360プロモーションと契約。階級もひとつ上げてスーパーフライ級での再出発となる。

8日のイベントはローフラー・プロモーターが昨年9月に初めて仕掛けて好評を博した「SUPERFLY」シリーズの第3弾として行われる。今回、井岡はスーパーフライ級トリプルマッチの最初の試合に出場する予定だ。メイン格のカードとしては元WBA、WBO世界フライ級王者で現スーパーフライ級WBC1位のファン・フランシスコ・エストラーダ(28=メキシコ)対WBC同級7位フェリペ・オルクタ(32=メキシコ)、そしてドニー・ニエテス(36=比)対アストン・パリクテ(27=比)のWBO世界スーパーフライ級王座決定戦が組まれている。日本では15度の世界戦を経験している井岡だが、米国では必ずしも知名度が高いとはいえず、評価も定まっていないのだ。今回の顔見せのテストマッチでウィリアムスに敗れるようなことがあると、その先はさらに厳しい道のりになることは間違いない。

その一方、勝った場合のリターンは大きいものがある。カムバック宣言と同時にWBA2位にランクされた井岡(23戦22勝13KO1敗)がウィリアムス(20戦17勝14KO3敗)を下せば、4階級制覇への扉が大きく開かれることになる。ニエテス対パリクテの勝者(WBO王者)、ローマン・ゴンサレス(31=ニカラグア)を連破しているWBC王者のシーサケット・ソールンビサイ(31=タイ)、WBA王者のカリド・ヤファイ(29=英)、IBF王座を5度防衛中のジェルウィン・アンカハス(26=比)らが井岡の挑戦を歓迎してくれるはずだ。

負ければトップ戦線から脱落、勝てば日本人初の4階級制覇が視野に入ってくる。井岡にとってはボクサー生命を左右する大事な試合といえる。初の異国のリングで、元3階級制覇王者がどんなパフォーマンスを披露するのか注目したい。

リングにかける男たち

プロレス実況15年清野茂樹アナの夢を叶えた生き方

プロレス実況15年目を迎え、プロレス本「コブラツイストに愛をこめて」を上梓した清野茂樹アナウンサー(撮影・桝田朗)


今年でプロレス実況15年を迎えたフリーアナウンサーの清野茂樹さん(45)が、プロレス本を出した。「コブラツイストに愛をこめて」(1600円+税、立東舎)だ。新日本プロレスを中心に実況アナを務め、15年には新日本、WWE、UFCの“世界3大メジャー”の実況を初めて達成。プロレス界では第一人者として活躍している。

清野さんは小学生時代に聞いた古舘伊知郎のプロレス実況のとりこになって、この仕事を志した。ラジカセで録音した古舘の実況を丸暗記し、小学校ではプロレスごっこの実況で腕を磨いた。青学大を卒業後、東京、地方とテレビ局の採用試験は全滅。96年4月にプロレス実況とは縁遠い広島FMに入社した。

しかし、そんな清野さんに転機が訪れる。新日本の広島大会のPRに来ていた蝶野正洋のトークショーの司会を担当。新日本とつながりができ、03年4月の広島大会で場内FMの実況を提案すると、それが通ってしまう。清野さんのプロレス実況のスタートだ。「実は、そのときがプロレスの実況は初めて。でも、全試合を1人でしゃべり続けた」と清野さん。

これを機に、新日本の実況に声がかかるようになり、会社を辞めて06年に上京。フリーアナウンサーとして活動するようになった。プロレス以外にも、K-1やDREAM、最近では大相撲、米国プロバスケットボールのNBA、東京五輪の新種目となった空手の実況も務める。

自身7冊目という本には、実況アナの仕事や、プロレスラーのエピソード。目標とする古舘伊知郎さんの実況への思いなどがつづられている。新日本のどん底時代を支えてきた棚橋と、駆け出し時代に励まし合った話。オカダ・カズチカの新日本デビュー戦となった内藤哲也戦の話など、実況アナならではの秘蔵エピソード満載だ。

本のデザインとなっている覆面レスラーに清野さんがコブラツイストを掛ける人形は、獣神サンダーライガー自作の粘土細工だ。楽しいプロレスラーの話、実況アナウンサーという職業の紹介も楽しいが、「プロレス実況アナウンサーになる」という思いを実現させた清野さんの生き方が、とてもステキだと感じさせる本だ。【桝田朗】

大相撲裏話

初土俵から8年半の隆の勝、挫折乗り越え幕内世界へ

番付表を手に笑顔を見せる新入幕の隆の勝(2018年8月27日撮影)


苦労したのが報われて、年齢を重ねてはい上がってくるのも味があっていい。一方で、活性化のためには若手の台頭が不可欠だ。9月9日に初日を迎える大相撲秋場所(両国国技館)でまた一人、生きの良い新入幕力士が出てきた。初土俵から8年半で幕内の座を射止めた23歳の隆の勝(千賀ノ浦)だ。

両国国技館内で行われた8月27日の番付発表会見では、喜びのコメントがあふれていた。師匠の千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)を隣に着席しても終始、笑みを満面にたたえ「めちゃめちゃ、うれしいっす。幕内はテレビで見る世界。番付の一番上に名前が出るのは本当にうれしいっす」。大勢の報道陣を前に、現役時代は、その柔和な笑顔から「ドラえもん」の愛称があった師匠も、汗をかきかき笑みを浮かべていた。先代(元関脇舛田山)から16年4月に部屋を継承して初めての幕内力士。関取としても隆の勝が第1号で、喜びもひとしおだろう。

その隆の勝にも挫折の時はあった。初土俵から幕下までは約2年で通過。群雄割拠の険しい幕下で10場所務めた後、1度だけ三段目に落ちた。すぐに幕下に戻った後、5場所後に再び三段目へ。この滞留も1場所だけにとどめたが、この時期が「壁にぶち当たって(十両に)上がれないかも、と思い心が折れかけた」という挫折の時だった。それも「親方や身内、回りのいろいろな人たちから応援の声をもらった。それが支えだった」と奮起。稽古量は増え、また師匠の「稽古場の相撲を取ればいい、というアドバイスで気持ちをうまく切り替えられるようになった」と精神的な安定もプラスになった。

昨年九州場所で晴れて、新十両に昇進。しこ名を先代の現役時代から1文字もらった「舛の勝」から、現師匠の1字をもらった「隆の勝」に改名し十両を5場所で通過。自信をもって「実りの秋」を迎える。

先場所は東十両4枚目で13勝2敗。これが自信になってか、秋場所の抱負を「勝ち越しはもちろん、三賞を狙いたい」と意気込む。年齢が近く、出稽古を積みライバル視する阿武咲(22=阿武松)、阿炎(24=錣山)も、新入幕で三賞を受賞し、その後のジャンプアップへとつなげた。そんなことも意識しての目標設定。押し相撲に磨きをかけ、怖いもの知らずで幕内の世界に飛び込む。

【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

波乱の人生シリモンコン、41歳が挑む100戦目


辰吉丈一郎との激闘で知られる元WBC世界バンタム級、元WBC世界スーパー・フェザー級王者、シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)が9月1日、タイの首都バンコク近郊のパトゥムターニー県でプロ100戦目を行う。辰吉戦のときは20歳だったシリモンコンも41歳。直近の3戦は1勝2敗と武運から見放されており、これが引退試合ともいわれている。

シリモンコンは16歳でプロデビューし、1996年8月には19歳でWBC世界バンタム級王者になった。辰吉を相手に4度目の防衛戦を行うために来日したのは97年11月のことだった。このとき27歳の辰吉は世界戦3連敗中で、選手生命の危機という背水の状況にあった。一方のシリモンコンは16戦全勝(6KO)で、体も辰吉よりひとまわり大きかった。「負けるかもしれないという考えはなかったが、リングで向かい合ったとき、あまりに大きいので(6階級上の)ウェルター級かと思った」(辰吉)というほどだった。試合は歴史に残る激闘になったが、ボディを攻められたシリモンコンは7回TKOで敗れた。

これを機に階級を上げたシリモンコンは5年後の2002年に再来日。長嶋健吾(18古河)との決定戦で2回KO勝ちを収め、WBC世界スーパー・フェザー級王座を獲得、2階級制覇を成し遂げた。しかし、2度目の防衛戦で敗れると、以後は世界王座と縁が切れた。

それでもリングに上がり続けたが、09年に違法薬物の取引に絡んだとして逮捕され、20年の刑を言い渡された。32歳のときである。

これで引退かと思われたシリモンコンだが、刑務所内でトレーニングしながら2年後には一時的に外出して試合をすることが許され、ウェルター級の地域王座を獲得。13年には仮釈放され、翌14年にはスーパー・ウェルター級の世界15位以内にランクされた。04年からの連勝は51(35KO)まで伸びたが、昨年2月、新鋭に敗れて連勝がストップ、世界ランクも失った。10月には元世界ランカーにも敗れ岐路に立たされた。ここまでの戦績は99戦95勝(60KO)4敗。KO負けは辰吉戦の一度だけだ。

9月1日の試合は11カ月ぶりの再起戦であると同時に、シリモンコンにとってプロ100戦目となる。節目の試合はタイのライト・ヘビー級王座決定戦として挙行される予定だが、相手のムハマド・ヌスブガ(ウガンダ/タイ)の戦績は7戦6敗1分というもの。6敗はすべてKO負けというから、シリモンコンのために組まれた試合といっていいだろう。ちなみにライト・ヘビー級の上限体重は79.3キロ。53.5キロのバンタム級よりも10階級上で、26キロ近くも重い。

シリモンコンは24年超に及んだ山あり谷ありのプロボクサー生活を勝利で締めくくることができるのか。

リングにかける男たち

失格、棄権続いた計量問題 重い腰上げルール改正

再計量で1.3キロオーバーとなるネリ(2018年2月28日撮影)


スポーツ界が揺れている。プロボクシングでは一連の計量騒動があった。3月の山中とネリの直接再戦は世間でも大きく問題視された。国内が怒りで沸騰したが、約1カ月後には落胆が渦巻いた。比嘉が世界戦で日本人で初めて王座剥奪。前戦で日本タイ15連続KOで故郷に錦も、試合はタオル投入でのTKO負けで日本新記録もフイになった。

日本タイトル戦なども失格や棄権が続き、業界も重い腰を上げた。日本ボクシングコミッション(JBC)の現行ルールは「契約書に規定した違約金の支払い、その他の制裁を科す」というもの。通常は厳重注意、階級変更勧告程度にとどまっていた。ネリ、比嘉の場合は倫理委員会で日本で活動停止、ライセンス無期限停止処分などを下した。新ルールが以下のように決まり、9月1日から適用される。

◆試合出場の可否

(1)体重超過が契約体重の3%以上の場合 JBCルールに基づく2時間の猶予は与えない。よって計量失格となり試合出場は不可(試合は中止)

(2)3%未満の場合 ルールに基づき2時間の猶予が与えられる

2時間の猶予後も体重超過の場合

<1>計量失格とし、試合出場は不可(試合中止)

<2>試合中止をしない場合は、試合当日に再計量を義務付ける。再計量時の体重が契約体重を8%以上超過した場合、試合出場は不可(試合中止)

◆ペナルティー及び処分

(1)上記の(1)及び(2)の<1>に基づき試合中止する場合 ファイトマネー相当額を制裁金として、1年間ライセンス停止、次戦以降は1階級以上の階級への転向を義務付け、体重超過ボクサーのマネジャーを戒告

(2)上記の(2)の<2>に基づき試合中止をしない場合

ファイトマネーの20%を制裁金として、6カ月ライセンス停止、マネジャーを厳重注意

3%の線引きは経験とデータから「落ちないし、落とさせるのも危ない」と決められた。バンタム級の3%は1・6キロのため、2・3キロオーバーのネリは今後即試合中止となる。減量は大半が本人任せも再犯も多く、ジムの管理体制の甘さを指摘する声も強い。最近は計量に現れずに棄権のケースが増えた。

アマの日本ボクシング連盟では山根会長体制が大問題となった。他競技も不祥事などが相次ぎ、ガバナンスやコンプライアンスが問題になった。日本は独自のジム制度が基盤だが、時代遅れした部分もある。減量以外でもファイトマネー、移籍などの課題があり、JBCと日本プロボクシング協会が協議している。

1年前は男子の日本の世界王者が12人いたが、ここにきて5人に減った。ボクサー人口も減っている。今回のルール改正は世界でも画期的なものと言える。旧態依然とした体制、体質の改善への積極的取り組みも望まれる。

【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

前日計量で900グラムオーバーとなった比嘉はその後の再計量を断念(2018年4月14日撮影)

大相撲裏話

金足農OB豪風「私立倒す、これ以上の快感ない」

母校・金足農高の化粧まわしを締めて土俵入りした豪風(2018年8月19日撮影)


記念すべき第100回夏の甲子園は、大阪桐蔭の史上初となる2度目の春夏連覇で幕を閉じた。今年も数々の名勝負が生まれたが、特に公立の星と言われた金足農(秋田)の活躍には、多くの大相撲ファンもくぎ付けになったのではないか。と同時に「あの人も金足農だよね」と思った方も多いはず。そうです。ベテランの十両豪風(39=尾車)の母校です。

金足農が準決勝進出を果たした翌日の19日、札幌市で行われた夏巡業で報道陣から囲まれた豪風は、目を輝かせながら母校への思いを爆発させた。

「今まで眠っていた感情、細胞が後輩たちに覚まさせてもらった。長くやっていると忘れていくものがあるけど、それを覚まさせてもらった。ベスト8になるだけでもすごいことなのに。言い方は悪いけど、地方の公立校が強化選手を集めた私立の高校を倒す、これ以上の快感はないですよね。秋田には秋田商とか大曲工とかあるけど、金足農というのがもうね」

話し出すと止まらなかった。他にも近江戦でのサヨナラ2ランスクイズや、エース吉田輝星について熱弁したり。最後には「球児は何食べてるんでしょうね。やっぱりニンニクとかビタミンB1たっぷりの豚肉とか食べてもらいたいね。お米もあきたこまちを食べてね」と、もはやOBというよりは親目線だった。

それもそのはず。長男海知君は現在10歳で「自分の息子より6、7歳上ぐらいだから子どものような感覚だよね。何度も涙が流れそうになったから、人前では試合を見られなかった」とこっそり見ていたとか。さらに「途中からは最初の整列だけで泣けてました」と涙なしでは見られなかったという。

優勝こそ逃したが、後輩たちの勇姿は豪風の心を動かした。「北海道にいた時にベスト8、準々決勝進出とかがあって、決勝の日の秋田巡業も盛り上がっていたけど、関東でもかなり盛り上がっていたのにびっくりした。会場でも『金足農業』って言ってくれるファンが多かった」と感動。だからこそ「次は自分の番ですよ」とモチベーションが高まった。

名古屋場所では東十両筆頭の位置で4勝11敗。秋場所(9月9日、東京・両国国技館)では、十両中位から下位が濃厚だ。大きく負け越してしまえば最悪、幕下への陥落もあり得る状況。ただ悲愴(ひそう)感は当然ない。「とてつもない力になりましたから。これも何かの縁だなと。ここで先輩の背中、意地を見せないといけない。見せてやりますよ」と鼻息を荒くした。狙うはもちろん、後輩たちが果たせなかった“優勝”の二文字だ。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

6階級制覇パッキャオ争奪戦 王座獲得で価値再浮上


 6階級制覇の実績を持つWBA世界ウエルター級王者、マニー・パッキャオ(39=比)の今後の試合開催権を巡り、世界的なプロモーターたちがビジネス上の駆け引きを展開している。年内に1試合、来年に2試合したあと引退の意向と伝えられるパッキャオだが、はたしてシナリオどおりにいくのか。

 小さな体をエネルギッシュに動かしながら鋭く踏み込み、相手の懐に入ってサウスポーから左ストレート、右フック、アッパーなど多彩なパンチを放って大きな男をKO-そんな漫画のような戦いっぷりで人気を集めたパッキャオだが、12年以降の9戦に限ってみれば5勝4敗と不振気味だった。フロイド・メイウェザー(米)との世紀のメガファイトで判定負けを喫したのは仕方ないとしても、昨年7月には世界的には無名だったジェフ・ホーン(30=豪)にも判定で敗れるなど、衰えは隠せない状況といえた。

 こうしたなかパッキャオはホーン戦後、10年以上も良好な関係を続けてきたトップランク社といったん距離を置き、16年間も師事してきた名匠、フレディ・ローチ・トレーナーとのコンビも解消した。あとは自然にフェードアウトしていくはず-ファンの多くがそうだったように、関係者も同じように見ていたはずだ。

 しかし、パッキャオは先月15日、新チームで臨んだルーカス・マティセ(35=亜)戦で3度のダウンを奪って7回TKO勝ち、WBA世界ウエルター級王座を獲得してみせた。09年以来、14試合ぶりのKO(TKO)勝ちで、十分に老雄健在をアピールする内容だった。パッキャオは12月で40歳になるが、王座を獲得したことで商品価値は再浮上。これをプロモーターたちが見逃すはずがない。

 獲得に動いたのは3社。潤沢な資金を持つ英国のマッチルーム・ボクシングは、英国を中心に活動する元世界王者のアミール・カーン(31=英)との対戦をパッキャオに提示。一方、トップランク社は86歳のボブ・アラム・プロモーターがフィリピンまで飛んで直接交渉した。こちらは同社が契約しているスター選手、WBA世界ライト級王者のワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)、ホーンを一蹴してWBO世界ウエルター級王座についたテレンス・クロフォード(30=米)との対戦をほのめかしている。

 さらに、3年前にパッキャオと対戦したこともあるメイウェザーも、かつてのライバル獲得に乗り出している。「メイウェザー・プロモーションズ」の代表でもあるメイウェザーは、近い関係にあるライト級のWBC&IBF王者、ミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)とパッキャオとの対戦を計画している。

 アラム・プロモーターによれば、パッキャオの次戦は12月2日が有力だという。はたして再浮上した6階級制覇王者がどのプロモーターと組んで誰と戦うのか。リングの中だけでなく場外でのパッキャオ争奪戦にも注目したい。

リングにかける男たち

新日本&ROH共催とWWE祭典、大会日接近に注目

ハングマン・ペイジ(左)にドロップキックを決めるオカダ・カズチカ(2018年7月19日撮影)


 新日本プロレスが7月13日、来年4月6日(現地時間)に米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG=約2万人収容)大会を米団体ROHと共催すると発表した。MSGは、プロレス界ではWWEがほぼ独占的に大会を開催してきた格闘技の殿堂。何より日にちと会場を知って頭によぎったのはWWE最大の祭典レッスルマニアに「近すぎないか」ということだった。

 19年のレッスルマニア35大会は4月7日(現地時間)に米ニュージャージー州のメットライフ・スタジアム(約8万人収容)で開催することが発表済み。NFLで親しまれる同スタジアムはニューヨークのマンハッタンから電車で30分程度で到着するほど近い。レッスルマニア週には同じ開催地域で裏レッスルマニアと呼ばれるイベント「レッスルコン」が開かれ、世界中からファンやマスコミが集結するのが恒例だ。今年も同34大会が開催されたニュージャージー州でROHや英団体RPWなどがレッスルコン枠で大会を行った。

 特にROHはレッスルマニア前日に「スーパーカード・オブ・オナー」というPPV大会を開いた。新日本との共催となった来年の大会名は「G1スーパーカード」に変更し、ライオンマーク色が強く打ち出された。米メディアによると共催大会の発表前にWWE側から一時、横やりが入ったとの情報もあった。

 一方のWWEはレッスルマニアの2日前にWWE殿堂入り式典、前日に傘下となるNXTの大会を開催し、ビッグイベントの機運を盛り上げる。ちなみに来年のNXTの前日大会は米ブルックリンのバークレイズセンターで行われる。MSGとはブルッリン橋のかかるイーストリバーを挟んで近い。新日本とROH共催大会はモロかぶりと言える。

 新日本の海外戦略はパワーアップを続けている。海外への動画配信とともに選手たち自身も積極的に海外進出する。最近でも、今月17日にはオカダ・カズチカがメキシコシティーでアレナメヒコ金曜定期大会に出場。同じ日には石井智宏も英団体RPWのロンドン大会に参戦してウォルターを下し、RPW英国ヘビー級王座の挑戦権を得ている。

 欧米を中心に認知度アップし、ファンを増やすことには地道な努力と時間が必要だ。難しい作業だが、数年かけ、新日本は着実に土台作りしている印象が強い。18年は米国内で計4大会を開催。そして9月1日には新日本のユニット「バレットクラブ」に所属するCodyとヤングバックス(マット&ニックのジャクソン兄弟)が主催する1万人興行「オールイン」大会(米シカゴ)にもオカダら新日本勢が多く参戦する。来年の新日本&ROHとWWEの大会接近は、来春の大きなインパクトになるだろう。19年4月6、7日。海外ファンの動向が楽しみでならない。【藤中栄二】

大相撲裏話

軽い体重も理想求めた石浦、秋場所の取り組みに期待

石浦


 腰痛で巡業を休んでいた関脇逸ノ城が復帰した。名古屋場所に10キロ増の体重230キロで臨んだことで、腰が悲鳴を上げたとか。「220キロまでにしないと…」と話しているらしい。そりゃあ、身長が193センチあるとはいえ、230キロはなあ…。重さは強力な武器とはいえ、やり過ぎは考えものですわな。

 重い人にも悩みはある。しかし、角界の場合、軽い人の悩みはもっと深い。名古屋場所千秋楽の7月22日、石浦がこぼしていた。

 「場所前は悪くなかった。地に足が着いてるし、柔軟性もあった。でも、場所が始まると力感がない、立ち合いとかの感覚も1歩ずれているというか、遅くて。いろいろ工夫したけど、うまくいきませんでした」

 東前頭15枚目。千秋楽を白星で締め、何とか7勝8敗にまとめたが、表情がさえない。本当の悩みはもっと深いところにあった。

 「僕の目標は“押して、押して”なんだけど、今の取り口はそれとかけ離れてしまっている。勝っても、変化によるところが多くて…。今年に入って、ずっとそう。情けないですよ」

 173センチ、116キロ。新入幕の16年九州場所で10勝5敗とブレークし、生きのいい小兵力士として注目を集めた。最高位は昨年春場所の東前頭12枚目。同年九州場所で十両に陥落したが、1場所で幕内に返り咲いた。巨大化が進む角界にあって、サイズを考えれば、健闘している。ところが、本人はまるで納得していない。

 昔から、理想の力士がいる。元関脇鷲羽山。70年代から80年代にかけ「ちびっ子ギャング」の異名をとり、土俵を沸かせた。多彩な技を駆使したが、人気を集めた最大の要因は“小兵なのに正攻法”な取り口にあったとされる。石浦は、そこに敬意と憧れを持つ。

 「やっぱり鷲羽山さんのような相撲がとりたい。うちの父(鳥取城北高相撲部総監督・石浦外喜義氏)には“あの相撲は(幕内力士の)平均体重が140キロの時代だからできたんだ”と言われます。でも、今の時代にそれができたら…と思うんです」

 鷲羽山の現役時175センチ、112キロのサイズは、確かに石浦に近い。近いが、時代が、状況が悪い。

 「自分の好きな相撲を、人に言われて曲げたらダメ。理想を求めたい。もう1回、考え直さないといけないと思っています」

 夏巡業もそろそろ終わり、9月8日から秋場所が始まる。石浦が悩んだ末にどんな準備をして、どんな相撲をとるのか。楽しみに待ちたい。【加藤裕一】

原功「BOX!」

井岡ら米国で日本選手の試合続々 旋風巻き起こすか


 去る7月28日に米国フロリダ州キシミーでWBO世界スーパーフェザー級王座を獲得した伊藤雅雪(27=伴流)に続けとばかり、8月から9月にかけて元世界3階級制覇王者の井岡一翔(29=SANKYO)ら、日本のトップ選手が相次いで米国のリングに上がる。旋風を巻き起こすことができるのか、注目と期待を集めている。

 先陣を切るのはWBAスーパーウエルター級14位の亀海喜寛(35=帝拳 33戦27勝24KO4敗2分)だ。8月17日(日本時間18日)、カリフォルニア州インディオで22戦19勝(12KO)2敗1分のグレグ・ベンデティ(28=米国)と対戦する。亀海は昨年8月に世界的なビッグネーム、ミゲール・コット(プエルトリコ)とのWBO王座決定戦で12回判定負けを喫しており、これが1年ぶりの再起戦となる。過去に9度も米国のリングに上がっており経験は十分。豪快なKO勝ちが期待される。

 25日(日本時間26日)にはアリゾナ州グレンデールでWBOスーパーバンタム級6位の大竹秀典(37=金子 36戦31勝14KO2敗3分)が、同級王者アイザック・ドグボエ(23=ガーナ)に挑む。大竹は14年11月に英国でWBA王座に挑んで12回判定負けを喫したが、以後は9連勝(5KO)と復調している。ただ、王者のドグボエは12年ロンドンオリンピック(五輪)出場の経験を持つうえ、プロでも19戦全勝(13KO)と勢いがあるだけに、大竹にとっては厳しい戦いが予想される。

 9月8日(日本時間9日)には井岡(23戦22勝13KO1敗)がカリフォルニア州イングルウッドのリングに上がる。相手はスーパーフライ級でWBCとWBOで3位にランクされるマクウィリアムス・アローヨ(32=プエルトリコ)。昨年4月のWBAフライ級王座5度目の防衛戦で勝利を収めたのを最後に引退していた井岡にとっては、これが1年5カ月ぶりの実戦となる。父親のジムを離れ、米国のプロモーターと契約を交わすなど環境を一新、4階級制覇を目指して復帰戦に臨む。相手のアローヨは2度の世界挑戦には失敗しているものの20戦17勝(14KO)3敗の戦績を残している実力者。楽観視できない相手といえる。

 9月14日、カリフォルニア州フレズノで行われるWBCスーパーライト級タイトルマッチ、ホセ・カルロス・ラミレス(25=米国)対アントニオ・オロスコ(30=米国/メキシコ)の前座には、同級WBA4位、WBC9位、IBF5位、WBO3位にランクされる岡田博喜(28=角海老宝石)が出場する。岡田は先ごろ、WBAミドル級王者の村田諒太(32=帝拳)も提携している米国のトップランク社とプロモート契約を締結。これが本場のリング初登場となる。35戦27勝(11KO)6敗2分のクリスチャン・ラファエル・コリア(35=アルゼンチン)を相手に、自慢の強打を披露することができるか。存在感を示せば世界挑戦が具体化する可能性もあるだけに、内容も問われることになりそうだ。

 日本勢の活躍に期待したい。

リングにかける男たち

棚橋弘至、苦境語らずとも想起させる絶妙な言語感覚


G1を制し祝福のテープを浴びる棚橋(2018年8月12日撮影)

 「今まで、苦しんだ分……」。

 棚橋弘至、G1クライマックス28を3年ぶり3度目の制覇で飾った直後。バックステージでの2問目だった。「今のお気持ちは?」。定番の質問に、ゆっくりと息を整え、気持ちを吐き出し続ける…、かに思えたが、すぐに訂正した。

 「苦しんでない! 苦しんでない!」。

 そう、それが棚橋弘至。「楽しんで、喜んでやってきたけど、結果が出なかった分、今日はいつもより、倍うれしいです」。思わず出た本音に照れ笑いなのか、勝利の喜びなのか、止めどなく噴き出る汗をぬぐう顔には笑顔が広がっていた。

 「疲れない、落ち込まない、あきらめない。それが逸材三原則ですから」。100年に1人の逸材は、この2年あまり、IWGPヘビー級のベルト戦線から離れ、故障の連鎖に苦しむ中でも、そのスタンスを崩さなかった。苦労話を探る報道陣との“攻防戦”は度々だっただろう。記者もその1人だ。スポーツに付き物の逆境をはねのける物語を求め、数々の質問を浴びてきたはずだ。ただ、逸材はぶれなかった。G1優勝後のバックステージでもそうだった。「苦しんでないと言われましたが、気持ち的には追い込まれたりは?」の問いかけにも、「はい……、ないです! ないです!」と切り返した。

 苦境に雄弁である必要はない。この日のバックステージの棚橋を見て思った。苦しかったかと聞かれ、思わず透けてしまう本音、それを必至に打ち消すまでの間。その絶妙な言語感覚で十分だ。苦境はあった。ただ「逸材三原則」はぶれない。だから、少し、ほんのわずかのぞいたその本音をきっかけに、想像力を働かせれば十分。そしてその想像を喚起させるところが、棚橋の類いまれな魅力ではないか。

 優勝で来年1月4日の東京ドーム大会メイン、IWGPヘビー級選手権の挑戦権利証を手にした。18年の下半期は、その言語感覚を発揮してくれる場が多々あるだろう。耳を傾けたい。【阿部健吾】

G1を制し優勝旗を手にポーズを決める棚橋(2018年8月12日撮影)

大相撲裏話

新たな活力 地方巡業で復活した民泊にほっこり

長野・下諏訪町で行われた巡業は、テントを張った屋外で行われた。手前はファンに気さくにサインに応じる安美錦


 今月6日に長野県下諏訪町で行われた夏巡業に際し、前日5日に鶴竜、白鵬の2横綱をはじめ、多くの力士が「民泊」を行った。長野県の諏訪湖周辺の一般家庭に、基本的には関取と付け人の2人1組ずつ、鶴竜は総勢8人、白鵬は4人で同じ家に泊まった。親方衆や巡業に参加している力士の多くは、ホテルでの宿泊だったが、約20軒にもわたる家庭に一斉に力士が宿泊。一風変わった日となった。

 民泊はかつて、地方巡業で多くあったというが、近年はまったく行われていなかった。7月の名古屋場所では、長野県出身力士として初優勝した関脇御嶽海の活躍で、近年、相撲熱の高まっていた地域ということもあり、快く迎えられたという。民泊初体験の前頭大栄翔は「泊まった家の子どもたちと、夜はババ抜きとか、トランプをして一緒に遊びました。楽しい思い出になりました」と、うれしそうに話した。きっと、交流を持った家庭、特に一緒にトランプをした子どもたちは、ずっと大栄翔を応援するだろう。他のプロスポーツにはない、相撲ならでは交流は、ファンの裾野を広げることにもつながる。

 鶴竜は、一般家庭ではないが、約160年前から残っている、古い屋敷に宿泊した。8人という最も大所帯で宿泊したこともあって「ものすごい食べると思われていたみたいで、食べきれない量の食事が用意されてビックリした」(鶴竜)。コイなど、普段は目にすることもなかった食材もあり、印象に残ったという。食後は、ご飯を用意してくれた地域の人たちと、諏訪湖で毎日上がる花火4万発を、一緒に見て楽しんだ。「庭に250年前の松の木があって歴史を感じた。いい経験になった」と、民泊初体験を振り返っていた。

 下諏訪町での巡業は、これも現在では少なくなっている屋外で行われた。当日は気温37度ほどまで上がる猛暑。もともと避暑地で、多くの家庭にはクーラーがなく、鶴竜の宿泊先にもなかった。前頭魁聖は「自分だけ、その家で唯一、クーラーがある部屋に泊まらせてもらった。ありがたいですね」と、家主の心遣いに感謝した。

 今回の民泊を受け入れた各家庭も、準備に余念がなかった。ボリューム満点の夕食や朝食、さらにはトイレの便座を補強する家庭が多かったという。一般家庭の便座は、200キロ超の魁聖をはじめ、150キロ超が当たり前の力士が座ることを想定してつくられたものではない。重さに耐えられず、便座が割れてしまうのだ。この日のためだけに便座を取り換えるなど、数々のおもてなしに、民泊した力士はこぞって感謝の思いを口にする。前頭勢は「地方のおじいちゃん、おばあちゃんとか、普段お相撲さんを目にすることのない方は、こっちが歩いているだけで拝んでありがたがってくれる。こんな職業ないですよ。ありがたがってくださる方々のためにも、僕らも頑張らないといけない」と話す。地方巡業、さらには民泊という相撲ならではの交流は、ファンのためだけではなく、力士にとっても新たな活力を生む場となっている。【高田文太】

原功「BOX!」

前WBA王者マティセ引退、7月パッキャオにTKO負け


 先月15日にマレーシアの首都クアラルンプールで元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(39=比)に7回TKO負け、WBA世界ウエルター級王座を失ったルーカス・マティセ(35=亜)が現役引退を表明した。80パーセントのKO率を誇り、2010年代の中量級を湧かせた南米の豪腕は「グローブを壁に吊るし、次のステップを踏むときがきた」とコメントしている。

 マティセは世界的な強豪が集まるスーパー・ライト級(暫定王座)、ウエルター級の2階級で世界王者になったが、必ずしも主役というわけではなかった。同じ時代にパッキャオやフロイド・メイウェザー(米)、ダニー・ガルシア(30=米)といったビッグネームがいたからだ。もともとアルゼンチンのローカル・ファイターだったマティセは10年ごろからアメリカに呼ばれるようになり、元王者たちとのテストマッチを5試合も組まれた。そのうちの3試合でKO(TKO)勝ちを収め、地元判定の声が多かった2試合でもダウンを奪って存在感を示した。

 12年9月、30歳になる直前にWBCスーパー・ライト級暫定王者になったが、そのときの戦績は35戦32勝(30KO)2敗1無効試合というものだった。KO率は約86パーセントだった。ノンタイトル戦では同じ階級のIBF王者を3度倒して3回TKOで下した。このころ(13年5月)が全盛期だったようだ。じわじわと圧力をかけながら前に出て距離を潰し、射程が合うとハンマーのような硬質感のある左右のフック、ストレートなどを繰り出して相手をキャンバスに沈めてしまう。ニックネームは「マキナ(機械)」。精密機械ではなく、前にあるものを押しのけてしまう重機を思わせる戦いぶりだった。

 ただ、強豪との連戦で疲労とダメージが蓄積したのか、3年前にはWBA世界スーパー・ライト級王座決定戦で10回KO負けを喫してしまう。目を傷めたこともあり、いったんはリングから遠ざかった。昨年5月、ウエルター級に上げて再起を果たし、今年1月にはWBO世界ウエルター級王座を獲得、2階級制覇を成し遂げた。先月のパッキャオ戦は主役の座を射止めるチャンスだったが、6階級制覇の実績を持つサウスポーのスピードについていけず、3度のダウンを喫して7回で力尽きた。14年のプロキャリアで残した戦績は45戦39勝(36KO)5敗1無効試合。常にエキサイトティングな試合を提供して多くのファンを持っていたマティセは、引退に際し「自分の人生を変えてくれたボクシングに感謝している。私は夢を達成することができた。10年間もトップで戦い続けることができたことを誇りに思う」と綴っている。

 アルゼンチンはときどき怪物的な強さを持った世界的な選手を輩出するが、近い将来、「第2のマティセ」が登場してくることを期待したい。

リングにかける男たち

武骨さ貫く石井智宏、42歳王者の勇姿がぜひ見たい


 佳境を迎えた新日本のG1クライマックス。シングルのリーグ戦はやはり楽しくて、通常のタイトルマッチにない番狂わせがしばしば起こる。8月4日の大阪大会でもあった。輝いたのは石井智宏だ。

新日本プロレスG1クライマックス出場者記者会見 入場時、ポーズをする石井智宏=2018年7月13日

 日本人男性の平均身長とほぼ同じ170センチで、体重100キロ。短めの手足で、スタイルはお世辞にも「いい」とは言えない。その体の上に丸刈り頭、無精(?)ひげのごつめの顔がのっている。見た目は明らかにオカダ・カズチカ、棚橋弘至、内藤哲也ら華やかな一群とは違う。典型的なバイプレーヤータイプだ。

オメガ(左)にラリアートを決める石井(撮影・垰建太)(2018年8月4日)

 しかし、強い。その日はBブロック公式戦で、相手はIWGPヘビー級王者ケニー・オメガ。王者の躍動感あふれる、多種多様な技を、体全体で受け止め、跳ね返した。要所で見せる頭突き(あえてヘッドバットとは言わんでおきましょう)や、パワー系の技で試合にアクセントを加え、垂直落下式ブレーンバスターでとどめを刺した。

右が石井智宏、左は長州力、中央はニコラス・ペタス(2005年9月7日)

 天龍源一郎、長州力の薫陶を受けてきたことが手に取るようにわかる、ゴツゴツしたファイトスタイル。見ていて、とても痛い。かつて山崎一夫や藤田和之が絶賛したのが、よくわかる。鈴木みのるとは少し違うけど「説得力」という点では、多士済々の新日本でも出色だと思う。

 ファンが彼の力を百も承知なことは、オメガ戦での歓声、拍手で手に取るようにわかった。「番狂わせ」と言うには失礼で、IWGPヘビー級王者の全勝街道に立ちふさがったレスラーが「石井でよかった」という空気感が、場内には確かにあった。

 「あいつ、今が一番楽しいだろうな。すべて思い通りで。でもな、世の中そんなに甘くねえんだよ。山あり谷ありで、必ず障害があるんだよ。おめえ(オメガ)にとっては、それが俺だ。今だけじゃねえぞ。これからもだ」。オメガ戦後、それだけを言い残して、インタビューエリアを後にした。俺にもっと仕事をさせろ、と言わんばかりに。

 42歳。今のパフォーマンスをどれだけ維持できるのか。だから、早いとこもうひと花咲かせてほしい。近いうちに、IWGPへの挑戦はないかな。10年10月から11年2月まで、第55代王者として君臨した小島聡以来となる40代王者の勇姿がぜひ見たい。【加藤裕一】

大相撲裏話

未成年の同行不可となった巡業は本来修行の格好の場

柏巡業の土俵下で準備運動する栃ノ心


 酷暑の中、大相撲の夏巡業が行われている。相撲人気復活を示すように、今巡業は7月29日の岐阜・大垣市を皮切りに、8月26日の東京・KITTE場所まで29日間で26カ所を巡行するハードスケジュールだ。

 中部、近畿から北信越、関東をへて東北、北海道、再び関東に戻り秋場所番付発表(8月27日)まで続く全国行脚。力士も大変だが、30年近く前に担当だったころも、空前の相撲ブームに沸き、今以上の過密日程だった。当時、現役だった親方衆に聞いても「我々の頃の方が、きつかったよ」と振り返る。

 その巡業は、若い衆にとっても絶好の修行の場となる。関取衆の付け人であるのは、通常の部屋にいる時と同じ。だが、巡業となると負荷のかかり具合が違ってくる。日々、巡業地を転々とするため、あの数十キロはある関取衆の明け荷を担ぎ運ばねばならない。今はまだ、大型トラックに運び込むだけでいいが、昔は鈍行列車での移動はざら。腰を折り曲げながら、延々と歩きながら担ぐ姿は痛々しいほどだった。

 また、巡業に出なければ、わずかでも持てる自分の時間なども、移動や関取衆が就寝するまでの雑用で一切ない。若い衆の仕事、といってしまえばそれまでだが、見ている側からすると、気の毒にさえ思える。

 ただ一方で、あれこそが約700人いる力士の中から選ばれし70人の関取になるための、これ以上ない発奮材料になるとも思う。「早く、こんな苦しい生活から抜け出したいと、何度思ったことか。巡業から帰るたびに、何とか脱出したい、苦しい思いをするのは稽古だけでいいとね」。以前に担当していた時、晴れて関取になった、ある親方の回想だ。時代遅れの言葉かもしれないが、若い衆にとって巡業は、ハングリー精神を養う場でもあった。

 今、行われている夏巡業から、力士や裏方ら未成年の協会員の同行が見送られることになった。ある関係者はその理由を「未成年者は未熟で飲酒や喫煙に手を出しかねない。でも巡業では親方衆の目が行き届かないことも多いので、部屋で責任を持って指導するのが好ましいということ」と説明している。昨冬の九州巡業では力士の夜の動向を、相撲取材以外の媒体が宿舎で“潜入チェック”するなど、格好のえじきになりかねない。リスク管理という側面から今回の決定に至ったのだろう。

 だがそれは、本来の巡業の意義を否定するものだ。繰り返すが、若い衆には修行の格好の場でもある。少子化の時代に、力士数の減少は致し方なく、物理的に付け人不足にもなる。また近い将来的にも、10代の関取が誕生することもある。角界にとっては喜ばしいことだが、それでも「10代不参加」となるのだろうか。今回の決定が、暫定的なものであってほしいと願う。常識的な行動をとっていさえすれば、年齢制限など不要なのだから。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

何が起こったのか 11人→6人に減少した日本の世界王者


 先週はフィリピン勢の躍進について書いたが、それと反比例するかのように日本からの世界王座流出が目立つ。2018年がスタートしたときには日本のジム所属選手として11人の世界王者がいたが、7月30日の時点で6人にまで減少してしまったのだ。この7カ月の間に何が起こったのか。

 昨年12月30日、31日に日本人選手の出場する世界戦が合計5試合行われ、WBAライトフライ級王者の田口良一がIBF王者との統一戦に12回判定勝ちを収めるなど、5人の王者が揃って防衛を果たした。そのため日本のボクシング界は、以下のように11人の世界王者を擁して新年を迎えた。

◆ミニマム級 IBF王者=京口紘人(ワタナベ) WBO王者=山中竜也(真正)

◆ライトフライ級 WBA&IBF王者=田口良一(ワタナベ) WBC王者=拳四朗(BMB)

◆フライ級 WBC王者=比嘉大吾(白井・具志堅) WBO=木村翔(青木)

◆スーパーフライ級 WBO王者=井上尚弥(大橋)

◆スーパーバンタム級 IBF王者=岩佐亮佑(セレス)

◆スーパーフェザー級 IBF王者=尾川堅一(帝拳)

◆ライト級 WBA王者=ホルヘ・リナレス(帝拳)

◆ミドル級 WBA王者=村田諒太(帝拳)

 このうち、尾川は昨年12月の戴冠試合前のドーピング検査で陽性反応を示したとして2月に王座獲得自体を取り消され、比嘉は4月のV3戦を前に規定体重をつくれず失格。この時点で王座を剥奪され、コンディションが整わないまま臨んだ試合では9回TKO負けを喫した。ふたりともリングの外で世界王座を失ったわけで、ドーピング違反、計量で失格という日本初の事例となってしまった。

 リナレス、田口、山中の3人はいずれも防衛戦で敗れて王座を手放した。3階級制覇王者のリナレスは5月12日、アメリカでワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と激闘を展開したが、ボディブローを浴びて10回TKO負けを喫した。その8日後、田口は元ミニマム級王者のヘッキー・ブドラー(南ア)に敗れ、3年以上君臨したトップの座から陥落。そして山中は7月にフィリピン選手に完敗を喫した。

 また、井上は3月にWBOスーパーフライ級王座を返上して上のクラスに転向。5月にはWBAバンタム級王座を獲得して3階級制覇を成し遂げた。無冠の時期は2カ月半と短かった。同じく京口はライトフライ級への転向のため7月に王座を返上している。

 こうしたなか拳四朗、木村、村田は防衛戦で勝利を収めて王座をキープ。井上と、8月16日に2度目の防衛戦を控えている岩佐、さらに7月28日に米国でWBOスーパーフェザー級王座を獲得したばかりの伊藤雅雪(27=伴流)を加えた6人が、現在の日本のジム所属の世界王者ということになる。

 今後、この数字が再び増えていくのか、それとも減るのか。まずは16日の岩佐のV2戦に注目したい。

リングにかける男たち

陰で新日支えたマサ斎藤さん、みんなに愛されていた

リングの形をしているマサ斎藤さんの祭壇


 巌流島の戦いで有名な元プロレスラーのマサ斎藤さん(享年75)が亡くなった。米国で活躍し、新日本プロレスでは、巌流島でアントニオ猪木と名勝負を演じ、引退後は渉外担当として、ドーム興行などビッグマッチを陰で支えた。東京・青山の梅窓院で営まれた葬儀は、故人の人柄もあり多くの参列者も集まったすばらしい式だった。

 ドン荒川さんが昨年亡くなったときに取材した、新日本の元執行役員、上井文彦氏の言葉を思い出した。「プロレスラーは静かに死んじゃいけないんです」。白い花でリングをあしらった祭壇に、倫子夫人が選んだ遺影。それを囲むように、赤い花は、巌流島のかがり火を再現したとか。闘志あふれる遺影に、斎藤さんの代名詞「GO FOR BROKE(当たってくだけろ)」の文字版。その祭壇の中で、斎藤さんが今も戦っているような雰囲気があった。

 会場となった梅窓院は、倫子夫人が選んだ。青山通りを1本入ったところにある、静かで品のある寺院。斎藤さんが生前「青山通りは昔、戦車が走ったことがるんだ」と話したことを覚えていた倫子さんが、通りからたまたま見かけた梅窓院を選んだと話してくれた。もともと親族だけでという通夜、告別式だったが、訃報を聞き付け、かつての仲間や世話になった人たちが数多く足を運んだ。

 かつてリング上で、長州力の顔面を蹴って、新日本を解雇された前田日明氏と、長州の2人が、そろって出棺の際に棺を抱えていた。前田氏は「試合のあとマサさんにちょっとあやまったら、『あやまることないよ。元気があるのはいいことだよ』と言われた」と思い出を語った。長州は「この年までやってきて、あそこまでにはなれないね」と故人の偉大さをたたえた。

 米国時代のマサさんの思い出を弔辞で切々と語ったザ・グレート・カブキの米良さん。マサさんにビジネスのイロハを教わったという蝶野正洋。明大時代にレスリング部と柔道部で切磋琢磨(せっさたくま)したという新日本の坂口征二相談役は「同じ体育会で仲が良くて、おとこ気のあるやつだった。オレが社長で、マサが渉外部長で一緒に頑張ったんだよ」と寂しそうに話していた。

 マサさんはみんなに愛されていた。パーキンソン病で早すぎた死であったが、参列した人々の言葉と、倫子夫人の姿を見て、マサ斎藤さんの人生はとてもすばらしいものだったと教えられた。【バトル担当=桝田朗】

大相撲裏話

貴公俊が再出発の1歩 謹慎中は部屋全体が後押し

土俵の上で体を動かす貴公俊(2018年6月25日撮影)


 名古屋場所の新番付発表が行われた6月25日。これまで三重・桑名市に構えていた宿舎を今年から愛知・瀬戸市に移転した先の稽古場で、貴公俊(21=貴乃花)は黙々と四股を踏んでいた。稽古の最後には十両貴ノ岩と一緒に、体幹を鍛えるトレーニングで汗を流して終了。稽古見学者が連れてきた犬と屈託のない笑顔で触れ合い、帰り際に3カ月間の葛藤を吐露した。

 「たった1場所の休みでしたけど、半年ぐらい休んだ感覚でした。自分がやってしまったことなので何とも言えませんが、歯がゆいというかやり切れない気持ちでした」。新十両で臨んだ3月の春場所。不慣れな付け人の不注意により起こったミスに怒り、支度部屋で暴行。途中休場を余儀なくされ、5月の夏場所出場停止処分を科された。

 春場所では十両だった番付も、名古屋場所では西幕下49枚目まで落とした。3月は156キロあった体重も一時は「食欲がなくなって6キロ落ちました」。ただ、稽古は欠かさなかった。春場所後も出場停止となった夏場所中も、1日も休まずに稽古に励んだ。そして夏場所中は、毎日相撲中継に見入った。「部屋の関取の取組は当然。幕内上位も見てましたし、十両の取組も見てました。でも見すぎると…」。自分が土俵の上に立っていない現実に、気持ちが押しつぶされそうになったが「力士である以上、土俵に立つのが当たり前だけど、土俵に立てるありがたみが分かりました」と前向きにとらえた。

 それでも気持ちを奮い立たせるのは、容易ではなかった。夏場所に出場できないのに続く、連日の猛稽古。「正直、意味あるのかなって思った時もありました」と見失いかけた時もあったという。そんな時、師匠の貴乃花親方(元横綱)から「時間があるようでないから体をしっかり鍛えとけ」と、ハッパを掛けられた。

 さらに弟の十両貴源治が夏場所で10勝の好成績を残し「弟が結構勝ってて『くそっ』と思った」と発奮材料にした。と同時に「もう1度一緒に土俵入りがしたいなと思いました」と希望が湧いた。師匠や弟、貴乃花部屋全体が背中を押してくれた。

 そして迎えた7月の名古屋場所。場所前に「名古屋は入門して1回も負け越していないので験がいい場所です。優勝はノルマ。応援してくださった人たちのために結果を出したい」と意気込んでいた通り、謹慎明けの場所で白星を積み重ねていった。気が付けば幕下の全勝は白鷹山との2人だけに。幕下優勝をかけた13日目、十両返り咲きに花を添えたい白鷹山との意地のぶつかり合いの末、復活優勝を果たすことはできなかった。

 取組後は無言を貫き、貴ノ岩の付け人として仕事を全うした。自分の取組後の数時間後。貴ノ岩の取組が終わり、宿舎に戻るために迎えの車に乗り込もうとした際に、ようやく言葉を発した。「今は考えられないです。頭がボーっとしてしまって」と完全燃焼。それでもすぐに切り替えられたのか「来場所に向けてこの気持ちは忘れないようにしたいです」と語気を強めた。過ちを犯した春場所8日目の3月18日から、124日経過した名古屋場所13日目の7月20日。貴公俊はようやく再出発の1歩を踏み出した。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

木村翔、フィリピン月間4人目世界王者誕生に待ったかけるか


 WBO世界フライ級王者の木村翔(29=青木)が27日、中国山東省の青島で同級3位のフローイラン・サルダール(29=比)を相手に2度目の防衛戦に臨む。日本側からみれば「木村の海外防衛なるか」という視点が中心になるが、フィリピン側からみれば「月間4人目の世界王者誕生」という期待がかかった試合となる。

 木村は昨年7月に中国の上海で五輪連覇の実績を持つ中国のヒーロー、ゾウ・シミンを11回TKOで破って現在の王座を獲得した。今回、再び中国で勝てば、戴冠も防衛も海外という日本では珍しい記録となる。過去には亀田和毅(現協栄)がフィリピンで王座を獲得し、米国で2度の防衛を記録した事例があるだけだ。

 一方、フィリピン側からみると、すでに今月だけで3人の世界王者が誕生しており、サルダールが勝てば「4人目」ということになる。先陣を切ったのはサルダールの1歳半下の弟、ビック・サルダール(27)だ。13日、神戸で山中竜也(23=真正)の持つWBO世界ミニマム級王座に挑み、ダウンを奪って12回判定勝ちを収めた。

 その2日後の15日、マレーシアの首都クアラルンプールでは一気にふたりのフィリピン人世界王者が誕生した。まずはセミファイナルに出場したジャック・テポラ(25)がエディバルド・オルテガ(28=メキシコ)に9回TKO勝ちを収め、WBA世界フェザー級暫定王座を獲得。1時間後、メインとして6階級制覇の実績を持つ世界的なスター選手、マニー・パッキャオ(39)が登場した。フィリピンの上院議員でもあるパッキャオはWBA世界ウェルター級王者のルーカス・マティセ(35=亜)に挑戦し、3度のダウンを奪って7回TKO勝ちを収めた。39歳のサウスポーはウェルター級だけで4度目の戴冠を果たしたことになる。

 この結果、IBF世界スーパーフライ級王者のジェルウィン・アンカハス(26)、WBA世界バンタム級暫定王者のレイマート・ガバロ(21)を加え、これでフィリピンは5人の世界王者を擁することになった。27日にサルダール兄が木村を破るようなことがあると、フィリピンのボクシング界は7月中旬以降の2週間で4人の新王者誕生ということになる。世界王者の数も6人となり、日本(木村が敗れると5人)を抜く。この先、9月にはフィリピン人同士のWBO世界スーパーフライ級王座決定戦が決まっており、王座返上や剥奪といったハプニングがなければ6人あるいは7人王者時代が到来することになる。

 フィリピン勢の躍進はまだまだ続くのか、それとも木村が待ったをかけるのか。27日、中国山東省の青島で行われるWBO世界フライ級タイトルマッチに要注目だ。

リングにかける男たち

昨年新人王の森武蔵ストイックな昔ながらのボクサー

スーパーフェザー級新人王に輝いた森武蔵。右は薬師寺保栄会長(2017年12月23日撮影)


 昨年1度取材しただけだが、ちょっと気になる若手ボクサーがいる。スーパーフェザー級で全日本新人王となり、敢闘賞も獲得した薬師寺ジムの森武蔵。まだ18歳。15日にジムの地元愛知の刈谷市で、プロ7戦目に臨んだ。

 相手のバレスピンはフィリピン同級王者で、東洋太平洋でも6位につける難敵だった。接戦となったが2-0の判定勝ち。森を勝者としたジャッジはいずれも1ポイント差と際どい白星も、これで7戦全勝(5KO)となった。

 取材したのは新人王の時だが、計量にただ一人スーツ姿で現れた。プロ3戦目の新人王西軍代表決定戦からスーツで計量がお決まり。「海外のスターはビシッと決めている。身だしなみはきちんとしたい」と話す。元世界王者の薬師寺会長にも「スーツで着てください」とお願いしたほどだ。

 小さいころからは空手をやっていた。キックボクシングも考えていたが、小3で「世界王者になる」と決意し、地元熊本・菊池にあるボクシングジムに通い始めた。決意のほどは食事に表れていた。おやつは甘い菓子ではなく、いりこや骨せんべい。中学までは鶏肉しか食べなかったという。

 その成果は11、14年のU15全国大会で優勝で示した。15年3月の中学卒業翌日には単身で名古屋に向かい、知人に紹介された薬師寺ジムに入門した。いくつか見学した中で「世界王者になるにはここだと思った」という。

 中2の時に危機があった。ロードワーク中に交通事故に遭ってヒザを痛めた。選手生命にも影響しかねない重傷だったが、森らしい自慢の逸話がある。事故は後ろからひき逃げされたものだった。森は痛みにも車のナンバーを見逃さず、逮捕につながったという。動体視力に根性もある?

 最近は高校や大学でアマの実績を作り、プロ入りするボクサーが多くなってきた。森もアマ経験者ではあるが、中卒で一獲千金を狙う昔のボクサーに通じるたたき上げと言える。

 プロ入り後に牛肉を食べて「こんなうまいものがある」と思ったそうだ。一方で不摂生を理由にラーメンを食べるのはやめた。まだ10代でこんな禁欲生活で、ストイックなボクサーはあまり聞かない。将来は「地元熊本で世界戦」という夢を持っている。【河合香】