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au版ニッカン★バトル

リングにかける

「立て、立つんだ!」世界前哨戦目前でアキレス腱断裂…逆境人生の矢吹正道にこそ送りたいセリフ

矢吹正道(2023年1月28日撮影)

短い言葉に無念の思いが染みた。

ボクシングの元WBC世界ライトフライ級王者矢吹正道(30=緑)が、左アキレス腱(けん)断裂の重傷を負った。5月18日のスパーリング中に負傷し、翌19日に所属ジムが発表した。

「大丈夫なのか!? とにかくゆっくりけがを治してください」と送ったメールの返信が、「手術です、、、ありがとうございます」。いつもは雄弁に語ってくるメールの文面から、失意の感情がにじんでいた。

矢吹は1月にIBF世界ライトフライ級次期挑戦者決定戦に勝利し、同団体の2位までランキングを上げた。次戦は8月に同級の元WBAスーパー王者・京口紘人とも対戦した世界ランカーのエステバン・ベルムデス(メキシコ)戦が決まっていた。この試合をへて、一気に世界再挑戦への展望が開ける、はずだった。

23日に試合の発表会見を行う予定だった。その矢先の不運。25日に手術を行う予定で、試合を行うまでの回復には4~5カ月を要する見込みという。7月9日に31歳の誕生日を迎える。ボクサーとして、限られた時間を知るからこそ、けがのダメージは大きい。

今の心境は推し量るべくもない。ただ、気持ちは折れてほしくない。元WBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃氏は、キャリアの絶頂期に左アキレス腱を断裂。その後、7年をかけて世界王座を獲得した。

ボクサーにとって、拳とともに足は命。同時に長期休養によって、コツコツと上げてきた世界ランクも失う。体だけでなく、精神的ダメージも大きい。

これまでも逆境に立ち向かってきた人生だ。昨年3月に寺地拳四朗とのダイレクトリマッチに敗れ、ベルトを失った時も「もう辞めようと思った」。しかし、家族の支えもあり、闘うことをやめなかった。

反骨心。やんちゃを極めた少年時代から、矢吹の人生を象徴する。「立て、立つんだジョー!」。主人公からリングネームをもらった不滅のボクシングマンガ「あしたのジョー」の名セリフがふさわしい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

中谷潤人、田中恒成、井岡一翔…日本勢のスーパーフライ級戦線が一気に過熱、日本人対決可能性も

WBOスーパーフライ級王座決定戦発表会見でファイティングポーズする中谷潤人(2023年3月25日撮影)

プロボクシングのスーパーフライ級世界戦線が一気にヒートアップしそうだ。まずは元WBO世界フライ級王者中谷潤人(25=M・T)、元世界3階級制覇王者の田中恒成(27=畑中)の2人が登場。現WBO世界スーパーフライ級1位の中谷は20日(日本時間21日)、米ネバダ州ラスベガスのMGMグランド・ガーデンアリーナで同級2位のアンドルー・モロニー(32=オーストラリア)と同級王座決定戦に臨む。

既に3月下旬から渡米している中谷は米ロサンゼルスで最終調整し、そのままラスベガス入り。同興行のメインイベントは現4団体統一ライト級王者デビン・ヘイニー(24=米国)-元3団体統一同級王者ワシル・ロマチェンコ(35=ウクライナ)戦が組まれている。中谷は世界注目のイベントで、日本ジム所属17人目の世界2階級制覇に挑む。

田中恒成(2021年11月4日撮影)

同じ21日には、田中が名古屋・パロマ瑞穂アリーナでWBC世界同級13位パブロ・カリージョ(34=コロンビア)との“世界前哨戦”を控える。現在、スーパーフライ級ではIBFとWBOで3位、WBA、WBCで4位にランク。この世界ランカー対決を制することができれば、WBOでは中谷-モロニー戦の勝者に続く、1~2位のランキングに入るだろう。中谷-田中戦という日本人対決の世界戦の可能性も出てくる。

井岡一翔(2023年4月24日撮影)

6月24日には元世界4階級制覇王者の井岡一翔(34=志成)がWBA世界同級王者ジョシュア・フランコ(27=米国)に挑戦する。昨年大みそかに続くダイレクトリマッチ。この決着戦の勝利で弾みをつけ、ターゲットに絞るWBC世界同級王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(33=メキシコ)との王座統一戦につなげたい意向。井岡-フランコの勝者に対し、田中が挑戦する可能性もある。20年大みそかに井岡との日本人対決で敗れている“因縁”が思い出される。

また中谷は世界2階級制覇後のプランとして「統一戦はやりたいという気持ちはある」と、他団体王者との統一戦を希望している。21日に迫る中谷-モロニー戦、田中-カリージョ戦、6月24日の井岡-フランコ戦の結果次第で、また新たな展開も出てくるはずだ。日本勢の実力者たちがそろった2023年のスーパーフライ級が、注目の階級になっていることは間違いない。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

BreakingDownに「面白い」「本物ではない」の賛否 この熱を格闘技界のプラスに

ブレイキングダウン8オーディション オーディションで審査を行う溝口勇児(右)と朝倉未来と白川陸斗

BreakingDown(BD)の熱は冷めるどころか、さらに増している。

人気格闘家・朝倉未来(30=トライフォース赤坂)が代表取締役を務めるBDはシリーズの8が21日に、東京ドームシティ内プリズムホールで開催が決定。朝倉のYouTubeでは、連日のように「BreakingDown8のオーディション」が公開されている。「飯田さん」飯田将成、元アウトローのカリスマこと、瓜田純士らレギュラー陣も参戦。そこに、新たなスター候補が、さまざまな角度から出番を狙っている。

Gグループでは、BD史上、初めて高校生が参加。福岡から金がなく、ヒッチハイクでやって来たという「ひかぴー」は、黒髪でどこか真面目な印象。ただ、スタートから、いきり立っている様子で「俺イケメンが嫌いなんですよ。俺より、高身長でイケメンで」と日本、ドイツ、イギリスのクオーターのグッドイヤー奏エリオットに、けんかを売った。もみ合いになりながら、ひかぴーが「殺すぞ!」と声を荒らげたが、会場は凍り付くどころか、ひな壇からは笑い声が起こった。

それに対して、ひかぴーは「何笑ってんだよ! 」とレギュラーの面々に対抗。これに、また笑い声のボリュームが大きくなった。「前座」を「座前で」と言い間違えたり、ひな壇からは「ぬりぼうより、面白い」という声も上がった。朝倉未来も「いいキャラクターしている」と高評価を与えた。高校生は計8人が参加。この中から1試合が組まれるという。

BDのCOO(最高執行責任者)を務める起業家の溝口勇児氏にかみついた“強者”も登場した。オーディションの「vol.2」で登場した“けんか無敗の空手全日本チャンピオン”土屋悠太が「有名な方と付き合ってましたよね? すぐ別れちゃいましたよね、俺、女大事にできないやつ嫌いなんですよ」と“挑発”。すると、溝口氏は「俺戦いたくないんだけど、どうすればいい? マジで忙しいから戦う暇なくて。それにたぶん相手にならないって思ってて」と、やんわりと断ったが、朝倉未来から「ここに立つ人は闘ってないと説得力がない」とツッコミを受けた。立ち上がった溝口氏は、仕方なさそうに土屋の前に立つと、いきなりタックル。リーチの差を生かし、組合で組み合いで力の差を見せつけた。

このやりとりを見ていた朝倉は終始、満面の笑み。「試合決定ですね。おめでとう」と、土屋と握手。溝口氏に「さすがにこの流れは…。完全に決まりました」と、試合決定を告げた。溝口氏は「俺、戦いたくないから今やったんだけどさ。全部カットする権利あるからね」と最後まで、抵抗したが、朝倉に「ないです、ないです。それはない」と言われ、たじたじの様子。本戦に初出場する可能性が出てきた。

8日時点でオーディションの動画は3本アップされ、全てが440万回再生以上を記録するなど、ファンの注目も止まらない様子。今大会では、新たな取り組みとして韓国との対抗戦も実施される。一方で、前RIZINバンタム級王者の堀口恭司(32=アメリカン・トップチーム)は9日に行われた自身の新格闘技団体のネーミング発表記者会見で「個人的に」と前置きし「(BDは)興業としてはいいかもしれないけど、格闘技のイメージとしては良くないほうに進んでいると思った。いい意味で刺激されたなと思います」とBDの存在が、立ち上げに影響しているという。

エンタメで見ている人は「面白い」のかもしれないし、格闘技目線の人は「本物ではない」のかもしれない。賛否両論あっていい。この熱が、格闘技というジャンルの中で、良い方向に波及すればいいと思う。【栗田尚樹】

ブレイキングダウン8オーディション オーディションの参加者と一戦交え疲れた様子の溝口勇児(手前)と見つめる朝倉未来(中央)

寺地拳四朗、1週間の「断食」による減量を乗り越えた先に広がる可能性「まだまだ強くなれる」

防衛戦を果たした一夜明け会見で笑顔を見せる寺地(2023年4月9日撮影)

ボクシングのWBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者寺地拳四朗(31=BMB)が「ゆくべき道」に迷っている。

「この階級で最強を極めたい」とライトフライ級での4団体統一を掲げた。しかし、4月8日に当初予定されたWBOとの3団体統一戦は、王者ジョナサン・ゴンザレス(31=プエルトリコ)がマイコプラズマ肺炎で来日不可能となり、消滅した。父の寺地永会長は「もともとやりたくなかったと聞いている。このまま逃げ切られるかもしれない」と裏事情を明かす。

バンタム級で“モンスター”井上尚弥(29=大橋)がベルト統一の快挙を遂げたが、その実力だけでなく、時の運もなければなしえない。31歳の寺地は「時間がかかるようなら考えないといけない」と話す。現実に次戦はWBCの指名挑戦者、同級1位ヘッキー・ブドラー(34=南アフリカ)との防衛戦が避けられない状況。WBAの動向も含め思い描くプラン通りには進めない。

年齢を重ねることで、懸念されるのが「体重調整」。その点について、寺地は「減量うまくなってるんです」と言った。ライトフライ級のリミットは48・9キロで、1階級上のフライ級は50・8キロ。この約2キロ差が天国と地獄だが、寺地は克服している。

ボクサーにとって「宿命」といえる減量は、各自の工夫が興味深い。寺地が先日明かした減量法は、1週間の断食という。父の永会長の知り合いでもある専門家の指導を受けた。約1週間、酵素ドリンクだけで固形物はいっさい摂取しない荒療治。寺地は「一般の人にはお勧めしない」と笑って言った。

激しい練習をしながらの「断食」。寺地は「立ちくらみはありますね。最も怖いのが宅配便。寝ている時にピンポンが鳴って、出ていく途中に気を失いそうになったこともあります」。一方で、内臓の動きがより活発になるメリットもあったといい、「便秘気味だったのが治った」。試行錯誤、さまざまな経験を乗り越えてきたからこそ、たどり着いた成功がある。

そんな過酷な減量に今後も立ち向かう意欲はある。「まだまだ強くなれると感じている」。減量との戦いの先に可能性は広がっている。【実藤健一】

6・24井岡一翔から武尊のPPVはしご!? RIZIN43大会も開催し「バトルPPV祭り」

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ緊急発表会見でファイティングポーズを決める井岡一翔(2023年4月24日撮影)

6月24日は「バトル祭り」となった。先に発表されたのはK-1の元3階級制覇王者となる武尊(31)の再起戦。フランス・パリで行われる興行Impact in Paris(インパクト・イン・パリ)で、ベイリー・サグデンとのISKA61キロ級タイトル戦3分5回(K-1ルール)で対戦することが決まった。昨年6月のTHE MATCH(東京ドーム)で那須川天心と対戦後、休養を宣言。約1年後のカムバック戦となる。

武尊が代表取締役を務めるSTR社とABEMAが契約を結び、武尊が出場する試合、興行を独占配信する権利を得た。これにより、武尊の再起戦はABEMAでライブPPV(ペイ・パー・ビュー)配信されることも決定した。

続いて発表されたのはプロボクシング元世界4階級制覇王者井岡一翔(34=志成)の「決着戦」だった。同日に東京・大田区総合体育館で、同級王者ジョシュア・フランコ(27=米国)に挑戦することが発表された。昨年大みそかのWBA、WBO世界同級王座統一戦で拳を交えて引き分けて以来、約6カ月ぶりのダイレクトリマッチとなる。これまでTBS系で全国中継されていた井岡の国内世界戦だが、今回はABEMAのPPVライブ配信となる。ABEMAにとっても単体でボクシング世界戦をPPV配信するのは初めての試みとなる。

日本とフランスの時差はサマータイムで7時間となるが、同日に格闘技とボクシングのABEMAのPPV配信が重ねるのは珍しい。ABEMA格闘チャンネルの北野雄司エグゼクティブプロデューサーは井岡のゴング時間を踏まえながら「うまく重ならないように調整しないといけないですね」とうれしい悲鳴。さらに格闘技ファンのため、井岡世界戦と武尊カムバック戦の“PPVセット売り”の可能性も示唆した。

同じ6月24日には北海道・札幌の真駒内セキスイハイムアリーナでRIZIN43大会の開催が発表されている。RIZINフェザー級王者クレベル・コイケ(33=ブラジル)がRIZIN5連勝中の鈴木千裕(23)との防衛戦が決まっている。総合格闘技、キックボクシング、プロボクシングの注目イベントがめじろ押しとなる1日。会場に行かないファンにとっては「PPVはしご」が必要になりそうだ。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

復帰戦が決定した武尊(2023年3月29日撮影)

「プロレスラーのプライドをかけてやりたい」そこにいたのはいつものフワちゃんではなかった

3日、スターダムの4・23横浜アリーナ大会でプロレス2戦目を迎え、記者会見に臨んだフワちゃん、左はロッシー小川

「フワちゃん」。彼女の名前を聞くと、何をイメージするか-。多くの人は「明るい」「自撮り棒」「年上にもタメ口」…。そんな印象を持っているのではないだろうか。私も、その1人。完全に“陽”だ。

ただ、プロレスの現場では違った。今月3日にスターダムの記者会見があった。同23日の横浜アリーナ大会に向けたもの。そこに登場したフワちゃんは、いつもの彼女ではなかった。

「芸能人のプロレス参戦は話題になっているけど、呼ばれてプロレスやっているんじゃなく、プロレスラーのプライドをかけてやりたい」

その言葉を発する、目が違った。普段、バラエティー番組などで見る表情ではなく真剣そのもの。伝わってくるものがあった。今回の同大会で、プロレス2戦目を迎える。日本テレビ系列「行列のできる相談所」の企画第2弾での挑戦。“呼ばれた”かもしれないが、自身の強い意志、覚悟、責任がにじみ出ていた。

フワちゃんは、昨年10月23日のスターダムで、プロレスデビュー。葉月と組んだタッグマッチは、惜しくも敗れた。ただ、そこで終われなかった。熱は増した。「試合の後に、友達の子どもが『プロレスラーになりたい』って言っていた。こんな感じで、プロレスで夢、人生動かしていきたい」と新たな“役目”も感じている。忙しいスケジュールの中、厳しいトレーニングに励んでいるという。

「芸能生活を始めて、芸能人になってから、マジで一番反響があった。みんなに『すごい』って言ってもらえた」

バラエティー番組は、タレントとして全力。リング上も、プロレスラーとして妥協を許さない。その日、アスリートとしての顔を見た気がした。いずれにせよ、変わらないものがあった。フワちゃんは「陽」だ、と。それだけではなかった。新たなイメージ像も出来た。周囲に希望、元気、光をともす人なんだ、と。【栗田尚樹】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

3日、スターダムの4・23横浜アリーナ大会でプロレス2戦目を迎えるフワちゃん(左)と、対戦相手の林下詩美(中央)&天咲光由

重岡兄弟の王座獲得でミニマム級世界王者7人に 暫定王座を設置せざるを得ない事情も

兄弟同時にチャンピオンになり、ベルトを肩に笑顔を見せる重岡優大(左)と弟の重岡銀次朗(2023年4月16日撮影)

プロボクシングの重岡兄弟が国内初となる同日の兄弟世界王者となった。兄の優大(26)がWBC世界ミニマム級暫定王座、そして弟銀次朗(23=ともにワタナベ)がIBF世界同級暫定王座を獲得。「暫定」とはいえ、世界王座と同じ価値。日本ボクシング界に1つの記録を刻んだが、暫定王者2人の誕生で、ミニマム級の世界王者は計7人となった。今回は暫定王座を設置せざるを得ない事情があった。

WBC、IBFともに正規王者が負傷、コンディション不足という背景があった。IBF同級王者ダニエル・バラダレス(メキシコ)は1月6日、弟銀次朗との防衛戦での偶然のバッティングで試合続行不可能となって無効試合となった。母国へ戻った後も鼓膜が破れてコンディションが整わず、診断書をIBFに提出。正規王者が防衛戦ができないということでIBFも暫定王座の設置を決めた。

またWBC同級王者パンヤ・プラダブスリ(タイ)は当初、兄優大との防衛戦が発表されていたものの、試合2週間前にインフルエンザ感染で試合中止を申し出たため、興行成立のために急きょWBCが暫定王座決定戦を許可した。いずれも正規王者側の事情での暫定王者誕生だった。

2010年ごろからWBAは興行開催の側面から暫定王座を多く承認していた。11年初めには全17階級中、10階級で暫定王者がいたことを日本ボクシングコミッションは問題視。故障など正当な理由で正規王者が長期間活動できない場合を除き、暫定王座を世界王座として認めない方針を固めた。以後、国内ではWBA暫定王者に限り、世界王者として認定されず、13年に江藤光喜がタイで勝利して獲得したWBAフライ級暫定王座は国内で認められなかった。

WBAでは01年から5度以上の防衛などを条件にスーパー王者昇格という制度もあり、王座の乱立が問題視されていた。ただWBAも21年に暫定王座を廃止する方針を示し、暫定王者をランキング1位とし、スーパー王者と正規王者の統一戦を推進。ルール上は暫定王者が防衛戦することは可能だが、WBC、IBF、WBOともに正規王者の負傷回復次第、統一戦を指令している。国内では暫定王者が正規王者とすぐに団体内王座統一戦に臨むケースが主流となっている。重岡兄弟も8月11日、エディオンアリーナ大阪で正規王者との統一戦実現を願っている。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

関西ボクシング界の新星・尾崎優日、世界へ殴り込み 名前に込められた父の思いをかなえる

関西ボクシング界の新たなスター候補となるか。兵庫県三田市が拠点の大成ジムが4月16日にエディオンアリーナ大阪第2競技場で興行を行う。

メインはWBOアジアパシフィック・フライ級王者加納陸(25=大成)の初防衛戦。さらにWBC世界ユース・ライトフライ級王座決定戦に尾崎優日(20=大成)がプロ3戦目で臨む。

尾崎の相手は4勝4KO(1敗)のバオラブト・サラブタン(タイ)。丸元大成会長が「尾崎は必ず世界王者になる」と期待する逸材で、尾崎は「世界につながるチャンス。いい内容でKOしたい」と言った。

大阪・興国高でインターハイ2位、法大に進み全日本ライトフライ級で5位などアマで実績を積み、五輪を目指す選択肢もあったが「世界王者になることが小さいころからの夢」と大学を中退してプロの世界へ飛び込んだ。

おやじの夢を背負う。父次郎さん(51)も新日本木村ジムに所属したプロボクサーだった。バンタム級で6戦。ベルトへの夢が膨らみかけた時、地元の関西が大震災で被災した。家業などの兼ね合いから、夢は断念せざるをえなかった。

尾崎は2003年2月に生まれた。名付けられた優日(ゆうが)に父の思いがこめられた。「ボクシングで優勝する日。その願いでつけられたと聞きました」。父がかなえられなかった夢へ。その思いをしっかりと受け止めた。

ここまで2戦連続KO勝利と順調にプロのキャリアを積んでいる。身長168センチとライトフライ級(リミット48・9キロ)では長身。さらに下のミニマム級(リミット47・6キロ)も「世界戦のチャンスがあれば大丈夫です」と言うほど、体重調整を含め体格的に恵まれている。

今回の初タイトル戦が夢への入り口となる。「(プロデビューから)3年で世界王者になりたいと思っています」。ライトフライ級はWBAスーパー、WBC王者寺地拳四朗に元王者の矢吹正道ら日本選手の強豪がそろう。その中で父子の夢をかなえるべく、尾崎が殴り込みをかける。【実藤健一】

◆尾崎優日(おざき・ゆうが) 2003年(平15)2月18日、大阪府豊中市生まれ。小学1年からボクシングを始め、豊中五中から興国高へ。インターハイで2位となり、法大に進学もプロへの道を選択して中退した。昨年9月にプロデビュー。戦績は2勝2KO無敗。身長168センチの左ボクサーファイター。

ボクシング前アジア3冠王者岩田翔吉、KID魂胸に秘め再起リングへ

昨年11月のWBO世界初挑戦で判定負けして以来、約5カ月ぶりの再起戦に臨む岩田翔吉

3月15日、都内でプロボクシング・ライトフライ級の前アジア3冠(日本王座、東洋太平洋王座、WBOアジア・パシフィック王座)王者岩田翔吉(27=帝拳)を取材した時だった。4月1日、東京・後楽園ホールでWBOアジア・パシフィック同級15位ジェローム・バロロ(23=フィリピン)との同級10回戦を控え、最終調整中。昨年11月、WBO世界同級王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)に挑戦し、判定負けして以来約4カ月ぶりの再起戦を控える岩田は「今日、KIDさんの誕生日なんですよね」とさみしげな表情を浮かべた。

18年9月、多臓器不全で亡くなった総合格闘家・山本“KID”徳郁さんの存在が岩田にとってファイターの「原点」だ。9歳の時、KIDさんのジム「KILLER BEE」に入門。中学2年時からボクシングに専念した後もKIDさんや家族、弟子となるファイターたちの交流は続いていた。世界再挑戦を見据え、再びボクシングのリングに戻る岩田は「やはりKIDさんのことを考えたりします」とぽつりと口にした。

世界初挑戦だったゴンサレス戦は王者のディフェンス重視の「負けないボクシング」に手を焼き、最後まで崩しきれなかった。「相手のうまさ、強さは分かるけれど、不完全燃焼でしたね。表現するなら、ボクシングというものの『概念』を崩されたという感じ」と悔しさを押し殺すように話した。

一方でポジティブに気持ちの切り替えもできている。岩田は「さいたまスーパーアリーナの大舞台で世界戦ができました。世界初挑戦で難しい相手と当たったという経験。これを次に生かせるようにやっていきたい」と納得するような態度でうなずくと、最後に「面白い試合をしたかったですね」と強調した。

面白い試合とは-。それは「神の子」KIDさんの現役時代を意識したものだ。04年大みそか、K-1ルールで魔裟斗と激突し、05年には格闘技イベントHERO,Sのミドル級世界最強王者決定トーナメントでホイラー・グレイシー、宇野薫、須藤元気と強豪を下して優勝を飾った。さらに06年HERO,Sの宮田和幸戦で開始4秒KO勝利をマーク。ファンを熱狂させる試合をみせてきたKIDさんをファイトが脳裏に焼きついている。

再起戦の対戦相手バロロはランカー上位とも互角な試合を展開できる「隠れた強豪」となる。岩田は「(世界戦で)負けたということ、自分が面白い試合をしていないという、その2つがすごく悔しかった。今回はジムがすごく好戦的な人を選んでくれたのでうれしい。面白いと思ってもられる試合がしたい」と声をはずませる。

世界初挑戦で負けた後も世界ランキングではWBC2位、WBA3位、WBO7位と世界再挑戦を狙える位置にいる。KIDさんが他界した時に「魂を受け継ぐ」と誓い、プロボクシングの世界に飛び込んだ岩田は「再起戦ですが、また、すごいチャンスをもらえるような試合にしたい。大事な試合になる」と気合を入れ直した。KIDさんの魂を胸に秘め、ファンを楽しませる試合内容を意識し、再起戦のリングに立つ。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

東京女子・瑞希、苦楽ともにした対戦相手・坂崎ユカに「王者のベルト巻く姿見てもらいたい」

初のシングルベルト獲得へ意気込む東京女子プロレスの瑞希(撮影・松熊洋介)

悲願のシングルベルトは、大好きな相棒から奪いたい-。東京女子プロレスの瑞希(28)が、18日に行われる「GRAND PRINCESS'23」大会(東京・有明コロシアム)で「プリンセス・オブ・プリンセス」のベルトに挑戦する。16日に28歳を迎え、最初の試合がプロレス人生を大きく変えるかもしれない大一番となった。

最高峰のベルトを巻く姿をどうしても見せたい人がいる。それは対戦相手の坂崎ユカ。これまで「マジカルシュガーラビッツ」のタッグパートナーとして何度も一緒にリングに上がり、苦楽をともにしてきた。そんな仲間であり、あこがれでもある坂崎から「ベルトを奪って、頂点に立ちたい」という。本当なら戦いたくない「複雑な気持ち」があったものの、1月4日に次期挑戦者を決めるバトルロイヤルで勝利。その後の試合で王者だった坂崎が防衛に成功し、対戦が決定した。

シングルベルトへの思いは人一倍強い。17年4月から本格参戦。18年8月から坂崎と組み「東京女子を背負っていきたい」思いが次第に大きくなった。それでも最高峰の壁は高く、これまで4度挑戦も届かず。心折れそうになった時もあったが、坂崎の支えもあって「簡単に手に入らないものだから、絶対にあきらめたくない」と前を向いた。

大好きなファンの声援も瑞希の挑戦を後押しする。毎試合後に行われるサイン会での行列の長さは、東京女子内でもトップクラス。数回会っただけで名前を覚えることもあるという。「応援してくれるファンの方々のおかげ」。アイドルレスラー出身の瑞希は、この言葉をことあるごとに口にする。

近くにいたパートナーの背中を追い続け、ファンの声を力に変えて、強くなったことが対決を生んだ。「自分の成長した姿、王者になってベルトを巻く姿をユカに見てもらいたい」。シングルマッチで1度も勝てなかった大好きな坂崎から初めての3カウントを奪い、大好きなファンの前で、堂々と頂点に立つ。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

◆瑞希(みずき) 1995年(平7)3月16日、兵庫県神戸市生まれ。井上貴子プロデュースのアイドルレスラープロジェクト「VoLume2」の2期生として、12年12月にデビュー。その後SAKIと組み、さまざまな団体の大会に出場。17年から東京女子に参戦し、坂崎とのコンビで18年8月にプリンセスタッグ王者に輝いた。必殺技はアクアマリン、キューティースペシャル、渦飴など。157センチ、A型。

初のシングルベルト獲得へ意気込む東京女子プロレスの瑞希(撮影・松熊洋介)

試合会場の有明コロシアムで元気よくポーズを決める東京女子プロレスの選手たち(撮影・松熊洋介)

WBC大谷翔平先発の3・9、水道橋でプロレスラーの思い痛感 ノア原田大輔引退試合も熱かった

9日、首の負傷で医師立ち会いのもと、1分間のエキシビションマッチを終えた現役引退する原田大輔

JR水道橋駅は、人でごった返していた。3月9日。みな、そろって同じ方向へ歩みを進めた。西口から後楽橋を渡ると、目的地は見えてきた。東京ドーム。WBCの日本の初戦(対中国)ということもあり、人の数は異常だった。まして大谷翔平(28=エンゼルス)が先発するということもあり、球場周辺には「OHTANI」のユニホームを着た子どもたち、仕事終わりのサラリーマンであふれていた。

そこから約50メートル手前だろうか。球場に吸い込まれる笑顔の人々とは相反し、どこか神妙な面持ちで6階建てのビルに入って行く人たちがいた。多くの人々は「原田大輔」のグッズを持参している。目的地は5階の後楽園ホールだった。日本中がWBCに熱視線を送る中で、プロレスリング・ノアの原田大輔の引退試合がひっそりと行われた。

36歳。現役引退には、まだ早いとも思える年頃。それは突然だったという。昨夏。ノアが定期的に行っている健康診断で、MRI検査を行ったところ頸椎(けいつい)環軸椎亜脱臼が見つかった。患部が首ということもあり、昨年8月27日から試合を欠場。以降、精密検査、治療を続けてきたが、回復の兆しが見られなかった。

「これ以上試合によるダメージを受けた場合、最悪命にも関わる」

無念のドクターストップ。ノア、原田との話し合いのもと、引退が決まった。本人に自覚症状はなかった。痛みなんて、プロレスラーであれば日常のもの。ただ、首の痛みはなかった。だからこそ原田は悔いた。「本当に引退するの?って自分が思うくらいで」。大好きなプロレスが出来ないもどかしさ。「プロレスをやる場所はノア」。そんな男にとって、無念という言葉では片付けられない現実だった。

午後6時30分から始まった後楽園大会。第3試合に、原田の引退試合が行われた。とはいえ、医師立ち会いの、1分間のエキシビションマッチ。1分という時間が限界だった。入場の際に、既に涙するファンの姿もあった。リングで待ち受けたラストマッチの相手は小峠篤司(37)。原田が大阪プロレスでデビューした時の対戦相手であり、ノアに加入した時の初試合の相手も小峠だった。試合開始のゴングとともに、強烈なラリアットをくらわせた原田だが、投げられない。チャンスがあっても、投げることはかなわなかった。

試合は時間切れの引き分け。原田のプロレス人生に終わりを告げるゴングが鳴ると、小峠は涙した。人目もはばからず、大粒の涙を流した。ファンも涙交じりの原田コール。原田はかみしめた。バックステージで「すみません、今日の1分が僕の限界です」と言った。小峠は「神様なんちゅー、ひどいことするんやな。なんで、原田? 俺にすればいいのにって」。苦楽をともにしてきた2人だからこその時間、リングだった。

格闘技担当になって約1カ月が経過した。これまで担当した野球、サッカーでも故障により、無念の引退を選択せざるを得ないアスリートの姿を多く見てきた。ただ、これほどまでに命の危険と隣り合わせの現場は記者人生でも初。原田は言った。

「これから医療チームの先生とかプロレスリング・ノアのみなさんに残してくれたこの命を大事に生きていきます」

ファンを笑顔にするため、自身の価値を高めるため、プロレスラーは並々ならぬ思いで、リングに上がっていることを痛感した。

「3・9」。水道橋は、確かに熱かった。【栗田尚樹】

9日、首の負傷で医師立ち会いのもと、1分間のエキシビションマッチを終えた現役引退する原田大輔、手前は対戦相手の小峠篤司

ロリト麻理菜、トレーナーの夫と「今時」SNSでの出会いから3カ月で結婚 夫婦で目指す世界

4・9興行で日本王座に挑むロリト麻理菜(左)と夫でトレーナーのレイ・ロリト氏

「今どきだなぁ」とほほえましい空気が流れた。

ボクシングのエスペランサジムが今月1日に兵庫県伊丹市のジムで4月9日に大阪の豊中176BOXで行う興行について会見した。メインは日本女子ミニマム王座決定戦(6回戦)で同ジムの同級1位ロリト麻理菜(29)と同級5位の一村更紗(27=ミツキ)が対戦する。

会見で隣に寄り添っていたのがトレーナーで夫のレイ・ロリト氏(32)。フィリピン出身で日本非公認のIBOライトフライ級王座を獲得、来日して大成ジムに所属した。「ボクシング」の共通項はあるが、夫婦となるまで2人をつなげたきっかけは「SNS」だったという。

麻理菜選手はプロデビューしてからSNSのフェイスブックを始めた。そこにレイ氏がDM(ダイレクトメッセージ)を送ってきたという。「『男ですか?』ときたんです。普通は無視するんですが、さすがに『いえ、女性です』と返して。それから『自分にトレーナーをやらせてほしい』ときてやりとりしました」。

今になって明かされたのは「男ですか?」は興味を抱かせるための作戦だったという。麻理菜選手は当然、警戒をしたが、同じフィリピン選手の仲介もあり、20年11月に初めて会ってからがスピードだった。「出会って1週間で交際し、3カ月で結婚しました」。ボクサーとして尊敬する実績に加え、人柄にひかれて電撃婚にいたったという。

「ボクシング」の共通ワードがあって、おたがいに支え合える。麻理菜選手はボクサー、理学療法士、主婦と「三刀流」をこなし、その多忙な生活をレイ氏が支える。

初めて挑む日本タイトルも通過点に位置づける。「目標はもっと上に向いている。その夢への第1歩として、日本のベルトを必ずとります。ジムに初めてのベルトを持ち帰って、次につなげたい」。自身を「スポーツも何でも負けず嫌い」と分析する。数年前は「格闘技は見るのも怖かった」という主婦が、夢の世界王者へ歩みを進める。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

◆ロリト麻理菜(まりな) 旧姓・浜田。1994年(平6)2月4日、神戸市生まれ。中学からバスケットボールを始め、須磨学園へ。森ノ宮医療大学へ進み理学療法士の資格を取得。23歳時に「ダイエット目的で」ボクシングを始める。19年12月プロデビュー。戦績は5勝1分け。身長157センチの右ボクサー。

日本プロボクシング界に約19年5カ月ぶり世界王者1人も明るい未来 今春、日本人の世界戦連発

2022年ボクシング年間優秀選手表彰式 記念撮影に臨む、左から殊勲賞の中谷潤人、年間最優秀選手賞の井上尚弥、技能賞の寺地拳四朗(2023年2月22日撮影)

日本プロボクシング界に世界王者が1人となった。世界4階級制覇王者の井岡一翔(22=志成)がWBO世界スーパーフライ級王座を返上したことが17日(日本時間18日)、WBOから発表された。これで現役王者はWBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者寺地拳四朗(31=BMB)のみに。WBC世界スーパーフライ級王者徳山昌守の1人王者だった03年9月以来、約19年5カ月ぶりとなるだけに「異例」の事態とも言える。

13年にIBF、WBOが国内承認され、WBA、WBCと合わせて世界主要4団体の体制となって以降、日本には常に複数の世界王者がいた。17年7月には最多13人の世界王者がいた時期もあった。1年前も、7人の世界王者がいたことを考えれば、一気に減った印象だ。しかし日本人が世界挑戦しても勝てず、世界王者不在の危機も心配された19年5カ月前とはムードがまったく違う。

前WBO世界フライ級王者中谷潤人(25=M.T)、前4団体統一バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)、井岡の3人は王座陥落ではなく、先を見据えた王座返上だったことが大きい。3人ともに次戦は世界挑戦の流れ。中谷は井岡が返上したWBO世界スーパーフライ級王座決定戦に出場し、同級2位アンドリュー・モロニー(32=オーストラリア)との対戦指令を受けている。井上はWBC、WBO世界スーパーバンタム王者スティーブン・フルトン(28=米国)との挑戦交渉が大詰めとされている。

さらに井岡は昨年大みそかに引き分けたWBA世界スーパーフライ級王者ジョシュア・フランコ(27=米国)と完全決着をつけるために即再戦に向けて交渉している。フランコ戦実現には、WBOから義務付けられた中谷との指名試合を消化できないとして王座返上した。3人の世界戦は5月以降に開催される見通しとなっている。

4月8日には東京・有明アリーナで元WBC世界バンタム級暫定王者井上拓真(27=大橋)がWBA世界バンタム級王座決定戦に出場し、同級3位リボリオ・ソリス(40=ベネズエラ)と拳を交える。同日同興行には寺地もWBO世界ライトフライ級王者ジョナサン・ゴンサレス(31=プエルトリコ)との3団体王座統一戦を控えており、両者が勝利すれば世界王者は2人に戻る。

前回の1人王者時代との違いは、世界王者になれる選手層の厚さにある。今年1月、王者側の試合続行不可能により無効試合となったIBF世界ミニマム級4位重岡銀次朗(23=ワタナベ)も4月に再び世界挑戦の舞台が整いそうだ。19年5カ月ぶりの1人王者は約1カ月程度という短期間になる可能性が高い。春になれば日本プロボクシング界に明るい未来が到来するだろう。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

井岡一翔(2022年12月31日)
WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦 判定でホセ・ナバーロを下した王者・徳山昌守(2006年2月27日撮影)

武藤敬司引退の裏で引退の極悪男NOSAWA論外の思い「演じなくていいと思うとホッと」

NOSAWA論外(2019年2月15日撮影)

“プロレスリングマスター”武藤敬司(60)の引退の裏で、約28年間のプロレスラー生活に「ひっそり」とピリオドを打つ男がいる。NOSAWA論外、46歳。21日の武藤引退興行となる東京ドーム大会第5試合のタッグマッチで、自身率いる「東京愚連隊」の“パレハ”MAZADAと組み、新日本プロレスの石森太二、外道組とラストマッチで対戦する。

宣言は突然だった。昨年10月の福岡大会の試合直後。同6月に引退を発表した武藤と同日の大会で、現役生活に幕を下ろすことを電撃発表した。長年の全身のダメージが蓄積し、ドクターストップを受けた。身体だけではなく、心もむしばまれていた。

「(NOSAWA論外を)演じなくていいと思うとちょっとほっとしていたり、その半面、切ない感じでもある。ドームで引退できるレスラーは少ない。運がいい。プロレスの神様に感謝しないといけない」。会見では、いつにない神妙な面持ちで、率直な思いを打ち明けた。

公私ともにヒール(悪玉)だった。95年にデビュー。DDTの旗揚げメンバーとして参加。その後はメキシコやアメリカのマットを渡り歩き、00年にKIZUZAWAとともに「東京愚連隊」を結成した。10年には酒の飲みすぎで全日本の試合をばっくれて、無期限出場停止処分。11年には無免許でタクシーを乗り逃げし、窃盗の容疑で逮捕。12年には、乾燥大麻の密輸の疑いで逮捕(不起訴処分)された。全日本からも新日本からも“出禁”となった、唯一無二の問題児だった。

19年からノアに本格参戦すると、20年にはヒールユニット「ペロス・デル・マール・デ・ハポン」を結成。傍若無人な振る舞いで、嫌われ役となった。武藤の引退大会での引退には「本気な顔で『ずらせよ! 同じ日は嫌だよ』と言われた」と、レジェンドからも嫌われた。だが、プロレスにはヒールの存在は欠かせない。その存在は、選手からもファンからも認められていた。武藤には、その後の会食の際に「一緒に引退するか」と誘われ、引退の踏ん切りがついたという。

「ノアで最後を迎えられてよかった。引退ロード、セレモニー、10カウントもいらない。ひっそりとドームで引退して終わりたい」。メキシコで培った高難度の丸め込み技のように、派手ではなくとも、ずる賢くとも、NOSAWA論外が最後の3カウントを鳴らす。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

4・8に3団体統一戦に臨む寺地拳四朗 甘い、そして苦い経験を重ねて得た「王者のメンタル」

寺地拳四朗(22年11月)

WBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者寺地拳四朗(31=BMB)が「夢」へ前進した。

13日にWBO同級王者ジョナサン・ゴンザレス(31=プエルトリコ)との3団体統一戦が正式発表された。4月8日、舞台は有明アリーナ。当初はWBCから指示された同級1位ヘッキー・ブドラー(34=南アフリカ)との指名試合が最優先だったが、「統一戦の方がモチベーションが上がる」という寺地の希望が実現する運びとなった。

同日はキックボクシングで無敗を誇った“神童”那須川天心のボクシングデビュー戦、さらに“モンスター”井上尚弥の弟、拓真のWBA世界バンタム級王座決定戦が組まれた。最近行われた日本での興行でも群を抜く豪華ラインアップ。3団体統一王者を狙う寺地でさえ、主役を張れないかもしれない。それでも、いつもの人なつっこい笑顔で「(興行自体が)注目されることが気持ちも上がる。楽しみじゃないですか」。

格闘技界では「俺が俺が」タイプが圧倒的多数を占める。表に出さないだけかもしれないが、寺地の「穏やかさ」はその中にあって異色でもある。ただ、そんなメンタルも最近、身につけたものという。「変わってきたんですよ。僕もいろいろありましたからね」と笑って言った。

かつては元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高氏の連続防衛13回超えだけが、ボクシングを続けるモチベーションだった。その大目標が消えた。連続防衛中の20年には“泥酔騒動”を起こし、3カ月のライセンス停止処分も受けた。いろいろな苦い経験をへての「穏やかさ」でもある。

ゴンザレス戦に向けては早々と対策を練ってきた。「相手がどうきても対処できるように、引き出しを増やしている」と明かし、警戒点は「いかにうまく、どれだけ姑息(こそく)にくるか、でしょうね」とボクシング技術以外をあげた。

2戦連続で王者同士の対戦。その中で寺地の自信は膨らむ一方だ。「相手がどうこようが関係なく、自分はいくんで」。甘い、そして苦い経験を積み重ねて、寺地は「王者のメンタル」を手に入れた。それを4・8のリングで証明する。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

UFCヘビー級王者ガヌーがUFC離脱 ボクシング王者フューリーと最重量級頂上決戦実現か

カメルーン初のUFCヘビー級王者となったフランシス・ガヌー(36)がUFCとの契約を更新しなかった。

今月中旬の会見で、UFCのデイナ・ホワイト社長から明らかにされ、そのまま王座剥奪となった。現在は前UFCヘビー級王者、そしてフリーエージェントのガヌー。同社長によると、ヘビー級でUFC史上最高額のオファーを提示したものの、契約に至らず。同様の熱烈オファーを断ったのは元PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)以来、2人目の選手だったという。

打撃練習に励む写真を自身のSNSに投稿した前UFCヘビー級王者フランシス・ガヌー(左=ガヌーの公式インスタグラムより)

UFCで6連勝中のガヌーは22年1月のUFC270大会で同級暫定王者シリル・ガーヌ(フランス)との王座統一戦を制し、初防衛に成功、総合格闘技界の最重量級の頂点に立った。しかしガーヌ戦前からひざの内側側副靱帯(じんたい)断裂などの重傷を負っていたことに加え、UFCとの契約問題が浮上。ガヌーは最終的に契約しない選択を取った。

注目されるのは今後の進路だ。昨年4月、プロボクシングWBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリー(34=英国)が同級暫定王者ディリアン・ホワイト(34=英国)との王座統一戦で勝利した後、リング上にガヌーの姿があった。両者は将来的に対戦することを熱望した。もともとカメルーンからフランスに移住した際、強い興味があったのはボクシング。貧困から脱出し、稼ぐために勧められた総合格闘技に転向していた経緯もある。

米TMZスポーツに対し、ガヌーは「私は彼(フューリー)のアドバイザーの何人かと話しました」と明かした。今年4月開催を目指し、フューリーがWBA、IBF、WBO世界同級王者オレクサンドル・ウシク(36=ウクライナ)との4団体王座統一戦に向けて交渉中である現状を説明。

「彼らは4月にウシクとの試合に取り組んでいる。それまで彼は自由にはならない。ただ、その試合の前に合意できるかどうか試しているところだ」と明かした。

夏ごろにフューリーとのボクシングマッチが組まれることになれば、ガヌーにとっては準備期間が増える。そのため「私が望んでいるタイムラインに問題はなく、6月か7月になると予想している。これは実行可能だ」とプラス思考でトレーニングを積んでいるようだ。ウシク戦に勝利し、ヘビー級の4団体統一王者となったフューリーと対決することが、ガヌーにとって最高のシナリオだろう。

ガヌーは「結論を出すこと、何かを言うのは時期尚早だと思う。ただ私たちが検討していることは間違いない」と前向きに交渉を続ける姿勢だ。プロボクシングと総合格闘技の最重量級頂上決戦が実現すれば大きな話題になる。フューリーとの交渉は初期段階だが、ガヌーが総合格闘技最強の称号を捨て、フューリー戦に真剣であることは間違いない。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

ノア清宮海斗、2年越しに己に打ち勝ち王者の自覚 実力でオカダ・カズチカを振り向かせてみせる

22日、ノア東京ドーム大会のカードが決まりオカダ・カズチカ対清宮海斗の対戦が発表される

プロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者清宮海斗(26)が、2年越しに己に打ち勝った。1月21日、新日本プロレス横浜アリーナ大会で、新日本のIWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカ(35)とタッグマッチで対戦した。2年連続となる両団体の対抗戦。昨年と同じタッグマッチで、相手も同じオカダ。だが、1年前に敗れて号泣し、もろさを露呈した清宮は、もうそこにはいなかった。

試合開始前から目の色が違った。先発を買って出ると、オカダとの対戦を熱望。相手は「眼中にない」とでも言わんばかりに目を合わせようともせず、試合中には自身に背中を見せる無関心な態度を取った。それでも清宮は、死角からの顔面蹴りで、有無を言わさずに振り向かせた。

額から流血を見せ、激怒したオカダと、場外乱闘。会場全体が自身へのブーイングで包まれる中、最後まで引かずにつかみかかり、マイクでは「シングルで決着付けろ! びびってんのか? だったら帰れよ」と言い切った。昨年はオカダに「調子乗ってんじゃねえぞ!」と厳しい言葉を投げかけられても、泣いて退場するだけしかできなかっただけに、大いに成長を実感させた一幕だった。

昨年9月にN1を制覇し、2度目のGHCヘビー級王座を獲得。師匠の武藤から伝授された秘技を駆使し、ここまで3度の防衛を成功させた。常に口にするのは「新時代」を背負う自覚と自負。元日の日本武道館大会では、因縁の挑戦者拳王を下し「俺を見にノアに来い」と叫んだ。

リングを降りると、心優しき好青年。その真面目さがたたり、1度目にベルトを失った際には自分自身を見失うことがあった。だが、今は違う。謙虚さは変わらずも、王者の自覚が芯を太くさせた。ファンからの信頼も厚い、ノアの顔だ。

新日本との対抗戦は無効試合に終わったが、見据えるのはプロレス界の頂点だ。武藤の引退試合となる2月21日の東京ドーム大会のセミファイナルで、オカダとの王者同士のシングル対決が決定した。オカダは対戦拒否の姿勢を示しているが、関係ない。今度は実力で振り向かせてみせる。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

“くりそつ”元世界王者ランダエタ氏とコットンきょん どちらが先に“世界”とるか密かな楽しみ

ランダエタ氏(左)とコットンきょん

だれからも支持されないが個人的に推している。KWORLD3ジムにトレーナーとして加入した元世界王者のファン・ランダエタ氏(44)のことだ。

個人的にお笑い大好き。昨年のキングオブコントも見た。優勝したビスケットブラザーズは素晴らしかった。そして準優勝だったコットンというコンビを初めて知った。その1人、きょんがKWORLD3ジムにいるじゃないか、と大興奮してしまった。くりそつ(=そっくり)ですねと、本人にきょんの画像を見せるなど大はしゃぎしたが、ランダエタ氏はただただ苦笑い。だれからも賛同を得ることはなかった。

ボクシング興行「3150FIGHT」を手がける元世界3階級制覇王者・亀田興毅ファウンダー(36)が、初めてベルトを獲得したWBA世界ライトフライ級王座決定戦の対戦相手。ベネズエラ人ボクサーの技術力の高さを肌で知る興毅氏がトレーナーに招いた。

すべてのスポーツにおいて、教えを受ける環境が競技に与える影響は計り知れない。その上で、ランダエタ氏は大きな存在感をもたらしているという。同ジムの大毅会長(33)は「技術的なことは説得力がある。世界までいったテクニシャンだし、中南米で指導者としてのキャリアもある。選手の(技術力の)底上げに間違いなくつながっている」と大きな信頼を寄せる。

その効果は今後、より鮮明に出てくると期待する。大毅会長は「やはりまだコミュニケーションの部分で問題がある。言葉の弊害はあっても、伝えたいことが伝わるようになると思っている。だから、これからもっとよくなると思いますよ」と断言した。

ランダエタ氏は家族と離れ、日本で1人暮らし。ジムが借り上げた3LDKの部屋で、遠征のボクサーが利用するなどの以外は悠々と楽しく生活しているという。ただ、目標はもちろん日本で成功し、家族を呼び寄せる1点しかない。

同ジムからランダエタ氏が育てる世界王者か、コットンのきょんがタイトルを獲得するのが先か。だれも興味を示さない中で、ひそかに楽しんでいる。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

23年のボクシング界は重量級の夜明け?元世界王者伊藤雅雪氏が亀田興毅氏に呼びかけも

伊藤雅雪氏(2022年10月22日撮影)

23年は日本ボクシング界で重量級が盛り上がるかもしれない。今月7日、元WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪氏(31)が手がけるトレジャー・ボクシングプロモーションは公式SNSを通じ、4月に韓国で興行を行うと発表。昨年12月、赤穂亮(横浜光)-ジョンリール・カシメロ(フィリピン)戦をメインに据えた旗揚げ興行に続く第2弾となる。

この興行と同時に3団体統一世界ヘビー級王者オレクサンドル・ウシク(35=ウクライナ)の運営するプロモート会社ウシク17プロモーションと提携したことも発表。ウシクのスパーリングパートナーでプロ戦績4勝(3KO)のヌルスルタン・アマンジョロフ(カザフスタン)の参戦が決まったと報告した。続く8日にはWBC世界ミドル級5位メイリム・ヌルスルタノフ(カザフスタン)の参戦も決まったという。

この発表後、伊藤氏は公式ツイッターを通じて日本ヘビー級王者の但馬ミツロ(28=KWORLD3)をプロモートする亀田興毅氏(36)に呼びかけた。「ウシクのパートナーを務めるヘビー級の選手と契約しました! 圧倒的な力で勝ち続けている 但馬ミツロ選手と、この本物のヘビー級ボクサーとの試合を皆さん見たくないですか!? 亀田さん、ミツロ選手 是非韓国で4月よろしくお願いします!!」とつづった。

日本プロボクシング協会は先月18日の理事会で来年5月19日の「ボクシングの日」に東京・後楽園ホールで重量級の4階級トーナメントを始めることを承認した。スーパーミドル級、ライトヘビー級、クルーザー級、ヘビー級で4回戦のトーナメントを組み、全国のジムから選手を募集。格闘技界からの転向組も期待しながら2月10日には後楽園ホールで重量級4階級のプロテストを予定。来年4月までに西日本でも同様の重量級プロテストを行う。優勝者には「協会認定王者」とする見通しだ。

重量級の日本ランカーは乏しく、ヘビー級には王者但馬以外はランキング選手不在。スーパーミドル級、ライトヘビー級、クルーザー級にはランキング選手もいないのが現状だ。興行を展開する伊藤氏、亀田氏という元世界王者たちが契約するヘビー級選手の動向、日本ボクシング界の重量級育成の動きを見守りつつ、23年は重量級の夜明けになることを祈りたい。

【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

宇佐美正パトリック、RIZIN40は真価問われる一戦「食っておいしい」知名度↑の踏み台に

ポーズを取るRIZIN40参加選手。左端は宇佐美

兄弟ダブル勝利で、激動の22年を締めくくる。総合格闘技RIZINに参戦する“ボクシング高校6冠”の宇佐美正パトリック(22=バトルボックス)が11日、都内の所属ジムで練習を公開。大みそかのRIZIN40大会(さいたまスーパーアリーナ)“ブラックパンサー”ベイノア(27=極真会館)戦に勝利し、28日に格闘技イベントINOKI BOM-BA-YE×巌流島(東京・両国国技館)へ参戦する実弟の秀メイソン(21=同)とともに最高の年越しにすることを誓った。

カード発表会見では相手の挑発に対してイライラを募らせる場面もあった宇佐美だが、この日は打って変わって落ち着き払っていた。RIZIN初参戦となった10月の福岡大会に続くナンバー大会連続参戦で、対戦相手は第2代RISEウエルター級王者ベイノア。それでも、「自分の方がレベルが高い。(相手に)打たれ強さがあるとは思っていない。この間、自分が撃ったストレートが当たれば起き上がれないのでは」と言い切った。

あくまで、踏み台にするつもりだ。「向き合うのが楽しみで仕方がない。自分より知名度があるので、食っておいしい。自分も知名度を付けていって、しっかり強い相手と戦っていけたら」。その言葉の端々からは、ゆるぎない自信があふれ出していた。

「俺よりも打撃がうまい」と実力を認める弟、秀メイソンの存在が活力になっている。21年にカナダから帰国した弟は、宇佐美の活躍を見て、格闘技の熱を再燃させたという。今は同ジムに所属し、ともに汗を流すパートナーだ。「弟と一緒にできる。自分も負けてられへんという気持ちになりますし、この環境が自分に合っている」。弟は28日、自身は大みそかに決戦の日を迎える。「ボンバイエにメイソンも出るので、応援しながら、自分の大みそかに集中。(兄弟で勝って)良い年を迎えられれば。それが自分の中で一番幸せなことなので」と、気恥ずかしそうに笑った。

2000年に日本人の父とカナダ人の母の間に誕生した宇佐美。5歳から極真空手を開始すると、打撃の才能をめきめきと開花させる。中学ではボクシングU15全日本大会を連覇。高校では、国体、インターハイ、全国選抜でそれぞれ2度の優勝を果たし、ボクシング6冠を達成した。

LDHの格闘技部門LDH martial artsのオーディションに参加して所属選手契約を勝ち取ると、昨年9月に修斗でプロ総合格闘家デビュー。3連勝を飾るなど順風満帆かと思われたが、2年目の今年は簡単ではなかった。4月のPOUNDSTORMで初黒星を喫すると、6月開催のRoad to UFCでは減量中に脱水症状を起こして計量に参加できず。10月に「LDH-」を離脱し、フリーになっていた。

心機一転。同月にRIZIN初参戦。20歳年上の佐々木信治をTKOでマットに沈め、「サポートしてもらっている人たちのおかげでこの舞台に立てた」と涙を流した。ここからが新たなスタート。真価が問われる一戦も、心強い仲間たちとともに迷いなく突き進む。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

RIZIN39の会見に出席する宇佐美