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au版ニッカン★バトル

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原功「BOX!」

バンタム級フィリピン勢の分厚い“井上尚弥包囲網”

いまや世界的な注目ボクサーとなったWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(27=大橋)。コロナ禍のため時期は未定ながら、次はIBF1位にランクされるマイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)の挑戦を受ける方向で調整に入っていると伝えられる。これをクリアした場合はWBO王者のジョンリエル・カシメロ(31=フィリピン)との3団体王座統一戦が有力だ。さらに一昨年11月に対戦したノニト・ドネア(38=フィリピン/アメリカ)も再戦を希望している。フィリピン勢による“井上包囲網”はけっこう分厚いものがある。

日本と同様、フィリピンは軽量級を中心に優れたボクサーを数多く輩出してきた。特に現在はバンタム級が充実している。

今年の上半期中には井上と対戦することになりそうなダスマリナスは日本で試合をしたことがあり、また山中慎介(帝拳)らのスパーリング相手を務めたこともあるサウスポーの強打者だ。戦績は33戦30勝(20KO)2敗1分。立ち位置を変えながら得意の左を狙うタイプだが、強豪との対戦は多くなく守りには甘さが見える。中盤までに井上がKOで片づけそうだ。

WBO王者のカシメロは昨年4月25日にラスベガスで井上との統一戦が決まっていたが、コロナ禍のため先送りになった経緯がある。その後は両者とも別の相手と防衛戦をこなして快勝しており、対戦の可能性を残している。ただ、井上はダスマリナス戦、カシメロにはWBAレギュラー王者のギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)との対戦計画が浮上しており、両者が次戦をクリアすることが前提となる。井上と同じく3階級制覇を成し遂げているカシメロは34戦30勝(21KO)4敗の戦績を残しているファイターで、瞬間的な爆発力は井上に匹敵するものを持っている。しかし、攻防ともに雑なうえ相手に距離をとられると攻めあぐねる傾向がある。井上がスピードとスキルで翻弄したすえ中盤あたりで倒すとみる。

2019年11月に井上と「年間最高試合」を演じたドネアも再戦の機会を待ち望んでいる。本来ならば昨年12月に指名挑戦者としてWBC王座に挑むはずだったが、相手と自身の新型コロナウィルス検査陽性という結果のため計画が先延ばしになってしまった。46戦40勝(26KO)6敗と井上を上回る経験値を持つドネアだが、すべてが順調に進んでも井上との再戦までは1年以上かかると思われる。今後は時間とも戦わなければならない38歳のドネアにとってコロナ禍によるブランクは痛い。

二転三転のすえドネアに代わって昨年12月にWBCの暫定王座決定戦に出場したレイマート・ガバリョ(24=フィリピン)は、エマヌエル・ロドリゲス(28=プエルトリコ)に幸運な判定勝ちを収めてベルト保持者になった。24戦全勝(20KO)と完璧のレコードを誇るガバリョが強打者であることは間違いないが、先の試合で攻撃技術の未熟さが露呈した。WBCから命じられているロドリゲスとの再戦をクリアすることができるか。そこで派手なKO勝ちを収めるようだと近未来の井上の対戦候補として急浮上してくる可能性はある。

このようにバンタム級トップ戦線におけるフィリピン勢の“井上包囲網”はなかなか厚いものがある。危険度は、爆発力のあるカシメロがA、総合力が高いドネアがB、ダスマリナスとガバリョはCといったところか。井上の今後とともにフィリピン勢の動向にも注目していきたい。

リングにかける男たち

一流にしか分からない“究極の心理戦”制した那須川

志朗(左)に蹴りを見舞う那須川(撮影・滝沢徹郎)

2月28日のRISE横浜大会で那須川天心(22)が志朗(27)に3-0で判定勝ちを収め、44連勝を飾った。「考えていることは似ている」。試合後のインタビューでは、お互いに同じ言葉を発した。これまで32KOと、強烈な蹴りや打撃で圧倒し続けてきた那須川だが、今回の戦いを「倒せたら良かったけど、そこを目的にしたわけではない。9分間だまし続ける究極の心理戦。駆け引きで勝ったことが一番うれしい」と振り返った。

1回は「作戦の1つ」と蹴り中心で入った。公開練習でボクシング技術の向上を語っていただけに、あらゆる対策を練っていた志朗にとっても「予想外」だった。那須川は「パンチは警戒していると思ったし、その分相手の反応がコンマ何秒だけ遅れたので先手を取れた」。

2回は一転、パンチでポイントを稼ぎにいった。試合前から「スピードが速いだけじゃない」と話していたように一瞬、間を空けた遅いパンチを効果的に使った。「僕の速いスピードを研究していたと思うのであえてそうした」。

3回ではジャブを有効に使い、相手を翻弄(ほんろう)した。「ワン、ツーではなく、ワンのあとワン。速く入ってゆっくり打ったり、ゆっくり入って速く打ったり。同じフォームでもスピードを変えた」。ジャブで相手と接近した直後には、細かいステップバックで志朗を惑わせた。「次にいこうとしたらもう射程圏内にいなかった。彼のジャブは距離の支配力がすごい。手に負えなかった」と完敗を認めた。那須川も「3回は来るのが分かっていたので(ステップバックは)狙っていた」と明かした。

RISE伊藤代表は「格闘技=KOだけじゃないというところを見せられた。天心をあそこまで追い込んで戦えるのは志朗くらい」と最高峰の戦いに納得の表情を見せた。

那須川は普段から闘志をむき出しにするタイプではないが、今回は違った。「試合前はテレビのオファーを全部断っていた。それくらい気合が入っていた」。対策十分の相手に異次元のスピード、技術だけでなく心理戦でも上回った。「(志朗は)相手によってスタイルを変えられる選手だけど僕もそうだったので。超玄人好みの対戦だったのでは」。一流選手にしか分からない駆け引きを制した那須川の完勝だった。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

試合後、ポーズを決める那須川(撮影・滝沢徹郎)
大相撲裏話

外出禁止で自炊経験ゼロ 大栄翔の“食”支えた親方

地元の埼玉・朝霞市役所を表敬訪問して富岡勝則市長から花束を贈呈される大栄翔(左)(2021年2月3日)

強烈な突き押しが光り、初場所で初優勝を果たした平幕の大栄翔(27=追手風)。15日間を通して終始、取り口にブレがなかった。取組後のリモート取材でも連日、浮足立つことなく淡々と受け応えていた。優勝する力士は、実力はもちろん、15日間を戦い抜く精神力も兼ね備えている。力士はよく「1日一番」と口にするが、決して簡単なことではない。コロナ禍だからこその出来事が、大栄翔の心の支えになっていた。

史上初の無観客開催となった昨年の春場所以降、日本相撲協会は力士ら協会員に度々、外出自粛などを求めてきた。番付発表から本場所終了までの約1カ月間は原則外出禁止が続き、後援会関係者らとの食事も出来ないなど、仕方がないとはいえ、息抜きがしづらい状況になっている。

部屋を出て1人暮らしをしている大栄翔は、コロナ禍になるまで、1月の半分は焼き肉店で晩ご飯を済ませていたという。付け人や後援会関係者と行くのがほとんどで、大の肉好きが自炊する日はほぼゼロ。しかし、この状況下では焼き肉店に行けず。自炊経験が皆無の中、助け舟を渡してくれたのは師匠の追手風親方(元前頭大翔山)だった。「夜も部屋で食べていけ」と、部屋を出て暮らしている関取衆らに声を掛けてくれたという。朝稽古後のちゃんこはもちろん部屋で食べ、1度自宅に帰り、夜にまた部屋に行き、用意された晩ご飯を食べていた。

この生活は初場所中も続いていた。1人でゆっくりする時間が欲しいのではないか、と問うと「自分は人といるのが好きで、みんなで食べるのは楽しい。部屋の食事もおいしい」と声を弾ませた。思い返すと地方巡業の昼休憩中はいつも、同じ埼玉栄高の後輩の貴景勝や、貴景勝と同学年の阿武咲と一緒に仲むつまじく過ごしていたのが印象的だ。今は「だいたい剣翔関と一緒に食べることが多いですね。楽しいですよ。次は剣翔関を取材して下さいよ。本人はやる気満々ですよ」と楽しそうに話すなど、部屋での食事が気に入っているようだ。

たったのこれだけのことかと思うかもしれないが、厳しい外出自粛が1年続く中、大栄翔にとっては部屋での晩ご飯は大きな心の支えになったに違いない。まだまだ厳しい生活は続くかもしれない。それでも大栄翔には、今後も乗り越えることができる環境が整っている。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

5人の現役世界王者擁す英国ボクシング界、散々な1週間

ヘビー級の3団体統一王者のアンソニー・ジョシュア(31)とWBC王者のタイソン・フューリー(32)をはじめ5人の現役世界王者を擁している英国ボクシング界だが、2月13日から20日までの1週間は残念なニュースが相次いだ。前世界王者と五輪出場のホープが痛烈なTKO負けを喫したり、予定された世界戦が相次いで延期になったりと散々だったのだ。

新型コロナウイルスの収束傾向が見られないこともあり、英国では1月中の試合がすべて見送る措置がとられた。2月に入ってイベントが再開されたため、そこで勢いを取り戻すはずだった。ところが目論見は大外れとなった。

13日、前IBF世界フェザー級王者のジョシュ・ウォーリントン(30)がロンドンでIBF8位のマウリシオ・ララ(22=メキシコ)と対戦した。他団体王者との対戦を望んだウォーリントンは今年に入って王座を返上。16対1のオッズで有利とみられたララ戦で弾みをつけておきたいところだったが、2度のダウンを喫したすえ9回TKOで敗れた。プロ31戦目で初の敗北だった。「再戦で借りを返したい」と気持ちを切り替えているようだが、ダメージを残す惨敗だっただけに再起するまでには時間がかかりそうだ。

その3日後には、3階級制覇を狙って2月27日にWBO世界スーパー・フェザー級王座に挑戦する予定だったカール・フランプトン(34)が拳を負傷、試合を延期すると報じられた。

悪いニュースは続く。3月6日にロンドンで行われる予定だったWBC暫定世界ヘビー級タイトルマッチ、アレクサンダー・ポベトキン(41=露)対ディリアン・ホワイト(32)も3週間の延期が発表された。英国籍のフランプトン、ホワイトは挑戦者だが、ともに有利というオッズが出ていただけにファンは楽しみを先送りされた印象だ。

ヘビー級戦の延期が公になった20日、ロンドンでは欧州ウェルター級タイトルマッチが行われた。2016年リオデジャネイロ五輪に出場した経験を持つ26歳のホープ、IBF15位にランクされるジョシュ・ケリーが、元WBA暫定王者で現在は主要4団体すべてで10傑入りしているダビド・アバネシャン(32=露)に挑んだのだが、ケリーは6回TKOで敗れた。序盤で頭部と顔面をカットしたケリーは出血にめげずに奮闘していたが6回に失速。2度のダウンを喫したところで自陣からタオルが投入された。ケリーはこれまで11戦して無敗(10勝6KO1分)だったが、この試合でスタミナ不足と打たれ脆さという弱点を露呈。加えて限界を感じさせる内容だっただけに将来が不安視される。

今年はジョシュ対フューリーという英国人同士の世界ヘビー級4団体王座統一戦が期待されているが、その大一番を含め今後も英国勢の動向に注目していきたい。

リングにかける男たち

37年目も挑戦 武藤敬司が肌で感じたノアの可能性

2月12日、3大メジャー制覇を達成し、GHCのベルトを手にする武藤敬司

プロレスリング・ノアの武藤敬司(58)が、12日に行われた日本武道館大会で潮崎豪(39)を破り、初のGHCヘビー級王者に輝いた。新日本IWGPヘビー級、全日本3冠ヘビー級と合わせ、史上3人目となる、ヘビー級シングルのグランドスラムを達成。新たな偉業で、11年ぶりとなった日本武道館興行を堂々と締めた。58歳でのタイトル挑戦に抵抗もあったが「出て何かを言われてもゼロではない」。不退転の決意をリングの上で証明してみせた。

15日にはノアと2年契約を結んだ。来年末には還暦を迎える。「なかなか素晴らしい契約。マー君(田中将大=楽天)よりちょっと見劣りするくらいだよ。このリングで朽ちていくかもしれないが、骨の髄までしゃぶってもらいたい」。02年全日本入団時に話題を呼んだコメントで喜びと決意を表現した。

ノアに入団した背景には、新日本、全日本で頂点を極めたことだけでなく、業界トップを目指すノアに未来の可能性を感じたから。昨年コロナ禍で試合が延期・中止となるも、3月末からすぐに無観客で再開。業界で最初に外部配信を仕掛けたのはノアだった。「コンテンツの素晴らしさとか、こういう団体で俺自身試合をしたいと思っていた」。次々と新しい仕掛けを行っていくノアの活動をそばで見てきたからこそ決断に至った。

昨年3月に代表を務めていたWRESTLE-1が解散。その後ノアに参戦するようになった。「いいタイミングだった。プロレスのことだけ考えていればいいので、肩の荷が下りた」。18年に膝に人工関節を入れる手術をしてからコンディションが回復。それまでの10年を「暗黒の時代」と言うほどの苦しみから脱却し、ビッグタイトルを勝ち取った。プロレスだけに集中できる環境を「心地いい」と明かし、さらなる防衛にも闘志を燃やす。

もちろん、これまで培ってきたものは後輩に伝えながら、新たな挑戦にもしっかり向き合うつもりだ。無観客試合を初体験し「もしかしたらこれが今からのプロレスかもしれない。リング上でへばっていると、携帯の画面を変えられてしまうかも。そんなことも考えてやっていかないと」。

オファーがあればバラエティーにも出る。先日は蝶野、長州とともにTVドラマにも出演した。「しゃべりは芸人に勝てないし、芝居は役者に勝てない」と言いつつも「食っていくためにはそれくらいやらないといけない」とプロレスを広める活動も手を抜かない。

今月4日には「ジャイアント馬場23回忌追善興行」に参加。天山ら40代の選手に勝利し「後輩たちに、まだやれるというところを背中で見せたい」と自信をのぞかせた。リングに上がる先輩たちのパフォーマンスも視察。昨年2月以来となる、自身プロデュースのマスターズ大会開催へ「コロナが明けたら、先輩方をまた引っ張り出して、すぐにやろうと思っている」と意欲を見せる。

新日本時代からアントニオ猪木氏の魂を継承し、攻めのプロレスで頂点に立った。デビュー37年目。海外を含め、さまざまな団体を渡り歩いてきた武藤の言葉には裏表もなく、あいまいな表現もない。「ナンバーワンレスラーを抱えた以上は、業界トップになってもらわないと困る」。覚悟の契約を結んだ武藤の挑戦は、今後もまだまだ続いていく。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

2月15日、ノアと正式契約を結んだ武藤敬司(右)。左はDDTと正式契約を結んだ秋山準
大相撲裏話

両国の空に大阪の幟、春場所奪われた無念むげにせず

両国国技館の土俵

スマホの着信音が鳴った。メールやラインではない電話のそれだ。昨今、連絡のやりとりは“文字通話”で事足りている。味気ないとも思うが、電話が鳴ることはめったにない。はて誰だろう…。スマホのディスプレーには、毎年3月に必ず会う旧知の相撲関係者、いや友人の名前が表示されていた。奇遇なことに、自分も今日か明日にでも声を聞きたくて電話しようと思っていた。以心伝心とはこんなことを言うんだろうな…。そんな言葉を胸の中でつぶやきながら、受話器マークを押すなり「残念だったよね、場所がなくなっちゃって」。時候のあいさつもそこそこに、いきなりこちらから発した。

6年前、二十数年ぶりに相撲取材の現場に戻った私は、春場所初日の前日は必ず、その友人が開く、ちゃんこ料理店に足を運んだ。私にとっては、その絶品の鍋を食べなければ春場所は始まらない。その恒例行事もコロナで奪われた。3月14日初日の春場所は、東京・両国国技館での開催だ。

「いや…、春場所が4月だったら開催できたかもしれないけどね…。緊急事態宣言が出てて、こればかりは仕方ないけどさ。(旧知の親方衆や関係者が)毎年、大阪に来たら来たで気を使って大変は大変なんだけど、やっぱり大阪で本場所がないってのは寂しいよね生徒に会えないのもさ」。

私の第一声に対し、速射砲のように返す千葉公康さん(56)は、当時の二子山部屋に入門し80年春場所、初土俵を踏んだ。大関貴ノ花の内弟子として付け人も務め、部屋創設とともに藤島部屋へ移籍。12年半の土俵生活で、関取間近の幕下13枚目まで番付を上げたが、命にもかかわるほどの首痛で引退した。若貴フィーバーの真っただ中、チャンコ番などで縁の下からも人気部屋を支えた1人だ。

引退後、地縁のなかった大阪で、ちゃんこ料理店「ちゃんこ新(あらた)」を開く一方、小中学生の相撲少年を指導。その道場を巣立った少年が多数、角界入りし明日の関取を目指している。「生徒に会えないのもさ」の言葉に、寂しさがにじみ出ていた。

教え子を相撲界に送り出している縁もあり現在も、いくつかの部屋の師匠らと親交がある。関係者からの話を聞くほどに、制約の多い相撲部屋生活を憂いもする。昨年、コロナ感染が一休みした頃、東京のある部屋に行こうか…と思ったが、部屋の玄関で迎えられたとして、すぐに直行するのは風呂だと聞いた。

「感染予防なんですね。若い衆がコンビニに買い物に行っても、すぐに風呂に入らされるようなんです。冬も夜、窓を開けっぱなしで寝ているそうですよ、換気のために。床暖房で何とかしのいでるらしいけど、震えながら寝てるって。そのへんは本当に徹底してますよ、相撲界は」。東京行きはあきらめた。八百長問題が発覚し中止された10年前に続き、2度目の悲運に見舞われた浪速の春。昨年の開催も無観客だったことを考えれば、大阪の相撲ファンは、この11年で3度も観戦の機会を奪われたことになる。友人が嘆くのも無理はない。

だが、そんな相撲を愛する大阪のファンを角界はむげにはしない。かの友人の元に、ある部屋の師匠から先日、電話が入った。場所の開催を告げる、本場所会場に掲げられる、幟(のぼり)の掲出依頼だった。「大阪の人の名前で幟を立てたいんだ、春場所だから。『ちゃんこ新』の名前で。名前を借りるよ!」。本来、制作費などの費用は、いわゆる「広告主」が持つが、それはヤボな話というもの。経費は部屋で持つという。無念の思いをくみ取ってくれたのは、二子山部屋で同じ釜の飯を食い、4学年上の兄弟子だった常盤山親方(元小結隆三杉)だった。兄弟子とか番付の違いなど、時を重ねれば関係ない。長年、築いた信頼関係が絆となった。

両国国技館開催の春場所の、たまり席も「今回は大阪場所向けということで、そうゆう方を優先する」と芝田山広報部長(元横綱大乃国)も、大阪の維持員会を優先してチケット配分する方針を打ち出している。距離は離れていようとも、相撲界を支えようという思いに距離はない。来年こそきっと、大阪にも春を告げる本場所が戻ってくる。触れ太鼓が鳴らない今年は、両国の空に、春風に乗って大阪の心がこもった幟がはためく。【渡辺佳彦】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

リングにかける男たち

拉致事件も…名門グランドパレス終幕で追憶の名勝負

前日計量をパスし、お互いの顔を見つめる井上尚弥(左)と挑戦者フアンカルロス・パヤノ(2018年10月6日撮影)

長年ボクシングを担当した記者にはショッキングだった。千代田区飯田橋にあるホテルグランドパレスが6月30日で営業を終了するという。昨年7月から営業を制限していたが、1月末にレストランなどの営業休止や縮小、2週間後の9日に閉館発表となった。

地上24階建て、部屋数458室、20の宴会場、7つのレストランにショップ。日本有数のシティホテルで皇居の近くに位置する。丸の内のパレスホテルの姉妹ホテルとして72年に開業した。

73年にはのちに韓国大統領となった金大中拉致事件の舞台になった。76年から88年までは、13年連続でプロ野球のドラフト会議も開催された。最寄り駅は九段下で靖国神社と日本武道館が近い。春は皇居や千鳥ケ淵で桜の花見帰りによるのが定番コースでもあった。

何十回では収まらない。泊まったことはないが、一番足を踏み入れたホテルに違いない。ボクシングの世界戦では数々行事がある。試合の発表に始まり、外国人選手の来日、公開練習、予備検診、記者会見、前日計量、一夜明け会見と続く。

練習はジム、健診は病院、計量は日本ボクシングコミッションなどが定番だった。残りはジムやホテル、イベント会場などさまざま。いつからかは分からないが、帝拳ジムを中心に一連行事の会場はグランドパレスがお決まりになった。

近年は井上尚弥中心に大橋ジムなどと増えていった。対戦相手や外国人役員らのホテルにもなる。時には村田諒太らの日本人選手も、試合に集中するために事前利用するようになった。

行事は必須なものに加え、試合の宣伝のためでもある。報道されることで前景気をあおり、世間の注目も増し、入場券の売り上げや視聴率アップを狙う。ビッグマッチになれば、盛大なものとなっていった。今でも報道の扱いを気にする関係者は多い。

そういえば、昨年は1回しか行っていない。ちょうど1年前の2月14日。中谷潤人の世界戦の発表だった。金びょうぶを背にした壇上で、初挑戦の喜びがあふれていた。会場には両親と兄も駆けつけ、見守っていたのを思い出す。

中谷もその後は何度も試合が延期となり、いざ決定も行事はオンラインでの開催になった。コロナ禍の苦難を乗り越え、昨年日本人唯一の新王者になったことは何よりだが、本来なら期待1番手の世界初挑戦に、戦前から盛り上がったはず。悔やまれた。

6月30日の閉館まで、もう5カ月もない。村田、井上、中谷らの世界戦発表の日や行事が、グランドパレスでまた開催される日が来るのだろうか。ランチビュッフェのカレーが無性に食べたくなった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

世界に初挑戦する中谷潤人(2020年2月14日撮影)
リングにかける男たち

井上尚弥が伝えたかった「格の違い」

3回、比嘉(左)と打ちあう井上(撮影・野上伸悟)

ボクシングのエキシビション(スパーリング形式3分3回)マッチのみという新たな試みのイベント、LEGENDが11日に開催された。

メインイベントでは、WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(27=大橋)が、現WBOアジア・パシフィック同級王者で元WBC世界フライ級王者比嘉大吾(25=Ambition)と拳を交えた。世界戦さながらの演出、そして有観客という雰囲気の中、井上は「比嘉選手に気迫を感じました。真剣度100%」と明かした“ガチ対決”でメインを締めた。

「このイベントが、成功で終われたかなと思います」と満足げに井上が振り返ったメインでの比嘉とのスパーリング。1、2回はヘッドギアを装着し、3回は通常の試合さながらにヘッドギアを外してリングで対峙(たいじ)。「自分の距離でなく、比嘉選手の距離でもやろうと思ったし、いろいろな戦いを見せられたらと思ってスパーリングをした。今日は自分の動きにも満足できた、良い出来だったと思います」。

倒しにいくのか、自分の距離を貫いて戦うのか。比嘉の動きに合わせて展開を変化させていたという。体重も試合時のリミット53・5キロよりも重い、62キロ。58キロだった比嘉に対し「スピーディーな動きではないので自分のできるボクシングした」とも明かした。

スパーリング形式のために勝敗はない。しかし観客の前で見せる上で明確な「何か」が必要になる。自ら相手に指名した比嘉と拳を交える上で、自身のハードルを設定していた。「正直、このスパーリングにはメリットがない」と前置きした井上は「比嘉選手はどれだけやれるか。見ている方もそういう見方をすると思うので、ボクはレベルの差をみせなきゃいけない。互角のスパーリングをしたら、自分の評価は保てない。そういった意味で、今日のスパーリングはやり方的にも良い緊張感がありました」と心境を明かした。

そして、程良いピリピリ感の中での手応えは十分だった。「格の違い? 今日は十分にみせられたと思うし、自分はそう思います。あとは見ているか方がどうとられるかだと思います」。

比嘉とのスパーリングは17年以来、約4年ぶりだった。「(比嘉の)パンチは前にスパーリングした時と印象は変わらない。あの頃との距離は縮まっていないのかなと。お互いに成長しているし。その差が自分の中でも縮まっていたらダメで、引き離さないといけない。そういうスパーリングだった」。キッパリと言い切った。

比嘉との約4年ぶりのスパーリングを通じ「自分も余裕をみせられたし、ロープを背負ってもいけると肌で感じました」と振り返った井上。チャリティー、有観客のスパーリング形式という通常のリングとは異なるイベントでも“モンスター”と呼ばれる井上らしさをみせた。

昨年10月、米ラスベガスでジェーソン・モロニー(オーストラリア)に7回KO勝ちして以来の次戦は、IBF世界同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)との指名試合が濃厚。19年11月のワールドボクシング・スーパー・シリーズ決勝以来となる有観客試合、国内リングの感触も味わった井上は、21年初戦に向けて気持ちを切り替えることになる。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

終了後の会見で思いを語る井上尚弥(撮影・浅見桂子)
大相撲裏話

コロナ禍でも競技人口増を アマ相撲が動画に活路

アマチュア相撲で“ソーシャルディスタンス”を意識した、新たな取り組みが行われる。千葉・柏市相撲連盟が四股の美しさなどを競う動画コンテスト「全国相撲形競技大会」を企画。昨年からコロナ禍で多くの主要大会が中止となる中、子どもたちの日々の鍛錬を発揮する場を設けようと、大会関係者が運営している。21日まで動画を募り、22日から審査期間、3月7日に結果が発表される。

大会実行委員長で柏市相撲連盟理事長の永井明慶さんは「目標があるからつらい稽古にも耐えられるが、子どもたちには目標が何もない状況だった。子どもたちの励みになってほしい」と言葉に力を込める。関脇隆の勝や前頭琴勝峰を輩出した強豪の柏相撲少年団で指導者を務める永井さんは、コロナ禍による大会の中止でモチベーションが上がりきらない子どもたちを間近で見ていた。大学時代の相撲部の後輩とアイデアを出し合い、昨年11月ごろから大会を企画。相撲の魅力である「ぶつかり合い」はないが、空手などを参考に「形」の演技大会とすることで、相手と触れることなく順位を決めることができる。

大会で募る動画は3部門。幼児から中学生が対象となる。

<1>四股(60秒以内)

<2>ひとり相撲(90秒以内、相手がいるかのように取組を演じる)

<3>相撲クラブPR(90秒以内)

<2>ひとり相撲は、実際の取組のような相撲動作を求めつつ、自由な表現を許容している。大会公式のSNSが投稿したサンプル動画は、音声の解説付き。永井さんは「エア相撲では(ひとり相撲)自分が思っている相撲の動きを自由に表現してほしい。自由に自己主張をしてほしい」と求めた。<3>相撲クラブPRについては「今まで自分たちのクラブを宣伝する機会は少なかったと思う。私たちの柏でも、隆の勝や琴勝峰の存在を知っていても、クラブの存在は知らないという人も多い。競技人口が増えるきっかけになれば」と話した。

審査員は10人前後になる予定。現青森県議会議員で元関脇追風海の斉藤直飛人氏や、好角家としても知られるお笑い芸人「ナイツ」の塙宣之ら、バラエティーに富んだ審査員が、全国から集まった動画に目を通す。

大会実行委員会によると、優秀作品は大会公式のSNSなどを通じて公開されるという。「子どもたちの自己成長につながってくれれば」と永井さん。子どもたちの自由な発想を楽しみにしているという。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

スーパー・フェザー級3週連続世界戦 トップ戦線に要注目

130ポンド(約58.9キロ)が体重上限のスーパー・フェザー級の世界戦が13日、20日、27日と3週連続で行われる。この階級では日本から沼田義明(極東)や小林弘(中村)、近年では内山高志(ワタナベ)や三浦隆司(帝拳)ら10人の世界王者が誕生しており、現在も尾川堅一(33=帝拳)らが挑戦の機会を待っている状態だけにタイトルの行方が気になるところだ。

先陣を切って13日(日本時間14日)に米国カリフォルニア州インディオでIBFタイトルマッチが行われる。1年前に王座を獲得したジョセフ・ディアス(28=米国)が、1位のシャフカッツ・ラヒモフ(26=タジキスタン/露)の挑戦を受けるもので、このサウスポー同士の対決は7対4でディアス有利と出ている。

世界6階級制覇王者のオスカー・デラ・ホーヤ氏がプロモーターを務めるディアスは32戦31勝(15KO)1敗、ラヒモフは15戦全勝(12KO)で、このところ4連続KO中だ。2012年ロンドン五輪出場の経験を持つディアスがテクニックや戦術面で勝るが、徹底して前に出てくるラヒモフのラフファイトに巻き込まれるようだとベルトの持ち主が変わる可能性もある。

20日(日本時間21日)には米国ネバダ州ラスベガスでミゲール・ベルチェル(29=メキシコ)対オスカル・バルデス(30=メキシコ)のWBCタイトルマッチが組まれている。ベルチェルは在位4年超のロングラン王者で、これが7度目の防衛戦となる。戦績は39戦37勝(33KO)1敗1無効試合。約85パーセントと高いKO率を誇る。

一方のバルデスもフェザー級時代にWBO王座を6度防衛した実績を持つ強打者で、2階級制覇を狙っての挑戦となる。アマチュア時代には2008年北京大会、2012年ロンドン大会と2度の五輪出場経験を持ち、プロでは28戦全勝(22KO)と負け知らずだ。バルデスのパワーが番狂わせを起こす可能性もあるが、ロングレンジでの戦いを得意とするベルチェルが安定した戦いをみせそうだ。オッズは11対4で王者有利と出ている。

その1週間後の27日(日本時間28日)、英国ロンドンで行われるジャメル・ヘリング(35=米国)対カール・フランプトン(33=英国)のWBOタイトルマッチも注目されている。2012年ロンドン五輪に出場した経験を持つヘリングは2019年5月、伊藤雅雪(30=伴流⇒横浜光)から王座を奪い、危なげなく2度の防衛を果たしている。戦績は24戦22勝(10KO)2敗。懐の深い長身サウスポーで、テクニックに定評がある。

過去にスーパー・バンタム級とフェザー級で王座を獲得した実績を持つフランプトンは、3階級制覇を狙っての挑戦となる。9度の世界戦(7勝2KO2敗)を含めた戦績は30戦28勝(16KO)2敗。地元開催ということもあって11対8でフランプトン有利というオッズが出ているが、これは期待度を含めた数字といえよう。フランプトンにとって厄介なのが体格差だ。身長165センチ/リーチ165センチの挑戦者に対しヘリングは178センチ/183センチと大差がある。ヘリングが相手に距離やタイミングをつかませないままポイントを重ねる可能性もありそうだ。

3人の王者が実力を示してベルトを守るのか、それともモチベーションの高い挑戦者が勝って初戴冠(ラヒモフ)、2階級制覇(バルデス)、3階級制覇(フランプトン)を成し遂げるのか。2月はスーパー・フェザー級トップ戦線に要注目だ。

リングにかける男たち

無敗でなくなった田中恒成「殴られた」経験プラスに

20年12月31日、WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで、田中(左)の顔面にアッパーを入れる井岡

昨年大みそかに行われた大一番。年明けからWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(31=Ambition)のタトゥー問題ばかりクローズアップされ、試合内容そのものがかすんでいることが残念でならない。

世界最速16戦目での4階級制覇を狙った同級1位の田中恒成(25=畑中)が挑戦者。田中は「世代交代」を明言して挑んだ。その結果は2度のダウンを奪われ、8回1分35秒TKO負け。完敗だった。ただ、その内容に悲観する材料は少ない。将来的に田中が素晴らしい王者になる資質を確認した。

両者の実績から大きな注目を集めた。こういう試合ほど「勝ち」に走り、相手の出方を見ながら慎重な試合展開になることも少なくない。しかし、この一戦は期待を大きく上回って打ち合った。挑戦者の田中は、自身の実績をかなぐり捨てて果敢に挑んだ。その結果がダウン。負け知らずで順調に走ってきたキャリアを守らず、純粋に倒しにいった姿勢を評価したい。

試合後は「完敗です。こんなに差があったのかとびっくりしました」と認めた。父の斉トレーナーは「技術的なことは何もしていない。ストロングメニューばかり。いじめ倒した」と言った。ミット打ちとシャドーボクシングだけという単調なメニューを1日20ラウンド。井岡の「経験」を打ち崩すべく、ハードな練習を重ねてきたが、現実は厚い壁に阻まれた。

「悔いはないです。(井岡の力を)認めざるをえない」と潔く敗戦を語った。この経験は間違いなく、田中の将来にプラスに働くはず。勝負事に「負け」はつきもの。その「負け」から何を学ぶか。負け知らずで走ってきた田中は、井岡から多くを学んだ。攻めるだけではない守り、階級を上げた相手の強さ。体に染みこませた経験値は大きい。

殴り合うボクシングは、極論すれば倒すか倒されるか。その醍醐味(だいごみ)を昨年大みそかに見せてくれた。まだ先は長い。「殴られた」経験をどう表現していくのか。無敗ではなくなった田中の今後がより、楽しみになった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大相撲裏話

コロナで阻まれた大阪場所 来年こそいつもの春を

20年3月、エディオンアリーナ大阪で行われた大相撲春場所

大相撲3月場所も、大阪から東京・国技館に開催変更が決まった。大勢で移動し、1カ月以上の共同生活。新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下において、やむをえないことと理解できる。現実的には納得できても、心の奥底で寂しさをぬぐえない。

大阪で長く暮らしていると、相撲に春の到来を感じる。2月にエディオンアリーナ大阪に先発事務所がたち上がり、場所に向けてさまざまな行事が行われる。街中でびん付け油の香りが漂うころになると「きたか」と思う。そんな季節感を今年は味わえない。

雰囲気だけでなく、現実的に影響を受けるところも多い。チケット販売や土産物、弁当などを扱うお茶屋さん=相撲案内所はその最たるものだろう。昨年も史上初の無観客開催となり、大きなダメージを受けた。あるお茶屋は場所が始まる1週間前という直前の決定に発注済みの土産物や雇う予定だったアルバイトへの対処に追われた。損害額についても「計算できる状況にないが、規模が大きいところほど大変じゃないか」と話していた。

「今年こそ何とか」の思いは、またもコロナに阻まれた。あるお茶屋はホームページ上に「去年に続き、大阪で開催されないことは大変残念ですが、令和4年度を楽しみに前を向いていきます。テレビ等でもうしばらく熱い応援をよろしくお願いいたします」と掲載した。無念さをこめつつ、相撲ファンであり続けてほしい熱い思いが伝わる。

大阪は特定の力士をひいきにする「タニマチ」の語源とされるという説がある通り、好角家が多い。芝田山広報部長(元横綱大乃国)も開催変更を発表した際、「昨年は無観客。それだけに大阪の方々の相撲熱はある。たくさんの方に来ていただけるメリットがあった」とコメントしている。

お茶屋だけでなく、飲食店やホテル、交通など経済的影響ははかりしれない。それでも今は必死に耐えなければならないのだろう。来年こそ、「いつもの春」が大阪に戻ってくることを信じている。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

7組目の親子世界王者目指し一歩踏み出したバルガス3兄弟

1990年代から2000年代初頭にかけてスーパー・ウェルター級で2度の戴冠を果たしたフェルナンド・バルガス(43=米国)の次男、アマド・バルガス(20=米国)が29日(日本時間30日)、メキシコでプロデビューした。3戦2敗1分のエクトル・モンティホ(19=メキシコ)とフェザー級4回戦で拳を交えたアマドは1回TKO勝ち、みごとに初陣を飾った。バルガスの息子3人はいずれもボクシングをしており、すでに長男は昨年12月にプロデビューを果たしている。

父バルガスは1996年アトランタ五輪に出場後、1997年3月にプロ転向を果たし、わずか1年9カ月後にIBF世界スーパー・ウェルター級王座を獲得した。このときの戦績は15戦全KO勝ちというものだった。5度防衛後、WBA王者のフェリックス・トリニダード(プエルトリコ)との統一戦で12回TKO負けを喫したが、すぐにWBA王座で返り咲きを果たした。この王座は初防衛戦でライバル関係にあったWBC王者のオスカー・デラ・ホーヤ(米国)に11回TKOで敗れて失った。その後も元世界王者らとサバイバルマッチを重ねたが、3度目の戴冠を果たせないまま29歳で引退した。通算戦績は31戦26勝(22KO)5敗。

リスクを承知で積極的に仕掛けて出る勇敢なタイプだが、同じ時代に活躍したデラ・ホーヤやトリニダード、シェーン・モズリー(米国)らには直接対決で敗れている。そのため彼らの後塵を拝するかたちにはなったが、エキサイティングな戦闘スタイルが好まれ、一時期、米国西海岸ではデラ・ホーヤと二分する人気を誇った。

その元世界王者の長男、ミドル級のバルガス・ジュニア(24)は17歳でボクシングを始め、2019年の五輪予選では準決勝まで駒を進めたが敗退。それを機にプロ転向を決めた。アマチュア戦績は40戦36勝4敗。昨年12月に2回終了TKO勝ちでプロデビューした。

その兄に続き、このほどプロデビューを果たした次男のアマドは10代半ばでボクシングを始め、アマチュアで49戦42勝7敗の戦績を残している。兄よりも15キロほど軽いフェザー級がベスト体重だという。29日のデビュー戦はスピードに乗ったパンチで2度のダウンを奪う圧勝だった。

三男のエミリアノ(16)もアマチュアボクサーで、近い将来、プロ転向を果たすものと見られている。

3兄弟はラスベガスにある父親のボクシングジムでトレーニングに励んでいる。息子たちを指導している父バルガスは「3人とも世界チャンピオンになるという夢を持っているので、一生懸命に汗を流している」と話し、大きな期待を寄せている。

130年超の近代ボクシング史上、兄弟の世界王者は30組を超すが、親子世界王者は6組しか記録されていない。その両方の夢を達成するためバルガス3兄弟は一歩を踏み出した。

リングにかける男たち

1粒で2度おいしいカード…モクスリー対KENTA

ジョン・モクスリー(2020年1月5日撮影)

1粒で2度おいしいカードだと思う。

新日本プロレスは1月31日、IWGP・USヘビー級王者ジョン・モクスリー(35)-同王座挑戦者権利証保持者KENTA(39)とのタイトル戦を発表した。動画配信の新日本プロレスワールドによる米国発の番組「NJPWストロング」の2月27日分で対戦する。日本ではなく、米国ファンに向けた配信限定マッチで王座戦が組まれたのはUS王座という理由だけではない。WWEファンからみれば、ディーン・アンブローズ(モクスリー)-ヒデオ・イタミ(KENTA)の初シングル戦という注目カードになる。

米インディー団体などを経て11年にWWEと契約したモクスリーは12年にローマン・レインズ、セス・ロリンズとユニット「ザ・シールド」を組んでWWEを席巻。13年にWWE・US王座、14年には「狂犬」の愛称となり、その地位を固めていった。この14年にKENTAがノアからWWEに加入。登竜門ブランドNXTでファイトし、年間最大の祭典となる翌15年のレッスルマニア31大会では、モクスリーがWWEインターコンチネンタル(IC)王座争奪7人形式ラダー戦、KENTAもアンドレ・ザ・ジャイアント・メモリアル・バトルロイヤルに出場した。

徐々に距離が近づいているようにみえたが、同年にKENTAが右肩負傷して以降、一気に遠ざかった。モクスリーが15年にIC王座、16年にWWEヘビー級王座、17年ロリンズと組み、ロウ・タッグ王座も獲得し、主要4王座を1度ずつ獲得するグランドスラムも達成。右腕負傷も乗り越え、トップスターへと駆け上がった一方、KENTAは16年にリング復帰後、クルーザー級選手が中心のブランド「205Live」へ。モクスリーが所属したロウ出場も限られた。日本公演ではグランドスラムを達成したザ・ミズも下したが、両者が交わることはなかった。

偶然にもKENTAは19年2月、モクスリーも同年3月にWWEを退団。そして今度は新日本マットでIWGP・USヘビー級王座を争うことになった。昨年9月の王座挑戦権利証獲得以降、4度の争奪マッチも乗り越えたKENTA。そのストーリーとともに、WWE加入の15年から6年かけてつかんだイタミ(KENTA)のアンブローズ(モクスリー)戦というストーリーもある対戦だ。日米のプロレスファンが感情移入できるカードと言っていい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

KENTA(2021年1月4日撮影)
大相撲裏話

初場所完走も「命の危機感じる」力士から悲痛な叫び

両国国技館(2020年11月23日撮影)

大相撲初場所が24日に幕を閉じた。場所直前に協会員を対象に実施した新型コロナウイルスのPCR検査の結果、力士65人が休場。世間からは、盛り上がりに欠けるのではないか、感染者が出ているのになぜやるのか、と開催に向けて否定的な声があった一方、こういう時期だからこそ神事と呼ばれる大相撲の本場所開催に意義があるのではないか、といった声も多々あった。開催についての賛否両論がある中、出場する力士らからの感染者を出すことなく15日間を完走した。

初場所千秋楽で、日本相撲協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「お客さんをはじめ、協会、スタッフの協力のおかげ。昨年7月から4場所になるけど、ちゃんと国の方針の中で対策を取って15日間乗り切れた。たくさんのみなさまに感謝いたします」と話した。出場力士らに感染者が出た場合は中止も視野に入れていただけに、初場所完走への達成感、周囲への感謝の気持ちにあふれていた。

しかし、協会員全員が同じ気持ちだとは限らないようだった。ある現役力士は、悲痛の叫びを訴えてきた。

「このような状況で本場所を開催するのは間違っている。ここまで開催中に感染者が出ていないのは奇跡的状況だと思う。力士は一般の人と体が違う。太っていて、糖尿病の人もいる。万が一、感染した場合、本当にどうなるか分からない。命の危機を感じる。中止という選択肢をもっと真剣に考えてもらいたい。もっと現役力士のことを考えて欲しい」

もちろん、協会が何も対策を取っていない訳ではない。新型コロナウイルス対策のガイドラインを作成するほか、その時期に合った細かな規則を各部屋に通達するなど、感染症対策に真剣に向き合ってきた。本場所中には観客に対して、さまざまな感染症対策の徹底を促したりもした。本場所前後も本場所中も、世間の感染状況を注視するなどし、あらゆる局面で柔軟に対応してきた。そのかいあってか、本場所中に感染者を出すことなく、有観客での開催を続けてこれているのは事実だ。

思いを訴えてきたある現役力士も、観客の前で土俵に上がれることへの感謝は口にしている。それでも、やっぱり、この状況下で本場所を開催することについて恐怖心があるという。初場所直前には、新型コロナへの恐怖心などを理由に引退を決意した力士もいた。ある現役力士は「協会ともっと話し合えたり、意見を交換できるよう場を設けて欲しい。僕らの思いも聞いて欲しい」と協会との意見交流の場を求めた。

現役力士の土俵上での奮闘は長年にわたって、多くのファンに感動や勇気を与えてきた。それは今も変わらない。むしろ、コロナ禍だからこそ、より一層に大相撲の役割は大きいと感じる。地方での本場所開催はまだ見通しは立たず、巡業再開のめども立っていない。全国で大相撲を楽しみにしている多くのファンのためにも、相撲協会と現役力士には、より一丸となってもらいたい。そう思える、現役力士の訴えだった。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

原功「BOX!」

イリディリム、最強アルバレスの近未来計画打ち砕けるか

4階級制覇の実績を持つWBA、WBC世界スーパー・ミドル級王者、サウル・カネロ・アルバレス(30=メキシコ)が2月27日(日本時間28日)、米国フロリダ州マイアミのハードロック・スタジアムでWBC2位のアブニ・イリディリム(29=トルコ)の挑戦を受けることになった。階級の壁を越えたボクサーの総合評価ランキング、「パウンド・フォー・パウンド」で井上尚弥(27=大橋)らを抑えて最強と評されるアルバレスの戦いぶりに注目が集まる。

アルバレスは10年前にスーパー・ウェルター級で王座を獲得したのを皮切りにミドル級、スーパー・ミドル級、ライト・ヘビー級と約10キロの体重の壁を乗り越えて4階級制覇を成し遂げている。17度の世界戦(15勝8KO1敗1分)を含めた戦績は57戦54勝(36KO)1敗1分。2013年9月にフロイド・メイウェザー(米国)に判定負けを喫したのが唯一の黒星で、以降は13戦して無敗(12勝1分)を保っている。興味深いのは2018年以降の5戦で、ミドル級、スーパー・ミドル級、ミドル級、ライト・ヘビー級、スーパー・ミドル級と体重を上下させてきたことだ。この間、3階級の王座を同時に保持していた期間もある。昨年12月にはスーパー・ミドル級のWBAスーパー王者、カラム・スミス(英国)に圧勝、あらためて最強であることを証明したばかりだ。スミス戦後にはミドル級王座を返上し、168ポンド(約76.2キロ)のスーパー・ミドル級を主戦場にすることを明かしている。体重調整が難しくないからか、前戦から2カ月という短いスパンで次戦に臨むことになる。これはアルバレスの自信の表れであると同時に、挑戦者を軽視しているからとも受け取れる。

イリディリムは7年のプロキャリアで23戦21勝(12KO)2敗の戦績を残している右のボクサーファイター型で、スピードやパワー、テクニックなどバランスのとれた戦力を備えている。しかし、傑出したものがなく、アルバレスを脅かす存在とは見られていない。2017年10月には現WBA世界ミドル級暫定王者のクリス・ユーバンク・ジュニア(英国)に2度のダウンを喫して3回KO負け。2019年2月にはWBC世界スーパー・ミドル級王座決定戦に出場したものの10回負傷判定負けと、大舞台で敗れているのだから仕方ないだろう。その試合以来、2年ぶりの実戦という点も不安材料といえる。トルコ初の世界王者を目指すイリディリムだが、オッズは20対1でアルバレス有利と出ている。

今年に入ってアルバレスは英国のエディ・ハーン・プロモーターと2試合の契約を交わしており、イリディリム戦が初戦となる。これに勝つことを前提に5月上旬(8日が有力)には同じ階級のWBO王者、ビリー・ジョー・サンダース(英国)との統一戦を計画していると伝えられる。さらに9月にも試合のプランが持ち上がっている。

アルバレスが前半KOで挑戦者を一蹴という予想が大勢を占めるなか、イリディリムはスーパースターの近未来の計画を粉々に砕くことができるか。

リングにかける男たち

ゼロワン「お助け隊」抗原キット届ける新事業に着手

抗原キットを手にするゼロワン代表の大谷晋二郎(ゼロワン提供)

プロレスラーたちが抗原キットをお届けします。「困っている人を助けたい!」と、地域貢献などを行っている、ゼロワンの「お助け隊」が新たな活動を始めた。20日から業者と協力して抗原検査キットを販売・配送している。一部地域を除き全国からの注文を受け、1都3県(限定地域)には大谷晋二郎(48)らレスラー自らが、練習後に直接届けるという。大谷は「大雪などもあり、難しい地域もあるが、即日発送の翌日到着を基本にお届けする。僕らでできる精いっぱいを目指す」と意気込む。

ゼロワンでは05年ごろから小、中学校や、商店街、ショッピングモールなどで無料興行を行い、いじめ撲滅を訴えてきた。訪問した学校の生徒宅にホームステイすることもあったという。11年3月の東日本大震災時には救援物資を直接被災地に届け、同5月には震災後初のプロレス興行を行った。

昨年はコロナ禍で多くの大会が中止となる中、5月にはレンタカー会社とタッグを組み、外出制限で困っている家族やお年寄りに対して送迎や買い物の手伝い、弁当のデリバリーなどを無料で実施。「自分たちに今できること」を考え、実行に移してきた。11月には「抗体検査プロレス」と題し、キットを持って地方を回り、集まった観客に無料で検査をしてデータを渡すという企画を実施。大谷は「大丈夫なんだという確認をした上で、ガイドラインを守りながらプロレスを見ていただく」と今後も安全面を考えた上でプロレスの普及も行っていくつもりだ。

21日、抗原キットを配送したゼロワンの田中将人(ゼロワン提供)

2度目の緊急事態が発令され、多くの規制がある中、大谷らは「抗原検査とプロレスの合体は素晴らしいこと」と新たな取り組みに着手。忙しい練習の合間を縫って、レスラーたちが自らの足で奮闘する。開始してわずか数日だが、関係者は「おかげさまで介護施設などからの注文が増えている」と手応えを口にする。

21日の練習後、実際に配送した世界ヘビー級王者の田中将人(48)は「僕らはリング上が全ての『プロレスラー』。形は違えど、誰かのためにという大谷の思いは、僕ら表に出る人間に課せられた使命」と熱く語る。小さいころに憧れたアニメの『タイガーマスク』が、素顔では子どもたちにおもちゃをプレゼントしていたことも思い出した。「いつか自分の子どもが大きくなった時に『お父さんがリングを下りたら、こういうことをしてたんだ』と思ってもらえたらうれしい」と目を細めた。

1月は1日の大会以降、配信のみとなり、2月以降の興行もほとんど見通しが立っていない。それでも「本当に強い人はイジメなんかしないし、何度でも立ち上がる」。創始者である故橋本真也さんの魂を受け継ぎ、ゼロから立ち上がったレスラーたちが、真っ向勝負でコロナとの戦いに挑み、安心、安全なプロレスを届けていく。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

◆抗原・抗体検査キットの申し込み(5セットから) URLはhttps://www.daiko-zero1.jp/test_kit/。プロレスラーによるお届けは東京駅より30キロ圏内(一部除外地域あり)。問い合わせは03・6661・6961、ダイコーZERO1まで。

◆プロレスリング・ゼロワン 01年、新日本を退団した故橋本真也さんが「ZERO-ONE」を創設。04年に橋本さんが活動休止を発表し、団体を去るが、大谷らが「ZERO1-MAX」として再出発。09年に現団体名に改称。今年3月14日に両国国技館で旗揚げ20周年大会を行う予定。

◆大谷晋二郎(おおたに・しんじろう)1972年(昭47)7月21日、山口県山口市生まれ。92年に新日本プロレスに入団し、同年6月にデビュー。01年、橋本真也が創設した団体「ZERO-ONE」に移籍。05年から団体代表。主なタイトルはIWGPジュニアヘビー級王座、ゼロワン世界ヘビー級王座など。181センチ、95キロ。

21日、抗原キットを配送したゼロワンの田中将人(ゼロワン提供)

大相撲裏話

大栄翔が背負う夢 追手風部屋初の優勝力士に

玉鷲(左)の張り手に耐える大栄翔(撮影・河田真司)

大栄翔が優勝すれば、追手風部屋としても初の優勝力士誕生となる。今場所の同部屋の関取は幕内に3人、十両に3人で計6人。活気十分の部屋を引っ張る大栄翔は「いい環境で稽古させてもらっている。恵まれている」と感謝した。

98年秋場所後に師匠の追手風親方(元前頭大翔山)が日大の後輩でもある2人の弟子を連れて、友綱部屋から独立して23年目。独立時の弟子で、99年初場所で部屋初の関取となった、現青森県議会議員で元関脇追風海の斉藤直飛人氏(45)は「自分たちのときは稽古相手がほとんどいなかった。懐かしいですね」と感慨深げに振り返る。

同氏は追手風部屋の後援会顧問で、同県板柳町で巡業の勧進元も務めるだけに、今場所の関心度はもちろん高い。斉藤氏が大栄翔と初めて話したのは「3、4年前の青森での巡業。一緒に食事をした。真面目でコツコツやる子と聞いていたがその通りだった」と振り返る。現師匠が育てた弟子では追風海と大栄翔の関脇が最高位。今場所を足がかりに、さらなる出世を目指す“弟弟子”に斉藤氏は「まだまだ強くなる要素がある。楽しみですね」とエールを送っていた。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大栄翔(右)は玉鷲をはたき込みで破る(撮影・小沢裕)
大相撲裏話

力士65人全休の初場所、出場力士らの率直な胸の内

土俵入りする朝乃山(撮影・鈴木正人)

初場所は、これまで以上に、新型コロナウイルス感染拡大の影響下で慎重に行われている。日本相撲協会が場所直前に実施したPCR検査で、感染判明や濃厚接触の可能性があるなどして力士65人が全休となった。それでも連日、土俵上では白熱した取組が行われている。出場している力士らの、率直な胸の内を聞いた。

協会の看板を背負う大関朝乃山は「開催するからには、お客さんを喜ばせたい」と話す。幕内力士では6人が全休措置。「休場者は多いけど、しっかりと相撲を取り切ることだけを考えたい」と責任感を口にした。昨年12月に部屋で集団感染が発生し、自身も感染した天空海は「自分は肥満体形。怖いというのはあった」と復帰できるか不安だったという。それでも「どうにかプラスに考えてやってきた。(本場所は)やるならやる、やらないならやらないだけ」と準備してきた。

昨年初場所で初優勝し、満員の観客の前でうれし涙を流した徳勝龍は「あらためてファンあっての大相撲だと感じる」と振り返る。今場所は観客数の上限を1日5000人に制限し、有観客での開催に踏み切った。「今場所できたのが奇跡に近いと思う。精いっぱい頑張りたい」と話したのは十両の宇良。出場している力士らは、力士の務めを全うしようとしている。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

水戸龍(右)を攻める宇良(撮影・鈴木正人)
原功「BOX!」

忘れられたWBA世界王者2人の団体内統一戦は如何に

29日(日本時間30日)、米国フロリダ州ハリウッドでヘビー級のWBA正王者マヌエル・チャー(36=レバノン/シリア)対暫定王者トレバー・ブライアン(31=米国)の団体内統一戦が行われる。ヘビー級といえばWBAスーパー王座、IBF王座、WBO王座にアンソニー・ジョシュア(31=英国)、WBC王座にはタイソン・フューリー(32=英国)が君臨しており、年内にも両者による頂上決戦が期待されている。そんななかで行われるWBAの団体内統一戦だが、なんとチャーは3年2カ月ぶり、ブライアンは2年5カ月ぶりの試合になる。この間、ふたりとも1試合もせずに両者とも王座をキープしていたのだから驚きだ。

ドイツを主戦場にしているチャーは2017年11月の決定戦で勝って王座を獲得したが、ジョシュアがスーパー王座に君臨していたこともあって当時から認知度は極めて低かった。過去にヘビー級のトップ選手たちに敗れていただけでなく、1階級下の選手にまでKO負けしていたのだから仕方ないだろう。加えてドーピング検査で陽性反応が出るなど印象面でも芳しいものはなかった。

一方のブライアンは2018年8月に必然性の感じられない暫定王座を獲得したが、チャーと同様に存在感は薄くファンの関心も低かった。WBAだけでもスーパー王者(ジョシュア)と正王者(チャー)がいるなかでの暫定王者なのだから当然であろう。その後、何度かチャーとの対戦プランが出たが、ことごとく交渉は決裂。結果として試合枯れ状態が続いてきた。

昨年3月、WBAが興行権入札を行い、ブライアン側のドン・キング・プロモーターが、両者の合計報酬額として2億円以上を提示して落札。しかし、「このカードにそれだけの価値があるのか?」と首をかしげる関係者やファンがほとんどだった。いったんは5月30日という開催日が出たが、はたして延期に。コロナ禍が原因とされたが、すぐにリセットされなかったことを考えると別の理由があると見た方が合理的だ。昨秋にWBAが両陣営に再び対戦を勧告、やっと新しい日程が決まった経緯がある。

3年2カ月ぶりにリングに上がるチャーは35戦31勝(17KO)4敗。2年5カ月ぶりの実戦となるブライアンは20戦全勝(14KO)。忘れられた世界王者ふたりはどんなパフォーマンスを見せるのだろうか。

なお、この日はダブル世界戦としてWBAクルーザー級タイトルマッチも行われるが、王者のベイブト・シュメノフ(37=カザフスタン/米国)は2018年7月以来2年半ぶりのリングとなる。8位にランクされる挑戦者のラファエル・マーフィー(35=米国)は15戦14勝(11KO)1敗の戦績を残しているが、まったくの無名選手だ。6回戦の試合に8度出場しているが、8回戦と10回戦の経験はない。もちろん世界的な実績はゼロである。なぜWBAが15位内にランクし、かつ挑戦を認めているのか甚だ疑問だ。

この1年はコロナ禍の影響でブランクはやむを得ないとしても、3王者の空白期間はあまりにも長過ぎる。クルーザー級の挑戦者も常識の範囲外といえる。単にWBAがファンから見放されるだけなら自業自得といえるが、こんな愚かなことを繰り返していてはボクシング自体が衰退してしまうのではないかと危惧するしだいだ。