バンタム級フィリピン勢の分厚い“井上尚弥包囲網”
いまや世界的な注目ボクサーとなったWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(27=大橋)。コロナ禍のため時期は未定ながら、次はIBF1位にランクされるマイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)の挑戦を受ける方向で調整に入っていると伝えられる。これをクリアした場合はWBO王者のジョンリエル・カシメロ(31=フィリピン)との3団体王座統一戦が有力だ。さらに一昨年11月に対戦したノニト・ドネア(38=フィリピン/アメリカ)も再戦を希望している。フィリピン勢による“井上包囲網”はけっこう分厚いものがある。
日本と同様、フィリピンは軽量級を中心に優れたボクサーを数多く輩出してきた。特に現在はバンタム級が充実している。
今年の上半期中には井上と対戦することになりそうなダスマリナスは日本で試合をしたことがあり、また山中慎介(帝拳)らのスパーリング相手を務めたこともあるサウスポーの強打者だ。戦績は33戦30勝(20KO)2敗1分。立ち位置を変えながら得意の左を狙うタイプだが、強豪との対戦は多くなく守りには甘さが見える。中盤までに井上がKOで片づけそうだ。
WBO王者のカシメロは昨年4月25日にラスベガスで井上との統一戦が決まっていたが、コロナ禍のため先送りになった経緯がある。その後は両者とも別の相手と防衛戦をこなして快勝しており、対戦の可能性を残している。ただ、井上はダスマリナス戦、カシメロにはWBAレギュラー王者のギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)との対戦計画が浮上しており、両者が次戦をクリアすることが前提となる。井上と同じく3階級制覇を成し遂げているカシメロは34戦30勝(21KO)4敗の戦績を残しているファイターで、瞬間的な爆発力は井上に匹敵するものを持っている。しかし、攻防ともに雑なうえ相手に距離をとられると攻めあぐねる傾向がある。井上がスピードとスキルで翻弄したすえ中盤あたりで倒すとみる。
2019年11月に井上と「年間最高試合」を演じたドネアも再戦の機会を待ち望んでいる。本来ならば昨年12月に指名挑戦者としてWBC王座に挑むはずだったが、相手と自身の新型コロナウィルス検査陽性という結果のため計画が先延ばしになってしまった。46戦40勝(26KO)6敗と井上を上回る経験値を持つドネアだが、すべてが順調に進んでも井上との再戦までは1年以上かかると思われる。今後は時間とも戦わなければならない38歳のドネアにとってコロナ禍によるブランクは痛い。
二転三転のすえドネアに代わって昨年12月にWBCの暫定王座決定戦に出場したレイマート・ガバリョ(24=フィリピン)は、エマヌエル・ロドリゲス(28=プエルトリコ)に幸運な判定勝ちを収めてベルト保持者になった。24戦全勝(20KO)と完璧のレコードを誇るガバリョが強打者であることは間違いないが、先の試合で攻撃技術の未熟さが露呈した。WBCから命じられているロドリゲスとの再戦をクリアすることができるか。そこで派手なKO勝ちを収めるようだと近未来の井上の対戦候補として急浮上してくる可能性はある。
このようにバンタム級トップ戦線におけるフィリピン勢の“井上包囲網”はなかなか厚いものがある。危険度は、爆発力のあるカシメロがA、総合力が高いドネアがB、ダスマリナスとガバリョはCといったところか。井上の今後とともにフィリピン勢の動向にも注目していきたい。