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au版ニッカン★バトル

原功「BOX!」

元五輪王者ディアス 圧倒的不利覆し王座獲得なるか

 20日、ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太(31=帝拳)がプロの世界王座に挑むが、同じ日に海の向こうでも元五輪王者が世界王座に挑戦する。米国ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)で行われるWBC、WBO世界スーパーライト級タイトルマッチで、08年北京五輪ライトウエルター級金メダリストのフェリックス・ディアス(33=ドミニカ共和国)が王者のテレンス・クロフォード(29=米)に挑むもの。14対1で不利という厳しいオッズが出ているディアスだが、この数字をもひっくり返すことができるか。

 ディアスは初めて出場した04年アテネ五輪ではライト級で初戦敗退という結果に終わったが、北京五輪では5試合を勝ち抜いて金メダルを獲得した。翌09年にプロ転向を果たし、8年間で20戦19勝(9KO)1敗の戦績を残している。この1敗は15年10月、現WBA世界ウェルター級王者のレイモント・ピーターソン(33=米)戦で判定を落としたものだが、その後は2連勝を収めている。自国のほか米国、ロシア、ドイツ、プエルトリコで戦うなど逞しい一面も持つが、裏返せばチームのマネージメント力、プロモート力の欠如と分析することもできる。大舞台に辿り着くまでに時間がかかったのは、そうした事情が関係しているともいえる。初の世界挑戦を前にディアスは「私を軽視している人たちに泡を吹かせてみせる」と意気込んでいる。

 そんなエリート挑戦者を迎え撃つクロフォードは、アマチュアの実績では及ばないもののプロではライト級とスーパーライト級の2階級を制覇しており、ディアスを圧倒している。右構えでも左構えでも戦える器用さを持っており、スピードもテクニックも特別クラスといえる。30戦全勝(21KO)と7割のKO率を誇り、「ハンター」のニックネームにたがわずパンチ力もある。WBO王者だった昨年7月にはWBC王者との統一戦に臨み、全勝の相手から2度のダウンを奪って完勝している。近い将来に6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(38=比)との対戦が期待されているが、クロフォード有利の声が多いほどだ。

 そのため両選手のプロモーターを務めるトップランク社は、パッキャオの最後の試合としてクロフォード戦を計画しているとも伝えられる。

 元アマエリートがプロでもトップの座を射止めるのか、それともクロフォードが実力差を見せつけるのか。20日(日本時間21日)、MSGの戦いにも注目したい。

ヘビー級王座統一戦は来春か 簡単には決まらない事情も


 ヘビー級のWBAスーパー王座、IBF王座、WBO王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)の4団体王座統一戦が期待されているが、そんななか両陣営が早くも交渉の駆け引きを始めている。21戦全勝(20KO)のジョシュア、40戦全勝(39KO)のワイルダー。最重量級の英米決戦は来春が濃厚とみられている。

 この3月、統一戦に向けて両者は難関とみられた第一関門を突破した。3日、ワイルダーは元WBA暫定王者のルイス・オルティス(38=キューバ/米)と対戦し、ダウン寸前のピンチを乗り切って10回TKO勝ちを収めた。これで7度目の防衛戦すべてKO(TKO)で片づけたことになる。戴冠試合が判定勝ちだったためデビューからの連続KO勝ちは32で止まったが、世界戦で再び倒しまくっている。身長201センチ、オルティス戦での体重は約97キロと細身の体格だが、パンチにはスピードがあって破壊力もある。以前は耐久力やスタミナに疑問を投げかける関係者やファンもいたが、オルティス戦では両方とも問題ないことを証明した。

 ワイルダーが知名度と評価を上げたのに対し、31日にWBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド/米)との統一戦に臨んだジョシュアは、勝ったもののアピールに欠ける内容だった。プレッシャーをかけ続けながら危なげなくポイントを稼いだ末の大差の判定勝ちで、豪快なKOを期待したファンは肩透かしをくらったかたちとなった。それでも抜群の安定感をみせており、評価を落とすことはなかった。デビュー戦からの連続KO勝ちは20で止まったが、「ボクシングだから、こういうこともある。大事なのは私が3団体の統一チャンピオンになったことだ。ワイルダー、私と戦おう」とリング上からライバル王者に対戦を呼びかけた。

 両陣営は4団体王座の統一戦に向け下交渉を開始している。現時点で主導権を握っているのは、人気に加え3本のベルトを持つジョシュアだ。すでに報酬に関してはジョシュアが6、ワイルダーが4という比率で分配されることに両陣営が合意しているという。こうしたなか3団体王者陣営は先制打としてWBC王者に1250万ドル(約13億3700万円)の報酬を提示した。これに対しワイルダー陣営は「私たちの見積もりでは5000万ドル(約53億円)の報酬が見込まれているのに、その金額は解せない。私たちを軽視するのならばワイルダーは別の相手と戦うことになる」として、2年7カ月ぶりに復帰する元3団体王者のタイソン・フューリー(29=英)の名前を出してライバル陣営を牽制している。ジョシュア陣営も「提示した条件がのめないのならばジョシュアは別の相手と防衛戦を行う」と、こちらも譲るつもりはなさそうだ。

 ただし、これは両陣営の軽いジャブの交換とみられており、本格的な交渉はこれからということになる。英米対決だけに開催地や放送するテレビ局の問題もあり、そう簡単にスーパーファイトが決まるとは思えない。8月か9月に両者が1試合ずつを挟み、来年3月か4月に頂上決戦が実現、という可能性が最も高そうだ。

暫定王座の増加はボクシングの将来を危うくする


 王者が負傷や病気のために戦線離脱した場合に設けられることが多い「暫定王座」は、一時期は減少傾向にあったが、今年に入って再び増加している。善用すれば問題はないシステムだが、ビジネスを優先して利用した場合は大きなマイナス効果を生むリスクもあるだけに懸念する声は多い。

 英語で「INTERIM CHAMPION(インテリム・チャンピオン)」と表記される暫定王者の制度は、負傷した世界王者の留守を預かる存在として1980年代に設けられた。日本では90年代前半に網膜裂孔、網膜剥離に罹患したWBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(大阪帝拳)や、対戦相手が決定戦を経たうえでその肩書を得てファンの間に認知されるようになった。

 この制度は負傷やトラブルなどに遭遇した王者に時間的な猶予を与えて救済するだけでなく、イベントも保護するという点で有効なシステムだが、一方でビジネスを優先するあまり悪用されるケースも目立った。特にWBAでは一時期、17階級のうち常時10階級以上で暫定王者が存在するという事態に陥ったほどだ。これに加えて「スーパー王者」や「休養王者」なども存在するため、収拾がつかない状況に陥りつつあった。WBAは「暫定王者は世界ランク最上位者という扱い」と弁明したが、ベルトが授与されたうえ防衛戦も認められるとあっては説得力に乏しいといわざるを得ない。

 こうしたなか数年前、日本は「WBAの暫定王座については世界王座と認めない」という方針を打ち出して自主規制に乗り出した。こうした圧力が効いたのかWBAは2年前に「世界王者は1階級にひとり」という当たり前の方針を打ち出し、団体内の統一戦を推し進めた。そのためか現在のWBAの暫定王者は4人まで激減している。

 しかし、この3月にはバンタム級で新たな、そして不可解な暫定王者が誕生、波紋を投げかけている。WBAのバンタム級にはスーパー王者としてライアン・バーネット(25=英)がおり、3月31日に指名挑戦者を相手に初防衛を果たしたばかりだ。また、いわゆるレギュラー王座には6度防衛中のジェイミー・マクドネル(32=英)が君臨している。マクドネルは5月25日に井上尚弥(25=大橋)の挑戦を受けることになっている。こうしたなかで暫定王座を設ける必然性はどこにも見当たらない。

 似たようなことはWBC、IBF、WBOでも起こっている。現在、主要4団体で合計10人以上の暫定王者が存在しており、この先もWBOのフェザー級やWBCのウェルター級とミドル級などで暫定王座決定戦が予定されている。増加傾向に拍車がかかっている感がある。

 ヘビー級やクルーザー級などで王座統一が進む一方で、無意味な暫定王座を頻発するという矛盾。この状況に歯止めをかけないと、ボクシングの将来そのものが危うくなってしまうのではないかと危惧している。

ヘビー級4団体王座統一も、壁を越えた王者同士の対決次々と


 昨年の夏あたりから同じ階級の世界王者同士が統一戦で対戦したり、クラスの異なる世界王者同士が拳を交えたりといったケースが目立つ。WBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)の主要4団体が17階級で世界王者を認定している現在、単純計算で68人もの「世界一」が存在するわけだが、そんななか王者同士の対戦は歓迎すべき状況といえる。誰が一番強いのか、どちらが強いのか、そんな声に応える試合は今後も増加していきそうだ。

 昨年12月には米国ニューヨークで五輪連覇の実績を持つ世界王者同士の対戦が実現し、WBOスーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ/米)が、2階級下のWBAスーパーバンタム級王者、ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)に6回終了TKO勝ちを収めた。

 大晦日には東京でライトフライ級の王座統一戦が行われ、WBA王者の田口良一(31=ワタナベ)がIBF王者のミラン・メリンド(30=比)を終盤に引き離して判定勝ち、2団体王者になった。

 今年に入り、王者同士の対決は一気に増加した。ヘビー級の次に重いクルーザー級では大規模の賞金トーナメントが行われていることもあり、1月末にWBC王者対WBO王者、2月初めにWBA王者対IBF王者という2カードが続けて行われた。勝者同士の決勝戦、つまりWBC&WBO王者のオレクサンデル・ウシク(31=ウクライナ)対WBA&IBF王者、ムラト・ガシエフ(24=露)の4団体王座統一戦は5月に予定されている。

 3月にはWBCライト級王者のミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)が、1階級上のIBFスーパーライト級王者、セルゲイ・リピネッツ(29=カザフスタン/露)に挑み、ダウンを奪って判定勝ちを収めた。この勝利でガルシアは4階級制覇を達成した。

 そして31日(日本時間4月1日)にはヘビー級でも王者同士の対決が実現した。WBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)がWBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド/米)を12回判定で下して3団体の王座をまとめた。21戦全勝(20KO)ジョシュアは今秋か来春には40戦全勝(39KO)のWBC王者、デオンタイ・ワイルダー(32=米)との頂上決戦を計画している。ヘビー級の4団体王座が統一されれば、1988年にWBOが新設されてから30年で初のこととなる。

 このほか、今週末4月7日(日本時間8日)にはスーパーウエルター級でもWBAスーパー王者のエリスランディ・ララ(34=キューバ/米)対IBF王者、ジャレット・ハード(27=米)の統一戦が組まれており、1カ月後の5月12日にはWBCライト級王者、ホルヘ・リナレス(32=帝拳)がWBOスーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ)の挑戦を受けることになっている。

 統括団体が増えたことで世界王座の価値が目減りしてきたなか、関係者は様々な工夫を凝らして対応していく必要に迫られている。その最善策のひとつが団体や階級の壁を越えたスター選手同士の試合の実現であることは間違いない。この流れが続くことを願うばかりだ。

ジョシュアVSパーカー ヘビー級決戦生き残るのはどっちだ


 ヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を保持するアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド/米)が3団体の王座統一をかけて3月31日(日本時間4月1日)、英国カーディフで対戦する。右ストレートに一撃KOの破壊力がある20戦全KO勝ちのジョシュア、スピードを身上とする24戦全勝(18KO)のパーカー。3つのベルトを手にするのは?

 現在、主要4団体のヘビー級王座の持ち主は以下のようになっている。

◆WBAスーパー王者:ジョシュア

◆WBAレギュラー王者:マヌエル・チャー(33=レバノン/シリア)

◆WBC王者:デオンタイ・ワイルダー(32=米)

◆IBF王者:ジョシュア

◆WBO王者:パーカー

 上記4選手以外ではルイス・オルティス(38=キューバ/米)が王者と同等の力量を持っているとみられていた。そのため別路線を行くチャーを除くジョシュア、ワイルダー、パーカー、オルティスが「ヘビー級4強」という括りになっていた。そんななか3月3日にワイルダーがオルティスを10回TKOで撃退し、最終決戦に向け準決勝に相当する試合を勝ち抜いた。

 今回はもう一方のブロックでジョシュアとパーカーが互いの王座をかけて拳を交えるわけだ。もちろんワイルダーはリングサイドで観戦することになっている。

 12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストのジョシュアはプロでも2年半で世界王座に駆け上がり、元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を下すなど4度の防衛を果たしている。身長198センチ、リーチ208センチ、体重115キロという恵まれた体から繰り出す正確な左ジャブ、破壊力抜群の右ストレートが主武器の正統派の強打者だ。最近は接近戦で効果的なアッパーを繰り出すなど攻撃の幅を広げている。

 一方のパーカーは身長193センチ、リーチ193センチ、体重は110キロ前後で、体格ではジョシュアに及ばない。その代わり足をつかって距離やタイミングを計るボクシングができ、機動力という点ではライバル王者の上を行く。フルラウンドを戦いきった経験のないジョシュアに対し、パーカーは4度も12ラウンドを戦いきっており、スタミナにも自信を持っている。「ジョシュアは正面にいる相手には強いが、左右に動かれると対応が遅れる」と相手の弱点を指摘している。

 分かりやすくいえばジョシュアのパワーが勝るのか、それともパーカーのスピードが試合を支配するのかという構図だが、実際はそんな単純な戦いにはならないだろう。ジョシュアは相手の速さに対応するため前戦よりも6キロほど体重を絞って試合に臨むとしており、このところ3戦連続で判定勝負になっているパーカーにも右ストレートという決め手があるからだ。

 ともに左ジャブで探りを入れるスタートになりそうだが、徐々にジョシュアが圧力をかけ、パーカーが動きながら迎撃する展開が予想される。13対2というオッズが出ているようにパワーに加え地の利もあるジョシュアが有利だが、総合力には数字ほどの差はない。パーカーが接戦に持ち込んで終盤に抜け出す可能性もある。

いまや一大勢力、旧ソ連勢が世界的に注目される理由


 今月10日、米国テキサス州サンアントニオで行われたWBAスーパーライト級王座決定戦でキリル・レリク(28=ベラルーシ)が勝利を収め、同国出身者としては史上2人目の世界王者になった。このほか、全階級を通じて最も高い総合評価を得ているWBOスーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(30=ウクライナ/米)、ミドル級王座を19度防衛中のゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)ら、旧ソビエト連邦(ソ連)から独立した国出身の現役世界王者は9人もいる。いまや世界的にみても一大勢力といえる。今後、その数と勢いはさらに伸びそうだ。

 旧社会主義体制下のソ連ではプロスポーツは原則として禁止されていたが、1991年に国が崩壊して独立国家が相次いでから様相は一変した。90年代にはロシア出身のユーリ・アルバチャコフやコンスタンチン・チュー、キルギス出身のオルズベック・ナザロフらが世界王座を獲得してパイオニアとなった。これにウクライナ出身のビタリ&ウラジミールのクリチコ兄弟がヘビー級王座を獲得して続いた。ただし、ユーリとナザロフが日本、チューがオーストラリア、クリチコ兄弟がドイツを活動拠点としていたこともあり、まだ世界的な勢力と呼ぶには早い印象があった。

 そんななかゴロフキンが12年に米国進出を果たし、また「クラッシャー(破壊者)」という分かりやすいニックネームのライトヘビー級王者、セルゲイ・コバレフ(露/米)の試合も米国の大手ケーブル・ネットワークで放送されるようになった。前後してドイツのマーケットが規模縮小したこともあり、旧ソ連勢の米国進出に拍車がかかったといえる。

 ショーマンシップという点で物足りなさが残ったのは事実だが、彼らは実力でそんな声を封じていった。ゴロフキンは連続KO勝ちで世界的な注目を集め、コバレフも3団体の王座を統一してアンチの口を封じたのだ。

 プロモーターもトップアマたちとの契約に動いた。そんななかで期待どおりの活躍をみせているのがロマチェンコだ。いまやボクシング界の顔ともいえる存在になっている。

 旧ソ連出身の世界王者の数を同じ3月期で5年おきに見てみると、1998年=2人、2003年=3人、2008年=6人、2013年=7人、2018年=9人(暫定王者を除く)と確実に増加している。ゴロフキンやロマチェンコ、コバレフ、アルツール・ベテルビエフ(露)のように米国やカナダを活動拠点にする人気者がいる一方、ムラト・ガシエフ(露)のように自国に留まっている王者がいるのも近年の特徴だ。また、ベラルーシ、キルギスに加え、今年2月にはアゼルバイジャン国籍の世界王者が誕生するなど出身国の幅も広がっている。

 こうした傾向は今後も続きそうだ。2年前のリオデジャネイロ五輪でウズベキスタンが金メダル3個、銀メダル2個、銅メダル2個を獲得し、カザフスタンも金1、銀2、銅1という実績を残している。すでにそのなかの数人はプロで活動しており、近い将来、トップ戦線に浮上してくるとみられているからだ。

 世界を席巻する旧ソ連勢。さらなるスターの誕生に期待したい。

この春注目 風雲急を告げるバンタム級トップ戦線


 ルイス・ネリ(23=メキシコ)の計量失格とWBC王座剥奪、そして資格停止処分、山中慎介(35=帝拳)の2回TKO負けと引退表明。その5日後には井上尚弥(24=大橋)が3階級制覇を狙って転向-と、このところ53・5キロを体重上限とするバンタム級に関する話題が目立つ。これらは日本関連のニュースだが、世界をみてもこの階級は風雲急を告げる状況になっている。

 主要4団体のうちWBCはネリの王座剥奪にともなって空位になり、IBF王座も3月5日発表のランキングで空位になった。これはWBAスーパー王者でもあるライアン・バーネット(25=英)がIBF王座を返上したためだ。この2団体の王座決定戦は現時点では決まっていない。バーネットは3月31日、元WBA暫定王者のヨンフレス・パレホ(31=ベネズエラ)を相手に自国でWBAスーパー王座の防衛戦を行うことになっている。パレホ(24戦21勝10KO2敗1分)は軽量級の層が厚い中南米で活躍している実力者だが、18戦全勝(9KO)と勢いのあるバーネットに相手国で勝つのは難しいとみられている。

 WBAのレギュラー王座にはジェイミー・マクドネル(31=英)が君臨している。14年5月の戴冠から4年近い在位を誇り、この間に6度の防衛を果たしている安定王者だ。バンタム級では珍しい178センチの長身ボクサーで、WBO王者だった亀田和毅(26=現協栄)にも2度競り勝っている。戦績は33戦29勝(13KO)2敗1分。このマクドネルに5月25日、東京・大田区総合体育館で挑むことになったのが井上だ。プロ6戦目でライトフライ級、8戦目でスーパーフライ級王座を獲得した「モンスター」は、15戦全勝(13KO)と飛ぶ鳥を落とす勢いにある。長身王者の懐に潜り込んで左ボディブロー一閃、鮮やかなKO勝ちで3階級制覇、という映像が目に浮かぶようだ。オッズも7対1で井上有利と出ている。

 こうしたなかWBAは4位のステファン・ヤング(29=米 20戦17勝7KO3分)と、5位のレイマルト・ガバリョ(21=比 18戦全勝16KO)に挑戦者決定戦を命じている。試合は今月23日、米国フロリダ州ハリウッドで行われると予定だ。

 WBO王座にはゾラニ・テテ(30=南ア)が君臨している。この長身サウスポーは昨年11月の初防衛戦で11秒KOという世界戦史上最短KO勝ちを収めた強打者だ。バンタム級では井上の最大のライバル的存在といっていいだろう。4月21日に英国で元2階級制覇王者のオマール・ナルバレス(42=亜)を相手にV2戦に臨む。技巧派サウスポーのナルバエスは14年12月、井上に4度のダウンを奪われて2回KO負けを喫したが、以後は5連勝(2KO)を収めている。この試合で間接的に井上とテテの力関係を計ることができそうだ。テテは29戦26勝(21KO)3敗、勝てば3階級制覇となるナルバエスは52戦48勝(25KO)2敗2分。

 3月23日=ヤング対ガバリョ、3月31日=バーネット対パレホ、4月21日=テテ対ナルバエス、そして5月25日=マクドネル対井上。この春はバンタム級トップ戦線から目が離せない。

IBF・Sライト級選手権、ガルシア無敗で4階級制覇なるか


 10日(日本時間11日)、米国テキサス州サンアントニオで行われるIBF世界スーパーライト級タイトルマッチ、王者セルゲイ・リピネッツ(28=カザフスタン/露/米)対ミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)の一戦が注目を集めている。主役はWBC世界ライト級王座を持ったまま1階級上の王者に挑むガルシアだ。勝てば無敗のまま4階級制覇を達成することになる。

 ガルシアは元IBF世界スーパーフェザー級王者、ロベルト・ガルシアの12歳下の弟としても知られ、現在はその兄と父親の指導を受けている。アマチュア時代は二番手、三番手に甘んじたが、プロでは12年のキャリアで37戦全勝(30KO)というみごとな戦績を残している。13年にフェザー級とスーパーフェザー級で世界王座を獲得したあとプロモーターとの確執でリングから遠ざかった時期もあったが、2年半のブランク後に復帰。昨年1月に現在のライト級王座を獲得し、3階級制覇を成し遂げた。速くて正確な左ジャブを多用して相手をコントロールし、切れのある右ストレートで仕留める正統派の強打者だ。

 そんなガルシアの挑戦を受けるリピネッツはカザフスタンの出身で、ロシア国籍を持っている。14年のプロデビューもロシアだったが、いまは米国カリフォルニアを活動拠点としている。現在の王座は昨年11月に近藤明広(一力)との決定戦を制して獲得したもので、これが初防衛戦となる。初めての大舞台となった近藤戦では慎重に戦いすぎたこともあって消極的な姿勢が目立ったが、本来は頑丈な体を利して圧力をかける攻撃型だ。もともとリピネッツはキックボクシングの選手で、そのあとでアマチュアボクシングに転じ、4年前にプロデビューした経歴を持つ。試合数は13戦(全勝10KO)と少ないが、KO率は77パーセントと高く、ガルシアの81パーセントと比べても引けをとらない。

 もともとこの試合は2月10日に予定されていたが、1月中旬にリピネッツが右手を痛めたため1カ月延期された経緯がある。それを含め、近藤戦よりも数倍のプレッシャーがかかると思われるリピネッツにとって好材料は見当たらないカードともいえる。それでもガルシアは「リピネッツは体も大きくて若い。私に勝つために全力でぶつかってくると思う」と警戒している。

 近い将来、ガルシアはWBA世界ライト級王者のホルヘ・リナレス(帝拳)やWBO世界スーパーフェザー級王者、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ/米)らとの対戦が期待されている。そうしたスーパーファイトに向け、存分にアピールすることができるかどうか注目される。

 オッズは10対1でガルシア有利と出ているが、これは開きすぎのように思える。リピネッツが本来の攻撃的なボクシングをしてガルシアの野望を砕く可能性もある。

ワイルダーかオルティスか ヘビー級無敗対決に注目


 3月3日(日本時間4日)、米国ニューヨークのバークレイズ・センターで行われるWBC世界ヘビー級タイトルマッチが注目を集めている。3年間に6連続KO防衛を果たしているデオンタイ・ワイルダー(32=米)に、「キングコング」の異名を持つ元WBA暫定王者、ルイス・オルティス(38=キューバ/米)が挑む一戦だ。ワイルダーが39戦全勝(38KO)、サウスポーのオルティスが30戦28勝(24KO)2無効試合。KO決着が約束された試合といえる。

 身長201センチ、体重104キロ前後という細身のワイルダーは、アマチュア時代には08年北京五輪ヘビー級(91キロ以下)で銅メダルを獲得している。その3カ月後にプロに転向し、いきなり32連続KO勝ちを収めて注目された。慎重なマッチメークの助けがあったことは事実だが、すべて4回以内に倒してしまったのだから驚きだ。長身から打ち下ろす右ストレートに一発KOの威力を秘めている攻撃型で、スピードもある。相手がダメージを受けたと察知したら荒っぽい左右のフックを叩きつけて倒してしまう。世界王座を獲得した試合で初めて12回の長丁場を経験したが、スタミナも問題なかった。その後、6度の防衛を重ねてきたが、どの試合もジャッジの手を煩わせることなくKOで終わらせてきた。

 対するオルティスは選手層の厚いキューバで368戦349勝19敗という豊富なアマチュア・キャリアを積み、30歳でプロに転向した。15年にWBA暫定王座を獲得したが、プロモーターとの摩擦などもあって1年足らずで返上。以来、王座挑戦の機会を待ち続けてきた。本来ならば昨年11月にワイルダーに挑むはずだったが、自身のドーピング違反のためキャンセルになり、今回、あらためて挑戦することになった。こちらもヘビー級を代表する強打者だが、単なる一発屋ではなく、タイミングのいいカウンターなど攻防両面のテクニックを備えたサウスポーの万能型といえる。

 試合が決まった当初のオッズは7対4(ワイルダー有利)と接近していたが、試合が近づくにつれて差が開き、試合10日前時点では11対4となっている。ワイルダーの勢いやオルティスの年齢が数字に反映されているのかもしれない。

 しかし、無敗同士、しかも100キロを超す最重量級の強打者同士のカードだけに、一発でけりがつく可能性もある。予断は禁物といえる。10月に33歳になるワイルダーは3月3日の決戦を控え、「3に縁があるので、試合も3回ぐらいで終わるだろう。もっと早いかもしれない」とKO宣言している。オルティスも「ワイルダーはお喋りが過ぎる。私を倒すって? やってみればいいさ。逆に彼がキャンバスを這うことになるだろう」と舌戦でも譲らない。

 現在、ヘビー級はワイルダーとオルティス、WBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)、そしてWBO王者のジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド/米)が4強といわれている。年内に期待される最終統一戦に向け、3月31日(日本時間4月1日)にはジョシュア対パーカーが組まれている。今回のワイルダー対オルティスは、準決勝第1試合という位置づけにあるわけだ。

 ワイルダーの右ストレートが炸裂するのか、それともオルティスの左カウンターが先に命中するのか-。

英雄パッキャオが牽引、更に勢い増すフィリピン旋風


 フィリピンのボクサーというと、ほとんどの人は6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(39)を真っ先に思い浮かべるだろう。その英雄に引っ張られ、このところ同国出身の軽量級選手たちの奮闘が目立つ。24日(日本時間25日)には3階級制覇の実績を持つドニー・ニエテス(35)と、元2階級制覇王者のブライアン・ビロリア(37)が米国カリフォルニア州イングルウッドで揃って世界戦のリングに上がる。ニエテスはIBF世界フライ級王座の初防衛戦、ビロリアはWBA世界フライ級王座決定戦に臨む。さらに3月1日には岩佐亮佑(28=セレス)の持つIBF世界スーパーバンタム級王座に同級13位のエルネスト・サウロン(28)が挑戦することになっている。さらなるフィリピン旋風が巻き起こるか。

 21世紀に入ってから、フィリピンのボクシング界は米国で大成功を収めたパッキャオに牽引されてきたといっていいだろう。パッキャオは無名の状態で渡米し、並み居る強豪をバッタバッタと倒してスーパースターの座に上り詰め、3年前のフロイド・メイウェザー(米)戦では約140億円を稼いだほどだ。

 これに続いたのがノニト・ドネア(35)だ。貧しい環境で育ち少年時代に家族で米国に移住していたドネアは、フライ級からフェザー級までの5階級で世界王座を獲得。「フィリピンの閃光」として一時代を築いた。

 24日の試合に出場するニエテス(45戦40勝22KO1敗4分)はミニマム級とライトフライ級で王座についたあと、昨年4月にフライ級王座も獲得。パッキャオ、ドネアに続いてフィリピン人として3人目の3階級制覇を成し遂げた。今回の初防衛戦では元ライトフライ級、フライ級王者のファン・カルロス・レベコ(34=亜 42戦39勝19KO3敗)の挑戦を受ける。レベコは3度の来日経験があり、井岡一翔(井岡)には2敗しているものの世界戦だけで17戦14勝(8KO)3敗という戦績を残している強豪だ。接戦が予想されるなか、ニエテスは王座を守ることができるか。

 ビロリア(45戦38勝23KO5敗2無効試合)は井岡が返上して空位になったWBA世界フライ級王座をアルテム・ダラキアン(30=アゼルバイジャン/ウクライナ 15戦全勝11KO)と争う。ビロリアはハワイ生まれだが、両親がフィリピン人で自身も生後9カ月から5歳までフィリピンで過ごしたことがある。ライトフライ級とフライ級で世界一になった実績を持ち、勝てば5年ぶりの返り咲きとなる。

 フライ級では今月4日に15連続KO勝ちを収めたばかりの比嘉大吾(22=白井・具志堅)がWBC王座に君臨している。統一戦を熱望している比嘉は24日に行われるライバルたちの試合を観戦することになっており、結果と交渉しだいではニエテス、あるいはビロリアとの対戦が現実味を帯びてきそうだ。

 その4日後にはサウロン(24戦21勝8KO2敗1分)が岩佐に挑む。スピードとテクニックを併せ持つ王者にどこまで迫ることができるか。予想は岩佐有利だが、サウロンの攻撃力は侮れない。

 前後するが、今月3日にはIBF世界スーパーフライ級王者のジェルウィン・アンカハス(26)が米国で4度目の防衛戦を行い、10回TKO勝ちを収めたばかりだ。さらに4月にはパッキャオが米国、ドネアが英国のリングに上がる予定になっている。フィリピン勢の活躍は、しばらく続きそうな気配だ。

決勝進出は誰?WBSSスーパーミドル級準決勝に要注目


 前回、賞金トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」のクルーザー級の準決勝について触れたが、今週末17日(日本時間18日)と来週末24日(同25日)には、英国とドイツでスーパーミドル級の準決勝を迎える。初戦を勝ち上がった4人ともヨーロッパの選手で、そのうち3人が英国の人気者ということもあって大きな注目を集めている。

 17日に英国マンチェスターでは、WBAスーパーミドル級スーパー王者ジョージ・グローブス(29)対元WBA世界ミドル級暫定王者クリス・ユーバンク・ジュニア(28)という英国人対決が行われる。

 グローブスは14年、当時のWBA、IBF王者カール・フロッチ(英)に再挑戦した際にはロンドンのウェンブリー・スタジアムに7万人の大観衆を集めたこともある人気選手で、昨年5月に4度目の挑戦で念願の世界王座を獲得。10月のWBSS初戦では24戦全勝だった相手を4回にボディブローでKO、準決勝に駒を進めるとともに初防衛を果たしている。戦績は30戦27勝(20KO)3敗。

 対するユーバンク・ジュニアは元世界2階級制覇王者の息子としても知られる。話題先行型ではなく、技量も高く評価されている実力派で、15年には史上6例目の親子世界王者になっている。この3年間は8戦全勝(7KO)と倒しまくっている。WBSS準々決勝では初回に右アッパーでダウンを奪い、3回には左フックで戦慄的なKO勝ちを収めて評価を上げた。戦績は27戦26勝(20KO)1敗。勝てば2階級制覇となる。

 グローブスは「彼は自分が勝つ運命にあると信じているようだが、それは間違いだ。彼の時代なんか来やしないよ」とライバルを挑発しているが、オッズは3対2でユーバンク・ジュニア有利と出ている。

 その1週間後の24日、ドイツのニュルンベルクではWBC1位、WBO2位のカルム・スミス(27=英)と、元WBA、WBOライトヘビー級王者ユルゲン・ブレーマー(39=独)が対戦する。こちらはスミスの評価が高く、6対1のオッズで有利とみられている。

 スミスは英国では有名な「スミス4兄弟」の末弟で、3男(リアム・スミス)に続く兄弟世界王者の期待を背負っている。191センチの長身から繰り出す鋭い右ストレートが主武器で、5年のキャリアで23戦全勝(17KO)をマークしている。無冠ながらスーパーミドル級最強の声もあるほどだ。

 自国開催のアドバンテージを持つブレーマーは、ライトヘビー級から階級を落としてトーナメントに参戦。初戦では22戦全勝のホープを下して準決勝に上がってきた。18年以上のキャリアで52戦49勝(35KO)3敗の戦績を残している連打型のサウスポーだ。

 この4人のうち誰と誰が決勝に進出するのか。ユーバンク・ジュニアとスミスの下馬評が高いが、強靭なハートを持つグローブス、経験豊富なブレーマーが予想を覆す可能性もある。17日と24日、ヨーロッパで行われる2試合に要注目だ。

WBSSで盛り上がるクルーザー級とスーパーミドル級


 3日(日本時間4日)、ロシアのソチ近郊アドレルで行われたクルーザー級世界王座統一戦で、IBF王者のムラト・ガシエフ(24=露)がWBA王者ジュニエル・ドルティコス(31=キューバ/米)に12回TKO勝ちを収め、2団体統一王者になった。この試合は重量級の賞金トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」の準決勝でもあったため、勝ったガシエフは5月にWBC、WBO王者のオレクサンデル・ウシク(31=ウクライナ)と決勝で対戦することになった。ヘビー級の次に重いクルーザー級は比較的スポットが当たることの少ないクラスだが、このトーナメントが実施されたことで盛り上がりをみせている。

 WBSSはヨーロッパと米国のプロモーターが共同で企画、プロデュースして昨年9月にスタートした。実施階級はクルーザー級とスーパーミドル級の2クラスに限定されている。各階級に8人のトップ選手がエントリーし、準々決勝、準決勝、決勝を行って覇権を争うという勝ち抜き戦だ。2階級の賞金総額が5000ドル(約55億円)と高額であるためクルーザー級は主要4団体の王者たちが揃って参加。初戦となる準々決勝では4王者全員が防衛を果たすかたちで勝ち上がり、1月27日にはWBOのウシクがWBC王者のマイリス・ブリエディス(33=ラトビア)に判定勝ちを収めて決勝に駒を進めている。ガシエフはもう一方のブロックを勝ち上がったわけだ。

 12年ロンドン五輪ヘビー級金メダリストでもあるサウスポーのウシクは14戦全勝(11KO)の技巧派強打者で、すでに4度の防衛を果たしている。対するガシエフも27戦26勝(19KO)1無効試合と無敗をキープしている。この両者による決勝は5月11日、サウジアラビアのジェッダで行われる。どちらが優勝賞金1000万ドル(約11億円)と「モハメド・アリ・トロフィー」を手にするのか。

 一方、スーパーミドル級の方も佳境に入ってきた。準々決勝を勝ち上がったWBAスーパー王者のジョージ・グローブス(29=英)と、元WBA世界ミドル級暫定王者のクリス・ユーバンク・ジュニア(28=英)が今月17日に英国マンチェスターで対戦する。その1週間後の24日にはWBC1位、WBO2位のカルム・スミス(27=英)が、元WBA&WBO世界ライトヘビー級王者のユルゲン・ブレーマー(39=独)とドイツのニュルンベルクで拳を交える。戦績はグローブス=30戦27勝(20KO)3敗 ユーバンク・ジュニア=27戦26勝(20KO)1敗 スミス=23戦全勝(17KO) ブレーマー=52戦49勝(35KO)3敗。

 世界挑戦を先延ばしにして参戦したスミスとユーバンク・ジュニアの下馬評が高いが、はたして両者は順当に決勝に駒を進めることができるのか。こちらも要注目だ。

アンカハスは「パッキャオ2世」の域に辿り着けるか


 WBO世界スーパーフライ級王者、井上尚弥(24=大橋)の対抗王者でもあるIBF同級王者、ジェルウィン・アンカハス(26=比)が2月3日、9位のイスラエル・ゴンサレス(メキシコ)を相手に米国テキサス州コーパスクリスティで4度目の防衛戦に臨む。井上との統一戦プランが浮上したこともあったアンカハスは、元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(39=比)がプロモートするサウスポーの強打者で、昨秋にはそのパッキャオも契約している米国の大手プロモート会社、トップランク社と提携。今回の試合を機に本場で「パッキャオ2世」として売り出すことになった。

 アンカハスは09年に17歳でプロデビューしてから9年、30戦28勝(19KO)1敗1分の好戦績を残している。この間、16年9月にはIBF世界スーパーフライ級王座を獲得。昨年は自国を離れマカオ(中国特別行政区)、ブリスベン(オーストラリア)、ベルファスト(英国北アイルランド)で防衛戦を行い、7回終了TKO、7回TKO、6回TKOで3試合とも圧勝した。日本のファンには、7月のV2戦で帝里木下(千里馬神戸)を圧倒したすえ、ボディブローをヒットして7回TKOで退けた試合が記憶に新しいはずだ。このときはパッキャオの防衛戦の前座だった。

 アンカハスはパッキャオと同じサウスポーで、ボディと顔面の打ち分けを得意としている。本家ほどの荒々しさはないが、試合はなかなかエキサイティングだ。KO率は63パーセントと際立って高いわけではないが、直近の15戦(全勝)では14KOと倒しまくっている。

 こうした活躍と好戦的な戦闘スタイルが評価され、パッキャオが契約しているトップランク社と提携することになった。ボブ・アラム・プロモーターは「すでにアンカハスは十分な力を持っているが、まだまだ伸びる可能性がある。米国で実績を積み上げれば軽量級のパッキャオになるだろう」と大きな期待を寄せている。こうした一方、一時は2月下旬に統一戦を行うプランが浮上していた井上にとっては、歯噛みしたくなる思いが残ったはずだ。

 アンカハスの米国進出初戦の相手、ゴンサレスは22戦21勝(8KO)1敗の戦績を残しているが、強豪との対戦は少ない。王者にとっては圧勝がノルマの試合といえそうだ。

 名実ともに「パッキャオ2世」の域に辿り着けるのかどうか。アンカハスの今後に注目していきたい。

リナレス近未来の大舞台へ、勝利&内容問われるV3戦


 WBA世界ライト級王者、ホルヘ・リナレス(32=帝拳)の3度目の防衛戦が27日(日本時間28日)、同級15位のメルシト・ヘスタ(30=比/米)を相手に米国カリフォルニア州イングルウッドで行われる。すでに3階級制覇を成し遂げているリナレスにとっては通過点と位置づけられる試合だが、ビッグマッチのプランも浮上しているだけに取りこぼしは許されない。スピードとテクニックでサウスポーの挑戦者を圧倒することができるか。

 リナレスは14年12月にWBC世界ライト級王座を獲得し、フェザー級、スーパーフェザー級に続き3階級制覇を達成。2年前、そのWBC王座のV3戦を前に拳を負傷したため“休養王者”に格下げされたが、復帰戦ではWBA王座を獲得して鬱憤(うっぷん)をはらした。昨年3月には前王者を返り討ちにし、9月には12年ロンドン五輪金メダリストを退けた。いずれも12回判定勝ちだったが、2試合ともダウンを奪って貫録を示している。02年12月に日本でプロデビューを果たしてから15年、故国ベネズエラのほかメキシコ、アルゼンチン、米国、英国、パナマなど世界各地のリングに上がり46戦43勝(27KO)3敗のレコードを残している。

 そのリナレスには現WBC世界ライト級王者のミゲール・マイキー・ガルシア(30=米 37戦全勝30KO)、WBO世界スーパーフェザー級王者、ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米 11戦10勝8KO1敗)らとの対戦プランが持ち上がっている。ともに世界的な知名度が高いスター選手で、彼らに勝てばリナレス自身がもう一段上のステージに上がることができる。

 そういった意味でも今回の防衛戦は、勝利はもちろんのこと内容も問われる試合といえる。挑戦者のヘスタはキャリア14年、34戦31勝(17KO)1敗2分の戦績を残しているサウスポーで、世界挑戦は2度目となる。12年12月のIBF王座挑戦は12回判定負けに終わったが、以後は6戦5勝(3KO)1分と復調している。リナレスとはスパーリングをしたことがあり「彼の戦い方は頭に入っている。難しい試合になることは覚悟しているが、何が起こるか分からないのがボクシング。勝って世界王者になる」と意気込んでいる。

 体格に加え経験値、さらにスピードやテクニックなど個々の戦力でもリナレスが上回っており防衛が濃厚とみられているが、打たれ脆い面があるだけに油断はできない。存在感を示したうえで近未来の大舞台に繋げることができるか。リナレスのV3戦に要注目だ。

初防衛戦スペンスはウエルター級サバイバルウォーズの核になれるか


 実力のあるスター選手が集結し、激しいサバイバルウォーズが展開されそうなウエルター級で核になる可能性が高いと目されているIBF王者、エロール・スペンス(28=米)が20日(日本時間21日)、米国ニューヨークで元2階級制覇王者のレイモント・ピーターソン(33=米)を相手に初防衛戦を行う。12年ロンドン五輪出場後にプロデビューし、22戦全勝(19KO)と破竹の快進撃を続けているサウスポーは、経験値の高いベテランをも撃破してしまいそうだ。

 ロンドン五輪ではウエルター級ベスト8に甘んじたスペンスだが、12年11月にプロに転向後は圧倒的な強さを見せつけている。身長177センチ、リーチ183センチとバランスのとれた体からスピードに乗ったパワフルなコンビネーションを繰り出して相手を粉砕し、見る者を魅了してしまう。ファイターが相手でも打ち負けることはなく、テクニシャンが相手でもスキルで引けをとることはない。どの距離でも戦える万能型といっていい。現在の王座は昨年5月、相手の地元でもある英国で11回KO勝ちを収めて奪い取ったもので、スタミナも度胸もある。現状に満足することなく努力を続ければスーパースターの座も夢ではない逸材だ。

 初防衛戦の相手、ピーターソンはスーパーライト級時代にWBAとIBFの2冠王者になり、ウエルター級転向後の昨年2月にはWBA王座を獲得した実績を持つ実力者で、39戦35勝(17KO)3敗1分の戦績を誇る。スペンスほどのパワーはないが、こちらも距離をとっても接近しても戦えるタイプだ。世界戦を8度経験しており、その点では王者を上回っている。

 16対1というオッズが示すように圧倒的にスペンス有利とみられているが、多くのファンや関係者の関心は、実はその先にあるといってもいいだろう。このクラスにはWBAスーパー王座とWBC王座を持つキース・サーマン(29=米)という高度安定王者がおり、下の階級からはオールマイティなテレンス・クロフォード(30=米)が上がってきて、スペンスを含めて3強時代を形成しつつある。さらにクロフォードの挑戦を受ける予定のWBO王者、ジェフ・ホーン(29=豪)、そのホーンの前の王者で6階級制覇の実績を持つマニー・パッキャオ(39=比)、元IBF王者のショーン・ポーター(30=米)、元2階級制覇王者のダニー・ガルシア(29=米)と個性的なタレントが揃っているのだ。先ごろプライベートで来日したサーマンは「すごく面白い階級だと思う。私とスペンス、クロフォードが勝ち進んで、統一戦をやればすごいことになるだろう」とライバルの台頭を歓迎している様子だった。

 年内にも実現が期待されるサーマンとの統一戦に向け、スペンスはどんな内容、どんな結果で存在感を示すのか。

シールズ初防衛戦を全米中継へ、女子ボクシング人気復活なるか


 五輪連覇後にプロ転向し、昨年8月に4戦目でWBCとIBFの女子世界スーパーミドル級王座を獲得したクラレッサ・シールズ(22=米)が12日(日本時間13日)、米国ニューヨーク州ベローナで両王座の初防衛戦に臨む。挑戦者は20戦17勝(2KO)3分の戦績を誇る元WBC女子ミドル級王者のトリ・ネルソン(41=米)。無敗対決を前にシールズは「12日から始まる今年の旅が楽しみ」と、試合が待ちきれない様子だ。

 シールズは父親の影響で11歳のときにボクシングを始め、ジュニアの大会に出場して経験を積んだ。12年の世界選手権では2回戦でポイント負けを喫したが、これがアマチュア、プロを通じて唯一の敗北だ。その年のロンドン五輪に17歳で出場すると、3試合を勝ち抜いて75キロ以下の女子ミドル級で金メダルを獲得した。

 14年の世界選手権、16年の世界選手権を制すると、16年リオデジャネイロ五輪でもミドル級で優勝、ロンドン大会に続く連覇を果たした。アマチュア戦績は78戦77勝(18KO)1敗(75戦74勝1敗説もある)。女王の名に相応しい実績といえる。

 16年11月にプロ転向を果たすと2戦目にNABF北米王座、3戦目にWBCシルバー王座を獲得。そして昨年8月には4戦目(全勝2KO)で2団体の世界王座についた。実力はもちろんのことイベントのメインに据えられ、テレビがシールズの試合を生中継するなど米国での人気と注目度は高い。

 挑戦者のネルソンは、シールズがジュニアの大会に出ていたころ(10年)に34歳でプロデビューし、7年半も無敗を保っている。この間、WBC女子ミドル級王座やマイナー団体のミドル級、ウエルター級、スーパーウエルター級、スーパーミドル級王座を獲得しており、侮れない相手といえそうだ。

 米国ではレイラ・アリ(米)やクリスティ・マーティン(米)らの活躍で女子ボクシングは90年代に一時的に米国で人気を集めたが、彼女らの引退を機に下火になっていた。現在、シールズの台頭によって再び注目されるようになりつつある。その点はシールズも十分に理解しており「私の最終目標は女子ボクシングの人気を高めること。そのためにも頑張る」と話している。今回も大手ケーブル・ネットワーク、ショータイムで試合が全米に放送される予定だ。22歳の女王の奮闘に注目したい。

2018年、実現が期待されるスーパー・ファイト


 年の初めということで、今回は2018年中に実現が期待されるスーパー・ファイト、さらに注目選手などを挙げてみたい。

 最注目カードは、ヘビー級の王者対決であろう。主要4団体のうちWBAのスーパー王座とIBF王座を保持しているアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者デオンタイ・ワイルダー(32=米)の英米対決だ。12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストでもあるジョシュアは、プロ転向後20戦全KO勝ちの正統派強打者で、17年4月には通算23度の防衛を誇った元王者ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで下して引退に追いやっている。

 対するワイルダーは08年北京五輪のヘビー級銅メダリストで、プロ転向後は39戦全勝(38KO)という戦績を残している。現在の王座はジョシュアよりも早い15年1月に獲得し、以来、3年間に6連続KO防衛を果たしている。身長201センチ、体重102キロ前後の細身の体だが、戦いぶりはダイナミックでスリリングだ。統一戦に向け両陣営は下交渉を開始しているが、まだ駆け引きの段階といえる。ともに春に防衛戦を計画しており、それをクリアすることが前提となるが、その後、一気に対戦話が進展する可能性もあるだけに要注目だ。

 昨年のベスト・ファイトのひとつに挙げられるWBA、WBC、IBF3団体統一世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)対サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)の再戦は、5月5日に実現しそうな気配だ。戴冠試合を含めて世界戦で20戦19勝(18KO)1分のゴロフキンと、スーパーウエルター級とミドル級を制覇している52戦49勝(34KO)1敗2分のアルバレス。初戦はゴロフキンが攻め、アルバレスが下がりながら効率的に迎撃する展開に終始したが、再戦では派手な打撃戦を期待したい。

 上記4人以外で注目選手をリストアップするならば、まずWBO世界スーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)を挙げたい。この五輪連覇のサウスポーはプロ7戦で世界2階級制覇を成し遂げ、昨年は3試合連続で相手をギブアップさせるなど乗りに乗っている。今年はライト級への進出が予想される。

 ウエルター級のIBF王者エロール・スペンス(27=米)も、さらなる飛躍が期待される。この9連続KO中のサウスポー王者は1月20日に元2階級制覇王者レイモント・ピーターソン(33=米)と初防衛戦を行う予定だ。WBA、WBC王者のキース・サーマン(29=米)や3階級制覇を狙うテレンス・クロフォード(30=米)らとの対決が期待される。

 このほか12戦全KO勝ちでIBF世界ライトヘビー級王座についたアルツール・ベテルビエフ(32=露/カナダ)、2月に4階級制覇を狙ってIBF世界スーパーライト級王座に挑むミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)、WBC世界スーパーウエルター級王者ジャメール・チャーロ(27=米)と、双子の兄でミドル級制覇を狙うジェモール・チャーロ(27=米)にも注目したい。

 また、今年はWBA世界ミドル級王者の村田諒太(31=帝拳)をはじめとする日本のトップ選手たちの海外進出も増えそうだ。

 実りの多い年になることを祈りたい。

MVPはロマチェンコ/2017世界ボクシング界


 2017年も残り5日となったところで、今年の世界のボクシング界を大まかに振り返ってみたい。分かりやすくMVP、殊勲、敢闘、技能、新鋭といった賞に分けて活躍した選手たちを挙げてみよう。

 MVPはWBO世界スーパーフェザー級王者のワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)で問題ないだろう。WBA&IBF世界ヘビー級王者のアンソニー・ジョシュア(28=英)、スーパーライト級の4団体統一を果たしたテレンス・クロフォード(30=米)と秋までは肩を並べていたが、ロマチェンコが12月にギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)との五輪連覇対決を制して完全に抜け出した。まだプロで11戦(10勝8KO1敗)しか経験していないサウスポーのロマチェンコだが、細かく動きながら正確にパンチを当てる独特のスタイルでどこまで強く、巧くなるのか興味は尽きない。準MVPとしてジョシュアを推したい。

 殊勲賞は、全階級を通じて最も評価の高かったローマン・ゴンサレス(30=ニカラグア)を連破したWBC世界スーパーフライ級王者のシーサケット・ソールンビサイ(30=タイ)だ。3月の初戦は論議を呼ぶ判定勝ちだったが、9月の再戦では右フックでゴンサレスをキャンバスに沈めた。次点で、6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(39=比)を破ってWBO世界ウェルター級王座を獲得したジェフ・ホーン(29=豪)が続く。

 敢闘賞には、自国を離れて年間3度の防衛を果たしたジェルウィン・アンカハス(25=比)を推したい。このほかWBO世界クルーザー級王者のオレクサンデル・ウシク(30=ウクライナ)、3階級制覇を成し遂げたWBC世界ライト級王者ミゲール・マイキー・ガルシア(30=米)、さらにハイレベルの相手から2度の王座防衛を果たした3団体統一世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)、敵地でIBF世界ウェルター級王座を獲得したエロール・スペンス(27=米)もいる。

 技能賞は、MVP候補の項で名前の出たクロフォード、7度の防衛を果たしているWBA世界スーパーウエルター級王者のエリスランディ・ララ(34=キューバ/米)、WBA世界ライト級王者ホルヘ・リナレス(32=帝拳)、そして12月にWBO世界ミドル級王座のV3を果たしたビリー・ジョー・サンダース(28=英)の4人だ。

 新鋭賞は、すでにWBC世界スーパーミドル級王座獲得を成し遂げてはいるものの21歳と若いデビッド・ベナビデス(米)と、もうひとり前IBF世界スーパーフェザー級王者のジャーボンタ・デイビス(23=米)を挙げたい。ベナビデスが19戦全勝(17KO)、デイビスが19戦全勝(18KO)と高いKO率を誇る。来年の活躍が楽しみだ。

 KO賞は、4月と10月に指名挑戦者を相手に痛烈なKO防衛を果たしたWBC世界スーパーウエルター級王者、ジャメール・チャーロ(27=米)が入った。チャーロは30戦全勝(15KO)と驚くほどKO率が高いわけではないが、このところ4連続KO勝ちとパンチが切れまくっている。

 年間最高試合は、4月に9万人を集めて行われたジョシュア対ウラジミール・クリチコ(41=ウクライナ)のWBA&IBF世界ヘビー級タイトルマッチで異論はないだろう。

 5回にダウンを奪ったジョシュアが逆に6回にはキャンバスを這い、さらに展開が変わるなか11回に再逆転となる2度のダウンを奪ってレフェリー・ストップに持ち込むというドラマチックな試合だった。引き分けに終わったゴロフキン対サウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)の3団体統一世界ミドル級タイトルマッチ、シーサケット対ゴンサレスの再戦もスリリングな試合だった。

 また今年は特別に、11月に世界戦史上最短となる11秒KO勝ちを収めたWBOバンタム級王者、ゾラニ・テテ(29=南アフリカ共和国)に「記録賞」を贈りたい。

 ロマチェンコのさらなる活躍、ヘビー級王座統一戦など、世界のボクシング界は2018年も賑やかな年になりそうだ。

村田諒太を中心に風雲急を告げるミドル級トップ戦線


 村田諒太(31=帝拳)がWBA王座に君臨するミドル級のトップ戦線が、ここにきて俄然ヒートアップしてきた。WBAのスーパー王座とWBC王座、IBF王座を保持するゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)を軸に、人気と知名度の高いサウル・カネロ・アルバレス(27=メキシコ)、そして16日にWBO王座の3度目の防衛を果たしたビリー・ジョー・サンダース(28=英)も加わり、風雲急を告げる状況となってきたのだ。

 もともと160ポンド(約72・5キロ)を体重リミットとするミドル級は欧米を中心に選手層が厚く、軽量級のスピードとヘビー級のパワーを併せ持った猛者が多いことで知られる。それはいまも変わらない。村田自身が「自分よりも強い選手がいる」と認めるゴロフキンは38戦37勝(33KO)1分の戦績を誇るミドル級の主で、7年間に17連続KO防衛を含むV19を果たしている。圧力をかけながら強打で攻め落とすタイプで、一時代を築いた王者といっていいだろう。

 そのゴロフキンと9月に引き分けたアルバレスも同等の実力の持ち主だ。もともと1階級下のスーパーウエルター級の王者だが、ミドル級でWBC王座を獲得したこともある。攻めてよし守ってよしの万能型強打者で、メキシコを中心に人気もある。52戦49勝(34KO)1敗2分。来年5月にゴロフキンとの再戦が計画されている。

 16日に元IBF王者デビッド・レミュー(28=カナダ)を大差の判定で退けたサンダースはサウスポーの技巧派で、スピードとスキルを身上としている。初めて英国外に出てレミューに完勝したことで自信と評価を上げており、「ゴロフキンに勝って最強であることを証明したい」と息巻いている。26戦全勝(12KO)。

 このサンダース以上の評価を得ているのがWBC1位のジャモール・チャーロ(27=米)だ。スーパーウエルター級のIBF王座を返上してミドル級に転向してきたチャーロは7月、挑戦者決定戦を4回TKOで制して自力で最上位に上がってきた。26戦全勝(20KO)のハードパンチャーで、台風の目といえる存在だ。

 さらに同じくスーパーウエルター級WBA王座を返上してミドル級に参入してきたデメトリアス・アンドレイド(29=米)も地力がある。この25戦全勝(16KO)のサウスポーは身長185センチ、リーチ187センチと大柄で、相手にとっては戦いにくいタイプといえる。

 このほかゴロフキンと互角に近い戦いを展開した元WBA王者ダニエル・ジェイコブス(30=米)、IBFの指名挑戦権を持つ11戦全勝(9KO)のセルゲイ・デレビャンチェンコ(32=露/ウクライナ/米)も力がある。

 また、12年ロンドン五輪決勝で村田に惜敗したエスキーバ・ファルカン(28=ブラジル)と、同五輪ライトヘビー級で銅メダルを獲得したヤマグチ・ファルカン(29=ブラジル)の兄弟も勢いがある。この両サウスポーはダークホース的な存在といえる。

 さらに16日にWBC、WBO8位、WBA10位のアントワヌ・ダグラス(25=米)を7回TKOで破った元上位ランカーのゲイリー・オサリバン(33=英/アイルランド)もトップ10復活が確定的で、無視できない存在になってきそうだ。

 来年4月ごろに予定される村田の初防衛戦、そしてミドル級トップ戦線の行方から目が離せなくなってきた。

村田のライバル、サンダースが敵地で3度目の防衛戦


 WBO世界ミドル級王者、ビリー・ジョー・サンダース(28=英)の3度目の防衛戦が16日(日本時間17日)、カナダのケベック州ラヴァルで行われる。相手は地元の人気者、前IBF同級王者のデビッド・レミュー(28=カナダ)。スピードとテクニックに定評のあるサウスポーのサンダースが敵地防衛を果たすのか、それともKO率80パーセントの強打者、レミューが団体を変えて王座返り咲きを果たすのか。同じ階級のWBA王者、村田諒太(31=帝拳)も注目する一戦だ。

 祖父がベアナックル(素手)の元王者で、父親は元アマチュアボクサーという家系に生まれ育ったサンダースは、08年北京五輪に出場(ウェルター級2回戦敗退)後、09年2月にプロデビューした。同じ英国のライバルたちとのサバイバル戦を勝ち抜き、2年前にWBO王座を獲得。しかし、その後は故障やビジネス上のトラブルなどが相次ぎ、初防衛戦まで1年、さらにV2戦まで9カ月という間延びした試合間隔となった。この間、村田との対戦プランも浮上したが、実現には至らなかった。

 サンダースはサウスポーの技巧派で、右ジャブを突いて間合いを計り、左ストレートから右フックを返す攻撃パターンを持っている。25戦全勝(12KO)という戦績が示すようにパワーには欠けるが、堅実で大崩れしないタイプといえる。

 これに対しレミューは、デビューからの20連続KO勝ちを含め41戦38勝(33KO)3敗というレコードを残しているハードパンチャーで、カナダでは絶大な人気を誇る。15年6月には、のちに村田と2度拳を交えるアッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)との王座決定戦で4度のダウンを奪って判定勝ち、IBF王座を獲得した。この王座はWBA&WBC王者(当時は暫定王者)ゲンナディ・ゴロフキン(35=カザフスタン/米)との統一戦で8回TKO負けを喫して失ったが、その後は4連勝(2KO)と復調している。

 総合的な戦力ではサンダースが勝るものの敵地での試合ということで、王者は得意とはいえない積極的な試合運びが求められることになりそうだ。打撃戦はレミューの望むところだが、力んで得意の左フックが空回りするようだと見栄えの悪い展開になりかねない。予想は判定でサンダース、KOでレミューといったところか。オッズはサンダース有利ながら10対9と接近している。挑戦者のレミューは「エンダム以上、ゴロフキン以下」という位置づけにある。そのレミューとサンダースがどんな戦いをしてどんな結果が出るのか。WBO王者とWBA王者の村田との間接的な力関係を推し計る意味でも興味深いカードだ。

まさに黄金カード、五輪連覇者同士がプロ王者として世界戦


 9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスベガスでは尾川堅一(29=帝拳)対テビン・ファーマー(27=米)のIBF世界スーパーフェザー級王座決定戦が行われるが、同日、ニューヨークでは同じ階級のWBOタイトルマッチがセットされている。プロ3戦目でフェザー級を制覇し、7戦目でスーパーフェザー級王者になったワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBAスーパーバンタム級スーパー王者、ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるのだ。アマチュア時代に五輪連覇を果たした実績を持つレジェンド同士の頂上決戦だ。

 ロマチェンコは08年北京五輪フェザー級、12年ロンドン五輪ライト級で金メダルを獲得しているほか、世界選手権でも2度の優勝実績を持つ。そうした大会での勝利を含めたアマチュア戦績は397戦396勝1敗という驚異的なものだ。唯一の敗北を喫した相手には国際大会で2度のリベンジを果たしている。プロ転向は4年前で、その4カ月半後に世界王座に挑んだが、このときは体重オーバーの相手に惜敗。続く3戦目でフェザー級王座を獲得すると、昨年6月には階級を上げて現在の王座を獲得した。7戦目での世界2階級制覇は井上尚弥(大橋)の8戦目を更新する最速記録だ。

 「ハイテク(高性能)」というニックネームを持つロマチェンコは、単に記録だけの選手ではない。素早く立ち位置を変えながら相手の死角に出て瞬時にパンチを打ち込み、スピードとスキルで圧倒してしまう。豪快なKOで現王座を奪ったあとの3度の防衛は、相手を翻弄したすえ棄権に追い込むという内容だった。見る者の記憶にも残るテクニシャンといえる。10戦9勝(7KO)1敗。

 これに対しリゴンドーは2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪のバンタム級で連続金メダリストになり、世界選手権でも2度の優勝を果たしている。アマチュア戦績は475戦463勝12敗。亡命に失敗したためプロ転向が遅れたが、29歳のときに3回TKO勝ちで初陣を飾ると7戦目には現在の王座(当時は暫定王座)を獲得。その後、正王者昇格、WBO王座吸収、スーパー王者への昇格、王座剥奪、返還といったできごとを経て通算10度の防衛を果たしている。

 ロマチェンコと同じサウスポーだが、こちらはライバルほど運動量が多いわけではない。無駄のない動きで間合いを掴んでズバッと斬り落とすタイプだ。自身は打たれ強くはなく何度かダウンを経験しているが、左ストレートの切れ味はロマチェンコのそれを上回っている。18戦17勝(11KO)1無効試合。

 体格はロマチェンコが身長168センチ/リーチ166センチ、リゴンドーが162センチ/173センチと数字上は決定的な差はない。しかし、体のフレームとスーパーフェザー級に馴染んでいる点でロマチェンコにアドバンテージがあることは確かだ。6連続KO勝ちという勢いや若さでもロマチェンコに分があるといえる。こうしたことが反映されてオッズも9対2でディフェンディング・チャンピオン有利と出ている。ただ、これまでにもスター選手との対戦を打診されながら拒んできたリゴンドーが、2階級上のロマチェンコとの対戦に応じたところに矜持と自信をみてとることもできる。

 五輪連覇者同士がプロの王者として世界戦で拳を交える文字通りの黄金カード。はたして勝者として歴史に名を刻むのは-。

風雲急を告げるSフェザー級 尾川は戴冠果たせるか


 日本スーパー・フェザー級王座を5度防衛した実績を持つ尾川堅一(29=帝拳)が12月9日(日本時間10日)、米国ネバダ州ラスべガスのマンダレイベイ・イベンツセンターでIBF世界同級王座決定戦に臨む。相手は30戦25勝(5KO)4敗1分の戦績を残している技巧派サウスポーのテビン・ファーマー(27=米)。ランキングは尾川が4位、ファーマーが5位で、KO率も74パーセント(23戦22勝17KO1敗)の尾川が大きく上回っている。元WBC王者の三浦隆司(帝拳)が引退したことも重なり、風雲急を告げるスーパー・フェザー級トップ戦線。尾川は戴冠を果たすことができるのか。

 この1年、130ポンド(約58・9キロ)を体重上限とするスーパー・フェザー級はめまぐるしく王座の持ち主が代わっている。WBAは内山高志に2度勝ったジェスレル・コラレス(26=パナマ)が10月のV2戦を前に体重オーバーで失格。試合でそのコラレスを8回KOで破ったアルベルト・マチャド(27=プエルトリコ)が王座を受け継いでいる。

 WBCは今年1月に戴冠を果たしたミゲール・ベルチェルト(26=メキシコ)が王座を保持しているものの、三浦との初防衛戦で痛めた拳の負傷が治りきらないため戦線離脱。これを受け尾川対ファーマーと同じイベントで暫定王座決定戦が行われる。2階級制覇の実績を持つオルランド・サリド(37)対ミゲール・ローマン(32)というメキシカン・ファイター同士のカードだ。

 IBF王座は、元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米)の秘蔵っ子、ジャーボンタ・デイビス(23=米)が今年1月に獲得。長期政権が期待されたが、8月のV2戦を前に計量で失格、ベルトを剥奪された。尾川対ファーマーの勝者がこの王座を引き継ぐことになる。

 愛知県生まれの尾川は父親の道場で2歳のときに日本拳法を始め、大学卒業まで20年間続けた。「自分の力を試したくて」とプロボクサーになり、デビュー翌年の11年には全日本新人王になった。日本ランキング入りも果たしたが、そこで初黒星を喫する。アゴの骨を折られたすえの5回TKO負けだった。

 10カ月後にリングに戻った尾川は復帰2戦目に因縁の相手に1回TKO勝ちで借りを返し、それを含めて現在まで14連勝(11KO)を収めている。2年前には世界ランカーを得意の右ストレートで倒し、その3カ月後には日本王座も獲得。5度防衛した王座は世界挑戦が決まったため返上した。

 今回、尾川が決定戦で拳を交えるファーマーは戦績が示すとおりの技巧派で、スピードとパンチを外すスキルに関しては卓抜したものがある。しかし、パワー不足は否めず、その点では尾川が勝っている。ただ、尾川は東京以外での試合は今回が初めてで、コンディション調整など不安もつきまとう。

 このカードのポイントはひとつに絞られる。尾川の切り札、右ストレートが炸裂するか否か。確率は50パーセントだ。尾川が勝てば10月にWBAミドル級王座を獲得した村田諒太(31)に続き、帝拳ジム13人目の世界王者誕生となる。

 同じ12月9日、米国東海岸では同じスーパー・フェザー級のWBOタイトルマッチが行われる。オリンピックで2連覇を果たした者同士、ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)とギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)が拳を交えるのだ。

<続く>

4階級制覇のコットが引退へ、有終の美を飾れるか


 4階級制覇の実績を持つWBO世界スーパーウエルター級王者、ミゲール・コット(37=プエルトリコ)が12月2日(日本時間3日)、米国ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)で同級9位のサダム・アリ(29=米)を相手に初防衛戦に臨む。コットはこの試合を最後に引退すると公言しており、有終の美を飾れるかどうか注目を集めている。

 11歳のときにボクシングを始めたコットは2000年シドニー五輪に出場するなどアマチュアで148戦125勝23敗(他説あり)の戦績を残し、01年にプロ転向を果たした。3年後、21戦全勝(17KO)でWBO世界スーパーライト級王座を獲得し、6度防衛。3度目の防衛戦では五輪で苦杯を喫した相手に9回TKOで借りを返すなど順調にスター街道を歩んだ。

 06年にはウエルター級でWBA王座を獲得し、2階級制覇を達成。ここでも4度の防衛を果たして連勝を32(26KO)まで伸ばしたが、33戦目にアントニオ・マルガリート(39=メキシコ)に11回TKO負けを喫し、一時停止を強いられた。WBOで返り咲きを果たしたものの、V2戦ではマニー・パッキャオ(38=比)に12回TKOで敗れ、キャリアで2度目の挫折を味わされた。

 身長もリーチも170センチと体格に恵まれなかったコットはガードを固めながら圧力をかけて距離を潰し、相手の懐に入って強打をボディ、顔面に打ち分ける好戦的な戦いが多かったが、30歳を超えてからは戦闘スタイルをチェンジした。適度に足をつかいながら踏み込みつつ左ジャブを突き、スピードを生かしたヒット&アウェイのスタイルをベースにして戦うようになったのだ。フロイド・メイウェザー(米)戦を含めて一時は連敗したこともあったが、13年にフレディ・ローチ・トレーナーとコンビを組んでからは新スタイルが板につき、14年6月には身長で8センチ、リーチで15センチも勝るセルヒオ・マルチネス(亜)を破ってミドル級制覇も果たした。

 現在の王座は今年8月、決定戦で亀海喜寛(35=帝拳)を下して獲得したもので、スーパーウエルター級では10年に獲得したWBA王座に続いて2度目の戴冠ということになる。ここまでの戦績は46戦41勝(33KO)5敗だが、特筆すべきはキャリアの半分以上となる24戦が世界戦である点だ(19勝16KO6敗)。現役、元、のちの世界王者との対戦も21度(16勝12KO5敗)と多く、その中身の濃さも特徴といえる。世界的な知名度、人気もあり、惜しまれつつの引退となる。

 ラスト・ファイトの相手、アリは08年北京五輪に出場した実績を持つエリートで、プロでは26戦25勝(14KO)1敗の戦績を残している。スピードのある万能型だけに侮れない相手といえるが、17対2のオッズが示すようにコット有利とみられている。強さと巧さを見せつけたすえ、コットは豪快なKOで有終の美を飾れるか。

ヘビー級王座統一戦ジョシュアvsワイルダーが来年実現か?


 ヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)と、WBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が統一戦に向け、いよいよ下交渉を開始した。20戦全KO勝ちのジョシュア対39戦全勝(38KO)のワイルダー。2018年の最注目カードになりそうだ。

 ジョシュアは12年ロンドン五輪スーパーヘビー級で金メダルを獲得後、13年10月にプロデビュー。期待どおりに成長し、昨年4月に16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)にも11回TKO勝ちを収めた。左ジャブで切り込み、破壊的な右ストレートで仕留める正統派の強打者だ。相手が接近してきた場合は右アッパーもある。クリチコ戦に続き先月28日のV4戦でも10回TKO勝ちを収め、不安視されたスタミナにも問題がないことを証明した。

 一方、WBC王者のワイルダーは08年北京五輪ヘビー級銅メダリストで、同年11月にプロデビュー。ヘビー級にしては細身だったため体づくりに時間がかかったものの、持ち前のパワーでKOの山を築いていった。その数はデビューから32試合連続となった。

 33戦目は判定勝ちに留まったが、代わりにWBC王座を手に入れた。以後、6連続KO防衛を果たしている。4日のV6戦は、過去唯一の判定決着となった前王者との再戦だったが、179秒の間に右ストレートなどで3度のダウンを奪ってKO勝ちを収めている。

 体格を比較してみると、ジョシュアが身長198センチ、リーチ208センチ、直近の試合の体重は約115キロ。ワイルダーは身長201センチ、リーチ211センチ、直近の試合の体重は約101キロで、全体的なボリューム感ではジョシュアが勝る。また、ジョシュアはクリチコ戦ではダウンを喫したものの立ち直って逆転しており、大きく経験値を上げている。攻撃偏重のワイルダーよりも総合的な評価では上回っており、そのため現時点のオッズは5対2でジョシュア有利と出ている。

 驚異的なKO率を誇るヘビー級世界王者同士による英米決戦に向け、先週、陣営のトップ同士がニューヨークで会食し、下交渉を開始した。ジョシュア陣営が他の選手との対戦をチラつかせるなど、まだまだジャブを飛ばしている段階といえるが、最も大きなビジネスになる試合が両王者の直接対決であることは両陣営とも分かっているはず。今後、駆け引きをしながら対戦の時期や開催地、報酬額、その分配などが話し合われることになるものと思われる。「2月か3月に計画している次戦でワイルダーと戦うことはないと思う」とジョシュア陣営が話していることから、来春にそれぞれが防衛戦を挟み、統一戦は夏から秋にかけて現実的なものになりそうな気配だ。ヘビー級頂上決戦が待ち遠しい。

ロンドン五輪金メダリスト13人中7人が世界王者に


 先月22日、村田諒太(31=帝拳)が宿敵アッサン・エンダム(33=カメルーン/仏)に7回終了TKO勝ちを収め、5カ月前の雪辱を果たすとともにWBA世界ミドル級王座を獲得した。村田は12年ロンドン五輪ミドル級金メダリストでもあるが、これで同大会の優勝者がプロに転向して世界一の座についたのは男女合わせて7人(男子5人、女子2人)となった。

 ロンドン五輪では男子が10階級、初の公式競技となった女子はフライ級、ライト級、ミドル級の3階級が実施された。合計13人の金メダリストが誕生したわけだが、このうち10人がプロに転向した。

 最も早い出世を果たしたのは08年北京大会でも金メダルを獲得しているワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ)で、デビューから8カ月後、3戦目でWBC世界フェザー級王座を獲得。さらに7戦目でWBO世界スーパーフェザー級王座を奪取し、いまや手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。10戦9勝(7KO)1敗。この敗北はデビュー2戦目の世界初挑戦試合で惜敗したものだ。

 これに続いたのがスーパーヘビー級金のアンソニー・ジョシュア(28=英)だ。こちらはプロデビューから2年半、16連続KO勝ちで最重量級のIBF王座を手にした(16年4月)。以後、元王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を退けるなどヘビー級王座を4連続KO防衛中で、戦績を20戦全KO勝ちに伸ばしている。

 16年9月にはロンドン大会ヘビー級金のオレクサンデル・ウシク(30=ウクライナ)が、プロ10戦目でWBO世界クルーザー級王座を獲得した。すでに3度の防衛を果たしている(13戦全勝11KO)。

 その2カ月後、ゾウ・シミン(36=中国)がWBO世界フライ級王座を獲得して続いた。このゾウは04年アテネ大会銅のあと08年北京大会とロンドン大会を連覇した技巧派だが、プロ転向時には30歳を超えていた。今年7月、木村翔(28=青木)に11回TKO負けを喫して王座から陥落した。11戦9勝(2KO)2敗。そして先月、村田が男子「5人目」となったわけだ。プロ転向から4年、戦績は14戦13勝(10KO)1敗。

 女子はロンドン大会の金メダリスト3人、フライ級のニコラ・アダムス(35=英)、ライト級のケイティー・テイラー(31=アイルランド)、ミドル級のクラレッサ・シールズ(22=米)が揃って16年リオデジャネイロ大会にも出場。テイラーは初戦で惜敗したが、アダムスとシールズは連覇を果たした。3人のうち昨年11月にプロデビューしたシールズは、今年8月にWBCとIBFの女子世界スーパーミドル級王座を獲得している。4戦目(全勝2KO)での戴冠だった。2カ月後の10月、テイラーが7戦目(全勝4KO)でWBC女子世界ライト級王者になった。今年4月にはアダムスが34歳でプロ転向を果たしている。まだ2戦2勝(1KO)だが、来年には大きな勝負をかけそうだ。

 すでにシールズやテイラーのように16年リオデジャネイロ五輪組が結果を出し始めている。村田の今後はもちろんのこと、究極のエリートといえるオリンピアンたちの活躍に注目していきたい。

ワイルダーV6なるか、因縁の相手スティバーンと再戦


 38戦全勝(37KO)という驚異的なレコードを誇るWBC世界ヘビー級王者、デオンタイ・ワイルダー(32=米)が4日(日本時間5日)、米国ニューヨークのバークレイズ・センターで現WBC1位にランクされる前王者、バーメイン・スティバーン(39=ハイチ/米)を相手に6度目の防衛戦に臨む。もともとワイルダーは元WBA暫定王者のルイス・オルティス(38=キューバ/米)と戦う予定だったが、オルティスのドーピング違反が発覚したため1カ月前になって対戦相手がスティバーンに変更された経緯がある。

 ワイルダーとスティバーンは15年1月、今回とは逆の立場で拳を交え、ワイルダーが大差の12回判定勝ちで戴冠を果たしている。

 この試合でワイルダーは念願の世界一の座を獲得したが、デビュー戦からの連続KO勝ちは32でストップした。その後、5度の防衛戦をすべて規定ラウンド内で片づけているワイルダーにとって、今回の再戦はKO勝ちがノルマともいえる。「数字だけでなく、あらゆる面で自分が世界でベストであることを証明したいんだ」と王者は意気込んでいる。揺るぎない自信があるとみえ「この試合で負けるようなことがあったら引退して別の道を探す」とまで言っている。

 これに対し前王者は「前回の試合時はコンディションが悪かっただけ」と、実力負けではないと弁明している。ただし、無冠に戻ってから行った10カ月後の再起戦で10回判定勝ちを収めただけで、以後はブランクが続いている。その再起戦では初回にダウンを喫しており、2年ぶりの実戦には不安がつきまとう。戦績は28戦25勝(21KO)2敗1分。ワイルダーほどではないがKO率は75パーセントと高い。

 身長201センチ、リーチ211センチのワイルダーに対しスティバーンは188センチ、196センチと体格でも劣るだけに、雪辱と返り咲きを果たすためには思い切った仕掛けが必要になりそうだ。もともとスティバーンも11月4日のアンダーカードに出場することになっていたため調整は問題なさそうだが、実戦の勘が鈍っているようだと惨敗というケースも考えられる。

 総合力に加え体格と勢いでも勝るワイルダーが速い左ジャブで煽り、パワフルな右ストレートに繋ぐことできれば前半KO防衛もありそうだ。スティバーンは被弾を最小限に抑えて前半を乗り切って勝負を長引かせたいところだが、王者が簡単にそれを許すとも思えない。20対1というオッズが出ているように王者の返り討ち、V6が濃厚な試合といえる。ただし、一発で戦況が急転するヘビー級だけに、ワイルダーも油断は禁物だ。

ヘビー級18年統一戦へ機運高まるなかジョシュアはタカムと対戦


 28日(日本時間29日)、英国カーディフでヘビー級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つアンソニー・ジョシュア(28=英)が4度目の防衛戦を行う。その1週間後の11月4日(日本時間5日)にはWBC王者のデオンタイ・ワイルダー(32=米)が米国ニューヨークで6度目の防衛戦を予定している。ともに10月に入って挑戦者が変更されるという慌ただしい試合だが、2試合とも王者の圧倒的有利が伝えられる。このままジョシュアとワイルダーが勝ち進めば2018年には統一戦という機運が盛り上がっているだけに2週連続の世界ヘビー級タイトルマッチに要注目だ。

 12年ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストのジョシュアは昨年4月、プロ転向から2年半、16戦目でIBF王座を獲得。今年4月には元3団体統一王者のウラジミール・クリチコ(ウクライナ)を11回TKOで退け、IBF王座3度目の防衛を果たすとともにWBAからスーパー王者に認定された。

 身長198センチ、リーチ208センチ、体重113キロ前後の恵まれた体格からスピードのあるワンツーで攻め込む正統派で、19戦全KO勝ちというレコードを誇る。クリチコ戦では5回にダウンを奪ったあと、6回には自身がダウンを喫するという窮地があったが、そこから這い上がって逆転した。依然として耐久力には疑問符がつくもののスタミナ面は問題ないことを証明している。

 今回、ジョシュアはIBFの指名挑戦者でもあるクブラト・プーレフ(36=ブルガリア)と戦う予定だったが、試合の2週間前になってプーレフが肩を負傷。そのため急遽、3位のカルロス・タカム(36=カメルーン/フランス)に相手が変更された。このタカムは04年アテネ五輪に出場(スーパーヘビー級1回戦敗退)した実績を持つ実力者で、プロでは39戦35勝(27KO)3敗1分の戦績を残している。世界ランキング入りしてから5年以上が経つが、王座に挑むのはこれが初めてとなる。身長187センチとヘビー級にしては大きくないが、プレッシャーをかけながら思い切りのいい左右のフックで飛び込む好戦型だけに危険な相手といえる。ジョシュアも「以前からタカムのことはチェックしていた。彼は強くて狡猾な面もあるので油断ならない」と気を引き締めている。

 体格やスピードなど総合的な戦力で勝るジョシュア有利は動かしがたいが、25対1のオッズほどに力量差があるとは思えない。王者の右ストレートが炸裂、中盤までのKO防衛が濃厚ではあるが、その一方でタカムのラフな攻撃に手を焼く可能性もある。

村田、エンダムに勝てば日本のジム今年9人目の新世界王者に


 12年ロンドン五輪金メダリストの村田諒太(31=帝拳)が22日、東京・両国国技館でWBA世界ミドル級王者、アッサン・エンダム(33=カメルーン/フランス)に挑む。両者は5月に王座決定戦で拳を交え、4回にダウンを奪った村田が優勢を保ったまま戦い終えたように見えたが、エンダムが2対1の判定で勝利とベルトをもぎ取った。因縁の再戦ということになるが、村田が勝てば95年の竹原慎二(沖)以来22年ぶり、2人目の日本のジム所属の世界ミドル級王者が生まれることになる。それだけではない。村田が勝てば今年になって日本のジムから9人目の新世界王者誕生となるのである。大豊作の年に大輪を添えることができるか。

 日本のジムにとって、今年は過去最高の実り多い年といえる。

 2月に福原辰弥(28=本田フィットネス)がWBOのミニマム級王座を獲得したのに始まり、4月には久保隼(27=真正)がWBAスーパー・バンタム級王座についた。翌5月には比嘉大吾(22=白井・具志堅)がWBCフライ級、拳四朗(25=BMB)がWBCライト・フライ級でそれぞれ戴冠を果たした。7月になると京口紘人(23=ワタナベ)がプロ転向から1年3カ月、8戦目でIBFミニマム級王座に駆け上がった。その5日後、中国の上海で行われたWBOフライ級タイトルマッチでは、圧倒的不利とみられた木村翔(28=青木)が五輪連覇の実績を持つ中国のスター選手、ゾウ・シミン(36)に11回TKO勝ち。敵地で世界奪取を成し遂げた。

 これだけでは終わらない。8月には日本人対決で山中竜也(22=真正)が福原を破ってWBOミニマム級王座を獲得。そして9月、これまた日本人対決で岩佐亮佑(27=セレス)が小國以載(29=角海老宝石)を攻め落とし、6回TKO勝ちでIBFスーパー・バンタム級王座を奪い取った。

 上記のように、すでに今年は8人の新王者(返り咲きや2度目、3度目の戴冠などは除く)が誕生している。これは2011年の5人、2012年の4人を大きく上回る歴代最多である。従来のWBA、WBCに加え4年前にIBFとWBOに加盟したことが要因のひとつともいえるが、その初年度の13年は初めて世界王座を獲得したボクサーは2人に留まった。14年は3人、15年が2人、16年は1人だけだった。こうしてみると今年がいかに大豊作かが分かるだろう。しかも、22日に村田が挑戦するほか、28日(日本時間29日)には英国で元日本スーパー・フライ級王者の石田匠(25=井岡)がWBA王座に挑むことになっている。さらに11月4日(日本時間5日)には元日本ライト級王者の近藤明広(32=一力)が米国ニューヨークでIBFスーパー・ライト級王座決定戦に出場する。この3人が戴冠を果たすと、今年の世界王座獲得者は2桁に乗ることになる。年間表彰選手の選考も嬉しい悲鳴ということになりそうだ。一方で、日本のジム所属の世界王者は現時点でも11人おり、関係者やファンは名前と階級を覚えるのが一苦労という状態でもある。

 そんな状況下、まずは22日に村田が「22年ぶり」と「9人目」を成し遂げることができるかどうか注目したい。

3団体がSウエルター級選手権同時開催、なるか統一戦


 このところ各階級で王座統一戦が実現したり、あるいは同じ階級の王者たちが一堂に会して防衛戦を行ったりというイベントが目立つ。こうしたなか今度は154ポンド(約69.8キロ)を体重上限とするスーパーウエルター級の世界王者3人が14日(日本時間15日)、米国ニューヨークで揃って防衛戦を行う。経験値の高いベテランから22歳の新鋭まで、実力者や人気者が出場するとあって注目を集めている。

 この8月、スーパーライト級ではテレンス・クロフォード(30=米)がWBA、WBC、IBF、WBO主要4団体の王座を統一し、9月には井上尚弥(24=大橋)のV6戦を含むスーパーフライ級のダブル世界戦が開催された。このほかクルーザー級では賞金トーナメントに4人の王者が出場しており、来年の初夏には王座が統一される見通しとなっている。

 14日にニューヨークのバークレイズ・センターで行われるスーパーウエルター級タイトルマッチ3試合は、以下のカードだ。

 ・WBA(スーパー王座) 王者エリスランディ・ララ(34=キューバ/米 28戦24勝14KO2敗2分)vsテレル・グシェイ(30=米 20戦全勝9KO)

 ・WBC 王者ジャメール・チャーロ(27=米 29戦全勝14KO)vsエリクソン・ルビン(22=米 18戦全勝13KO)

 ・IBF 王者ジャレット・ハード(27=米 20戦全勝14KO)vsオースチン・トラウト(32=米 33戦30勝17KO3敗)

 ララ対グシェイは元アマエリート同士の対決となる。05年の世界選手権で優勝したララは08年北京五輪では金メダルが有力視されたが、その前年に亡命してプロに転じたサウスポーで、スキルに定評がある。グシェイは12年ロンドン五輪に出場した実績を持ち(2回戦敗退)、プロでも順調に白星を重ねてきた。マニア好みの技術戦になりそうだ。

 3試合のなかで最も注目を集めているのがチャーロ対ルビンだ。スピードと技巧が売りだったチャーロだが、昨年5月の戴冠試合と今年4月の初防衛戦は鮮やかなKO勝ちを収めており、自信を増している。対するルビンはサウスポーの技巧派強打者で、将来のスター候補生でもある。総合力は拮抗しており、序盤からスリリングな展開になるものと思われる。

 IBFタイトルマッチは若手の王者対ベテランの元王者という構図だ。今年2月の戴冠試合を含めて5連続勝ちと勢いのあるハードに対し、元WBA王者のトラウトはテクニックに定評がある。若いハードが攻め切るのか、それとも経験値の高いトラウトが相手の強打を空転させるのか。王者に分のあるカードといえる。

 勝者同士の統一戦を念頭においているのは、戦う6選手もファンも同じであろう。3試合の勝負はもちろん、その後のスーパーウエルター級トップ戦線の行方から目が離せなくなってきた。

ロマチェンコVSリゴンドー、五輪金メダリスト決戦


 アマチュア時代に五輪で2大会連続して金メダルを獲得し、プロでも世界王座に君臨する天才ボクサー同士が12月9日、アメリカのニューヨークで世界王座をかけて対戦することになった。WBO世界スーパーフェザー級王者ワシル・ロマチェンコ(29=ウクライナ/米)が、2階級下のWBA世界スーパーバンタム級王者ギジェルモ・リゴンドー(37=キューバ/米)の挑戦を受けるもの。

 8歳の年齢差があるため両者が五輪で戦うことはなかったが、舞台をプロのリングに移して技巧派サウスポー同士の対決が実現することになった。「ハイテク(高性能)」と呼ばれるロマチェンコが勝つのか、それとも「ジャッカル」の異名を持つリゴンドーが先輩の維持を見せるのか。早くも注目を集めている。

 ロマチェンコは08年北京五輪のフェザー級で優勝し、12年ロンドン五輪ではライト級で金メダルを獲得した。このほか07年世界選手権で準優勝、09年と11年の世界選手権では優勝を果たしている。アマチュアの戦績が397戦396勝1敗というのだから驚く。ちなみに07年世界選手権決勝で敗れた相手には、のちに2勝して倍返ししている。

 13年10月、世界ランカー相手に4回KO勝ちを収めてプロデビュー。2戦目で世界挑戦を果たしたが、このときは体重オーバーで王座を剥奪された前王者の狡猾な戦いの前に惜敗した。スタミナの配分に不安があったのか前半をセーブしたのが裏目に出た印象だった。それでも最終12回には相手をKO寸前に追い込んで才能の一端を披露したものだ。その3カ月後、決定戦を制してWBO世界フェザー級王座についた。3戦目での戴冠はボクシング史上最短タイ記録でもある。プロの水に慣れたこともあり、以後は手のつけられない強さ、巧さを見せつけている。昨年6月には現在の王座を獲得、7戦目で2階級制覇を成し遂げた。これは井上尚弥(大橋)の8戦を更新する世界最短記録だ。

 一方のリゴンドーも負けてはいない。2000年シドニー五輪と04年アテネ五輪バンタム級で金メダルを獲得したほか、世界選手権では01年と05年の大会で優勝。475戦463勝12敗というアマチュア戦績を残している。キューバではプロ活動が認められていないためアメリカに亡命し、09年にプロデビューした。

 7戦目でWBA世界スーパーバンタム級王座(当時は暫定王座)を獲得し、王座剥奪と返還を経て通算10度の防衛を果たしている。このなかには、2度のダウンを挽回して天笠尚(FLARE山上)を11回終了TKOで下した勝利も含まれている。卓抜したスピードと勘の持ち主だ。

 ともにディフェンス技術に長けたサウスポーの技巧派だが、年齢に加えベスト体重に3.6キロの差がある。そのためオッズは4対1でロマチェンコ有利と出ているが、リゴンドーは「今度の試合で彼の化けの皮が剥がれる」と自信満々だ。10戦9勝(7KO)1敗のロマチェンコが勲章を増やすのか、それとも18戦17勝(11KO)1無効試合のリゴンドーが時計の針を逆回転させるのか。実現は2カ月先だが、実に興味深いカードだ。

王者ウォード、21年間負け知らずの理想的な引退


 WBA、IBF、WBO3団体統一世界ライト・ヘビー級王者、アンドレ・ウォード(33=米)が引退した。04年アテネ五輪の金メダリストでもあるウォードは、プロではスーパー・ミドル級とライト・ヘビー級の2階級を制覇し、32戦全勝(16KO)という戦績を残した。アマチュア、プロを通じてこれほど輝かしい実績を残して無敗のままグローブを置くボクサーは極めて珍しい。

 ウォードは9歳のとき、元アマチュア・ボクサーだった父親の影響でグローブを手にした。運動神経に加え努力する才能にも恵まれていたのだろう、ウォードはアマチュアで119戦114勝5敗(他説あり)の戦績を残した。01年と03年の全米選手権を制し、04年アテネ五輪ではライト・ヘビー級で金メダルを獲得した。ちなみに2000年シドニー大会以降、ボクシング競技で金メダルを獲得した米国人(男子)はウォードだけである。

 04年12月にプロ転向を果たしたが、ルーキー時代にダウンを喫したこともあり「プロでは通用しないのでは?」と大成を危ぶむ声もあった。しかし、ウォードはスピードとテクニックを生かしたボクシングで勝利を重ね、09年にはWBA世界スーパー・ミドル級王座を獲得。11年にはWBC王者にも勝って統一を果たした。

 そのころから膝や肩などの故障、さらにプロモーターとの確執などでブランクをつくることが多くなり、一時は1年7カ月も実戦から遠ざかった。

 こうしたなか2年前に1階級上のライト・ヘビー級に転向し、昨年11月にはWBA、IBF、WBO3団体王者のセルゲイ・コバレフ(露/米)に挑戦。2回にダウンを喫するなど最悪のスタートだったが、中盤からじわじわと追い上げ、僅差の判定勝ちを収めて2階級制覇を成し遂げた。今年6月の再戦ではダウンを奪って8回KO勝ちでけりをつけた。この試合がラストファイトということになる。最後に負けたのがアマチュア時代の96年だというから、それから21年間も敗北を知らないままキャリアを終えることになるわけだ。これほど理想的な引退はないだろう。

 50パーセントのKO率が示しているようにパワーは重量級では平均の域内だったが、ディフェンス技術と駆け引き、戦術などに長けていた。また、キャリアの途中で指導者を変えることが多いトップ選手のなかにあって、ウォードは9歳のときに初めてボクシングの手ほどきしてくれたバージル・ハンター・トレーナーと最後までコンビを組み続けた。そんなところにウォードの人間性の一端をみる思いがする。

 引退に際しウォードは自身のウェブサイトで「ボクシングを通じて出会った人すべてに感謝したい。いま、私はこのスポーツの厳しさに耐えられる肉体ではないし、戦いたいという欲望も湧いてこない」と綴っている。燃え尽きたということなのだろう。

原功(はら・いさお)

 1959年(昭34)4月7日、埼玉県深谷市生まれ。日大法学部新聞学科卒業。82年、ベースボール・マガジン社入社。以来18年間「ボクシング・マガジン」の編集に携わり、88年から11年間同誌編集長。現在はWOWOW「エキサイトマッチ」の構成などを担当。著書に「タツキ」「ボクシング 名勝負の真実・日本編/海外編」ほか。