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大相撲裏話

勝南桜「敗北」の対義語へ改名で通算10勝目標に

大陸山(右)に押し倒しで敗れる勝南桜(撮影・鈴木正人)

<大相撲初場所>◇2日目◇11日◇東京・両国国技館

改名を機に「敗北」のイメージを拭い去る。史上ワースト89連敗の記録を持つ、東序ノ口28枚目の服部桜改め勝南桜(しょうなんざくら、22=式秀)が、改名後初の取組に臨んだ。西序ノ口27枚目大陸山になすすべなく押し倒され、昨年初場所の6番相撲から76連敗となったが「冷静に取れた」と気持ちを切り替えた。

生まれ育った神奈川県茅ケ崎市への思いから、昨年11月場所中に師匠の式秀親方(元前頭北桜)に改名を志願した。当初は「湘南桜」だったが、師匠の提案で「勝南桜」に。下の名前も高校生棋士、藤井聡太2冠から取って「聡太」にした。自身もスマホのアプリで遊ぶなど将棋が好き。縁起を担ぎ「希望通りのしこ名です」と声を明るくした。

「勝」「南」のそれぞれ対義語は「敗」「北」。師匠の式秀親方(元前頭北桜)によると「『敗北』となったのは後で気付いた」と、偶然だったという。師匠は「名前を変えたいと聞いてやる気になってるんだなと感じた。稽古も一生懸命やっているので、これから頑張ってほしい」と期待。通算3勝210敗となったが、勝南桜は「勝ちにこだわりたい。今年で通算10勝くらいはあげたい」と目標を設定した。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

故郷思い“孤軍奮闘”たった1人滋賀県出身の鳰の湖

勝誠に引き落としで敗れ、土俵から引き揚げる鳰の湖(撮影・河田真司)

“孤軍奮闘”で地元を盛り上げる。新型コロナウイルスへの恐怖心などを理由に元三段目琴貫鉄が引退したことで、滋賀県出身の現役力士は西幕下28枚目鳰の湖(におのうみ、34=山響)だけとなった。

47都道府県で現役が1人だけなのは滋賀県だけ。幕内経験者の鳰の湖は「(琵琶湖の古称でもある)このしこ名だからこそ(地元の人に)激励していただくこともある。恥をかかない相撲を取りたい」と、故郷を思い奮起を誓った。

滋賀県は第5代横綱小野川や、昭和を彩った元関脇蔵間、元小結三杉里らを輩出してきた。現役の親方で唯一、同県出身の枝川親方(元前頭蒼樹山)は、県勢力士が1人となり「寂しいですね」と何度も繰り返す。同親方は審判部だけでなく巡業部にも所属。18年7月には8年ぶりとなる同県大津市での巡業開催に尽力した。「大津の巡業では、1人でも多く相撲の良さを知ってもらうという気持ちだった。滋賀からもっと力士を志す子が増えればいいんですが…」。

優勝力士がいない都道府県は1府12県。その中には滋賀も含まれている。郷土との結びつきが強い大相撲。場内アナウンスでは、力士の出身地は必ず紹介される。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

勝誠(手前)の攻めに耐える鳰の湖(撮影・河田真司)
原功「BOX!」

主要4団体ライト級王座が全員20代米国籍全勝王者

去る1月2日、米国テキサス州ダラスで行われたWBC世界ライト級暫定王座決定戦でライアン・ガルシア(22=米国)が2012年ロンドン五輪金メダリストのルーク・キャンベル(33=英国)に7回TKO勝ち、戴冠を果たした。これでライト級は主要4団体すべての王座が米国籍の20代の全勝王者によって占められることになった。135ポンド(約61.2キロ)を体重上限とするライト級は、いま最もホットな階級といっていいだろう。

つい3カ月前までライト級は3団体王者のワシル・ロマチェンコ(32=ウクライナ)の独擅場といっていい状態だった。ところが昨年10月17日、IBF王者のテオフィモ・ロペス(23=米国)がロマチェンコに判定で勝ち4団体統一(WBAはスーパー王者、WBCはフランチャイズ王者)を果たしたことで様相が一変した。その2週間後にはWBA王者のジャーボンテイ・デービス(26=米国)が4階級制覇王者のレオ・サンタ・クルス(メキシコ)を劇的な6回KOで下して存在感を示し、さらにWBC王者のデビン・ヘイニー(22=米国)が元3階級制覇王者のユリオルキス・ガンボア(キューバ)を完封。そして年が明けてすぐにガルシアが続いたわけだ。これにWBA暫定王者のローランド・ロメロ(25=米国)を加え、5王者全員が米国籍ということになる。

戦績は2016年リオデジャネイロ五輪出場経験を持つロペスが16戦全勝(12KO)、「TANK(装甲戦車)」の異名を持つサウスポーのデービスが24戦全勝(23KO)、攻防兼備のヘイニーが25戦全勝(15KO)、一撃必倒の強打を持つガルシアが21戦全勝(18KO)、高い潜在能力を秘めたロメロが12戦全勝(10KO)。5王者の合計の戦績は98戦全勝(78KO)、KO率は約80パーセントだ。

役者が勢揃いしたところで期待されるのが王者同士による直接対決である。すでにWBCはヘイニーとガルシアに対戦指令を出しており、交渉が成立すれば上半期には団体内の統一戦が実現しそうだ。この両者はアマチュア時代に4度対戦して2勝2敗と星を分けているライバルで、現時点の実力も互角と見られている。

ロペス対デービスはライト級のみならず全階級を通じたトップクラスの好カードといえる。スピードとパワーを兼ね備えた大柄なロペスと、あのフロイド・メイウェザー(米国)の秘蔵っ子として知られるデービス。こちらも甲乙つけがたい総合力の持ち主で、ともに成長途上でもある。

こうした勢いのある20代に対し、前王者となった技巧派のロマチェンコや3階級制覇の実績を持つホルヘ・リナレス(35=帝拳)、IBF1位にランクされるジョージ・カンボソス(27=オーストラリア)、さらに昨年12月にラスベガスで行われた世界ランカー対決で劇的な9回逆転TKO勝ちを収めた中谷正義(31=帝拳)らがどう絡んでいくのか興味が尽きない。ライト級トップ戦線から目が離せない状況が続きそうだ。

大相撲裏話

8代目高砂親方の元朝赤龍“三役止まり”だからこそ

元関脇朝赤龍の錦島親方

未曽有のウイルス禍は、土俵から横綱までも奪い去った。緊急事態宣言が発出された厳戒態勢の中、大相撲初場所が幕を開ける。年6場所、2カ月に1度、定期開催される本場所で、感覚的に「節目」を感じるのは難しい。ましてや昨年の初春から続く、このコロナ禍である。それでも、このモヤモヤ感を何とか払拭(ふっしょく)し、無理にでも区切りをつけ、新たなスタートを切りたいと思うのは人間の性(さが)だろう。角界にあっては、この初場所が1年の始まりの本場所。第3波の真っただ中だが、無事の船出を祈りたい。

船出と言えば、新しい師匠の元、スタートを切る部屋がある。昨年12月をもって先代高砂親方(現錦島親方=元大関朝潮)が65歳の定年を迎え、師匠バトンタッチとなった高砂部屋だ。部屋を引き継いだのは、元関脇朝赤龍の8代目高砂親方。例年、1月3日は都内に眠る5代目高砂浦五郎(元横綱朝潮)の墓参りから始動するが、コロナ禍の折、その伝統は中断された。それでも部屋頭の大関朝乃山を筆頭に、新年の稽古で汗を流した。

継承の意思決定はもちろん、先代にあった。11月場所の後半、紆余(うよ)曲折の末、現高砂に決まったが「兄弟子の若松親方(元前頭朝乃若)を差し置いて…」の気持ちも正直、あったようだ。それでも継承を伝えられ覚悟を決めると、動きは早かった。11月場所は、場所前に次期師匠が決まらず、3日目からは朝乃山が休場。部屋にモヤモヤ感が充満する中、現高砂親方は場所後半にもかかわらず、夜のちゃんこが始まろうという時、上がり座敷に全員を集め思いの丈を声に出した。

「みんな場所中に集まってもらって悪い。次から代が代わって、自分が部屋を継ぐことになりました。最初は新米なので分からないこともあります。みんなで助け合って頑張りましょう。みんなで新しい高砂部屋を作っていきましょう」

その場にいたわけではないから一字一句、正確な言葉ではないが、ニュアンスはそんな内容だったという。また朝乃山に対しては「もっと若い衆に、いろいろ教えてやって」と言葉をかけたという。さらに場所後の休みが明け、稽古始めも軽い自主トレのような短時間の稽古でスタートした。従来は、いきなり相撲を取ることも多かったが「1週間、休んでいていきなりやってケガをしてはいけない」という判断だった。いつものように稽古場に姿を見せ「えっ、もう終わったの?」と、きょとんとした顔の先代に、新米師匠が前述の説明をすると先代も「そうか、それでいい。お前の好きなやり方でやってくれ」と、ほほ笑みながら言葉を投げかけたという。

高砂部屋の師匠は初代高砂浦五郎こそ現役時代の最高位は平幕だったが、2代目以降の6人中、4人は元横綱、元大関(各2人)が務めていた。先代も知名度の高い元大関朝潮。力士たちには、近寄りがたい存在だったのかもしれない。それを逆手に取ったかのように、現師匠は現代っ子の力士との距離を縮めるスタンスをとった。

人心掌握術ではない。いい意味で“三役止まり”だったからこそ、かしこまることなく素のままで接しようという姿勢がうかがえる。文字通り原点に戻り、裸一貫で力士の懐に飛び込んだわけだ。前述の師匠交代のあいさつが終わるか終わらないうちに、次々と力士から覇気のある「お願いします!」の声が飛んだという。船出は順調。初場所の結果で、それが示されるはずだ。【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

高砂部屋
原功「BOX!」

2021年ボクシング界は「統一戦」がキーワード

近年、WBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体の王座が統一されるケースが目立つようになってきた。昨年秋にはワシル・ロマチェンコ(32=ウクライナ)対テオフィモ・ロペス(23=米国)のライト級王座統一戦が行われ、ロペスが4本のベルトを保持することになったばかりだ。こうした傾向は2021年に引き継がれそうな気配だ。

2021年に王座統一が期待できそうな階級はヘビー級とウェルター級、そしてバンタム級であろう。最重量のヘビー級はアンソニー・ジョシュア(31=英国)がWBA、IBF、WBOの3団体王座に君臨する一方、WBC王座はタイソン・フューリー(32=英国)が保持している。25戦24勝(22KO)1敗のジョシュアは身長198センチ、リーチ208センチ、体重108キロ、31戦30勝(21KO)1分のフューリーは身長206センチ、リーチ216センチ、体重は125キロとふたりとも超大型選手だ。英国はもちろんのこと世界中の注目を集める大一番になることは間違いない。1988年にWBOが新設されてからヘビー級4団体王座が統一されたことはなく、そういった意味でも歴史的な一戦になるはずだ。

ウェルター級はWBCとIBF王座を持つエロール・スペンス(30=米国)とWBO王者テレンス・クロフォード(33=米国)の頂上決戦が期待されている。スペンスが27戦全勝(21KO)、3階級制覇を成し遂げているクロフォードが37戦全勝(28KO)。実現すればサウスポー同士の全勝対決となる。すでにオッズは13対8でクロフォード有利と出ているが、総合力は互角だ。これに42歳になった現在もWBA王座を持っているマニー・パッキャオ(比国)がどう絡むのか、この階級にも要注目だ。

井上尚弥(27=大橋)がWBAスーパー王座とIBF王座に君臨しているバンタム級も統一機運が高まっている。井上は2020年4月にWBO王者のジョンリエル・カシメロ(31=比国)との統一戦が決まっていた。コロナ禍のため先送りになった経緯があるが、このまま両者がベルトを保持していけば夏か秋には拳を交える機会が訪れるはずだ。そのカシメロはWBAレギュラー王者のギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)との対戦が具体化しつつあるとも報じられており、交渉の行方が注目される。残るWBC王座は現在は空位だが、休養王者のノルディーヌ・ウバーリ(34=仏)と暫定王者のレイマート・ガバリョ(24=比国)が団体内統一戦を行い、勝者が正王者になると思われる。4団体の統一戦はその先ということになりそうだ。

このほかスーパー・フライ級ではWBAスーパー王者のローマン・ゴンサレス(33=ニカラグア)とWBC王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(30=メキシコ)が3月13日に双方の王座をかけて対戦することが決まっている。昨年の大みそかに田中恒成(畑中)の挑戦を退けたWBO王者の井岡一翔(31=Ambition)が、この試合の勝者との対戦を希望している。

また、スーパー・ライト級のWBA、IBF王者ジョシュ・テイラー(29=英国)対WBC、WBO王者ホセ・カルロス・ラミレス(28=米国)の4団体統一戦も期待できそうだ。さらにスーパー・ミドル級ではWBA、WBC王者のサウル・カネロ・アルバレス(30=メキシコ)とWBO王者ビリー・ジョー・サンダース(31=英国)の統一戦計画が具体化しつつあると伝えられる。

コロナ次第ではあるが、2021年の世界のボクシング界は「統一戦」がキーワードになりそうだ。

リングにかける男たち

いつか飯伏vsオメガの“盟友”ダブル王座戦を

ケニー・オメガと飯伏幸太(2018年6月9日撮影)

4日夜、新日本プロレスの東京ドーム大会メインイベント後、海の向こうから1本のメッセージが投稿された。

「ようやくですね。おめでとう」。

ツイッターで短く、ひらがなのみの日本語で。IWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタル両王座を獲得した飯伏幸太(38)は祝福を受けた。投稿の主は飯伏とタッグ「ゴールデン☆ラヴァーズ」を組んでいた盟友。米プロレス団体オール・エリート・レスリング(AEW)のヘビー級王者ケニー・オメガ(37)からだった。

13年前の08年、カナダ人レスラーのオメガがDDTで来日した後から両者の関係は始まった。路上マッチなどで戦いを超越した関係となり、翌09年1月にはタッグを結成。DDTで王座獲得して人気タッグになると、10年1月には新日本にも参戦した。同11月にはIWGPジュニアタッグ王座を獲得。先に飯伏が13年に新日本とDDTのダブル所属となり、翌年にはオメガも新日本に移籍した。

当初、新日本ではタッグを解消したが、18年にオメガが加入するユニット「バレットクラブ」でCody(AEWのコーディ・ローデス)との内紛をきっかけに2人はタッグを再結成。19年2月、オメガのAEW移籍で再び別々の団体を主戦場に選択することになったものの「ようやくですね」のツイッター投稿を通時、両者の絆は揺るぎないことが分かる。

16年に外国人初のG1制覇、18年にはIWGPヘビー級王座を獲得と、飯伏は新日本でオメガに「先行」されていた。18年にはCodyとの3WAY形式ながらもIWGP王者オメガに挑戦した。「ようやくですね」の文字には同じ“ステージ”に並んだ意味も込められているように思える。

一方、オメガ自らもAEW旗揚げから約2年近くが経過した昨年11月、AEWヘビー級王者だったジョン・モクスリー(35)を下し、ようやく同団体最高峰のベルトを手にした。両者の出会いから約13年。米人気団体WWEのライバルとなる日米団体のヘビー級王座には、飯伏とオメガが君臨している。モクスリーは現在、IWGP・USヘビー級王者でもあり、新日本プロレスとAEWには少なからず関係がある。いつか両者が両王座を懸けて対戦する日が来るかもしれない。

ゴールデン☆ラヴァーズによる日米ダブル王座戦を実現するには、両王者が防衛を続けることが大前提。5日夜、東京ドームでジェイ・ホワイト(28)の挑戦を受ける飯伏は内藤哲也との激闘で体力的に厳しい状態ではあるだろうが、オメガからのメッセージが届き、飯伏には勝たなければならない理由が、また1つ増えたように感じた。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

5年連続初V力士誕生の初場所、高安と隆の勝に期待

隆の勝(左)と高安

新年最初の場所で、また初優勝力士が誕生するか-。

1月10日に初日を迎える今年の初場所(東京・両国国技館)は例年以上に話題が豊富だ。11月場所後に横綱審議委員会から「注意」の決議を受け、再起を期す白鵬と鶴竜の両横綱、綱とりが懸かる大関貴景勝、かど番の正代と朝乃山の2大関、大関とりの足固めにしたい照ノ富士…。そんな中で、初場所は16年から琴奨菊、稀勢の里、栃ノ心、玉鷲、徳勝龍と、5年連続で初優勝力士が誕生している。三役以上で優勝経験がないのは関脇隆の勝(26=常盤山)と小結高安(30=田子ノ浦)。伸び盛りの若手と、復調気配の大関経験者が“ジンクス”継続候補の筆頭かもしれない。

隆の勝は謙虚な姿勢の中にも、言葉からは自信がにじんでいる。昨年は12勝を挙げた春場所から4場所連続で勝ち越し、3位となる年間45勝を挙げた。「自分でもビックリするくらいというか。精神面もそうだし、体の力も成長した年かなと思う。相撲内容、相撲の幅が広がった。そこが一番でかかった」。同部屋の大関貴景勝が刺激。2021年は「優勝」と「大関」昇進を目指す。

高安は奮起する理由がある。場所後の2月に第1子が誕生する予定。両国国技館内の相撲教習所で行われた合同稽古では「だいぶ奮発材料になっていますので、励みにしていきたい」と話していた。出稽古が禁じられている中、部屋には荒磯親方(元横綱稀勢の里)という最高の稽古相手がいるのことが強み。「恵まれていますので、恩返ししていきたい」と意気込んでいた。

昨年は徳勝龍が史上2度目の幕尻優勝。観客の人数は大きく違うが、主役が誰になっても、ドラマのある場所になるはずだ。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

昨年の初場所で幕尻優勝を果たした徳勝龍は優勝インタビューで涙ぐむ(2020年1月26日撮影)
原功「BOX!」

2020年ボクシング界回顧 MVPはタイソン・フューリー

コロナ禍のなか多くの試合が中止や延期に追い込まれ、3月から6月にかけてはボクシングのイベントそのものの開催が世界的に見送られる異常事態となった。その後、試合が行われる場合でも無観客など従来とは大きく異なる形態での開催が多くなった。世界戦の数は減ったが、それでもしっかりと存在感を示した選手もいた。そんな2020年の世界のボクシング界を優秀選手を選ぶかたちで振り返ってみよう。

最優秀ボクサーにはWBC世界ヘビー級王者のタイソン・フューリー(32=英国)を推したい。2月に行われたデオンタイ・ワイルダー(35=米国)との再戦で7回TKO勝ち、戴冠を果たすとともに戦績を31戦30勝(21KO)1分に伸ばした。井上尚弥(27=大橋)、サウル・アルバレス(30=メキシコ)、テレンス・クロフォード(33=米国)、ジャーボンテイ・デービス(26=米国)、エロール・スペンス(30=米国)らが僅差で続く。下半期に注目ファイトを行った彼らに対し、フューリーの勝利は10カ月前のこととあってやや印象が薄らいでいる感はあるが、最重量級という付加価値もあってMVPとしたい。

殊勲賞はライト級の4団体王座を統一したテオフィモ・ロペス(23=米国)だ。IBF王者として新年を迎えたロペスは10月、3団体の王座を保持していたワシル・ロマチェンコ(32=ウクライナ)に12回判定勝ち、4本のベルトを掌中に収めた。4対1のオッズをもひっくり返す勝利は殊勲にピッタリだ。

敢闘賞には2月にWBA世界スーパー・フライ級王座に返り咲いたローマン・ゴンサレス(33=ニカラグア)を推す。26戦全勝のカリド・ヤファイ(31=英国)に圧勝した試合は圧巻だった。来年3月にWBC王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(30=メキシコ)との統一戦が決まっており、2021年も多くの話題を提供してくれそうだ。スーパー・ウェルター級で3団体の王座統一を果たしたジャーメル・チャーロ(30=米国)、2月に39歳でWBA世界バンタム級王座を獲得し2階級制覇を果たしたギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)が続く。

技能賞には井上尚弥、クロフォード、アルバレスの3選手の名前を挙げたい。3人とも秋から冬に圧倒的有利の予想のなかでリングに上がり、そのまま力の差を見せつけて圧勝している。内容、結果も甲乙つけがたいものだった。

KO賞はジャーボンテイ・デービスで決まりだ。10月31日のレオ・サンタ・クルス(32=メキシコ)戦の6回、左アッパー一発で王者対決にけりをつけたシーンは戦慄すら覚えるほどだった。

年間最高試合にはホセ・セペダ(31=米国)対イバン・バランチク(27=ベラルーシ)のWBC世界スーパー・ライト級挑戦者決定戦を挙げたい。5回KOでセペダが勝利を収めるまで4度ずつ、合計8度のダウンというド派手な打撃戦だった。アレクサンデル・ポベトキン(40=露)が2度のダウンを挽回、左アッパー一発でWBC暫定世界ヘビー級王者のディリアン・ホワイト(32=ジャマイカ/英国)に逆転の5回KO勝ちを収めた試合も印象深い。

新鋭賞はウェルター級のスター候補、ジャロン・エニス(23=米国)だ。12月の試合はバッティングで相手が負傷したため1回無効試合となったが、前半KOは間違いないという展開だった。27戦26勝(24KO)1無効試合。スピード、パワー、テクニックと揃った逸材で、来年は世界ランキング上位に食い込んできそうだ。

秋から冬にかけて盛り上がりをみせた2020年の世界のボクシング界。このままコロナもKOしてほしいものだ。

リングにかける男たち

白川未奈「ブサイクになっても」痛み耐え世界へ進む

新王者となりリング上で記念撮影に臨む、左からウナギ・サヤカ、中野たむ、白川未奈組(2020年12月16日撮影)

ケガにも負けず、逆境にも負けず、前に進み続ける。女子プロレス団体スターダムで「グラビアレスラー」として活躍する白川未奈(33)は、16日の後楽園大会でのアーティスト・オブ・スターダム選手権試合で、10月の移籍後初のタイトルを獲得した。ウナギ・サヤカ、中野たむと組み、鹿島沙希、ビー・プレストリー、刀羅ナツコ組に勝利。試合後はリング上で人目もはばからずに号泣した。序盤に相手3人から集中攻撃を浴び「顎がはずれた」というほどの痛みに耐え抜いた。「ブサイクになっても、整形するよりもベルトが欲しい」と喜びを爆発させた。

災難は続いた。33歳の誕生日となった26日の後楽園大会では、試合に敗れ、鼻を骨折し、全治2カ月というアクシデント。それでも自身のツイッターで「パワーアップして帰ってきます。鼻は折れても心は折れないのが白川未奈です!」とファンに向けてメッセージを送った。

グラビアアイドルとして活動する中でプロレスに出会った。もともと「世界に知れ渡る人になりたい」という夢があり、18年に30歳でプロレスデビュー。その後、米国での活動を視野に入れていた時にコロナに直面した。

白川 1人で米国の団体に行こうと。いろいろ回っていけば、いずれ大きな団体につながっていくのではと思って、計画していた。

夢はいったんお預けとなったが、強くなって知名度を上げるため「ファンが一番見ているスターダムに行きたい」と門をたたいた。同団体でグラビアとの“二刀流”で活動していた愛川ゆず季にあこがれていたことも背中を押した。

移籍して2カ月。慣れない環境に苦しみ続ける。「一からのスタート。求められていることも違ったし、気楽に過ごした日々はない」。プロレスに集中するため、グラビアの仕事をセーブ。ようやく自分の立ち位置が確立されてきた。

女性で30代というだけで「いつまでやるの?」と聞かれることも多く「男子なら年齢のことを言われないのに何で?」と悩む時期もあった。「結婚とか、子どもとか、自分でタイミングを決めたい。若い子ではなく、自分がそういう姿を見せていきたい」と強くなることで周囲を納得させるつもりだ。

両親や家庭のことを考え、大学卒業後は会社に就職。それでも「後悔する人生は送りたくないし、親のせいにもしたくない」。一代で会社を立ち上げた父の背中を追い掛け、自分の気持ちに正直に歩んできた。そんな両親はまだ自分の生き方を理解してくれていないが、認められるまで意志を貫いていく。

白川 最初は反対していたけど、最近はいろいろ見てくれている。海外に行きたいとか、日本で頑張るとかも伝えた。大きな会場でメインをやる時が来たら、親に見せたいなと。それまでは会場に呼ぶ気はない。

プロレスが軌道に乗ってきた。筋肉が付き、体つきも変わった。

白川 外国のレスラーに負けないような体になろうと。こういう体が好きなファンもいる。以前は万人受けを考えていた。今は自分をいいと思ってくれる人だけが付いてきてくれたら。

来年はタレント活動も増やし、バラエティー出演も視野に入れる。「私、NGないんですよ。女子プロレスを広めたいし、そのためにはベルトが必要。シングルのタイトルにも挑戦したい」。自分の夢に真っすぐ進み、プロレス界の頂点に立って、自信を持って両親に伝える。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

◆白川未奈(しらかわ・みな)1987年(昭62)12月26日、東京都生まれ。青学大卒業後、芸能界入り。Hカップの巨乳アイドルとして多方面で活躍。15年には、在京スポーツ新聞社6社を応援するユニット「スクープ!?」にも所属。18年8月に「ベストボディ・ジャパンプロレス旗揚げ戦」でプロレスデビュー。同11月初勝利。今年10月横浜武道館大会でスターダムデビューした。156センチ。

大相撲裏話

新入幕の小兵翠富士、母の愛詰まったツナ缶で体重増

初場所の番付発表後に会見に臨む新入幕の翠富士

また1人、楽しみな小兵力士が幕内の土俵に上がってくる。大相撲初場所(来年1月10日初日、東京・両国国技館)で新入幕を果たした翠富士(24=伊勢ケ浜)は身長171センチで、体重は本人いわく118キロ。3月の新十両昇進時は107キロで、約9カ月で11キロも増やした。

新十両場所こそ負け越したが、中止の5月場所をはさみ、その後は3場所連続で勝ち越して幕内の座を射止めた。その要因を「体重が増えたことが一番かなと思います。持っていかれることがなくなった。トレーニングもずっとやっているんで、いい太り方ができている」と言った。

力士にとって食べることも稽古。「ごはんがあまり得意じゃない」という翠富士の体を変えたのは、母の愛だった。「シーチキン(ツナ缶)とか食ってですね。お母さん(恵さん)が工場に勤めてるんで送ってくれる。1食に2缶ぐらい、マヨネーズかけて食ってます。魚の脂は体にいいらしいんで」。

地元静岡・焼津の漁港はマグロ・カツオ漁業の拠点。その地元の愛に、女手ひとつで育ててくれた母の愛が重なり、大きな相手と戦う体を作り上げてきた。しかし「戦える」自信は、参加した合同稽古で吹き飛ばされたという。「みんなちょっと力が強すぎる。自分もまず、体を作らないとと思った。筋肉で体重を増やしたい。増やせるだけ、動けなくなる1歩手前まで増やしたい」とさらなる増量に意欲を燃やした。

幕内最軽量の炎鵬ら小兵力士が土俵を沸かせている。兄弟子の照強も169センチ、114キロながら優勝争いを盛り上げる活躍を見せた。その波に翠富士も続きたい。目指す“小兵力士像”は描いている。「自分は照強関みたいな相撲を意識しているが、そこまで力ないんで押しながら技を入れていく。照強関と炎鵬関の間みたいな、2人のいいところを入れていきたいです」と話す。

静岡出身では10年ぶり、戦後5人目の幕内力士。11月場所後に帰郷し地元の熱、期待を感じてきたという。「いろんな人に声をかけてもらった。もっと声をかけてもらえるように頑張りたい。新入幕らしく、元気のいい相撲をとりたい」。質問にキビキビと応じる新鋭の活躍、そしてどれだけ体重を増やして初場所の土俵に上がるのか、楽しみになった。【実藤健一】

原功「BOX!」

コロナ禍とは直接無関係も…世界戦3試合が相次いで中止

モルティ・ムザラネ(19年12月撮影)

先週16日にドミニカ共和国、17日にコロンビア、19日に南アフリカ共和国で行われる予定だった軽量級の世界戦3試合が、いずれも直前になって相次いで中止になった。コロナ禍の影響を直接受けたわけではなく、選手の体調不良、体重超過による計量失格、プロモーターの不手際が原因だという。

16日(日本時間17日)にドミニカ共和国の首都サントドミンゴで行われる予定だったのは、ウィルフレド・メンデス(24=プエルトリコ)対アレクシス・ディアス(33=ベネズエラ)のWBO世界ミニマム級タイトルマッチ。王者メンデスの3度目の防衛戦として組まれていた試合だ。ふたりとも前日計量をパスしたあと、メンデスが食事後に嘔吐するなど体調を崩したため試合中止の判断を下したという。

17日(日本時間18日)にはWBA世界ライト・フライ級王者のカルロス・カニサレス(27=ベネズエラ)がプエルトコロンビア(コロンビア)で3度目の防衛戦に臨む予定だった。前日計量でカニサレスは108ポンド(約48.9キロ)のリミットを下回る106.8ポンド(約48.4キロ)でパスしたが、挑戦者のヘスス・シルベストレ(31=メキシコ)が1回目の計量で規定を6.2ポンド(約2.8キロ)もオーバーする114.2ポンド(約51.8キロ)を計測。再計量でも114ポンド(約51.7キロ)だったため、試合を管理するコロンビアのコミッションとWBAが中止を決定した。

まるで連鎖反応であるかのように、19日(日本時間20日)に南アフリカ共和国のダーバンで行われる予定だったIBF世界フライ級タイトルマッチ、モルティ・ムザラネ(38=南アフリカ共和国)対ジェイソン・ママ(23=フィリピン)も、試合2日前にキャンセルになった。こちらは選手に原因があったのではなく、コミッションが課した条件をプロモーターが満たせなかったことが原因とされる。金銭に関係する問題と伝えられる。ムザラネにとっては昨年12月に八重樫東(大橋)を9回TKOで下して以来1年ぶり4度目の防衛戦になるはずだった。

この春からコロナ禍の影響でボクシングの世界戦は先延ばしになるケースが多かったが、夏から各地で再開。それでも直前になって選手や側近が新型コロナウイルスの検査で陽性反応を示したとして中止や延期が相次いでいる。今回の3件は直接の原因は別のところにあるとはいうものの、選手のコンディションや関係者の経済面を考えるとコロナと無関係だと断定することはできない。早くコロナ禍が収束して安心してイベントが開催できる日が来てほしいものだ。

リングにかける男たち

3度目タイソンVSホリフィールド見てみたいが…

マイク・タイソン(左)、ホリーフィールド

世界中がじっと耐えた1年が過ぎようとしている。メディアの世界は節目が好きだ。1年の総決算の十大ニュースの時期になった。今年は重大ニュースか。コロナ禍でボクシング界はあまり動きがなかっただけに、10個も話題がないかもしれない。

世界でトップニュースと言えば、マイク・タイソンのリング復帰になるのだろうか。ロイ・ジョーンズとのレジェンド105歳対決は、世界中から注目を集めたビッグマッチになった。

ガウンなしで、グローブ、トランクスにシューズはおなじみの黒。頭を振りながら、中へステップして、ボディーを打ち込んだ。現役時代をほうふつさせ、懐かしさがあった。

50歳を超え、15年ぶりのリング。年齢とブランクを考えれば、大したものだった。体も現役時の約100キロに絞ってきた。この一戦への思いも伝わってきた。楽しませることが第1で、ファイトマネーも寄付するという。

WBCが用意した元世界王者の採点は忖度(そんたく)したのか引き分け。終始タイソンが攻め続け、フルマークと言えるだろう。PPVの売り上げは60億円を超えたという。あの悪童も今や人気者に。コロナで鬱屈(うっくつ)としていただけに、スター復活は楽しめたと言える。

試合2日前の感謝祭の日。タイソンのユーチューブは傑作だった。「今年のごちそうはこれだ」と見せたのがジョーンズを模したケーキ。右耳部分を切り落として「イベンダーよりもおいしい」。96年のホリフィールドとの再戦で耳噛み事件にひっかけたもの。これは笑えた。

試合自体は凡戦だった。ジョーンズはクリンチに終始し、防戦一方だった。タイソンのパンチが怖かったのだろう。攻めは皆無。再三のクリンチに、タイソンがまた耳噛みかと頭に浮かんだ。タイソンも手控えたのかボディーが多く、期待された打ち合いはなかった。

タイソンがSNSに高速連打のミット打ちを投稿し、復帰へ思わせぶりな発言が始まり。当初は昔の名前を利用したエキシビションマッチに冷めた見方も多かった。試合後は多くの称賛の声が上がった。

タイソンは今後もエキシビションを続けたい考えという。現役とも戦いたいらしい。2分8回のエキシビションに過ぎない。ちょっと待ってよと思う。

32年前に東京ドームでのこけら落としで来日した。当時は江戸川橋にあった帝拳ジムで練習。非公開も毎日見張り取材した。突然、上野動物園に行ってライオンとにらめっこ。試合では強打爆発の2回TKO。リングの内外での面白さでボクシングにはまった。

ホリフィールドも刺激を受けてミット打ちを投稿し、相手に名乗りを上げているという。ライバルとの3度目は興味も尽きず、見てみたい気はする。そこらで打ち止めにしてほしい。

国内には専門誌が2誌あるが、1誌はタイソンのことは1行も載っていなかった。もう1誌は「予想外に大好評」と後半に2ページの読み物。しょせん色物ということだろう。全盛時を取材した記者としてはむなしさも感じた。やはり真剣勝負でないと面白くない。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

復活照ノ富士、苦労共にした元付け人が見た変化転機

照ノ富士(2020年11月19日撮影)

大関貴景勝の優勝で幕を閉じた、1年納めの11月場所。久しぶりの大関優勝に盛り上がったが、他に奮闘した力士が多くいた。中でも、同場所で3年ぶりに三役に返り咲いた小結照ノ富士(29=伊勢ケ浜)は、千秋楽の本割で貴景勝に勝って決定戦に持ち込むなど、13勝と気を吐いた。

照ノ富士は両膝の負傷や内臓疾患に苦しみ、一時は序二段まで番付を落としたが、再入幕を果たした7月場所で復活優勝。ついには、返り咲きを目指す大関への足固めも作った。どん底からはい上がってきた照ノ富士の姿は、横綱昇進を目指していた3年前と比べて、周囲の目からまるで別人のように映る。

千秋楽を1敗の単独トップで迎えた17年春場所。連日、朝稽古時は上機嫌だった。当時の番付は大関。稽古取材に訪れた大勢の報道陣を前に「優勝すれば次が綱とり? もし今場所が優勝次点でも、次で優勝なら横綱に上がれる?」と、翌場所のことばかりを考えていた。決して目の前の一番をおろそかにしているわけではなかったが、他の場所に比べると明らかに浮足立っていた。

伊勢ケ浜部屋に転籍する前の間垣部屋時代から苦労を共にし、約5年間照ノ富士付け人を務めた元駿馬の中板秀二さん(38)は「何をやっても勝てる。何をしてても勝てる。自分を止める者はいないのか、という気持ちは正直ありました」と当時の照ノ富士の姿を振り返った。しかし、1差で追いかけられていた新横綱の稀勢の里に、本割と決定戦で敗れて支度部屋で涙。「綱とり」の言葉は一切、発さなかった。

転機は2場所後の17年名古屋場所。左膝半月板を損傷すると、内臓疾患などにも苦しみ休場が続き、1年半で序二段まで陥落した。その間に、兄弟子の元横綱日馬富士や元関脇安美錦(現安治川親方)らが引退。中板さんは「それから自分が引っ張らないといけないという自覚が芽生えていました。相撲に真摯(しんし)に取り組むようになりました」と振り返る。番付を落としている間に引退した先輩の姿に、奮い立つものがあった。

長期休場明けとなった19年春場所以降、照ノ富士は別人のようだった。目の前の一番への集中力は、負傷した3年前と大きく変わっていた。番付に関係なく土俵に上がれば一番一番を大切にし、大きなことを言うこともなくなった。どん底を味わっても腐ることなく、自分をしっかりと見つめ直したことが、ここまでの復活につながったに違いない。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

PFP1位アルバレス、長身無敗スミスにどんな戦い見せるか

4階級制覇を成し遂げているスター選手、サウル・カネロ・アルバレス(30=メキシコ)が19日(日本時間20日)、米国テキサス州サンアントニオでWBA世界スーパー・ミドル級スーパー王者、カラム・スミス(30=英国)と拳を交える。現在、アルバレスはミドル級のWBAスーパー王座とスーパー・ミドル級のWBA王座の2冠を保持しており、今回のスミス戦はスーパー・ミドル級のWBA内統一戦として挙行されるほか、空位になっているWBC同級王座決定戦も兼ねる。階級を超越したボクサーの総合的評価ともいえるパウンド・フォー・パウンド(PFP)で1位にランクされるアルバレスが、27戦全勝(19KO)のスミスを相手にどんな戦いを見せるのか注目される。

アルバレスはスーパー・ウェルター級、ミドル級、スーパー・ミドル級、ライト・ヘビー級の4階級で戴冠を果たし、一時は3階級の世界王座を同時に保持していたこともある。出身国のメキシコを中心に人気と注目度も高く、2年前にはDAZNと11試合で3億6500万ドル(当時のレートで400億円超)の大型契約を結んだほどだ。しかし、3試合を消化したもののコロナ禍のなかで思ったようなカードが組まれないことなどからビジネス上のトラブルに発展した経緯がある。身長173センチ、リーチ179センチとスーパー・ミドル級では小柄な部類に入るが、スピード、パワー、テクニック、スタミナ、耐久力などバランスのとれた戦力を備えている。戦績は56戦53勝(36KO)1敗2分。唯一の敗北は7年前、フロイド・メイウェザー(米国)に判定で屈したものだ。

その人気者の挑戦を受けるかたちのスミスは身長191センチ、リーチ198センチと大柄で、恵まれた体格を生かしてアウトボクシングをベースに戦いを組み立てるタイプといえる。右ストレートや左フックはパワーも十分で、たびたび痛烈なダウン、KOシーンを生み出してきた。3年前に始まった階級最強決定トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」のスーパー・ミドル級第1回優勝者で、その決勝戦で戴冠を果たした。これが3度目の防衛戦となる。

身長、リーチとも20センチ近いアドバンテージのあるスミスは距離を保ちながら戦いたいところだが、アルバレスの圧力と踏み込み、ボディ攻めに十分な対応ができるかどうか。スミスは直近の試合でアルバレスと似た体格のサウスポーの選手に苦戦しただけに、厳しい戦いは必至だ。それを裏づけるようにオッズは9対2でアルバレス有利と出ている。その一方、スミスはツボにはまると抜群の強さを発揮するタイプでもあるだけに世界をアッといわせる可能性もある。楽しみな一戦だ。

大相撲裏話

大相撲日刊年間大賞!「大枚逃したで賞」など番外編

1年納めの11月場所も終わり、2020年の本場所の戦いも閉幕。コロナ禍により年5場所となりましたが、苦境の中でも力士たちは奮闘しました。日刊スポーツでは年末恒例「大相撲日刊年間大賞」を、今年も掲載します。競技性の違いで、野球のように個人成績が詳細に出ない中、日刊スポーツの相撲担当記者が、さまざまなデータから“個人賞”を勝手に制定するものです。ここでは紙面では掲載されないものを紹介します。重ねがさね“勝手に”決めた賞で、対象力士は5場所全てで幕内に在位した力士29人に限りました。ご了承のほどを…。

【懸賞部門】

◆大枚逃したで賞

勝っていれば手にしていたのに、負けたばかりに逃してしまった懸賞金。積もり積もれば、結構な額面になります。果たしていかほどか…。トップ3までは手取り(1本あたり3万円)で1000万円を超えています。

<1>遠藤=398本

<2>貴景勝=396本

<3>御嶽海=337本

<4>朝乃山=333本

<5>炎鵬=302本

取組が結びの一番やそれに近い番付上位や、人気力士には多くの懸賞がかかるもの。そこで負けると逃す本数も多くなります。

遠藤

◆一獲千金賞

1本あたりの手取りは3万円。ここでは1番あたり100万円を超す懸賞(34本以上)がかかった相撲で、どんな結果が出たか調べてみた。1番あたり34本以上の懸賞がかかった取組は、今年5場所で8番。何と、そのうち7番が大関貴景勝絡み。実に6勝1敗と勝負強さが際立った。勝率で言えば、その貴景勝に優勝が懸かった初場所で勝った徳勝龍が10割(1勝0敗)だが、ここは貴景勝に軍配を上げよう。ちなみに朝乃山が1勝1敗で、この3人で8勝。0勝1敗は玉鷲、阿炎、宝富士、高安、正代、大栄翔。一獲千金を夢見て新年を…。

貴景勝

【取組時間部門】

◆相撲をこよなく愛したで賞

力士29人の1番あたり平均取組時間を算出。速く勝負を決めたい、と思うのが力士の本音だろうが、ケガを抱えたり、腰が重かったりとタイプによって、どうしても長くなりがちな力士の顔触れは、ここ数年変わらない。今年は

<1>高安=15秒6

<2>宝富士=13秒9

<3>志摩ノ海=12秒4

<4>竜電=12秒0

<5>豊山=11秒7

となった。記憶に新しい“お疲れ大賞”は、中盤まで優勝争いに参戦した11月場所の宝富士。9日目の隠岐の海戦は67秒8の熱戦を制し勝ち越し。だが95秒7かかった10日目の北勝富士戦は物言いがつき取り直し。その一番は16秒1だったが敗れて2敗目。竜電に送り倒された11日目の一番も80秒3かかった。物言いがついた一番を含め、3日間4番で4分を超える259秒9。この場所の宝富士の15番合計が282秒9だから90%以上を、この3日間で消化したことになる。本当にご苦労さまです。

高安

◆踏んだり蹴ったりで賞

負けた一番あたりの平均取組時間の長かった力士は? 勝っていれば心地よい疲労感に包まれるところが、負けたばっかりにドッと疲れが押し寄せてきそうで…。“お気の毒大賞”は高安の16秒8。高安は勝った相撲も1位の竜電(15秒0)に続く2位(14秒6)と、勝っても負けても土俵に長くいた。

◆省エネ大賞

立ち合い、一瞬の変化、引き技で相手を土俵に這わせ、勝ち名乗りを受ける。もしくは一気の押しで勝負を決める。速く勝負を決めるのは気分がいいもの。1勝あたりにかかった平均時間で短いのは…。はたきといえばこの人、そう千代大龍で2秒8。不戦勝と不戦敗を除いた5場所全71番(34勝37敗)の平均もただ1人、5秒を切る4秒9。はたき込みの13勝は、29人の中で決まり手別トップ。「疾風(はやて)のように現れて、疾風のように去って行く<歌詞>」月光仮面のような力士です! ちなみに5秒台は玉鷲(5秒6)碧山(5秒8)の2人と突き押し相撲が上位。6秒台で正代、貴景勝の両大関が続いた。

大相撲11月場所 13日目 遠藤(右)をはたき込みで破る千代大龍山

【金さん銀さん部門】

ちょっと古いフレーズになりましたが…。平幕力士の横綱戦勝利は「金星」として公認されますが、大関戦勝利を“銀星”と勝手に決めて抽出しました。

金星は遠藤が3個でNO・1。初場所の連日獲得(初日鶴竜、2日目白鵬)が光りました。2位の妙義龍(2個)も初場所で3日目に白鵬、4日目鶴竜と、連日の金星獲得。思えば横綱災難の年の始まりだったようで…。金星は他に北勝富士、徳勝龍、阿武咲の各1個だ。

続いて“銀星”は…。これは今後の掲載でも触れると思うので、ここでは省略します。あしからず。

【珍手賞】

今年は寄り切り、押し出しはじめ36手の決まり手が出ました。そのうち「この決まり手で勝ったのは、この力士だけ」という唯一無二を調べました。昔はよく出ていて「珍手」というには抵抗がある決まり手もありますが、そこは目をつぶってご一読を…。

◆つり出し=栃ノ心

◆網打ち=照強

◆きめ倒し=北勝富士

◆掛け投げ=栃ノ心

◆外小股=照強

◆外掛け=豊山

◆送り投げ=霧馬山

◆上手ひねり=霧馬山

◆下手ひねり=遠藤

ちなみに多くの決まり手で勝った力士は…。これは紙面掲載でお楽しみを。

2020年1月15日 初場所4日目、炎鵬(上)は大関栃ノ心につり出しで敗れる

【アップダウン賞】

初場所から11月場所までの番付昇降の推移から、振れ幅の激しかった力士は…。

<1>高安=27枚

<2>徳勝龍=22枚

<3>霧馬山=21枚

<4>阿武咲、豊山=各19枚

この中でも心地よい「上昇気流」で推移したのが霧馬山。初場所の東前頭17枚目から9枚、6枚とジャンプアップ。7月場所の負け越しで2枚下げたものの、秋場所の巻き返しで再び東前頭筆頭まで上った。ただ、その11月場所は3勝12敗と大負け。再びの捲土(けんど)重来に期待します!

大関経験者の高安も、ケガの影響で関脇から東前頭13枚目まで一気に降下したが、そこから13枚上げて返り三役の「雨のち晴れ」? 徳勝龍は初場所の幕尻優勝で一気に15枚上げたが、その後は負け越し続きで7枚ダウンの「快晴のち雨」か? 押し相撲の阿武咲と豊山は振れ幅が激しい「ジェットコースター型」のようだ。

【労せずしてのごっつぁんで賞】

不戦勝の多い力士。ケガや病気の不戦敗力士を思えば手放しでは喜べないが、汗をかかずに貴重な白星を手にすれば内心、うれしくないはずがない。今年は不戦勝負が20番あり、特にコロナ禍後の7月場所6番、秋場所7番と、調整の難しさが如実に表れた。その中で、朝乃山、御嶽海、大栄翔が2番の“おこぼれ”にあずかった。場所のリズムが崩れ不戦勝翌日は難しい、と言われる中、不戦勝翌日の勝負で三者三様の結果が。朝乃山は2戦2勝、大栄翔は1勝1敗、御嶽海は2戦2敗となった。

【行司泣かせで賞】

土俵際、際どい勝負で行司軍配は…。そんな勝負に物言いはつきもの。今年5場所で、物言い勝負が多かった力士は…。

<1>北勝富士=6番

<2>大栄翔、徳勝龍=5番

<4>宝富士=4番

<5>遠藤、栃ノ心、豊山=各3番

北勝富士の内訳は「軍配通り○」=2番、「軍配通り●」=2番、軍配をもらったが差し違えで●=1番、軍配をもらったが取り直しとなり再戦も○。控えで協議の結果を待つのも、しんどいものです。

北勝富士

力士のみなさん、1年間ご苦労さまでした。日刊スポーツ大相撲担当一同、新年の活躍も期待しています。【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

名の由来は本家…?日体大・花田秀虎に秘める可能性

6日、全日本相撲選手権を制してアマチュア横綱に輝いた日体大1年の花田秀虎

コロナ禍で一時は開催も検討された6日の全日本選手権で、史上2度目となる大学1年生のアマチュア横綱が誕生した。花田秀虎(ひでとら、日体大1年)は「実感が湧いていない。夢のようです。全日本での優勝は、アマチュアでの目標だった」と笑みを浮かべた。和歌山商高2年時には世界ジュニア個人無差別級で優勝。卒業後は、もちろん角界入りを目指している。

父眞秀さん(46)はレスリングでインカレ優勝の経験を持ち、小学生の時は相撲と柔道を加えた3競技を並行して習っていた。184センチ、138キロの体は筋肉で覆われている。「あこがれは(元横綱)千代の富士。小兵でパワーがある」。大学入学後8キロ増えるなど、同大相撲部の斎藤一雄監督によれば「まだまだ進化途中」だ。

19歳のアマチュア選手ながら大相撲の礼節を重んじる。決勝では勝利の瞬間、あえて感情を抑え込んだ。「興奮するけどそこをどう抑えるか。相撲は国技で礼儀を尊重する。横綱、大関もガッツポーズをしないので。相手にも失礼」。高校生の頃からガッツポーズは控えているという。

「花田秀虎」の名前は3代目横綱若乃花の花田虎上(まさる)氏を連想させるが、花田氏が改名したのは11年のことで、19歳のアマ横綱が生まれた後。関係性はなく「虎」の由来も「分かりません」と苦笑するが、端正なマスクに加えて素質も十分。そのスター性で、いつか“若貴”に肩を並べるような日が来るかもしれない。

【相撲担当=佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

ジョシュア、大一番前に完全復活をアピールできるか

WBA、IBF、WBO3団体統一世界ヘビー級王者アンソニー・ジョシュア(31=英国)が12日(日本時間13日)、英国ロンドンでWBA11位、IBF1位、WBO4位のクブラト・プーレフ(39=ブルガリア)を相手に初防衛戦に臨む。WBC王者のタイソン・フューリー(32=英国)との4団体統一戦が期待されているジョシュアが、大一番に向けてどんなパフォーマンスを見せるのか注目される。

12年ロンドン五輪で金メダルを獲得後にプロ転向を果たしたジョシュアは順調に出世し、16年4月にIBF王座を獲得。このときの戦績は16戦全KO勝ちだった。元3団体王者ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)との3度目の防衛戦では6回に痛烈なダウンを喫したが、11回に倒し返してTKO勝ち、WBAからスーパー王者に認定された。18年3月にはWBO王者にも勝って3団体の統一王者になり、防衛回数は6まで伸ばした。

ところが昨年6月、16対1のオッズで有利と見られたアンディ・ルイス(米国)とのV7戦で、先にダウンを奪いながら攻め急ぎ、逆に4度のダウンを喫して7回TKOで惨敗。3本のベルトを失ったうえ評価も急落した。半年後の再戦で大差の判定勝ちを収めて3団体王座を奪い返したが、以前のような自信と躍動感は見られなかった。それから1年ぶりのリングとなるジョシュアにとって、IBFの指名挑戦者を迎えて行う今回の試合は完全復活をアピールする絶好の機会といえる。24戦23勝(21KO)1敗。

プーレフも08年北京五輪に出場するなど豊富なアマチュアキャリアを持つ選手だ。デビューから20連勝(11KO)を収めて14年11月にはクリチコ持つ3団体王座に挑んだが、左フックを狙い打たれて合計4度ダウン、5回KOで散った。その後は5年間に8連勝(3KO)を収め、IBF1位に再浮上した。左で煽って右を叩きつける比較的シンプルな戦い方をする攻撃型の選手で、「コブラ」のニックネームを持つ。戦績は29戦28勝(14KO)1敗。

身長198センチ、リーチ208センチ、体重108キロ前後のジョシュア、身長194センチ、リーチ202センチ、体重112キロ前後のプーレフ。ふたりともヘビー級のなかでも大柄な部類に入るが、スピードとパワー、大舞台の経験で勝るジョシュアが圧倒的有利と見られており、オッズは9対1と大差がついている。

ジョシュアが完全復活をアピールするのか、それともプーレフがブルガリアに初の世界ヘビー級王座をもたらすのか。最重量級らしいスリリングで迫力ある攻防が見られそうだ。

リングにかける男たち

衝撃的な予告「深刻な削減を」UFCリストラへの道

デイナ・ホワイト社長(2012年2月26日撮影)

衝撃的とも言えるリストラ予告だった。米総合格闘技団体UFCのデイナ・ホワイト社長(51)が6日(日本時間7日)のファイトナイト・ラスベガス16大会開催後、契約選手の解雇に関して口を開いた。新型コロナウイルスによる一時興行中断前となる3月のUFC248大会でミドル級王座にも挑戦したヨエル・ロメロ(43=キューバ)が3試合の契約を残し、契約解除となった経緯を問われた時だった。

同社長は「ヨエルは過去5試合で4回負けている。(来年には)44歳でもある。ヨエルだけじゃない。年末には深刻な契約選手数の削減を行う必要がある。おそらく来年最初までに60人がカットされるだろう」と明かした。現在、UFCは世界17カ国から約650人の選手と契約しているとされるが「今の選手数は多すぎる。厳しい決断になる。今後、数週間で多くの選手の名前を(リストラ対象として)目にすることになるだろう」と厳しい表情をみせた。

長引く新型コロナウイルスの影響で、UFCのイベント開催事情が難しくなっている。最近でもメインイベントで組まれた選手がPCR検査で陽性判定となり。欠場を強いられるケースが続出。6日のUFCファイトナイト・ラスベガス16大会では開催直前に3試合が消滅する事態となっている。米国内の深刻な感染拡大がマッチメークにも大きな影を落としている。

現在、米ラスベガスやUAEのアブダビ・ヤス島にセッティングした「UFCファイトアイランド」を中心に興行開催しているものの、無観客のために興行収入が減少している。ロメロとの契約解除前にも、10度の防衛を誇った元ミドル級王者アンデウソン・シウバ(45=ブラジル)が1試合の契約を残し、UFCから引退した。ベテランを中心に少しずつリストラは始まっていた。

米国内にはUFCのライバル団体としてベラトールが存在。シンガポールを中心にONE、そして日本にはRIZINがある。もちろん他団体もUFCと同様のコロナウイルスによる経営打撃はあるだろうが、ビッグネームを含めた良いファイターたちが他団体で活躍することになれば、総合格闘技の活性化にもつながる。12月から来年1月まで、どのようなUFCファイターたちが契約解除になるのか。注視していきたい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

リングにかける男たち

戦略面でも楽しみな井岡vs田中、最大の敵はコロナ

井岡一翔(左)田中恒成

新型コロナウイルスにあえいできた今年の日本ボクシング界を締めくくる一戦は、ワクワクする大一番となった。日本選手で初の4階級制覇を成し遂げたWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(31=Ambition)に、世界最速16戦目での4階級制覇を狙う同級1位の田中恒成(25=畑中)が挑む。

相撲でいえば横綱の地位を固めた井岡に、スピード出世で番付を駆け上がってきた田中が挑む構図か。結果、試合内容だけでなく試合に至るまでの両陣営の言動まで、実に興味深い。

別日にリモートで行われた会見から、両者は火花を散らした。王者が「レベルの違いを見せる」と言い放った翌日、挑戦者は「直接戦ったら俺の方が強いと思います。世代交代というか、文句のつけようがないKOで決着をつけたい」と返した。井岡には一時代を築き上げた誇りと意地、田中にはその座を奪う絶好のチャンスに燃える気持ちがこもっていた。

かつて、すでに世界王者だった井岡は当時まだ高校生だった田中とスパーリングで拳を交えている。その時のことを井岡は「覚えていない」と言った。練習相手のことはいちいち記憶にとどめない。それよりも世界の舞台で、世界の強豪と戦ってきたという自負があるのかもしれない。

このやりとりで思い起こされたのが94年12月4日に行われた、WBC世界バンタム級王者薬師寺保栄と同級暫定王者辰吉丈一郎の世紀の一戦だった。薬師寺は辰吉のスパーリングパートナーから、いわば成り上がった。戦前も辰吉有利の声が多かったが、魂のど突き合いを制したのは薬師寺。もちろん状況や背景は違うが、注目度や興味においては負けていない。

ともにオーソドックスのボクサーファイター。井岡は大阪の興国高から東農大(中退)、田中も中京高-中京大とアマで実績を残し、プロでもエリート街道を歩んできた。注目の一戦はディフェンシブにもなりがちだが、田中が早い回で仕掛けていくとか、戦略面でも楽しみは大きい。

その楽しみを奪う最大の敵がコロナだろう。実際にこれまでコロナの影響で京口の世界戦や元世界王者高山の復帰戦など試合、興行の中止があった。また大声を出すなどの観戦スタイルがあらためられないとして日本ボクシングコミッション(JBC)が先日、警告を発している。

とはいえ選手、関係者、そしてファンも十分に我慢してきた。両陣営も十分に備えて、戦いに向かっていると聞く。とにかく無事に大みそかを迎えてほしいと切に願う。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

納谷改め王鵬は自他共に認める「おじいちゃん子」

新十両昇進にあたり新しいしこ名を掲げる納谷改め王鵬

ついに、やっと、いよいよ…納谷改め王鵬(20=大嶽)の新十両昇進に、周囲もさまざまな感情を抱いていただろう。春場所前の2月。東京・江東区の大嶽部屋で朝稽古を取材した際に、師匠の大嶽親方(元十両大竜)が「新しいしこ名、早く発表したいですね。大鵬親方も、喜ぶと思うから」と、少年のような笑みを浮かべていたのが懐かしく感じる。

新しいしこ名は、次男の三段目「鵬山」、四男の幕下「夢道鵬」とともに、字画数などにもこだわっていると聞く。本来は偉大な祖父のしこ名「大鵬」を継がせたいところだが、一代年寄のため使えない。先月の新十両会見で師匠は「(大鵬と)どこか似た名前をと。『大』にかわるものとして『王』をつけた。昔から『王』『王』という感じで、マッチしていた。風貌が王鵬という感じ。今もそうだけど、あまりしゃべらないというがわが道を行くという。どっしりと落ち着いたところがある」としこ名の由来を力説。万感の思いだったはずだ。

王鵬を取材していると、祖父への愛情が伝わってくる。「小さい時にじいちゃんの相撲を見て、最初に相撲の格好良さが分かったのがおじいちゃん。今でもすごく格好いいというのは変わらない」。場所が終われば、欠かさず祖父の墓前に足を運ぶという。取組後の囲み取材では、報道陣に祖父のことを聞かれる機会も多いが、いつも毅然(きぜん)と対応。「注目されることはうれしい。たいしたことないなと見劣りしないように頑張るだけです」。師匠の言葉によると、自他共に認める「おじいちゃん子」とのことだ。

初場所(来年1月10日初日、東京・両国国技館)の10日目、19日が祖父の命日になる。関取として土俵に上がる孫の姿を、天国から温かく見守っているはずだ。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)