上へ戻る

au版ニッカン★バトル

トップ

原功「BOX!」

佳境に入る“ウェルター級ウォーズ”最強は誰だ

147ポンド(約66.6キロ)を体重リミットとするウェルター級が年初から賑やかだ。すでに1月にWBAレギュラー王者のマニー・パッキャオ(40=比)とWBAスーパー王者のキース・サーマン(30=米)が防衛に成功しており、遠からず団体内の統一戦が期待される状況といえる。このあと3月、4月にも他団体王者たちの試合が組まれており、スター選手が集結している「ウェルター級ウォーズ」は佳境に入っていくことになる。

1月19日、6階級制覇の実績を持つパッキャオ(70戦61勝39KO7敗2分)は元4階級制覇王者のエイドリアン・ブローナー(29=米:39戦33勝24KO4敗1分1無効試合)を大差の12回判定で退け、昨年7月に獲得した王座の初防衛を果たした。パッキャオは昨年12月に40歳になったが、ブローナー戦では最後まで手数もスタミナも落ちず、まだまだトップで十分にやっていけることを証明した。

その1週間後の26日、WBAスーパー王者のサーマン(30戦29勝22KO1無効試合)はホセシト・ロペス(34=米:45戦36勝19KO8敗)に12回判定勝ちを収め、暫定王者時代からの防衛回数を8に伸ばした。17年3月以降、肘や拳の負傷で2年近くを休養に充てることになったサーマンだが、この試合でリングに戻ってきた。

このあと3月9日にはWBC王者のショーン・ポーター(31=米:32戦29勝17KO2敗1分)が、08年北京オリンピック銅メダリストのヨルデニス・ウガス(32=キューバ:26戦23勝11KO3敗)を迎え撃つ。攻撃型のポーター、技巧派のウガスという組み合わせだけに激しいペース争いが展開されそうだが、プロでの経験値と馬力で勝るポーターが9対2のオッズで有利とみられている。

その1週間後、3月16日にはエロール・スペンス(28=米:24戦全勝21KO)対マイキー・ガルシア(31=米:39戦全勝30KO)のIBFタイトルマッチが行われる。すでにスーパースターへの道を歩み始めている王者のスペンスと、勝てば5階級制覇となる正統派パンチャーのガルシア。4対1のオッズが出ているように体格とパワーで勝るサウスポーのスペンスが有利とみられているが、ガルシアの右ストレートが番狂わせを起こす可能性もある。

4月20日にはWBO王者のテレンス・クロフォード(31=米:34戦全勝25KO)が、元スーパー・ライト級王者のアミール・カーン(32=英:37戦33勝20KO4敗)の挑戦を受ける。左右どちらの構えでも戦えるスイッチヒッターのクロフォードと、スピードと右ストレートの切れに定評のあるカーン。3階級制覇を成し遂げているクロフォード有利は不動だが、カーンの右ストレートには注意が必要だろう。オッズは6対1でクロフォード有利と出ている。

これだけのスター選手が集結しているだけに、ファンの注目は「ウェルター級で誰が最強なのか」という点に絞られている。各団体の思惑に加えマネージメントやプロモーターの問題もあり王座統一戦は容易ではないだろうが、選手と関係者はファンの要望に耳を傾け最大限の努力をするべきだろう。3月と4月の試合を楽しみに待つと同時に、5月以降にどんなカードが組まれていくのか、大いに期待したい。

大相撲裏話

安美錦、竜虎へ粋な気遣い LINEでメッセージ

竜虎(左)との取組で右膝を痛めた安美錦(撮影・鈴木正人)

右膝のケガで休場中の安美錦(40=伊勢ケ浜)が、粋な気遣いをしていた。2日目の取組で古傷を痛めたが、対戦相手の竜虎(21=尾上)が「申し訳ない」と気にしていることを知り、メッセージを送った。負傷した翌日、尾上部屋の部屋付き、佐ノ山親方(元幕内里山)にLINEでこう書き込んだ。

「竜虎にそんなこと気にするなと伝えて欲しい。里山でも勝ったことがないんだから自信を持って相撲を取れ。いい相撲だったぞ」

すぐに佐ノ山親方は、本場所に向かっている車中の竜虎へLINEを送った。

竜虎は、スマホで確認した時の気持ちを、こう振り返る。「そう言ってくれてうれしかった。気合が入りました。これから絶対に負けられないなと思いました」。気持ちを高ぶらせたまま、新十両ながら6日目を終えて4勝2敗とした。

再出場を見据える安美錦は「勝負事だからケガは仕方ない。若くていい子と対戦できて、悪く思う気持ちはみじんもない。気にするくらいなら、四股でも踏めばいい」と笑い飛ばした。最年長関取と最年少関取。2人は勝負師として、これから先に視線を向けている。【佐々木一郎】

大相撲裏話

朝乃山が出題!若い衆を「だきまくってます」の意味

朝乃山(2019年7月7日)

「今日はオレが、だいてやる」。何とも妖艶な香りが漂う言葉を発していたのは、東前頭筆頭の朝乃山(25=高砂)だ。先場所の初優勝で人気、知名度ともに大幅に上がっただけに、ファンが色めき立ちそうなフレーズだが、実はこれ、朝乃山の故郷富山県の方言。「だいてやる」は「おごってやる」と意味だった。冒頭の言葉は「意味分かりますか」と、報道陣にクイズ形式で出題したものだ。

朝乃山は近大時代は大阪で、高砂部屋入門後は東京で過ごしてきた。冒頭の言葉を言われた際には「一応『どっちの意味ですか』って聞きます。決まって『おごってやる』という意味ですが」と笑って明かした。先場所の優勝賞金は貯金したしっかり者。それでも気分転換を兼ね「だきまくってます」と、若い衆を連れだって食事に行っている。

現在は「人前で話す時、なまらないように気を付けている」と、地元の友人、家族らと話す以外、方言を出さないように気を付けている。優勝後に帰郷した際には、旧知の年配女性から「だいてやる」と言われたが、冗談で「無理、無理」と即答。「ばかもん、富山弁の方じゃ」と返され、笑いに包まれたという。多忙な中で故郷を感じ、癒やされたようだ。【高田文太】

原功「BOX!」

井上尚弥が近い将来トップに? PFP最新ランク

WBA&IBF世界バンタム級王者、井上尚弥(26=大橋)の世界的な評価上昇が続いている。ボクサーの偏差値ともいえる「パウンド・フォー・パウンド(以下、PFP)」でも複数のメディアが4位以内にランクしており、遠からずトップの座につくのではないかとの予想もあるほどだ。

PFPとは階級の枠を超えたボクサーの総合的な評価のことで、どんな相手と戦い、どんな内容でどんな結果を残したか、それらをもとに仮想順位づけしたものといえる。明確な基準や数値があるわけではなく、また階級が異なる選手同士の直接対決が少ないこともあり、選者の主観が入る余地も十分にある。したがって以前はボクシングファンや関係者の遊びの範囲を出なかったのだが、階級や王座認定団体が増加した近年は“ホンモノ”を見分ける基準として認知度を上げている感がある。

そのため最近はボクシングの情報を扱うメディアが独自のPFPランキングを作成するケースが多い。以下は世界的に知られたボクシング雑誌、情報サイトのPFP最新ランキングである。

■リング・マガジン

(1)ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)=10

(2)テレンス・クロフォード(米)=9

(3)サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)=8

(4)井上尚弥(大橋)=7

(5)オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)=6

(6)エロール・スペンス(米)=5

(7)ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)=4

(8)ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)=3

(9)マイキー・ガルシア(米)=2

(10)ドニー・ニエテス(フィリピン)=1

■ESPN.com

(1)ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)=10

(2)テレンス・クロフォード(米)=9

(3)サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)=8

(4)井上尚弥(大橋)=7

(5)エロール・スペンス(米)=6

(6)オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)=5

(7)ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)=4

(8)ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)=3

(9)マイキー・ガルシア(米)=2

(10)デオンテイ・ワイルダー(米)=1

■BOXINGSCENE.com

(1)テレンス・クロフォード(米)=10

(2)井上尚弥(大橋)=9

(3)ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)=8

(4)サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)=7

(5)オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)=6

(6)エロール・スペンス(米)=5

(7)ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)=4

(8)ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)=3

(9)マイキー・ガルシア(米)=2

(10)シーサケット・ソールンビサイ(タイ)=1

1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点としてポイント計算すると、WBA&WBOライト級王者のロマチェンコ=28点、WBOウェルター級王者のクロフォード=28点、井上=23点、アルバレス=23点となる。この4人が現在の世界のボクシングシーンの「4強」といっていいだろう。奇しくも4人全員が3階級制覇を成し遂げているが、興味深いのは彼らの年齢である。ロマチェンコとクロフォードが31歳、アルバレスが7月18日で29歳になるのに対し井上は4月に26歳になったばかりで、群を抜いて若い。つまり最も多くの可能性を残しているともいえるのだ。井上は秋には階級最強決定トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」の決勝で、5階級制覇王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)と対戦することになっている。ここで内容のともなった結果を残せば、さらにランクアップすることは確実といえる。

ロマチェンコやクロフォードら他の選手の動向次第という面はあるが、近い将来、井上がPFPトップに躍り出る日が来そうだ。

大相撲裏話

ササの葉に短冊…関取の願いは何?

千代大龍

今年も真夏日が当たり前となってきた名古屋場所に、涼しげなササの葉が飾られている。関取衆の願い事が書かれた短冊つき。初めて行った昨年に続く企画で、初日から5日目まで会場の正面入り口付近、1階正面ロビーに展示されている。昨年は場所初日の前日で、今年は初日が七夕。「去年も今年もお客さんに喜んでもらえてますよ。真面目な願いもそうじゃない願いもあって、関取衆のいろんな面を紹介できる」と話すのは、企画に携わった岩友親方(元前頭木村山)。ササの葉周辺には、足を止めてカメラを向けるファンの姿が目立った。

「優勝したい」「けがなく過ごしたい」など相撲に関わる願いが大半を占める中で、ベテランの隠岐の海は「押尾川親方(元関脇豪風)よりもベンチプレスを上げたい(現180キロ)」、SNSを利用する若手の明生は「カメラがほしい」と、私的な願いが目を引く。千代大龍は昨年「金がいる」と書き、今年は「石油王をタニマチにする」と具体的になった。「一応本気の願いです。こういうところで目立って皆さんにお楽しみを届けたいと思います」。今場所は連勝発進に成功。土俵上でも主役になれば、石油王から注目される…かもしれない。【佐藤礼征】

リングにかける男たち

フューリー復活 大金星ルイス加わり混迷のヘビー級

井上尚弥がまたも文句のつけようのない試合を見せた。期待以上の2回決着とすごいヤツだ。中継局以外のテレビ出演も増えるなど、一般への怪物ぶりの認知がさらに広がったよう。うれしい限りだが、2週間後にはさらにびっくり仰天の出来事が起きた。

6階級制覇王者パッキャオも「ボクシング史上最大の番狂わせの一つ」とツイートで驚きを表した。ヘビー級でIBF、WBAスーパー&WBOの3冠王者アンソニー・ジョシュアがまさかの陥落となった一戦。新王者は世界的無名のアンディ・ルイス。プロ初ダウン後に4度ダウンを奪い、見事に逆転TKO勝ちした。

ジョシュアは英国から米国初進出に対し、ルイスは米国生まれも両親はメキシコ人。身長で10センチ、リーチでは20センチ以上のサイズ差があった。ロンドン五輪金でプロでは22戦全勝(21KO)に対し、アマでは北京五輪予選で敗退し、プロでは1敗も16年に世界挑戦に失敗していた。

当初は元キックのジャレル・ミラーが挑戦予定もドーピング違反し、4月に試合したばかりのルイスは代役だった。オッズは1-33の大差がついた時期もあった。デストロイヤー(破壊者)の異名を持つが、188センチで122キロというポッチャリ体形が、今の時代では異彩とも言える風貌と言えた。

90年代に同じような体形のボクサーがいた。バタービーン。ヘビー級の4回戦王者として、ビッグイベントの前座にもしばしば登場。人気者となって、K-1や総合格闘技にも進出し、日本でも試合している。色物的存在だったが、ルイスは本物だ。

チョコレートバーのスニッカーズが大好物。王座獲得後には同社からお祝いメッセージが発信され、早速スポンサー契約、CM出演で交渉中と報じられている。野球少年だったが父の勧めでボクシングを始めた。見かけからは想像もつかないスピードある攻撃力は見事だった。

ジョシュア陣営は再戦を熱望し、ルイスも受けて立つ構えだ。5月にはWBC王者デオンタイ・ワイルダーが右一発でV9に成功したが、昨年末はタイソン・フューリーと引き分けに、来年再戦が計画されている。一時期はワイルダーとジョシュアとの4団体統一戦が期待された。フューリーが復活し、新たに大金星ルイスが加わり、一転して混迷のヘビー級となった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

女子ゴルフのように目立ち始めた角界の世代交代

笑顔で支度部屋に引き揚げる豊昇龍(2019年5月22日撮影・鈴木正人)

名古屋場所直前だが、女子ゴルフの取材に来ている。ステップアップツアーのスカイ・レディースABC杯。ゴルフは途中で8年抜けたが、96年11月に尾崎将司がプロ100勝を達成したダンロップフェニックスから17年春まで担当しとった。「まあ何とでもなるわい」と気楽に来たら、勝手が違った。選手の顔がわからんがな。

たった2年ちょい離れただけで、若い子がどっと増えた。レギュラーツアーの下部に位置する“登竜門的”ツアーだけになおさらで、周りの人に「あれが○×ちゃん?」とこっそり確認してから話を聞きに行ったりする。世代交代いうのは、オッサン記者泣かせだ。

さて、相撲です。女子ゴルフほどやないが、角界も世代交代が目立ち始めました。貴景勝が大関になり、人気者の阿炎が新三役へ。これは幕内の話ですが、名古屋場所はもう少し下、幕下上位の争いも、かなりおもしろいんやないかと思います。

西幕下2枚目に元横綱朝青龍のおい、豊昇龍(20=立浪)。モンゴルから日体大柏高にレスリングで留学しながら、早々に相撲に転身した。まわしを締めて、わずか5年。今場所は序ノ口デビューから9場所目で新十両を決めれば、おじさんと並ぶスピード出世になる。

十両昇進が現実的な幕下5枚目から、ちょっとこぼれた位置にも有望な若手が並ぶ。豊昇龍と同学年で、強豪埼玉栄高のOB勢。西幕下6枚目に元横綱大鵬の孫、納谷(19=大嶽)。同7枚目に塚原(19=春日野)。東幕下8枚目に琴手計(ことてばかり、19=佐渡ケ嶽)。7戦全勝なら来場所の新十両が濃厚なポジションで、勝ち越しで5枚目内に番付を上げれば、来場所が“新十両とり”になる。

埼玉栄高時代の3人の力関係はどうだったか。塚原に聞くと「団体戦の時は先鋒(せんぽう)が北の若(1学年下、八角部屋で西序二段46枚目)で、中堅に納谷、大将に手計(=琴手計)のパターンですね。僕はインターハイ、国体(の団体戦)は(メンバーに入れず)出てませんから」とのこと。しかし、その塚原も入門時「足長いな~」と、世間一般には○でお相撲さん的には×のスタイルばかりが話題になっていたが、ここ数場所ですっかり足腰がたくましくなった。もう、それほど足が長くは見えない。

常におじさんの記録を意識する豊昇龍は、何が何でも今場所で十両を射止めるつもりやと思う。埼玉栄高OBトリオも後れを取りたくないでしょう。

幕内で際立ち始めた世代交代の第2波はひそかに、でも確実に起こりつつあります。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

フランチャイズ・チャンピオン? 王座乱発の裏事情

このほどWBCが同団体の世界ミドル級王者、サウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)を「WBCフランチャイズ・チャンピオン」にスライドさせると発表した。これまでにも従来の世界王者に加え各団体でスーパー王者や統一王者、名誉王者にダイヤモンド王者、さらにゴールド王者、暫定王者、休養王者など数えきれないほどのベルト保持者が誕生している。そこに、さらに聞きなれない新しい呼称が登場したことになる。世界王座乱発に歯止めがかからない状態といえる。

WBA、WBCに加えIBFとWBOが世界王座認定団体として誕生し、体重別のクラスが11階級から17階級に増加したのは1970年代後半から80年代後半にかけてのことだ。単純計算で世界王座は2団体×11階級=22王座だったのが、4団体×17階級=68王座に増えたことになる。

同じ階級に世界王者が4人もいる矛盾が生じたわけだが、これだけでは済まなかった。90年代以降、各団体が競うように“世界王座”を新設したのだ。まずは、正規王者が負傷や病気でブランクをつくる際の救済措置として設けられていた「暫定王座」が目立つようになった。これを本来の目的とは異なるかたちで頻発したのがWBAだった。そのため日本ボクシングコミッション(JBC)は数年前に「日本では無意味なWBAの暫定王座は世界王座と認めない」との判断を下して権威保持に努めたほどだ。

しかし、歯止めはきかず、WBAは複数の団体の王座を獲得した選手などに「スーパー王者」の称号を与え、それとは別にWBA王座とIBF王座を持つ井上尚弥(26=大橋)のような「統一王者」という肩書も認定している。さらに昨年あたりから「ゴールド王者」も誕生させている。その結果、WBAのヘビー級では<1>スーパー王者、<2>従来の正規王者、<3>ゴールド王者、<4>暫定王者の計4人が世界王者としてランキング表に載っている状態だ。

後発のIBFとWBOは緊急事態以外には1階級に1王者の原則を守っているが、近年、WBCが無意味と思われる王座を乱発している点が気になる。名誉王者、ダイヤモンド王者、さらに休養王者といった肩書を安易に与えるケースが目立つのだ。これらは実績のある正規王者が転級を計画していたり、あるいはドーピング違反で出場停止になったりといった状況時に王座剥奪を避けるために都合よく使い分けされている印象が強い。

今回のアルバレスの場合はさらにレアなケースだったといえる。アルバレスはWBCのミドル級王座だけでなく同級のWBAスーパー王座とIBF王座も保持しており、さらに1階級上のWBAスーパーミドル級の正規王座も持っている。昨年来、WBCはアルバレスに暫定王者のジャモール・チャーロ(29=米国)との団体内統一戦を課しているが、その義務を果たせない状態といえる。こうしたなか、スター選手を手放したくないWBCがアルバレスのために新たな称号をつくって与えたものと思われる。これを受け暫定王者のチャーロが正規王者に昇格した。

ところで、この「WBCフランチャイズ・チャンピオン」だが、日本語では<WBC特権王者>あるいは<WBC占有王者>とでも意訳表記すればいいのだろうか。

各団体の世界王者も参戦して階級最強を決めるトーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」が実施されるなど王座統一の機運が盛り上がっているなか、今回のようなご都合主義がファンの理解や支持を得られるとは思えない。これ以上、都合優先で実態のない、混乱を招く「ペーパー・チャンピオン(紙上の王者)」をつくらないでほしいものだ。

リングにかける男たち

武居由樹、那須川&武尊の「強さ+α」で華咲かせる

武居由樹対玖村将史 両手を広げ優勝を喜ぶ武居(中央)(2019年6月30日撮影・大野祥一)

6月30日、1万500人の観衆で埋め尽くされた東京・両国国技館の中心にいたのはK-1スーパー・バンタム級王者武居由樹(22=POWER OF DREAM)だった。14年に生まれ変わったK-1をけん引してきた史上初の3階級制覇王者で、現スーパー・フェザー級王者武尊が拳の腱(けん)断裂による手術で欠場したことを受け、両国大会で開催が決まったスーパー・バンタム級世界最強決定トーナメント。優勝候補筆頭で出場した武居は1日3戦という過酷なトーナメントを有言実行で制してみせた。

大会前日まで自らがK-1を背負う覚悟を示し続け、かつてない重圧を味わったという。大会が近づくと眠れない夜が続き「過去最高のプレッシャーがあった」というが、フタを開けてみれば、3戦連続KO勝ちでの圧勝劇。00年代のK-1をけん引してきた中量級のエース魔裟斗氏が「猫のようだ」と表現する上半身の動き、下半身の柔らかいステップから繰り出される鋭いパンチとキックで圧勝した。

17年4月の第2代スーパー・バンタム級王座決定トーナメント(代々木第2体育館)で優勝して以来、約2年2カ月ぶりにメインイベントを締めくくった武居は「今、格闘技界を引っ張るすごい2人がいますが、ボクも置いていかれないように。K-1を盛り上げます」と言った。あえて名前は挙げていないが、武尊、そして「神童」那須川天心のキックボクサー2人であることは容易に想像できた。

現在のキックボクシングは国内外で団体が細分化され、世界最強が誰かを非常に証明しにくい環境にある。その中で武尊は現役ムエタイ王者ら実力者とファイトし、その「看板」にたがわぬ強さが伝わってくる強敵、難敵を次々と倒してきた。何よりマイクアピールも格好いい。「K-1最高!」の決めぜりふで会場を1つにしてしまう本格派だ。

一方、那須川は何より無敗という大きな看板がある。かつて400戦無敗と言われたヒクソン・グレイシーのような「すごく強い」という妄想をかきたて、RISEやRIZINで「どこまで強くなるんだ」という期待感を持たせる。ファンを喜ばせる「演出」的な部分も魅力。武居の挙げた2人には「強さ+α=華」という方程式が存在している。

いつも2人の存在が頭にあるという武居は「すごい選手なので、そこに並べないと意味がない。階級も近いですし、意識します」と言葉に力を込める。いずれ対戦するかもしれない、とのイメージも持っている。

「格闘家としてはいつかはやりたいかなと思いますけれど。まだまだ自分の実力では…。実力と知名度だったり…、という次元では及ばないと思います」

17年のK-1年間最優秀選手を獲得するなど実力は申し分ない。あとは武尊、那須川とは持ち味が違う「+α」が備われば、武居らしい花が咲くだろう。キックボクシング界を背負う新たな逸材として今後の進化を見守っていきたい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大会一夜明け会見でリラックスした表情を見せる武居由樹(2019年7月1日撮影・吉池彰)
大相撲裏話

外国人力士の戸惑い“パワハラ言葉”の線引きどこに

第1回「大相撲の継承発展を考える有識者会議」に出席した王貞治氏(左)、松本白鸚(左から2人目)、紺野美沙子(右手前)ら(2019年6月21日撮影)

「どこまでが暴力とかパワハラなの? オレ、外国人だから、微妙なところが分からないよ」。先日、ある外国人力士が、本気で悩んでいた。その力士によると、稽古場で厳しい言葉を用いて弟弟子に胸を出した後、師匠から「あの言葉は暴力になるから気を付けろ」と、注意されたという。その力士は「もちろん『殺すぞ』は良くないと思う。でも『死ぬ気でやれ』は?」とさらに質問。総合すると「死にものぐるいでやれ」という意味で「殺すぞ」に近い言葉を用いたようだった。

日本人同士でさえ、ちょっとした言葉遣いで誤解が生まれる。ましてや外国人、しかも少なからずアドレナリンが分泌している稽古中に、微妙なニュアンスをすべて理解しろというのも酷な話。何よりも受け取り方次第で、稽古をつけてくれているとも、パワハラとも取られてしまう。その外国人力士は「もしかしたら弟弟子に『自転車貸して』と言っただけでも、パワハラになるかもしれない。そうなると何も話せないよ」と、兄弟子からの圧力と受け取られることを懸念していた。

暴力やパワハラに厳格になった社会情勢、外国出身力士が増えた現状をふまえ、日本相撲協会は「大相撲の継承発展を考える有識者会議」を発足させた。昨年、暴力問題再発防止検討委員会から、外部有識者による協議を要請されてできた組織で、6月21日に第1回の会合が開かれた。メンバーにはプロ野球ソフトバンク会長の王貞治氏、歌舞伎俳優の松本白鸚氏、作家の阿刀田高氏、女優の紺野美沙子氏らが名を連ねる。この会議では、日々の言動に悩んでいた外国人力士が懸念していたようなことの先にある、相撲界全体が進むべき道、外国出身力士への指導などについて話し合うとされている。

王氏は「昔は通っていたことが今は通らない。現役の人は大変だけど、そういう時代に生きていることを理解した上で、自分だけの問題ではないと考えてもらいたい」と話した。厳しすぎる言動を用いての指導がまかり通らなくなっている、親方衆や力士の苦労に理解を示しつつ、1人1人が自覚と責任感を持つことの重要性を説いた。

阿刀田氏は2時間余りの第1回の会合を終え「相撲が21世紀にどういう形で世界的に広がりを持っていくか、曲がり角の局面を迎えているのは間違いない。ただ、困ったなというのが本音」と、テーマが壮大すぎて、まだ最終形が見えない心境を吐露した。紺野氏も「想像していたより大変そうです。有識者会議で決めなくてはいけないことが、あまりにも大きくてどこまで貢献できるか。正直、責任の重さと不安を感じています」と、同様の心境を語っていた。

会議で外国出身力士への指導について指針を示しても、現場レベルに浸透するまでには時間が必要だ。しかも、会議では外国出身力士への指導までは決めたとしても「『自転車貸して』もパワハラ?」といった、日々の個別のケースまで解決されるわけではない。外国人を「補強」という形で、完成された選手を招く、野球やサッカーのような他のプロスポーツとは違い、同じ「新弟子」としてスタートラインに立つ大相撲。今後、高齢化が進む日本社会は、介護の現場などで、外国人を新人スタッフとして多く招き入れる可能性が高い。相撲界の方向性を決めるまでの道筋は壮大すぎるかもしれないが、何げない現場の声に耳を傾けることが近道のような気がする。それが、日本社会がたどるべき道筋のヒントになる日が来るかもしれない。

【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

井岡一翔、統一戦勝ち抜けば5階級制覇も視野に

19日に井岡一翔(30=Reason大貴)がアストン・パリクテ(28=比)に10回TKO勝ち、空位だったWBO世界スーパーフライ級王座を獲得して日本男子初の4階級制覇を達成した。体重制が採られているボクシングで複数のクラスで世界一になるのは容易ではないが、井岡の前には19人の4階級制覇者がいる。興味深いのは、井岡を含めた20例がすべて1980年代以降に成し遂げられている点だ。これは階級と統括団体の増加と無関係ではない。

プロボクシングで現在のような階級制と王者制が定着したのは1880年代だが、しばらくは8階級時代が続いた。こうしたなか1930年代までにボブ・フィッシモンズ(英)、トニー・カンゾネリ(米)、バーニー・ロス(米)、ヘンリー・アームストロング(米)と4人の3階級制覇王者が誕生している。特にアームストロングは史上唯一のフェザー級、ライト級、ウエルター級の3階級王座を同時に保持する離れ業をやってのけている。まさに鉄人といえる。

アームストロング以降、40年以上も“トリプルクラウン”は出現しなかったが、81年にウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ)とアレクシス・アルゲリョ(ニカラグア)が5人目、6人目として続いた。WBA、WBCの2団体×12階級時代のことである。

80年代にIBFとWBOが設立され、さらにミニマム級、スーパーフライ級、スーパーバンタム級、スーパーミドル級、クルーザー級が新設された。4団体×17階級時代に突入したわけだ。

そんな背景も手伝い、特別な才能を持った世界王者のなかには複数階級制覇をひとつのステータスとしてとらえる傾向が出てきた。

88年、すでに初の4階級制覇を達成していたトーマス・ハーンズ(米)がWBO設立とともに同団体のスーパーミドル級王座を獲得して5階級制覇を成し遂げると、3日後にはライバルのシュガー・レイ・レナード(米)が1試合でスーパーミドル級とライトヘビー級王座を獲得して追いつくということもあった。

90年代に入るとオスカー・デラ・ホーヤ(米)が6階級で戴冠を果たし、2010年にはマニー・パッキャオ(比)がデラ・ホーヤに並んだ。現時点では、このふたりが記録保持者である。ちなみにパッキャオの場合は50・8キロがリミットのフライ級から69・8キロが体重上限のスーパーウエルター級まで19キロもの体重の壁を突き破るという驚異の記録でもある。この間に含まれる4階級では世界王座を獲得していないが、「事実上の10階級制覇」という捉え方もあるほどだ。

5階級制覇は前出のハーンズ、レナードに加えフロイド・メイウェザー(米)、ホルヘ・アルセ(メキシコ)、ノニト・ドネア(比)の計5人が達成している。

4階級制覇は井岡を含め13人いる。ロベルト・デュラン(パナマ)、ロイ・ジョーンズ(米)、ミゲール・コット(プエルトリコ)らに加え現役のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、マイキー・ガルシア(米)、昨年12月に井岡に競り勝ったドニー・ニエテス(比)ら錚々たるメンバーが並ぶ。

こうしたレジェンドたちと肩を並べた井岡は30歳。まだまだ可能性を感じさせる年齢だ。当面の目標としては「海外で強い選手と戦いたい」として他団体王者との統一戦などを挙げているが、そうした戦いを勝ち抜いた場合、5階級制覇も視野に入ってくるはずだ。

リングにかける男たち

アイスリボン女性ファン獲得へサービスも試合も魅力

アイスリボン弓李生誕祭のメイン「お菓子デスマッチ」。酢いかのボトルを星いぶきの鼻におしつける柊くるみ(撮影・高場泉穂)

「リングにかける男たち」という題のコラムコーナーですが、今回は女子プロレスと女性ファンについて記したいと思います。

先月28日、プロレス好きの女性の友人に誘われ、女子プロレス団体「アイスリボン」の道場マッチを見に行きました。プロレス担当となり半年がたちましたが、これまで取材機会はなく、道場へも行ったことがありませんでした。一人の客として、3000円のチケットを購入し、参りました。

JR西川口駅を降り、線路沿いの暗い道を10分ほど歩くと、道場入り口の蛍光灯の光が見えてきます。平日の夜。悪さをしているようなワクワクした気持ちで中に入りました。驚いたのは、私たち女性2人組に対する並々ならぬおもてなしでした。見渡すところ大半が常連とみられる男性ファン。その中で受け付けを済ますと、スタッフの方が「女性の方が通ります!」と通路を空け、最前列へと通してくれました。

試合が始まっても、サービスは続きます。第1試合のタッグマッチでは見目麗しいジュリア選手、テキーラ沙耶選手とハイタッチ。大量の菓子を凶器に使用したメインの「お菓子デスマッチ」では、セコンドの星ハム子選手が近くにいる私たちにふ菓子やじゃがりこを「食べます?」と分けてくれました。狭い道場だからこそだったかもしれませんが、選手との距離の近さにぐっと心をつかまれました。

そうしたサービス抜きで、試合自体も見応えあるものでした。試合形式は、3分ごとにタッグパートナーを入れ替えるという「変則タッグマッチ」、出場3人が弓李選手の衣装を着て試合する「弓李なりきりマッチ」など多才。特に前述の「お菓子デスマッチ」は、特に面白く、菓子がリングに散らばるさまは前衛的ですらありました。酢いかのボトルを鼻に押しつける攻撃は本来のデスマッチに勝るとも劣らない激しさがありました。魅力的な選手も多く、雪妃真矢選手の美しさにほれぼれし、入場曲に戸川純を使う松本都選手のアングラ感と素晴らしい受けにも感銘を受けました。美人、かわいい、キッチュ、ぽっちゃりなどさまざまなキャラの選手がそろい、推し選手を見つけるのもいいと思います。

私自身は、アイスリボンの道場マッチはコアなファンが多いと以前から耳にしていたため、身構えて道場に乗り込みました。しかし、排他的な雰囲気は一切なく、むしろ楽しめました。

まるで「覆面調査」のようになってしまいましたが、ぜひ記事にしたいと思い、女性ファンへのサービスについてアイスリボンに問い合わせると広報の方から以下、丁寧な返答が送られてきました。

「道場マッチは自由席となります。基本は、チケットの購入順の整理番号で、好きな席に座れます。早く前売りを買った方が、好きな席を確保出来る。その中で、女性、女性を伴う男性(1人に1人)、中学生以下のお子様をお連れの方は整理番号に関係なく、優先的に着席が可能となっています。これは、今の道場が出来る前から(09年道場設立以前から)行っています。その他、後楽園ホールや横浜文体といった大箱での大会では、レディースシートとして、割引(&記念品進呈の場合もあり)を行っています。女性ファンの割合は1割に満たない状態です。(ニコニコの動画視聴などでも、女性2割に満たないなど、圧倒的に男性が多い状況)。そのために、女性に来て欲しいと、ずっと(サービスを)行っていますが…。(客席の雰囲気もありますし、またレスラーに憧れて目指す女性が出て来ないとダメなので)。ここ数年のプ女子もあり、若干増えましたが、劇的な増加は無いです。以前にTBSの番組企画で、女性限定の興行を行ったのですが、その時の会場の盛り上がりなどすごかったので、コンテンツ的には、女性(プ女子)にも受け入れられるとは思っています。とにかく、見てもらう、会場に来て欲しいと思います」

確かに、新日本、全日本、ノアなど男性のプロレス団体の客席には女性ファンが多数いますが、アイスリボンに限らず女子プロレスの興行で女性ファンの割合は私の見た目でかなり少ないです。

美しく、激しく戦う女性を見て燃える(萌える?)心情は男性、女性関係ありません。かつて長与千種とライオネス飛鳥の「クラッシュギャルズ」は、熱狂的な女性ファンに支えられていました。アイスリボンの方が言うように、とにかく一度見ればはまる方も少なくないでしょう。「リングにかける女たち」に女性が熱狂する。そんな風景がもっと増えることを期待します。【高場泉穂】

アイスリボン弓李生誕祭のメイン「お菓子デスマッチ」の途中で、セコンドの星ハム子からもらったふ菓子(撮影・高場泉穂)

大相撲裏話

白鵬破ってこそ世代交代 若手とのせめぎ合い楽しみ

横綱白鵬

大関貴景勝(22=千賀ノ浦)がケガから復帰してかど番脱出なるか、番付発表前の現時点で三役候補の阿炎(25=錣山)、竜電(28=高田川)、朝乃山(25=高砂)ら上位総当たりの有望株がどんな活躍を見せるか、小兵の炎鵬(24=宮城野)は土俵狭しと動き回り幕内の座を守れるのか-。大相撲名古屋場所(7月7日初日、ドルフィンズアリーナ)も見どころは満載。その中の1つに、横綱白鵬(34=宮城野)の復活優勝成るか-もある。現時点で出場の明言はないが、名古屋に向け前向きに調整を進めている。

史上最多を独走する42度の優勝を誇る白鵬だが、最近5度の優勝のうち4度は、前場所を休場(途中休場3)して成し遂げている。本来なら1度しか使われないであろう「復活劇」の言葉も、白鵬の場合、毎度おなじみのフレーズになっている。白鵬の強さを如実に表しているのか、蛇ににらまれたカエルのような他力士の力のなさか-。どちらとも言えるような状況だ。

“勤続疲労”もあり、若い頃よりケガをしやすくなり、また回復が遅くなることもあり、無理を避けている。結果が求められる横綱として土俵に上がる以上、ぶざまな姿は見せられないから慎重にもなるだろう。しっかり治して土俵復帰するのは当然。その上で賜杯を手にし続けている。

こんなデータもある。昨年1月の初場所から、令和最初の場所となった今年5月の夏場所までの9場所で何と、初優勝力士が5人も誕生した。栃ノ心、御嶽海、貴景勝、玉鷲、朝乃山で、いずれも関脇以下。そして全てに共通するのは、白鵬が休場している場所ということだ(全休2、途中休場3)。鬼の居ぬ間の何とやら…ではないが、白鵬不在の場所は何かが起こる。逆に言えば残された横綱、大関陣のふがいなさが浮き彫りになっている。

私が以前に相撲担当だったころにも、同じような展開があった。91年名古屋場所から93年春場所までの11場所で、いずれも三役以下の6人もの初優勝力士を輩出した。ただしこの間、番付上からも不在の場所もあるなど、千代の富士のような絶対的な壁となる横綱がいなかった。

休場が相次ぐとはいえ、依然として孤高の横綱として君臨し、若手の壁として立ちはだかり続ける白鵬。その壁をブチ破ってこそ、真の世代交代はやってくる。並み居る挑戦者たちを蹴散らすのか、絶対王者の牙城を崩すのか、そのせめぎ合いが見たい。【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

井上はドネアと WBSS3階級の全決勝カード決定

15日(日本時間16日)にラトビアの首都リガでクルーザー級のダブル世界戦が行われ、WBOタイトルマッチでマイリス・ブリエディス(34=ラトビア)が3回TKO、IBF暫定王座決定戦ではユニエル・ドルティコス(33=キューバ)が10回KOでそれぞれ勝利を収めた。この2試合は最強決定トーナメント、「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」のクルーザー級準決勝も兼ねていた。これにより井上尚弥(26=大橋)が勝ち残っているバンタム級を含め、実施されている3階級の全決勝カードが決まった。

WBSSは17年9月に欧米の有力プロモーターが提携してスタートした賞金トーナメントで、シーズン1ではクルーザー級とスーパー・ミドル級の2階級で実施された。両階級とも世界王者を含む実力者8選手がエントリー。クルーザー級では3試合を勝ち抜いて4団体王座を統一したオレクサンデル・ウシク(32=ウクライナ)、スーパー・ミドル級では決勝でWBA王座を獲得したカラム・スミス(29=英国)が優勝した。

シーズン2はバンタム級、スーパー・ライト級、そしてクルーザー級の3階級で実施され、昨年10月に始まった。そのオープニング・イベントでは井上が元王者のファン・カルロス・パヤノ(35=ドミニカ共和国)を芸術的な右一発で70秒KO。今年5月の準決勝ではIBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)から3度のダウンを奪って2回KO勝ち、決勝に駒を進めている。このバンタム級では、もう一方の櫓を5階級制覇王者のノニト・ドネア(36=比)が勝ち上がってきた。

この井上対ドネアを含む決勝3カードは以下のとおりだ。

<バンタム級>

WBA&IBF王者井上尚弥(26歳=大橋 18戦全勝16KO)対WBAスーパー王者ノニト・ドネア(36歳=比 45戦40勝26KO5敗)

<スーパー・ライト級>

WBA王者レジス・プログレイス(30=米国 24戦全勝20KO)対IBF王者ジョシュ・テイラー(28=英 15戦全勝12KO)

<クルーザー級>

WBO王者マイリス・ブリエディス(34=ラトビア 27戦26勝19KO1敗)対IBF王者ユニエル・ドルティコス(33=キューバ 25戦24勝22KO1敗)

3階級とも世界王者同士の統一戦となる。井上対ドネアは新旧スター対決、プログレイス対テイラーは米英の全勝対決、クルーザー級はラトビア出身者対キューバ出身者のカードとなる。

決勝戦は10月~12月の間に行われる可能性が高いが、時期だけでなく開催地も未定だ。

主催者側の発表が待ち遠しい。

リングにかける男たち

39年前フレーズだけで高揚「熊殺し」に感謝の意

80年2月、異種格闘技戦でアントニオ猪木(左)にハイキックを浴びせるウィリー・ウィリアムスさん

空手家ウィリー・ウィリアムスが他界した。

80年2月、39年前か。中学の教室は大騒ぎやった。

「そんなん猪木が勝つに決まってるやんけ」

「アホ! 極真が負けるか」

ウィリー・ウィリアムスVSアントニオ猪木の格闘技世界一決定戦を前に、クラスメートのテンションは異常に高かった。私はプロレスに目覚める前で、どちらかと言えば“空手派”やったけど、別にどっちゃでも…という程度で話に加わってた。ただ、あのフレーズには仰天した。

「ウィリーは熊殺しやねんぞ」

熊? ウソやろ?

「知らんの? 映画見てへんの?」-。

いや、見てへんけど…。

極真空手の創始者・大山倍達が“牛殺し”で“ゴッドハンド”と呼ばれていることを、その後に知った。「牛と来て、熊かい」と思った。後年、漫画「グラップラー刃牙」でフルコンタクト空手「神心会」総帥愚地独歩(おろち・どっぽ)に“虎殺し”いうエピソードが登場するけど、これは完全に牛→熊の流れでしょう。

熊殺し。異名としては最強クラスやがな。要は人間離れ。愚地独歩かて「誰も信じちゃくれねえって」と言いふらしてませんから…あ、漫画やけど。ただ、ほんまならすごい、とんでもない。当時はインターネットがなかった。検索サイトも、動画サイトもなくて、情報源と言えばほぼ活字。それも東スポ以外は月刊雑誌やった。「どうやって殺したんや。とどめは拳? ひじ? 膝か?」と想像がふくらんだもんです。

だから、おもしろかった。フタを開けてみんとわからんから、テレビ中継をドキドキして見た。リングサイドは、新日本プロレスと極真空手の両陣営が殺気立って一触即発状態やった。「こんなん公開げんかやないか」と見てる方も興奮する。ほんまに手に汗握ってました。

これから先、あんな思い、ときめきはもうないでしょうね。情報があふれかえって、スマートフォン(多機能携帯電話)をちょちょっと触ったら、何でもわかる。それはそれで便利やけど、どっちが幸せなんかは微妙ちゃいますかね。昔話で、うなぎを焼くにおいをかぐだけで、飯を食うっちゅうのがありますが、それと似てるかな。その試合があるという情報だけで楽しむ。推理して、イマジネーションを妄想レベルに膨らませ、堪能する。それは超絶のエンターテインメントです。

昭和を生きたオッサンをワクワクドキドキさせてくれた。「熊殺し」なるフレーズは、ロマンの極み。ウィリー・ウィリアムスさん、ありがとうございました。(敬称略)

【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

80年2月、アントニオ猪木(左)と握手をかわすウィリー・ウィリアムスさん
大相撲裏話

「土俵でしっかり相撲を取る」旬な明生は上位陣狙う

明生(2019年3月12日撮影)

日刊スポーツが行った人気力士アンケート「第8回大相撲総選挙」が終わった。トップ5に「稀勢の里」世代のベテラン3人が入ったが、旬な若手力士も軒並み上位にランクインした。貴景勝、炎鵬、朝乃山…。その中で、明生(23=立浪)が9位と躍進した。西前頭7枚目だった5月の夏場所で、自身幕内初となる2桁白星を挙げたホープには「真っ向勝負が好き」「豪快で正攻法な取り口に好感が持てる」など読者の声が寄せられている。きれいな四股を評価する声や、故郷の奄美大島からも多数の票が集まった。

11年夏場所で初土俵を踏んだ中卒たたきあげ。茨城・つくばみらい市の部屋から「つくばエクスプレス」を利用して会場入りする。電車では「座れることもあるし立ってることもある」。今場所、15日間で稽古場に降りた回数は片手で数えるほど。部屋から会場まで片道1時間半かかる移動負担を考慮しているという。師匠の立浪親方(元小結旭豊)の指導は「自分のやりたいようにやって伸び伸びやらせてもらっている。ありがたい」と明生。一方で巡業では毎回のように土俵に上がり、激しい稽古を行う。「自分は稽古で強くなってきた。普段はめったにできない方ばかり。体を休めることも大事だけど、毎日やり続けることが1番大事」。夏場所前は千賀ノ浦部屋に出稽古して、1歳年下の大関貴景勝と肌を合わせた。10番以上取って1勝も挙げられなかったが「強い人とやることに意味がある」と言い切った。

たたき上げらしく、派手な発言を口にしない。「(取組直後の)支度部屋で(記者に)『今日の狙いは?』と聞かれても、正直答えたくないときもある。そこは勝負の世界なので。いろんなことをしゃべって…という力士もいるけど、自分はそうじゃなくて、まずはしっかり土俵でしっかり相撲を取るタイプだと思うし、そういう力士でありたい」。

名古屋場所(7月7日初日、ドルフィンズアリーナ)では前頭5枚目以内に番付を上昇させることが濃厚。「もっと番付を上げて、もっと強い相手とやりたい」。上位陣との対戦が予想される来場所へ、23歳のホープは野心を隠さなかった。

【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

風雲急告げるヘビー級 フューリーは存在感示せるか

ヘビー級の元3団体統一王者、タイソン・フューリー(30=英)が15日(日本時間16日)、米国ネバダ州ラスベガスでWBO2位、IBF8位のトム・シュワルツ(25=独)とノンタイトル12回戦で拳を交える。フューリーは昨年12月、WBC王者のデオンタイ・ワイルダー(33=米)に挑戦したが、2度のダウンを喫して引き分けという結果に終わっている。試合後、フューリーは米国のトップランク社とプロモート契約を交わしており、これが新たな環境での再出発戦となる。3団体統一王者のアンソニー・ジョシュア(29=英)が敗れるなど風雲急を告げる状況の最重量級で、フューリーは存在感を示すことができるのか。

つい1カ月前まで、ヘビー級は41戦40勝(39KO)1分けのWBC王者ワイルダー、WBA、IBF、WBO3団体の王座を持つ22戦全勝(21KO)のジョシュア、そして28戦27勝(19KO)1分の元3団体王者フューリーが「3強」と呼ばれ、近い将来の頂上決戦が期待されていた。

そうしたなか5月18日、ワイルダーが12年ロンドン五輪戦士のドミニク・ブリージール(33=米)を右一発で137秒KOに仕留め、9度目の防衛を果たした。V8戦ではフューリーと引き分けたワイルダーだが、スピードと強打が健在であることを強烈にアピールした試合だった。6対1のオッズ以上の力量差を示したといえる。

ところが、その2週間後の6月1日、米国ニューヨークのリングで大番狂わせが起こった。米国初登場のジョシュアは16対1という賭け率で圧倒的有利と見られていたが、なぜか初回から慎重をとおり越して自信のなさそうな戦いぶりだった。3回に先制のダウンを奪ったが、33戦32勝(21KO)1敗のアンディ・ルイス(29)の反撃を受けて同じ回にジョシュア自身が2度ダウン。7回、再び2度のダウンを奪われてTKO負けを喫したのだ。主役の王座陥落でヘビー級は一気に混乱状態に陥ったといっていいだろう。

口の悪さに定評のあるフューリーだが、自身が薬物やアルコールに逃げた過去を思い出したのか「俺らはみんな行ったり来たり(勝ったり負けたり)なんだ。ヘビー級だからこういうこともある。いったん休んで、それから戻ってくればいいさ」とライバルを思いやった。

次は、そのフューリーの出番だ。フューリーは身長206センチ、体重125キロという巨漢だが、意外にも動きは軽快で構えを左右にチェンジする器用さも持っている。ワイルダー戦ではポイントでリードしていながら最終回にダウン。立ち上がって最後まで戦い抜いたが、王座を取り戻すことはできなかった。それでも「フューリーが勝っていた」という声は多く、本人も「リマッチが実現すれば間違いなく俺が勝つ」と息巻いている。

相手のシュワルツは24戦全勝(16KO)のレコードを持つホープで、地域王座を防衛しながら上位に進出してきた。正面から圧力をかけながら飛び込んで放つ右はなかなかパワフルだ。しかし、世界的な強豪との対戦経験に乏しく、米国のリングは今回が初めてとなる。体格やスピード、経験、テクニックなどで勝るフューリーが圧倒的有利と見られており、オッズは33対1と出ている。

フューリー対シュワルツはノンタイトル戦だが、注目度は世界戦に準じたものといっていいだろう。ジョシュア対ルイスのような歴史的番狂わせが再び起こるようだとヘビー級は大混乱状態に陥ることになる。それをフューリーが止めるのか、それともシュワルツがトップ戦線に割って入るのか。15日(日本時間16日)、ラスベガスのリングに要注目だ。

リングにかける男たち

拳王と人生の師弟対決 浮かび上がるそれぞれの人生

宮本を下し2度目の防衛に成功したGHCヘビー級王者拳王(2018年2月2日撮影)

プロレスリング・ノアの拳王(34)が、5月28日の後楽園大会で、恩師・新崎人生と対戦した。明大の日本拳法部で、全日本選手権2連覇と活躍した拳王を、プロレス界に導いたのが人生だった。同じ徳島県の出身で、人生のスカウトによって拳王はみちのくプロレスに入団。プロレス人生のスタートを切った。

拳王というリングネームをつけてくれたのも、人生だった。みちのく入門前に拳王から相談を受けた人生は、みちのくではなく、新日本、全日本、ノアなどのメジャー団体入団を勧めたという。拳王の将来性を高く買っていたからだ。その後、拳王がノアへ移籍するときも、背中を押してくれた。17年に拳王がGHCヘビー級王者になったときも喜んでくれたという。拳王にとって、ノア入団後初めてとなる人生との対戦は、その成長ぶりを恩師に見せるリングでもあった。

対戦が決まってから拳王は「人生の首を取る」などと挑発を繰り返した。リング上では、ゴングが鳴る前から拳王が人生の元に歩み寄り、胸を反らせて一触即発の緊張感を醸し出した。試合が始まると、拳王の左ハイキックと人生の地獄突きの応酬が、会場を熱狂させた。

試合後は、人生が珍しくマイクを握り「拳王、オレの首を取るとか、取らないとか言っているらしいじゃないか。まだ、52歳なんだよ。あと20年ぐらい待ってくれ」と拳王を挑発。拳王は「今すぐにでも、倒してやるからな」と気持ちを高ぶらせた。

インタビューが終わった後、拳王に話を聞いた。「人生さんは自分をプロレスの世界に入れてくれた人。みちのく時代以来、5年ぶりぐらいの対戦ですかね。これこそ、プロレスの醍醐味(だいごみ)ですよ。お客さんにも、プロレスってこんなに面白いというところが見せられたと思います」と、晴れ晴れとした顔で話していた。師匠の人生との対戦を心の底から喜んでいた。戦いの中に人生があるから、プロレスは多くの人を引きつける。拳王と人生の師弟対決はこれからも続く。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

「拝み渡り」を決める新崎(2018年06月24日撮影)
大相撲裏話

トランプ氏“狂騒曲”で気になった幕内力士土俵入り

国技館入りした米国のドナルド・トランプ大統領にカメラを向ける観客たち(2019年5月26日撮影)

酒屋の息子です。40年ほど前、中学生のころからお中元、お歳暮の季節には手伝いで店に出たり、軽トラの助手席に乗って配達にも出てました。

「いらっしゃいませ」「毎度おおきに」「またよろしくお願いします」。おやじも、おふくろも何かにつけて腰を折って頭を下げる。それをまねてたけど、時には頭に来るお客さんもおって、あいさつもそこそこにブーたれた顔をすると、きまってしかられた。

「おまえな、お客さんやぞ。お金払ってウチのもんを買ってくれるねんぞ」

三波春夫さんやないけど「お客様は神様です」を知らん間にたたき込まれてた気がします。

夏場所の千秋楽は騒がしかった。場所の締めくくりやし、振り返りと、来場所に向けての抱負を聞きたいから、それだけでもバタバタする。加えてトランプさんが来たりしたもんやから、いつもと段取りがちょっと違ったりして、妙にテンポが悪かった。

しかしまあ、それは内輪の話です。なんと言っても「国賓」「米国大統領」やから、取組の進行とかに少々影響があっても仕方ない。一緒に来た安倍首相が入場時に笑顔で手を振ってたんは政治宣伝みたいでどうか、と思ったけど、トランプさんの米国大統領杯授与、「アサノヤマ、ヒデッキ」「レイワーワン」は確かに盛り上がった。興行的にも見せ場でした。そんな“狂騒曲”の中で、とても気になったことがあります。中入り前、幕内力士土俵入りを多くのファンが見れんかったことです。

ちょうど支度部屋にいました。テレビ画面を見たら、国技館の入り口から隣のJR両国駅方面へ、まだ長蛇の列ができとった。気温は30度超。季節外れの猛暑の中ですわ。「あの人ら、土俵入りを見れんがな」。米国大統領が来るから、入場時のセキュリティーチェックがけた違いに厳重になって、時間がかかった影響でしょうが、来場客への事前告知はそれほどなかったように思う。

満員御礼続きのプラチナチケットを必死に入手した人もおるやろうに。地方から出てきて、最初で最後になるかもしれん人もおるやろうに。もし、自分が客やったらどうやろう。「お金、返してもらえるんでしょ?」と入り口で嫌みの1つも口をついたんやないか。

日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は、トランプさんと安倍首相の観戦に対して「光栄の至り」などとする談話を発表しました。相撲を広める使命を持つ公益財団法人のトップとしては、当然のことでしょう。ただ、もうひと言欲しかった。お客さんに「ご不便をおかけして、申し訳ありませんでした」と。それさえあれば、スッキリしたんですが。【加藤裕一】

原功「BOX!」

無冠となったゴロフキン 8日の再起戦は要注目

2010年から18年までの8年間に20度の防衛を果たした前世界ミドル級王者、ゲンナディ・ゴロフキン(37=カザフスタン)が8日(日本時間9日)、米国ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでIBF同級8位、WBC15位のスティーブ・ロールズ(35=カナダ)と対戦する。昨年9月、サウル・カネロ・アルバレス(28=メキシコ)との再戦で微妙な判定負けを喫して無冠になったゴロフキンにとっては、重要な再起戦となる。

ゴロフキンは40戦38勝(34KO)1敗1分の戦績が示すとおりの強打者で、アマチュア時代に04年アテネ五輪で銀メダルを獲得したように高度な攻防のテクニックも備えている。10年にWBAの暫定王座を獲得し、のちに正規王者からスーパー王者へと昇格。14年にWBC王座(当時は暫定王座)、15年にはIBF王座もコレクションに加え通算20度の防衛に成功した。これはバーナード・ホプキンス(米)と並ぶミドル級歴代最多防衛記録だ。また10年から17年にかけてマークした17連続KO防衛は、ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)と並ぶ史上最長記録でもある。

3団体統一王者として一時代を築いたゴロフキンだが、4月で37歳になった。アルバレスに惜敗したことで商品価値は若干落ちたものの強打と知名度の高さは変わらない。こうしたなか今年3月、ゴロフキンは動画配信サービスのDAZNと3年契約を交わした。その金額は6試合で1億ドル(約109億円)と伝えられる。アルバレスとの第3戦が実現した場合は3000万ドル(約32億7000万円)の報酬が保証されるという。今回のロールズ戦は再起戦であると同時にDAZNと契約後の初戦となる。

相手のロールズは全米王座を獲得した試合を含め19戦全勝(10KO)の戦績を残しているが、世界的な強豪との対戦経験は少ない。両ガードを高めに置いて戦う右構えのボクサーファイター型で、パワーは平均の域を出ない。「ゴロフキン陣営がこの試合をチューンナップと考えていたら痛い目に遭う」とロールズ側は息巻いているが、よほどのことがない限り33対1のオッズはひっくり返らないだろう。極論をいえば、ゴロフキンがどんな勝ち方をするのか-それがこの試合の最大の焦点といえるかもしれない。

ただ、かつての無敵王者にとっても気の抜けない試合であることは間違いない。ゴロフキンはDAZNとの契約と前後して、戴冠試合と王座陥落試合を含め22度の世界戦をともに戦ってきたアベル・サンチェス・トレーナーと決別。新たにジョナサン・バンクス・トレーナーとコンビを組んだ。これが吉と出るか、あるいは凶と出るのか。コーナーの指示とチームワークに要注目だ。また、今回の試合がミドル級よりも4ポンド(約1・8キロ)重い164ポンド(約74・3キロ)契約で行われる点にも注目したい。これはスーパー・ミドル級(168ポンド≒76・2キロ)のWBA王座も持つアルバレスを意識してのことと思われる。ゴロフキンにとっては13年のプロ生活で最重量のウェートとなるが、はたしてパフォーマンスに影響があるのかどうか。

ミドル級では今月29日(日本時間30日)に米国ロードアイランド州プロビデンスでデメトリアス・アンドレイド(31=米)対マチエイ・スレツキ(30=ポーランド)のWBOタイトルマッチが組まれており、来月12日には大阪でロブ・ブラント(28=米)対村田諒太(33=帝拳)のWBAタイトルマッチが予定されている。それらの試合を前にゴロフキンはどんな戦いをして存在感を示すのだろうか。

リングにかける男たち

長期防衛王者の相次ぐ引退 井上尚弥と明暗くっきり

WBSSバンタム級準決勝で勝利した井上尚弥(2019年5月18日撮影)

今年に入って、ボクシング界の明暗がくっきりとなった。

井上尚弥が世界中から絶賛され、脚光を浴びる。一方で田中恒成と田口良一の日本人新旧王者対決を除くと、残りの日本人世界戦10試合はすべて負けた。井上岳志が敵地で強打王者に健闘といえたが、唯一の防衛戦の伊藤雅雪を含めて完敗。7試合が海外と敵地の壁を痛感させられた。

長谷川、内山、山中と、長期防衛王者が近年相次いで引退した。それとともにテレビ局のボクシング離れ傾向が顕著になった。そのため、王者を日本に呼んで挑戦する資金力が不足する事態になり、海外で挑戦が増えることとなった。

関東開催は後楽園ホールだけで、令和初開催は黒田雅之の6年ぶり世界再挑戦だった。観客は1930人。最近は1000人を切る興行も多い中で熱気はあった。ジムのある川崎、黒田の出身地稲城の両市長らが観戦し、Jリーグ川崎Fサポーターの応援歌熱唱にキャラクターも参戦。tvkで生中継もされた。

黒田が所属の川崎新田ジム新田■世会長は、試合ギリギリまで場内を動き回っていた。地域密着を掲げ、10年にはジム名に川崎をつけ、さまざま活動している。13年の黒田の世界初挑戦は、地元川崎市のとどろきアリーナで実現した。

今回は再挑戦に会場は小さくなったが、精力的にPR活動を繰り広げた。師弟の母校訪問、川崎FにBリーグ川崎の試合でもPRし、盛大に壮行会も開催した。黒田も初挑戦時の3倍近いあいさつ回りに同行したという。

会長は87年の横浜国大2年時にプロデビュー。学生結婚で子供2人を抱え、6年で卒業後に4度目の挑戦で東洋太平洋バンタム級を制し、国立大卒で初の王者になった。引退後は家族で米留学、会社勤めもへて、03年に学生時代に住んだ登戸にジムを開いた。

インテリボクサー上がりの苦労人。選手にあった目標を定め、私生活も含めて親身に指導する。低迷していた黒田には「最後はオレが見る。墓場担当」と担当トレーナーになった。12年からは日本プロボクシング協会事務局長も務め、袴田事件支援の中心でもある。練習に顔を出すのは週2、3日と多忙も、18番目に入門した黒田にかけた再挑戦だった。

黒田は今後について「からっぽ」と言った。隣にいた会長が「プロモーターは引退します」とつぶやいたのが耳に残る。井上のようなきらびやかさとは無縁で、まさに手作り感覚の世界戦。今も師弟でお礼のあいさつ回りが続く。リングでは見えない世界戦の難しさ、大変さ。令和の新王者はいつになったら生まれるのかと心配になる。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

※■は渉の歩の「、」を取る