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原功「BOX!」

シールズ初防衛戦を全米中継へ、女子ボクシング人気復活なるか


 五輪連覇後にプロ転向し、昨年8月に4戦目でWBCとIBFの女子世界スーパーミドル級王座を獲得したクラレッサ・シールズ(22=米)が12日(日本時間13日)、米国ニューヨーク州ベローナで両王座の初防衛戦に臨む。挑戦者は20戦17勝(2KO)3分の戦績を誇る元WBC女子ミドル級王者のトリ・ネルソン(41=米)。無敗対決を前にシールズは「12日から始まる今年の旅が楽しみ」と、試合が待ちきれない様子だ。

 シールズは父親の影響で11歳のときにボクシングを始め、ジュニアの大会に出場して経験を積んだ。12年の世界選手権では2回戦でポイント負けを喫したが、これがアマチュア、プロを通じて唯一の敗北だ。その年のロンドン五輪に17歳で出場すると、3試合を勝ち抜いて75キロ以下の女子ミドル級で金メダルを獲得した。

 14年の世界選手権、16年の世界選手権を制すると、16年リオデジャネイロ五輪でもミドル級で優勝、ロンドン大会に続く連覇を果たした。アマチュア戦績は78戦77勝(18KO)1敗(75戦74勝1敗説もある)。女王の名に相応しい実績といえる。

 16年11月にプロ転向を果たすと2戦目にNABF北米王座、3戦目にWBCシルバー王座を獲得。そして昨年8月には4戦目(全勝2KO)で2団体の世界王座についた。実力はもちろんのことイベントのメインに据えられ、テレビがシールズの試合を生中継するなど米国での人気と注目度は高い。

 挑戦者のネルソンは、シールズがジュニアの大会に出ていたころ(10年)に34歳でプロデビューし、7年半も無敗を保っている。この間、WBC女子ミドル級王座やマイナー団体のミドル級、ウエルター級、スーパーウエルター級、スーパーミドル級王座を獲得しており、侮れない相手といえそうだ。

 米国ではレイラ・アリ(米)やクリスティ・マーティン(米)らの活躍で女子ボクシングは90年代に一時的に米国で人気を集めたが、彼女らの引退を機に下火になっていた。現在、シールズの台頭によって再び注目されるようになりつつある。その点はシールズも十分に理解しており「私の最終目標は女子ボクシングの人気を高めること。そのためにも頑張る」と話している。今回も大手ケーブル・ネットワーク、ショータイムで試合が全米に放送される予定だ。22歳の女王の奮闘に注目したい。

大相撲裏話

服部桜“双葉山超え”70連敗も「逃げるのが負け」

松岡に敗れ、70連敗を喫した服部桜(撮影・狩俣裕三)


 元横綱朝青龍のおいが出た、番付外の前相撲が終わった後、初場所6日目の最初の取組で“記録”が生まれた。西序ノ口24枚目服部桜(19=式秀)が負けた。両上手を引き粘ったが、寄り切られた。70連敗。「数字は頭にはありました。勝ちたくて、左上手を取りにいったけど…」。双葉山の不滅の69連勝を、序ノ口の連敗で超えてしまった。

 15年九州場所の序ノ口デビューから16年夏場所6日目に初白星を挙げたが、通算成績1勝92敗1休。引き技で負けたのは16年秋場所3日目の引き落とし1度だけ。ほぼ全部、体力負けだ。身長180センチだが、入門時の体重は65キロ。75キロだった昨年秋場所後、師匠の式秀親方(元前頭北桜)に「10キロ太れ!」と言われ、3度の食事、コンビニおにぎりの間食で現在83キロ。だが、まだまだだ。

 神奈川・茅ケ崎市立梅田中卒業後、7歳から憧れた角界へ。同親方は、親に黙ってやってきた少年を1度追い返し、母親連れの2度目の志願で折れた。「情熱を感じました。今は『2年前の自分より強くなってるぞ』と言い聞かせてね。逃げるのが一番の負けですから」。くしくも部屋には、先代式秀親方(元小結大潮)の師匠双葉山の写真が飾られてある。“最強の人”に見守られ、服部桜は2勝目を目指す。【加藤裕一】

大相撲裏話

大関→十両、照ノ富士へ経験者・元大関雅山が助言

照ノ富士(17年9月14日撮影)


 3日目から休場した元大関で東前頭10枚目の照ノ富士(26=伊勢ケ浜)に、かつての自身を重ねてエールを送る人がいる。元大関雅山の二子山親方(40)だ。照ノ富士は先場所までの3場所は左膝痛などが影響して休場し、今場所は「2型糖尿病で約1週間程度の療養を要す」との診断書を提出。再出場しなければ来場所の十両転落は確実な状況だ。二子山親方は「照ノ富士は若いのだから、もう1度はい上がってほしい。力はある。燃え尽きたら終わる」と気力の重要性を訴え、再浮上に期待した。

 22歳で大関となった二子山親方は在位8場所、24歳の時に陥落した。照ノ富士も23歳で昇進した大関を14場所務めたが、25歳の昨年11月九州場所で関脇、今場所から平幕へと番付を落とした。昭和以降、元大関で十両まで番付を落としたのは大受、雅山、把瑠都の3人しかいない。把瑠都は引退前は休場続きで、番付では十両に名を連ねたが、実際には出場していない。十両の土俵に立った最後の元大関は雅山となっている。

 二子山親方は大関陥落から約9年後、幕内に返り咲いた。その後も小結まで番付を戻すなど、大関陥落後に関脇以下を史上最長の68場所務めた。35歳で引退した13年春場所は十両として取り切り3勝12敗。千秋楽に3勝目を挙げるなど、最後まで目の前の一番に全力だった。「まだ燃え尽きていなかった。絶対にチャンスがくると信じていた。最終的には(幕内に)上がれなかったけど腐らず稽古を続けることが大事」。当時を振り返り、復活を期待していた。【高田文太】

原功「BOX!」

初防衛戦スペンスはウエルター級サバイバルウォーズの核になれるか


 実力のあるスター選手が集結し、激しいサバイバルウォーズが展開されそうなウエルター級で核になる可能性が高いと目されているIBF王者、エロール・スペンス(28=米)が20日(日本時間21日)、米国ニューヨークで元2階級制覇王者のレイモント・ピーターソン(33=米)を相手に初防衛戦を行う。12年ロンドン五輪出場後にプロデビューし、22戦全勝(19KO)と破竹の快進撃を続けているサウスポーは、経験値の高いベテランをも撃破してしまいそうだ。

 ロンドン五輪ではウエルター級ベスト8に甘んじたスペンスだが、12年11月にプロに転向後は圧倒的な強さを見せつけている。身長177センチ、リーチ183センチとバランスのとれた体からスピードに乗ったパワフルなコンビネーションを繰り出して相手を粉砕し、見る者を魅了してしまう。ファイターが相手でも打ち負けることはなく、テクニシャンが相手でもスキルで引けをとることはない。どの距離でも戦える万能型といっていい。現在の王座は昨年5月、相手の地元でもある英国で11回KO勝ちを収めて奪い取ったもので、スタミナも度胸もある。現状に満足することなく努力を続ければスーパースターの座も夢ではない逸材だ。

 初防衛戦の相手、ピーターソンはスーパーライト級時代にWBAとIBFの2冠王者になり、ウエルター級転向後の昨年2月にはWBA王座を獲得した実績を持つ実力者で、39戦35勝(17KO)3敗1分の戦績を誇る。スペンスほどのパワーはないが、こちらも距離をとっても接近しても戦えるタイプだ。世界戦を8度経験しており、その点では王者を上回っている。

 16対1というオッズが示すように圧倒的にスペンス有利とみられているが、多くのファンや関係者の関心は、実はその先にあるといってもいいだろう。このクラスにはWBAスーパー王座とWBC王座を持つキース・サーマン(29=米)という高度安定王者がおり、下の階級からはオールマイティなテレンス・クロフォード(30=米)が上がってきて、スペンスを含めて3強時代を形成しつつある。さらにクロフォードの挑戦を受ける予定のWBO王者、ジェフ・ホーン(29=豪)、そのホーンの前の王者で6階級制覇の実績を持つマニー・パッキャオ(39=比)、元IBF王者のショーン・ポーター(30=米)、元2階級制覇王者のダニー・ガルシア(29=米)と個性的なタレントが揃っているのだ。先ごろプライベートで来日したサーマンは「すごく面白い階級だと思う。私とスペンス、クロフォードが勝ち進んで、統一戦をやればすごいことになるだろう」とライバルの台頭を歓迎している様子だった。

 年内にも実現が期待されるサーマンとの統一戦に向け、スペンスはどんな内容、どんな結果で存在感を示すのか。

大相撲裏話

引退の北太樹「子どもの記憶に」父として残る悔い

17年4月、東京・町田市巡業 長男英慶君を抱いて土俵入りをする北太樹


 20年の現役生活に幕を閉じ、親方として新しい道を歩む。今場所前に現役引退した元前頭北太樹の小野川親方(35=山響)が、両国国技館で引退会見を行った。「振り返ると短く感じる」とやり切った表情を浮かべたが、心残りはあった。

 昨年4月、春巡業が地元の東京・町田市で行われた。当時十両の北太樹は、1歳半だった長男英慶(えいけい)君を抱いて土俵入り。自分が締めた化粧まわしと同じデザインのミニ化粧まわしを締めさせた。途中で泣かれながらも「記憶に残ってくれたかな」と笑みを浮かべた。

 「子どもの記憶の残る3、4歳まではやりたい」と希望していた。度重なるケガで「体力の限界を感じた」と引退を決意。力士としての相撲人生に悔いはない。それでも「もう1年ぐらいは相撲を取って(息子に)土俵での記憶が残るぐらいは。残念です」と父親としての悔いは残った。

 次は親方として土俵に上がる力士を育てる。「自分が教わった大切なことを伝えたい」。第2の人生で息子の記憶に残る力士を育てる。【佐々木隆史】

リングにかける男たち

中3の夢叶えた内藤哲也、プロレスラーとして次の夢

内藤(上)はオカダにデスティーノを見舞う(2018年1月4日)


 中学生の時の夢を果たした男の今後はー。

 新日本プロレスの毎年恒例「イッテンヨン」、1月4日の東京ドーム大会は昨年を大きく上回る3万4995人の観客を集め、数々の激闘が繰り広げられた。その中で人一倍思い入れを持ってリングに上がったのは、IWGPヘビー級王座に挑戦した内藤哲也(35)だっただろう。

 中学3年の時、初めて自分でチケットを買って友人たちと見に行ったのが新日本プロレスの興行。「97年の6月5日、日本武道館の2階の後ろから2列目ですね」と明確に思い出せるほど、いまでも心に残る。そこで花道を入場する武藤敬司に衝撃を受けた。サッカー少年は、1人の存在に大観衆の視線が注ぐその舞台に感銘を受けた。そしてその最高峰の会場こそが東京ドームだった。99年に初生観戦。「どの会場よりも花道が長いですよね。あそこを歩いたら気持ちいいんだろうなと思って」。自然に将来の目標は定まった。

 <1>新日本プロレスに入ること

 <2>武藤敬司と同じように20代でIWGPヘビー級のベルトを巻くこと

 <3>東京ドーム大会のメインに出ること

 それから20年あまり。<1>はかない、<2>は30代に少し足を踏み入れたがベルトを巻くことができた。残っていたのが<3>だった。それがかなったのが今年の1月4日。なにしろその花道への思い入れは格別だった。若手時代も1月4日の直前の会場での練習でも、あえて花道をさけてリングに向かった。それだけ大切な場所だった。

 いよいよその時はきた。王者オカダ・カズチカに対峙(たいじ)するリングへ向けて舞台装置から登場すると、ゆっくりと歩を進めた。白い仮面の中からのぞく目で、人生の最良の時間を確かめるように、一歩ずつ一歩ずつ進んだ。中3の時の自分があこがれた存在になった瞬間だった。

 試合には激闘の末に敗れたが、試合後の表情には少なからず達成感も感じさせた。そして新たな野望に胸躍らせるように、ニヤリとしてみせた。

 「非常に悔しいですよ。オカダにも、そしてお客様にもかつて笑われましたよ。『東京ドームのメインが夢か』って。でもさ、これは俺が中学3年生の時に立てた目標だから。これ、俺は大事にしてきたから。誰に笑われようと、大事にしてきた夢だから。まあ、今日、俺は何か1つ、ゴールを迎えたっすかね。まあ、でもそれは、中学3年生の時に立てた目標のゴールであり、今日、ゴールを迎えた時点でまた新しい夢が見えてきましたよ。レスラー内藤哲也としての夢が、出てきましたよ」

 その不敵さは今後の楽しみに昇華した。さっそく翌5日の後楽園ホールの試合後には、世界的なスーパースターで前日のIWGPUSヘビー級選手権で敗れたクリス・ジェリコの襲撃を受け、ここでも不敵に、大胆な態度を崩さずに「トランキーロ」と泰然としてみせた。自らを「おれはベルトを越えているから」と話す無冠の年男は、いったいどんな「次」を見せてくれるのか。【阿部健吾】

大相撲裏話

「小岩小相撲道場」で区と田子ノ浦が合体し理想の姿

小岩小相撲道場での初稽古ですり足をする稀勢の里(2018年1月7日撮影)


 大相撲初場所(両国国技館)の初日を1週間後に控えた今月7日。地域に根ざす相撲部屋の、理想となるありようを垣間見た一日になった。

 再起をかける横綱稀勢の里(31)の調整を取材しようと足を運んだ東京・小岩の田子ノ浦部屋。だが、稽古は徒歩で10分ほどの小岩小学校で行っていると聞き方向転換。校庭に即席の土俵でも作り、小学生に教える交流会でもやっているのか…などと頭を巡らしながら学校に到着。ほどなくして敷地の隅にある建物の外に、黒まわしが置かれているのを発見。中では力士たちの稽古が行われ稀勢の里も、大関高安も汗を流していた。

 そばにいた江戸川区役所の腕章を巻いた関係者に話を聞くと、昨年12月24日に完成し、お披露目式が行われた「小岩小相撲道場」だった。この日は、そのこけら落としとして、田子ノ浦部屋の力士を招いた初稽古。連休を利用し出稽古に来ていた静岡・飛龍高校の相撲部員もプロの力士にぶつかり、活気にみちあふれていた。

 話は昨年1月28日にさかのぼる。直前の初場所で初優勝した稀勢の里の「初優勝 横綱昇進報告会」が、この小岩小で開催され約4500人の地元ファンが祝福した。その際、控室となった校長室で江戸川区の多田正見区長、稀勢の里らが集った席で、田子ノ浦親方から切り出されたという。「部屋の近くに土俵があるといいですね。倉庫でもいいんです。そうすれば子供に相撲を教えることで地元に貢献できますから。喜んでお役に立ちたい」。その言葉で区が動く。小学校と同じ敷地内にあった小岩第一幼稚園の園庭が、ちょうど空いていた。早速、夏には着工。更衣室、トイレ、シャワールームも完備した広さ約180平方メートルの道場が完成した。

 土の稽古場だけでも150平米近くはあろうかという広さはもちろん、天井も高く自然光も入るため、開放感もたっぷり。もちろん、相撲部屋の稽古場にある神棚、大鏡、しこ名がしるされた木札などはないが、プロの相撲部屋と見まがうばかりの作りだった。

 地域密着を図りたい部屋の要望と、それに呼応した自治体の全面協力で実現した相撲道場。「わんぱく相撲をやる子が、江戸川区だけで700人もいるそうです。これはもったいない。(小岩出身の第44代横綱)栃錦関の銅像も(JR小岩駅に)あるし、両国にも近いですから」と同親方。将来的には「稽古を見せるなどして相撲クラブが作られるようになれば」と地域貢献、相撲の普及を見据える。今後の活用法は未定ながら、多田区長も「ここを中心にわんぱく相撲など、いろいろな形で相撲を教えていただければ。相撲を通して人間教育の場になればいいですね」と熱望する。人間教育-。揺れる角界だが、国技に期待するそんな声があることを忘れてはならない。【渡辺佳彦】

リングにかける男たち

井岡一翔さん、再び「井岡一翔」に戻ると思えて…

引退を発表する井岡一翔(撮影・横山健太)


 井岡一翔…いや、もう井岡一翔さんになるんか。昨年12月31日午後11時過ぎから引退会見を開いたミニマム、ライトフライ、フライの元世界3階級王者。その日は、東京・大田区総合体育館でトリプル世界戦があり、2つめの世界戦後の午後9時過ぎに現場を離れ、会見場の新横浜プリンスホテルに向かった。

 「何でこのタイミング?」と多くの関係者は思ったと思う。「5度目の防衛戦の前に(引退を)決めていた」というが、その試合は半年以上前の4月23日やったのに。会見の模様は、TBSが生中継した。本人は「6年間戦ってきた大みそかという特別な日に、自分の思いと感謝をみなさんに伝えたかった」と言うたけど、これまで大みそかに中継してきたTBSの視聴率に貢献できれば…てな思いからちゃう? などと、どうしても考えてしまう。

 まあ、それはええか。問題は、完全に引退するんかということです。

 勝手な推測ながら、復帰すると思う。なぜか? まず、あれだけ「唯一無二のチャンピオンになりたい」と言い続けた人間の幕引きにしては、あまりにあっけないから。「3階級制覇達成」を理由に挙げて「おじさん(元世界2階級王者・井岡弘樹氏)の時から井岡家が目指していたもの。それ以上のものは現段階で感じられなかった」と言うけど…。いまひとつ説得力に欠けるんちゃいます?

 ちなみに、4月23日の5度目の防衛戦後は、こんなことを言うてました。

 「まだまだ強くなれると、シンプルに感じている。唯一無二になれるよう、周りに“ああいうボクサーはいないな”と言ってもらえるように頑張りたい」

 「僕が王者でいるなら、世界戦が続く。今はそれを1つ1つ、理解と覚悟と感謝の気持ちで戦っていくだけです。その世界戦が統一戦になれば、気持ちが“倍”になるという感じ」

 引退決めてる人のセリフと思えます?

 復帰すると思う根拠をもう1つ。引退後について「次のステージに進むビジョンはできています。応援していただいた皆さんの期待を裏切ることなく、さらに期待を持ってもらえると確信しています」と話してた。ビジョンは具体的には明かさんかったけど、ボクシングとの関係を「それは今は言えない」と否定せんかった。「未練はない」と言いながら、復帰の可能性を「何事もゼロはない」という理由から「ゼロとは言えないです」とも言うた。

 揚げ足取りと指摘されたら、その通りです。でも「井岡さん」が再び「井岡一翔」に戻ると思えて、仕方がないんです。【加藤裕一】

大相撲裏話

プライバシーの境界線は?暴行事件取材で感じたこと

貴乃花理事の処分について話す池坊議長(左)と小西評議員(2018年1月4日撮影)


 1月4日に、元横綱日馬富士関の暴行事件の被害者で十両貴ノ岩の師匠の貴乃花親方(元横綱)が、理事解任の処分を受けることが正式決定した。

 ようやく事件の当事者、関係者の処分は終結。17年11月14日の九州場所3日目に、一部報道で元横綱日馬富士関の暴行問題が発覚してから51日。この間、連日のように各メディアが事件関連の報道をし、事件の当事者、関係者は1日も気が休まることはなかっただろう。各メディアの報道に登場するのは、当然事件の関係者。しかしその裏では、事件とは関係のない力士らも気が休むことがなかった。

 暴行問題の全容、解決がまだ不透明だった17年12月3日、長崎・大村市を皮切りに冬巡業がスタートした。冬巡業は基本的に、前日夜には開催地へ移動する。そのため2日夜には、冬巡業に参加する親方衆、力士らは大村市入りした。問題はその日の夜に起きた。

 巡業は普段、本場所に足を運べないファンのために親方衆や力士らが各地方をまわり、朝稽古や初っ切り、相撲甚句などを披露して、相撲の良さを目や耳で感じ取ってもらう狙いがある。地元ファンにとっては年に1度の楽しみ。それは力士とて同じ。巡業会場でのファンとの触れ合いもそうだが前日入りした夜に、各地方の絶品料理やお酒に舌鼓を打つのも楽しみのうちの1つだ。

 当然、大村市入りした2日夜も、飲み屋街に力士らの姿があった。こぢんまりとした飲み屋街だが、その割には力士の姿は少ないように見えた。後日、力士らに話を聞くと「自粛しています」という声が多くあった。暴行問題が巡業中の酒席で起こっただけあって、事件には関係ない親方衆や力士らも敏感になっていた。

 飲み屋街に力士が少ないのが問題、という訳ではない。問題は過熱する取材のあり方だった。巡業の夜は早々と仕事を終わらせて各土地の料理に舌鼓を打つ記者は、2日夜も飲み屋街に繰り出した。携帯電話を握りしめて店を探している時だった。

 ある店の前に、ダウンコートを着た女性が1人で立っていた。誰かを待っているのか-。少しそわそわしたように感じたった。何げなくふと目を下にそらすと、手に光るものがあった。ダウンコートの袖で少し隠すように、ハンディカメラが忍ばせてあったのだ。

 決めつけるわけではない。腕章もパスもぶら下げていない。何も関係のない一般人かもしれない。しかし、その店の中には力士の姿が見えた。おそらくテレビ局か週刊誌か…。時計の針は午後9時を回っていた。「こんな時間までご苦労さんですなぁ」と仕事熱心ぶりに脱帽しつつ、事件とは関係のない力士らを少しふびんに思った。

 2日夜は玄界灘でとれた魚を堪能し、翌日の大村巡業を終えて3日夜には、長崎・五島市に入った。もちろん仕事を早々と済ませ、ある一軒の地元の居酒屋に入った。そこでも地元の魚や肉を堪能している時だった。突然、店の入り口から大きな声が聞こえてきた。

 「すみませーん。○○(某テレビ局)ですけど、誰か力士の方とかって店に来てませんかねぇ?」

 店のおかみさんが対応したとみられ、声の主は店の中には入って来なかった。その後、おかみさんに話を聞くと怒りの表情を浮かべながら話してくれた。

 「突然、テレビ局の人が来て『力士いませんか』って。名刺も何も見せないで、でっかいカメラ持っていきなり押しかけてくるんだから。非常識でしょ」

 おかみさんによれば、他のいくつかの店にも押しかけて手当たり次第に力士を探していたという。

 暴行問題が巡業中の酒席で起きただけに、力士が夜の街にいるところを撮りたい気持ちは、同じマスコミで働く身として痛いほど分かる。当然、上の立場の人から言われれば拒否することもできず、言われるがままにやらざるを得ないのも重々承知している。しかし、取材される側の気持ちを考えることも必要だと思う。暴行事件とは関係のない協会関係者は、自分が宿泊しているホテルの入り口前や、関取衆の付け人が洗濯するコインランドリーに、ハンディカメラを持った報道陣がいたことに対して激怒していた。

 「報道なら何やってもいいのか。俺たちのプライバシー侵しすぎでしょ。何の権利があってここまでやってるんだよ」

 報道の自由という言葉がある通り、各メディアが連日報道している。もちろん弊社もそうだ。しかし報道するためには取材が必要不可欠で、その取材が今回のように過熱し過ぎて、取材対象者に迷惑をかけるのはいかがなものかとは思う。カメラやマイク、名刺を出してノートを広げれば取材はできる。ただ勘違いしてはいけないのは、こちらはあくまで「取材をさせていただいている」ということだと思う。

 カメラ、マイク、名刺、ノートには取材を強制する権利は何もない。この事なら、この人なら話すか、という相手側の思いがあって初めて取材はできると思う。それを無視して一方的に押しかけては、不快感だけを与えて聞ける話も聞けないのではないだろうか。

 記者2年目の新米記者ながら、元横綱日馬富士関の暴行事件の一連の取材でそう感じた。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

2018年、実現が期待されるスーパー・ファイト


 年の初めということで、今回は2018年中に実現が期待されるスーパー・ファイト、さらに注目選手などを挙げてみたい。

 最注目カードは、ヘビー級の王者対決であろう。主要4団体のうちWBAのスーパー王座とIBF王座を保持しているアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者デオンタイ・ワイルダー(32=米)の英米対決だ。12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストでもあるジョシュアは、プロ転向後20戦全KO勝ちの正統派強打者で、17年4月には通算23度の防衛を誇った元王者ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで下して引退に追いやっている。

 対するワイルダーは08年北京五輪のヘビー級銅メダリストで、プロ転向後は39戦全勝(38KO)という戦績を残している。現在の王座はジョシュアよりも早い15年1月に獲得し、以来、3年間に6連続KO防衛を果たしている。身長201センチ、体重102キロ前後の細身の体だが、戦いぶりはダイナミックでスリリングだ。統一戦に向け両陣営は下交渉を開始しているが、まだ駆け引きの段階といえる。ともに春に防衛戦を計画しており、それをクリアすることが前提となるが、その後、一気に対戦話が進展する可能性もあるだけに要注目だ。

 昨年のベスト・ファイトのひとつに挙げられるWBA、WBC、IBF3団体統一世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)対サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)の再戦は、5月5日に実現しそうな気配だ。戴冠試合を含めて世界戦で20戦19勝(18KO)1分のゴロフキンと、スーパーウエルター級とミドル級を制覇している52戦49勝(34KO)1敗2分のアルバレス。初戦はゴロフキンが攻め、アルバレスが下がりながら効率的に迎撃する展開に終始したが、再戦では派手な打撃戦を期待したい。

 上記4人以外で注目選手をリストアップするならば、まずWBO世界スーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)を挙げたい。この五輪連覇のサウスポーはプロ7戦で世界2階級制覇を成し遂げ、昨年は3試合連続で相手をギブアップさせるなど乗りに乗っている。今年はライト級への進出が予想される。

 ウエルター級のIBF王者エロール・スペンス(27=米)も、さらなる飛躍が期待される。この9連続KO中のサウスポー王者は1月20日に元2階級制覇王者レイモント・ピーターソン(33=米)と初防衛戦を行う予定だ。WBA、WBC王者のキース・サーマン(29=米)や3階級制覇を狙うテレンス・クロフォード(30=米)らとの対決が期待される。

 このほか12戦全KO勝ちでIBF世界ライトヘビー級王座についたアルツール・ベテルビエフ(32=露/カナダ)、2月に4階級制覇を狙ってIBF世界スーパーライト級王座に挑むミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)、WBC世界スーパーウエルター級王者ジャメール・チャーロ(27=米)と、双子の兄でミドル級制覇を狙うジェモール・チャーロ(27=米)にも注目したい。

 また、今年はWBA世界ミドル級王者の村田諒太(31=帝拳)をはじめとする日本のトップ選手たちの海外進出も増えそうだ。

 実りの多い年になることを祈りたい。

リングにかける男たち

三沢光晴を知らない王者拳王、ノア新時代を引っ張る

エドワーズに勝利し新チャンピオンになった拳王(2017年12月22日撮影)


 プロレスリング・ノアの第30代GHCヘビー級王者に拳王(32)が就いた。

 12月22日の後楽園大会メインで、エディ・エドワーズを激戦の末破った。

 試合後、リング上でマイクを握った拳王は「三沢光晴さんに関わりのないオレが、初めてGHCヘビー級のベルトを巻いた。ノアの新しい時代は、オレが引っ張る」と高らかに宣言した。

 拳王の勝利インタビューの後、ノアの内田雅之会長は「ノア・ザ・リボーンを最終戦で成し遂げた。その象徴が拳王。ジュニアの原田大輔と、団体を任せられる選手が出てきた。新しい世代が出てきたタイミングで、私はしばらく表舞台かた引き下がり、見守っていきたい」と話した。16年11月の事業譲渡に始まった団体の混乱期を、前面に出て引っ張ってきた内田会長も、団体の柱となる若手の台頭にようやく一安心といった表情だった。

 ノアは、団体を創設した故三沢光晴さんの死後、主力選手の度重なる離脱などで経営が低迷。16年11月の事業譲渡に加え、17年2月には前運営会社が破産手続きに入るなど、厳しい状態に陥った。内田会長は、それまで選手の貸し出しなどで支援を受けていた新日本プロレスとの関係を清算。自前の選手だけでの立て直しを図った。そんな中、1月にジュニアからヘビー級に転向した拳王の急成長に目をつけた。

 「拳王はもともと買っていた。日本拳法というしっかりしたバックボーンもあるし、姿勢が一貫していてぶれない。最初は杉浦(貴)と組んでやっていたが、杉浦がケガで長期離脱している間にしっかり独り立ちした」と内田会長は言う。7月にはゼロワンの火祭りに乗り込み、優勝こそ逃したが、優勝した世界ヘビー級王者田中将斗との激闘など、結果を残した。「火祭りあたりから勢いが止まらなくなった。そして、今回のベルト奪取は有言実行で取った」と内田会長は実績を評価した。

 「ノア・ザ・リボーン」という目標を掲げ、日本武道館大会開催の実現を訴えた内田会長。これに呼応するかのように拳王も「オレが日本武道館に連れて行く」とことあるごとに口にするようになった。「今後は、拳王のように三沢光晴を知らない世代と、三沢さんの遺志を受け継ぐ、丸藤や杉浦、さらに三沢さんは知らないが、そのDNAを受け継ぎたいと思う若手たちのイデオロギー闘争が生まれてくると思う」と、団体のさらなる活性化を期待する。

 三沢光晴さんが生きた時代の日本武道館大会は、プロレス界の黄金時代の象徴でもある。その日本武道館大会開催に向け「すぐにはできないが、横浜文化体育館、両国国技館と大きなハコでの開催をやっていきながら、20年東京五輪の頃には実現したい」と内田会長は計画を口にした。1月6日の後楽園大会で、拳王は清宮海斗と初防衛戦を行う。ノア新時代の幕開けだ。【プロレス担当=桝田朗】

大相撲裏話

竜電次は三役!狙うは角界史上最大のカムバックだ

序ノ口デビュー12年目で待望の新入幕を決めた竜電。左は師匠の高田川親方(2017年12月26日撮影)


 竜電(27=高田川)が06年夏場所の序ノ口デビューから12年目で念願の新入幕を果たした。初場所(1月14日初日、東京・両国国技館)の番付は東前頭16枚目。「番付表を見て知りました。(九州場所の白星が)8番だったんで…。(負けた14日目、千秋楽に)9、10番勝っとけば確定の勢いだったんですが。心の弱い面が出た。稽古でもっと強くしないと」。26日の番付発表で、苦笑いまじりに喜びを語った。

 嫌な音を3度も聞いた。待望の新十両で迎えた12年九州場所8日目に右股関節を骨折した。「折れた瞬間“ボコン”と音がした」。その後、同じ音を2度。場所が場所だ。「的確な治療法がない。骨がくっつくのを待つしかない」と師匠の高田川親方(元関脇安芸乃島)が説明する“大けが”だった。2年間は相撲が取れず、治っても最初はおっかなびっくりだった。竜電は「周りの方の支えのおかげです。励ましの言葉を心に刻んで。それと、このままじゃ終われないという思いだけです」と話した。

 周囲の支えはなくてはならないものだったろうが、それに匹敵するほど大きかったのは、師匠の“厳しい優しさ”ではなかったか。高田川親方は言う。「私が言い続けたのは『弱いからケガをするんだ』ということ。ケガをしたことは相撲の神様の『もっと鍛えなさい』というメッセージなんだ。それを克服したら、本当の力士になれるんだ、ということです」-。

 関取経験者が序ノ口まで陥落し、その後に新入幕したのは92年九州場所の琴別府以来2人目。琴別府の新入幕も竜電と同じ27歳で、序ノ口デビューから12年目のことだ。琴別府の最高位は95年春場所の東前頭筆頭で、三役にあと1歩届かなかった。

 高田川親方の厳しい優しさは、続く。「今からが竜電の本当の相撲人生。苦労した分、来年の早いうちに、一気に三役に上がってほしい。三役じゃないと、名前を覚えてもらえない。それだけのものはあるんだから」-。序ノ口からはい上がった関取経験者の新三役。角界史上最大のカムバックが実現すれば、それは角界の語り草になる。【加藤裕一】

原功「BOX!」

MVPはロマチェンコ/2017世界ボクシング界


 2017年も残り5日となったところで、今年の世界のボクシング界を大まかに振り返ってみたい。分かりやすくMVP、殊勲、敢闘、技能、新鋭といった賞に分けて活躍した選手たちを挙げてみよう。

 MVPはWBO世界スーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)で問題ないだろう。WBA&IBF世界ヘビー級王者のアンソニー・ジョシュア(28=英)、スーパーライト級の4団体統一を果たしたテレンス・クロフォード(30=米)と秋までは肩を並べていたが、ロマチェンコが12月にギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)との五輪連覇対決を制して完全に抜け出した。まだプロで11戦(10勝8KO1敗)しか経験していないサウスポーのロマチェンコだが、細かく動きながら正確にパンチを当てる独特のスタイルでどこまで強く、巧くなるのか興味は尽きない。準MVPとしてジョシュアを推したい。

 殊勲賞は、全階級を通じて最も評価の高かったローマン・ゴンサレス(30=ニカラグア)を連破したWBC世界スーパーフライ級王者のシーサケット・ソールンビサイ(30=タイ)だ。3月の初戦は論議を呼ぶ判定勝ちだったが、9月の再戦では右フックでゴンサレスをキャンバスに沈めた。次点で、6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(39=比)を破ってWBO世界ウェルター級王座を獲得したジェフ・ホーン(29=豪)が続く。

 敢闘賞には、自国を離れて年間3度の防衛を果たしたジェルウィン・アンカハス(25=比)を推したい。このほかWBO世界クルーザー級王者のオレクサンデル・ウシク(30=ウクライナ)、3階級制覇を成し遂げたWBC世界ライト級王者ミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)、さらにハイレベルの相手から2度の王座防衛を果たした3団体統一世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)、敵地でIBF世界ウェルター級王座を獲得したエロール・スペンス(27=米)もいる。

 技能賞は、MVP候補の項で名前の出たクロフォード、7度の防衛を果たしているWBA世界スーパーウエルター級王者のエリスランディ・ララ(34=キューバ/米)、WBA世界ライト級王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)、そして12月にWBO世界ミドル級王座のV3を果たしたビリー・ジョー・サンダース(28=英)の4人だ。

 新鋭賞は、すでにWBC世界スーパーミドル級王座獲得を成し遂げてはいるものの21歳と若いデビッド・ベナビデス(米)と、もうひとり前IBF世界スーパーフェザー級王者のジャーボンタ・デイビス(23=米)を挙げたい。ベナビデスが19戦全勝(17KO)、デイビスが19戦全勝(18KO)と高いKO率を誇る。来年の活躍が楽しみだ。

 KO賞は、4月と10月に指名挑戦者を相手に痛烈なKO防衛を果たしたWBC世界スーパーウエルター級王者、ジャメール・チャーロ(27=米)が入った。チャーロは30戦全勝(15KO)と驚くほどKO率が高いわけではないが、このところ4連続KO勝ちとパンチが切れまくっている。

 年間最高試合は、4月に9万人を集めて行われたジョシュア対ウラジミール・クリチコ(41=ウクライナ)のWBA&IBF世界ヘビー級タイトルマッチで異論はないだろう。

 5回にダウンを奪ったジョシュアが逆に6回にはキャンバスを這い、さらに展開が変わるなか11回に再逆転となる2度のダウンを奪ってレフェリー・ストップに持ち込むというドラマチックな試合だった。引き分けに終わったゴロフキン対サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)の3団体統一世界ミドル級タイトルマッチ、シーサケット対ゴンサレスの再戦もスリリングな試合だった。

 また今年は特別に、11月に世界戦史上最短となる11秒KO勝ちを収めたWBOバンタム級王者、ゾラニ・テテ(29=南アフリカ共和国)に「記録賞」を贈りたい。

 ロマチェンコのさらなる活躍、ヘビー級王座統一戦など、世界のボクシング界は2018年も賑やかな年になりそうだ。

リングにかける男たち

引退しても輝く内山高志の実績、人柄、人望、営業力

内山高志(2017年7月29日撮影)


 最後の晴れ舞台は謝罪で始まった。

 「窮屈になって申し訳ありません。こんなに来ていただけると思っていませんでした」

 破壊力あるパンチで世界王座を11度防衛した内山高志氏は、引退記念パーティーでこうあいさつして頭を下げた。

 12月4日の都内の一流ホテルの大宴会場。立すいの余地のないほど、後援者、友人、ファンに関係者が約1000人も詰めかけた。当初は700人想定も、声を掛けた9割の人が来てくれたという。拓大では下積みも経験し、卒業後は観光バスの営業マンなどもしていた。王者時代に1000枚を越すチケットを売ったこともある。

 世界王者が引退を決めても、ほとんど記者会見しない。最近はSNSで表明も多く、日本ボクシングコミッションに引退届を出して終わりもある。相撲などと違って寂しい限りだが、内山氏は7月に会見し、盛大な引退パーティーを開催し、来年には後楽園ホールでの引退式も予定する。実績、人柄、人望、営業力をあらためて知らされた。

 その宴の最中に後楽園ホールのリングで凱旋(がいせん)報告した王者がいた。前日に大阪で東洋太平洋とWBOアジア太平洋のミドル級2冠となった秋山泰幸。東洋太平洋王者太尊に挑み、2回にゴング後パンチで減点も、5回に2度目のダウンを奪うとタオル投入。王座決定戦だったもう1本のベルトも手にし、2度目の王座挑戦で番狂わせの新王者になった。

 内山氏と同じ38歳。国内は37歳定年も昨年にランカーの定年が延長され、秋山は改正後に王座獲得第1号になった。夏に所属していた名門ヨネクラジムが閉鎖となり、移籍初戦でもあった。ワタナベジムには男女合わせて28人目の王者。現役男子は23人目だが、移籍してから王座獲得は7人目になる。

 渡辺会長は「今があるのは内山のおかげ」と話す一方で「秋山が王者になるとは男冥利(みょうり)」と自慢した。75年に故郷栃木・今市で国鉄マンながらジムを開き、81年に五反田へ出てきて、今や日本プロボクシング協会会長も務めるまでになった。

 内山は最初にミットを受けて世界王者になると確信したという。いわば別格で、会長には「来る者は拒まず」の大方針があり、移籍選手も多い。荒川は唯一世界挑戦経験があるが、残る6人はたたき上げでノーランカーが大半。会長は「捨てられた選手でも、必ずチャンスはつくる」を信条にしている。

 ジムの偉大なる存在はいなくなったが、格こそ違えどまた1人王者が誕生した。再生工場長の手腕を発揮。「今がボクシング人生で一番楽しい」と会長はご満悦だった。【河合香】

大相撲裏話

暴行問題で乱立 無責任コメンテーターたちに物申す

貴乃花親方


 今や日本中が相撲コメンテーターだ。元横綱日馬富士関(33)による、平幕貴ノ岩(27=貴乃花)への暴行問題が発覚した11月14日以降、街ではこの話題を論じている人をよく見かける。漫才のネタになれば大きな笑いが起きるほど、今回の経緯は日本中に浸透。テレビでこの話題を扱っていない日はない。

 動きのない日でも、前日までの流れをおさらいする形でワイドショーなどは報じている。そんな時は、スタジオにゲストで呼ばれている芸能人や文化人のコメントを中心に、番組が進行するケースが多い。相撲とはまったく関係のない肩書の人も、暴行問題についてトークを展開している。

 それぞれの事情は痛いほど分かる。きっと「本当は相撲は詳しくないけど…」と思いながら出演している人も多いはず。それでも、せっかくの出演機会をキャンセルするのはもったいない、誰かに物申すキャラクターで定着しているから、と心の中で何とか折り合いをつけて出演しているのだろう。制作者サイドも、今はこの話題が旬だから何とかこれで押し通そう、いや押し通さざるを得ない、という状況で放送していることもよく分かる。それでも、土足で人の家に乗り込むような言動は控えるべきだろう。

 最低限の下調べ、その世界の事情を放送前に知ろうとする努力は必要だろう。例えば今回の問題で、日本相撲協会危機管理委員会の鏡山部長(元関脇多賀竜)が、貴乃花部屋へ文書を届けに行く姿が度々生中継された。芸能人らから「これはパフォーマンス」「自分たちはやっているとアピールするため、わざとワイドショーで生中継される時間に訪問している」といった声をよく耳にした。

 どんな職種の仕事でも、平日の日中、常識的な訪問時間には、常にワイドショーが放送されているため、避けようもない。計5度の訪問が正午以降、午後3時までに集中していたのも、相撲界では午前中は稽古があり、執行部の親方衆はその後、両国国技館内にある協会に出勤。そこから打ち合わせして出かけるとなれば、必然的にそのぐらいの時間になる。

 また、各部屋とも同様に朝稽古をして、午後3時以降は力士が体を休めたり、夕食の準備をしていたりということが多いため、訪れるならその時間帯が最適だ。相手が電話に出ず、郵便で届けようとすれば余計に1日遅れるが、20分ほどの距離だから届けるのは、時間が迫る中では普通の選択。そもそも、生中継するかどうかはテレビ局が勝手に判断することであり、生中継でなくても結局はその様子が繰り返し放送される。

 相撲界にはたしかに独特な文化がある。例えば、通称「相撲時間」と呼ばれ、約束の時間よりも何事も早く始まる。親方や現役力士、行司、呼び出しらは皆、番付や地位が下の人から先に集まるように心がけている。最後に到着する人でも、予定の30分~1時間前ということも多く、そろった段階で物事が始まってしまう。新弟子検査など、新弟子の人数が少ない時には、検査する側の最後の親方が入った時間に始まり、当初の予定開始時刻には検査どころか、片付けまで終わって全員引き揚げていることもある。協会に呼ばれたある親方が、当初予定の8時間以上前から待機していた姿を見たこともあった。

 そんな独特な世界だからこそ、どういう概念、しきたりが根底にあるのか、発信する立場であれば特に事前に知ろうとする努力が必要なように感じる。出演者も制作者も、この問題を扱っている間の一時的なものかもしれないが、それで飯を食っているプロなのだから。

 最近、この問題に関してテレビに出演する機会が増えたという関係者は「実は上手な司会者は『この人にこのことを聞いたら、本職で立場がなくなってしまう』という話は振らない」と話していた。今後の関係に気を使うこともなく、無責任に何でもかんでも批判することほど簡単なことはない。暴行問題も佳境に入った。これまで自由に発言していた人が、どうやってこの問題を結ぶのか。年末年始のどさくさに紛れてうやむやにするのか。コメンテーターの力量も問われるのではないかと、勝手に注目している。【高田文太】

原功「BOX!」

村田諒太を中心に風雲急を告げるミドル級トップ戦線


 村田諒太(31=帝拳)がWBA王座に君臨するミドル級のトップ戦線が、ここにきて俄然ヒートアップしてきた。WBAのスーパー王座とWBC王座、IBF王座を保持するゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)を軸に、人気と知名度の高いサウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)、そして16日にWBO王座の3度目の防衛を果たしたビリー・ジョー・サンダース(28=英)も加わり、風雲急を告げる状況となってきたのだ。

 もともと160ポンド(約72・5キロ)を体重リミットとするミドル級は欧米を中心に選手層が厚く、軽量級のスピードとヘビー級のパワーを併せ持った猛者が多いことで知られる。それはいまも変わらない。村田自身が「自分よりも強い選手がいる」と認めるゴロフキンは38戦37勝(33KO)1分の戦績を誇るミドル級の主で、7年間に17連続KO防衛を含むV19を果たしている。圧力をかけながら強打で攻め落とすタイプで、一時代を築いた王者といっていいだろう。

 そのゴロフキンと9月に引き分けたアルバレスも同等の実力の持ち主だ。もともと1階級下のスーパーウエルター級の王者だが、ミドル級でWBC王座を獲得したこともある。攻めてよし守ってよしの万能型強打者で、メキシコを中心に人気もある。52戦49勝(34KO)1敗2分。来年5月にゴロフキンとの再戦が計画されている。

 16日に元IBF王者デビッド・レミュー(28=カナダ)を大差の判定で退けたサンダースはサウスポーの技巧派で、スピードとスキルを身上としている。初めて英国外に出てレミューに完勝したことで自信と評価を上げており、「ゴロフキンに勝って最強であることを証明したい」と息巻いている。26戦全勝(12KO)。

 このサンダース以上の評価を得ているのがWBC1位のジャモール・チャーロ(27=米)だ。スーパーウエルター級のIBF王座を返上してミドル級に転向してきたチャーロは7月、挑戦者決定戦を4回TKOで制して自力で最上位に上がってきた。26戦全勝(20KO)のハードパンチャーで、台風の目といえる存在だ。

 さらに同じくスーパーウエルター級WBA王座を返上してミドル級に参入してきたデメトリアス・アンドレイド(29=米)も地力がある。この25戦全勝(16KO)のサウスポーは身長185センチ、リーチ187センチと大柄で、相手にとっては戦いにくいタイプといえる。

 このほかゴロフキンと互角に近い戦いを展開した元WBA王者ダニエル・ジェイコブス(30=米)、IBFの指名挑戦権を持つ11戦全勝(9KO)のセルゲイ・デレビャンチェンコ(32=露/ウクライナ/米)も力がある。

 また、12年ロンドン五輪決勝で村田に惜敗したエスキーバ・ファルカン(28=ブラジル)と、同五輪ライトヘビー級で銅メダルを獲得したヤマグチ・ファルカン(29=ブラジル)の兄弟も勢いがある。この両サウスポーはダークホース的な存在といえる。

 さらに16日にWBC、WBO8位、WBA10位のアントワヌ・ダグラス(25=米)を7回TKOで破った元上位ランカーのゲイリー・オサリバン(33=英/アイルランド)もトップ10復活が確定的で、無視できない存在になってきそうだ。

 来年4月ごろに予定される村田の初防衛戦、そしてミドル級トップ戦線の行方から目が離せなくなってきた。

リングにかける男たち

オメガに挑戦する人気抜群ジェリコの魅力をおさらい

1・4東京ドームに向けて、記者会見した挑戦者クリス・ジェリコ(2017年12月12日撮影)


 クリス・ジェリコ。47歳。99年に加入したWWEでスーパースターとして今も人気抜群のロンゲ金髪イケメンである。最近は年齢を重ねるごとに色気も増し、WWEマットで確固たる地位を築く。そのジェリコが来年1月4日の新日本プロレス東京ドーム大会に参戦し、IWGPUSヘビー級王者ケニー・オメガ(34)に挑戦する。この衝撃的なカードを前に、4つのキーワードでジェリコをおさらいしておきたい。

 <1>WWEグランドスラム達成 01年にWWEが管轄する主要メジャー王座をすべて1度以上獲得し、グランドスラムを成し遂げた。特筆すべきは同年12月、当時の2枚看板スターだったザ・ロック、スティーブ・ストーンコールド・オースチンを1日で連破する快挙で、史上初のWCW・WWF統一王者にもなった。

 <2>Y2J ジェリコのニックネーム。00年になると世界的にコンピューターが誤作動する可能性があるとされたY2K問題がジェリコがWWEに加入した99年ごろに大きな話題に。ジェリコ自らも世界中を混乱させる存在になりたいとの願いを込め、最後のKをイニシャルのJに変え、Y2Jと名乗った。現在もジェリコが登場すると観客からY2Jコールが起こる。

 <3>ライオン道 20代だった90年代は日本マットにも積極的に参戦。天龍源一郎率いるWARでは「理不尽大王」冬木弘道率いるユニット冬木軍に加入した。メンバーは現新日本プロレスの邪道、外道。冬木を全員が最後に「道」があるため、ライオンハートというリングネームをライオン道に変えた。当時は邪道、外道、ライオン道の3人が消化器発射で冬木を助ける「消火器三連射」が話題になった。

 <4>バンドボーカル ヘビメタバンド「FOZZY」でボーカルを担当。音楽活動に専念するため、05年からWWEから離脱したこともある。07年に復帰し、09年レッスルマニアでは米俳優ミッキー・ロークとも対立した。その後、二足のわらじのために退団と復帰を繰り返している。まさに風来坊的な動き。今回もWWEとの契約の間隙(かんげき)を縫って新日本マットに参戦可能となったようだ。

 今年4月、WWE最大の祭典レッスルマニアに出場し、US王者としてケビン・オーエンズと対戦。最近でも同7月のスマックダウン・リッチモンド大会に参戦し、当時のUS王者オーエンズ、AJスタイルズととともに3ウエイ戦に出場するなどWWEの現在進行形選手だ。約1年前からクリップボードに挟んだノートに嫌いな選手を書き込む「リスト・オブ・ジェリコ」を展開。今月12日の会見で本紙記者のノートとペンをむしり取り「Omega Last Match」と書き殴ったのも、オメガがリスト入りした予告でもあるとうかがえる。

 戌(いぬ)年の年男(米国に干支の慣習はないと思うが…)イヤーを迎えるY2Jが東京ドーム大会で大混乱を巻き起こすことは必至だろう。世界中のプロレスファンが注目するオメガ戦は、まさに「狂犬」のように激闘を繰り広げてくれるような気がしてならない。そう期待してしまう。【藤中栄二】

大相撲裏話

大鵬の孫納谷幸之介が角界の重苦しい空気を切り裂く

納谷幸之介


 元横綱の暴行問題で揺れる角界だが、そんな重苦しい空気を切り裂いて、大相撲の世界に飛び込もうとする若者がいる。昭和の大横綱、大鵬の孫で埼玉栄高の納谷幸之介(3年)だ。

 プロデビューの舞台にもなる東京・両国国技館で3日に行われた、天皇杯第66回全日本相撲選手権大会に、今年は2人しか出場資格がなかった高校生の1人として出場。大学生相手に1勝1敗で迎えた3戦目で社会人に敗れ、予選敗退で終わった。「負けてもともとという挑戦者の気持ちで臨みました。とりあえず予選突破が目標でした」。淡々と表情一つ変えずに話す姿からは、多弁を良しとしなかった亡き祖父の一面をかいま見た気がした。

 折しも角界は土俵外の騒動で揺れ動いている。それについての考えも、短い言葉の中にもブレのなさを感じさせた。「自分には関係ありません。(身分的に入門しても)下なんで気にすることはないと思います」。大横綱の血を引く者として当然、注目度は高くなる。それも「注目してもらえるのはありがたい。(プレッシャーは)あまり感じません」と腹も据わっている。

 元大鵬のおかみさんの芳子夫人(70)も、手に汗握りながら納谷の母美絵子さん(43)と観戦していた。その2カ月半前の9月14日、納谷の兄幸男(23)がプロレスデビューした際は会場で、大鵬さんと、同8日に亡くなった日本相撲協会の世話人、友鵬さんの遺影を手にしての観戦だった。この日、その遺影は手にしていなかったが、祈るような気持ちは同じ。「幸之介君に大鵬さんの面影はありますか」と聞くと芳子夫人は「面影と言っても…。まだ(私の心の中で大鵬は生きて)いますから」と言って目を細めた。「大きくなって、このまま強くなったらうれしい。入門して頑張ってくれればね」と、亡き夫を、躍動する孫の姿に重ねた。

 年内には会見を開き、父の大鵬部屋を継いだ大嶽部屋へ入門する。新弟子検査を受検した上で、来年1月の初場所で初土俵を踏む。ある意味“持っている”男かもしれない。納谷は当初、九州場所で初土俵の予定だったが、愛媛国体で優勝し全日本の出場権を得たため、入門が1場所遅れた。仮に全日本への出場資格がなく、予定通り九州場所で初土俵だったら…。前相撲は3日目に始まり、メディアの注目を一身に浴びることになる。だが、その3日目の11月14日は元横綱の暴行問題が表面化した日。われわれメディアも、土俵どころの騒ぎではなかった。注目されなかった方が良かったのか、早いうちにメディアのプレッシャーに慣れていた方がいいのか…。190センチ、160キロの堂々たる体で、その答えを出す。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

村田のライバル、サンダースが敵地で3度目の防衛戦


 WBO世界ミドル級王者、ビリー・ジョー・サンダース(28=英)の3度目の防衛戦が16日(日本時間17日)、カナダのケベック州ラヴァルで行われる。相手は地元の人気者、前IBF同級王者のデビッド・レミュー(28=カナダ)。スピードとテクニックに定評のあるサウスポーのサンダースが敵地防衛を果たすのか、それともKO率80パーセントの強打者、レミューが団体を変えて王座返り咲きを果たすのか。同じ階級のWBA王者、村田諒太(31=帝拳)も注目する一戦だ。

 祖父がベアナックル(素手)の元王者で、父親は元アマチュアボクサーという家系に生まれ育ったサンダースは、08年北京五輪に出場(ウェルター級2回戦敗退)後、09年2月にプロデビューした。同じ英国のライバルたちとのサバイバル戦を勝ち抜き、2年前にWBO王座を獲得。しかし、その後は故障やビジネス上のトラブルなどが相次ぎ、初防衛戦まで1年、さらにV2戦まで9カ月という間延びした試合間隔となった。この間、村田との対戦プランも浮上したが、実現には至らなかった。

 サンダースはサウスポーの技巧派で、右ジャブを突いて間合いを計り、左ストレートから右フックを返す攻撃パターンを持っている。25戦全勝(12KO)という戦績が示すようにパワーには欠けるが、堅実で大崩れしないタイプといえる。

 これに対しレミューは、デビューからの20連続KO勝ちを含め41戦38勝(33KO)3敗というレコードを残しているハードパンチャーで、カナダでは絶大な人気を誇る。15年6月には、のちに村田と2度拳を交えるアッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)との王座決定戦で4度のダウンを奪って判定勝ち、IBF王座を獲得した。この王座はWBA&WBC王者(当時は暫定王者)ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)との統一戦で8回TKO負けを喫して失ったが、その後は4連勝(2KO)と復調している。

 総合的な戦力ではサンダースが勝るものの敵地での試合ということで、王者は得意とはいえない積極的な試合運びが求められることになりそうだ。打撃戦はレミューの望むところだが、力んで得意の左フックが空回りするようだと見栄えの悪い展開になりかねない。予想は判定でサンダース、KOでレミューといったところか。オッズはサンダース有利ながら10対9と接近している。挑戦者のレミューは「エンダム以上、ゴロフキン以下」という位置づけにある。そのレミューとサンダースがどんな戦いをしてどんな結果が出るのか。WBO王者とWBA王者の村田との間接的な力関係を推し計る意味でも興味深いカードだ。

リングにかける男たち

尾川堅一、大谷級ニュース届けてくれる日待ち遠しい

尾川は、帰国した羽田空港でベルトを巻きポーズ(撮影・浅見桂子)


 大リーグのエンゼルスに移籍が決まった大谷翔平の華々しい入団会見が米アナハイムで行われた日、そこから400キロ離れた米ネバダ州ラスベガスでも1人の日本人が躍動していた。

 9日(日本時間10日)に行われたボクシングのIBF世界スーパーフェザー級王座決定戦で同級4位尾川堅一(29=帝拳)が同級5位テビン・ファーマーを2-1の判定で破り、世界初挑戦でベルトを手にした。人生初の海外で、しかも舞台は本場ラスベガス。敵地で不利が予想される中で、日本拳法歴20年という異色のキャリアの持ち主は、他ボクサーより幾分遠い距離からの鋭い踏み込みで右ストレートを放ち続けた。「スピードには絶対の自信がある。合わせられたことはない」とカウンターを恐れずに攻勢は衰えず、赤いベルトを腰に巻いてみせた。81年三原正以来となる日本人では5人目の米国での王座奪取は、紛れもない偉業だった。

 決して米国から届くスポーツの情報量に上限があるわけではないだろうが、残念ながら尾川の姿が多くのメディアに取り上げられたとは言えない。米国から発信される「大谷」という名前の渦の中に埋もれてしまい、ボクシング担当としては歯がゆい思いが大きかった。もっと大々的になっても…。大谷のエンゼルスの赤いユニホームに隠れる形になった赤いベルトに寂しさを覚えた。

 そんな最中、尾川が帰国した。12日早朝の羽田空港。くしくもロサンゼルス発の航空便は大谷と同便だった。ここでもか…、と午前5時からやるせなくなりそうだったのだが、そんな気分を晴らしてくれたのは尾川自身だった。航空会社の関係者にアテンドされて、いの一番にフラッシュを浴びた大谷が無言で過ぎ去ってから10分ほど。少なくなった報道陣の前に登場した尾川の腰には、堂々と赤いベルトが輝いていた。「期待されてるかなと思ったんで!」と無邪気にポーズを取って、カメラマンにサービスする姿。ジムメートで先輩のWBA世界ミドル級王者村田諒太は「すぐに調子に乗るから」と憎めない後輩を形容するが、まさにあえて調子に乗った行動で、明るく帰国した。こちらも何となく気分が晴れた。

 試合後の控室で言った。

 「まだまだ伸びしろがたくさんあると思っているし、まだボクシングってものを分かっていないと思っているので、そのうえで世界チャンピオンになれたので、これは自分自身でもどこまで強くなれるのかという期待でもあります」。

 謙遜というより、前向きな真実だろう。2歳から始めた日本拳法は明大卒まで20年間取り組んだ。卒業後に転向したボクシングはまだ7年目。拳法で染みついたボクシングではマイナスになる動きの修正を続けてきて、「慣れてきたのは昨年くらいからです」と明かす。拳法出身だからこその無類の武器もあるが、直すところ、向上させないといけないところはまだまだある。それが「伸びしろ」だ。その段階での王座戴冠だからこそ、この先が楽しみでならない。

 知名度も同じだと思う。今回は大谷フィーバーに重なる不運はあったが、これから「伸びしろ」は十分すぎるほどある。いきなりのラスベガスでの勝利、しかも日本拳法というキャリアは、本場で名前を売るにはうってつけだ。「またラスベガスで試合をしたい」と本人も望む。いつかきっと大谷に匹敵するようなニュースを米国から届けてくれる日を待ちたい。【阿部健吾】

大相撲裏話

「どうしても1面載りたい」日馬富士が仕込んだネタ

日馬富士(2017年12月2日撮影)


 あれは4月の春巡業だった。当時から左肘や膝などを負傷していた元横綱日馬富士関は、連日支度部屋で電気治療を行っていた。肘や膝や背中など、電気治療で使用する吸盤の跡が、全身に赤くついていた。遠ざかっていた賜杯を奪取するために奮起する元横綱からネタを聞きたい、そう思った記者らが話を聞きに行った時だった。

 記者 最近、何か良いことありましたか?

 日馬富士 新しい奥さん見つけました。

 記者 いやいや…。

 日馬富士 どうやったら1面載れるの? どうしても1面載りたいんだよ。

 その後も続く、記事には出来ない話。政治の話や、某大統領らの賛否など。話す度に「これなら1面載れるでしょ?」と聞いてくる。もちろん全て冗談で、面白おかしく話してくる。優勝からも遠ざかり、体が思うように動かないなど歯がゆい思いをしていたからこそなのか、記者たちと話す時は明るく努めた。ただ「どうしても1面に載りたい」。これだけは真面目で力を込めて言っているように聞こえた。

 そんなやりとりから7カ月たった11月。思わぬ形でその時を迎えた。

--平幕の貴ノ岩への暴行

 以降、連日スポーツ紙の1面に載り、情報番組でも“トップ”扱いとなった。そして引退。決して華々しいものではなかった。春巡業の時の「1面に載りたい」は、復活を果たして横綱の威厳を取り戻したい、そういう意味だったはず。なんとも皮肉な幕引きとなってしまった。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

まさに黄金カード、五輪連覇者同士がプロ王者として世界戦


 9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスベガスでは尾川堅一(29=帝拳)対テビン・ファーマー(27=米)のIBF世界スーパーフェザー級王座決定戦が行われるが、同日、ニューヨークでは同じ階級のWBOタイトルマッチがセットされている。プロ3戦目でフェザー級を制覇し、7戦目でスーパーフェザー級王者になったワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBAスーパーバンタム級スーパー王者、ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるのだ。アマチュア時代に五輪連覇を果たした実績を持つレジェンド同士の頂上決戦だ。

 ロマチェンコは08年北京五輪フェザー級、12年ロンドン五輪ライト級で金メダルを獲得しているほか、世界選手権でも2度の優勝実績を持つ。そうした大会での勝利を含めたアマチュア戦績は397戦396勝1敗という驚異的なものだ。唯一の敗北を喫した相手には国際大会で2度のリベンジを果たしている。プロ転向は4年前で、その4カ月半後に世界王座に挑んだが、このときは体重オーバーの相手に惜敗。続く3戦目でフェザー級王座を獲得すると、昨年6月には階級を上げて現在の王座を獲得した。7戦目での世界2階級制覇は井上尚弥(大橋)の8戦目を更新する最速記録だ。

 「ハイテク(高性能)」というニックネームを持つロマチェンコは、単に記録だけの選手ではない。素早く立ち位置を変えながら相手の死角に出て瞬時にパンチを打ち込み、スピードとスキルで圧倒してしまう。豪快なKOで現王座を奪ったあとの3度の防衛は、相手を翻弄したすえ棄権に追い込むという内容だった。見る者の記憶にも残るテクニシャンといえる。10戦9勝(7KO)1敗。

 これに対しリゴンドーは2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪のバンタム級で連続金メダリストになり、世界選手権でも2度の優勝を果たしている。アマチュア戦績は475戦463勝12敗。亡命に失敗したためプロ転向が遅れたが、29歳のときに3回TKO勝ちで初陣を飾ると7戦目には現在の王座(当時は暫定王座)を獲得。その後、正王者昇格、WBO王座吸収、スーパー王者への昇格、王座剥奪、返還といったできごとを経て通算10度の防衛を果たしている。

 ロマチェンコと同じサウスポーだが、こちらはライバルほど運動量が多いわけではない。無駄のない動きで間合いを掴んでズバッと斬り落とすタイプだ。自身は打たれ強くはなく何度かダウンを経験しているが、左ストレートの切れ味はロマチェンコのそれを上回っている。18戦17勝(11KO)1無効試合。

 体格はロマチェンコが身長168センチ/リーチ166センチ、リゴンドーが162センチ/173センチと数字上は決定的な差はない。しかし、体のフレームとスーパーフェザー級に馴染んでいる点でロマチェンコにアドバンテージがあることは確かだ。6連続KO勝ちという勢いや若さでもロマチェンコに分があるといえる。こうしたことが反映されてオッズも9対2でディフェンディング・チャンピオン有利と出ている。ただ、これまでにもスター選手との対戦を打診されながら拒んできたリゴンドーが、2階級上のロマチェンコとの対戦に応じたところに矜持と自信をみてとることもできる。

 五輪連覇者同士がプロの王者として世界戦で拳を交える文字通りの黄金カード。はたして勝者として歴史に名を刻むのは-。

リングにかける男たち

今や蚊帳の外の井岡一翔、せめて自分の口で現状を

井岡一翔(左)と谷村奈南


 井岡一翔(28=井岡)は何をしてるんやろう。11月9日付でWBA世界フライ級王座を返上した。本来なら「日本ジム所属選手初の世界4階級制覇」を目指すとか、ポジティブな理由があってしかるべきやと思うけど、返上会見に井岡本人は出席せず、父親の同ジム・井岡一法会長が「予定していた大みそかのリングに調整が間に合わない」と説明。その上「モチベーションが上がらんのなら、引退せな仕方ない」てなことまで言うたから、驚いた。

 理由はケガでもない。「プライベートに時間を割かれたことによる練習不足」。歌手谷村奈南と5月に結婚した。新婚と言えば、そうやけど…。世界王者、しかも脂の乗った3階級覇者の“休業理由”としては、異例でしょう。まして、口癖が「唯一無二のチャンピオンになりたい」やった男としては。

 井岡のプロデビュー後最長ブランクは、15年12月31日、WBAフライ級王座の2度目の防衛戦(レベコ相手に成功)からララ相手に3度目の防衛を飾った16年7月20日までの「202日」やった。このコラムは12月4日に書いてるわけやが、直近の試合が4月23日、ノクノイとの5度目の防衛戦やから「225日」。気づけば記録? を更新してました。

 日本ボクシング界は動いてる。ロンドン五輪金メダリストの村田諒太はWBA世界ミドル級王者になって、日本人が中量級のベルトを奪う快挙を成し遂げた。WBO世界スーパーフライ級王者の“怪物”井上尚弥は12月30日に7度目の防衛戦を行う。

 井岡と同じフライ級では、木村翔が北京&ロンドン五輪金メダリストの中国の英雄・鄒市明からWBOのベルトを奪った。WBC王者で具志堅用高の秘蔵っ子、比嘉大吾はデビュー14連続KO勝ちの離れ業を演じて初防衛に成功した。さらに、将来的な“5階級制覇”を掲げる田中恒成がこのほどWBOライトフライ級王座を返上、おそらくは3階級制覇に動く。

 ところが、井岡は…。昨年まで6年連続でやってきた、恒例の大みそかファイトが途切れる。少し前まで間違いなく、日本の王者の中で特別な存在やったけど、今では蚊帳の外。ワン・オブ・ゼムに成り下がってきたんやないやろか。

 妻の谷村奈南は王座返上返上2日後の11月11日、ツイッターに「必ず本人が、ファンの皆さんへ真実をお伝えします」と書き込んだけど、井岡は依然沈黙を守ってる。まあ他の王者の試合が集中する年末に、水を差すわけにはいかんやろうけど、せめて年が明けたら、公の場で自分の口から現状を語ってほしい。それこそがファン、世間への王者の責任やないでしょうか。【加藤裕一】

大相撲裏話

小兵も異彩放った日馬富士、暴行で引退もったいない

引退会見で目を潤ませ、唇をかみしめ下を向く日馬富士


 横綱日馬富士が引退した。貴ノ岩の頭をカラオケのリモコンで殴って、裂傷を負わせた。そらあかんわな。横綱やしなあ…。しかし、もったいない。そう思いませんか?

 白鵬、稀勢の里、鶴竜の3横綱が全休した秋場所で、優勝した。5日目を終わって2勝3敗、10日目を終わって6勝4敗。金星4個も与え、いつ途中休場してもおかしくない状況やったのに、1人横綱の責任を全うすべく土俵に上がり続けて、終盤は5連勝。すごかったのは、千秋楽でしょう。本割、優勝決定戦で豪栄道を連続で退けた。突き刺すような立ち合い、気迫みなぎる取り口。豪栄道は「完敗です」としか言えなんだ。途中までのもたつきは何やってん? 誰もがそう思うほど“横綱のすごみ”はえげつなかった。

 体調はいつも万全やなかったようです。

 7月の名古屋場所前やった。宿舎で朝稽古を見て、話を聞いた。相撲担当歴2カ月の素人が「体調はどうです?」と聞くと、ため息交じりに答えてくれた。

 「う~ん、良くないね」

 -やっぱり両肘ですか?

 「そうだね」

 -思い切って2場所ぐらい休んで治すっちゅう選択はないんですか?

 「2場所とか、半年じゃ無理。1年以上とかじゃないとね」

 -そんな長くは休めませんわなあ

 「本当に治したいなら、辞めないと。辞めた後じゃないとね」-。

 体重137キロ。九州場所の番付で、幕内力士42人のうち、宇良と荒鷲の135キロ、千代翔馬の136キロに次いで軽かった。力強さを備えたスピードで最高位を必死に守り抜いていた。力士の大型化が進む時代に、異彩を放っていた。

 答えに困ったら、決まって「一番一番、全身全霊で…」と言うてはった。その時は「またかいな」と思ったけど。そのセリフがもう聞けん。ほんまに寂しい。そう思いませんか? 【加藤裕一】

原功「BOX!」

風雲急を告げるSフェザー級 尾川は戴冠果たせるか


 日本スーパー・フェザー級王座を5度防衛した実績を持つ尾川堅一(29=帝拳)が12月9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスべガスのマンダレイベイ・イベンツセンターでIBF世界同級王座決定戦に臨む。相手は30戦25勝(5KO)4敗1分の戦績を残している技巧派サウスポーのテビン・ファーマー(27=米)。ランキングは尾川が4位、ファーマーが5位で、KO率も74パーセント(23戦22勝17KO1敗)の尾川が大きく上回っている。元WBC王者の三浦隆司(帝拳)が引退したことも重なり、風雲急を告げるスーパー・フェザー級トップ戦線。尾川は戴冠を果たすことができるのか。

 この1年、130ポンド(約58・9キロ)を体重上限とするスーパー・フェザー級はめまぐるしく王座の持ち主が代わっている。WBAは内山高志に2度勝ったジェスレル・コラレス(26=パナマ)が10月のV2戦を前に体重オーバーで失格。試合でそのコラレスを8回KOで破ったアルベルト・マチャド(27=プエルトリコ)が王座を受け継いでいる。

 WBCは今年1月に戴冠を果たしたミゲール・ベルチェルト(26=メキシコ)が王座を保持しているものの、三浦との初防衛戦で痛めた拳の負傷が治りきらないため戦線離脱。これを受け尾川対ファーマーと同じイベントで暫定王座決定戦が行われる。2階級制覇の実績を持つオルランド・サリド(37)対ミゲール・ローマン(32)というメキシカン・ファイター同士のカードだ。

 IBF王座は、元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米)の秘蔵っ子、ジャーボンタ・デイビス(23=米)が今年1月に獲得。長期政権が期待されたが、8月のV2戦を前に計量で失格、ベルトを剥奪された。尾川対ファーマーの勝者がこの王座を引き継ぐことになる。

 愛知県生まれの尾川は父親の道場で2歳のときに日本拳法を始め、大学卒業まで20年間続けた。「自分の力を試したくて」とプロボクサーになり、デビュー翌年の11年には全日本新人王になった。日本ランキング入りも果たしたが、そこで初黒星を喫する。アゴの骨を折られたすえの5回TKO負けだった。

 10カ月後にリングに戻った尾川は復帰2戦目に因縁の相手に1回TKO勝ちで借りを返し、それを含めて現在まで14連勝(11KO)を収めている。2年前には世界ランカーを得意の右ストレートで倒し、その3カ月後には日本王座も獲得。5度防衛した王座は世界挑戦が決まったため返上した。

 今回、尾川が決定戦で拳を交えるファーマーは戦績が示すとおりの技巧派で、スピードとパンチを外すスキルに関しては卓抜したものがある。しかし、パワー不足は否めず、その点では尾川が勝っている。ただ、尾川は東京以外での試合は今回が初めてで、コンディション調整など不安もつきまとう。

 このカードのポイントはひとつに絞られる。尾川の切り札、右ストレートが炸裂するか否か。確率は50パーセントだ。尾川が勝てば10月にWBAミドル級王座を獲得した村田諒太(31)に続き、帝拳ジム13人目の世界王者誕生となる。

 同じ12月9日、米国東海岸では同じスーパー・フェザー級のWBOタイトルマッチが行われる。オリンピックで2連覇を果たした者同士、ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)とギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)が拳を交えるのだ。

<続く>

大相撲裏話

遠藤も困惑の珍現象…結びの一番翌日に最初の一番


 結びの一番から翌日は、中入り後最初の一番に-。東前頭9枚目遠藤がそうだった。前日14日目は横綱白鵬に負け、この日は輝に負けた。「14日目を結びで取って、千秋楽は初っ口(中入り後最初の一番)で…。なかなかないでしょ? 誰かいるんですかね? いい経験です」。

 ジェットコースターのような珍現象は、07年秋場所の西前頭14枚目豪栄道以来。取組は前々日までの成績を受け、前日の取組前に決まる。豪栄道は14日目の結びで白鵬、千秋楽の初っ口で西前頭15枚目嘉風と対戦した。白鵬の14日目は琴欧洲、千代大海の2大関どちらかが適当だったが、2人は8勝4敗、新入幕ながら白鵬と10勝2敗で並んでいた豪栄道に白羽の矢が立った。結局、千代大海は千秋楽で白鵬と当たったが、琴欧洲はなし。番付の序列で取組を決める“割を崩した”格好だ。

 今場所は違う。白鵬は千秋楽で豪栄道と対戦し、対戦可能な三役以上全員と当たった。白鵬と1差の2敗の東前頭12枚目隠岐の海もいたが、番付が上で3敗だった遠藤が抜てきされた。最大の理由は日馬富士、鶴竜、稀勢の里の3横綱、大関高安、関脇照ノ富士らの大量休場だ。やはり上位陣の存在は、いろんな意味で大きい。【加藤裕一】

大相撲裏話

9人休場…平幕Vのチャンスだったのに

妙義龍(17年9月29日撮影)


 日馬富士の暴行問題などで世間を騒がしている角界に、またも悲しい記録が生まれた。平幕の妙義龍が、14日目の25日から休場。これで幕内の休場数は9人(再出場の碧山を含む)となり、11人が休場した02年名古屋場所以来の多さとなった。

 十両も含めると、今場所は10人の休場者が出た。戦後以降、十両以上の力士の合計休場数が10人以上となったのは28場所目。引退、廃業を除けば22場所目となった。3横綱、1大関の上位陣が休むなど、ファンにとって寂しい事態となった。そんな中、横綱白鵬と平幕の北勝富士、隠岐の海の3人が、この日まで優勝争いを演じた。

 過去、十両以上の力士が10人以上休んだ27場所中、4場所で平幕力士が優勝している。53年夏場所の時津山、57年九州場所の玉乃海、91年秋場所の琴錦、00年春場所の貴闘力だ。今場所は上位陣の休場者数が多かっただけに、平幕に優勝のチャンスが広がった。北勝富士と隠岐の海にとっては、悔やまれる結果となった。

 白鵬は「年1回の九州で達成できてうれしい」とご満悦。荒れた九州場所を横綱が締めくくった。【佐々木隆史】

大相撲裏話

玉鷲が守った被災者との約束「勝ち越し」

玉鷲(17年11月12日撮影)


 モンゴル人力士のいさかいに揺れる九州場所で、モンゴル人力士の涙を見た。11日目、東前頭筆頭の玉鷲(33=片男波)が荒鷲を下し、勝ち越しを決めた。「鷲鷲対決」を制し、支度部屋で「僕が本物」と笑っていた男が、福岡・朝倉市について聞かれ、真顔になった。「約束守れて良かったです」。目は赤かった。

 7月5日に発生した九州北部豪雨。朝倉市では、12時間で約900ミリという観測史上最大級の雨量を計測、31人もの犠牲者が出た。その被災地に、玉鷲のいる片男波部屋は8年前から宿舎を構える。場所前に小学校や施設を訪れ、地域イベントにも出席した。「部屋の横に山から落ちてきた木がまだあって、そこから骨が出た」と玉鷲は言う。いまだ残るがれきの山。被災者を勇気づけるどころか、悲しみと闘い、復興に燃える姿に力をもらった。行く先々で交わした約束が「勝ち越し」だった。

 貴ノ岩暴行事件が起こった夜、宿舎で綾瀬はるか主演ドラマ「奥様は、取り扱い注意」を見ていた。勝ち越しを決めた日、まわしから着替えたパンツはクスッとさせるハート柄。一方、10月30日の番付発表時、日馬富士に気になる力士として「最近強くなっちゃって」と名指しされた。気は優しくて力持ち。モンゴル人力士玉鷲は、そんな人だ。【加藤裕一】

大相撲裏話

名ばかりの4横綱時代 直接対決2場所連続なし

大相撲九州場所、日馬富士などの休場を知らせる貼り紙(17年11月19日撮影)


 白鵬が10日目まで全勝で後続に2差をつけ、独走Vを決めるかに思われたが、前日11日目に敗れて1差に接近。土俵外の話題が先行した場所が、ようやく熱気を取り戻した。ただ、横綱対決は2場所連続で実現しない。1場所で6番あってもいい4横綱時代なのに、だ。

 年6場所制が定着した58年以降、番付に3人以上横綱が名を連ねながら、2場所続けて対戦がなかった例は過去2度しかない。3横綱だった58年秋と九州場所。秋は初代若乃花が14勝1敗で優勝したが、千代ノ山と栃錦が途中休場。九州も初代若乃花は準優勝だったが、2人が全休した。

 次は貴乃花、3代目若乃花、曙の99年春と夏場所。春は曙が全休し、2人が途中休場、夏は曙は皆勤したが、貴乃花が全休、若乃花が途中休場した。この2場所とも大関武蔵丸が優勝し、翌名古屋場所から4横綱となるが、5場所続けて全員皆勤はなかった。

 今場所の千秋楽結びの一番は白鵬-豪栄道戦になりそうだ。白鵬か他の力士の優勝がかかっていれば、緊張感はあるだろうが…。相撲の華の1つ、横綱対決がないのは、やはり味気ない。【加藤裕一】

大相撲裏話

うっかり振分親方の予約忘れにファインプレーの声も

振分親方


 日馬富士の暴行問題に揺れる九州場所9日目に、さらなる“激震”が走ったのは打ち出し後だった。高砂一門の一門会中止-。八角理事長(元横綱北勝海)らが所属する一門が、日本相撲協会の2年に1度の理事候補選挙に向けて話し合う大事な会合が、急きょ取りやめとなった。新たな問題勃発かと騒然となったが、実は会場となる福岡市内の料亭の予約を、幹事役の振分親方(元小結高見盛)が忘れたことが原因だった。

 毎年9日目に同じ会場で実施するだけに、親方衆が続々と集まったが、料亭からは「高砂一門でご予約は入っていませんが…」との回答。すでに満席だったため、そのまま解散、中止となった。「どうなってるんだ」との電話を次々と受けて「めちゃくちゃ焦った」(振分親方)。翌10日目は通常よりも2時間以上早く場所入りし、一門の親方衆へおわび行脚を行った。

 一日中、肩をすぼめてシュンとしていた振分親方は「自分に腹が立った。毎年のことだから予約が入っていると思っていたけど…」などと、一言話すごとにため息をもらした。幹事役の会計担当を今年、谷川親方(元関脇北勝力)から引き継いだばかりということもあり「こんな時に酒席の写真が雑誌に載ったら誤解される。ファインプレー」との声も上がった。多くの一門親方衆も「日にちも会場も同じだから、もう来年の予約を入れるべきだな」などと心配しつつ、笑うしかなかった。天性の愛されるキャラクターで、翌日の角界は話題持ちきりだった。【高田文太】