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au版ニッカン★バトル

原功「BOX!」

ジョシュ・テイラー対テオフィモ・ロペス 元4団体王者の実力者同士の緊迫した試合に注目

19戦全勝(13KO)の戦績を誇るWBO世界スーパーライト級王者、ジョシュ・テイラー(32=イギリス)が6月10日(日本時間11日)、アメリカのニューヨークで元3団体統一世界ライト級王者で現WBO世界スーパーライト級1位、テオフィモ・ロペス(25=アメリカ)を相手に2度目の防衛戦に臨む。テイラーは1年前まで4団体統一王者だったが、各団体から課された別々の指名試合をクリアできないことから3本のベルトを放棄、現在はWBO王座だけを保持している。下馬評はテイラー有利と出ているが、両者の実力は伯仲しており緊迫した試合になりそうだ。

テイラーは2019年5月にIBF王座を獲得し、5カ月後にWBA王座を吸収。両王座の防衛戦を挟んで2021年5月にはWBC、WBO王者のホセ・カルロス・ラミレス(アメリカ)と対戦し、2度のダウンを奪って12回判定勝ち、4団体の王座統一を果たした。昨年2月にはWBO1位のジャック・カテロール(イギリス)を退けて統一王座の防衛も果たした。カテロール戦は顔面をカットしたりダウンを喫したり、はたまたゴング後の加撃で減点されたりと散々だったが、その試合を含めて5度の世界戦すべてで全勝の相手と戦っているのだから価値がある。

しかし、その後は各団体が異なる相手との防衛戦を指名してきたためテイラーはWBOのベルトだけを手元に置いて3本は放棄。さらに今年3月に計画されたカテロールとの再戦を自身の足の負傷でキャンセルしており、1年4カ月のブランクができてしまった。3対2のオッズで有利とみられてはいるが、ロペスの地元に乗り込んでの試合ということも加わり不安を抱えての試合となる。

ロペスは2019年12月にIBF世界ライト級王座を獲得し、翌2020年10月にWBAスーパー王座、WBCフランチャイズ(特権)王座、WBO王座を持つワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に12回判定勝ちを収め、事実上の4団体王者になった。まさに飛ぶ鳥を落とすほどの勢いで、そのまま一時代を築くかと期待されたものだ。

ところが13カ月後の防衛戦でジョージ・カンボソス(オーストラリア)に12回判定負けを喫し、無冠に逆戻りしてしまった。パワー依存の雑な戦いぶりだったこともあり評価も急降下した。これを機にスーパーライト級に転向して2連勝を収めているが、直近の試合ではダウンを喫するなど内容は芳しいものではない。以前のような勢いが感じられなくなっている点が気になる。戦績は19戦18勝(13KO)1敗。

体格で勝るサウスポーのテイラーがアウトボクシングをベースにして戦い、攻撃型のロペスがプレッシャーをかけながら飛び込む機会をうかがう展開が予想される。王者有利は不動といえるが、テイラーも16カ月前の試合でダウンを喫するなど安定感を欠いており、ロペスが付け入る隙は十分にありそうだ。

イギリスでフェザー級世界戦が同日2試合 メキシコ人王者がイギリス出身者を迎え撃つ構図

27日(日本時間28日)、イギリスでフェザー級の世界タイトルマッチが2試合行われる。マンチェスターではマウリシオ・ララ(25=メキシコ)対リー・ウッド(34=イギリス)のWBAタイトルマッチが組まれており、北アイルランドのベルファストではルイス・アルベルト・ロペス(29=メキシコ)対マイケル・コンラン(31=イギリス/アイルランド)のIBFタイトルマッチが挙行される。2試合ともメキシコ人王者がイギリス出身者を迎え撃つ構図だ。

ララとウッドは今年2月にノッティンガム(イギリス)で拳を交え、6回までは58対56、58対56、59対55とジャッジ三者ともウッド優勢と採点していた。そんななか7回にララが相打ちの左フックでダウンを奪い、カウント途中でウッド陣営が棄権のタオルを投入したため試合終了となった経緯がある。ダウンから立ち上がって戦闘意欲を見せていたウッドはもちろんのこと、観客も消化不良だったはずだ。

リマッチは初戦から100日足らずで実現するわけだが、今回もララは相手国に乗り込むことになった。それでも初戦で奪った鮮やかなダウンがファンの目に焼き付いているのか、オッズは5対2でララ有利と出ている。中近距離で持ち味を発揮する攻撃型のララ、左で牽制しておいて右に繋げる正統派のウッド。今回も序盤から熾烈な主導権争いが展開されそうだが、パワーで勝るララが打たれ脆い前王者を返り討ちにする可能性が高そうだ。戦績はララが29戦26勝(19KO)2敗1分、ウッドが29戦26勝(16KO)3敗。

ララ対ウッド戦が行われるマンチェスターから北西に300キロほど離れた北アイルランドのベルファストでは、ロペス対コンランのIBF世界フェザー級タイトルマッチが組まれている。昨年12月、イギリスのリーズで地元のジョシュ・ウォーリントン(イギリス)に競り勝って王座を獲得したロペスにとっては初防衛戦となる。こちらも2試合続けてイギリスのリングに上がるわけだ。戦績は29戦27勝(15KO)2敗。

挑戦者のコンランは2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得するなど輝かしいアマチュア実績を誇り、プロでも19戦18勝(9KO)1敗の戦績を残している。唯一の敗北は昨年3月、WBA王者だったウッドに逆転の12回TKO負けを喫したもの。このときは初回にダウンを奪ったものの終盤にガス欠に陥り、最終回にリング外に叩き出されるダウンを喫して敗れている。以後は古豪相手に2連勝を収めている。左右どちらの構えでも戦えるスイッチヒッターで、攻撃的なスタイルだけでなく迎え撃つ戦法もとれるのが強みだ。

ロペスは変則的な動きから振りの大きな左右フックで迫るものと思われるが、これに対しコンランが打撃戦を挑むのか、それとも迎撃スタイルを採るのか注目される。地の利があるコンランが試合10日前の時点のオッズでは20対19の微差で有利と出ている。

ふたりのメキシコ人王者が今回も逞しさを見せつけるのか、それともイギリス出身者が地元のファンの前でベルトを獲得するのか。特にIBFでは阿部麗也(KG大和)が指名挑戦者として控えているだけに気になるところだ。

世界中が注目する技巧派対決ヘイニー対ロマチェンコ 新時代到来か元世界3階級制覇王者の返り咲きか

4団体統一世界ライト級王者、デビン・ヘイニー(24=アメリカ)対元世界3階級制覇王者、ワシル・ロマチェンコ(35=ウクライナ)のタイトルマッチが20日(日本時間21日)、アメリカのネバダ州ラスベガスで行われる。若くて勢いのあるヘイニーが新時代到来を印象づけるのか、それとも「ハイテク」のニックネームを持つロマチェンコが返り咲きを果たすのか、世界中が注目する技巧派対決だ。

ヘイニーは2019年9月に弱冠20歳でWBC暫定世界ライト級王座を獲得したが、そのときの正王者がロマチェンコだった。1カ月後、ロマチェンコがWBCから「フランチャイズ(特権)王者」に指名されたのにともない、ヘイニーが正王者に昇格した経緯がある。ヘイニーは「あのときロマチェンコは私との対戦を拒否した」と主張するが、飛ぶ鳥を落とす勢いだったロマチェンコにとって実績と知名度に欠ける当時のヘイニーは戦う意味と価値のない相手だったともいえる。

あれから約4年。ヘイニーは4団体の王座を保持する統一王者としてライト級のトップに君臨し、戦績を29戦全勝(15KO)に伸ばしている。足をつかいながら遠い位置から速く長い左ジャブを飛ばして相手をコントロールし、危険を察知するとサッと射程外に逃れる。戴冠試合を除く6度の世界戦が判定勝ちであることからも分かるようにやや迫力を欠く傾向があるが、身体能力は抜群だ。昨年6月と10月に対戦相手国のオーストラリアのリングで圧勝しており、経験値もアップしている。

ロマチェンコはオリンピックと世界選手権で各2度の優勝を飾るなどアマチュアで397戦396勝1敗という驚異的な戦績を収め、10年前にプロ転向を果たした。3戦目にフェザー級、7戦目にスーパーフェザー級、12戦目にライト級で世界王座を獲得し、一時は全階級を通じて最も高い評価を受けていた。2020年10月、若くて獰猛なテオフィモ・ロペス(アメリカ)に判定負けを喫して無冠になったが、その後は3連勝を収めている。

身長170センチ/リーチ166センチのロマチェンコはライト級では小柄で、173センチ/180センチのヘイニーと比較しても体格面のハンディキャップは否めない。特に14センチのリーチ差は無視できない。加えて年齢からくる微妙な衰えも指摘されるようになった。「いまの目標は4団体の統一王者になること」と意欲的だが、直近の試合で精彩を欠いていた点が気になる。この4年間でヘイニーが順調に成長を遂げたとは対照的に、ロマチェンコは緩やかな下降曲線を描いている印象だ。戦績は19戦17勝(11KO)2敗。

ともに技巧派だが、ヘイニーがロングレンジでの戦いを得意としているのに対し、サウスポーのロマチェンコは中間距離から近距離の戦いで持ち味を発揮することが多い。ヘイニーの左ジャブが十分に機能して距離を保つことができれば4団体王者のペースといえる。逆にロマチェンコが相手の左ジャブをかいくぐり、懐にもぐってボディから顔面にパンチを打ち分けることができれば王座奪取が見えてくる。究極の技巧派対決のオッズは9対4でヘイニー有利と出ている。

ジェイソン・マロニー「三度目の正直」で戴冠なるか 対するアストロラビオ6連勝と絶好調

井上尚弥(30=大橋)が返上して空位になったWBO世界バンタム級王座の決定戦が13日(日本時間14日)、アメリカのカリフォルニア州ストックトンで行われる。対戦カードは1位のジェイソン・マロニー(32=オーストラリア)対2位のビンセント・アストロラビオ(26=フィリピン)。3年前に井上に7回KOで敗れているマロニーにとっては3度目の世界挑戦となる。アストロラビオは6連勝と調子を上げているだけに好勝負が期待される。

井上はスーパーバンタム級へ転向するため1月に4団体の王座を返上。それを受け4月にはWBA王座決定戦が行われ、尚弥の弟・井上拓真(27=大橋)がリボリオ・ソリス(41=ベネズエラ)に12回判定勝ちを収めて後継王者になっている。マロニー対アストロラビオは、それに続く王座決定戦第2弾となる。

マロニーは当初、WBCからノニト・ドネア(40=フィリピン)との王座決定戦の指示を受けたが、これを拒否。同じく1位にランクされていたWBO王座に照準を定め、今回のアストロラビオ戦を迎えることになった。

マロニーは双子の弟・アンドリューとともに活動を続け、プロ27戦(25勝19KO2敗)のうち20試合は兄弟で同じイベントに登場してきた。今回は1週間後にアンドリューが中谷潤人(MT)とのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦に臨むことになっており、先に勝って弟に繋げたいところだ。

2020年10月の井上戦では6回、左ジャブに左フックを合わされてダウン。7回には右ショートのカウンターを浴びてフィニッシュされた。このシーンが目に焼き付いているファンは少なくないだろうが、その後、世界ランカーを相手に4連勝を収めている。マロニーが世界トップクラスの実力者であることは間違いない。適度に足をつかいながら左ジャブから右ストレートに繋げる正統派のボクサーで、耐久力にも優れている。

アストロラビオはフィリピンのジェネラルサントスシティの出身で、同郷のマニー・パッキャオ(元世界6階級制覇王者)がプロモートしている。2015年のプロデビューから3年間(15戦)で3敗したが、2019年にWBOオリエンタル王座を獲得して覚醒したのか以後は6連勝(5KO)と絶好調だ。特に直近の2戦では元世界2階級制覇王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)からダウンを奪って判定勝ち、昨年12月のIBF1位決定戦ではニコライ・ポタポフ(ロシア)に豪快な6回KO勝ちと、顕著な実績を残している。じりじりとプレッシャーをかけながら接近を図り、距離が合うと思い切りのいい左右フック、アッパーを叩きつけるワイルドな好戦型で、鋼鉄や勇気を意味する「ASERO」というニックネームを持っている。戦績は21戦18勝(13KO)3敗。

同じ右構えだが、マロニーが中長距離での戦いをベースにするのに対し、アストロラビオは中近距離の打撃戦を好む。得意とする距離が異なるだけに、まずは前半の主導権争いに注目したい。マロニーがスピードと左ジャブでコントロールするようならば、その後も着々と加点していきそうだ。アストロラビオは積極的に仕掛け、早い時点で打撃戦に引きずり込んでしまいたいところ。

総合力のマロニーか、パワーのアストロラビオか。オッズはマロニー有利と出ているが11対8と接近している。

国内外で親子や兄弟の世界王者が続々誕生 今後も話題が途切れることはなさそう

「史上7例目の親子の世界王者誕生」「兄弟同日同階級世界王座奪取」「史上初の親子同階級日本王者誕生」-この春、ボクシング界は国内外で親子や兄弟の話題が紙面やネットを賑わした。親子ボクサーや兄弟ボクサーは珍しいことではないが、これほど一定期間にトップ選手の注目の試合が集中したのは珍しい。こうした現象に関連性や連続性などあるはずもないが、始まりは3月12日にオーストラリアのシドニーで行われたWBO世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦だ。ティム・チュー(オーストラリア)がトニー・ハリソン(アメリカ)に9回TKO勝ちを収め、父親のコンスタンチン・チューに続いて世界王者になった。親子世界王者は史上7例目となる。ちなみに敗れたハリソンの祖父と父親もボクサーという家系だ。

3月25日にはWBC暫定世界スーパーミドル級王者のデビッド・ベナビデス(アメリカ)が登場。元王者のケイレブ・プラント(アメリカ)を12回判定で退けて防衛を果たした。ベナビデスの兄は元WBA暫定世界スーパーライト級王者で、かつてデビッドは「ホセの弟」として知られていたが、いまや知名度や人気でも兄越えを果たしたといえる。

4月8日、東京・有明アリーナではWBA、WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)が激闘のすえアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)に9回TKO勝ちを収めて2団体王座の防衛に成功した。寺地の父親で元日本、東洋太平洋王者の永(ひさし)氏は「命の削り合いのような試合だった」とハラハラドキドキだったようだ。

寺地の前の試合ではWBA世界バンタム級王座決定戦が行われ、井上拓真(大橋)がリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に12回判定勝ち、3年ぶりの返り咲きを果たした。いうまでもないが拓真の兄は井上尚弥である。拓真は兄が返上した王座のひとつを引き継いだかたちになった。

4月16日、東京・代々木第二体育館では重岡兄弟(ワタナベ)が揃ってミニマム級の暫定王座を獲得した。先に登場した弟・銀次朗がレネ・マーク・クアルト(フィリピン)に9回KO勝ちを収めてIBF暫定王者になると、メインに出場した兄の優大はウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)に7回KO勝ち、WBC暫定王座を手に入れた。同じ日に兄弟で世界王座獲得という例は世界で2例目、日本では初めてのことだった。

その2日後の4月18日、東京・後楽園ホールでは日本フェザー級王座決定戦が行われ、松本圭佑(大橋)が元王者の佐川遼(三迫)に10回判定勝ちを収めて戴冠を果たした。圭佑の父親・好二氏は3度の世界挑戦を経験した元日本フェザー級王者(3度獲得)で、ベルトが父親の手を離れてから27年後に息子が取り戻したことになる。また、この日の前座には元世界スーパーウェルター級王者、輪島功一氏の孫、磯谷大心(輪島)が出場したが、4回判定負けという結果に終わった。

4月22日(日本時間23日)、アメリカのネバダ州ラスベガスではWBA世界スーパーミドル級タイトルマッチ、デビッド・モレル(キューバ)対ヤマグチ・ファルカン(ブラジル)が行われた。2012年ロンドン五輪ライトヘビー級銅メダリストのファルカンは、同五輪ミドル級決勝で村田諒太に惜敗したエスキーバ・ファルカンの兄で、プロ転向後は兄弟で世界一を目指している。この日は残念ながら王座獲得とはならなかったが、巻き返しを期待したい。

5月6日(日本時間7日)には世界スーパーミドル級4団体統一王者のサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)が同級WBO暫定王者のジョン・ライダー(イギリス)と拳を交える。このアルバレスも兄弟ボクサーで、兄のリゴベルトは元WBA暫定世界スーパーウェルター級王者でもある。

このほか試合から遠ざかってはいるが、現役の世界王者としては双子のジャモール・チャーロ(アメリカ=WBCミドル級王者)、ジャーメル・チャーロ(アメリカ=4団体統一世界スーパーウェルター級王者)がいる。

今後も「親子」「兄弟」関連の話題が途切れることはなさそうだ。

4団体王者アルバレス、12年ぶりメキシコで凱旋試合 ビボル雪辱へ敗北は許されない

4階級制覇の実績を持つ4団体統一世界スーパーミドル級王者、サウル・カネロ・アルバレス(32=メキシコ)が5月6日(日本時間7日)、メキシコのハリスコ州サパポンでWBO同級暫定王者のジョン・ライダー(34=イギリス)と対戦する。サパポンはアルバレスが生まれ育った同州グアダラハラの隣町で、4団体王者にとっては12年ぶりの凱旋試合となる。

アルバレスは2005年に15歳でプロデビュー。しばらくはメキシコで活動したが、頭角を現した20歳のころから主戦場をアメリカに移した。2011年3月にWBC世界スーパーウェルター級王座を獲得し、その初防衛戦(同年6月)とV3戦(同年11月)をメキシコ国内で行ったのが自国での最終試合となっていた。ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級と制覇していくのと比例して知名度と注目度が高まり、世界的なスター選手に成長したため大きな収益が見込めるラスベガスなどアメリカ国内での試合が増えたためだ。

今回、12年ぶりに故郷での試合が実現したのは、負傷からの復帰戦であるためリスクを小さく抑えた相手を選ぶ必要があったからだ。

アルバレスは2021年11月のケイレブ・プラント(アメリカ)戦でスーパーミドル級の4団体王座統一を果たしたが、この試合で左手首を負傷。完治しないまま昨年5月にWBAライトヘビー級王者のドミトリー・ビボル(キルギス/ロシア)に挑戦したが、12回判定負けを喫した。4カ月後、過去1勝1分だったゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との決着戦に臨み、12回判定勝ちを収めて再起を果たした。しかし、試合で負傷が悪化したため秋に手術を行ったという経緯がある。ビボルへの雪辱を狙っているアルバレスは7月に33歳になることもあり、これ以上の敗北は許されない状況にある。そのため今回は試合日程と開催地が先に決まり、あとから対戦相手が選ばれるという順になった。

待望の凱旋試合を前にアルバレスは「手術したあと5月にリングに戻ってくることができて嬉しい。ハリスコ州で戦えることに満足している。ライダーは勇敢な選手だと思う」と話している。いつものような敵愾心むき出しのコメントは見られない。

アルバレス陣営から安全パイと見られているライダーは「ゴリラ」のニックネームを持つサウスポーで、タフで執拗な攻撃型の選手だ。

2019年にWBA暫定王座を獲得したが、半年後の団体内統一戦で惜敗して失冠。現在のWBO暫定王座は昨年11月に獲得した。

しかし、アルバレスが圧勝したビリー・ジョー・サンダース、ロッキー・フィールディング、カラム・スミス(いずれもイギリス)の3選手にライダーは敗れており、格の違いは明らかといえる。アルバレス陣営がくみしやすしと判断したとしても不思議はない。

ライダーが自国を離れて戦うのは4度目のことだが、メキシコは初めてとなる。「私の耳には悲観的な予想ばかりが入ってくるが、そんな見方が間違っているということを証明してみせる。プレッシャー? 私にはないが、彼の方にプレッシャーがあるのではないだろうか。負けたあとの第2戦、手術後の初試合、そして故郷での試合だからね」と自分は敵地での試合を気にした様子はない。

戦績はアルバレスが62戦58勝(39KO)2敗2分、ライダーが37戦32勝(18KO)5敗。オッズは14対1でアルバレスの圧倒的有利と出ている。

WBA最短3戦で世界王座獲得デビッド・モレル 5度目防衛戦でアルバレスに存在感示す

3年前、プロ3戦目でWBA世界スーパーミドル級暫定王座を獲得したデビッド・モレル(25=キューバ)が22日(日本時間23日)、アメリカのネバダ州ラスベガスでWBA6位のヤマグチ・ファルカン(35=ブラジル)を相手に5度目の防衛戦に臨む。まだ8戦(全勝7KO)のキャリアしかないモレルだが、そのうち5試合が世界戦で、4戦目から5連続KO中と勢いがある。この階級には4団体の王座を統一したサウル・カネロ・アルバレス(32=メキシコ)という世界的なスーパースターがいるが、遠くない将来、モレルが対戦候補としてクローズアップされる日がくるかもしれない。

9歳でボクシングを始めたモレルは19歳以下が参加する世界ユース選手権で優勝するなど、アマチュアで137戦135勝2敗(他説あり)という戦績を残した。2019年8月にプロ転向を果たし、初陣の6回戦で1回KO勝ち、8回戦で2回KO勝ちを収めた。この2選手は世界的な実績はゼロだったが、先物買いしたWBAはモレルを上位にランク。そして3戦目に暫定王座決定戦への出場を承認し、期待に応えてモレルは大差の12回判定勝ちを収めて戴冠を果たした。WBAの行き過ぎた露骨な庇護があったとはいえプロ3戦目での世界王座獲得はセンサク・ムアンスリン(タイ)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と並ぶ最短記録だ。

さらに初防衛戦でモレルは体重オーバーの失敗をやらかしたが、なんとWBAは暫定王座を剥奪するどころかノンタイトル戦への変更を承認し、3回KO勝ちを収めたモレルを試合後に正王者に昇格させたのだ。ここまで来ると呆れるしかないが、ともかくWBAが特別扱いしてくれたことでモレルはベルトを保持し続けることになった。

その後、初防衛戦で1回KO勝ちするとV2戦、V3戦をいずれも4回TKOで飾り、昨年11月の4度目の防衛戦では12回KO勝ちを収めている。身長185センチ、リーチ199センチと体格に恵まれたサウスポーで、遠い距離から踏み込んで左ストレートを打ち込み、チャンス時には回転の速い左右フック、アッパーの連打を浴びせる。

ただ、まだ世界的な著名選手との対戦は少なく、安全路線を歩んできたのも事実だ。今回、モレルはWBA9位のセナ・アグベコ(ガーナ)と戦う予定だったが、試合を運営・管理するネバダ州アスレチック・コミッションからアグベコに試合許可のライセンスが発行されなかったため相手がファルカンに変更された経緯がある。そのファルカンは2012年ロンドン五輪銅メダリストで、プロでは27戦24勝(10KO)1敗1分1無効試合という戦績を残しているサウスポーだ。こちらも世界的強豪との対戦は少ないが、このところ8連勝(3KO)と調子を上げているだけに侮れない。

25歳のモレルは世界王者になった現在も成長途上にある。当然のことながら4階級制覇を果たしているアルバレスには実績も実力も知名度も及ばないが、7歳若いモレルにはたっぷりと時間がある。数年後、両者の人生がリング上で交差する可能性も十分にあり得るのだ。そのためにもモレルは存在感を示す戦いをしてベルトをキープし続ける必要がある。

モレル対ファルカンは、WBA世界ライト級王者、ジャーボンテイ・デービス(アメリカ)対ライアン・ガルシア(アメリカ)の試合のセミファイナル扱いとなっているが、大舞台で隠れた天才サウスポーがどんなパフォーマンスを見せるのか注目したい。

デービス対ガルシア ノンタイトルもKO決着間違いなし、全勝強打者同士の注目ファイト

スター選手が集結するライト級の主役のひとり、WBA王者のジャーボンテイ・デービス(28=アメリカ)と、西海岸を中心に抜群の人気を誇る元WBC暫定王者のライアン・ガルシア(24=アメリカ)が22日(日本時間23日)、アメリカのネバダ州ラスベガスで対戦する。試合はライト級1ポンド超過の136ポンド(約61.6キロ)契約12回戦として行われる。28戦全勝(26KO)のデービス、23戦全勝(19KO)のガルシア。世界王座はかからないが、KO決着間違いなしの注目ファイトだ。

61.2キロが体重上限のライト級では8日(日本時間9日)にシャクール・スティーブンソン(25=アメリカ)対吉野修一郎(31=三迫)のWBC挑戦者決定戦が行われたばかりで、来月20日(日本時間21日)には4団体統一王者のデビン・ヘイニー(24=アメリカ)と元世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコ(35=ウクライナ)が対戦する。強豪が集結しており、まさに風雲急を告げる状況となってきた。

そんななかで今回のデービス対ガルシアが行われる。かねてから対戦が期待され、両者もことあるごとに自己アピールしてきただけに対抗意識は強いものがある。試合が決まったあとのPRツアーでは顔をつけて罵り合い、乱闘寸前の場面もあったほどだ。

サウスポーのデービスは身長166センチ、リーチ171センチとライト級では小柄だが、鋭く相手の懐に潜り込み、速くて強烈なパンチを顔面とボディに打ち分ける。特に左右フックと左アッパーは破壊力抜群で、何度も痛烈なKOシーンを生み出してきた。スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級の3階級で世界王座を獲得しており、世界戦(自身が体重超過した試合を含む)だけで12戦全勝(11KO)をマークしている。

リングの中ではルールに従っているデービスだが、リング外ではアウトローとしても知られ、暴行などで何度も警察の世話になってきた。いまも交通事故関連で起訴されており、試合後に判決が出ることになっている。

一方、身長、リーチとも178センチのガルシアは甘いマスクと強打で女性を含めた幅広い層に支持されている。2年前にWBC暫定世界ライト級王座を獲得したが、メンタルヘルスの問題を理由に防衛戦を行うことなくベルトを返上した。1年3カ月の休養後、昨年4月に12回判定勝ちで戦線復帰を果たし、次戦では元世界王者に6回KOで快勝している。

遠い距離から打ち込む右ストレート、カウンターのタイミングで打ち込む左フックが主武器で、ダウンシーン、KOシーンは芸術的ですらある。

この先、デービス対ガルシアの勝者はヘイニー対ロマチェンコの勝者と対戦する可能性が高くなるだけに、勝負の行方が注目される。

全勝の強打者対決のオッズは9対4でデービス有利と出ている。

ヘイニー対ロマチェンコのビッグマッチ5・20正式決定 世代交代か健在誇示か待ち切れない一戦

WBA(スーパー王座)、WBC、IBF、WBO4団体統一世界ライト級王者、デビン・ヘイニー(24=アメリカ)対元世界3階級制覇王者、ワシル・ロマチェンコ(35=ウクライナ)のタイトルマッチが5月20日(日本時間21日)、アメリカのネバダ州ラスベガスで行われることが正式決定した。ともにスピードとスキル、戦術に長けた技巧派選手で、高度な技術戦が期待される注目カードだ。オッズは9対4、若くて体格で勝るヘイニーが有利と見られている。

ヘイニーにとっては世代交代を印象づける絶好の機会となり、ロマチェンコにとっても一気に4団体王座を獲得して健在ぶりを示すには申し分ない試合だ。「私は2019年にロマチェンコと対戦したかったが、彼はチャンスを与えてくれなかった。ついにファンが本当に望む戦いが実現する。試合が待ちきれないよ」とヘイニー。ロマチェンコも「4団体統一王者になることが私のゴールなんだ。ヘイニーはそのベルトをすべて持っている。彼のボクシングIQは尊敬に値する。興奮が抑えきれないよ」とヘイニー同様、5月20日が待ち遠しい様子だ。

ヘイニーは全米ユース選手権や全米ジュニア選手権を制するなどアマチュアで146戦138勝8敗の戦績を残し、2015年12月にプロに転向。4年後、20歳のときにWBC暫定世界ライト級王者になった。その後、WBC正王者だったロマチェンコが「フランチャイズ(特権)王者」に昇格したのに伴いヘイニーが正王者に繰り上がった経緯がある。「ロマチェンコはチャンスをくれなかった」というのは、このときのことを指している。

右肩を負傷するなどして戦線離脱した時期はあったもののヘイニーは元世界3階級制覇王者のホルヘ・リナレス(帝拳)らを退けて防衛を重ね、昨年6月にはWBAスーパー王座、WBCフランチャイズ王座、IBF王座、WBO王座を持つジョージ・カンボソス(オーストラリア)に大差の判定勝ちを収めて4団体統一王者になった。4カ月後の再戦でも大差の判定で返り討ちにしている。戦績は29戦全勝(15KO)。

ロマチェンコは2008年北京五輪フェザー級、2012年ロンドン五輪ライト級で金メダルを獲得するなどアマチュアで397戦396勝1敗という驚異的な戦績を残し、2013年10月にプロデビュー。2戦目の世界挑戦は失敗に終わったが、次戦でWBO世界フェザー級王座を獲得し、歴代最短(3戦目)戴冠記録に並んだ。2016年にスーパーフェザー級、2018年にライト級王座を獲得して3階級制覇を達成。しかし、2020年10月にテオフィモ・ロペス(アメリカ)に惜敗して無冠に戻った。その後、中谷正義(帝拳)を9回TKOで下すなど3連勝を収めている。戦績は19戦17勝(11KO)2敗。

若くて伸び盛りのヘイニーが自らの拳で新時代到来をアピールするのか、それとも「ハイテク」のニックネームを持つ35歳のサウスポーが意地を見せるのか。戦う両選手同様、ファンも5月20日が待ち切れない。

前3団体統一世界ヘビー級王者アンソニー・ジョシュア再起戦 再びスポットライトの中心に戻れるか

前WBA、IBF、WBO3団体統一世界ヘビー級王者、アンソニー・ジョシュア(33=イギリス)が4月1日(日本時間2日)、自国ロンドンでWBC25位のジャメイン・フランクリン(29=アメリカ)を相手に再起戦に臨む。一時は眩しいほどのスポットライトを浴びたジョシュアだが、直近の5戦に限ってみれば2勝3敗と苦しい状態が続いている。格の違うフランクリンを相手に復活を印象づけることができるか。

ジョシュアは2012年ロンドン五輪スーパー・ヘビー級で金メダルを獲得後にプロ転向を果たし、2016年4月にIBF世界ヘビー級王座を獲得。このときの戦績は16戦全KO勝ちだった。3度目の防衛戦ではWBAスーパー王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)にも勝って王座を統一し、2018年3月にはWBO王座も手に入れた。WBC王者のデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)との米英頂上決戦が期待されたのは、このころのことだ。

ところが2019年6月、ジョシュアは伏兵アンディ・ルイス(アメリカ)に7回TKO負けを喫して3本のベルトを失ってしまう。半年後の再戦で3王座を奪回したものの、2021年9月にオレクサンダー・ウシク(ウクライナ)に12回判定で敗れ無冠に逆戻り。11カ月後のリマッチでも判定負けを喫した。現在はWBA4位、WBC、IBF、WBOで5位に甘んじている。戦績は27戦24勝(22KO)3敗。2連敗後の再起戦を前にジョシュアは「精神的にも肉体的にも十分な準備ができている」と意気込みを口にしている。ウシクとの再戦後に組んだデリック・ジェームス・トレーナーが出す指示や戦術にも注目が集まる。

フランクリンは22戦21勝(14KO)1敗の戦績を残しているホープで、昨年11月に元WBC暫定王者のディリアン・ホワイト(ジャマイカ/イギリス)に判定負けを喫するまでデビューから21連勝を収めていた。こちらも再起戦ということになる。「ジョシュアにも全盛期があったが、これからは俺の時代だ。ジャッジの手を煩わすことなく22勝目をものにしてみせるよ。エイプリルフールじゃないぜ」と自信をみせる。

身長188センチ/リーチ196センチのフランクリンに対しジョシュアは198センチ/208センチと体格で大きく勝っている。その利を生かして左ジャブでコントロールすることができれば勝利は自ずと転がり込んでくるはずだ。しかし、踏み込んで右フックを振り抜いてくるフランクリンの攻撃を持て余すようだと苦戦は免れないだろう。オッズは8対1でジョシュア有利と出ているが、元王者の打たれモロさを考えると番狂わせの可能性も捨てきれない。

現在、ヘビー級はジョシュアに連勝したウシクと、WBC王者のタイソン・フューリー(イギリス)がトップを並走しており、そこにジョシュアとワイルダーの元王者ふたりが割って入れるかという状況が続いている。ジョシュアが再びスポットライトの中心に戻ってくるのか、それとも選手生命を脅かされることになるのか。フランクリンとの試合に要注目だ。

五輪2大会連続金メダルの逸材ロベイシー・ラミレス、13戦目で世界王座獲得なるか

オリンピックで2大会連続金メダルを獲得したキューバ出身の逸材、ロベイシー・ラミレス(29)が4月1日(日本時間2日)、アメリカのオクラホマ州タルサでWBO世界フェザー級王座決定戦に出場する。空位の王座を争う相手は元WBO世界スーパーバンタム級王者のアイザック・ドグボエ(28=ガーナ/イギリス)。4年前にプロ転向したラミレスは13戦目で世界王座を獲得することができるのか。

アマチュア時代、ラミレスは18歳で出場した2012年ロンドン五輪フライ級で金メダルを獲得。2016年のリオデジャネイロ五輪にはバンタム級で出場し、準決勝でムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン=現WBA、IBF世界スーパーバンタム級王者)、決勝でシャクール・スティーブンソン(アメリカ=元世界2階級制覇王者 ※4月8日に吉野修一郎と対戦)を下して再び表彰台の最上段に上がった。

その後、ラミレスはさらにアマチュアで2年活動してから2019年8月にトップランク社と契約してプロに転向した。同じ五輪連覇の実績を持ち、プロで3階級制覇を果たしたワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とも契約していたトップランク社は「ロマチェンコのようなスター選手になる男」としてラミレスに大きな期待を寄せていた。ところが、ラミレスはプロデビュー戦でまさかの4回判定負けを喫してしまう。開始から20秒ほどでダウンを喫し、慌てて反撃に出たもののラフになり失点を挽回できないまま試合は終了。ラミレスもトップランク社も落胆したことはいうまでもない。

3カ月後に再起して初勝利をあげると徐々にプロの水に慣れていき、昨年は全勝の世界ランカーや元ランカーを下してWBO2位まで上昇してきた。戦績は12戦11勝(7KO)1敗。

一方のドグボエもアマチュア時代に2012年ロンドン五輪に出場した経験を持っているが、こちらはバンタム級1回戦で清水聡(現WBC世界フェザー級9位=大橋)にポイント負けを喫している。1年後にプロデビューし、2018年にWBO世界スーパーバンタム級王座を獲得。2度目の防衛戦では大竹秀典(金子)を138秒TKOで退けた。この時点の戦績は20戦全勝(14KO)で、軽量級に新しいスターが誕生かと注目を集めたものだ。

ところが、3度目の防衛戦でエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)に12回判定で敗れ、再戦では12回TKO負けを喫すると期待は萎んだ。無冠になったのを機にフェザー級に転向し、以後は4連勝を収めている。戦績は26戦24勝(15KO)2敗。現在はWBO1位にランクされている。

身長165センチ、リーチ173センチのラミレスはサウスポーのボクサーファイター型で、圧力をかけながら左を狙い撃ちすることが多い。この左はインサイドから打ち抜くものと外側から巻き込むものがあり、相手にとっては軌道が読みにくいパンチといえる。このところ3連続KO(TKO)勝ちと勢いづいている。

ドグボエは身長とリーチが163センチとさらに小柄で、フェザー級転向後は4連勝しているものの直近の3試合はいずれも僅少差の判定勝ちに留まっている。

そんな近況が反映されてか、オッズは9対2でラミレス有利と出ている。五輪で下したアフマダリエフやスティーブンソンにプロでは先行を許しているラミレスが、ライバルたちに追いつくのか。それともドグボエが2階級制覇を果たすのか。興味深いカードだ。

バンタム級各団体の後継王者決定カード絞り込まれる あらためて井上尚弥の偉大さ浮き彫り

井上尚弥(29=大橋)の王座返上にともなうバンタム級の各団体の後継王者を決めるカードが絞り込まれてきた。すでにWBA王座決定戦は4月8日、尚弥の弟・井上拓真(27=大橋)対リボリオ・ソリス(41=ベネズエラ)が東京で行われることが決定。このほか尚弥に敗れたノニト・ドネア(40=フィリピン/アメリカ)ら3選手がそれぞれ別の団体の王座決定戦に臨む予定だ。

スーパーバンタム級に転向した井上尚弥は5月7日、横浜アリーナでWBC、WBO同級王者のスティーブン・フルトン(28=アメリカ)に挑むことが発表されている。24戦全勝(21KO)の井上が「ここからが本当の挑戦」と位置づけているだけに、21戦全勝(8KO)の技巧派、フルトンとの試合は緊張感溢れる戦いになることは間違いないだろう。ちなみにオンラインカジノOddschecker.comの単純勝敗オッズは5対2で井上有利と出ている。9対1だった井上対ドネア初戦、9対2だった第2戦(ともに井上有利)と比較しても今回のフルトン戦が接近したオッズであることが分かる。

 それはさておき、その井上尚弥の後継王者争いも組み合わせが以下のように決定、あるいは内定してきている。

※選手名の前の数字は統括団体の最新ランキング

<WBA王座決定戦> 4月8日@東京・有明アリーナ

(2)井上拓真(27=大橋)18戦17勝(4KO)1敗 vs (3)リボリオ・ソリス(41=ベネズエラ)43戦35勝(16KO)6敗1分1無効試合

<WBC王座決定戦> 日程・開催地未定

(1)ノニト・ドネア(40=フィリピン/アメリカ)49戦42勝(28KO)7敗 vs (4)アレクサンドロ・サンティアゴ(27=メキシコ)35戦27勝(14KO)3敗5分

<IBF王座決定戦> 日程・開催地未定

(2)エマヌエル・ロドリゲス(30=プエルトリコ)24戦21勝(13KO)2敗1無効試合 vs (3)メルビン・ロペス(25=ニカラグア)30戦29勝(19KO)1敗

<WBO王座決定戦> 日程・開催地未定

(1)ジェイソン・マロニー(32=オーストラリア)27戦25勝(19KO)2敗 vs (2)ビンセント・アストロラビオ(25=フィリピン)21戦18勝(13KO)3敗

当初、WBCはドネアとマロニーに王座決定戦の指示を出し、IBFはロドリゲスとアストロラビオに対戦指令を出した。しかし、プロモーター間のビジネス上の摩擦もあって、それぞれのカードが決まることはなく別の組み合わせが内定するに至った。ただし、いまなおWBAを除く3カードは決定というわけではない。

興味深いのは、井上尚弥と世界戦で拳を交えたドネア、ロドリゲス、マロニーの3選手が後継王者争いに加わっている点だ。あらためていかに井上尚弥が傑出した力の持ち主であったかがうかがい知れる。

井上拓真がWBA王座、ドネアがWBC王座、ロドリゲスがIBF王座、マロニーがWBO王座を獲得し、そのうえで4団体王座統一戦という運びになれば再びバンタム級が大きな注目を集めることは間違いないだろう。

近年目に見えて増加してきたスイッチヒッター 現役世界王者の10パーセント超

試合によって、あるいは戦いの最中に構えを左右に変えて戦うスイッチヒッターが近年、目に見えて増加してきた。WBC世界ヘビー級王者のタイソン・フューリー(34=イギリス)、3階級を制覇したWBO世界ウェルター級王者のテレンス・クロフォード(35=アメリカ)らトップ選手に多いのも特徴のひとつだ。

中高年のボクシングファンにとってスイッチヒッターといえば、1980年代に圧倒的な存在感を示した世界ミドル級王者のマービン・ハグラー(アメリカ)や1990年代を席巻したナジーム・ハメド(イギリス)が馴染み深いのではないだろうか。

その後も世界王者級のスイッチヒッターは何人も登場したが、いまほど多くはなかった。ざっと現役の世界王者、または世界王者経験者らトップ選手のスイッチヒッターを数えてみると-フューリー、クロフォード、エマヌエル・ナバレッテ(28=メキシコ)、フリオ・セサール・マルチネス(28=メキシコ)、サニー・エドワーズ(27=イギリス)、ブランドン・フィゲロア(26=アメリカ)、ジャロン・エニス(25=アメリカ)、オシャキー・フォスター(29=アメリカ)、デビッド・ベナビデス(26=アメリカ)、アンソニー・ディレル(38=アメリカ)、ホセ・ペドラサ(33=プエルトリコ)、クリス・コルバート(26=アメリカ)-あっという間に10人を超えた。現役世界王者に限ってみれば王者全体に占める割合は10パーセントを超すほどだ。

そういえば、ほんの数十秒ではあったものの井上尚弥(29=大橋)もWBO世界スーパーフライ級王座の防衛戦で左構えにスイッチしたことがあった。その井上と2度対戦した元世界5階級制覇王者のノニト・ドネア(40=フィリピン/アメリカ)も基本は右構えだが、かつて左構えで戦ったことがある。「本来は右利きなのか左利きなのか」と尋ねたところ、日本の歴史や文化に造詣の深いドネアは「小さいころから右手も左手も同じようにつかえた。だから僕は宮本武蔵みたいに二刀流なんだ」と答えたものだ。

同じスイッチヒッターでも、多くの選手が長い時間、どちらかの構えで戦うのに対し、マルチネスやフィゲロア、エニスは同じラウンド内で何度も器用に構えを右から左、左から右とチェンジする。たとえば右を打ち込んだ際に勢いで右足が前に出れば、その構えを元に戻すことなく今度は左を打ち込むのだ。それによって接近戦を得意とするマルチネスやフィゲロアは連打の回転力を上げているといえる。これに対しエニスは恵まれたリーチを生かして遠い距離から左ジャブで相手を突き放したかと思うと、次の瞬間には構えを変えて右ジャブを打ち込んでいることもある。相手にとって厄介なのはどちらのジャブも速くて正確で、さらに後続のパンチが右も左も滅法強いという点だ。31戦30勝(27KO)1無効試合という戦績が示すとおりの強打者で、相手はタイミングを計っているうちに倒されていることが多い。スイッチヒッターの理想形といっていいかもしれない。

こうした現象について、WOWOW「エキサイトマッチ」で30年以上も海外のトップ選手たちの試合を解説してきた浜田剛史氏(元WBC世界スーパーライト級王者)は、「普通の能力の人がやっても危険が増すだけでメリットは少ない。自在にスイッチするのはバランスのいい能力の高い選手に多い」と分析。そして「タイミングを計るタイプの選手にとってスイッチヒッターは戦いにくいもの。ただ、スイッチヒッターは相手に与える怖さが半減するというリスクがあるので利点ばかりではない」と加える。近年の増加現象については「昔と比べて選手が入手できる情報量が格段に増えたことが影響しているのだと思う。映像を見て試してみて実際に採り入れる選手が多いのでは」と話す。

以前はボクサーのプロフィールを記す際に「右(オーソドックス)」、「左(サウスポー)」の2種しかなかったが、今後は「スイッチヒッター」の欄を用意する必要がありそうだ。

ティム・チュー、史上7例目の親子世界王者なるか トニー・ハリソンも祖父、父3代のボクシング一家

史上7例目の親子世界王者が誕生するか--3月12日、オーストラリアのシドニーでWBO世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦、1位のティム・チュー(28=オーストラリア)対元WBC同級王者で現WBO3位、トニー・ハリソン(32=アメリカ)が行われる。チューが勝てば、1990年代から2000年代にかけてスーパーライト級で活躍したロシア出身の父親コンスタンチン・チューに続いて親子世界王者となる。

父親のチューはアマチュア時代に世界選手権で優勝したあとプロに転向し、WBA、WBC、IBFの3団体でスーパーライト級世界王者になった。33戦31勝(25KO)2敗の戦績が示すとおりの強打者だった。現在はオーストラリア国籍を取得してシドニーに住んでいる。

息子のティムは6歳でボクシングを始めたが、途中で拳を痛めたため中断。大学時代に再びボクシングを始め、22歳でプロに転向した。身長は174センチ、リーチは183センチで、父親よりも身長で4センチ、リーチで13センチ上回っている。ベスト体重も父親よりも6キロほど重く、2階級上のスーパーウェルター級が主戦場だ。元世界王者のジェフ・ホーン(オーストラリア)、世界挑戦経験者の井上岳志(ワールドスポーツ)とテレル・ゲシェイ(アメリカ)に勝っており、2021年2月からWBO1位にランクされている。2年以上も挑戦を待たされたのは、ジャーメル・チャーロ(アメリカ)対ブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)の4団体王座統一戦が優先されたためだった。戦績は21戦全勝(15KO)。

今年1月28日、チューは4本のベルトを持つチャーロに挑む予定だったが、王者が手を痛めたため試合は中止に。これを受けて今回の暫定王座決定戦がセットされた経緯がある。

相手のハリソンは2018年12月にチャーロを破ってWBC王座を獲得した実績を持つ元王者で、33戦29勝(21KO)3敗1分の戦績を残している。身長185センチ、リーチ194センチと大柄で、チューをそれぞれ11センチ上回っている。

興味深いのはハリソンもボクシング一家である点だ。祖父のヘンリー・ハンク(本名はジョセフ・ハリソン)は1950年代から1970年代にかけてミドル級を中心に活躍した元世界ランカーで、父親のアリ・サラーム(本名は同じくジョセフ・ハリソン)も1980年代にウェルター級で18戦した経験を持つ。祖父、父から受け継いだ世界王者という夢は約4年前に実現したが、その後、トレーナーを務めてきた父親が2020年4月に新型コロナウィルスに感染して亡くなった。勝って仏前に吉報を届けたいところだ。

攻撃型のチューがプレッシャーをかけながら前に出て、パンチャー型のハリソンが迎え撃つ展開が予想される。3敗がすべてKO、TKOによるものであることでも分かるようにハリソンは打たれ脆い面があるが、チューも直近の試合でダウンを喫している。戦闘スタイルは異なるが、ともにパンチ力があるだけにスリリングな試合になりそうだ。

5対2のオッズどおりにチューが勝てば、エスパダス父子(グティ&ジュニア=メキシコ)、スピンクス父子(レオン&コリー=アメリカ)、バスケス父子(ウィルフレド&ジュニア=プエルトリコ)、アリ父娘(モハメド&レイラ=アメリカ)、チャベス父子(フリオ・セサール&ジュニア=メキシコ)、ユーバンク父子(クリス&ジュニア=イギリス)に次いで史上7組目の親子世界王者が誕生することになる。

WBC世界フェザー級暫定王座決定戦フィゲロア対マグサヨ 攻撃型選手同士で打撃戦は必至

3月4日(日本時間5日)、アメリカのカリフォルニア州オンタリオでブランドン・フィゲロア(26=アメリカ)対マーク・マグサヨ(27=フィリピン)のWBC世界フェザー級暫定王座決定戦が行われる。フィゲロアは元WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者で、現在のランキングはWBCフェザー級1位。一方のマグサヨは前WBC王者で、現在は同級3位に名を連ねている。フィゲロアが2階級制覇を成し遂げるのか、それともマグサヨが2度目の戴冠を果たすのか。攻撃型同士だけに打撃戦が予想される。

WBCのフェザー級王座はレイ・バルガス(メキシコ)が保持しているが、WBC世界スーパーフェザー級王座決定戦への出場が決定(2月11日、オシャキー・フォスターに12回判定負け)。そのため暫定王座が設けられることになった。当初はスーパーバンタム級のWBC、WBO王者、スティーブン・フルトン(アメリカ)がフィゲロアと対戦する計画だったが、井上尚弥(大橋)との対戦が浮上したフルトンが方針を転換。それを受けフィゲロア対マグサヨが決まったという経緯がある。

フィゲロアは元WBC世界ライト級王者、オマール・フィゲロアの7歳下の弟で、25戦23勝(18KO)1敗1分の戦績を誇る。2019年4月にWBA世界スーパーバンタム級暫定王座を獲得し、初防衛戦後に正王者に昇格。2021年5月にはWBC王者のルイス・ネリ(メキシコ)と対戦し、ボディブローを打ち込んで7回KO勝ちを収めている。この勝利が現時点ではフィゲロアの最大の勲章といえる。次戦でフルトンに惜敗して王座を失ったが、これが過去唯一の敗北だ。身長173センチ、リーチ184センチと体格に恵まれているが、その利点に頼ることなく自ら接近戦を仕掛ける連打型ファイターで、左右どちらの構えでも戦える器用さも持ち合わせている。

マグサヨはフィリピンの大先輩、元6階級制覇王者のマニー・パッキャオが興したMPプロモーションズの契約選手で、パッキャオと同じフレディ・ローチ・トレーナーに師事してきた。また、パッキャオがそうだったようにキャリアの途中から主戦場をアメリカに移し、昨年1月に長期政権を誇ったゲイリー・ラッセル(アメリカ)を破ってWBC世界フェザー級王者になった。初防衛戦でバルガスの挑戦を受け、9回に右でダウンを奪ったものの判定負け、在位は半年で終わった。フィゲロア戦が再起戦でもある。25戦24勝(16KO)1敗。こちらも攻撃型の選手で、左フックや右ストレートに加えアッパー系のパンチも強い。

攻撃に自信を持つ選手同士のカードだけに打撃戦は必至だ。左右に構えを変えながら顔面、ボディに執拗な連打を叩きつけてくるフィゲロアと、切れとタイミングのいい右ストレート、左フックを打ち込むマグサヨ-序盤からスリリングな展開になりそうだ。オッズは約2対1でフィゲロア有利と出ている。

アルバート・バティルガジエフ、元世界王者コラレスを破る 世界挑戦そして戴冠へ大きな前進

2年前の東京オリンピック(五輪)フェザー級金メダリストのアルバート・バティルガジエフ(24=ロシア)は4日(日本時間5日)、ロシアのセルプコフで、元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者、現WBA世界ライト級6位のジェスレル・コラレス(31=パナマ)と対戦し9回TKO勝ちを収めた。五輪を挟んでプロで8連勝(6KO)を飾ったバティルガジエフは世界王座挑戦、そして戴冠に向けて大きな一歩を踏み出した。

24歳の五輪金メダリストと、峠を過ぎた元世界王者という絶妙なカードだったが、試合は日の出の勢いのバティルガジエフの圧勝に終わった。サウスポー同士の試合は初回、バティルガジエフがタイミングのいい右ジャブで先制のダウンを奪って早々と優位に立ち、その後も確実にポイントを重ねていった。8回になると元王者のダメージは深刻なものになり、9回が始まって間もなく陣営が棄権を申し入れた。試合時点でバティルガジエフは主要4団体で世界挑戦権のある15位以内に入っていないが、この勝利で大舞台に大きく前進したといえる。

バティルガジエフは2020年7月に7回終了TKO勝ちでプロデビューし、3勝したあとで東京五輪に出場。初戦こそ5対0の判定勝ちだったが、準々決勝、準決勝、決勝は接戦になり、いずれも3対2に割れる際どい勝負を勝ち抜き金メダルを獲得した。

その2ヵ月後、プロに戻り2回KO勝ちでWBO欧州フェザー級王座についた。次戦では世界挑戦経験者を破ってIBFインターコンチネンタル王座を獲得。さらに昨年11月にも世界挑戦経験のある強豪を10回判定で下している。

ライト級(61.2キロ以下)では身長167センチと小柄だが、両ガードを高くあげた前傾姿勢からポンポンと右ジャブを突いて攻め込み、左ストレートと右フックを顔面とボディに打ち分ける。特筆するほどのパワーは感じられないが、攻撃のテンポが速いため相手はついていくことができなくなってしまう。まだ8戦と試合数は少ないが、すでにKO、TKOで終わらせた試合を含め7ラウンド以上を6度も経験しておりスタミナも問題はなさそうだ。

いまは各団体がウクライナ侵攻問題でロシア国籍ボクサーの世界戦出場を認めない方針を打ち出しているため、近未来に関しては不透明な部分があるが、プロでも確実に世界の頂点に近づいていることは間違いない。バティルガジエフの今後に注目していきたい。

一方、敗れたコラレスは32戦26勝(10KO)5敗1無効試合。2016年4月、WBA暫定王者だったコラレスは内山高志(ワタナベ)を2回KOで破り同団体のスーパー王者になり再戦でも勝利を収めたが、V3戦でKO負けを喫して王座から陥落。一時は世界15傑から名前が消えたが、ライト級に転向してからは3連勝を収めていた。結果として若手の踏み台になってしまい、バティルガジエフとは対照的に今後は厳しいものとなりそうだ。

井上尚弥の転向で風雲急を告げるスーパーバンタム級トップ戦線 ネリ対ホバニシャンに注目

井上尚弥(29=大橋)がバンタム級の4団体王座をすべて返上、4階級制覇を狙ってスーパーバンタム級に転向することになった。

それを待っていたかのようにスーパーバンタム級トップ戦線の動きが慌ただしくなってきた。先陣を切るかたちで18日(日本時間19日)にはアメリカのカリフォルニア州ポモナでルイス・ネリ(28=メキシコ)対アザト・ホバニシャン(34=アルメニア)のWBC王座への挑戦者決定戦が行われる。

ネリはトラブルメーカーとして知られている。2017年8月に来日して山中慎介(帝拳)を4回TKOで破ってWBC世界バンタム級王座を獲得したが、のちにドーピング違反が発覚。WBCは王座剥奪をしない代わりに山中との再戦を命じたが、翌年3月のリマッチでは計量で意図的とも思える大幅な体重オーバーで失格、王座を失った(試合では2回TKO勝ち)。そもそも遡って山中との初戦を前にしたWBCバンタム級挑戦者決定戦でもネリは体重超過をしており、山中戦へと続く一連のトラブルは統括団体の対応の甘さが招いた結果ともいえる。

これだけではない。ネリは2019年11月にはWBCバンタム級挑戦者決定戦でまたも体重オーバー。このときは相手に報酬の上乗せを提案したが断られ、試合はキャンセルとなっている。

それを機にスーパーバンタム級に転向し、いきなりWBC王座決定戦に出場して12回判定勝ち、2階級制覇を成し遂げた(2020年9月)。ここにもWBCの行き過ぎた庇護が感じられる。しかし、次戦ではWBA王者のブランドン・フィゲロア(アメリカ)のボディブローを浴びて7回KO負けを喫している。はからずもお灸をすえられたかたちだ。昨年2月に僅差の判定勝ちで再起し、10月には3回TKO勝ちを収めている。戦績は34戦33勝(25KO)1敗。転級後は4戦3勝(1KO)1敗で、かつての勢いは感じられない。

ホバニシャンは世界選手権でベスト8入りするなどアマチュアで活躍後、22歳でプロデビュー。初陣で判定負け、8戦目にも判定負けを喫するなど順風満帆の船出ではなかった。地域王座を獲得し、強豪を破ったあと2018年にはレイ・バルガス(メキシコ)の持つWBC世界スーパーバンタム級王座に挑戦したが、強打を封じられ12回判定負けを喫した。その後は7連勝(6KO)と好調だ。戦績は24戦21勝(17KO)3敗。井上とは昨年9月にロサンゼルスでスパーリングをしたという接点がある。

サウスポーのネリとオーソドックスのホバニシャンと構えに違いはあるが、攻撃型であるという点は同じだ。ネリは弧を描くような軌道で繰り出す左ストレートや右フックを得意とし、ホバニシャンは飛び込むようにして打ち込む左フックと振りの大きな右フックが主武器といえる。身長では168センチのホバニシャンがネリよりも3センチ大きいが、リーチはふたりとも165センチで体格差はないと見ていい。

中近距離での打撃戦を好む選手同士の組み合わせだけに、初回から目の離せない試合になりそうだ。4度の世界戦を経験している元2階級制覇王者のネリが総合力でわずかに上回りそうだが、フィゲロア戦でボディの弱さを露呈しており、ホバニシャンはそこを突いてくるものと思われる。

現在、WBCのスーパーバンタム級王座はWBO王座とともにスティーブン・フルトン(アメリカ)が保持しており、5月にも井上の挑戦を受ける可能性が高いと伝えられる。ネリ対ホバニシャンの勝者はフルトン対井上の勝者への優先挑戦権を握ることになるわけだ。

井上の参入で風雲急を告げるスーパーバンタム級トップ戦線。まずはネリ対ホバニシャンに注目したい。

相次ぐスーパーフェザー級の世界王座決定戦 2週連続でメキシコから3階級制覇王者が誕生するか

3日(日本時間4日)と11日(日本時間12日)に相次いでスーパーフェザー級の世界王座決定戦がアメリカで行われる。3日のWBO王座決定戦はエマヌエル・ナバレッテ(28=メキシコ)対リアム・ウィルソン(26=オーストラリア)というカードで、アリゾナ州グレンデールで挙行される。11日はレイ・バルガス(32=メキシコ)とオシャキー・フォスター(29=アメリカ)がWBC王座を争う。こちらはテキサス州サンアントニオで行われる。ナバレッテはフェザー級のWBO王座、バルガスはフェザー級のWBC王座を保持したまま1階級上の決定戦に出場することになり、ふたりとも3階級制覇のかかった試合となる。

スーパーフェザー級のWBC王座とWBO王座はシャクール・スティーブンソン(アメリカ)が持っていたが、昨年9月の防衛戦を前に計量で体重超過のため失格、2本のベルトを失った。これを受けWBOは階級アップを計画していたナバレッテと、元WBC王者のオスカル・バルデス(メキシコ)で王座決定戦を行うと発表。しかし、バルデスが負傷して出場を辞退したため3位のウィルソンが代役としてナバレッテと対戦することになった。

ナバレッテはスーパーバンタム級時代にWBO王座を5連続KO防衛した実績を持ち、一時は井上尚弥(大橋)が階級を上げた場合の対戦候補として名前が挙がったこともある。2020年にフェザー級のWBO王座を獲得し、3度防衛中だ。旺盛なスタミナと回転の速い連打が持ち味の攻撃型で、37戦36勝(30KO)1敗の戦績を残している。

相手のウィルソンは12戦11勝(7KO)1敗のスイッチヒッターで、右構えのときは176センチの長身から右ストレートを狙い撃つことが多い。好選手だがホープの域を出ておらず、初のアメリカのリングということもあり多くを期待するのは酷かもしれない。12対1というオッズが出ているように、ナバレッテがKOで3階級制覇を成し遂げる可能性が高い。

対照的にWBC王座決定戦は接戦になりそうだ。バルガスは6年前にWBCスーパーバンタム級王座を獲得。それまで28戦全勝(22KO)と高いKO率を誇ったが、以後は戴冠試合を含め8試合すべて判定勝ちに留まっている。リスクを小さく抑えるためアウトボクシングに磨きをかけたというべきかもしれない。昨年7月、ダウンを跳ね返してフェザー級のWBC王座を獲得し、2階級制覇を果たしたばかりだ。戦績は36戦全勝(22KO)。実に6年半もKO勝ちから遠ざかっている。

身長174センチ/リーチ183センチのフォスターは、それぞれ2センチ/4センチ、バルガスを上回っている。左右どちらの構えでも戦えるスイッチヒッターで、スピードとパンチの切れが売りだ。状況に応じて足をつかったボクシングができるのも強みといえる。以前は馬力で押されることがあったが、最近は体力とパワーが増した印象だ。戦績は21戦19勝(11KO)2敗。

経験値で勝るバルガスが2対1で有利と見られているが、最近のフォスターの充実ぶりは目を見張るものがあり、番狂わせの可能性もある。序盤から激しい主導権争いが見られそうだ。

2週連続でメキシコから3階級制覇王者が誕生するのか、それとも波乱が起こるのか。

ブリッジャー級初代王者オスカル・リバス、網膜剥離で引退の危機 階級新設も世界戦1試合だけ

WBCが2020年11月に新設した18階級目のクラス、ブリッジャー級の初代王者、オスカル・リバス(35=コロンビア)が昨秋に網膜剥離を患い引退の危機にある。WBCは「休養王者」の扱いをしてリバスの状態をみながら去就の意思確認をしていくとしているが、王座が宙に浮いたかたちとなっているのは事実だ。ブリッジャー級新設から2年以上が経ったが、開催された世界戦は決定戦の1試合だけ。リバスの選手生命だけでなく階級の存在そのものが危うくなっている。

ブリッジャー級はWBCが「重量級の体格差を少なくして選手の健康・安全性を担保する」ことを理由にクルーザー級とヘビー級の間につくった階級で、体重の幅は200ポンド(約90.7キロ)以上、224ポンド(約101.6キロ)以下とされる。ただし、「ヘビー級の体重で戦うことも可」とするなど曖昧な部分もある。階級名は、犬に襲われた妹を救うために闘った6歳の男児の名前から付けられた。

ライト(軽量)、ミドル級(中間)、フェザー(羽)、フライ(蠅)など重量に関係のある階級名とかけ離れた名称だけに、それだけで違和感を抱くファンは少なくないだろう。

WBCは毎月、各階級の世界ランキングを40位まで発表しており、2020年12月からブリッジャー級も加わった。6カ月間は猶予期間としてヘビー級やクルーザー級からの転向者を募ったが、2年以上経っても40位まで埋まることはなかった。2022年をみると4月には26位まで選手がリストアップされていたが、5月=25位、6月=21位、7月=20位、8月=20位、9月=18位、10月=21位、11月=20位、今年1月に発表された最新ランキングでも20位までしか埋まっていない。

主要4団体の残り3団体-WBA、IBF、WBOは静観の構えをとっていたが、いまのところ追従する動きは見られない。賢明な判断といえよう。

新階級の苦戦は、この2年の間に開催された世界戦が1度だけだという点にも表れている。ヘビー級で活躍していたリバスと、クルーザー級のライアン・ロジッキ(カナダ)の王座決定戦が行われたのは2021年10月のこと。新設から約1年後のことである。その後、初代王者となったリバスは2022年8月にルーカス・ロザンスキー(ポーランド)と初防衛戦を計画したが、イベントそのものが中止に。今年1月、リバスはヘビー級ランカーと対戦する予定だったが、そのタイミングで網膜剥離が判明している。防衛戦を行わないまま休養状態に入ってしまったわけだ。

こうした事態を受けWBCはリバスを“休養王者”にスライドさせ、1位のアレン・バビッチ(クロアチア)と3位のロザンスキーで王座決定戦を行い、2位のライド・メルヒー(コートジボワール/ベルギー)と4位のケビン・レリーナ(南アフリカ共和国)で次期挑戦者決定戦を行う計画を立てている。ちなみにレリーナは昨年12月、ヘビー級のWBA王座に挑んで3回TKO負けを喫しているが、このときの体重は約104キロだった。

船出から2年2カ月。ブリッジャー級はどこに向かうのだろうか。

18戦全KO勝ちの3団体王者ベテルビエフ対「野獣」ヤード KO決着必至の強打者対決

18戦全KO勝ちのWBC、IBF、WBO3団体統一世界ライトヘビー王者のアルツール・ベテルビエフ(試合時38歳=ロシア/カナダ)に、KO率88パーセントの「野獣」、アンソニー・ヤード(31=イギリス)が挑む注目のタイトルマッチが28日(日本時間29日)、英国ロンドンで行われる。KO決着必至の強打者対決、軍配はどちらに挙がるのか。

ベテルビエフは2013年6月にプロデビューしたが、10年間に18試合と活動はスローペースといえる。自身の故障やプロモーターとの摩擦、さらに新型コロナウィルスの蔓延などが理由だが、直近の2年に関しては比較的コンスタントに試合を行っている。今回は、2回TKO勝ちしたWBO王者との統一戦から7カ月のスパンでリングに上がることになる。2017年11月に獲得したIBF王座は7度目、2019年10月に吸収したWBC王座は4度目、WBO王座は初防衛戦となる。

ベテルビエフは戦績が示すとおりのスラッガーで、パンチは左右とも一撃でKOする破壊力がある。かといってパワーだけの雑なファイターというわけではない。プレッシャーをかけながら正確で強い左ジャブを打ち込んで相手を追い込むなど戦術にも長けているのだ。2008年北京大会、2012年ロンドン大会と2度の五輪出場のほか、優勝と準優勝を含め3度の世界選手権出場など豊富なアマチュア経験がベースになっていることは間違いない。

挑戦者のヤードもパンチ力では負けていない。19歳でボクシングを始めたためアマチュア経験は12戦(11KO勝ち、1敗)と少ないが、24歳でプロに転向してからは16連続KO勝ちをマークするなどして注目を集めた。その勢いのまま2019年8月にはセルゲイ・コバレフ(ロシア)の持つWBO王座に挑戦。一時は王者をKO寸前まで追い込む見せ場をつくったが、反撃にあって11回TKOで敗れた。翌年、世界ランカー対決で僅少差の判定負けを喫したこともあったが、再戦では4回KOで雪辱。その試合を含め3連続KO勝ちと以前の勢いを取り戻した印象だ。

ヤードは上体を小さく振りながら相手に迫り、右ストレートから左フックに繋げる攻撃パターンを持っている。接近戦の際に突き上げるアッパーも強烈だ。

18戦全KO勝ちの3団体王者と、25戦23勝(22KO)2敗の挑戦者が拳を交えるのだからジャッジの出番はないといっていいだろう。

まずは先手争いに注目したいが、ここでベテルビエフが左ジャブで易々と主導権を握るようだと挑戦者は厳しくなってくる。逆にヤードがプレッシャーをかけて王者を後退させるような展開に持ち込めれば勝負の行方は分からなくなりそうだ。13対2のオッズが出ているようにベテルビエフに分があることは間違いないが、ヤードの強打が波瀾を起こす可能性も十分にある。

原功(はら・いさお)

 1959年(昭34)4月7日、埼玉県深谷市生まれ。日大法学部新聞学科卒業。82年、ベースボール・マガジン社入社。以来18年間「ボクシング・マガジン」の編集に携わり、88年から11年間同誌編集長。現在はWOWOW「エキサイトマッチ」の構成などを担当。著書に「タツキ」「ボクシング 名勝負の真実・日本編/海外編」ほか。