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au版ニッカン★バトル

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原功「BOX!」

「重量級のロマチェンコ」ウシク ヘビー級へ試金石

ヘビー級の次に重いクルーザー級のWBA、WBC、IBF、WBO4団体統一王者、オレクサンデル・ウシク(31=ウクライナ)が10日(日本時間11日)、英国マンチェスターで元WBC同級王者のトニー・ベリュー(35=英)を相手に通算6度目の防衛戦に臨む。

現役選手として全階級を通じて最も高い評価を受けているWBA世界ライト級王者、ワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)に倣って「重量級のロマチェンコ」と称されるサウスポーのテクニシャンは、来年にはヘビー級進出を目論んでいる。これがクルーザー級で最後の試合になりそうだが、「最重量級でも通用するだろう」という評価を得ることができるか。

ウシクとロマチェンコは同じウクライナ出身というだけでなく、アマチュア時代には揃って08年北京五輪、12年ロンドン五輪に出場した。2大会とも金メダルを獲得したロマチェンコに対し、ウシクは北京大会こそヘビー級8強に甘んじたが、ロンドン大会では同級金メダリストになった。アマチュア戦績はロマチェンコが397戦396勝1敗、ウシクが350戦335勝15敗と伝えられる。

プロ転向の時期もほとんど同じで、ロマチェンコが13年10月、ウシクが1カ月遅れの11月にデビュー戦を行い、ともにKO(TKO)勝ちを収めている。世界王座獲得はロマチェンコがプロ3戦目の14年6月と早く、その後、3階級制覇を成し遂げて揺るぎない地位を確立している。ウシクはプロ10戦目となる16年9月に初戴冠を果たし、賞金トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」に出場して4団体の王座統一を果たした。今年7月のことである。

戦闘スタイルは「サウスポーの技巧派」という点で一致しているが、体格で恵まれているとはいえないロマチェンコが中近距離で戦うのに対し、ウシクは長い腕と軽快なステップを生かした中長距離での戦いを得意としている。ふたりともロマチェンコの父親、アナトリー・トレーナーの指導を受けている。

ここまで6度の世界戦を含め15戦全勝(11KO)を収めているウシクは王座統一を機にヘビー級に上がるものとみられていたが、ベリューの要望に応じるかたちで今回の対戦を決めた。アウェーとなる英国での試合を承諾した裏には、同国で絶大な人気を誇るヘビー級のWBA、IBF、WBO3団体統一王者、アンソニー・ジョシュア(29=英)戦に向けたデモンストレーションにする狙いもありそうだ。

ベリューはウシクの2代前のWBC王者で、33戦30勝(20KO)2敗1分の戦績を残している。こちらはすでにヘビー級での試合を経験済みで、昨年3月と今年5月、元世界王者のデビッド・ヘイ(英)に11回TKO、5回TKOで連勝している。「世間は俺が負けるとみているようだが、ヘイ戦がそうだったように今回も予想を覆してみせる」と強気だ。

しかし、オッズは11対2で現王者有利と出ている。「重量級のロマチェンコ」ウシクがスピードとテクニックで元王者を翻弄する可能性が高そうだ。

原功「BOX!」

スペンス対ガルシア PFP10傑同士の戦い実現へ

全17階級を通じたトップボクサーの総合評価ともいえる「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で、現役10傑に名を連ねる猛者同士、IBF世界ウエルター級王者のエロール・スペンス(28=米)と、4階級制覇を成し遂げているWBC世界ライト級王者のミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)が来年2月か3月に対戦する方向で交渉が進んでいる。すでに具体的な日程や開催候補地も挙がっており、遠からず決定するものとみられている。

PFPは、選者がボクサーの実績や試合内容を評価して順位づけするため、主観性の強い比較的遊び要素の多いランキングといえる。それでも「誰が本当に強いのか」が分かりやすいため、近年、欧米のメディアが独自にトップ10を選ぶなどしてファンに幅広く浸透しつつある。米国の老舗専門誌「リング」では1位がWBAライト級王者のワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)、2位がWBOウエルター級王者のテレンス・クロフォード(31=米)、3位がミドル級のWBAスーパー王者&WBC王者、サウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)となっており、スペンスは9位、ガルシアは7位に名を連ねている。ちなみに「リング」では井上尚弥(大橋)が6位に入っている。

このほかESPNではスペンスが5位、ガルシアが6位、専門サイトBoxingsceneではスペンスが9位、ガルシアは3位と極めて高い評価を受けている。

9月に行われたゲンナディ・ゴロフキン(36=カザフスタン)対アルバレスがそうだったように、PFP10傑同士が戦う場合、大きなイベントになることが多い。もちろんスペンス対ガルシアも注目ファイトになることは間違いない。

12年ロンドン・オリンピック(五輪)に出場したこともあるスペンスは馬力のあるサウスポーの強打者で、24戦全勝(21KO)の戦績を誇る。目下2度防衛中で、それらを含め11連続KO勝ちと勢いがある。

これに対しフェザー級、スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級の4階級で戴冠を果たしているガルシアも39戦全勝(30KO)のレコードを残している。こちらは左ジャブで相手を牽制しておいて鋭い右ストレートを打ち込む正統派の強打者だ。10月までライト級のWBC王座とIBF王座を保持していたが、指名防衛戦を迫られたためIBF王座は返上している。

スペンス対ガルシアは来春に行われる可能性が高い。ふたりとも業界で大きな影響力を持つアドバイザーのアル・ヘイモン氏と契約を交わしており、交渉の壁は高くないはずだ。すでに2月16日と23日が候補に挙がっているほか、3月16日ならばテキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで開催という具体的な日程と開催地も出ている。スペンスはテキサス州に住んでおり、またメキシコ系のガルシアもテキサス州で過去に3度の世界戦を行っており、同地での開催となればイベントの成功は間違いないところといえる。

スペンスが身長177センチ/リーチ183センチ、ガルシアが168センチ/173センチと体格面で差があることもあってか、現時点でのオッズは10対3でスペンス有利と出ている。

ウエルター級にはWBO王者のクロフォードのほかWBA王座にはマニー・パッキャオ(39=比)が君臨している。さらなるビッグファイトも望めるだけに、その第一弾としてスペンス対ガルシアの実現を期待したい。

大相撲裏話

関取でも付け人 友風の思い

志摩ノ海(左)にはたき込みで勝利した友風(撮影・栗木一考)

連勝スタートを切った新十両の西十両14枚目友風(23=尾車)が、今場所も平幕の嘉風(36=尾車)の付け人を務めている。

関取昇進で付け人を卒業するケースがほとんど。4年前、新十両だった旭大星が同部屋の幕内力士の付け人を務めたが、当時の友綱部屋は関取5人を抱え若い衆が少ない事情もあった。

付け人継続は嘉風からの希望だった。友風が幕下で関取昇進を目前としている時から、十両昇進後も「できたら一緒にいてほしい」と打診されていた。日体大の先輩後輩の間柄。嘉風からは「(特別な意識は)今に始まったことじゃない」とかわいがられている。

憧れの兄弟子の誘いに友風は二つ返事で快諾した。付け人を長く務める中で、嘉風の立ち居振る舞いを間近で見て、尊敬の念は強まった。「人間的にも力士としても全てがかっこいい」と言う。今場所から嘉風と同じ薄い紫色の締め込みで、勝ち越しを目指している。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

リングにかける男たち

人生ヒップアタック越中詩郎、いまだ侍魂は衰えず

来年1月30日に後楽園ホールでデビュー40周年記念大会を開催する越中詩郎(2018年11月6日撮影)

越中詩郎(60)が元気だ。最近、レジェンドプロレス、マスターズ、さらにはさざまな団体でよく見かけるなと思っていたら、デビュー40周年記念大会を、来年1月30日に後楽園ホールで開催するという。還暦を迎えても、越中の人気は衰えを知らない。「SAMURAI」の入場曲が流れると、観客は熱狂し、ヒップアタックに沸く。何よりも、若い世代のレスラーと対戦してもひけをとらない動きに驚かされる。

越中のプロレス人生は「ヒップアタック」とともにある。その起源は、入門から約7年を過ごした全日本プロレス時代にあった。「全日本でジュニアのトーナメントがあって、1回戦で優勝候補大本命のチャボ・ゲレロと当たったんだ。こいつを驚かせてやろうと、当時ゲレロが使っていたヒップアタックをやってみたのが始まり。その試合はボコボコにやられたけどね」。

それからヒップアタックを使うようになった、得意技ではなかった。本格的に使うようになったのは、85年に移籍した新日本プロレス時代だ。「長州力や高田延彦と試合をやるようになって、やつらに『ヒップアタックなんか効かない』ってばかにされたんだ。じゃあ、10発でも20発でもやってやるって」。越中は、相手に効くまで反発もヒップアタックを繰り出すようになった。ヒップバット、ダイビングヒップアタック、ミサイルヒップアタック。あらゆる場面を考え、バリエーションを増やしたことで、相手にダメージを与える効果的な技になった。

「まさか、自分の代名詞になるとは夢にも思っていなかった」と越中は振り返る。デビュー40年で、ヘビー級のシングル王座は1つも取ったことがないが、多くの王者と熱戦を演じた名脇役として、越中の存在は大きい。おしりで相手を攻撃するという、コミカルな技も、相手の攻撃を真っ向から受け止め、やられてもやられても立ち向かっていく越中が使うことで、説得力を持つようになった。ファンはヒップアタックに越中のプロレス人生をダブらせ、大きな声援を送る。

越中は現在も毎日ランニングを欠かさない。「走るときは1日10キロは走るね。『おい、走るぞ』って猪木さんについて、道場(世田谷区上野毛)から府中まで走ったこともある。若い頃の厳しい練習のおかげで、今の自分がある」と話す。94年に反選手会同盟の流れで立ち上げた平成維震軍が、ヒップアタックとともに、越中の代名詞だ。維震軍の「震」は「プロレス界を震撼(しんかん)させる」の意味だそうだ。来年は、元号が平成から変わるが、越中は「年号が変わろうが何しようが、平成維震軍は変わらない。来年は新しいメンバーを加えて、またプロレス界を震撼(しんかん)させていきたい」と決意を語った。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

永田裕志にヒップアタックを決める越中詩郎(2007年05月02日)

大相撲裏話

豊ノ島、引退よぎった2年「達成感」求め高み目指す

目に涙を浮かべながらインタビューに答える豊ノ島

しこ名を呼び上げられ、本場所の土俵に上がった瞬間、その胸の高鳴りはいかばかりだろうか。耐え抜いた約2年にわたる雌伏の時を経て、豊ノ島(35=時津風)が東十両13枚目に戻ってきた。16年秋場所以来の関取復帰。11日に初日を迎える大相撲九州場所(福岡国際センター)の本土俵に、化粧まわしを締め本場所用の締め込みをまとった男が戻ってくる。35歳4カ月での再十両は、戦後6位の高齢昇進だ(1位は大潮の39歳5カ月)。

2年前の7月。名古屋場所前の稽古で悪夢が襲った。左アキレス腱(けん)皮下断裂。2場所連続全休し、本場所の土俵に戻ったのは2年前のここ博多。気がつけば番付は幕下に落ち、稽古用の黒まわし姿だった。「まあ2、3場所で関取に戻るだろう」という私の予想は外れた。あの幕下陥落の最初の相撲から、再十両を決めた先場所まで全12場所、計77番のほとんどを取材し、コメントを取ってきた身としても「ああ、もうダメかもしれない」と本人も悟った「引退」の2文字を感じざるを得なかった。

家族はじめ周囲の支えは不可欠だったろう。ただ何より、心が折れそうな時、このままでは終われないという本人の精神力が復帰への道を歩ませたはずだ。そんな豊ノ島を場所前の6日、時津風部屋で取材する機会があった。その様子をここで紹介したい。

Q場所に臨む心境は

豊ノ島 半々かな。楽しみなのと…。関取として復帰した状況だけど、常に引退とかも考えてしまう場所になるかもしれない。楽しみなのは楽しみだけど、不安もいっぱい。う~ん、でもどうかな…。楽しみの方が大きいかな。先場所、幕下で取って不安だったのに比べれば、全然ですね。

復活を果たしたことで、以前に増して慎重になる自分がいる。幕下陥落後も2度、見舞われたケガ。もがき苦しんだ2年という時間が、自分の少しだけ変えた。

豊ノ島 1つの達成感というのがあるんですよ。もしもの時があっても、もう悔いはないという。聞きようによっては弱気に受け取られるかもしれないけど、ここまで戻ったという達成感。頑張ってここまで戻ってきたという達成感がある。

何度も「達成感」の言葉を使った。仮にこの先、再び大けがをして現役生活を断たれるようなことがあっても、1つやり遂げたことでスッキリ割り切れる。それが今後の心の支えになるだろう。もちろんケガには慎重だ。

豊ノ島 勝負事だから何があるか分からない。ケガの怖さを経験して、絶対ということはあり得ない。ケガの怖さ、勝負の難しさ。(再十両まで)こんなに時間がかかるとは思わなかったからね。いざ、何か起こったときは、現実を受け止めないといけないこともある。

不安はある。だが、挫折を乗り切った自信の方が大きい。それは自身が歩んできた経験則からも言えるようだ。

豊ノ島 十両でやれるという自信はもちろんある。気持ちは絶対、大丈夫。これで終わる男じゃないと思ってる。これまでの人生も逆境を乗り越えてきたと思っているから。

もちろん目標は十両じゃない。何度も三役を経験し、優勝決定戦の舞台にも立ち、優勝次点も4度。三賞は10回、金星4個も誇れる実績だ。あの味わった幕内上位の舞台に再び戻りたい。

豊ノ島 もう1つ、上(幕内)に上がるという目標はボンヤリではなく、頭の中にしっかりありますよ。(ライバルであり仲のいい)琴奨菊とも幕内で対戦したいし、何なら横綱戦も(描いている)。稀勢の里関とは横綱になって対戦していないし、大関(高安)にも何かと気にかけてもらった。まだまだ対戦したい人が、上にはいっぱいいますよ。

一度、地獄を見た男に怖いものはない。復活劇は始まったばかりだ。

【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

リングにかける男たち

痛い村田諒太の敗戦、日本ボクシング発展に改革必要

WBA世界ミドル級タイトルマッチ、顔面に挑戦者ブラントのストレートを受ける村田諒太(2018年10月20日撮影)

ボクシングの難しさと奥深さをあらためて知らされた。WBA世界ミドル級王者村田諒太の初防衛戦。試合発表時から村田はKOを意識していた。挑戦者ブラントは無名であり、村田がいつ捕まえ、倒しきれるかが焦点と思われた。よもや負けるとは思わなかった。

村田は「幅の狭さを感じた」と振り返った。金メダリストからのプロ転向。当初はプロ仕様に改造へいろいろ試みた。アウトボクシングにも取り組んだが「強みを生かそう」と、本来のガードを固めてプレスをかける、アマ時代のスタイルに戻った。

ブラントには弱みをつかれた。スピードについていけなかった。防御で対応しきれず、ボディーもかわされた。ガードだけでは小さくても蓄積するダメージを受けた。かわしきる技術はなかった。右ストレートもこの階級ではまだまだ。手数も少なかった。

DAZNがこれまでにない有料ネットで独占生中継した。東京のスタジオでゲストの元世界王者西岡利晃氏とタレント香川照之は苦渋の表情。ブラントを一言ほめると早々に中継は終了。予定されていた取材対応は中止となった。DAZNは今回初の日本選手の世界戦。事前に地上波でバンバンCMを流し、起爆剤との期待も吹き飛んでしまった。

初防衛後にゴロフキンとのビッグマッチ、東京ドームでのビッグイベントのプランが浮上していた。業界内も村田を中心としたボクシングの盛り上がりに大きな期待を寄せていた。業界には大きな、大きなショックだった。

1年前は男子の世界王者は10人いたが、今や4人になった。後楽園ホールでの興行では観客が1000人を切ることも珍しくない。井上の怪物ぶりだけは衰えることがないが、ボクシングの人気拡大にオリンピック(五輪)好きの日本にあって村田は不可欠だった。プロとアマ、それもミドル級で世界の頂点に立った偉業は色あせることはないが、この黒星は痛かった。

日本独特のジム制度は長所も多いが、ジム主体の興行の厳しさを増している。ファイトマネーを生み出すテレビも今や地上波は3局程度になってしまった。競技人口減少の歯止めもきかない。スターの存在はインパクトがあるが、業界が一体となっての抜本的改革は必要だ。ボクシング界の行く末が心配である。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」

WBA世界ミドル級タイトルマッチで判定で挑戦者ブラントに敗れ、ぼう然とする村田諒太(2018年10月20日撮影)

大相撲裏話

積極的な動き 印象的だった旧貴乃花部屋の力士

千賀ノ浦親方(右)と握手を交わす貴景勝

元横綱日馬富士の傷害事件を巡って訴訟を起こした被害者の貴ノ岩が、訴訟を取り下げた10月30日は、千賀ノ浦部屋の稽古始めでもあった。10月1日付で元貴乃花親方(元横綱)の日本相撲協会の退職が決まり、旧貴乃花部屋の消滅と所属力士らの千賀ノ浦部屋への所属先変更も承認された。小結貴景勝は秋巡業参加のため、都内で行われた引っ越し作業には参加せず。千賀ノ浦部屋に合流したのは、秋巡業が終わり福岡入りした10月28日。九州場所(11月11日初日、福岡国際センター)の新番付発表が行われた10月29日は稽古は休みで、30日にようやく初めて、旧貴乃花部屋の力士と千賀ノ浦部屋の力士が全員そろっての稽古が行われた。

印象的だったのは、旧貴乃花部屋の力士らが、積極的にコミュニケーションを取っていたことだ。四股やストレッチで体を温め、すり足が始まった。さまざまな種類のすり足に、旧貴乃花部屋の力士らは、千賀ノ浦部屋の力士の動きを見よう見まねで行った。最初こそぎこちなかったが、慣れてくると余裕がでてきたのか、会話する場面が増え、笑顔が見えた。ぶつかり稽古、申し合い稽古が始まると、自然とアドバイスをする姿に千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)も安堵(あんど)の表情。新弟子に対して、身ぶり手ぶりで四股の踏み方を指導する姿も、すっかり千賀ノ浦部屋にとけ込んでいる印象だった。

“新”千賀ノ浦部屋の稽古始めは、約2時間で終わった。師匠の千賀ノ浦親方は、「これまでは関取が1人しかいなかったから助かります。活気も違う」と、旧貴乃花部屋の3人の関取が若い衆に指導する姿を喜んだ。小結貴景勝も「いい雰囲気で活気がある」と言えば、平幕の隆の勝は「これまで出稽古でやっていたことが毎日部屋でできるのでうれしい」と、こちらも笑顔。旧貴乃花部屋の力士が、千賀ノ浦部屋に所属先変更して1カ月たったが、部屋としては順調な滑り出しのように見えた。【佐々木隆史】

原功「BOX!」

元5階級王者ドネアの苦戦必至もベテランの意地見せるか

賞金トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」シーズン2、バンタム級とスーパーライト級の準決勝が11月3日(日本時間4日)、英国グラスゴーで行われる。すでにWBAレギュラー王者の井上尚弥(25=大橋)が準決勝進出を決めているバンタム級では、第1シードのWBAスーパー王者、ライアン・バーネット(26=英)が登場。元5階級制覇王者のノニト・ドネア(35=比)の挑戦を受ける。スーパーバンタム級ではジョシュ・テイラー(27=英)対ライアン・マーティン(25=米)の全勝対決が組まれている。

バンタム級トーナメントは10月7日にスタートし、井上が元王者のファン・カルロス・パヤノ(34=ドミニカ共和国)を70秒KOで一蹴。他のエントリー選手たちにプレッシャーをかけるかたちとなった。

1週間後の10月13日にはロシアのエカテリンブルクでWBOタイトルマッチが行われ、王者のゾラニ・テテ(30=南ア)がミーシャ・アロイアン(30=露)に12回判定で勝利を収め、準決勝に駒を進めた。長身サウスポーのテテは初回に軽いダウンを奪ったものの挑戦者の攻撃を持て余した。そのため114対111(2人)、115対110とポイント差は比較的接近していた。

そして先週20日にはIBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)が米国フロリダ州オーランドで3位の指名挑戦者、ジェイソン・マロニー(27=豪)と対戦。準決勝で拳を交える井上が観戦するなか、ロドリゲスは本調子とは遠い出来で、辛うじて12回判定勝ちで初防衛を飾った。ジャッジのスコアは三者とも115対113だったが、二者がロドリゲスを支持、ひとりはマロニー優勢という際どい勝負だった。

決勝進出をかけた井上対ロドリゲスは来春、米国で行われる予定だが、現時点のオッズは5対1で井上有利と出ている。

そして11月3日には、最後の準決勝進出者を決めるためバーネットとドネアが対戦する。19戦全勝(9KO)のバーネットは目下8試合続けてKOを逃しているが、スピード、パワー、テクニックなどバランスのとれた戦力を持っている。基本は右構えだが、機をみて左にチェンジする器用さも兼ね備えている。

ドネアもスイッチ・ヒッターだが、最近は得意とする左フックを生かすためか右構えで戦うことが多い。初めて世界王座を獲得してから11年が経っており、試合の13日後(16日)には36歳になる。戦績は43戦38勝(24KO)5敗。すでに5階級制覇を成し遂げているが、近年はスーパーバンタム級やフェザー級で戦っており、コンディション調整が不安視されている。今年4月にWBO世界フェザー級暫定王座決定戦で12回判定負けを喫したときは56.9キロだったが、今回はさらに約3.4キロの減量が必要になる計算だ。計量をクリアしたとしても若く勢いのあるバーネットが待っており、苦しい戦いは必至といえる。

6対1でバーネット有利のオッズが出ているように、王者が自在な動きとスピーディーなパンチを当てて加点、判定勝ちという線が妥当なところだろう。ただ、ドネアがベストに仕上げてきた場合は番狂わせも考えられる。

ベテランが意地を見せる可能性も決して低くはないように思える。

一方、同じ日に行われるスーパーライト級準々決勝では、地元スコットランドの人気者、13戦全勝(11KO)でWBC1位のテイラーが、WBC6位にランクされる22戦全勝(12KO)のマーティンと対戦する。地の利もあるテイラーが5対1で有利とみられているが、スピードのあるマーティンが予想を覆す可能性もある。

11月3日(日本時間4日)、英国グラスゴーのリングに要注目だ。

リングにかける男たち

セインら日本女子勢が進化、米マットで頂点も近い

全7試合。28日(日本時間29日)、米ニューヨーク州にあるナッソー・ベテランズ・メモリアル・コロシアムで、WWE初の試みとなった女子レスラーのみのPPV大会エボリューションが開催された。「海賊姫」と呼ばれるWWE傘下のNXT女子王者カイリ・セイン、「天空の逸女」の愛称を持つ紫雷イオ、そして15年10月のデビューから267試合のWWE連勝記録を誇った「明日の女帝」と呼ばれるアスカが、うち3試合に出場した。

WWEで「海賊姫」として人気上昇中の前NXT女子王者カイリ・セイン(C)2018WWE,Inc.AllRightsReserved

セインのNXT王座戦はセミファイナル前に組み込まれた。挑戦者は前王者シェイナ・ベイズラー。会場で観戦していたはずのベイズラーの盟友2人(マリナ・シェファーとジェサミン・デューク)による想定外の試合介入を受けて敗れてしまったが、場外へのダイビングボディープレスなどで会場の視線をくぎ付けにした。ベイズラーたちは現ロウ女子王者ロンダ・ラウジーと4人で「MMA(総合格闘技)フォー・ホースウィメン」と呼ばれており、セインも彼女らとの因縁もできた。

メイ・ヤング・クラシック準優勝の紫雷イオ(C)2018WWE,Inc.AllRightsReserved

世界12カ国から計32選手が出場したトーナメント、メイ・ヤング・クラシック決勝には、紫雷が勝ちあがってきた。日本マットで対決してきたトニー・ストームとの顔合わせ。お互いの得意技をいかんなく繰り出し、紫雷が狙った2発目の月面水爆を両ヒザで迎撃されると、ストームの2発目のストロングゼロで3カウントを許す、という好勝負だった。計20選手出場の女子王座挑戦権争奪バトルロイヤル戦にはアスカが見せ場を作り、最後の4人に残ったところでリング外に排除されて敗退となった。

WWEで300戦近く無敗を誇ったアスカはもっとも女子王座に近い存在(C)2018WWE,Inc.AllRightsReserved

日本勢はいずれも勝利には届かなかったが、WWE殿堂入りの選手も加えた新旧50人を超えるメンバーが出場した中でインパクト、そして爪痕を残せた印象だ。世界中に動画配信されており、存在感は示したはずだ。以前からWWEでは女子タッグ王座の新設が計画されており、今回の大会成功も後押しに女子王座が増える可能性が高い。さらに3選手がタイトルに絡むチャンスが増えることになりそうだ。

過去、WWEではケンゾー(現KENSO)の妻で日本人初のディーバとなったヒロコ(鈴木浩子=現船橋市議)がマットに上がっていたが、主にケンゾーをサポートする役目。タイトルといえばWWE前身のWWF時代には94年にブル中野が初めてWWF女子王座を獲得。さかのぼること88年には「JBエンジェルス」山崎五紀、立野記代組がWWFタッグ王座を奪取した2例ほどだ。

シングル王座か、近い将来に新設されるであろうタッグ王座か。ロウ、スマックダウンの舞台で、日本女子勢が四半世紀以上の時を越え、WWEベルトを掲げる姿が見られるかもしれない。トップ級が集結する米マットで戦う「やまとなでしこ」たちの進化(エボリューション)は止まることはない。【藤中栄二】

大相撲裏話

見てみたい…御嶽海が場所相撲で大関昇進するところ

稽古はうそをつかない。よく聞く言葉だ。その手のことで最近耳にしたのは、春日野親方(元関脇栃乃和歌)が大関栃ノ心を「稽古でここまできた力士」と表現した時か。横綱稀勢の里がその昔、朝から軽く正午すぎまで猛稽古を積んでいた、なんて逸話を聞いたりもする。

ジャンルが違っても「稽古」を「練習」に置き換えるだけ、格言に変わりはない。以前担当したゴルフは、暗くなるまでショット、パットの練習をしている一部の選手がいた。女子では少し古めで不動裕理、福嶋晃子、最近では鈴木愛に韓国勢。男子では松山英樹、石川遼ら。だいたい顔ぶれは決まっている。強い選手ほどよく練習する。彼女、彼らを抜かないといけない立場の者より、やる。

さて。相撲で今、稽古という言葉で連想するのは、関脇御嶽海だ。ただし、逆の意味だが。

18日の大阪・池田市巡業でのこと。御嶽海は稀勢の里に指名され、三番稽古で相手を務めた。巡業ではあまり土俵に上がらない、とされていた男。だから、ある記者が聞いた。

以前より稽古に熱が入ってませんか?

御嶽海 はい、それ! ダマされてます。記者さんたちが来てる時だけですよ。だいたい取材に来る時はわかるしね。

でも、以前よりは…。

御嶽海 変わらないっすよ。

しかし、秋場所は大関とりのプレッシャーもあったでしょうし、九州場所はそれもないし…。

御嶽海 いや、秋場所も特に重圧はなかったし。今まで通りですよ。

こっちが求める答えなんか、わかってると言わんばかりにニヤニヤして、おかしそうに答えていた。

親方、力士仲間が彼を語る時、決まって「場所相撲」という言葉を使う。稽古は全力を出さず、抜く部分は抜く。横綱鶴竜など「う~ん、もっと力入れてやった方がいいと思うけどなあ…。僕なんかは、そうだったし」と期待の裏返しのように、はっきり言う。

そういう声をぶつけられる時、御嶽海はハイそうですね、とは言わない。決まって、自分には自分のやり方がある、といった旨のことを強調する。そこはずっとブレない。

大関とりは秋場所こそ失敗したが、まだ終わった訳ではない。「ゆっくりでいい。ゆっくりいきます。1年前よりは、確実にベースは上がってますからね」。

きっと彼には彼なりの工夫がある。裏で、人目につかない場所で培っているものがある。ないわけがない。照れ隠し、彼なりの格好良さ。ただ、そんなことを聞いても、きっと「そんなのないですよ」と否定するだろう。

こっちも人間だから、見た目頑張っている人間を応援したくなるが、心のどこかで「そればっかりでもなあ…」と思う部分はある。多士済々の方が、楽しい。御嶽海が彼の流儀を貫き、大関を射止めれば…それはそれで、おもしろい。ぜひ見てみたい。【加藤裕一】

女子プロボウラーの右から名和秋、渡辺けあきが見守る中、ボウリングのフォームを披露した御嶽海

原功「BOX!」

村田まさかの敗戦で戦国時代に突入したミドル級トップ戦線

20日(日本時間21日)、米国で行われた試合で2人の世界ミドル級新王者が誕生した。ひとりはネバダ州ラスベガスで村田諒太(32=帝拳)を大差の判定で破ったWBA王者のロブ・ブラント(28=米)、もうひとりはマサチューセッツ州ボストンで行われたWBO王座決定戦を制したデメトリアス・アンドレイド(30=米)だ。主要4団体のうち、約1カ月で3人の新王者が誕生したことになる。さらに27日(日本時間28日)には米国ニューヨークでIBF王座決定戦が組まれている。一時はV20王者、ゲンナディ・ゴロフキン(36=カザフスタン/米)が独走していたミドル級トップ戦線だが、ここにきて戦国時代に突入した感がある。

村田対ブラントは王者の防衛が堅いとみられていた。戦前のオッズは9対2で村田有利と出ていたほどだ。ところがスピードと手数、有効打で勝るブラントが村田のパワーを抑え込み、大差の判定でベルトを奪い取った。

これより35日前、同じラスベガスではサウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)がWBAスーパー王座とWBC王座を持つゴロフキンを僅差の判定で破り、2冠を奪取している。この試合も3対2でゴロフキン有利とみられていたが、その数字がひっくり返ったわけだ。

この間、ビリー・ジョー・サンダース(29=英)がドーピング違反のためWBO王座を返上。これを受け20日に王座決定戦が行われ、アンドレイドがウォルター・カウトンドクワ(33=ナミビア)から3度のダウンを奪って大差の判定勝ち、ベルトを腰に巻いた。こちらは12対1のオッズがそのまま結果に出たかたちだ。

この3人に加え、WBCには今年4月に暫定王者を獲得したジャモール・チャーロ(28=米)が存在する。

こうした流れのなか27日にはダニエル・ジェイコブス(31=米)対セルゲイ・デレビャンチェンコ(32=ウクライナ/米)のIBF王座決定戦が行われる。これはゴロフキンがアルバレス戦を優先させたために剥奪された王座だ。ブラントの3代前のWBA王者でもあるジェイコブスは36戦34勝(29KO)2敗、08年北京五輪出場のアマチュア実績を持つデレビャンチェンコは12戦全勝(10KO)と、両者とも高いKO率を誇る。オッズは5対2で地元のジェイコブス有利と出ており、経験値で勝るジェイコブスがデレビャンチェンコの攻撃を戦術とテクニックで抑えるだろうとみられている。いずれにしても引き分けという結果にならない限りIBF王者が誕生するわけだ。

現時点のミドル級主要4団体の王者を整理すると以下のようになる。

■WBAスーパー王者:アルバレス

■WBA王者:ブラント

■WBC王者:アルバレス

■WBC暫定王者:チャーロ

■IBF王者:ジェイコブスorデレビャンチェンコ

■WBO王者:アンドレイド

興味深いのは、チャーロを含め全員がこの半年で戴冠を果たしていることである。これはミドル級がゴロフキンの独走状態から戦国時代に入ったことを示している。

ちなみに上記王者のうち、DAZNと11試合で3億6500万ドル(約410億円)の超大型契約を結んだアルバレスは、その初戦として12月15日に1階級上のWBAスーパーミドル級王座に挑戦することが決まっている。WBC暫定王者のチャーロも12月に次戦が内定している。

アルバレスは転級してしまうのか、ゴロフキンの巻き返しはあるのか、IBF王座を獲得するのは? そして村田の進退は-風雲急を告げるミドル級トップ戦線、まだまだ目が離せない状況が続きそうだ。

リングにかける男たち

現状維持は後退 変化を恐れない村田諒太と内藤哲也

変化を恐れないこと。そんな決意が担当する2つのスポーツで聞かれた秋だった。

ボクシングの村田諒太(32=帝拳)。10月20日(日本時間21日)に米ラスベガスで行われたWBA世界ミドル級タイトルマッチ、2度目の防衛戦で同級3位ロブ・ブラント(米国)に敗れて王座陥落した。日本人2人目のミドル級王者は1年でベルトを手放すことになったが、試合から一夜明けた会見では「練習も100%できましたし、こうしておけば良かったというのはない。過程においてやってきた自信はある」と後悔はないとした。

過程、その中でつぶやいた言葉がある。「諸行無常ですよね。物事に同じことはない。常に変化しないと」。決戦まで残り1カ月を切った時期だった。ミット打ちでひたすら右ストレートの距離感を確かめていた。「相手を倒すパンチって、だいたい振り切ってないですよね。振り切ったところで当たると力が伝わらない。考えれば当たり前なんですけど」。腕が伸びきった瞬間にインパクトを迎えても、押し出す力が欠ける。最も効果的なパンチは軌道の途中、振り抜く余力を残した地点で当てること。 「何でこんな当たり前のことを今更やっているんですかね」。その自嘲気味の言葉には失望の気持ちはなかった。自分のだめ出ししながら、どこか向上の余地を楽しむかのような、自分の現在地点を冷静に捉えられている事を、とても前向きに考えているように感じられた。それが印象的だった。

敗戦から一夜明け、腫れ上がった目をサングラスで隠し、会見する村田(2018年10月21日撮影)

プロレスラーの内藤哲也(36)。新日本プロレスのユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)」のリーダー。随一の人気を誇る男が最近口にしてきた言葉がある。「一歩踏み出す勇気」。4月29日、震災から復興しようとしていた熊本大会のリング上で語ったフレーズだった。「変わらないこと、諦めないことはもちろん大事。でも、変わろうとする思い、変わろうとする覚悟、そして、一歩踏み出す勇気も俺は大事なことじゃないかなと思います」。そこから時が経ち、その進言が自らに跳ね返った。

7月の米ロサンゼルス大会でメンバーの高橋ヒロムがけがを負い、長期欠場することになった。そこからL・I・Jは4人で戦ってきたが、ある決断をした。「ただ待つわけでなく、一歩踏み出すことも大事なんじゃないかなと思いました。4人で待つのではなく、5人で高橋ヒロムの帰りを待つ。つ・ま・り、新たなL・I・Jとして、高橋ヒロムの帰りを待ちたいと思います」。そして10月8日、両国大会で第6の男、ドラゴンゲートで活躍してきた鷹木信悟の加入が発表された。新メンバー加入でまたどう変化がもたらされるのかが注目されている。

内藤哲也(2018年7月13日撮影)

トップ選手の中には、現状維持は後退という考えの選手が多い。その覚悟が人を魅了する姿を生み出している。【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」

大相撲裏話

稽古が楽しそう 秋巡業に見た稀勢の里の余裕

稀勢の里(2018年10月5日撮影)

9月の秋場所を10勝5敗で9場所ぶりに皆勤した、横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、現在行われている秋巡業で精力的に稽古を重ねている。

秋巡業は10月3日に開始。栃木・足利市で行われた5日に、前頭隆の勝にぶつかり稽古で胸を出し、秋巡業で初めて稽古土俵に上がった。甲府市で行われた10日には、前頭佐田の海を相手に三番稽古を行い、相撲を取る稽古も再開。佐田の海には10番取って全勝だったが、付け入る隙を与えない完勝ばかりだった。

佐田の海とは、秋場所前の夏巡業中にも何日も胸を合わせ、勝敗では常に圧倒していた。だが内容では、必ずといっていいほど、何番かは一方的に敗れることもあった。勝敗で圧倒していたのも、稀勢の里の方が34キロ重い体格差を生かした「体力勝ち」の部分が大きかった。だが甲府市では、低く鋭い立ち合いから左を差し、腰が高くなる悪癖ものぞかせず、相手に何もさせずに寄り切る相撲が目立った。

横綱相撲の理想とも言われる、相手を受け止めつつ先手を奪っている「後の先」の域に達するまでには至っていないかもしれない。それでも、私が以前担当していた7、8年前、主に三役として大関を目指していたころのように、ガムシャラに強さを求めていたころと同じように映った。相撲好きの少年がそのまま大人になったような、若々しさ、いきいきとした雰囲気が全身から出ていた。

8場所連続休場から進退を懸けて臨んだ秋場所、さらにその前の夏巡業では、明らかにピリピリと張り詰めた空気をかもし出していた。それが今回の巡業では、自ら明るい雰囲気をつくって報道陣と談笑することまである。足利市での巡業では、隆の勝に約8分間もぶつかり稽古で胸を出した後に「新聞だと『軽めの調整』って書かれちゃうのかな。よく『軽めの調整』『軽めの稽古』って書かれるけど、四股やすり足だけでも軽くないんだから。1度やってみる? そうしたら軽くないんだなって分かるでしょ」と、笑って話していた。何度も隆の勝にぶつかられ、胸を真っ赤に腫らしながらも冗談っぽく話せるほど、心身ともに余裕が出てきた。

秋場所千秋楽後に行われたパーティーでは、後援者らに向けて「優勝争いはかなわなかったですが、また来場所、もっともっと強くなって優勝争いに絡み、また、いい報告をできるように一生懸命頑張ります」と宣言した。懸念された相撲勘が戻りきらない中で、秋場所は2ケタ勝った。そこに上積みする形で、秋巡業ではその後、関脇御嶽海らとも稽古を重ねている。何より、稽古が楽しそうだ。同じ相手と立て続けに何番も取る、本来は体力的にきつい三番稽古でさえ“軽めの調整”に見えてしまうほどの余裕が見える。表情にも明らかに自信が戻ってきた。稀勢の里が、再び優勝争いの中心に戻ってくる日は、遠くないかもしれない。

【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

村田戦の裏でWBO王座決定戦 どうなるミドル級トップ戦線

20日(日本時間21日)、米国ネバダ州ラスベガスで村田諒太(32=帝拳)対ロブ・ブラント(28=米)のWBA世界ミドル級タイトルマッチが行われるが、同じ日、マサチューセッツ州ボストンでは同じ階級のWBO王座決定戦が挙行される。ドーピング違反が発覚したビリー・ジョー・サンダース(29=英)が11日に王座を返上したため、急遽、1位のデメトリアス・アンドレイド(30=米)と2位のウォルター・カウトンドクワ(33=ナミビア)が拳を交えることになったのだ。20日、リングのなかではどんな動きがあるのだろうか。

ミドル級では9月15日、サウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)が、8年間に20度の防衛を誇ったゲンナディ・ゴロフキン(36=カザフスタン)を僅差の判定で破ってWBAスーパー王座とWBC王座を獲得したばかりだ。そのアルバレスは12月15日に1階級上のスーパーミドル級でWBA王座に挑戦することが内定しており、その結果しだいでは転級も考えられる状況といえる。

こうしたなか20日にWBAとWBOのミドル級タイトルマッチが行われるわけだが、2試合ともすんなりと挙行にこぎ着けたわけではない。村田対ブラントはWBAが義務づけたカードで、8月には興行権入札が行われたが、村田側は参加せず、ブラント側が落札。

一時は村田が王座を返上する可能性まで浮上したが、その後、両陣営が条件合意に達したという経緯がある。

それ以上に慌ただしかったのがWBOタイトルマッチだ。サンダースのドーピング違反が表面化したのが9月下旬で、試合を管理するマサチューセッツ州のコミッションがサンダースの出場を不可と決めたのが試合10日前のことだった。これを受けサンダースに挑戦する予定だったアンドレイドは、待機状態にあった2位のカウトンドクワと暫定王座決定戦を行うことが決定。その後、11日になってサンダースが王座を返上したためアンドレイド対カウトンドクワ戦が正王座の決定戦になったという経緯がある。

アンドレイドは08年北京五輪ウェルター級ベスト8の実績を持ち、プロではスーパーウエルター級でWBO王座とWBA王座を獲得している。身長185センチ、リーチ187センチの大柄な技巧派サウスポーで、25戦全勝(16KO)と負け知らずだ。カウトンドクワは5年前のデビュー戦で判定勝ちのあと16連続KO中の強打者だが、世界的強豪との対戦経験は皆無で、アフリカ大陸を出て戦ったこともない。17戦全勝(16KO)とKO率は高いが、実力そのものは未知といえる。順当にいけばアンドレイドが2階級制覇を成し遂げそうだが、カウトンドクワがKOで戴冠を果たすようなことがあるとミドル級トップ戦線は大荒れ状態に陥る可能性もある。

村田対ブラント、そしてアンドレイド対カウトンドクワ。日本時間の21日、米国からどんなニュースがもたらされるのだろうか。

リングにかける男たち

井上だけでなく田中恒成にも注目を次戦は全国中継で

激しく打ち合う田中恒成(右)と木村翔(2018年9月24日撮影)

WBA世界バンタム級王者井上尚弥が“70秒KO”をして、WBC世界ライトフライ級王者拳四朗がV3を達成した7日、会場の横浜アリーナで、東京の記者から「え?」という一言を聞いた。私が「最近、おもろい試合が多いから、ええよな。田中-木村戦もめちゃおもろかったし」と言うと「田中の試合って、そんな良かったんですか?」と返された。

…そんな良かったんですかて…めちゃめちゃええ試合やったがな…って君、知らんか…。

9月24日、名古屋の武田テバオーシャンアリーナで行われたWBO世界フライ級タイトルマッチ。挑戦者の同級1位田中恒成が、王者木村翔を2-0の僅差判定で破った。プロ12戦目の世界3階級制覇は、パウンド・フォー・パウンド最強とされるWBA世界ライト級スーパー王者ロマチェンコに並ぶ世界最速タイの快挙になった。

それ以上にタフな王者に、スピード&テクニックが際立つ挑戦者が真っ向から打ち合いに応じた内容が、すごかった。どつき合い、拳闘。どんな言葉を使っても、表現が陳腐になるほどの死闘。井上の“70秒KO”もええけど、現時点で年間ベストバウトを選ぶなら田中-木村戦に勝るものはない。そう思う。

ところが、テレビ中継はCBCによる中部ローカルの生放送。関東地区は後日録画放送。関西地区に至っては放送自体なかった。

テレビ局にはテレビ局の事情があるでしょう。「数字(視聴率)が取れないから」とか「スポンサーがつかないから」とか。放送枠の問題もあるか。慈善事業やないですからね。

ウチらの業界かて、ネタの「価値」と同時に「売れる紙面」を考える。読者が見たら「何でこれが1面やねん」ということは、ままあると思います。だから、わかる。わかるけど、今回ばかりはやりきれん思いが残った。

ここからは、半分愚痴ですわ。

田中-木村戦は戦前から、おもろい試合になることは分かってた。北京、ロンドン五輪のライトフライ級で金メダルをとった中国の英雄・鄒市明(ぞう・しみん)から、敵地に乗り込み、KOでベルトを奪い、初防衛戦、V2戦もKOで防衛した王者木村のラッシングファイトに、挑戦者田中がどう挑むのか? ボクシングファンの興味をそそる要素はてんこ盛りやった。

それなのに、全国中継できませんか? まあ仮にできんにしても、録画中継をせんエリアがあるなんて、いくら何でも、それはないんと違います? あの試合を見れんかった関西のボクシングファンは大損です。命を削るような殴り合いを演じた2人も、気の毒やないですか。

世界3階級王者田中は、ボクシング担当歴の浅い、素人記者の私が見てもすごいです。所属の畑中ジムの畑中清詞会長に「次の試合は全国中継で?」と意向を聞くと「もちろん。それ以外は考えてない」。初防衛戦は来年3月あたりが有力です。活字メディアが一生懸命頑張っても、テレビには絶対かなわん一面もある。だからこそ、次こそは、何とぞよろしくお願いいたします。

【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

固定観念とらわれない元貴乃花親方の今後の動向注目

都内の部屋の前で報道陣の取材に対応する貴乃花親方(2018年9月27日撮影)

相撲界のネタで、テレビの情報番組も話題に事欠かない。昨年11月から続いた元横綱日馬富士関の傷害事件に端を発した一連の内紛劇は、半年でようやくピリオドを打った、ようやく…。と思いきや貴乃花親方の突然の退職劇、直後には水面下で進んでいた元日馬富士関への訴訟問題が表面化し、そして元横綱輪島さんの訃報。何だかんだ言っても、さまざまな人間模様を映し出す相撲への世間の関心、興味は高いのだなと、あらためて感じさせる。

その話題の1つに、元貴乃花親方の政界進出話がある。正式退職が決まってから3日後のさる4日、馳浩元文部科学相の東京都千代田区にある事務所を訪問したことで、にわかに来夏の参院選出馬の可能性が取りざたされることになった。

訪問の目的を、日ごろから世話になっている同元文相への退職のあいさつとした元親方は「次、何をしようとするかとか、その余裕はなくしております」と打診の話はなかったことを明言した。政界進出を本当に考えているなら、水面下で人知れず動くのが普通だ。わざわざ報道陣監視の元で永田町を闊歩(かっぽ)する姿から、その信ぴょう性は薄いのでは、とみる向きは多い。

人様の第2の人生に口を挟むのは、余計なおせっかいだろうが個人的にも、そう思う。脇目も振らず一心不乱に、こうと思えば一直線…という性格からすれば、多方面に目配りし、器用に立ち居振る舞うことが求められる異分野への転身は考えにくい。

確かに、裸一貫で生き抜く角界にあって現役時代から退職するまで、相撲界を離れた世相への関心は高く文化人、財界人から知見を吸収しようとする姿勢はかいま見えた。今、ブログなどを見ても、元親方がつづる文章は角界人からすれば難解で分かりづらい文言が多い。悲しいかな、そんな一面も他の親方衆から、一線を画す垣根を作られる要因になったと思う。懐に飛び込めればフランクな性格が分かるが、そうでなければバリアーを張られているような。

つづってきた文章には、哲学的なものを想起させるが、政治は分かりやすさとのバランスが求められるだろう。その器用さは、持ち合わせていないと思う。相撲一筋で生きてきたのだから、それは当然だ。人気に当て込むのは選挙の常かもしれないが、公示板にポスターが貼られる姿は想像しにくい。

ただ一方で、これも個人的な淡い願望として「政治家・花田光司」も見てみたい気がする。数年前、元親方とお茶をしながら世間話をしていると突然、こんな話を切り出してきた。「織田信長って本能寺で死んだことになっているけど、俺はそうは思わないよ」と。家臣だった明智光秀の謀反にあい、49歳の生涯を本能寺で閉じた織田信長。歴史の面白さは、その史実を読み解くとともに、仮説を立てて脈略をつなぐことにもあると思う。確かに、本能寺では遺体がみつからなかった、他の場所で自害した、生き延びて後世を見守った…など識者による諸説はさまざまある。

元親方はその後も、お市の方やねねなど、深くかかわった人物の名前を挙げた上で、信長は生き続け、陰で人をうまく動かし、戦国の世が平静になるのを見届けたのでは…という自分なりの“仮説”を語っていた。そう思うに至ったのは、識者の仮説を見聞きしたり、書物を読んだのが発端かもしれない。いつのころからか日本史に興味を示し、弟子のしこ名に戦国武将の名前を入れたぐらいだ。それはどうであれ既成事実、固定観念にとらわれず物事を見ようという考えが根底にあるのだろう。それを「改革」ととられてしまったのは不本意だったのかもしれないが…。

相撲協会での人生は、本能寺の変の織田信長のように、風雲急を告げるように急転直下、幕を閉じた。ただ、この先もどんな形であれ相撲との縁は切れないはず。育てた弟子の出世も見届けなければならない。「大相撲は不滅です」と公式サイトにつづったように、その繁栄にどう携わるのか注目してみたい。【渡辺佳彦】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

WBSSバンタムは好カード目白押し 井上の相手は誰だ

階級最強を決める賞金トーナメント、「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」バンタム級初戦は、第2シードのWBA王者、井上尚弥(25=大橋)が元王者のファン・カルロス・パヤノ(34=ドミニカ共和国)に70秒でKO勝ち、順当に準決勝に駒を進めた。試合時間は短かったが、そのなかでスキルとパワーを見せつけた衝撃のKO劇だった。このあと13日、20日、11月3日に準々決勝に臨むライバル6選手に与えたプレッシャーは大きいものがあったはずだ。

13日にはロシアのエカテリンブルクでWBO王者のゾラニ・テテ(30=南ア)対6位のミーシャ・アロイアン(30=アルメニア/露)が行われる。スーパー・フライ級に続いて17年4月に戴冠を果たしたテテは175センチのサウスポーの技巧派強打者で、初防衛戦では右フック一発で世界戦史上最短記録となる11秒KO勝ちを収めている。今年4月のV2戦では、フライ級で16度、スーパー・フライ級で11度の防衛実績を持つオマール・ナルバエス(43=アルゼンチン)に大差の12回判定勝ち、長丁場にも強いところを証明した。30戦27勝(21KO)3敗。

挑戦者のアロイアンはプロでは4戦すべて判定勝ちとキャリアは浅いが、アマチュア時代には12年ロンドンオリンピック(五輪)フライ級で銅メダルを獲得。11年と13年の世界選手権では優勝している。16年リオデジャネイロ五輪にも出場して準優勝したが、のちにドーピング違反が発覚して銀メダルを剥奪された。体格、技術、パンチ力で勝る第3シードのテテが勝ち上がりそうだ。

20日、米国フロリダ州オーランドでは18戦全勝(12KO)のIBF王者、エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)対17戦全勝(14KO)のジェイソン・モロニー(27=豪)のタイトルマッチが行われる。勝者が準決勝で井上と拳を交えることになっており、ファンの注目度も高いカードだ。KO率の高い全勝同士の組み合わせだが、12対1のオッズが出ているようにロドリゲス有利は不動と見られている。アマチュアで182戦171勝11敗の戦績を残しているロドリゲスはスピード、テクニック、パワーを備えており、WBA王者自身が「井上が危ないのではないか、と思われている相手」と認める実力者だ。どちらが勝ち上がるにしても井上との試合は興味深いものになりそうだ。

11月3日には井上を差し置いて第1シードに推されたWBAスーパー王者のライアン・バーネット(26=英)が登場する。英国グラスゴーのリングに迎えるのは、5階級制覇の実績を持つスター選手、ノニト・ドネア(35=比)だ。6対1で有利と見られているバーネットは昨年6月にIBF王座につき、4カ月後にはWBAスーパー王座も獲得。ロドリゲスとの指名戦を強制されたためIBFは返上したが、今年3月にはWBAスーパー王座の初防衛を果たしている。戦績は19戦全勝(9KO)だが、相手の質が上がっていることもあってか、このところ8試合続けてKOを逃している。

フライ級からフェザー級までの5階級で世界一になった実績を持つ43戦38勝(24KO)5敗のドネアは左フックや右ストレートに一撃KOの威力を秘めている強打者だが、近年はパワー偏重の雑な戦いぶりが目立つ。年齢に加え7年ぶりのバンタム級ということで減量など不安は少なくないが、万全のコンディションをつくることができればバーネット撃破だけでなく、トーナメントの台風の目になる可能性がある。決勝で井上と戦うことになれば盛り上がることは間違いない。

大本命が井上、対抗がロドリゲスとバーネット、それを追うテテという構図だが、13日、20日、11月3日の3試合で変化があるかもしれない。WBSSバンタム級トーナメント戦、今後の動きに注目していきたい。

リングにかける男たち

田上明氏、久々の“バトル”は愛ある30分1本勝負

川田利明プロデュースの大会で、川田(右)とのトークバトルに参戦したかつての盟友田上明

全日本プロレス四天王として一時代を築き13年に引退した田上明氏(57)が、4月16日の胃がんの全摘出手術後、久々にファンの前に姿を見せた。1日に同じく全日本で活躍した川田利明(54)がプロデュースするプロレス興行「FOLY WAR」新宿大会(新宿FACE)のトークバトルに登場した。

2人は、全日本で名コンビで知られたが、私生活でもお互いが経営する店に行き来するなど、大の仲良し。トークバトルは、茨城県つくば市でステーキ居酒屋を経営する田上氏のもとに、川田が直談判に行き実現した。2人の対決は、ぶっきらぼうな言葉の中に、お互いへの愛情があふれる、「30分1本勝負」だった。

先にリングインしたスーツ姿の川田がコーナーで屈伸運動をすると、田上氏は苦笑。「屈伸運動したら、後ろに倒れたよ。四股でも踏んでやろうかと思ったけど、やめといた」。終了後のインタビューで田上氏は笑いながら話した。

田上氏は玉麒麟のしこ名で大相撲の十両まで務めたが、プロレス転向。ジャイアント馬場とのタッグという破格の待遇でデビューした。その後、川田らの超世代軍に属したが鳴かず飛ばず。しかし、ジャンボ鶴田のパートナーに抜てきされたのが転機となり台頭。鶴田が病気となった後に、それまで敵対していた川田とタッグを結成。「聖鬼軍」を名乗り、世界タッグを最多の6度獲得するなど、一世を風靡(ふうび)した。

お互いのタッグについて田上氏は「気難しそうで最初はいやだった。組んでみたら、今までで一番信頼できるパートナー。組んでみたら、うまかったね。今はラーメンがうまいけど」と、川田が経営するラーメン店もしっかり宣伝。川田は「気が楽。(田上氏)に気にせず、自分が好きなことができた」と話した。

ジャイアント馬場死去後の00年に、三沢が小橋、田上氏らを連れて大量離脱。全日本に残った川田と、ノアの旗揚げに参加した田上氏は離れ離れになった。離脱直後には田上氏が川田に電話しノアへ誘ったという裏話も披露。「あの時に連絡あったのは田上さんだけ」と川田。断ったが、2人の親交は続いた。

13年12月の田上氏の引退試合には川田も参加。川田は「引退試合に行って、お疲れさまでした。今後はノアの社長として田上火山を大噴火させてください」と激励した話をすると、田上氏が「どんどん沈下していった。オレは社長は似合わない」と苦笑交じりに返す。ノア社長時代の苦悩も、2人はトークショーで笑い飛ばしてしまった。

胃の全摘手術を受けた田上氏は、かなりやせてしまっていた。「若いころは良きライバル、おっさんになったら良き飲み友だちだから」という田上氏に、川田は「いい飲み友だちとして、しっかり健康管理してタバコも止めてください」と心遣いを見せていた。98年4月、最後のシングル対決となった仙台大会で、左膝を負傷していた田上氏にあえて足四の字固めを見舞い、早々に試合を終わらせたように。

【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

稽古は嘘つかない、貴景勝は貴乃花親方の教え胸に

貴景勝と貴乃花親方(2018年5月20日撮影)

旧貴乃花部屋の小結貴景勝(22=千賀ノ浦)に、悲愴(ひそう)感はなかった。「力士とはどういう姿勢であるべきか。それを常に指導してもらった。相撲はもちろん、生活面とかも。貴乃花親方の弟子で角界に入ったので、教えてもらったことをそのままやっていくのが自分ができること」。はっきりとした口調で堂々と話した。

厳しい稽古で知られていた旧貴乃花部屋。トレーニングジムに通う関取が増えてきた昨今、「関取はジムに通わないのか?」と聞くと「僕は無理。部屋の稽古だけでオーバーワークです」と言う程だった。それは巡業先でも変わらなかった。貴景勝が新十両昇進を果たした16年から、元貴乃花親方(元横綱)が巡業部長になり、巡業では常に土俵下で目を光らせていた。全力士に平等に見ていたつもりだろうが、ついつい弟子に厳しくなってしまうのは親の性。幕内に番付を上げても、常に貴景勝は十両の申し合い稽古から参加。幕内と合わせれば、連日30番以上相撲を取っていた。おかげで力をめきめきとつけていった。

だが実は、1度だけ抜いたことがあった。それが旧貴乃花親方が、巡業を休んだ昨年の九州巡業だった。申し合い稽古に参加しても10番取るか取らないか。もちろん本場所で疲れ切った体を休めるのも大事な仕事で、負傷した箇所があれば満足に稽古もできない。ただ、これまでの巡業に比べると少なかった。新小結で臨んだ今年の初場所は5勝10敗。「稽古はしっかりやってきたつもりですけど…」と支度部屋で少しばつが悪そうに言ったのは印象的だった。

稽古はうそをつかない、というのを身をもって知った貴景勝。その後の春巡業、夏巡業では精力的に稽古土俵に上がった。夏場所10勝、名古屋場所10勝、秋場所9勝と結果も出した。「教えてもらったことをそのままやって-」。元貴乃花親方の教えを、これからもずっと胸に土俵に上がる。【佐々木隆史】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

巡業の朝稽古中に、弟子の貴景勝(右)の背後について四股の踏み方を熱心に指導する貴乃花親方(2018年8月5日撮影)
原功「BOX!」

米大手HBOテレビが今年限りでボクシング中継から撤退へ

米国のボクシング放送の核となってきたケーブルテレビ局の大手、HBO(ホーム・ボックス・オフィス)が今年限りでボクシング中継から撤退することになった。同局はヘビー級王者、マイク・タイソン(米)や6階級制覇王者のオスカー・デラ・ホーヤ(米)、マニー・パッキャオ(比)らスーパースターの注目ファイトをペイ・パー・ビュー(PPV=有料視聴)で生中継するなどしてきたが、近年は契約選手の減少や視聴件数で苦戦が続いていた。

タイムワーナーの系列会社でもあるHBOテレビは、1973年1月にジャマイカの首都キングストンで行われたジョー・フレージャー(米)対ジョージ・フォアマン(米)の試合を放送したのを皮切りに、45年以上にわたってボクシング中継を続けてきた。91年4月のイベンダー・ホリフィールド(米)対ジョージ・フォアマン(米)=約140万件、99年9月のデラ・ホーヤ対フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)=約140万件、2007年5月のデラ・ホーヤ対フロイド・メイウェザー(米)=約240万件、10年5月のメイウェザー対シェーン・モズリー(米)=約150万件、11年11月のパッキャオ対ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)第3戦=約140万件、12年5月のメイウェザー(米)対コット=約150万件と、PPVの契約件数で100万件超えを連発するなどボクシング放送には欠かせない局となっていた。PPVは番組視聴のために1件あたり概ね6000円~8000円程度の金額を支払うことが多く、100万件で60億円~80億円を生む計算になる。それが選手の報酬に還元されるため放送局と出場選手双方にメリットがあるシステムといえる。

しかし、近年はライバル局のショータイムに押され気味の状態が続き、さらに有力プロモート会社のトップランク社が1年前に対抗局のESPNと契約を交わしたため、HBOは看板選手のパッキャオやワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、テレンス・クロフォード(米)らを失うことになった。ストリーミング配信サービスのDAZNがボクシングの映像配信に参入してきたことも、HBOの厳しい状況に拍車をかけることになった。こうしたなか今年9月、HBOは最後の切り札ともいえるゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)の注目ファイトをPPVで生中継。110万件の視聴件数を記録したものの、デラ・ホーヤ、メイウェザー、パッキャオらが打ち出した数字には遠く及ばなかった。その1週間前、井岡一翔(SANKYO)らが出場した軽量級のイベント「SUPERFLY3」もHBOテレビで生中継されたが、ピーク時で約35万件視聴と低調だったと報告されている。

このあと10月27日に米国ニューヨークで行われるダニエル・ジェイコブス(米)対セルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)のIBF世界ミドル級王座決定戦がHBO最後の放送になる予定だ。ただ、2019年以降に関して定期的な放送は予定されていないというが、単発でボクシングを中継する可能性はあるという。

最近はDAZNのほかフェイスブックによる映像配信も行われるなどボクシングを含むスポーツ中継の方法が劇的に変化している。HBOの撤退はそんな流れのなかで起こったといえよう。