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リングにかける男たち

比嘉が初防衛、愛弟子の認知度に具志堅氏「!!!」

報道陣の質問に答える具志堅用高会長(左)の横で爆笑する比嘉大吾(2017年10月23日撮影)


 「だって、誰がチャンピオンか分からないでしょ!!!」

 最近、かなり良いなと思った言葉だ。

 具志堅用高氏、その不滅が近年あらためて意識される世界戦13度防衛の日本記録保持者で、方々のバラエティー番組を中心に意表を突いたパンチならぬ言動と距離感の詰め方、なにより昔は虫が死んでいたこともあったと聞くトレードマークのアフロヘアは、そのボリュームを多少少なくしてもいまだに象徴的で、おそらく日本人が最も知っている日本人ボクサーかもしれない。

 その人が文字通り大きな声を上げたので、「!!!」と感嘆符を3度も重ねてしまったが、おそらくその場に居合わせた人なら、テレビ番組で見せる姿とは一線を画す大まじめな正論に、この3度「!」も納得してくれるのではないか。10月23日、都内のホテルの一室で、前夜にWBC世界フライ級の初防衛に成功した比嘉大吾、同じ沖縄県生まれ、白井・具志堅スポーツジムの愛弟子が喜びの一夜明け会見を行った時だった。

 思い返せば、この会見、具志堅会長はなにやら鬱憤(うっぷん)があるようだった。比嘉が試合の前日計量をクリアした後の目を離した隙に、最初の食事でみそ汁を流し込んでしまって、体重を戻すために肝心の炭水化物や肉などがスムーズに胃に入らずに試合前の発汗に支障をきたしたことを「聞いたことがないよ!」と叱責(しっせき)し、「赤だしっていうのは塩辛くて飲めたもんじゃないねえ」と笑いが起こる救いのジャブで和ましながらも、「次は変えないといけない」と口ひげをへの字に曲げる姿もあった。察するにその厳しい眼光は、比嘉自身に足りないもの、そして比嘉を取り巻く環境に足りないものを痛感したからだったと思う。

 「どこも(比嘉の)1面がないねえ」。そうスポーツ紙の前日20日の試合の報じ方に落胆の色を隠さなかった。前夜のトリプル世界戦のメインカードはWBA世界ミドル級タイトルマッチで、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太がアッサン・エンダムへのリベンジに成功し、ついに世界ベルトをつかんだ一戦。比嘉はセミファイナルで、1面は村田一色になるのは当然と思われたが、具志堅会長の「1面~」口調に一切の冗談のトーンはなかった。いたって大まじめだった。それ以降に発した言葉。「大吾より(自分の愛犬の)グスマンの方がまだ有名だよ」「昔は90日で試合をしたもんだよ。半年も間が空いたら忘れられてちゃう」。一貫していたのは知名度への敏感さ。「1面」もしかり。14戦連続KO勝利で初防衛戦まで飾った22歳の愛弟子の世間的な認知度はいかほど。疑問符が付きまくっていたのだ。そして、いよいよ、その矛先が比嘉にとどまらない現状に打ち込まれたのが、冒頭の言葉だった。

 「だって、誰がチャンピオンか分からないでしょ!!!」

 あらためて、良い。つまり「いまは4団体もあるでしょ。どんな階級にどんなチャンピオンがいるかファンもわからないよ」なのだ。具志堅会長が現役時はWBAとWBCの2つ。いまはIBFとWBOも日本ボクシングコミッション(JBC)から認定されている。フライ級ではWBAが井岡一翔、WBCが比嘉、IBFがニエテス、WBOが木村翔。4団体中3王者が日本人。最軽量級のミニマム級からフライ級まで合計12人の王者のうちで見ても8人を占める。これはもちろん実力の高さもあるが、世界的な選手層の薄さも1つの要因でもある。そして何より、王者が多すぎることは、具志堅会長の鋭い指摘通り、「誰がチャンピオンか分からない」状況を生んでいることも事実だ。試合前から、WBA王者の井岡一翔の名前を挙げてターゲットと明言することにちゅうちょはなかった。これはパフォーマンスではなく、具志堅会長なりの危機感の現れだったのだと思う。愛弟子にとってはリスクがある相手だし、統一戦の盛り上がりに比例して失うものだって大きい。しかし、王者は知名度あってこそ。それは30年以上前に日本を熱狂の渦に巻き込み、いまも抜群の知名度を誇るボクサーの体感だろうし、誇りでもあると見えた。抜群にすてきだ。

 いまボクシングファン以外の人に日本人の現役世界王者の名前を聞いたら、11人のうち何人まで答えが出るか、考える。きっと多くないだろう。それは4団体認定の実情だろうし、どうしても情報量は拡散されるのだから、致し方ない。ではその中でチャンピオンたちはどうすればいいのか。当然、勝ち続けることが大前提。それも忘れられないペースで。そして、他の日本人の「ライバル」たちを倒していくことが一番ではなかろうか。

 「高校の伝統は?」と聞かれ、「ナショナルです」と電灯のメーカーを答える具志堅会長は最高だと思う。ただ、ボクシングについて急所を一言で打ち抜くような発言も最高だ。次戦に沖縄凱旋(がいせん)試合もぶち上げたのも、いかに注目されるかを熟考するからだろう。予期しない変化球とド直球。その振り幅の大きさを目の当たりにしながら、比嘉がどう誰もが知る「チャンピオン」になっていくのか。また「!!!」と書きたくなるような言葉が飛び出したら伝えていきたいし、待っています。【阿部健吾】

リングにかける男たち

村田は伝説の大場政夫に近づけるか!同じ日に王者に

村田諒太(左)と伝説のボクサー大場政夫


 まさにくしくもだった。日本の金メダリストで初の世界王者になった村田諒太。2度目の世界戦のゴング直前に、あるジムのマネジャーから言われた。そのひと言で「村田が勝つだろう」と思った。

 会場は両国国技館。老朽化と東京五輪を控え、世界戦を開催するような会場は建て替えと改修が相次いでいる。村田の試合は8月に発表された。世界戦はランキング、マッチメークの交渉、中継テレビ局の事情などで決まる。このため、事前に会場予約がなかなかできない。帝拳ジムの本田会長によると「今回はたまたま空いていた」そうだ。

 47年前の1970年(昭45)10月22日。会場は現在の両国国技館から徒歩5分ほどにあった旧国技館の日大講堂。あの大場政夫が世界初挑戦し、WBAフライ級王者ベルクレック・チャルバンチャ(タイ)を13回KOで倒した。帝拳ジムにとって、初めての世界王者誕生だった。

 大場は5度目の防衛に成功した直後、23歳の若さで亡くなった。永遠のチャンピオンとも呼ばれる、今や伝説のボクサーだ。マネジャーのひと言は「きょうは大場がチャンピオンになった日」。村田は同じ日に世界王者になり、しかも場所も同じ両国だった。ジムにとって記念日とは運があると言えた。

 プロボクシングの試合はリーグ戦やトーナメントは原則ない。まずは勝っていくことで地域の王座を踏み台に、世界ランキングに入り、ランクを上げていくことで世界挑戦のチャンスが出てくる。

 その間に王者も入れ替わる。これがまた微妙でかみ合うか、かみ合わないか。右か、左か。ボクサーか、ファイターか。ボクサーも当然、得手不得手がある。何より強い王者か、弱い王者か。巡り合わせであり、運、不運がある。村田の世界戦前に日本人初のミドル級世界王者竹原氏も「運は必要」と強調していた。

 90年代は辰吉、鬼塚、川島ら個性的な世界王者が数多く盛り上がった。この時代の帝拳ジムの期待は、横浜高で国体優勝し、甘いマスクの葛西だった。3度世界挑戦も王座をつかめず、トレーナーとなって村田を指導した時期もあった。「金メダルにプロでも頂点に立ったんだから、村田は運を持っている。ボクは実力がなかったが、運もなかった」と言っていた。

 大場から半世紀近くをへて、村田は帝拳ジムの日本人の世界王者として10人目となった。大橋ジムの大橋会長は「井上と村田がいれば、日本ボクシング界は当分安泰だ」と喜んだ。村田が今後どんな戦いを挑んでいき、伝説のボクサーになれるか。見守りながら楽しみたい。【河合香】

大相撲裏話

初めて地方に両国の土


 九州場所の土が、今場所から変わった。地方場所ではそれぞれの地域で取れる土を使用しているのだが、これまで数多くの力士から滑るという指摘が多くあった。それを受けて日本相撲協会が動き、東京・両国国技館の土俵の盛り土に使用している「荒木田」が地方場所で初めて使われることになった。

 「荒木田」は粘りがあり、速乾性もあることから盛り土に適し、現在は埼玉県内で取れるものを使用。場所前にはトラック5台で約60トンが運ばれて、土俵が作られた。

 では、力士らの反応はいかに。38歳ベテランの平幕の豪風は「明らかに違う。踏んだ瞬間に分かりましたよ。今までより確実に良い」と好感触。一方、足を滑らせるような内容が目立つ新小結阿武咲は「変わらないです」と言うも、他の力士の取組を見て「滑るねぇ」とつぶやいた。

 誰も土を言い訳にしたくない。しかし、力士は足の指で「土俵の砂をかむ」といわれるほど、土とは切っても切り離せない関係にあるが、稀勢の里は「弱い人が言ってるだけ」と一刀両断。土に惑わされずにいつもと変わらない、白熱した取組に期待したい。【佐々木隆史】

大相撲裏話

史上4位、合計「77歳6カ月」の対決

豪風をはたき込みで破った安美錦(撮影・岡本肇)


 39歳1カ月15日の安美錦と38歳4カ月27日の豪風。関取最年長と2番目の2人が昨年春以来1年半ぶりに幕内の土俵で相まみえた。計77歳6カ月は昭和以降4番目の幕内高齢対決だった。

 豪風は意識していた。過去15勝16敗の安美錦に勝ち逃げは許さないと、ずっと対戦を願い続けていて「すごくワクワクしていた」。

 安美錦はうれしがった。「オレが上がるのを待っていると聞いていた。だから、今日はしっかり当たった」。変化など巧みな技を持つ2人が、小細工なしに立ち合った。結果は長幼の序。年長者がはたき込んだ。

 ここ7場所、幕内最年長の称号は豪風が持っていた。返してもらった安美錦は「向こうも一生懸命、頑張っている。互いに高め合って、いい刺激になればいい。何回でもやってやる。こんなオレを励みにしてもらえればうれしいよ」。豪風は「今まではこわごわと行っていた。負けたけど、怖がらずに立ち向かえた。すごくうれしかった。またすぐにやりたい」と言った。

 亀の甲より年の功-。世代交代の言葉が北風のように迫ろうと、はねのける熱意がある。【今村健人】

大相撲裏話

振分親方本当はサインしたいけど…

振分親方(17年3月20日撮影)


 角界の人気者、振分親方(41=元小結高見盛)が、もどかしい思いで日々を過ごしている。日馬富士の暴行が発覚し、土俵外が注目される。そんな中、取組中に2階席の通路脇で館内警備を担当している振分親方は、業務中もファンからサインや写真撮影を求められる。だが「全部断っています。1人に応じてしまうと人が殺到し、混乱を招いてしまうので。でも、こんな時だからこそ、本当は全部丁寧に応じたい」と、いつもの笑顔を封印して話した。

 野球賭博や八百長問題などの不祥事が相次ぎ、空席が目立っていた時期を知っている。だからこそ同親方は、警備の合間に「現役の時は下から見上げてましたが、こうして上から見るのも面白いですよ。会場の盛り上がりを感じる」と、満員の客席を見渡しながら感慨深い表情で話した。

 一時の低迷から人気を回復した角界は、今回の暴行で再び厳しい目を向けられている。振分親方は、警備中に握手を求められると「すみません、通行の妨げになるので、それはできません」と、むしろ握手よりも距離を縮め、目の前で手を合わせて謝る。自分の形になると抜群に強かった現役時代同様、不器用な性格だけに警備に一生懸命向き合う。とまどいながらも、いつもと変わらない対応に努めている。【高田文太】

大相撲裏話

照ノ富士も…03年以来の年間のべ30人以上休場

松鳳山(右)を突き落としで破り3勝目を挙げた稀勢の里(撮影・岡本肇)


 関脇照ノ富士が休場した。4日目に琴奨菊に寄り切られ「力が入ってないな。しょうがないっす」と話していた。今場所10勝すれば、大関に復帰できたが、4連敗では…。幕内の休場者は今場所6人目、今年の総数で延べ30人となった。03年の同31人以来の多さで、平成以降で年間30人を超えたのは、02年の39人を含めて3年しかない。

 当時は世代交代が一気に進んだ。横綱貴乃花が01年名古屋場所から7場所連続で全休、02年九州場所も全休、03年初場所途中に引退した。横綱武蔵丸、大関の栃東、千代大海、魁皇らも休場が目立った。一方で、大関朝青龍が02年九州場所で初優勝、03年初場所で連続優勝して横綱昇進を決め、時代をたぐり寄せた。

 休場者が多いから世代交代が進む理屈はない。しかし、今場所の横綱、大関は白鵬が5戦全勝を守っているが、鶴竜が4場所連続で、日馬富士も3日目から肘の負傷で休場。3場所連続休場明けの稀勢の里はこの日、松鳳山に土俵際で逆転の突き落としを決め、ヒヤヒヤながら3勝2敗で白星を先行させた。「今日の(白星)はだいぶでかいんじゃないかと思います」。御嶽海、阿武咲、貴景勝…。新星の勢いを感じながら、横綱、大関の苦闘が続いている。【加藤裕一】

大相撲裏話

600回連続出場錦木、休まない秘訣

錦木


 平幕の錦木が九州場所4日目に通算連続出場600回を記録した。06年春場所で初土俵を踏んでから、1度も休場することなく到達。今場所の幕内力士では、1035回の玉鷲、810回の勢に続く記録となった。

 本土俵に立ち続ける錦木は、稽古土俵にも立ち続けている。連日バス移動する巡業中は朝稽古の量を調整する力士もいるが、錦木は休むことなく真っ先に土俵に上がる。関取衆らによる申し合い稽古のため番数は限られるが、タフさは人一倍際だっている。

 なぜこんなにタフなのか。「無理をしない」。もうひとつは「ストレス発散を見つけること。お酒ですかね」とニヤリ。巡業中は1人でもふらりと、地元の居酒屋に入って地元のお酒を飲むほどの酒好きだ。場所中も晩酌を1日たりとも欠かすことはなく「稽古頑張ったら、取組が終わったら飲むぞ、という感じ」。体と心にゆとりを持つことが、錦木流のタフさの秘策だ。

 4横綱時代だが、1度も皆勤がない。一方、今場所の幕内力士43人中13人が、それぞれ初土俵から休場なしで走っている。いずれも三役以下の力士だ。元気のない上位陣を尻目に、平幕力士が土俵上を走り回る。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

ヘビー級王座統一戦ジョシュアvsワイルダーが来年実現か?


 ヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が統一戦に向け、いよいよ下交渉を開始した。20戦全KO勝ちのジョシュア対39戦全勝(38KO)のワイルダー。2018年の最注目カードになりそうだ。

 ジョシュアは12年ロンドン五輪スーパーヘビー級で金メダルを獲得後、13年10月にプロデビュー。期待どおりに成長し、昨年4月に16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)にも11回TKO勝ちを収めた。左ジャブで切り込み、破壊的な右ストレートで仕留める正統派の強打者だ。相手が接近してきた場合は右アッパーもある。クリチコ戦に続き先月28日のV4戦でも10回TKO勝ちを収め、不安視されたスタミナにも問題がないことを証明した。

 一方、WBC王者のワイルダーは08年北京五輪ヘビー級銅メダリストで、同年11月にプロデビュー。ヘビー級にしては細身だったため体づくりに時間がかかったものの、持ち前のパワーでKOの山を築いていった。その数はデビューから32試合連続となった。

 33戦目は判定勝ちに留まったが、代わりにWBC王座を手に入れた。以後、6連続KO防衛を果たしている。4日のV6戦は、過去唯一の判定決着となった前王者との再戦だったが、179秒の間に右ストレートなどで3度のダウンを奪ってKO勝ちを収めている。

 体格を比較してみると、ジョシュアが身長198センチ、リーチ208センチ、直近の試合の体重は約115キロ。ワイルダーは身長201センチ、リーチ211センチ、直近の試合の体重は約101キロで、全体的なボリューム感ではジョシュアが勝る。また、ジョシュアはクリチコ戦ではダウンを喫したものの立ち直って逆転しており、大きく経験値を上げている。攻撃偏重のワイルダーよりも総合的な評価では上回っており、そのため現時点のオッズは5対2でジョシュア有利と出ている。

 驚異的なKO率を誇るヘビー級世界王者同士による英米決戦に向け、先週、陣営のトップ同士がニューヨークで会食し、下交渉を開始した。ジョシュア陣営が他の選手との対戦をチラつかせるなど、まだまだジャブを飛ばしている段階といえるが、最も大きなビジネスになる試合が両王者の直接対決であることは両陣営とも分かっているはず。今後、駆け引きをしながら対戦の時期や開催地、報酬額、その分配などが話し合われることになるものと思われる。「2月か3月に計画している次戦でワイルダーと戦うことはないと思う」とジョシュア陣営が話していることから、来春にそれぞれが防衛戦を挟み、統一戦は夏から秋にかけて現実的なものになりそうな気配だ。ヘビー級頂上決戦が待ち遠しい。

大相撲裏話

記録保持者の常幸龍が炎鵬止めた


 東幕下14枚目常幸龍(29=木瀬)が、西幕下14枚目炎鵬を止めた。炎鵬は序ノ口デビューから21連勝中で、169センチの体で番付を駆け上がってきた白鵬の内弟子。力で圧倒し、押しつぶすように土俵に沈めた。「記録保持者としては、負けられません」。会心の笑みに先駆者の意地が漂った。

 前相撲を含む初土俵からの連勝記録は板井の「29」だが、序ノ口デビューからの連勝記録「27」は常幸龍が持つ。だから「自分で止めてやろう」と思った。「ちっちゃかった。ああいうタイプはいないから、いろいろ研究しようと思ったけど(炎鵬が)負ける相撲(の映像)がなくて」と苦笑いした。

 学生横綱の肩書を手に、日大から角界入り。11年名古屋場所から連勝記録を作り、14年秋場所には小結。15年初場所で日馬富士から金星奪取。ところが、16年6月に右膝手術を受け、同年九州場所で三段目まで落ちた。

 今は復活途上にある。「下半身に重点を置いて稽古をしたら、自分でも驚くほど体重が増えたんです。でも、それで動けますからね」。体重は1年前から18キロ増の170キロになった。「まわしが短くなった。新しいのを…」。望むのは当然、関取の証しの白まわし。先輩が、後輩の壁になった。【加藤裕一】

大相撲裏話

39歳安美錦553日ぶり幕内○ ケガ乗り越えまだ進化

琴勇輝(左)を上投手げで破り再入幕を白星で飾った安美錦(撮影・岡本肇)


 業師安美錦の目に、光るものがあった。昨年夏場所初日以来553日ぶりに味わう、幕内力士としての勝ち名乗り。押し相撲の琴勇輝を押し込み、素早い反応からの鮮やかな左上手投げに「稽古場でもしたことない」とおどけて「やっとここに戻ってきたなという思いと、しっかりここで相撲を取るんだという気持ちで臨めた」と感慨に浸った。

 同場所2日目で左アキレス腱(けん)を断裂した際「引退危機」と騒がれた。「見る人が見たら、そう思う。でも、やめる選択肢はなかった。もう1回出てからだと」。周囲への反骨心と、支えてくれる絵莉夫人への恩返し。その思いだけでここまでたどり着いた。

 秋巡業中、そばに1冊の本があった。「老舗の流儀-虎屋とエルメス」(新潮社)。500年の虎屋と180年のエルメス、2つの老舗企業が長続きする秘密に迫っていた。「業種が違うように見えて似ている。相撲協会も『老舗』。変わって良いところ、変わらなきゃいけないところがある。参考になるかなって」。

 昭和以降、最年長39歳で再入幕を果たした安美錦もまた、1つの“老舗”。だが、幕内664勝目は「力でなく、体の動きだけで取れた」。まだ“進化”の途上。止まらない。それが安美錦の流儀。【今村健人】

リングにかける男たち

新日本プロレスらしい戦いが米国で支持された意味

後藤洋央紀にスリング・ブレイドを見舞う棚橋弘至(左)(2016年7月31日撮影)


 新日本プロレスの「バレットクラブ」ファンならば待望の対戦カードだっただろう。海の向こう、米国で元ボス対決が実現した。10月22日(日本時間23日)、WWEのロウブランドによるPPV大会「TLC」(米ミネソタ州)で急きょ組まれた。初代ボスで、この日はデーモンバージョンのフィン・ベイラー(プリンス・デヴィット)は当初、ブレイ・ワイアットとの対戦が決まっていた。ところがワイアットが体調不良のために欠場。代役として白羽の矢が立ったのが、同じWWEのスマックダウンを主戦場とする2代目ボスのAJスタイルズだった。

 WWEではあるものの、2人の対決は新日本マットのムードが漂っていた。ヘッドロックとグラウンドの攻防でスタート。ベイラーが回し蹴り、延髄斬り、ロメロスペシャルを繰り出せば、AJも負けじと逆水平チョップ、フライングフォーアームで応戦した。場外戦もスリリングな内容で、会場から悲鳴も上がった。いつものWWEとは違う雰囲気に包まれると、途中にはベイラーが棚橋弘至の必殺技スリングブレイド、AJも後藤洋央紀の必殺技となる牛殺しで反撃した。

 終盤もエルボーの打ち合い、ベイラーがリバースのブラディサンデーに成功。AJの雪崩式フランケンシュタイナーを耐え抜くと最後はクー・デ・クラ(ダイビングフットスタンプ)で18分15秒、3カウントを奪った。熱気に包まれた会場。リングの中心で両者は向き合い、ウルフパックを決めた手をくっつけた。以前、新日本マットで繰り返されてきたバレットクラブの決めポーズ「TOO SWEET」。観客の盛り上がりが最高潮に達した瞬間だった。

 ベイラーは13年5月、新日本プロレスで自らバレットクラブを結成した。約1年後となる14年4月に退団。そのベイラーと入れ替わるようにAJスタイルズが新日本マットに登場し、バレットクラブの加入を表明した。そのため、2人が日本で一緒にユニットを組むことはなかった。急きょ組まれたカードだったが、同PPV大会のベストマッチと米国内で評価されていた。WWE上層部がどのように見ていたかは分からないが「バレットクラブ魂」が詰まった新日本プロレスらしい両者の戦いが米国で支持された意味は大きいだろう。【藤中栄二】

大相撲裏話

無念休場の鶴竜からにじみ出た「復活」に懸ける思い

住吉神社で土俵入りを行った鶴竜(2017年11月2日撮影)


 横綱鶴竜(32=井筒)の九州場所(12日初日、福岡国際センター)休場が決まった。4場所連続の休場で、4横綱となって5場所目で、またも全員皆勤はならなかった。相撲ファンにとっては残念なニュースとなったが、何よりも鶴竜本人の無念の思いは想像に難くない。

 九州場所にかける思いの一端を、かいま見た場面があった。2日、福岡市の住吉神社で4横綱が土俵入りを披露した後だった。着替えて引き揚げ、車に乗り込む直前に声を掛けた。今場所から6年ぶりに相撲担当に戻ったことを報告すると「おおっ、復活したんだ」との第一声。その時、何ともいえない違和感を覚えたのは「復活」という言葉を選んだことだった。

 モンゴル出身とはいえ、稽古後には一般紙の政治や経済の記事を隅々まで熟読する姿を何度も見てきた。日本人以上にきれいな日本語を使う鶴竜を思い返すと、記者の担当替えは「復活」などという大それたものではなく「戻った」や、せいぜい「復帰」というもの。第一声の後にも、再度「復活」と使った。不意に口をついて出てきた言葉に「復活」にかける思いがにじみ出ていたように感じた。

 そもそも、どうやって角界入りすれば良いか分からず、15歳の時に相撲雑誌の編集部と相撲愛好会に計2通の手紙を送り、思いの丈を日本語で書き連ね、入門に至ったあこがれの世界。その中でも頂点の横綱にまで上り詰めながら、思うような相撲が取れない、ファンの期待を裏切っていることへの無念の思いは、容易に察することができる。

 前回の担当時代に私が最後に取材したのは、鶴竜が初の大関とりに挑んだ11年秋場所だった。その年に起きた東日本大震災の被災地を回った際には、横綱、大関を立てながらも、誰よりも積極的に子どもや高齢者とふれ合っていた姿は忘れられない。来年、満を持して「鶴竜復活」という見出しが躍る日が来ると、期待しているファンは少なくないはずだ。【高田文太】

原功「BOX!」

ロンドン五輪金メダリスト13人中7人が世界王者に


 先月22日、村田諒太(31=帝拳)が宿敵アッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)に7回終了TKO勝ちを収め、5カ月前の雪辱を果たすとともにWBA世界ミドル級王座を獲得した。村田は12年ロンドン五輪ミドル級金メダリストでもあるが、これで同大会の優勝者がプロに転向して世界一の座についたのは男女合わせて7人(男子5人、女子2人)となった。

 ロンドン五輪では男子が10階級、初の公式競技となった女子はフライ級、ライト級、ミドル級の3階級が実施された。合計13人の金メダリストが誕生したわけだが、このうち10人がプロに転向した。

 最も早い出世を果たしたのは08年北京大会でも金メダルを獲得しているワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ)で、デビューから8カ月後、3戦目でWBC世界フェザー級王座を獲得。さらに7戦目でWBO世界スーパーフェザー級王座を奪取し、いまや手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。10戦9勝(7KO)1敗。この敗北はデビュー2戦目の世界初挑戦試合で惜敗したものだ。

 これに続いたのがスーパーヘビー級金のアンソニー・ジョシュア(28=英)だ。こちらはプロデビューから2年半、16連続KO勝ちで最重量級のIBF王座を手にした(16年4月)。以後、元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を退けるなどヘビー級王座を4連続KO防衛中で、戦績を20戦全KO勝ちに伸ばしている。

 16年9月にはロンドン大会ヘビー級金のオレクサンデル・ウシク(30=ウクライナ)が、プロ10戦目でWBO世界クルーザー級王座を獲得した。すでに3度の防衛を果たしている(13戦全勝11KO)。

 その2カ月後、ゾウ・シミン(36=中国)がWBO世界フライ級王座を獲得して続いた。このゾウは04年アテネ大会銅のあと08年北京大会とロンドン大会を連覇した技巧派だが、プロ転向時には30歳を超えていた。今年7月、木村翔(28=青木)に11回TKO負けを喫して王座から陥落した。11戦9勝(2KO)2敗。そして先月、村田が男子「5人目」となったわけだ。プロ転向から4年、戦績は14戦13勝(10KO)1敗。

 女子はロンドン大会の金メダリスト3人、フライ級のニコラ・アダムス(35=英)、ライト級のケイティー・テイラー(31=アイルランド)、ミドル級のクラレッサ・シールズ(22=米)が揃って16年リオデジャネイロ大会にも出場。テイラーは初戦で惜敗したが、アダムスとシールズは連覇を果たした。3人のうち昨年11月にプロデビューしたシールズは、今年8月にWBCとIBFの女子世界スーパーミドル級王座を獲得している。4戦目(全勝2KO)での戴冠だった。2カ月後の10月、テイラーが7戦目(全勝4KO)でWBC女子世界ライト級王者になった。今年4月にはアダムスが34歳でプロ転向を果たしている。まだ2戦2勝(1KO)だが、来年には大きな勝負をかけそうだ。

 すでにシールズやテイラーのように16年リオデジャネイロ五輪組が結果を出し始めている。村田の今後はもちろんのこと、究極のエリートといえるオリンピアンたちの活躍に注目していきたい。

原功「BOX!」

ワイルダーV6なるか、因縁の相手スティバーンと再戦


 38戦全勝(37KO)という驚異的なレコードを誇るWBC世界ヘビー級王者、デオンタイ・ワイルダー(32=米)が4日(日本時間5日)、米国ニューヨークのバークレイズ・センターで現WBC1位にランクされる前王者、バーメイン・スティバーン(39=ハイチ/米)を相手に6度目の防衛戦に臨む。もともとワイルダーは元WBA暫定王者のルイス・オルティス(38=キューバ/米)と戦う予定だったが、オルティスのドーピング違反が発覚したため1カ月前になって対戦相手がスティバーンに変更された経緯がある。

 ワイルダーとスティバーンは15年1月、今回とは逆の立場で拳を交え、ワイルダーが大差の12回判定勝ちで戴冠を果たしている。

 この試合でワイルダーは念願の世界一の座を獲得したが、デビュー戦からの連続KO勝ちは32でストップした。その後、5度の防衛戦をすべて規定ラウンド内で片づけているワイルダーにとって、今回の再戦はKO勝ちがノルマともいえる。「数字だけでなく、あらゆる面で自分が世界でベストであることを証明したいんだ」と王者は意気込んでいる。揺るぎない自信があるとみえ「この試合で負けるようなことがあったら引退して別の道を探す」とまで言っている。

 これに対し前王者は「前回の試合時はコンディションが悪かっただけ」と、実力負けではないと弁明している。ただし、無冠に戻ってから行った10カ月後の再起戦で10回判定勝ちを収めただけで、以後はブランクが続いている。その再起戦では初回にダウンを喫しており、2年ぶりの実戦には不安がつきまとう。戦績は28戦25勝(21KO)2敗1分。ワイルダーほどではないがKO率は75パーセントと高い。

 身長201センチ、リーチ211センチのワイルダーに対しスティバーンは188センチ、196センチと体格でも劣るだけに、雪辱と返り咲きを果たすためには思い切った仕掛けが必要になりそうだ。もともとスティバーンも11月4日のアンダーカードに出場することになっていたため調整は問題なさそうだが、実戦の勘が鈍っているようだと惨敗というケースも考えられる。

 総合力に加え体格と勢いでも勝るワイルダーが速い左ジャブで煽り、パワフルな右ストレートに繋ぐことできれば前半KO防衛もありそうだ。スティバーンは被弾を最小限に抑えて前半を乗り切って勝負を長引かせたいところだが、王者が簡単にそれを許すとも思えない。20対1というオッズが出ているように王者の返り討ち、V6が濃厚な試合といえる。ただし、一発で戦況が急転するヘビー級だけに、ワイルダーも油断は禁物だ。

リングにかける男たち

強面も繊細な比嘉、優男も強心臓の拳四朗に興味津々

日刊スポーツを手にガッツポーズするWBC世界フライ級王者・比嘉大吾(左)と同ライトフライ級王者・拳四朗(2017年10月23日)


 WBC世界フライ級王者比嘉大吾(22=白井・具志堅)は強面(こわもて)だ。沖縄出身らしい濃いめの顔に、ゴワッと蓄えたあごひげ。WBC世界ライトフライ級王者拳四朗(25=BMB)は優男だ。京都出身らしいはんなり顔で、お肌つるつる。見た目対極にある2人の世界王者が22日のトリプル世界戦でそろって初防衛に成功した翌日、都内で並んで会見した。実は内面も対極というのが、意外で興味深かった。

 比嘉は試合前日の計量後から、体調がエライことになっていたらしい。

 「ご飯を食べに行って、先に白ご飯とみそ汁を出してもらって食べたんですが…」。試合当日。トイレに行くと…固形物は出ず、ほぼ液体ばかり。会場入りし、アップを始めても汗が全然出ない。「俺、どうなるんやろう」とすごく不安だったそうだ。会見では師匠の具志堅用高会長に「ご飯にみそ汁なんて、全然ダメ!」と冗談交じりにしかられていた。

 対して拳四朗は計量後、5万4000円の超豪華特製焼き肉弁当を“同名”の焼き肉店「けんしろう」のオーナーに差し入れてもらい、ガツガツ食べた。記者が52年生きてきて、1度も食べたことがないシャトーブリアンをほおばり「これ、ヤバッ! めっちゃ柔らかい」と大はしゃぎした。「だんだん緊張しなくなってきてるんです。初めての世界戦から前日、しっかり眠れるようになってるし」。試合当日はトイレも絶好調だった。

 ほんで、試合の結果はというと。比嘉は、過去21戦でダウン経験ゼロの同級5位トマ・マソンを暴風のような攻めに巻き込み、7回1分10秒TKOで仕留めた。デビューから14戦14KO勝ちで、パーフェクトレコードを伸ばした。もうバケモノや。拳四朗は同級1位ペドロ・ゲバラに判定勝ち。ジャッジ3者全員のポイントでリードを許した4回までの劣勢を逆転したのだから、それはそれでなかなかの根性やと思う。

 立ち話で、お互いの印象を聞いてみた。比嘉の拳四朗評。「拳四朗さんって、自分ができないリラックスを当たり前にできる。すごい。試合前日に映画見たり、買い物行ったりするんでしょ?」。拳四朗の比嘉評。「全部KOなんて本当にすごい。尊敬します」。

 強面やのに妙に繊細でコンディションを崩してもKOしてしまう海人。試合後のテレビカメラに顔を近づけて、投げキッスまでしてしまう癒やし系の京男。階級は1つ違い。いつか、ベルトかけて戦ってくれんかなあ。【加藤裕一】

大相撲裏話

やんちゃ照ノ富士かニュー照ノ富士か 注目九州場所

巡業に合流し、笑顔の照ノ富士


 1年納めの九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)が迫ってきた。秋場所は初日から3横綱が休場する異例の事態だっただけに、今度こそ4横綱がそろって皆勤するか、期待したいところ。やはり途中休場した宇良(木瀬)の復活や、三役昇進が濃厚な阿武咲(阿武松)の暴れっぷり、かど番で迎える大関高安(田子ノ浦)の復調など、相変わらず角界は話題に事欠かない。

 そんな注目力士の1人が照ノ富士(伊勢ケ浜)だ。かど番で迎えた秋場所は、左膝半月板損傷のため6日目から休場(1勝5敗9休)。九州場所は大関から陥落する。規定により10勝を挙げれば、1場所で大関に返り咲くだけに、その星取から目が離せない。

 この秋巡業は治療とリハビリを経て、19日の奈良・香芝市巡業から合流した。大事を取って、当初は回避するかと思われた割(取組)にも加わり、朝稽古も翌日から土俵に上がり、平幕の正代らと10番も取った。膝の状態を試しながらの、文字通り試運転の稽古だった。それでも、いきなり割に入ったことには「それぐらい誰だって出来るよ。出来るのに(他の力士は)やらないだけ」と、気丈な言葉を発し、大関から陥落することにも「別に。(ケガが)治れば(大関に)いつでも上がれる。番付が落ちることは何とも思っていないよ。自信がなければ相撲は取れない。(陥落する)下から向かっていく立場の方がやりやすい」と、あの持ち前の負けん気の強さをのぞかせていた。

 一方で、怖いもの知らずを感じさせた25歳に、慎重さも備わったことを感じることもある。気丈な言葉を口にした後で「ちょっと弱気になってるなぁ」と話したコメントからだ。「以前は(自分に)荒々しさがあったけど、それが今はないんだ。何でだろう。それ(膝)と気持ちやろな。怒ることも最近、ないんだ。何でもかんでも最近は楽しく感じる。これはアカン」。自戒を込めた口調だった。

 ケガをして大関という看板が外れ、いろいろ思うところもあるのだろう。体を生かした強引に相手を抱え込む相撲が膝のケガを誘発したという、親方衆の声もある。自分の相撲を見つめ直す機会であれば、それも良し。あくまでも横綱という頂点を見据える照ノ富士にとっては、大関陥落は一過性の屈辱にすぎず、いい経験になったと、後になれば思えるはずだ。あの奔放でヤンチャな照ノ富士が戻るのも楽しみだし、リニューアルされた姿も見てみたい。そんな期待の目で、九州場所の土俵を見ることにしよう。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

ヘビー級18年統一戦へ機運高まるなかジョシュアはタカムと対戦


 28日(日本時間29日)、英国カーディフでヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)が4度目の防衛戦を行う。その1週間後の11月4日(日本時間5日)にはWBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が米国ニューヨークで6度目の防衛戦を予定している。ともに10月に入って挑戦者が変更されるという慌ただしい試合だが、2試合とも王者の圧倒的有利が伝えられる。このままジョシュアとワイルダーが勝ち進めば2018年には統一戦という機運が盛り上がっているだけに2週連続の世界ヘビー級タイトルマッチに要注目だ。

 12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストのジョシュアは昨年4月、プロ転向から2年半、16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元3団体統一王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで退け、IBF王座3度目の防衛を果たすとともにWBAからスーパー王者に認定された。

 身長198センチ、リーチ208センチ、体重113キロ前後の恵まれた体格からスピードのあるワンツーで攻め込む正統派で、19戦全KO勝ちというレコードを誇る。クリチコ戦では5回にダウンを奪ったあと、6回には自身がダウンを喫するという窮地があったが、そこから這い上がって逆転した。依然として耐久力には疑問符がつくもののスタミナ面は問題ないことを証明している。

 今回、ジョシュアはIBFの指名挑戦者でもあるクブラト・プーレフ(36=ブルガリア)と戦う予定だったが、試合の2週間前になってプーレフが肩を負傷。そのため急遽、3位のカルロス・タカム(36=カメルーン/フランス)に相手が変更された。このタカムは04年アテネ五輪に出場(スーパーヘビー級1回戦敗退)した実績を持つ実力者で、プロでは39戦35勝(27KO)3敗1分の戦績を残している。世界ランキング入りしてから5年以上が経つが、王座に挑むのはこれが初めてとなる。身長187センチとヘビー級にしては大きくないが、プレッシャーをかけながら思い切りのいい左右のフックで飛び込む好戦型だけに危険な相手といえる。ジョシュアも「以前からタカムのことはチェックしていた。彼は強くて狡猾な面もあるので油断ならない」と気を引き締めている。

 体格やスピードなど総合的な戦力で勝るジョシュア有利は動かしがたいが、25対1のオッズほどに力量差があるとは思えない。王者の右ストレートが炸裂、中盤までのKO防衛が濃厚ではあるが、その一方でタカムのラフな攻撃に手を焼く可能性もある。

リングにかける男たち

秋山準25周年、社長で王者 背中で引っ張る気概

秋山準(2017年8月28日撮影)


 全日本プロレスの秋山準(48)と大森隆男(48)のプロレスデビュー25周年記念大会が21日、横浜文化体育館で行われた。1992年(平4)にデビューした2人は、現在、全日本の社長と取締役として団体の経営に携わる。

 記念すべき大会で、2人はタッグを組んで世界タッグ王座に挑戦した。対戦相手は、大日本プロレスの実力者関本大介、伊東竜二組。そのパワーと若さにたじたじとなりながら、秋山があえて胸を突き出し関本の逆水平チョップに耐える姿は印象的だった。最後はその秋山が、必殺エクスプロイダーで、関本を下し勝利。ベルトを巻いた。

 「やったというより、この年でベルトを巻くという責任感。まだまだ動かなきゃいけないなと思う」と秋山は大粒の汗を流しながら言った。故ジャイアント馬場さんの死後、分裂や選手の大量離脱、経営者の交代と混乱の続いた全日本だが、秋山が社長に就任してからは徐々に経営を立て直しつつある。このところ、1歩下がったような形でプロレスをしていた秋山だが、経営と同じようにプロレスでも若い年代に背中を見せて引っ張る気概を示した。

 試合の合間に行われた記念セレモニーでは、小橋健太さん、川田利明さんらが花束贈呈にリングに登場。同じく25周年を迎え、同じ日に千葉・東金で記念大会を行った永田裕志、中西学からのビデオメッセージが場内に流された。秋山と大森が、三沢、川田、小橋、田上の四天王を追いかけたように、永田と中西も第3世代として武藤、蝶野、橋本の闘魂三銃士に追いつけ追い越せと戦ってきた。

 かつて馬場さんからアドバイスをされても、自分を主張した秋山が、バックステージで中堅の選手に、強い口調でアドバイスをしていた。以前のインタビューで「今になって、馬場さんの言っていたことの意味が分かる。王道というのは、スタイルではなく、馬場さんが教えてくれた基本的なことで、我々が若い子たちに普通に教えていること」と話したことがある。秋山が25年の中で培ってきたものが、今の全日本プロレスの中に流れている。

 25周年記念大会の会場となった横浜文化体育館のロビーでは、5月にリング上の事故で頸髄(けいずい)損傷などで入院中の高山善広(51)を支援する募金活動が行われていた。高山もまた92年デビューで、今年が25周年だった。【プロレス担当=桝田朗】

大相撲裏話

白鵬の内弟子炎鵬、背中追い連勝&連続Vへ奮闘中

ぶつかり稽古で安美錦(右)に胸を借りる白鵬の内弟子の炎鵬


 大相撲九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)で楽しみな記録がある。初土俵からの連勝記録と、序ノ口からの連続優勝記録だ。この記録に挑むのは、九州場所で幕下昇進が確実な三段目炎鵬(23=宮城野)。横綱白鵬の内弟子として春場所で初土俵を踏み、序ノ口の夏場所、序二段の名古屋場所、三段目の秋場所で全勝優勝して、昭和以降7人目となる序ノ口からの3場所連続優勝を果たした。さらに、初土俵からの連勝を歴代5位となる「21」に伸ばした。

 初土俵からの連勝記録の1位は元小結板井の「29」だ。九州場所で全勝しても届かないが、まずは2位の佐久間山(現常幸龍)の「27」を追いかける。抜くのには全勝が条件。そうなれば優勝の可能性も大きい。序ノ口からの4場所連続優勝となれば昭和以降では、元横綱羽黒山以来2人目の快挙となる。

 169センチ、94キロと小兵ながらに快進撃を続ける一因には、やはり白鵬の存在があるからだ。「一番一番にかける思い、集中力がすごい。私生活も徹底しているから普段の力が出せていると思う」。白鵬の付け人を務めているからこそ、肌身で感じるものがあった。さらに秋場所中盤に休場していた白鵬から直接、部屋で声をかけられたという。「見てるぞ、って言われました。まさか見てくれてるとは思わなかった。一気に気持ちが引き締まりました」と気合が入っていた。そして、三段目優勝決定戦を制した千秋楽で「横綱からも『来場所はこんなものじゃないぞ』と言われました。今は休みたいけど、休んでる暇もない。明日からでも稽古をやりたい」と浮かれる気持ちを抑えて、先を見据えていた。

 角界入り後に入所した相撲教習所を秋場所後に卒業したため、白鵬の付け人として秋巡業に参加している。初めての巡業参加となった15日の金沢巡業で早速、幕下の申し合い稽古に入ると、幕下上位でしのぎを削る先輩力士らから強烈な張り手やかち上げで“歓迎”を受けた。手荒い歓迎ぶりに苦笑いを浮かべたが「重さは感じたけど、感覚はつかめた」と手応えを口にした。残り約3週間でさらに稽古を積んで、1年の納めの場所で有終を飾る。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

村田、エンダムに勝てば日本のジム今年9人目の新世界王者に


 12年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31=帝拳)が22日、東京・両国国技館でWBA世界ミドル級王者、アッサン・エンダム(33=カメルーン/フランス)に挑む。両者は5月に王座決定戦で拳を交え、4回にダウンを奪った村田が優勢を保ったまま戦い終えたように見えたが、エンダムが2対1の判定で勝利とベルトをもぎ取った。因縁の再戦ということになるが、村田が勝てば95年の竹原慎二(沖)以来22年ぶり、2人目の日本のジム所属の世界ミドル級王者が生まれることになる。それだけではない。村田が勝てば今年になって日本のジムから9人目の新世界王者誕生となるのである。大豊作の年に大輪を添えることができるか。

 日本のジムにとって、今年は過去最高の実り多い年といえる。

 2月に福原辰弥(28=本田フィットネス)がWBOのミニマム級王座を獲得したのに始まり、4月には久保隼(27=真正)がWBAスーパー・バンタム級王座についた。翌5月には比嘉大吾(22=白井・具志堅)がWBCフライ級、拳四朗(25=BMB)がWBCライト・フライ級でそれぞれ戴冠を果たした。7月になると京口紘人(23=ワタナベ)がプロ転向から1年3カ月、8戦目でIBFミニマム級王座に駆け上がった。その5日後、中国の上海で行われたWBOフライ級タイトルマッチでは、圧倒的不利とみられた木村翔(28=青木)が五輪連覇の実績を持つ中国のスター選手、ゾウ・シミン(36)に11回TKO勝ち。敵地で世界奪取を成し遂げた。

 これだけでは終わらない。8月には日本人対決で山中竜也(22=真正)が福原を破ってWBOミニマム級王座を獲得。そして9月、これまた日本人対決で岩佐亮佑(27=セレス)が小國以載(29=角海老宝石)を攻め落とし、6回TKO勝ちでIBFスーパー・バンタム級王座を奪い取った。

 上記のように、すでに今年は8人の新王者(返り咲きや2度目、3度目の戴冠などは除く)が誕生している。これは2011年の5人、2012年の4人を大きく上回る歴代最多である。従来のWBA、WBCに加え4年前にIBFとWBOに加盟したことが要因のひとつともいえるが、その初年度の13年は初めて世界王座を獲得したボクサーは2人に留まった。14年は3人、15年が2人、16年は1人だけだった。こうしてみると今年がいかに大豊作かが分かるだろう。しかも、22日に村田が挑戦するほか、28日(日本時間29日)には英国で元日本スーパー・フライ級王者の石田匠(25=井岡)がWBA王座に挑むことになっている。さらに11月4日(日本時間5日)には元日本ライト級王者の近藤明広(32=一力)が米国ニューヨークでIBFスーパー・ライト級王座決定戦に出場する。この3人が戴冠を果たすと、今年の世界王座獲得者は2桁に乗ることになる。年間表彰選手の選考も嬉しい悲鳴ということになりそうだ。一方で、日本のジム所属の世界王者は現時点でも11人おり、関係者やファンは名前と階級を覚えるのが一苦労という状態でもある。

 そんな状況下、まずは22日に村田が「22年ぶり」と「9人目」を成し遂げることができるかどうか注目したい。

リングにかける男たち

勅使河原弘晶、ボクサーきっかけ 少年院で読んだ本

勅使河原弘晶


 スポーツを始める動機にはいろいろある。親やきょうだいをマネしたり、誘われたり、強制されたり。ボクシングはテレビを見てという例が多い。

 昔ならファイティング原田、取材するようになってよく上がった名は辰吉丈一郎。91年に当時の国内最短となるプロ8戦目で世界王者になった時は、所属の大阪帝拳ジムだけでなく、全国のジムで入門者が激増した。

 あとは漫画を読んで始めたボクサーも多い。最近なら「はじめの一歩」、以前は「あしたのジョー」だった。1冊の本との出会いが、人生を変えたボクサーもいた。

 勅使河原弘晶(27)はWBOアジア・パシフィック・バンタム級のベルトをつかみ、29年目にして輪島ジム初の王者となった。「炎の世界チャンピオン」を読んで、ボクサーを目指すことを決めた。スーパーウエルター級で2度世界王者になり、88年にジムを開いた輪島功一会長(74)の自伝だ。

 会長は北海道で中学から漁師の仕事につき、25歳でプロデビューした苦労人で、炎の男と呼ばれていた。勅使河原は図書室でこの本を手に取り、読み終わった時に人生を方向転換させた。

 図書室があったのは少年院だった。物心がついた5、6歳の頃、父が再婚した。この義母にさまざまな虐待を受けた。地獄の4年を過ごして、ついに交番に駆け込んだという。

 母はいなくなったが、中学から自暴自棄になって非行に走り、16歳で少年院に入った。院内でも傷害事件を起こしたが、あの本を読んだ日には「世界王者になる」と日誌に書いた。

 その後は改心して模範囚となり、卒院するとお金をためて上京し、真っすぐにジムへと向かった。「本にあった会長の根性と努力に打たれた。根性は元々ある。あとは努力すれば王者になれると思った」と振り返った。

 6年目の初のタイトル挑戦でベルトを巻き、会長へ恩返しとなった。まだ通過点で、次は世界のベルトをプレゼントしたい。建設現場で働きながら、さらなる高みへの努力を続けるつもりだ。【河合香】

大相撲裏話

木崎の「技術は絶対に負けてない」の言葉に「へ~」

木崎(2017年9月16日)


 競技者がひんぱんに使う言葉がある。野球なら「1試合1試合を大事に…」。ゴルフなら「目の前の1打に集中して…」。相撲なら「今日の1番に集中して…」。ごもっとも。その通り。しかし、その競技者がプロなら、誰もが使う決まり文句でなく、自分なりの言葉を使ってほしい。そう思ったりもする。

 秋場所の千秋楽で、久々に「へ~」と思う言葉を聞いた。「技術は絶対に負けてない」-。若い力士。西幕下3枚目木崎(24=木瀬)だ。

 西十両13枚目矢後に負けた。3勝3敗で勝ち越しがかかる一番だった。矢後は中大出身の元アマチュア横綱で187センチ、172キロの大型。木崎も名門日大相撲部で主将を務めたキャリアを持つが、現在の注目度では1学年下の矢後に一歩譲る。番付も劣るし、サイズも176センチ、138キロと及ばない。アマチュアでの対戦は「多分3戦全敗」(木崎)、プロでも2戦2敗となった。それでも「技術は負けてない」と言う姿がたのもしかった。

 論理的、具体的に説明できるタイプだ。「課題は多いやろうけど、来場所に向けて、特にコレっちゅうのは?」という、抽象的で荒っぽい質問に「…う~ん、足りない部分が多すぎてわからないです」と前置きして、こう答えた。

 「来場所どうこうじゃないですけど、体重を増やさないとダメですよね。(入門時は115キロで)今は138キロですけど、場所中にどうしても落ちる。最終的に145キロまで、と思うけど、スピードが落ちたらダメです。小さいですからね。時間はかかると思うけど」。ずっと昔から自分を省みて、自己分析を重ねたのだろう。だから、負け惜しみと取られかねない状況で口にした強気な言葉にも納得してしまう。

 昨年夏場所のデビューから9場所目で初の負け越しだった。目前まで迫っていた関取の座は一歩遠のいたが、十両目前で足踏みした先輩力士は多い。「負け越しですか。家に帰ったら、じわっと来るんでしょうね」。木瀬部屋の先輩、宇良のように土俵を沸かせる日が、きっと来る。そんな期待を抱かせる言葉だった。【加藤裕一】

原功「BOX!」

3団体がSウエルター級選手権同時開催、なるか統一戦


 このところ各階級で王座統一戦が実現したり、あるいは同じ階級の王者たちが一堂に会して防衛戦を行ったりというイベントが目立つ。こうしたなか今度は154ポンド(約69.8キロ)を体重上限とするスーパーウエルター級の世界王者3人が14日(日本時間15日)、米国ニューヨークで揃って防衛戦を行う。経験値の高いベテランから22歳の新鋭まで、実力者や人気者が出場するとあって注目を集めている。

 この8月、スーパーライト級ではテレンス・クロフォード(30=米)がWBA、WBC、IBF、WBO主要4団体の王座を統一し、9月には井上尚弥(24=大橋)のV6戦を含むスーパーフライ級のダブル世界戦が開催された。このほかクルーザー級では賞金トーナメントに4人の王者が出場しており、来年の初夏には王座が統一される見通しとなっている。

 14日にニューヨークのバークレイズ・センターで行われるスーパーウエルター級タイトルマッチ3試合は、以下のカードだ。

 ・WBA(スーパー王座) 王者エリスランディ・ララ(34=キューバ/米 28戦24勝14KO2敗2分)vsテレル・グシェイ(30=米 20戦全勝9KO)

 ・WBC 王者ジャメール・チャーロ(27=米 29戦全勝14KO)vsエリクソン・ルビン(22=米 18戦全勝13KO)

 ・IBF 王者ジャレット・ハード(27=米 20戦全勝14KO)vsオースチン・トラウト(32=米 33戦30勝17KO3敗)

 ララ対グシェイは元アマエリート同士の対決となる。05年の世界選手権で優勝したララは08年北京五輪では金メダルが有力視されたが、その前年に亡命してプロに転じたサウスポーで、スキルに定評がある。グシェイは12年ロンドン五輪に出場した実績を持ち(2回戦敗退)、プロでも順調に白星を重ねてきた。マニア好みの技術戦になりそうだ。

 3試合のなかで最も注目を集めているのがチャーロ対ルビンだ。スピードと技巧が売りだったチャーロだが、昨年5月の戴冠試合と今年4月の初防衛戦は鮮やかなKO勝ちを収めており、自信を増している。対するルビンはサウスポーの技巧派強打者で、将来のスター候補生でもある。総合力は拮抗しており、序盤からスリリングな展開になるものと思われる。

 IBFタイトルマッチは若手の王者対ベテランの元王者という構図だ。今年2月の戴冠試合を含めて5連続勝ちと勢いのあるハードに対し、元WBA王者のトラウトはテクニックに定評がある。若いハードが攻め切るのか、それとも経験値の高いトラウトが相手の強打を空転させるのか。王者に分のあるカードといえる。

 勝者同士の統一戦を念頭においているのは、戦う6選手もファンも同じであろう。3試合の勝負はもちろん、その後のスーパーウエルター級トップ戦線の行方から目が離せなくなってきた。

リングにかける男たち

正木脩也「あこがれ世界王者の弟」指導で化学反応

正木(右)とリナレス・トレーナー


 あこがれの世界王者の弟に教わる。アスリートとしてどんな気持ちだろう。

 「一緒にジムにいるときもあるのに、緊張してまだサインとか写真とか頼めてないくらいです」。

 弾む声で教えてくれたのは、7日の東京・後楽園ホール、セミファイナルのスーパーフェザー級(60キロ契約)8回戦に1回1分56秒KO勝ちした正木脩也(23=帝拳)。ボクシングを始めたきっかけは現WBA、WBC世界ライト級王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)。17歳の時にベネズエラから来日して帝拳ジムの門をたたき、輝かしいプロキャリアを歩み、3階級制覇を成し遂げた。先月の防衛戦ではロンドン五輪金メダリストのルーク・キャンベル(英国)を試合中にあばら骨骨折を負いながら判定で破ったばかり。この日、セコンドについたのはその弟カルロス・リナレス(28)トレーナーだった。

 「すごいですよね、そんな人に教えてもらうなんて」。

 コンビを組んだのは8月下旬。兄を追うように来日し、12年には日本ミドル級王座決定戦挑戦経験も持つカルロスが、帝拳ジムでの本格的にトレーナーとして勤め始めてからだった。「ホルヘに似ている」とカルロス・トレーナーに見初められ、練習前には「自分はホルヘや」と自らに暗示をかけて取り組む日々。すぐにストレートを打つ際のバランスの修正に取り組み、それまで上方に打ち気味だったパンチを、思い切って打ち下ろすように心がけた。まるでホルヘ・リナレスのように。

 それから1カ月強。効果はてきめんだった。7日の試合の1回、1発の右ストレートで10カウントを聞かせた相手は、決してかませ犬の外国人選手ではない。東洋太平洋同級9位シソ・モラレス(フィリピン)は、10年2月には世界タイトル挑戦の経歴も持つ。「正直怖かった」という強豪に対し、アゴを打ち抜いての一撃の幕切れは、どこか実感がなさそうに「右ストレートでダウンを取れてうれしい」と振り返ったが、ホルヘに近づこうとしたこの1カ月強の努力ゆえだった。勝利後のインタビューで真っ先に感謝の言葉を述べた教え子に、カルロス・トレーナーもうれしそうだった。控室では高揚しながらニコニコと勝利をたたえていた。

 スーパーフェザー級は内山高志、三浦隆司の名王者が今夏に引退し、新時代を迎えている。日本王座を返上した尾川堅一、その空位となったベルトをかけた7日のメインカードの王座決定戦で新王者となった末吉大は、同じ帝拳ジム所属で正木の先輩。東洋太平洋タイトルを返上した伊藤雅雪(伴流)など世界ランカーも含め、好素材がそろう。23歳、現在日本ランク6位の正木も、その群雄割拠についていきたい。

 あこがれは、現実感を増して、確実に良い化学反応を引き起こしている。まだ日が浅いカルロス・トレーナーとの歩みが、今度どうさらなる変化を見せていくか。注目していきたい。【阿部健吾】

大相撲裏話

3横綱2大関休場の秋場所…地殻変動の起点となるか

大相撲秋場所 千秋楽 優勝賜杯を受け取る日馬富士(2017年9月24日撮影)


 99年ぶりに3横綱2大関が休場し、日本相撲協会にはチケットの返金を求める抗議の電話もあったという秋場所。終わってみて実際にファンは、世間はどう感じたのだろう。面白かったのか、つまらなかったのか。盛り上がったのか、興ざめだったのか。観戦に訪れた友人に聞けば「熱戦が多かった」「これはこれで打ち上げに花が咲いた」などと好意的な声が多かった。

 “中”で取材をしていると、実際の体感温度はよく分からなくなる。優勝成績は11勝4敗と、低レベルと言えば低レベル。そこだけを切り取れば情けなくも見える。ただ、周囲は「誰が優勝するか分からないから面白かった」とも言う。

 終盤に10人以上もの力士に優勝の可能性が残っていたのは、取材する側からすれば実に「ドキドキ」だった。見ている人たちには「ワクワク」だったろうか。豪栄道には申し訳ないが、13日目で優勝が決まっていたら、14日目、千秋楽の話題に困ったかもしれない。本命不在だったからこそ、誰が勝つのか、どちらが勝つのか、ワクワクやドキドキが最後まで続いた。こんな感覚は昨今の大相撲では、なかなかない。

 こんな場所だからこそ、よく「世代交代」という言葉が出た。実際に阿武咲や貴景勝、朝乃山といった20代前半の力士の活躍が場所を盛り上げてくれた。

 ただ、秋場所はまだ、若手の活躍が目立っただけ。「世代交代」という言葉が当てはまる場所ではない。世代交代とは、加齢によって自然と起こることもあるが、我々が求めている形はおそらく、違うからだ。

 かつて「角界のプリンス」と呼ばれた大関貴ノ花を一方的に破って引退を決意させたのが千代の富士。その横綱千代の富士を倒して引退に追い込んだのが、プリンスの息子の貴乃花だった。ここまでドラマチックにはならずとも、若い世代がベテランの上位と実際に対戦して、倒し、引導を渡す-。それがあって初めて、望みの「世代交代」は生まれる。

 上位陣の休場という不可抗力な未対戦はもちろん、仕方がない。ならば、おそらく上位陣が出てくる次の九州場所は、今場所の物語の続き。若手は、上位を倒す力を養えたのか。それとも、両者にまだまだ差はあるのか。地殻変動、世代交代は面白いが、そう簡単に許さないベテランの意地と迫力にも見応えはある。

 99年ぶりの事態が起きた秋場所。どうせ取り返しがつかないなら、ここから「あの物語が始まった」と後々、振り返ってみたい。【今村健人】

原功「BOX!」

ロマチェンコVSリゴンドー、五輪金メダリスト決戦


 アマチュア時代に五輪で2大会連続して金メダルを獲得し、プロでも世界王座に君臨する天才ボクサー同士が12月9日、アメリカのニューヨークで世界王座をかけて対戦することになった。WBO世界スーパーフェザー級王者ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBA世界スーパーバンタム級王者ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるもの。

 8歳の年齢差があるため両者が五輪で戦うことはなかったが、舞台をプロのリングに移して技巧派サウスポー同士の対決が実現することになった。「ハイテク(高性能)」と呼ばれるロマチェンコが勝つのか、それとも「ジャッカル」の異名を持つリゴンドーが先輩の維持を見せるのか。早くも注目を集めている。

 ロマチェンコは08年北京五輪のフェザー級で優勝し、12年ロンドン五輪ではライト級で金メダルを獲得した。このほか07年世界選手権で準優勝、09年と11年の世界選手権では優勝を果たしている。アマチュアの戦績が397戦396勝1敗というのだから驚く。ちなみに07年世界選手権決勝で敗れた相手には、のちに2勝して倍返ししている。

 13年10月、世界ランカー相手に4回KO勝ちを収めてプロデビュー。2戦目で世界挑戦を果たしたが、このときは体重オーバーで王座を剥奪された前王者の狡猾な戦いの前に惜敗した。スタミナの配分に不安があったのか前半をセーブしたのが裏目に出た印象だった。それでも最終12回には相手をKO寸前に追い込んで才能の一端を披露したものだ。その3カ月後、決定戦を制してWBO世界フェザー級王座についた。3戦目での戴冠はボクシング史上最短タイ記録でもある。プロの水に慣れたこともあり、以後は手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。昨年6月には現在の王座を獲得、7戦目で2階級制覇を成し遂げた。これは井上尚弥(大橋)の8戦を更新する世界最短記録だ。

 一方のリゴンドーも負けてはいない。2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪バンタム級で金メダルを獲得したほか、世界選手権では01年と05年の大会で優勝。475戦463勝12敗というアマチュア戦績を残している。キューバではプロ活動が認められていないためアメリカに亡命し、09年にプロデビューした。

 7戦目でWBA世界スーパーバンタム級王座(当時は暫定王座)を獲得し、王座剥奪と返還を経て通算10度の防衛を果たしている。このなかには、2度のダウンを挽回して天笠尚(FLARE山上)を11回終了TKOで下した勝利も含まれている。卓抜したスピードと勘の持ち主だ。

 ともにディフェンス技術に長けたサウスポーの技巧派だが、年齢に加えベスト体重に3.6キロの差がある。そのためオッズは4対1でロマチェンコ有利と出ているが、リゴンドーは「今度の試合で彼の化けの皮が剥がれる」と自信満々だ。10戦9勝(7KO)1敗のロマチェンコが勲章を増やすのか、それとも18戦17勝(11KO)1無効試合のリゴンドーが時計の針を逆回転させるのか。実現は2カ月先だが、実に興味深いカードだ。

リングにかける男たち

ロッキー時代もう終わり?王者京口紘人の「神対応」

大阪・堺市の浜寺小で人生初の講師に挑戦したIBF世界ミニマム級王者京口紘人(撮影・加藤裕一)


 「世界王者が、こんなにええ子ばっかりでええんか?」というのが、数カ月前からボクシング担当になった、52歳記者の率直な感想である。

 WBC世界ライトフライ級王者拳四朗(25=BMB)は中学生顔負け? の幼い見た目と柔らかい空気感に驚いた。WBO世界ミニマム級王者山中竜也(22=真正)は、腰の低さに驚いた。そして今回、IBF世界ミニマム級王者京口紘人(23=ワタナベ)を初めて取材した。

 京口は9月29日、大阪・堺市の浜寺小で特別授業の講師を務めた。6年生の全児童69人に「夢」の大切さを語った。質問コーナーで間断なく手を挙げる児童に「物おじせんなあ…」と舌を巻いたが、質問がどんなものでも同じ目線で懸命に答える姿に感心した。「筋肉見せて!」というムチャぶりにも、そそくさとシャツをまくって腹筋を見せる。井上孝志トレーナー(47)相手に軽いミット打ちを披露した際は、興味津々の男性教諭にもミットを持たせ、パンチ(もちろん軽め)を味わってもらい、児童を大喜びさせた。

 極め付きは授業終了後だ。校長室でひと息ついていると、授業に出ていた児童がサイン目当てに次々と押しかけてきた。クリアファイルにねだるのは上等な方で、ノートの裏面にお願いする子もいた。その1人1人に「名前、なんていうの?」と聞いて、ちゃんと添え書きする。白地のスペースがほぼない、阪神タイガースの下敷きを差し出された時は「うわ~、これ、どこに書こ?」と笑いながら、その児童と相談してサインの場所を決めていた。おそらく授業を受けた6年生ほぼ全員に、たっぷり30分以上かけて対応したと思う。

 今風に言うなら“神対応”のサービス精神。京口は「いや~、思った以上に、興味を持ってくれていて、ほんまにうれしかったです。僕もかなり活発な方やったけど、みんな元気ですね」と笑うだけ。疲れたそぶりを、これっぽっちも見せなかった。

 かつてボクシングといえば、原動力=ハングリー精神やった。ギラついて、とんがって、人付き合いもうまくない。良くも悪くも自己中心的で自分勝手。それでも、許されるのが強者の特権やった。弱肉強食の世界において、それは間違ってへんと思う、思うけど…。もう、そんな時代ではないのかもしれませんなあ。【加藤裕一】

大相撲裏話

松沢亮英、入門して初めて分かった父朝日山の偉大さ

卒業証書を手にする松沢亮英


 やっぱりオヤジは偉大だった-。卒業証書を手に、あらためて実感した。

 角界入りした新弟子は必ず、相撲教習所に入所し6カ月間、実技や相撲史、一般常識、書道などを学ぶ。東京場所終了後、入所及び卒業式が行われ、今回も29日に新弟子が通い慣れた両国国技館内の相撲教習所で行われた。

 今年3月の春場所新弟子検査に合格し、晴れて角界入りした松沢亮英(19=朝日山)も、この卒業式に出席した。千葉・八千代松陰高時代はラグビー部でプロップ、フッカーとして活躍。調理師を目指し専門学校の合格通知も受けたが「やっぱり自分にはスポーツが合っている。挑戦してみたい」と角界の門をたたいた。入門したのは自分の父が興した部屋。父は史上ただ一人、平幕優勝2回を成し遂げ「F1相撲」の異名を取った、元関脇琴錦の朝日山親方(49)だ。

 もちろん親の七光など通用しない、文字通り裸一貫の実力だけの世界。それは百も承知で、決して甘く見たわけではなかった。ただ何せ相撲は初体験。壁には当然、ぶち当たった。番付に初めてしこ名が載った5月の夏場所こそ、5勝2敗と上々のスタートを切ったが、序二段に上がった7月の名古屋場所は1勝6敗。再び序ノ口に番付を下げたこの秋場所も3勝4敗と負け越した。

 「もちろん相撲はまだまだなんですが、一番悪いのはメンタル面。1回負けちゃうと『負け越してしまう』と焦って、尾を引いちゃうんです」。あどけない笑みを浮かべながら松沢は、自分の弱点を分析した。相撲についても「脇が甘い。ラグビーでは甘くても良かったけど、相撲では駄目。なかなか直らないんです」。入門して半年。道半ばどころか、まだ1歩目を踏み出したばかりなのだから、直面して当然の壁だ。

 ただ、悪いようには考えない。名古屋場所は1勝2敗から4連敗したが、秋場所は負け越し決定から、精神面で立て直し連勝で締め「だんだんとメンタル面も良くなっていると思います」と精神的にも落ち着いてきた。168センチ、76キロで新弟子検査をパスした体重も、20キロ増。「石浦関の、あのスピード感のある相撲が好きなので、120キロぐらいまでは増やしたい」と言う。

 入門前の今年2月までは「(父の)言うことは聞いてないこともあった」と、どこにでもいる長男坊だった。入門を境に、それは師弟関係になり「厳しく怒られることが多くなった。今は素直に受け入れてます」と話す。さらに肌で感じた父へのリスペクトも。「入門して序ノ口で1場所取っただけで分かりました。父は偉大すぎます」と脱帽した。

 入門時に挙げた「幕内力士」の第1目標は「厳しい世界と分かりました。関取になることです」と、新十両昇進に“下方修正”した。その父であり師匠の朝日山親方は、相撲教習所の卒業を機に、10月から稽古まわしを締め愛弟子を鍛えるという。「まだまだ勝ち方を知らない。これからですよ」。親子鷹に期待したい。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

王者ウォード、21年間負け知らずの理想的な引退


 WBA、IBF、WBO3団体統一世界ライト・ヘビー級王者、アンドレ・ウォード(33=米)が引退した。04年アテネ五輪の金メダリストでもあるウォードは、プロではスーパー・ミドル級とライト・ヘビー級の2階級を制覇し、32戦全勝(16KO)という戦績を残した。アマチュア、プロを通じてこれほど輝かしい実績を残して無敗のままグローブを置くボクサーは極めて珍しい。

 ウォードは9歳のとき、元アマチュア・ボクサーだった父親の影響でグローブを手にした。運動神経に加え努力する才能にも恵まれていたのだろう、ウォードはアマチュアで119戦114勝5敗(他説あり)の戦績を残した。01年と03年の全米選手権を制し、04年アテネ五輪ではライト・ヘビー級で金メダルを獲得した。ちなみに2000年シドニー大会以降、ボクシング競技で金メダルを獲得した米国人(男子)はウォードだけである。

 04年12月にプロ転向を果たしたが、ルーキー時代にダウンを喫したこともあり「プロでは通用しないのでは?」と大成を危ぶむ声もあった。しかし、ウォードはスピードとテクニックを生かしたボクシングで勝利を重ね、09年にはWBA世界スーパー・ミドル級王座を獲得。11年にはWBC王者にも勝って統一を果たした。

 そのころから膝や肩などの故障、さらにプロモーターとの確執などでブランクをつくることが多くなり、一時は1年7カ月も実戦から遠ざかった。

 こうしたなか2年前に1階級上のライト・ヘビー級に転向し、昨年11月にはWBA、IBF、WBO3団体王者のセルゲイ・コバレフ(露/米)に挑戦。2回にダウンを喫するなど最悪のスタートだったが、中盤からじわじわと追い上げ、僅差の判定勝ちを収めて2階級制覇を成し遂げた。今年6月の再戦ではダウンを奪って8回KO勝ちでけりをつけた。この試合がラストファイトということになる。最後に負けたのがアマチュア時代の96年だというから、それから21年間も敗北を知らないままキャリアを終えることになるわけだ。これほど理想的な引退はないだろう。

 50パーセントのKO率が示しているようにパワーは重量級では平均の域内だったが、ディフェンス技術と駆け引き、戦術などに長けていた。また、キャリアの途中で指導者を変えることが多いトップ選手のなかにあって、ウォードは9歳のときに初めてボクシングの手ほどきしてくれたバージル・ハンター・トレーナーと最後までコンビを組み続けた。そんなところにウォードの人間性の一端をみる思いがする。

 引退に際しウォードは自身のウェブサイトで「ボクシングを通じて出会った人すべてに感謝したい。いま、私はこのスポーツの厳しさに耐えられる肉体ではないし、戦いたいという欲望も湧いてこない」と綴っている。燃え尽きたということなのだろう。

大相撲裏話

稀勢締める 友鵬さん最後の綱


 横綱が締める「綱」は年3回の東京場所前に作られる。「綱打ち」と呼ばれる行事で、一門の力士らが掛け声に合わせ綱をよる。今場所、稀勢の里は休場したため、この時作った綱が使われるのは九州場所だけ。実はこの綱、8日急逝した相撲協会の世話人、友鵬さん(享年60)が携わった最後の綱だ。

 綱打ちは3本の綱をテッポウ柱にくくり、引っ張りながら1本によっていく。柱に近い、より合わせる部分を作る者が重要な役割を担う。ここにいたのが友鵬さんだった。

 当初「肩も腰も痛いから今回はやめておくわ」と言っていたという。稀勢の里の兄弟子、西岩親方(元関脇若の里)は振り返る。「綱打ちは亡くなる2日前でした。友鵬さんがいないときれいな綱ができない。『見てるだけでもいいから来て下さい』とお願いしました。これが最後と言ってましたが、本当に最後になってしまいました」。

 稀勢の里が手形にサインをする際、痛む左腕で紙を押さえられないと、友鵬さんがそっと手助けしてくれたこともあったという。

 九州でこの綱を締める時、いつもと違う思いが込み上げるかもしれない。【佐々木一郎】