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大相撲裏話

遠藤も困惑の珍現象…結びの一番翌日に最初の一番


 結びの一番から翌日は、中入り後最初の一番に-。東前頭9枚目遠藤がそうだった。前日14日目は横綱白鵬に負け、この日は輝に負けた。「14日目を結びで取って、千秋楽は初っ口(中入り後最初の一番)で…。なかなかないでしょ? 誰かいるんですかね? いい経験です」。

 ジェットコースターのような珍現象は、07年秋場所の西前頭14枚目豪栄道以来。取組は前々日までの成績を受け、前日の取組前に決まる。豪栄道は14日目の結びで白鵬、千秋楽の初っ口で西前頭15枚目嘉風と対戦した。白鵬の14日目は琴欧洲、千代大海の2大関どちらかが適当だったが、2人は8勝4敗、新入幕ながら白鵬と10勝2敗で並んでいた豪栄道に白羽の矢が立った。結局、千代大海は千秋楽で白鵬と当たったが、琴欧洲はなし。番付の序列で取組を決める“割を崩した”格好だ。

 今場所は違う。白鵬は千秋楽で豪栄道と対戦し、対戦可能な三役以上全員と当たった。白鵬と1差の2敗の東前頭12枚目隠岐の海もいたが、番付が上で3敗だった遠藤が抜てきされた。最大の理由は日馬富士、鶴竜、稀勢の里の3横綱、大関高安、関脇照ノ富士らの大量休場だ。やはり上位陣の存在は、いろんな意味で大きい。【加藤裕一】

大相撲裏話

「どうしても1面載りたい」日馬富士が仕込んだネタ

日馬富士(2017年12月2日撮影)


 あれは4月の春巡業だった。当時から左肘や膝などを負傷していた元横綱日馬富士関は、連日支度部屋で電気治療を行っていた。肘や膝や背中など、電気治療で使用する吸盤の跡が、全身に赤くついていた。遠ざかっていた賜杯を奪取するために奮起する元横綱からネタを聞きたい、そう思った記者らが話を聞きに行った時だった。

 記者 最近、何か良いことありましたか?

 日馬富士 新しい奥さん見つけました。

 記者 いやいや…。

 日馬富士 どうやったら1面載れるの? どうしても1面載りたいんだよ。

 その後も続く、記事には出来ない話。政治の話や、某大統領らの賛否など。話す度に「これなら1面載れるでしょ?」と聞いてくる。もちろん全て冗談で、面白おかしく話してくる。優勝からも遠ざかり、体が思うように動かないなど歯がゆい思いをしていたからこそなのか、記者たちと話す時は明るく努めた。ただ「どうしても1面に載りたい」。これだけは真面目で力を込めて言っているように聞こえた。

 そんなやりとりから7カ月たった11月。思わぬ形でその時を迎えた。

--平幕の貴ノ岩への暴行

 以降、連日スポーツ紙の1面に載り、情報番組でも“トップ”扱いとなった。そして引退。決して華々しいものではなかった。春巡業の時の「1面に載りたい」は、復活を果たして横綱の威厳を取り戻したい、そういう意味だったはず。なんとも皮肉な幕引きとなってしまった。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

まさに黄金カード、五輪連覇者同士がプロ王者として世界戦


 9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスベガスでは尾川堅一(29=帝拳)対テビン・ファーマー(27=米)のIBF世界スーパーフェザー級王座決定戦が行われるが、同日、ニューヨークでは同じ階級のWBOタイトルマッチがセットされている。プロ3戦目でフェザー級を制覇し、7戦目でスーパーフェザー級王者になったワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBAスーパーバンタム級スーパー王者、ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるのだ。アマチュア時代に五輪連覇を果たした実績を持つレジェンド同士の頂上決戦だ。

 ロマチェンコは08年北京五輪フェザー級、12年ロンドン五輪ライト級で金メダルを獲得しているほか、世界選手権でも2度の優勝実績を持つ。そうした大会での勝利を含めたアマチュア戦績は397戦396勝1敗という驚異的なものだ。唯一の敗北を喫した相手には国際大会で2度のリベンジを果たしている。プロ転向は4年前で、その4カ月半後に世界王座に挑んだが、このときは体重オーバーの相手に惜敗。続く3戦目でフェザー級王座を獲得すると、昨年6月には階級を上げて現在の王座を獲得した。7戦目での世界2階級制覇は井上尚弥(大橋)の8戦目を更新する最速記録だ。

 「ハイテク(高性能)」というニックネームを持つロマチェンコは、単に記録だけの選手ではない。素早く立ち位置を変えながら相手の死角に出て瞬時にパンチを打ち込み、スピードとスキルで圧倒してしまう。豪快なKOで現王座を奪ったあとの3度の防衛は、相手を翻弄したすえ棄権に追い込むという内容だった。見る者の記憶にも残るテクニシャンといえる。10戦9勝(7KO)1敗。

 これに対しリゴンドーは2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪のバンタム級で連続金メダリストになり、世界選手権でも2度の優勝を果たしている。アマチュア戦績は475戦463勝12敗。亡命に失敗したためプロ転向が遅れたが、29歳のときに3回TKO勝ちで初陣を飾ると7戦目には現在の王座(当時は暫定王座)を獲得。その後、正王者昇格、WBO王座吸収、スーパー王者への昇格、王座剥奪、返還といったできごとを経て通算10度の防衛を果たしている。

 ロマチェンコと同じサウスポーだが、こちらはライバルほど運動量が多いわけではない。無駄のない動きで間合いを掴んでズバッと斬り落とすタイプだ。自身は打たれ強くはなく何度かダウンを経験しているが、左ストレートの切れ味はロマチェンコのそれを上回っている。18戦17勝(11KO)1無効試合。

 体格はロマチェンコが身長168センチ/リーチ166センチ、リゴンドーが162センチ/173センチと数字上は決定的な差はない。しかし、体のフレームとスーパーフェザー級に馴染んでいる点でロマチェンコにアドバンテージがあることは確かだ。6連続KO勝ちという勢いや若さでもロマチェンコに分があるといえる。こうしたことが反映されてオッズも9対2でディフェンディング・チャンピオン有利と出ている。ただ、これまでにもスター選手との対戦を打診されながら拒んできたリゴンドーが、2階級上のロマチェンコとの対戦に応じたところに矜持と自信をみてとることもできる。

 五輪連覇者同士がプロの王者として世界戦で拳を交える文字通りの黄金カード。はたして勝者として歴史に名を刻むのは-。

リングにかける男たち

今や蚊帳の外の井岡一翔、せめて自分の口で現状を

井岡一翔(左)と谷村奈南


 井岡一翔(28=井岡)は何をしてるんやろう。11月9日付でWBA世界フライ級王座を返上した。本来なら「日本ジム所属選手初の世界4階級制覇」を目指すとか、ポジティブな理由があってしかるべきやと思うけど、返上会見に井岡本人は出席せず、父親の同ジム・井岡一法会長が「予定していた大みそかのリングに調整が間に合わない」と説明。その上「モチベーションが上がらんのなら、引退せな仕方ない」てなことまで言うたから、驚いた。

 理由はケガでもない。「プライベートに時間を割かれたことによる練習不足」。歌手谷村奈南と5月に結婚した。新婚と言えば、そうやけど…。世界王者、しかも脂の乗った3階級覇者の“休業理由”としては、異例でしょう。まして、口癖が「唯一無二のチャンピオンになりたい」やった男としては。

 井岡のプロデビュー後最長ブランクは、15年12月31日、WBAフライ級王座の2度目の防衛戦(レベコ相手に成功)からララ相手に3度目の防衛を飾った16年7月20日までの「202日」やった。このコラムは12月4日に書いてるわけやが、直近の試合が4月23日、ノクノイとの5度目の防衛戦やから「225日」。気づけば記録? を更新してました。

 日本ボクシング界は動いてる。ロンドン五輪金メダリストの村田諒太はWBA世界ミドル級王者になって、日本人が中量級のベルトを奪う快挙を成し遂げた。WBO世界スーパーフライ級王者の“怪物”井上尚弥は12月30日に7度目の防衛戦を行う。

 井岡と同じフライ級では、木村翔が北京&ロンドン五輪金メダリストの中国の英雄・鄒市明からWBOのベルトを奪った。WBC王者で具志堅用高の秘蔵っ子、比嘉大吾はデビュー14連続KO勝ちの離れ業を演じて初防衛に成功した。さらに、将来的な“5階級制覇”を掲げる田中恒成がこのほどWBOライトフライ級王座を返上、おそらくは3階級制覇に動く。

 ところが、井岡は…。昨年まで6年連続でやってきた、恒例の大みそかファイトが途切れる。少し前まで間違いなく、日本の王者の中で特別な存在やったけど、今では蚊帳の外。ワン・オブ・ゼムに成り下がってきたんやないやろか。

 妻の谷村奈南は王座返上返上2日後の11月11日、ツイッターに「必ず本人が、ファンの皆さんへ真実をお伝えします」と書き込んだけど、井岡は依然沈黙を守ってる。まあ他の王者の試合が集中する年末に、水を差すわけにはいかんやろうけど、せめて年が明けたら、公の場で自分の口から現状を語ってほしい。それこそがファン、世間への王者の責任やないでしょうか。【加藤裕一】

大相撲裏話

小兵も異彩放った日馬富士、暴行で引退もったいない

引退会見で目を潤ませ、唇をかみしめ下を向く日馬富士


 横綱日馬富士が引退した。貴ノ岩の頭をカラオケのリモコンで殴って、裂傷を負わせた。そらあかんわな。横綱やしなあ…。しかし、もったいない。そう思いませんか?

 白鵬、稀勢の里、鶴竜の3横綱が全休した秋場所で、優勝した。5日目を終わって2勝3敗、10日目を終わって6勝4敗。金星4個も与え、いつ途中休場してもおかしくない状況やったのに、1人横綱の責任を全うすべく土俵に上がり続けて、終盤は5連勝。すごかったのは、千秋楽でしょう。本割、優勝決定戦で豪栄道を連続で退けた。突き刺すような立ち合い、気迫みなぎる取り口。豪栄道は「完敗です」としか言えなんだ。途中までのもたつきは何やってん? 誰もがそう思うほど“横綱のすごみ”はえげつなかった。

 体調はいつも万全やなかったようです。

 7月の名古屋場所前やった。宿舎で朝稽古を見て、話を聞いた。相撲担当歴2カ月の素人が「体調はどうです?」と聞くと、ため息交じりに答えてくれた。

 「う~ん、良くないね」

 -やっぱり両肘ですか?

 「そうだね」

 -思い切って2場所ぐらい休んで治すっちゅう選択はないんですか?

 「2場所とか、半年じゃ無理。1年以上とかじゃないとね」

 -そんな長くは休めませんわなあ

 「本当に治したいなら、辞めないと。辞めた後じゃないとね」-。

 体重137キロ。九州場所の番付で、幕内力士42人のうち、宇良と荒鷲の135キロ、千代翔馬の136キロに次いで軽かった。力強さを備えたスピードで最高位を必死に守り抜いていた。力士の大型化が進む時代に、異彩を放っていた。

 答えに困ったら、決まって「一番一番、全身全霊で…」と言うてはった。その時は「またかいな」と思ったけど。そのセリフがもう聞けん。ほんまに寂しい。そう思いませんか? 【加藤裕一】

原功「BOX!」

風雲急を告げるSフェザー級 尾川は戴冠果たせるか


 日本スーパー・フェザー級王座を5度防衛した実績を持つ尾川堅一(29=帝拳)が12月9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスべガスのマンダレイベイ・イベンツセンターでIBF世界同級王座決定戦に臨む。相手は30戦25勝(5KO)4敗1分の戦績を残している技巧派サウスポーのテビン・ファーマー(27=米)。ランキングは尾川が4位、ファーマーが5位で、KO率も74パーセント(23戦22勝17KO1敗)の尾川が大きく上回っている。元WBC王者の三浦隆司(帝拳)が引退したことも重なり、風雲急を告げるスーパー・フェザー級トップ戦線。尾川は戴冠を果たすことができるのか。

 この1年、130ポンド(約58・9キロ)を体重上限とするスーパー・フェザー級はめまぐるしく王座の持ち主が代わっている。WBAは内山高志に2度勝ったジェスレル・コラレス(26=パナマ)が10月のV2戦を前に体重オーバーで失格。試合でそのコラレスを8回KOで破ったアルベルト・マチャド(27=プエルトリコ)が王座を受け継いでいる。

 WBCは今年1月に戴冠を果たしたミゲール・ベルチェルト(26=メキシコ)が王座を保持しているものの、三浦との初防衛戦で痛めた拳の負傷が治りきらないため戦線離脱。これを受け尾川対ファーマーと同じイベントで暫定王座決定戦が行われる。2階級制覇の実績を持つオルランド・サリド(37)対ミゲール・ローマン(32)というメキシカン・ファイター同士のカードだ。

 IBF王座は、元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米)の秘蔵っ子、ジャーボンタ・デイビス(23=米)が今年1月に獲得。長期政権が期待されたが、8月のV2戦を前に計量で失格、ベルトを剥奪された。尾川対ファーマーの勝者がこの王座を引き継ぐことになる。

 愛知県生まれの尾川は父親の道場で2歳のときに日本拳法を始め、大学卒業まで20年間続けた。「自分の力を試したくて」とプロボクサーになり、デビュー翌年の11年には全日本新人王になった。日本ランキング入りも果たしたが、そこで初黒星を喫する。アゴの骨を折られたすえの5回TKO負けだった。

 10カ月後にリングに戻った尾川は復帰2戦目に因縁の相手に1回TKO勝ちで借りを返し、それを含めて現在まで14連勝(11KO)を収めている。2年前には世界ランカーを得意の右ストレートで倒し、その3カ月後には日本王座も獲得。5度防衛した王座は世界挑戦が決まったため返上した。

 今回、尾川が決定戦で拳を交えるファーマーは戦績が示すとおりの技巧派で、スピードとパンチを外すスキルに関しては卓抜したものがある。しかし、パワー不足は否めず、その点では尾川が勝っている。ただ、尾川は東京以外での試合は今回が初めてで、コンディション調整など不安もつきまとう。

 このカードのポイントはひとつに絞られる。尾川の切り札、右ストレートが炸裂するか否か。確率は50パーセントだ。尾川が勝てば10月にWBAミドル級王座を獲得した村田諒太(31)に続き、帝拳ジム13人目の世界王者誕生となる。

 同じ12月9日、米国東海岸では同じスーパー・フェザー級のWBOタイトルマッチが行われる。オリンピックで2連覇を果たした者同士、ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)とギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)が拳を交えるのだ。

<続く>

大相撲裏話

9人休場…平幕Vのチャンスだったのに

妙義龍(17年9月29日撮影)


 日馬富士の暴行問題などで世間を騒がしている角界に、またも悲しい記録が生まれた。平幕の妙義龍が、14日目の25日から休場。これで幕内の休場数は9人(再出場の碧山を含む)となり、11人が休場した02年名古屋場所以来の多さとなった。

 十両も含めると、今場所は10人の休場者が出た。戦後以降、十両以上の力士の合計休場数が10人以上となったのは28場所目。引退、廃業を除けば22場所目となった。3横綱、1大関の上位陣が休むなど、ファンにとって寂しい事態となった。そんな中、横綱白鵬と平幕の北勝富士、隠岐の海の3人が、この日まで優勝争いを演じた。

 過去、十両以上の力士が10人以上休んだ27場所中、4場所で平幕力士が優勝している。53年夏場所の時津山、57年九州場所の玉乃海、91年秋場所の琴錦、00年春場所の貴闘力だ。今場所は上位陣の休場者数が多かっただけに、平幕に優勝のチャンスが広がった。北勝富士と隠岐の海にとっては、悔やまれる結果となった。

 白鵬は「年1回の九州で達成できてうれしい」とご満悦。荒れた九州場所を横綱が締めくくった。【佐々木隆史】

大相撲裏話

玉鷲が守った被災者との約束「勝ち越し」

玉鷲(17年11月12日撮影)


 モンゴル人力士のいさかいに揺れる九州場所で、モンゴル人力士の涙を見た。11日目、東前頭筆頭の玉鷲(33=片男波)が荒鷲を下し、勝ち越しを決めた。「鷲鷲対決」を制し、支度部屋で「僕が本物」と笑っていた男が、福岡・朝倉市について聞かれ、真顔になった。「約束守れて良かったです」。目は赤かった。

 7月5日に発生した九州北部豪雨。朝倉市では、12時間で約900ミリという観測史上最大級の雨量を計測、31人もの犠牲者が出た。その被災地に、玉鷲のいる片男波部屋は8年前から宿舎を構える。場所前に小学校や施設を訪れ、地域イベントにも出席した。「部屋の横に山から落ちてきた木がまだあって、そこから骨が出た」と玉鷲は言う。いまだ残るがれきの山。被災者を勇気づけるどころか、悲しみと闘い、復興に燃える姿に力をもらった。行く先々で交わした約束が「勝ち越し」だった。

 貴ノ岩暴行事件が起こった夜、宿舎で綾瀬はるか主演ドラマ「奥様は、取り扱い注意」を見ていた。勝ち越しを決めた日、まわしから着替えたパンツはクスッとさせるハート柄。一方、10月30日の番付発表時、日馬富士に気になる力士として「最近強くなっちゃって」と名指しされた。気は優しくて力持ち。モンゴル人力士玉鷲は、そんな人だ。【加藤裕一】

大相撲裏話

名ばかりの4横綱時代 直接対決2場所連続なし

大相撲九州場所、日馬富士などの休場を知らせる貼り紙(17年11月19日撮影)


 白鵬が10日目まで全勝で後続に2差をつけ、独走Vを決めるかに思われたが、前日11日目に敗れて1差に接近。土俵外の話題が先行した場所が、ようやく熱気を取り戻した。ただ、横綱対決は2場所連続で実現しない。1場所で6番あってもいい4横綱時代なのに、だ。

 年6場所制が定着した58年以降、番付に3人以上横綱が名を連ねながら、2場所続けて対戦がなかった例は過去2度しかない。3横綱だった58年秋と九州場所。秋は初代若乃花が14勝1敗で優勝したが、千代ノ山と栃錦が途中休場。九州も初代若乃花は準優勝だったが、2人が全休した。

 次は貴乃花、3代目若乃花、曙の99年春と夏場所。春は曙が全休し、2人が途中休場、夏は曙は皆勤したが、貴乃花が全休、若乃花が途中休場した。この2場所とも大関武蔵丸が優勝し、翌名古屋場所から4横綱となるが、5場所続けて全員皆勤はなかった。

 今場所の千秋楽結びの一番は白鵬-豪栄道戦になりそうだ。白鵬か他の力士の優勝がかかっていれば、緊張感はあるだろうが…。相撲の華の1つ、横綱対決がないのは、やはり味気ない。【加藤裕一】

大相撲裏話

うっかり振分親方の予約忘れにファインプレーの声も

振分親方


 日馬富士の暴行問題に揺れる九州場所9日目に、さらなる“激震”が走ったのは打ち出し後だった。高砂一門の一門会中止-。八角理事長(元横綱北勝海)らが所属する一門が、日本相撲協会の2年に1度の理事候補選挙に向けて話し合う大事な会合が、急きょ取りやめとなった。新たな問題勃発かと騒然となったが、実は会場となる福岡市内の料亭の予約を、幹事役の振分親方(元小結高見盛)が忘れたことが原因だった。

 毎年9日目に同じ会場で実施するだけに、親方衆が続々と集まったが、料亭からは「高砂一門でご予約は入っていませんが…」との回答。すでに満席だったため、そのまま解散、中止となった。「どうなってるんだ」との電話を次々と受けて「めちゃくちゃ焦った」(振分親方)。翌10日目は通常よりも2時間以上早く場所入りし、一門の親方衆へおわび行脚を行った。

 一日中、肩をすぼめてシュンとしていた振分親方は「自分に腹が立った。毎年のことだから予約が入っていると思っていたけど…」などと、一言話すごとにため息をもらした。幹事役の会計担当を今年、谷川親方(元関脇北勝力)から引き継いだばかりということもあり「こんな時に酒席の写真が雑誌に載ったら誤解される。ファインプレー」との声も上がった。多くの一門親方衆も「日にちも会場も同じだから、もう来年の予約を入れるべきだな」などと心配しつつ、笑うしかなかった。天性の愛されるキャラクターで、翌日の角界は話題持ちきりだった。【高田文太】

大相撲裏話

3横綱にファン厳しい声も「僕が横審なら引退勧告」

土俵入りする横綱稀勢の里(2017年10月4日撮影)


 4横綱のうち3人が、またいなくなった。全休の鶴竜、3日目からの日馬富士に続き、稀勢の里。3横綱休場は2場所連続だ。最初に4横綱がそろったのは1917年(大6)夏場所で太刀山、鳳、2代目西ノ海、初代大錦。以降、今場所まで計78場所あるが、4人皆勤は12場所だけで、最近では90年九州場所(千代の富士、北勝海、大乃国、旭富士)までさかのぼる。一方、3人休場も9場所だけ。4人皆勤も3人休場も珍しい。ともに2場所連続となれば、異例といえる。

 昭和以降初の2場所連続の3人休場が、場所を観戦したファンの目にどう映るのか。熊本・上益城町在住の56歳の男性会社員は「日馬富士、鶴竜に加え、稀勢の里も、僕が横審にいたら、引退勧告ですね。負傷を押しての春場所優勝を加味したとしても、です」と手厳しい。福岡市在住の70代女性は「稀勢の里は久々の日本人横綱だし頑張ってほしい。来年春ぐらいまで休んで、それでダメなら辞めないと仕方ないけど」。初観戦の福岡市在住の44歳男性会社員は「すごく残念ですが、場所を見て考えが変わりました。どの力士もまじめで、ピリッとしている。横綱も元気に戻ってきてほしい」と話した。

 横綱なのにふがいない、横綱だから大変だ…。見方はそれぞれあるが、相撲ファンは厳しく温かい目で見守っている。【加藤裕一】

原功「BOX!」

4階級制覇のコットが引退へ、有終の美を飾れるか


 4階級制覇の実績を持つWBO世界スーパーウエルター級王者、ミゲール・コット(37=プエルトリコ)が12月2日(日本時間3日)、米国ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)で同級9位のサダム・アリ(29=米)を相手に初防衛戦に臨む。コットはこの試合を最後に引退すると公言しており、有終の美を飾れるかどうか注目を集めている。

 11歳のときにボクシングを始めたコットは2000年シドニー五輪に出場するなどアマチュアで148戦125勝23敗(他説あり)の戦績を残し、01年にプロ転向を果たした。3年後、21戦全勝(17KO)でWBO世界スーパーライト級王座を獲得し、6度防衛。3度目の防衛戦では五輪で苦杯を喫した相手に9回TKOで借りを返すなど順調にスター街道を歩んだ。

 06年にはウエルター級でWBA王座を獲得し、2階級制覇を達成。ここでも4度の防衛を果たして連勝を32(26KO)まで伸ばしたが、33戦目にアントニオ・マルガリート(39=メキシコ)に11回TKO負けを喫し、一時停止を強いられた。WBOで返り咲きを果たしたものの、V2戦ではマニー・パッキャオ(38=比)に12回TKOで敗れ、キャリアで2度目の挫折を味わされた。

 身長もリーチも170センチと体格に恵まれなかったコットはガードを固めながら圧力をかけて距離を潰し、相手の懐に入って強打をボディ、顔面に打ち分ける好戦的な戦いが多かったが、30歳を超えてからは戦闘スタイルをチェンジした。適度に足をつかいながら踏み込みつつ左ジャブを突き、スピードを生かしたヒット&アウェイのスタイルをベースにして戦うようになったのだ。フロイド・メイウェザー(米)戦を含めて一時は連敗したこともあったが、13年にフレディ・ローチ・トレーナーとコンビを組んでからは新スタイルが板につき、14年6月には身長で8センチ、リーチで15センチも勝るセルヒオ・マルチネス(亜)を破ってミドル級制覇も果たした。

 現在の王座は今年8月、決定戦で亀海喜寛(35=帝拳)を下して獲得したもので、スーパーウエルター級では10年に獲得したWBA王座に続いて2度目の戴冠ということになる。ここまでの戦績は46戦41勝(33KO)5敗だが、特筆すべきはキャリアの半分以上となる24戦が世界戦である点だ(19勝16KO6敗)。現役、元、のちの世界王者との対戦も21度(16勝12KO5敗)と多く、その中身の濃さも特徴といえる。世界的な知名度、人気もあり、惜しまれつつの引退となる。

 ラスト・ファイトの相手、アリは08年北京五輪に出場した実績を持つエリートで、プロでは26戦25勝(14KO)1敗の戦績を残している。スピードのある万能型だけに侮れない相手といえるが、17対2のオッズが示すようにコット有利とみられている。強さと巧さを見せつけたすえ、コットは豪快なKOで有終の美を飾れるか。

大相撲裏話

懸賞金はひょんなつながり、安美錦と高須クリニック

高須クリニックの懸賞幕(17年9月11日、撮影・小沢裕)


 今年の大相撲を象徴する1つに「懸賞」がある。何と言っても数の多さ。とうとう、9日目で初めて年間の懸賞総本数が1万本を超えた。土俵上で直接手渡される手取りだけでも3億円超え。記念すべき1万本目を手にしたのは高安で「すごいですね。何かもらえないかな」と驚いていた。

 年間で初めて5000本を超えたのは06年。以降、1場所中止となった11年を除いてほとんど変動のなかった総本数は14年に7000本を超えて、15年は9842本、16年は9888本と、大台に迫っていた。

 今年は永谷園といった“定番”に加え、稀勢の里の化粧まわしにある「北斗の拳」や、好角家で知られる「デーモン閣下」などが登場。種類が豊富で、ユニークな懸賞旗に目も留まる。

 そんな中、ひょんなつながりでついた懸賞もある。再入幕の安美錦には今場所、これも定番の高須クリニックが懸かった。秋場所で「高須院長が来たときはわりと勝ってる」との言葉が伝わり、幕内に戻ったら懸けると院長が約束して実現された。直接の面識はない2人。安美錦は自身のブログで礼を言った。「十両にいたら懸賞のありがたみが分かるよ」。懸賞も、相撲の彩りの1つ。【今村健人】

リングにかける男たち

村田は伝説の大場政夫に近づけるか!同じ日に王者に

村田諒太(左)と伝説のボクサー大場政夫


 まさにくしくもだった。日本の金メダリストで初の世界王者になった村田諒太。2度目の世界戦のゴング直前に、あるジムのマネジャーから言われた。そのひと言で「村田が勝つだろう」と思った。

 会場は両国国技館。老朽化と東京五輪を控え、世界戦を開催するような会場は建て替えと改修が相次いでいる。村田の試合は8月に発表された。世界戦はランキング、マッチメークの交渉、中継テレビ局の事情などで決まる。このため、事前に会場予約がなかなかできない。帝拳ジムの本田会長によると「今回はたまたま空いていた」そうだ。

 47年前の1970年(昭45)10月22日。会場は現在の両国国技館から徒歩5分ほどにあった旧国技館の日大講堂。あの大場政夫が世界初挑戦し、WBAフライ級王者ベルクレック・チャルバンチャ(タイ)を13回KOで倒した。帝拳ジムにとって、初めての世界王者誕生だった。

 大場は5度目の防衛に成功した直後、23歳の若さで亡くなった。永遠のチャンピオンとも呼ばれる、今や伝説のボクサーだ。マネジャーのひと言は「きょうは大場がチャンピオンになった日」。村田は同じ日に世界王者になり、しかも場所も同じ両国だった。ジムにとって記念日とは運があると言えた。

 プロボクシングの試合はリーグ戦やトーナメントは原則ない。まずは勝っていくことで地域の王座を踏み台に、世界ランキングに入り、ランクを上げていくことで世界挑戦のチャンスが出てくる。

 その間に王者も入れ替わる。これがまた微妙でかみ合うか、かみ合わないか。右か、左か。ボクサーか、ファイターか。ボクサーも当然、得手不得手がある。何より強い王者か、弱い王者か。巡り合わせであり、運、不運がある。村田の世界戦前に日本人初のミドル級世界王者竹原氏も「運は必要」と強調していた。

 90年代は辰吉、鬼塚、川島ら個性的な世界王者が数多く盛り上がった。この時代の帝拳ジムの期待は、横浜高で国体優勝し、甘いマスクの葛西だった。3度世界挑戦も王座をつかめず、トレーナーとなって村田を指導した時期もあった。「金メダルにプロでも頂点に立ったんだから、村田は運を持っている。ボクは実力がなかったが、運もなかった」と言っていた。

 大場から半世紀近くをへて、村田は帝拳ジムの日本人の世界王者として10人目となった。大橋ジムの大橋会長は「井上と村田がいれば、日本ボクシング界は当分安泰だ」と喜んだ。村田が今後どんな戦いを挑んでいき、伝説のボクサーになれるか。見守りながら楽しみたい。【河合香】

大相撲裏話

初めて地方に両国の土


 九州場所の土が、今場所から変わった。地方場所ではそれぞれの地域で取れる土を使用しているのだが、これまで数多くの力士から滑るという指摘が多くあった。それを受けて日本相撲協会が動き、東京・両国国技館の土俵の盛り土に使用している「荒木田」が地方場所で初めて使われることになった。

 「荒木田」は粘りがあり、速乾性もあることから盛り土に適し、現在は埼玉県内で取れるものを使用。場所前にはトラック5台で約60トンが運ばれて、土俵が作られた。

 では、力士らの反応はいかに。38歳ベテランの平幕の豪風は「明らかに違う。踏んだ瞬間に分かりましたよ。今までより確実に良い」と好感触。一方、足を滑らせるような内容が目立つ新小結阿武咲は「変わらないです」と言うも、他の力士の取組を見て「滑るねぇ」とつぶやいた。

 誰も土を言い訳にしたくない。しかし、力士は足の指で「土俵の砂をかむ」といわれるほど、土とは切っても切り離せない関係にあるが、稀勢の里は「弱い人が言ってるだけ」と一刀両断。土に惑わされずにいつもと変わらない、白熱した取組に期待したい。【佐々木隆史】

大相撲裏話

史上4位、合計「77歳6カ月」の対決

豪風をはたき込みで破った安美錦(撮影・岡本肇)


 39歳1カ月15日の安美錦と38歳4カ月27日の豪風。関取最年長と2番目の2人が昨年春以来1年半ぶりに幕内の土俵で相まみえた。計77歳6カ月は昭和以降4番目の幕内高齢対決だった。

 豪風は意識していた。過去15勝16敗の安美錦に勝ち逃げは許さないと、ずっと対戦を願い続けていて「すごくワクワクしていた」。

 安美錦はうれしがった。「オレが上がるのを待っていると聞いていた。だから、今日はしっかり当たった」。変化など巧みな技を持つ2人が、小細工なしに立ち合った。結果は長幼の序。年長者がはたき込んだ。

 ここ7場所、幕内最年長の称号は豪風が持っていた。返してもらった安美錦は「向こうも一生懸命、頑張っている。互いに高め合って、いい刺激になればいい。何回でもやってやる。こんなオレを励みにしてもらえればうれしいよ」。豪風は「今まではこわごわと行っていた。負けたけど、怖がらずに立ち向かえた。すごくうれしかった。またすぐにやりたい」と言った。

 亀の甲より年の功-。世代交代の言葉が北風のように迫ろうと、はねのける熱意がある。【今村健人】

大相撲裏話

振分親方本当はサインしたいけど…

振分親方(17年3月20日撮影)


 角界の人気者、振分親方(41=元小結高見盛)が、もどかしい思いで日々を過ごしている。日馬富士の暴行が発覚し、土俵外が注目される。そんな中、取組中に2階席の通路脇で館内警備を担当している振分親方は、業務中もファンからサインや写真撮影を求められる。だが「全部断っています。1人に応じてしまうと人が殺到し、混乱を招いてしまうので。でも、こんな時だからこそ、本当は全部丁寧に応じたい」と、いつもの笑顔を封印して話した。

 野球賭博や八百長問題などの不祥事が相次ぎ、空席が目立っていた時期を知っている。だからこそ同親方は、警備の合間に「現役の時は下から見上げてましたが、こうして上から見るのも面白いですよ。会場の盛り上がりを感じる」と、満員の客席を見渡しながら感慨深い表情で話した。

 一時の低迷から人気を回復した角界は、今回の暴行で再び厳しい目を向けられている。振分親方は、警備中に握手を求められると「すみません、通行の妨げになるので、それはできません」と、むしろ握手よりも距離を縮め、目の前で手を合わせて謝る。自分の形になると抜群に強かった現役時代同様、不器用な性格だけに警備に一生懸命向き合う。とまどいながらも、いつもと変わらない対応に努めている。【高田文太】

大相撲裏話

照ノ富士も…03年以来の年間のべ30人以上休場

松鳳山(右)を突き落としで破り3勝目を挙げた稀勢の里(撮影・岡本肇)


 関脇照ノ富士が休場した。4日目に琴奨菊に寄り切られ「力が入ってないな。しょうがないっす」と話していた。今場所10勝すれば、大関に復帰できたが、4連敗では…。幕内の休場者は今場所6人目、今年の総数で延べ30人となった。03年の同31人以来の多さで、平成以降で年間30人を超えたのは、02年の39人を含めて3年しかない。

 当時は世代交代が一気に進んだ。横綱貴乃花が01年名古屋場所から7場所連続で全休、02年九州場所も全休、03年初場所途中に引退した。横綱武蔵丸、大関の栃東、千代大海、魁皇らも休場が目立った。一方で、大関朝青龍が02年九州場所で初優勝、03年初場所で連続優勝して横綱昇進を決め、時代をたぐり寄せた。

 休場者が多いから世代交代が進む理屈はない。しかし、今場所の横綱、大関は白鵬が5戦全勝を守っているが、鶴竜が4場所連続で、日馬富士も3日目から肘の負傷で休場。3場所連続休場明けの稀勢の里はこの日、松鳳山に土俵際で逆転の突き落としを決め、ヒヤヒヤながら3勝2敗で白星を先行させた。「今日の(白星)はだいぶでかいんじゃないかと思います」。御嶽海、阿武咲、貴景勝…。新星の勢いを感じながら、横綱、大関の苦闘が続いている。【加藤裕一】

大相撲裏話

600回連続出場錦木、休まない秘訣

錦木


 平幕の錦木が九州場所4日目に通算連続出場600回を記録した。06年春場所で初土俵を踏んでから、1度も休場することなく到達。今場所の幕内力士では、1035回の玉鷲、810回の勢に続く記録となった。

 本土俵に立ち続ける錦木は、稽古土俵にも立ち続けている。連日バス移動する巡業中は朝稽古の量を調整する力士もいるが、錦木は休むことなく真っ先に土俵に上がる。関取衆らによる申し合い稽古のため番数は限られるが、タフさは人一倍際だっている。

 なぜこんなにタフなのか。「無理をしない」。もうひとつは「ストレス発散を見つけること。お酒ですかね」とニヤリ。巡業中は1人でもふらりと、地元の居酒屋に入って地元のお酒を飲むほどの酒好きだ。場所中も晩酌を1日たりとも欠かすことはなく「稽古頑張ったら、取組が終わったら飲むぞ、という感じ」。体と心にゆとりを持つことが、錦木流のタフさの秘策だ。

 4横綱時代だが、1度も皆勤がない。一方、今場所の幕内力士43人中13人が、それぞれ初土俵から休場なしで走っている。いずれも三役以下の力士だ。元気のない上位陣を尻目に、平幕力士が土俵上を走り回る。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

ヘビー級王座統一戦ジョシュアvsワイルダーが来年実現か?


 ヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が統一戦に向け、いよいよ下交渉を開始した。20戦全KO勝ちのジョシュア対39戦全勝(38KO)のワイルダー。2018年の最注目カードになりそうだ。

 ジョシュアは12年ロンドン五輪スーパーヘビー級で金メダルを獲得後、13年10月にプロデビュー。期待どおりに成長し、昨年4月に16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)にも11回TKO勝ちを収めた。左ジャブで切り込み、破壊的な右ストレートで仕留める正統派の強打者だ。相手が接近してきた場合は右アッパーもある。クリチコ戦に続き先月28日のV4戦でも10回TKO勝ちを収め、不安視されたスタミナにも問題がないことを証明した。

 一方、WBC王者のワイルダーは08年北京五輪ヘビー級銅メダリストで、同年11月にプロデビュー。ヘビー級にしては細身だったため体づくりに時間がかかったものの、持ち前のパワーでKOの山を築いていった。その数はデビューから32試合連続となった。

 33戦目は判定勝ちに留まったが、代わりにWBC王座を手に入れた。以後、6連続KO防衛を果たしている。4日のV6戦は、過去唯一の判定決着となった前王者との再戦だったが、179秒の間に右ストレートなどで3度のダウンを奪ってKO勝ちを収めている。

 体格を比較してみると、ジョシュアが身長198センチ、リーチ208センチ、直近の試合の体重は約115キロ。ワイルダーは身長201センチ、リーチ211センチ、直近の試合の体重は約101キロで、全体的なボリューム感ではジョシュアが勝る。また、ジョシュアはクリチコ戦ではダウンを喫したものの立ち直って逆転しており、大きく経験値を上げている。攻撃偏重のワイルダーよりも総合的な評価では上回っており、そのため現時点のオッズは5対2でジョシュア有利と出ている。

 驚異的なKO率を誇るヘビー級世界王者同士による英米決戦に向け、先週、陣営のトップ同士がニューヨークで会食し、下交渉を開始した。ジョシュア陣営が他の選手との対戦をチラつかせるなど、まだまだジャブを飛ばしている段階といえるが、最も大きなビジネスになる試合が両王者の直接対決であることは両陣営とも分かっているはず。今後、駆け引きをしながら対戦の時期や開催地、報酬額、その分配などが話し合われることになるものと思われる。「2月か3月に計画している次戦でワイルダーと戦うことはないと思う」とジョシュア陣営が話していることから、来春にそれぞれが防衛戦を挟み、統一戦は夏から秋にかけて現実的なものになりそうな気配だ。ヘビー級頂上決戦が待ち遠しい。

大相撲裏話

記録保持者の常幸龍が炎鵬止めた


 東幕下14枚目常幸龍(29=木瀬)が、西幕下14枚目炎鵬を止めた。炎鵬は序ノ口デビューから21連勝中で、169センチの体で番付を駆け上がってきた白鵬の内弟子。力で圧倒し、押しつぶすように土俵に沈めた。「記録保持者としては、負けられません」。会心の笑みに先駆者の意地が漂った。

 前相撲を含む初土俵からの連勝記録は板井の「29」だが、序ノ口デビューからの連勝記録「27」は常幸龍が持つ。だから「自分で止めてやろう」と思った。「ちっちゃかった。ああいうタイプはいないから、いろいろ研究しようと思ったけど(炎鵬が)負ける相撲(の映像)がなくて」と苦笑いした。

 学生横綱の肩書を手に、日大から角界入り。11年名古屋場所から連勝記録を作り、14年秋場所には小結。15年初場所で日馬富士から金星奪取。ところが、16年6月に右膝手術を受け、同年九州場所で三段目まで落ちた。

 今は復活途上にある。「下半身に重点を置いて稽古をしたら、自分でも驚くほど体重が増えたんです。でも、それで動けますからね」。体重は1年前から18キロ増の170キロになった。「まわしが短くなった。新しいのを…」。望むのは当然、関取の証しの白まわし。先輩が、後輩の壁になった。【加藤裕一】

大相撲裏話

39歳安美錦553日ぶり幕内○ ケガ乗り越えまだ進化

琴勇輝(左)を上投手げで破り再入幕を白星で飾った安美錦(撮影・岡本肇)


 業師安美錦の目に、光るものがあった。昨年夏場所初日以来553日ぶりに味わう、幕内力士としての勝ち名乗り。押し相撲の琴勇輝を押し込み、素早い反応からの鮮やかな左上手投げに「稽古場でもしたことない」とおどけて「やっとここに戻ってきたなという思いと、しっかりここで相撲を取るんだという気持ちで臨めた」と感慨に浸った。

 同場所2日目で左アキレス腱(けん)を断裂した際「引退危機」と騒がれた。「見る人が見たら、そう思う。でも、やめる選択肢はなかった。もう1回出てからだと」。周囲への反骨心と、支えてくれる絵莉夫人への恩返し。その思いだけでここまでたどり着いた。

 秋巡業中、そばに1冊の本があった。「老舗の流儀-虎屋とエルメス」(新潮社)。500年の虎屋と180年のエルメス、2つの老舗企業が長続きする秘密に迫っていた。「業種が違うように見えて似ている。相撲協会も『老舗』。変わって良いところ、変わらなきゃいけないところがある。参考になるかなって」。

 昭和以降、最年長39歳で再入幕を果たした安美錦もまた、1つの“老舗”。だが、幕内664勝目は「力でなく、体の動きだけで取れた」。まだ“進化”の途上。止まらない。それが安美錦の流儀。【今村健人】

リングにかける男たち

新日本プロレスらしい戦いが米国で支持された意味

後藤洋央紀にスリング・ブレイドを見舞う棚橋弘至(左)(2016年7月31日撮影)


 新日本プロレスの「バレットクラブ」ファンならば待望の対戦カードだっただろう。海の向こう、米国で元ボス対決が実現した。10月22日(日本時間23日)、WWEのロウブランドによるPPV大会「TLC」(米ミネソタ州)で急きょ組まれた。初代ボスで、この日はデーモンバージョンのフィン・ベイラー(プリンス・デヴィット)は当初、ブレイ・ワイアットとの対戦が決まっていた。ところがワイアットが体調不良のために欠場。代役として白羽の矢が立ったのが、同じWWEのスマックダウンを主戦場とする2代目ボスのAJスタイルズだった。

 WWEではあるものの、2人の対決は新日本マットのムードが漂っていた。ヘッドロックとグラウンドの攻防でスタート。ベイラーが回し蹴り、延髄斬り、ロメロスペシャルを繰り出せば、AJも負けじと逆水平チョップ、フライングフォーアームで応戦した。場外戦もスリリングな内容で、会場から悲鳴も上がった。いつものWWEとは違う雰囲気に包まれると、途中にはベイラーが棚橋弘至の必殺技スリングブレイド、AJも後藤洋央紀の必殺技となる牛殺しで反撃した。

 終盤もエルボーの打ち合い、ベイラーがリバースのブラディサンデーに成功。AJの雪崩式フランケンシュタイナーを耐え抜くと最後はクー・デ・クラ(ダイビングフットスタンプ)で18分15秒、3カウントを奪った。熱気に包まれた会場。リングの中心で両者は向き合い、ウルフパックを決めた手をくっつけた。以前、新日本マットで繰り返されてきたバレットクラブの決めポーズ「TOO SWEET」。観客の盛り上がりが最高潮に達した瞬間だった。

 ベイラーは13年5月、新日本プロレスで自らバレットクラブを結成した。約1年後となる14年4月に退団。そのベイラーと入れ替わるようにAJスタイルズが新日本マットに登場し、バレットクラブの加入を表明した。そのため、2人が日本で一緒にユニットを組むことはなかった。急きょ組まれたカードだったが、同PPV大会のベストマッチと米国内で評価されていた。WWE上層部がどのように見ていたかは分からないが「バレットクラブ魂」が詰まった新日本プロレスらしい両者の戦いが米国で支持された意味は大きいだろう。【藤中栄二】

大相撲裏話

無念休場の鶴竜からにじみ出た「復活」に懸ける思い

住吉神社で土俵入りを行った鶴竜(2017年11月2日撮影)


 横綱鶴竜(32=井筒)の九州場所(12日初日、福岡国際センター)休場が決まった。4場所連続の休場で、4横綱となって5場所目で、またも全員皆勤はならなかった。相撲ファンにとっては残念なニュースとなったが、何よりも鶴竜本人の無念の思いは想像に難くない。

 九州場所にかける思いの一端を、かいま見た場面があった。2日、福岡市の住吉神社で4横綱が土俵入りを披露した後だった。着替えて引き揚げ、車に乗り込む直前に声を掛けた。今場所から6年ぶりに相撲担当に戻ったことを報告すると「おおっ、復活したんだ」との第一声。その時、何ともいえない違和感を覚えたのは「復活」という言葉を選んだことだった。

 モンゴル出身とはいえ、稽古後には一般紙の政治や経済の記事を隅々まで熟読する姿を何度も見てきた。日本人以上にきれいな日本語を使う鶴竜を思い返すと、記者の担当替えは「復活」などという大それたものではなく「戻った」や、せいぜい「復帰」というもの。第一声の後にも、再度「復活」と使った。不意に口をついて出てきた言葉に「復活」にかける思いがにじみ出ていたように感じた。

 そもそも、どうやって角界入りすれば良いか分からず、15歳の時に相撲雑誌の編集部と相撲愛好会に計2通の手紙を送り、思いの丈を日本語で書き連ね、入門に至ったあこがれの世界。その中でも頂点の横綱にまで上り詰めながら、思うような相撲が取れない、ファンの期待を裏切っていることへの無念の思いは、容易に察することができる。

 前回の担当時代に私が最後に取材したのは、鶴竜が初の大関とりに挑んだ11年秋場所だった。その年に起きた東日本大震災の被災地を回った際には、横綱、大関を立てながらも、誰よりも積極的に子どもや高齢者とふれ合っていた姿は忘れられない。来年、満を持して「鶴竜復活」という見出しが躍る日が来ると、期待しているファンは少なくないはずだ。【高田文太】

原功「BOX!」

ロンドン五輪金メダリスト13人中7人が世界王者に


 先月22日、村田諒太(31=帝拳)が宿敵アッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)に7回終了TKO勝ちを収め、5カ月前の雪辱を果たすとともにWBA世界ミドル級王座を獲得した。村田は12年ロンドン五輪ミドル級金メダリストでもあるが、これで同大会の優勝者がプロに転向して世界一の座についたのは男女合わせて7人(男子5人、女子2人)となった。

 ロンドン五輪では男子が10階級、初の公式競技となった女子はフライ級、ライト級、ミドル級の3階級が実施された。合計13人の金メダリストが誕生したわけだが、このうち10人がプロに転向した。

 最も早い出世を果たしたのは08年北京大会でも金メダルを獲得しているワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ)で、デビューから8カ月後、3戦目でWBC世界フェザー級王座を獲得。さらに7戦目でWBO世界スーパーフェザー級王座を奪取し、いまや手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。10戦9勝(7KO)1敗。この敗北はデビュー2戦目の世界初挑戦試合で惜敗したものだ。

 これに続いたのがスーパーヘビー級金のアンソニー・ジョシュア(28=英)だ。こちらはプロデビューから2年半、16連続KO勝ちで最重量級のIBF王座を手にした(16年4月)。以後、元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を退けるなどヘビー級王座を4連続KO防衛中で、戦績を20戦全KO勝ちに伸ばしている。

 16年9月にはロンドン大会ヘビー級金のオレクサンデル・ウシク(30=ウクライナ)が、プロ10戦目でWBO世界クルーザー級王座を獲得した。すでに3度の防衛を果たしている(13戦全勝11KO)。

 その2カ月後、ゾウ・シミン(36=中国)がWBO世界フライ級王座を獲得して続いた。このゾウは04年アテネ大会銅のあと08年北京大会とロンドン大会を連覇した技巧派だが、プロ転向時には30歳を超えていた。今年7月、木村翔(28=青木)に11回TKO負けを喫して王座から陥落した。11戦9勝(2KO)2敗。そして先月、村田が男子「5人目」となったわけだ。プロ転向から4年、戦績は14戦13勝(10KO)1敗。

 女子はロンドン大会の金メダリスト3人、フライ級のニコラ・アダムス(35=英)、ライト級のケイティー・テイラー(31=アイルランド)、ミドル級のクラレッサ・シールズ(22=米)が揃って16年リオデジャネイロ大会にも出場。テイラーは初戦で惜敗したが、アダムスとシールズは連覇を果たした。3人のうち昨年11月にプロデビューしたシールズは、今年8月にWBCとIBFの女子世界スーパーミドル級王座を獲得している。4戦目(全勝2KO)での戴冠だった。2カ月後の10月、テイラーが7戦目(全勝4KO)でWBC女子世界ライト級王者になった。今年4月にはアダムスが34歳でプロ転向を果たしている。まだ2戦2勝(1KO)だが、来年には大きな勝負をかけそうだ。

 すでにシールズやテイラーのように16年リオデジャネイロ五輪組が結果を出し始めている。村田の今後はもちろんのこと、究極のエリートといえるオリンピアンたちの活躍に注目していきたい。

リングにかける男たち

比嘉が初防衛、愛弟子の認知度に具志堅氏「!!!」

報道陣の質問に答える具志堅用高会長(左)の横で爆笑する比嘉大吾(2017年10月23日撮影)


 「だって、誰がチャンピオンか分からないでしょ!!!」

 最近、かなり良いなと思った言葉だ。

 具志堅用高氏、その不滅が近年あらためて意識される世界戦13度防衛の日本記録保持者で、方々のバラエティー番組を中心に意表を突いたパンチならぬ言動と距離感の詰め方、なにより昔は虫が死んでいたこともあったと聞くトレードマークのアフロヘアは、そのボリュームを多少少なくしてもいまだに象徴的で、おそらく日本人が最も知っている日本人ボクサーかもしれない。

 その人が文字通り大きな声を上げたので、「!!!」と感嘆符を3度も重ねてしまったが、おそらくその場に居合わせた人なら、テレビ番組で見せる姿とは一線を画す大まじめな正論に、この3度「!」も納得してくれるのではないか。10月23日、都内のホテルの一室で、前夜にWBC世界フライ級の初防衛に成功した比嘉大吾、同じ沖縄県生まれ、白井・具志堅スポーツジムの愛弟子が喜びの一夜明け会見を行った時だった。

 思い返せば、この会見、具志堅会長はなにやら鬱憤(うっぷん)があるようだった。比嘉が試合の前日計量をクリアした後の目を離した隙に、最初の食事でみそ汁を流し込んでしまって、体重を戻すために肝心の炭水化物や肉などがスムーズに胃に入らずに試合前の発汗に支障をきたしたことを「聞いたことがないよ!」と叱責(しっせき)し、「赤だしっていうのは塩辛くて飲めたもんじゃないねえ」と笑いが起こる救いのジャブで和ましながらも、「次は変えないといけない」と口ひげをへの字に曲げる姿もあった。察するにその厳しい眼光は、比嘉自身に足りないもの、そして比嘉を取り巻く環境に足りないものを痛感したからだったと思う。

 「どこも(比嘉の)1面がないねえ」。そうスポーツ紙の前日20日の試合の報じ方に落胆の色を隠さなかった。前夜のトリプル世界戦のメインカードはWBA世界ミドル級タイトルマッチで、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太がアッサン・エンダムへのリベンジに成功し、ついに世界ベルトをつかんだ一戦。比嘉はセミファイナルで、1面は村田一色になるのは当然と思われたが、具志堅会長の「1面~」口調に一切の冗談のトーンはなかった。いたって大まじめだった。それ以降に発した言葉。「大吾より(自分の愛犬の)グスマンの方がまだ有名だよ」「昔は90日で試合をしたもんだよ。半年も間が空いたら忘れられてちゃう」。一貫していたのは知名度への敏感さ。「1面」もしかり。14戦連続KO勝利で初防衛戦まで飾った22歳の愛弟子の世間的な認知度はいかほど。疑問符が付きまくっていたのだ。そして、いよいよ、その矛先が比嘉にとどまらない現状に打ち込まれたのが、冒頭の言葉だった。

 「だって、誰がチャンピオンか分からないでしょ!!!」

 あらためて、良い。つまり「いまは4団体もあるでしょ。どんな階級にどんなチャンピオンがいるかファンもわからないよ」なのだ。具志堅会長が現役時はWBAとWBCの2つ。いまはIBFとWBOも日本ボクシングコミッション(JBC)から認定されている。フライ級ではWBAが井岡一翔、WBCが比嘉、IBFがニエテス、WBOが木村翔。4団体中3王者が日本人。最軽量級のミニマム級からフライ級まで合計12人の王者のうちで見ても8人を占める。これはもちろん実力の高さもあるが、世界的な選手層の薄さも1つの要因でもある。そして何より、王者が多すぎることは、具志堅会長の鋭い指摘通り、「誰がチャンピオンか分からない」状況を生んでいることも事実だ。試合前から、WBA王者の井岡一翔の名前を挙げてターゲットと明言することにちゅうちょはなかった。これはパフォーマンスではなく、具志堅会長なりの危機感の現れだったのだと思う。愛弟子にとってはリスクがある相手だし、統一戦の盛り上がりに比例して失うものだって大きい。しかし、王者は知名度あってこそ。それは30年以上前に日本を熱狂の渦に巻き込み、いまも抜群の知名度を誇るボクサーの体感だろうし、誇りでもあると見えた。抜群にすてきだ。

 いまボクシングファン以外の人に日本人の現役世界王者の名前を聞いたら、11人のうち何人まで答えが出るか、考える。きっと多くないだろう。それは4団体認定の実情だろうし、どうしても情報量は拡散されるのだから、致し方ない。ではその中でチャンピオンたちはどうすればいいのか。当然、勝ち続けることが大前提。それも忘れられないペースで。そして、他の日本人の「ライバル」たちを倒していくことが一番ではなかろうか。

 「高校の伝統は?」と聞かれ、「ナショナルです」と電灯のメーカーを答える具志堅会長は最高だと思う。ただ、ボクシングについて急所を一言で打ち抜くような発言も最高だ。次戦に沖縄凱旋(がいせん)試合もぶち上げたのも、いかに注目されるかを熟考するからだろう。予期しない変化球とド直球。その振り幅の大きさを目の当たりにしながら、比嘉がどう誰もが知る「チャンピオン」になっていくのか。また「!!!」と書きたくなるような言葉が飛び出したら伝えていきたいし、待っています。【阿部健吾】

原功「BOX!」

ワイルダーV6なるか、因縁の相手スティバーンと再戦


 38戦全勝(37KO)という驚異的なレコードを誇るWBC世界ヘビー級王者、デオンタイ・ワイルダー(32=米)が4日(日本時間5日)、米国ニューヨークのバークレイズ・センターで現WBC1位にランクされる前王者、バーメイン・スティバーン(39=ハイチ/米)を相手に6度目の防衛戦に臨む。もともとワイルダーは元WBA暫定王者のルイス・オルティス(38=キューバ/米)と戦う予定だったが、オルティスのドーピング違反が発覚したため1カ月前になって対戦相手がスティバーンに変更された経緯がある。

 ワイルダーとスティバーンは15年1月、今回とは逆の立場で拳を交え、ワイルダーが大差の12回判定勝ちで戴冠を果たしている。

 この試合でワイルダーは念願の世界一の座を獲得したが、デビュー戦からの連続KO勝ちは32でストップした。その後、5度の防衛戦をすべて規定ラウンド内で片づけているワイルダーにとって、今回の再戦はKO勝ちがノルマともいえる。「数字だけでなく、あらゆる面で自分が世界でベストであることを証明したいんだ」と王者は意気込んでいる。揺るぎない自信があるとみえ「この試合で負けるようなことがあったら引退して別の道を探す」とまで言っている。

 これに対し前王者は「前回の試合時はコンディションが悪かっただけ」と、実力負けではないと弁明している。ただし、無冠に戻ってから行った10カ月後の再起戦で10回判定勝ちを収めただけで、以後はブランクが続いている。その再起戦では初回にダウンを喫しており、2年ぶりの実戦には不安がつきまとう。戦績は28戦25勝(21KO)2敗1分。ワイルダーほどではないがKO率は75パーセントと高い。

 身長201センチ、リーチ211センチのワイルダーに対しスティバーンは188センチ、196センチと体格でも劣るだけに、雪辱と返り咲きを果たすためには思い切った仕掛けが必要になりそうだ。もともとスティバーンも11月4日のアンダーカードに出場することになっていたため調整は問題なさそうだが、実戦の勘が鈍っているようだと惨敗というケースも考えられる。

 総合力に加え体格と勢いでも勝るワイルダーが速い左ジャブで煽り、パワフルな右ストレートに繋ぐことできれば前半KO防衛もありそうだ。スティバーンは被弾を最小限に抑えて前半を乗り切って勝負を長引かせたいところだが、王者が簡単にそれを許すとも思えない。20対1というオッズが出ているように王者の返り討ち、V6が濃厚な試合といえる。ただし、一発で戦況が急転するヘビー級だけに、ワイルダーも油断は禁物だ。

リングにかける男たち

強面も繊細な比嘉、優男も強心臓の拳四朗に興味津々

日刊スポーツを手にガッツポーズするWBC世界フライ級王者・比嘉大吾(左)と同ライトフライ級王者・拳四朗(2017年10月23日)


 WBC世界フライ級王者比嘉大吾(22=白井・具志堅)は強面(こわもて)だ。沖縄出身らしい濃いめの顔に、ゴワッと蓄えたあごひげ。WBC世界ライトフライ級王者拳四朗(25=BMB)は優男だ。京都出身らしいはんなり顔で、お肌つるつる。見た目対極にある2人の世界王者が22日のトリプル世界戦でそろって初防衛に成功した翌日、都内で並んで会見した。実は内面も対極というのが、意外で興味深かった。

 比嘉は試合前日の計量後から、体調がエライことになっていたらしい。

 「ご飯を食べに行って、先に白ご飯とみそ汁を出してもらって食べたんですが…」。試合当日。トイレに行くと…固形物は出ず、ほぼ液体ばかり。会場入りし、アップを始めても汗が全然出ない。「俺、どうなるんやろう」とすごく不安だったそうだ。会見では師匠の具志堅用高会長に「ご飯にみそ汁なんて、全然ダメ!」と冗談交じりにしかられていた。

 対して拳四朗は計量後、5万4000円の超豪華特製焼き肉弁当を“同名”の焼き肉店「けんしろう」のオーナーに差し入れてもらい、ガツガツ食べた。記者が52年生きてきて、1度も食べたことがないシャトーブリアンをほおばり「これ、ヤバッ! めっちゃ柔らかい」と大はしゃぎした。「だんだん緊張しなくなってきてるんです。初めての世界戦から前日、しっかり眠れるようになってるし」。試合当日はトイレも絶好調だった。

 ほんで、試合の結果はというと。比嘉は、過去21戦でダウン経験ゼロの同級5位トマ・マソンを暴風のような攻めに巻き込み、7回1分10秒TKOで仕留めた。デビューから14戦14KO勝ちで、パーフェクトレコードを伸ばした。もうバケモノや。拳四朗は同級1位ペドロ・ゲバラに判定勝ち。ジャッジ3者全員のポイントでリードを許した4回までの劣勢を逆転したのだから、それはそれでなかなかの根性やと思う。

 立ち話で、お互いの印象を聞いてみた。比嘉の拳四朗評。「拳四朗さんって、自分ができないリラックスを当たり前にできる。すごい。試合前日に映画見たり、買い物行ったりするんでしょ?」。拳四朗の比嘉評。「全部KOなんて本当にすごい。尊敬します」。

 強面やのに妙に繊細でコンディションを崩してもKOしてしまう海人。試合後のテレビカメラに顔を近づけて、投げキッスまでしてしまう癒やし系の京男。階級は1つ違い。いつか、ベルトかけて戦ってくれんかなあ。【加藤裕一】

大相撲裏話

やんちゃ照ノ富士かニュー照ノ富士か 注目九州場所

巡業に合流し、笑顔の照ノ富士


 1年納めの九州場所(11月12日初日、福岡国際センター)が迫ってきた。秋場所は初日から3横綱が休場する異例の事態だっただけに、今度こそ4横綱がそろって皆勤するか、期待したいところ。やはり途中休場した宇良(木瀬)の復活や、三役昇進が濃厚な阿武咲(阿武松)の暴れっぷり、かど番で迎える大関高安(田子ノ浦)の復調など、相変わらず角界は話題に事欠かない。

 そんな注目力士の1人が照ノ富士(伊勢ケ浜)だ。かど番で迎えた秋場所は、左膝半月板損傷のため6日目から休場(1勝5敗9休)。九州場所は大関から陥落する。規定により10勝を挙げれば、1場所で大関に返り咲くだけに、その星取から目が離せない。

 この秋巡業は治療とリハビリを経て、19日の奈良・香芝市巡業から合流した。大事を取って、当初は回避するかと思われた割(取組)にも加わり、朝稽古も翌日から土俵に上がり、平幕の正代らと10番も取った。膝の状態を試しながらの、文字通り試運転の稽古だった。それでも、いきなり割に入ったことには「それぐらい誰だって出来るよ。出来るのに(他の力士は)やらないだけ」と、気丈な言葉を発し、大関から陥落することにも「別に。(ケガが)治れば(大関に)いつでも上がれる。番付が落ちることは何とも思っていないよ。自信がなければ相撲は取れない。(陥落する)下から向かっていく立場の方がやりやすい」と、あの持ち前の負けん気の強さをのぞかせていた。

 一方で、怖いもの知らずを感じさせた25歳に、慎重さも備わったことを感じることもある。気丈な言葉を口にした後で「ちょっと弱気になってるなぁ」と話したコメントからだ。「以前は(自分に)荒々しさがあったけど、それが今はないんだ。何でだろう。それ(膝)と気持ちやろな。怒ることも最近、ないんだ。何でもかんでも最近は楽しく感じる。これはアカン」。自戒を込めた口調だった。

 ケガをして大関という看板が外れ、いろいろ思うところもあるのだろう。体を生かした強引に相手を抱え込む相撲が膝のケガを誘発したという、親方衆の声もある。自分の相撲を見つめ直す機会であれば、それも良し。あくまでも横綱という頂点を見据える照ノ富士にとっては、大関陥落は一過性の屈辱にすぎず、いい経験になったと、後になれば思えるはずだ。あの奔放でヤンチャな照ノ富士が戻るのも楽しみだし、リニューアルされた姿も見てみたい。そんな期待の目で、九州場所の土俵を見ることにしよう。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

ヘビー級18年統一戦へ機運高まるなかジョシュアはタカムと対戦


 28日(日本時間29日)、英国カーディフでヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)が4度目の防衛戦を行う。その1週間後の11月4日(日本時間5日)にはWBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が米国ニューヨークで6度目の防衛戦を予定している。ともに10月に入って挑戦者が変更されるという慌ただしい試合だが、2試合とも王者の圧倒的有利が伝えられる。このままジョシュアとワイルダーが勝ち進めば2018年には統一戦という機運が盛り上がっているだけに2週連続の世界ヘビー級タイトルマッチに要注目だ。

 12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストのジョシュアは昨年4月、プロ転向から2年半、16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元3団体統一王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで退け、IBF王座3度目の防衛を果たすとともにWBAからスーパー王者に認定された。

 身長198センチ、リーチ208センチ、体重113キロ前後の恵まれた体格からスピードのあるワンツーで攻め込む正統派で、19戦全KO勝ちというレコードを誇る。クリチコ戦では5回にダウンを奪ったあと、6回には自身がダウンを喫するという窮地があったが、そこから這い上がって逆転した。依然として耐久力には疑問符がつくもののスタミナ面は問題ないことを証明している。

 今回、ジョシュアはIBFの指名挑戦者でもあるクブラト・プーレフ(36=ブルガリア)と戦う予定だったが、試合の2週間前になってプーレフが肩を負傷。そのため急遽、3位のカルロス・タカム(36=カメルーン/フランス)に相手が変更された。このタカムは04年アテネ五輪に出場(スーパーヘビー級1回戦敗退)した実績を持つ実力者で、プロでは39戦35勝(27KO)3敗1分の戦績を残している。世界ランキング入りしてから5年以上が経つが、王座に挑むのはこれが初めてとなる。身長187センチとヘビー級にしては大きくないが、プレッシャーをかけながら思い切りのいい左右のフックで飛び込む好戦型だけに危険な相手といえる。ジョシュアも「以前からタカムのことはチェックしていた。彼は強くて狡猾な面もあるので油断ならない」と気を引き締めている。

 体格やスピードなど総合的な戦力で勝るジョシュア有利は動かしがたいが、25対1のオッズほどに力量差があるとは思えない。王者の右ストレートが炸裂、中盤までのKO防衛が濃厚ではあるが、その一方でタカムのラフな攻撃に手を焼く可能性もある。