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au版ニッカン★バトル

リングにかける男たち

中邑真輔をさらに魅せる日本のプロレス知り尽くす男

名コンビぶりを発揮するインターコンチネンタル王者中邑(左)とゼイン(C)2019 WWE, Inc. All Rights Reserved

プロレス界にはリングに立つマネジャー、代理人、スポークスマンがいる。その呼称はいろいろあるものの、選手の存在感を際立たせるために欠かせない人材だ。そして今夏以降、WWEインターコンチネンタル(IC)王者中邑真輔(39)には、サミ・ゼイン(35)という存在がいる。

さかのぼること8月の米スーフォールズ大会。スマックダウンの人気コーナーで、ザ・ミズがホストを務める「ミズTV」にゲストとして出演したゼインが「オレの助けを必要としている男がいるんだ」と、中邑は呼びこまれた。

ミズから「IC王者なのに、なぜサミ・ゼインとつるんでいるんだ?」と疑問を投げかけられる中邑だが無言のまま。代わりにゼインは「シンスケは日本人でアーティストだが、心の中のメッセージを完全に伝えられないことに苦痛を感じているんだ。オレにはその気持ちがよくわかる。シンスケと話したければ、オレを通せ」と切り出した。

ゼインの一方的な説明に疑問を感じたミズに念押しで「本当にゼインに代弁させるつもりか?」と説得された中邑は無言のまま、ミズを制し、ゼインとの連係でKOしてしまった。以後、中邑はインタビューの質問には、わざと日本語を使用し、残りはゼインが「代弁」。WWEデビュー戦の対戦相手との連係で、試合時にはセコンドにも招いてIC王者ロードを突き進む。

リング上でゼイン(右)とともにアピールするインターコンチネンタル王者中邑(C)2019 WWE, Inc. All Rights Reserved

ゼインはWWE加入以前のROH時代には丸藤正道、飯伏幸太らと対戦し、ドラゴンゲートやDDTで来日済み。日本のプロレスを知り、プロレス技術も抜群。かつコメディアンとしても活動する一面も併せ持つ。日本人を知り、日本のプロレスを知る冗舌なヒゲ男のアシストは中邑の雰囲気にさらなるエッジを効かせている。

今、WWEヘビー級王者ブロック・レスナーにはポール・ヘイマンが代理人を務める。WWE加入したレスナーのライバルで元UFCヘビー級王者のケイン・ヴェラスケスには、レイ・ミステリオJr.がセコンド役を務める。過去にはジ・アンダーテイカーやケインにはポール・ベアラーがマネジャーとして登場。国内ではストロングマシンに悪役マネジャーの将軍KYワカマツが付き、最近ではオカダ・カズチカにスポークスマンとして外道がついたことは記憶に新しい。いつもブレークする選手には「冗舌な助っ人」が不可欠なのだ。

英語が流ちょうな中邑にとって、自身の言葉で表現できないもどかしさも時にあるだろう。一方で、中邑には他のレスラーにはマネできない独特のパフォーマンス力を持っている。入場からファンを盛り上げ、リングでも「魅せる」ことができる。17~18年にあと1歩届かなかったWWEヘビー級王座への道。IC王者としての地位を確立しつつあるゼインとの絶妙コンビが、中邑にとって今後の起爆剤になるのではないかと想像している。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

セコンドにゼイン(左)を入れ、インターコンチネンタル王座の防衛に成功する同王者中邑(C)2019 WWE, Inc. All Rights Reserved

女子プロレス人気復活へ、同性ファン求める意見が鍵

10月17日、新体制発表会見を行ったスターダム。前列左からスターダムのロッシー小川社長、ブシロード木谷高明取締役、キックロード原田克彦社長。後列はスターダムの選手ら

女子プロレス界に新たな光が射した。10月17日、ロッシー小川社長率いる国内トップ団体スターダムが、新日本プロレスの親会社ブシロード傘下になったことが発表され、同日都内で会見が開かれた。12年に新日本プロレスを買収し、そこからV字復活を成功させたブシロード木谷高明取締役は「3年で5倍の10億を目指す」と成長を約束。来年4月29日に大田区総合体育館で約7年ぶりのビッグマッチを開催するほか、BS日テレ、TOKYO MXでのレギュラー番組も決定。積極的にPRを進めていく予定だ。

日本では過去にビューティ・ペア、クラッシュギャルズ、全女など女子プロレスのブームが存在した。しかし、70年代から長年全女中継を行ってきたフジテレビが02年に「格闘女神ATHENA(アテナ)」を終了し、中継から撤退。さらに全女が05年に解散。それ以来、女子プロ人気は瞬く間にしぼみ、マイナージャンルと化した。今回の件をきっかけに女子プロ人気は復活するのか。ブシロードの支援を背にスターダムがどう変化していくか、そして他の団体がどう動いていくか注目していきたい。

会見中、最も刺さったのがブシロード木谷氏の言葉だ。質疑応答で、スターダムの伸びしろについて問われると、こう答えた。「まずもったいない部分は、お客さんの年齢が高い。ほぼ男性しかいない。(過去に)女子プロレスが流行(はや)った時、やはり支えていたのは女子だった。女子が見やすい会場、大会にしたい」。女性や、若いファン層を取り込むことが今後の成長のカギになると語った。

女性ファンの少なさは昨年プロレス取材を始めて以来気になっていた部分だった。故井田真木子氏が記し、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「プロレス少女伝説」(90年)には、スター長与千種を熱狂的に追いかける少女たちの姿が描かれている。しかし、いま会場を埋めるのはほぼ男性だ。確かにビジュアル面で優れた選手も多く、試合前の歌のパフォーマンスと合いの手、売店でのやり取りの様子などを見ると男性ファンが多い理由は理解できる。ただ、その光景は異様だ。

そうした状況の中、会場で見かけるわずかな女性ファンはどんなことを思いながら観戦しているのだろうか。あらためて浮かんだ疑問を解決するべく10月28日、ツイッター上で女子プロ好きの女性に話を聞きたいと呼びかけた。すると、約20人の方が私に返信やダイレクトメールを送ってくださった。直接会って座談会をしたかったが、地方の方も多かったため断念し、LINEオープンチャットを開設。約40人の方が集まり、熱い意見を投稿してくださった。

「最初は男性だらけの中に入っていくのが嫌で帰ろうと思いました」など観戦時の苦い経験を明かしてくれた方もいたが、大半は男性だらけの環境でも気にせず試合を楽しんでいる様子だった。女子プロの魅力についての質問には「感情移入しやすい」「自分ができないからこその憧れ」「心身の痛み、努力が報われた時の喜びは男性レスラーより伝わってくる」など、同性だからこそ感じる部分を挙げる方が多かった。

そして、みなさんが特に熱望していたのがテレビ放送と女性限定興行だった。限定興行に関しては「女性ファンがこんなにいるんだよ、とアピールすることが大事」「会場にいくハードルを下げること」など。同性の仲間がいる安心感があれば、その後も会場に足を運ぶ可能性は確かにある。ブシロード木谷氏も会見の中で、従来の男性ファンを大事にした上で、女性限定興行をする価値があると熱弁していた。簡単ではないと思うが、スターダムに限らずぜひ多くの団体に実現してほしい。

肝心の試合の内容も充実しつつある。女子プロレス界の横綱ことセンダイガールズプロレスリングの里村明衣子は「女子のレベルは10年前に比べたらすごく上がっている。そして、世界的に女子レスラーが増えている」と話す。現在WWEやAEWなど米大手団体が女子の試合を提供していることもあり、世界的に女子選手への注目は高まっている。里村らトップ選手は海外の興行に引っ張りだこの状態だ。歴史ある日本の女子プロレス文化が再び花開く下地は、十分そろっている。【高場泉穂】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

武藤敬司に見るトップレスラーの必要条件はコメント力

新日本プロレスとUWFインターの対抗戦。メインイベントで高田延彦(右)にドラゴンスクリューを決める武藤敬司

武藤敬司(56)に35周年のインタビューをしたときに、プロレスラーのコメント力の話になった。近年のプロレス界において、そのコメント力は、トップレスラーになるための必要条件となっている。アニトニオ猪木を始め、一時代を築いたレスラーの名言は多い。

そんな中でも、武藤のコメントは異彩を放っている。

「プロレスは芸術だ」

「プロレスはゴールのないマラソンである」

武藤は「今でも言うやつはいるけど、プロレスが芸術だと最初に言ったのはオレ。今は、長いセリフを事前に考えてしゃべるやつもいるけど、昔は自然に言葉が出てきたんだ。それがお客さんから評価され、逆に応援してくれるお客さんに力をもらった」と話す。プロレスを人生にたとえ、選手の頑張りを自らの生き方に重ねて共感するファンは多い。

記者が好きな言葉は「思い出とケンカしたって勝てっこない」という言葉だ。武藤が所属した新日本には、アントニオ猪木を始め、偉大な先輩が数多くいた。長州力など、主力選手の大量離脱で、団体を支える役目は武藤ら、闘魂三銃士と呼ばれた新たな世代に回ってきた。大きなプレッシャーと戦い、苦闘するなかで発した言葉だという。

その言葉は、内館牧子氏の書いた小説「終わった人」の中に引用されている。「内舘先生が、コメントでオレの言葉が気に入ったと言ってくれてうれしかったよ」と武藤は喜んでいた。プロレスは、リング上の戦いと同時に、過去との戦いもある。有名になればなるほど、過去の名レスラーと比べられる。そこに、武藤の言葉は今を生きる大切さを訴えた。

その言葉は、その後WWEに行った中邑真輔が「過去と戦って何が悪い」と引用するなど、ときどきプロレスのシーンで顔を出す。武藤の後輩たちも、過去と戦い続けているということだ。56歳になった武藤は、いまだ現役でプロレス界に君臨する。これからも、天才と呼ばれるプロレスと、異彩を放つ名言を期待したい。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

「プロレスは芸術だ」。35年たった今も変わらぬプロレスLOVEを語る武藤敬司(撮影・中島郁夫)

ボクシング転向し最初で最後の挑戦、藤本の夢に期待

約1年ぶりの試合で勝利したWBOアジア・パシフィック・ヘビー級王者藤本京太郎

お騒がせ男はじっとしていられないのだろう。昨年に日本ボクシング連盟会長を辞任した山根明氏がプロボクシングのWYBC(ワールド・ヤマネ・ボクシング・チャンピオンシップ)を旗揚げ。「フリーランスの若い世代にチャンスを与えるのが夢」とのことだ。

世界ヘビー級選手権で、3分3回で延長1回、2ノックダウン制だった。タイ発祥WSCS(ワールド・ストリート・チャンピオン・シップ)世界王者高橋が、ブラジルのWNFC(ワールド・ナックル・チャンピオン・シップ)世界王者ハットに2-0判定勝ちした。500人が集まったそうだが…。

本家の日本プロボクシング協会と日本ボクシングコミッション(JBC)は、先ごろ非ボクシング・イベントの不当性を共同声明で宣言した。最近はRIZINの元5階級制覇王者メイウェザー対キックの那須川天心、AbemaTVによる元3階級王者亀田興毅の天心や未経験者とスペシャルマッチが注目されたことがある。

ボクシングは古代に始まり、公平性、安全性を求めて築いてきた。近年は安全面が重要視される中、素人の殴り合いなど看過できない。何かあれば、影響も危惧され、ファンも奪われかねない事情もある。「もどき」と一緒にされ、比較されては困ると言うことだ。

格闘技はK-1、PRIDEなど栄枯盛衰を繰り返してきた。現在はRIZIN、新生K-1が人気も、依然として国内統一の統括組織がなく、権威と人気の維持が難しいことに変わりはない。

一方でボクシング界は他競技との二刀流で参戦容認の方針を打ち出した。閉鎖的業界から門戸開放への口火と言えるが、これもヘビー級と女子に限ったところにポイントがある。いずれも選手層の薄さというネックがあるからだ。

ヘビー級は09年に日本ランキングを再設置し、13年に藤本が56年ぶりで王座に就いた。ただし、実質活動しているのは1人と言ってもいい。以前にプロレスラーから転向選手もいたが早々に引退した。女子と同様に選手層の薄さから苦肉の策とも言える。

世界的には群雄割拠で盛り上がってきたヘビー級だが、国内に限れば存続も風前のともしびのようにも思える。そんなスキをつくような山根新団体設立だった。継続性にははなはだ疑問が残り、本家への影響があるとは思えない。

その第一人者である藤本は日本と東洋太平洋王座を返上した。K-1から転向時の「日本人として初のヘビー級で世界挑戦」の目標に変わりはないという。実際に挑戦して勝てるかと言えば、厳しい現実がある。しかし、挑戦となれば、日本人として最初で最後かもしれない。なんかモヤモヤする動きに、京太郎の夢を実現させてあげたいと強く思うようになった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

“氷の皇帝”が日本帰還 何歳でも戦ってほしい男

12月29日のベラトール日本大会での対戦が決まったエメリヤーエンコ・ヒョードル(左)とクイントン・“ランペイジ”・ジャクソン

何歳になってもファイトが見たい。そんな総合格闘家と言っていい。何度か米メディアで報じられてきた「氷の皇帝」の日本“帰還”が、ついに発表された。

19年12月29日、米総合格闘技ベラトールの日本大会初開催(さいたまスーパーアリーナ)に合わせ、元PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル(43=ロシア)が15年大みそかのRIZIN旗揚げ大会以来、4年ぶりに日本で試合に臨むことが決まった。対戦相手もPRIDEで活躍してきたクイントン“ランペイジ”ジャクソン(41=米国)に決定した。9日には都内のホテルで記者会見に臨んだ。

ヒョードルは「年末に日本でファイトすることは大事なこと。ロシアでは、年末にヒョードルが日本で戦っていることが『伝統』として認知されている。素晴らしい年明けを迎えられるように、29日に向けて準備していきます」との意気込みを示した。

1度引退している。12年6月、母国での興行でベドロ・ヒーゾ(ブラジル)との対戦(KO勝ち)後に現役引退を会見で口にした。引退後は母国のスポーツ省特別補佐官などを務めていたが、RIZINの設立などに合わせ、15年の年末に現役復帰。18年からはベラトール世界ヘビー級GPに参戦し、元UFC同級王者フランク・ミアやUFCで人気を誇ったチェール・ソネン(ともに米国)を下してGP決勝まで進出した。PRIDE時代を思い出させる快進撃だった。

今年1月のGP決勝ではUFCヘビー級で活躍したライアン・ベイダー(米国)の左フックに散った。衝撃的な35秒KO負け。秒殺されていたこともあり、ヒョードルは2度目の引退時期についても言及。「そろそろ引退する時期かもしれない。(ベラトール代表)スコット・コーカーから最後のツアーをやるとの話が来て、年齢とともに(引退が)明確に見えてくるのではないか」と口にした。

「引退ツアー」としてヒョードルと3試合契約を結んだコーカー代表は「スタッフは来年1月のロサンゼルス大会にこのカードをやるべきだと言っていたが、私が日本で組むと主張した」と説明。ヒョードルの日本ラストマッチになることを強調した。ベラトール日本大会に全面協力するRIZINの榊原信行実行委員長は「往年のファンのプレゼント。タイムスリップしたような時間を感じてもらう機会になればいい」。ベラトールはケージ(金網)での試合が主流だが、今回はPRIDEをほうふつさせるリングでの試合もプランにあるという。

ヒョードルは「私にとって日本という国、日本のファンのみなさんは非常に大切な存在。いつもサポートしてくれてありがとうございます」と感謝の言葉を口にした。PRIDE勢の主力選手の中で、ただ1人、UFCに参戦しなかったファイター。ロシア人でありながら、日本の選手にように感情移入し、ロマンを感じてしまうところだ。

体力のピークはとっくに去っている。00年の日本デビューから約19年。ファンが見たいのは「氷の皇帝」「60億分の1の男」たる生きざまだと思う。1度引退した立場にあり、すぐに2度目の引退をすぐに決める必要はないと考える。おそらく日本ラストマッチになるに違いない。しかし世界のファンが求める限りは、何歳になっても戦ってほしい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

王者京口紘人まだ14戦目、理想の追求へ成長は続く

2度目の防衛戦に向けて12回のスパーリングを行ったWBA世界ライトフライ級スーパー王者京口紘人(2019年9月10日撮影)

2度目の防衛戦を控えるWBC世界ライトフライ級王者京口紘人(25=ワタナベ)の12回スパーリングがあると聞き、試合3週間前の9月10日に所属のワタナベジムを訪ねた。

スパーリング直前、京口はおもむろに胸部を守るガードをつけ始める。「言っちゃだめだよ」とジムの渡辺会長。8月のフィリピン合宿の際、1階級上フライ級の世界トップランカー、ギエメル・マグラモとの激しいスパーリングで肋骨(ろっこつ)2、3番目の間の軟骨を骨折していた。パンチを打つ時、守る時、体を丸め、ねじる度に痛むだろうと予想された。

医師の診断は全治約3週間。その時既に痛みはなく、ガードは万が一の保護のためにつけているとのことだった。その日の12回のスパーリングもキレ味抜群。不安はないように見えた。それでも、体のことは本人にしか分からない。肋骨(ろっこつ)の状態を聞くと、「試合までは間に合う。それも含め実力。全然危惧(きぐ)していない」と言い切った。

防衛戦から一夜明け笑顔を見せるWBA世界ライトフライ級チャンピオン京口。左は井上トレーナー、右はワタナベジムの渡辺会長(2019年10月2日撮影)

10月1日の防衛戦で久田哲也に判定勝ちした後も、最後までそのけがのことを公の場では口にしなかった。一夜明けた2日、なぜ明かさなかったか聞くと、「なんか言い訳っぽくなるじゃないですか」と照れながら話した。京口担当となって1年弱。まだ言葉や態度に幼い面を感じることはある。ただ、今回はけがの件も含め、言動すべてでかっこいい世界王者であろうとする京口のプライドが感じられた。

17年7月にIBF世界ミニマム級王者となり、昨年大みそかにWBA世界ライトフライ級王座を奪取して2階級制覇を達成。それでもまだプロ14戦目だ。伸びしろは計り知れない。京口は言う。「ベースは確立していて、それにパーツを付け加えていく作業を追求していかないと」。

求めるのは「見てて目が離せない試合」。自分のお決まりの勝ちパターンに持っていくのではなく、相手のスタイルや試合の流れによって変化し、最終的に勝つ魅力的なボクシング。そのために、打ち方の種類、角度やタイミングなど技術の引き出しを増やすことにいま情熱を注いでいる。

今回の試合後、井上トレーナーはプロ47戦目だった挑戦者久田のうまさをたたえ、その上で「47戦した時の京口が見たいですね」と頬をゆるめた。世界王者の成長は続く。【高場泉穂】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ 京口紘人は久田哲也を判定で下し2度目の防衛に成功(2019年10月1日撮影)

侮れないアマチュア、技術の高さはプロにも劣らず

全日本選手権東海地区予選で高山勝成を判定で破った三重県代表の宇津輝(2019年8月31日撮影)

相撲の担当もしている。秋場所は関脇御嶽海が、2度目の賜杯を手にした。9月23日、千秋楽からの一夜明け会見に行った時、へ~と思う言葉があった。

「大学の監督から教わったことで…」

3回ぐらい口にしたか。プロの大相撲で来場所には大関取りを目指そうというお相撲さんが、だ。それが悪いと言うつもりは毛頭ない。むしろ感心した。親方衆や先輩力士から「もっと稽古したら、もっと強くなる」と言われてもマイペースを貫き、結果を残してきた御嶽海に、あれこれ言わず“放任”する師匠の出羽海親方(元前頭小城ノ花)の懐の深さに。そして、アマチュア相撲という土壌の確かさに。

さて、ボクシングの話をします。

8月31日、岐阜工で全日本選手権東海ブロック予選に行った。元世界主要4団体ミニマム級王者の愛知県代表・高山勝成(36=名古屋産大)のアマ転向→東京五輪挑戦を取材するためだったが、高山が負けた。相手は三重県代表宇津輝(日大3年)。最高キャリアは久居高でインターハイ5位(ライトフライ級)だから…とても日本代表クラスとは呼べない。

ある先輩記者に言われた。「元世界王者が地方予選で全国的に有名でも何でもない若手選手に負けるって、どうやねん? 情けないんちゃうの?」

う~ん…とちょっと考えたが、反論した。

「いや、そんだけアマチュアが侮れんし、難しいんと違いますか」

アマチュアが侮れん根拠の1つは、プロボクシングの現状を見たら、わかる。

バンタム級で「モンスター」と世界的に認知されとる井上尚弥。

海外で層の厚さが圧倒的なミドル級で世界を取った村田諒太。

世界最速タイで3階級を制覇したWBOフライ級王者田中恒成。

プロ5戦目で世界を奪った2階級覇者のWBA世界ライトフライ級スーパー王者京口紘人。

五輪金メダリストの村田を筆頭に、みんなアマチュアからの転向者です。

私もボクシング取材はプロの現場がほとんどですが、一昨年秋、国体少年の部を取材して衝撃を受けました。フライ級の中垣龍汰朗(当時、宮崎・日章学園)バンタム級の堤駿斗(同、千葉・習志野)ライト級の今永虎雅(同、奈良・王寺工)ウエルター級の荒本一成(同、奈良・王寺工)。4人とも優勝し、現在は関東の大学リーグで活躍中ですが、その戦いぶり、攻守の技術の高さに「プロの8回戦でもいけるんちゃう?」とたまげたもんです…いや、全く素人目からみた感想なんですがね。

もうひとつ、アマチュアの難しさの根拠は、競技性の違いという点。プロは世界戦で最長3分×12回で、アマは3分×3回の短期決戦。実際、高山は「1回にペースを握られて、焦ってしまった。これが6回、10回あれば巻き返せるけど、1回取られたら、2、3回取らないと負けですから」と話してました。グローブは形状、重さとも違うし。

あと付け加えるなら、本来はミニマム級の高山が、五輪採用される階級を見越し、2つ上のフライ級で戦わなあかんかった不利さもあるでしょうか。

フィールドの最終的なレベルで言うなら、アマチュアよりプロの方が高いかもしれません。しかし、アマチュアで磨かれる技術の高さは、プロに決して劣るものではない。そこは間違いないんやないでしょうか。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

那須川天心は大人に変貌、試合に見た団体背負う覚悟

16日、志朗(左)に判定勝ちした那須川(撮影・中島郁夫)

雰囲気と話し方を見ていて「おやっ?」と思った。9月9日、新松戸のTEPPENジムで行われた那須川天心(21)の公開練習。同16日に、幕張メッセ・イベントホールで開催されるRISEワールドトーナメント決勝へ向けての、練習とインタビューの席だった。

実戦を見据えて多彩な攻撃を、わずか2分のミット打ちで那須川は披露した。そのあとの会見。おだやかな表情で、記者の質問に答えるときの那須川の目は、相手を包み込むような、余裕と自信をたたえていた。記者は他競技と掛け持ちで、6カ月ぶりぐらいの再会だったが、明らかに那須川は変わっていた。

会見では、格闘技界への危機感を語った。「全体的に意識が低いかな。現状に満足し過ぎている人が多いかなと思います。日本の格闘技がすごいと思いすぎている人が多い。今、日本人で外国でトップとやって勝てる人いないんです。もっともっと自分が世界に出て活躍したいとか、そういうことに気付いている選手が少ないでしょう」。

熱く語るわけではなく、淡々と、静かな語り口だが、その思いは強く伝わってきた。キックボクシングでプロデビューし、ガムシャラに頂点を目指してきた少年が、いつの間にか大人になっていた。というより、トップ中のトップ選手の風格、オーラを漂わせていた。総合格闘技のRIZINで名を上げ、地元ともいえるRISEで実績を積み上げてきた。両団体でトップに君臨する存在になって、那須川は自分のことだけでなく、自分が属する団体や競技の将来を考えるようになっていた。

それは試合にも出ていた。自身初の世界一の座を懸けた志朗との決勝で、那須川は3回3-0の判定勝ちを収めた。派手なKOや決定打はほぼなかったが、終始相手に圧力をかけ、相手にはほとんど打たれない完璧な試合運びだった。試合後、那須川の顔は、腫れやアザが全くなく、きれいなままだった。

「今までにない、頭を使った試合だった。志朗君は、すごく研究して、その対策を最後まで貫いた。強い選手だった。今は、ジャイアントキリングブームで、それをさせないように戦った。盛り上がっているときに、ぱっといってやられるのが一番ダメなパターンだから。最後、やっぱり主人公が勝つというストーリーが見せられた」と那須川は胸を張った。

那須川の前の試合で、61キロ以下級で優勝した白鳥大珠(23)も、ワールドシリーズを通じて成長し、トップスターの仲間入りを果たした。16日のRISE大会は、2人の若者の成長を目の前で見られた貴重な大会だった。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

16日、志朗を下しポーズを決める那須川(撮影・中島郁夫)

日本王者5人所属の三迫ジム、名門復活へ今後が勝負

左からミニマム級田中教仁、バンタム級鈴木悠介、フェザー級佐川遼、三迫貴志会長、ライト級吉野修一郎、ライトフライ級堀川謙一の三迫ジムの日本王者

5人の王者が並ぶとやはり壮観だ。三迫ジムにとって現役最多を更新する日本王者が誕生した。昨年1月のミニマム級田中教仁(34)、昨年2月のライトフライ級堀川謙一(39)、7月のバンタム級鈴木悠介(30)、17年10月のライト級吉野修一郎(27)にフェザー級佐川遼(25)が加わった。鈴木が王座獲得時でジム最多だった。躍進著しい。

プロボクシングは1人が年間3、4試合程度しかできない。他競技も当たり前になったが、昔からランキングというシステムで、マッチメークという独特方法で試合を決める。1試合の重み、勝ち負けが大きい個人競技。相乗効果はあるが、これだけ同時はなかなかない。

佐川は天才肌の阿部麗也(26=KG大和)に判定勝ちした。下馬評を覆す9戦目での王座獲得は3-0の判定。採点は1、2ポイント差だったが、スコア以上の完勝だった。東農大出身で技術力は認められていたが、阿部は日本王座挑戦前に世界ランク入り。前回の初挑戦は引き分けも、センスのよさは高評価だった。

佐川は長身でリーチを生かし、先手でジャブを突き、右ストレートを打ち込み、阿部に入り込ませなかった。地味な技術戦にはなったが、作戦を遂行しきった。文句のつけようのない勝利だった。

ジムは毎月1日にプロ全選手が集合してミーティングを開いているそうだ。三迫貴志会長を中心に選手からも忌憚(きたん)のない意見をかわす。プロの個人競技では珍しいが、ジムの結束力となり、5人王者誕生にも結びついたと言えるだろう。

加藤健太トレーナー(33)の存在も大きそうだ。プロボクサーだったが網膜剥離で引退し、12年から三迫ジムのトレーナーになった。他ジムながらも東京を練習拠点に移したWBC世界ライトフライ級王者拳四朗(BMB)も指導。現役では最多の6度防衛中が、その指導能力の高さを示している。

名門ジムと言えば、歴史と実績=世界王者を何人輩出したかがバロメーター。協栄ジム13人、帝拳ジム12人、ヨネクラジム5人、角海老宝石、ワタナベ、大橋の3ジムが4人輩出し、三迫ジムなどが3人で続く。

8月に大会長と呼ばれた三迫仁志会長が亡くなった。輪島功一らを育て、プロモーターとして手腕を発揮した。昭和の時代は協栄、帝拳、ヨネクラと4大ジムが引っ張った。平成だった2年前にヨネクラは閉鎖。令和となった現在、4つのジムの世界王者はWBAミドル級の村田諒太しかいない。

14年に跡を継いだ長男貴志会長も海外で積極的にマッチメーク。佐川も前戦でマニラでの地域王座獲得が成長にもつながった。移籍組のベテランも多いが、日本は世界へのステップも共通認識。世界再挑戦を期すライト級小原佳太もいる。三迫が名門復活と言えるか、本当の勝負はこれからの勝負となる。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

井上尚弥に「刺激」最強王者のパートナーとスパー

井上尚弥のスパーリング相手として来日したジャフェスリー・ラミド

ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝(11月7日、さいたまスーパーアリーナ)を控えるWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)は今週から第2次スパーリングに突入した。米老舗ボクシング誌「ザ・リング」が選定するパウンド・フォー・パウンド(階級を超越した最強王者)ランキング1位の3団体統一ライト級王者ワシル・ロマチェンコ(31=ウクライナ)の練習パートナーを務めるジャフェスリー・ラミド(19=米国)と約1カ月間、拳を交える。5階級制覇王者のWBAスーパー王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)との決勝に備え「強力助っ人」を呼び寄せた。

所属ジムの大橋秀行会長(54)によれば、ラミドは20年東京オリンピック(五輪)米国フェザー級代表候補で、全米アマチュア同級ランキング2位に名を連ねる。10月に同級ランキング1位との代表選考会が予定されており、その強化の意味も込めてラミド陣営からスパーリングの申し込みがあったという。米カリフォルニア州オレンジ郡を拠点とするフィリピン系米国人のラミドは、どちらかと言えば優しい顔立ち。大橋会長は「以前の私の経験から言えば、あの雰囲気の顔で弱かったボクサーは誰もいない」と、静かに燃えるラミドのオーラを感じ取っている。

昨年から2度、ラミドはロマチェンコの練習パートナーを担当している。ボクシングは1回3分間だが、ロマ流スパーは1回4分間。その過酷な設定であっても、1日に9回を任されていたという。計150回以上のラウンド数を消化してきたが、ロマチェンコに倒されることがなかったそうだ。ラミドの関係者は「ロマチェンコは3人のパートナーを呼ぶが、ラミド以外の2人は、3ラウンドももたなかった」と明かした。

9月上旬に来日済みで、大橋ジムで時差調整を兼ねてトレーニングを積んでいる。他選手とのスパーリングをチェックした井上は「うまいですよ。アマチュアの選手なので。うまさはすごくあります」と実力を認める。対ドネア対策という意味では「スタイルが似ているかと言えば、そうではないですけれど」と前置きした上で「自分の引き出しの多さを試すには良いパートナーです」と楽しみにしている様子だった。

8月下旬、井上は「刺激が欲しい」という内容をSNSにつづった。WBSS決勝発表会見では、他ジムへの出げいこにも興味を示すほど触発されるものを求めていた。最強王者の練習パートナーは、モンスターにとって「刺激」になるのか。報道陣には、ラミドとのスパーリングが公開されることはないが、井上の言動を追って確認していきたい。その刺激度の高さが、WBSS決勝に向けた仕上がりにも影響することは間違いないからだ。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

スパーリングを行う井上尚弥

幾度と立ち会いたい、名作が成り立つその瞬間に

8月24日、超満員となった大日本プロレス後楽園ホールの様子。リングで戦うのはマイケル・エルガンと関本大介

これを見逃したら後悔する。そんな思いが、人をある現場へと向かわせる。

8月18日、「RIZIN18」取材のため名古屋にいた私は、試合前にアートの祭典「あいちトリエンナーレ」の会場へ向かった。同3日に「平和の少女像」を含む「表現の不自由展・その後」の展示が中止となり、それに反対する複数の作家が自らの展示中止を申し出ている状況だった。ちょうどその日が彼らの作品を見られる最終日だったため、ミーハー心でのぞいてみることにした。

昼前、「あいトリ」の玄関口である愛知芸術文化センターに入ると、既にたくさんの観客でにぎわっていた。ひときわ人が集まっていたのはパンフレットの表紙を飾るスイス生まれの作家ウーゴ・ロンディノーネの展示ルーム。「孤独のボキャブラリー」と題したその作品は45体のピエロが目を閉じ、人間が24時間内に行う45のポーズを示したもの。彼も展示中止を希望する1人だったため、その限定性を求める高揚感が部屋に漂っていた。しかも、この展示はいわゆる“映える”スポット。老若男女がピエロの写真を撮りながら、思い思いに楽しんでいた。(注、その後ロンディノーネは展示続行を決断)。また、作品が撤去された「表現の不自由展・その後」の暗い部屋の前では多くの人が中止を告げる説明表示を撮影していた。私もそうだが、実際に見て、誰かに伝えたいと願う人が少なくないのだろうと感じた。

1週間後、8月24日の大日本プロレス後楽園大会でも似たような、高揚した空気を感じた。この日のメインはマイケル・エルガンと関本大介の怪物対決。パワーファイターとして知られるエルガンは、今年3月に新日本プロレスを退団し、すぐ自身のSNSで関本との対戦を熱望。6月に2人の初対戦が決定すると瞬く間にチケットが売れた。そして迎えた当日。メイン以外のカードが充実していたこともあってか、バルコニー席だけでなく、入り口の南側に立ち見が出るほどの1740人の超満員となった。誰もが目撃者になろうとしていた。

熱気が立ちこめる中で始まったエルガン関本戦は期待を裏切らなかった。まず目を見つめ合い、ゆっくりと両手をつかむ。そのまま互いの力を確かめるように押し合うだけで緊張感が高まっていった。2人の巨体がぶつかると、バチッバチッという鈍い音とともに汗が飛び散る。ジャーマン、ラリアット、エルボーなどシンプルな技の攻防が続き、カウント2、ときに1で返す度に会場の温度が上がっていく。エルガンがバーニングハンマーで関本から3カウントを奪った瞬間、大歓声とともに何ともいえない幸福感が会場を包んだ。

この日は、プロレス界の生き字引である元東スポ記者の門馬忠雄さんも見に来られていた。「関本エルガンを見に来たんだよ。だって、分かりやすいでしょ」。分かりやすい、は門馬さん流の賛辞だ。体のでかい選手が体をぶつけ合う、シンプルで誰が見ても面白い試合。それがこの日の関本エルガン戦だった。3月以来の来日となったエルガンは試合後、「みんなはファミリーだ」と感動し、関本は「快感だね」と喜んだ。その晩、SNSでは多くの人がこの試合の感想を熱っぽく語っていた。誰かに語りたくなるようなその試合の写真は、その後、週刊プロレスの表紙を飾った。

かつて武藤敬司は、プロレスを芸術、その試合を作品と称した。リング上のレスラーの表現は、それを見る観客なくして成り立たない。今の時代、後からいくらでも試合の動画は見られるが、作品に関われるのはその場にいた人だけだ。プロレス担当として、たった1度の名作が成り立つ瞬間に、できるだけ立ち会えたらと思う。【高場泉穂】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

調整失敗も強いことを証明した田中恒成のV2戦

スポンサーの亀田屋酒造特製の日本酒で祝V2で乾杯するWBO世界フライ級王者田中恒成(2019年8月25日撮影)

不思議な試合でした。24日、名古屋市の武田テバオーシャンアリーナで行われたWBO世界フライ級タイトルマッチ。王者田中恒成(24=畑中)の2度目の防衛戦です。

母校の中京学院大中京が今夏の甲子園で印象づけた「ラッキーセブン」よろしく、田中が7回TKOで勝った。ところが、6回までの採点は負けとった。3回に田中がダウンを奪い、4回に奪い返された。それだけ聞けば「一進一退の攻防」となるけど、そうでもない。ジャッジ3者中1人は58-54の4ポイント差、1人は57-55の2ポイント差で挑戦者ゴンサレスがリード。残る1人だけが56-56。採点の流れは明らかにゴンサレス優勢やった。

ちなみに私は4回までイーブン、5、6回は田中と、2ポイント差で田中優勢だった。「ひいき目」と言われたら…そりゃそうだ。そもそも担当歴がまだ2年半。有効打か、手数か。ボクシング自体をわかっていないせいか、そのへんも正直、よくわかりません。

ただ、これだけは言えます。田中の“圧”が、ゴンサレスを終始上回っていた。手数が少なく、空振りも目立って、パンチももらってた。でも、もらっても、浅かった。それって、ゴンサレスが田中の圧力に踏み込み切れてなかったからかもしれません。4回に奪われたダウンも両足がそろった時、軽くもらって、尻もちをついただけに見えた。3回に強烈なボディーで奪ったダウンと明らかに質は違った。

要は田中に感じた圧力が、自分にポイントをつけさせた-。今になって、そう思います。

田中の一夜明け会見のコメントを並べてみます。

「(ポイントは)どうでも良かったです。取られてるのも分かってました」。

「本当に(冗談でなく?)それ(中京学院大中京の7回)もちょっとあって、そろそろ半分に差し掛かってきたし、会長が言ってるように“7回ぐらいに(ギアを)上げよっかな”というのはありました」。

「(コンディション不良は)8月に入って1週間ほど熱を出した。その影響で減量が遅れてのもの。フライ級が目いっぱいで無理ですというより、調整段階でそういう失敗があったんで。まだまだそのへんが甘いですね」。

「試合当日、コンディションが悪いのは明らかにわかっていた。“スピード出ないなあ”と思って(スピード勝負は)入場まで迷ってました。“止めた方がいいな”と思いながら“いや、スピード、スピードって言ってきたしな”と思ったり。“もう(パワーで)押しつぶしちゃおうか”“スピード勝負しようか”と迷って、それでなかなかうまくいかなかった。ま、でも、ギア上げて追い詰めていけば、いつでも倒せるっていう感じはありました」。

…とまあ、こんな具合。「そんなもん、勝った後なら何とでも言えるがな」というツッコミは、ありですが、きっと違います。実際に話を聞いた感じ、彼の過去の言動を踏まえて考えると、偽りや強がりでなく本音です。となると、明らかに劣勢やったボクサーが普通言うセリフではないんですわ、これが。

勝手に迷って、勝手にヘタ打って、勝手に勝負を決めた。WBOフライ級ランキング1位のトップコンテンダー相手にでっせ? 調整に失敗し、公約のスピード勝負ができず、不満だらけのV2戦。実は田中がすご~く強くなってることの証明やったんかもしれん。

ま、次戦ではっきりすると思いますけどね。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

勝みなみも夢中、飯伏幸太G1優勝でスター街道へ

G1クライマックスを制した飯伏幸太は優勝旗とトロフィーを手に雄たけびを上げる(2019年8月12日撮影)

女子ゴルフの国内ツアー、NEC軽井沢72大会の会場で、突然、飯伏幸太(37=新日本)の名前が飛び出した。名前を出したのは、女子ゴルフ界で新たな時代を築きつつある黄金世代の勝みなみ(21=明治安田生命)だ。一時の不振から抜け出し、優勝争いに帰ってきた実力者は「12日の日本武道館でG1クライマックスを見に行ったんです。同じ鹿児島出身の飯伏幸太が優勝して。めっちゃ刺激になりました」と、うれしそうに話していた。

元々、プロレスファンだった勝は、今年1月4日の新日本東京ドーム大会も観戦した。そのときは「オカダ・カズチカさんとか、格好良かった」と話してくれたが、今回のG1でプロレスのとりこになったそうだ。「プロレスが大好きになりました。あんなにすごいとは思いませんでした」。記者がプロレス担当もやっていると話すと「飯伏さんにファンですと伝えてください」と、お願いまでされてしまった。驚異的な身体能力、そのスター性から、いずれは新日本の中心に立つレスラーだと確信した。しかし、16年2月に突然、退団してフリーになった。飯伏のトップレスラーへの道は、そこで絶たれたかに見えた。それから1年、飯伏は新日本に帰ってきた。17年のG1クライマックスに参戦したのだ。

その後、飯伏は新日本所属となり、再びトップへの階段を上り始めた。そんな姿、戦いぶりは勝みなみだけではなく、多くの人々を励ましている。普段は人見知りで、温厚な青年だ。17年、G1参戦前に取材の約束をしたが、身内の不幸があり、記者は九州の実家に帰ることになった。取材の約束をした当日、電話して事情を話すと、電話での取材に応じてくれた。その後、開幕戦の会場で会うと、記者がわびを言う前に真っ先に「大変でしたね。大丈夫ですか」と言葉をかけてくれた。プロレスラーとしても人としても尊敬できる男、飯伏幸太。スター街道をばく進してくれることを願っている。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

ホワイト(左)にカミゴェを見舞う飯伏幸太(2019年8月12日撮影)

計量失格など増えるボクシング界 体重計無いジムも

王者堀川謙一は計量をクリアも挑戦者大保が棄権でV2戦は中止になった(19年8月7日撮影)

8日に予定されていたボクシング日本ライトフライ級タイトル戦が中止となった。

挑戦者の大保龍斗(横浜さくら)が計量失格のため。前日計量の7日午前に体調不良となり、救急車で搬送された。ジム側は「計量に間に合わせようと点滴治療を受けている」としたが、結局ドクターストップで出頭しなかった。

V2戦だった王者堀川謙一(三迫)はリミットの48・9キロでパスしていた。中止は決定的も「絶対に勝ちます」と拳を握り締めて会場を後にした。時間の猶予はあり、正式決定ではなく、気持ちを切らすまいという姿勢、努力が手に取るように見えた。

試合当日に堀川はWBC世界同級王者拳四朗とスパーリングを披露した。7月にV6に成功したばかりの拳四朗はだいぶ太めで「恥ずかしい。内緒でお願いします」と苦笑いしていた。堀川はスピードある動きでいい出入りも、徐々に相手ペースに。どうも気持ちが入っていないように見えた。

スパー後に「申し訳ないという気持ちでスパーしていた」と心情を吐露した。「チケットを購入してくれた方を裏切る結果になってしまって、申し訳ない」と謝罪した。彼に責任はないはずだが。

堀川は続けてリング上から訴えた。「最近ウエートが作れないとか、キャンセルになる試合が多い。試合が決まった時点でリングに上がるのはボクサーの責任。責任を持ってリングに上がらないといけない」。

日本ボクシングコミッションがこのほど19年度版ルールブックを発売した。改定は3年ぶりだが、大きな変更点は計量。「ボクサーの体重が契約体重の3%以上超過した場合、当該ボクサーは計量失格となり試合に出場できない(試合中止)ものとする」とされた。

すでに昨年から施行されている。3%以上で中止となった例はまだないが、計量失格や棄権が増えている。会長、マネジャー、トレーナーらのジムは、選手の健康管理義務があるはずだが、選手任せのジムも多いと聞く。体重計のないジムもあるという。

18年に前世界王者山中が再戦となったが、王者ネリが体重超過した。山中が「ふざけるな」と吐き捨てたシーンは、いまだに脳裏に残る。もう喉元過ぎれば、という状況では困ったものだ。

堀川はここまで56試合をこなし、これは現役最多を誇る。3年前に移籍した39歳で、すでに原則定年の37歳を過ぎている。それでも今年3試合目と精力的だった。WBCとIBFで5位につけ、世界が目標だからだ。貴重な1試合がなくなった大ベテランとしての大人の苦言。いつもながらとも言えるが、選手はあらためて肝に銘じるべきだろう。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

厚い支援、WWEに愛されたハーリー・レイスさん 

ハーリー・レイスさんの追悼式開催を発表したWLW公式サイト

「ミスタープロレス」「ミスターNWA」と呼ばれた伝説的なレスラー、ハーリー・レイスさんが1日(日本時間2日)、肺がんによる合併症のために76歳で死去した。7月13日、イベント開催地のノックスビルへ移動中、体調を崩して入院。そのまま闘病生活を送っていた。亡くなる数日前に容体が悪化し、航空医療輸送の移動を余儀なくされた。その際の高額費用はWWEのビンス・マクマホン会長がすべて負担したという。

レイスさんの弟子の1人で、元WWE戦士のトレバー・マードックが4日(日本時間5日)、自らのフェイスブックを更新し、その事実を明かした。「ハーリーさんは、アトランタからセントルイスに移す必要があった。大きい体格のため、救急航空機が必要だった。WWEに連絡を入れると10分後、その費用が全額支払われていた。ハーリーさんはビンス・マクマホン会長に大事にされていた。ありがとう、ビンス。私たちにもう2日間、ハーリーさんと一緒に過ごす時間を与えてくれた」と感謝の言葉をつづった。

計8回のNWAヘビー級王座戴冠、そしてWWF(現WWE)時代、ハルク・ホーガンと何度もWWF王座を争った。アンドレ・ザ・ジャイアントとも対戦、共闘した。04年にWWE殿堂入り。何よりレイスさんが育てた選手も多くWWEと契約してきた。現在も在籍するトマソ・チャンパやカーティス・アクセルらはハーリー・レイス・レスリング・アカデミーの出身選手だ。選手として、指導者としてプロレス界に貢献してきたレイスさんは、WWEに愛されていた。この最大級のサポートが、その証明だろう。

また多くのファンの要望を受け、8月11日(日本時間12日)にはレイスさん主宰のプロレス団体WLW(ワールド・リーグ・レスリング)が一般公開による追悼式典をミズーリ州トロイのレイス・レスリング・アリーナで開催することを発表した。母国のプロレス界、ファンに長年愛され続けたレイスさんは、多くの人たちに見守られながら天国に旅立つことになる。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

WWEの地位捨て新日へモクスリーは「色気すごい」

G1CLIMAX 29 第9試合 30分一本勝負 「G1CLIMAX 29」Bブロック公式戦 石井智宏vsジョン・モクスリー 石井(下)を攻めるモクスリー(2019年7月19日撮影)

狂犬は誰にも止められないのか-。元WWEのスーパースター、ディーン・アンブローズことジョン・モクスリー(33)が新日本の夏の祭典、G1クライマックスBブロック首位を独走している。タイチ、ジェフ・コブ、石井智宏、鷹木信悟、内藤哲也を破り、無傷の5連勝。内藤を下した28日の名古屋大会では「俺の前に立ちはだかるやつはすべてたたきつぶす」と全勝優勝宣言まで飛びだした。

この春まで世界最大級のプロレスの団体、WWEのスーパースターだったが、その座を自ら捨てた。理由は本人がさまざまなメディアで語っているが、5月に自身のSNSで発表した動画がとても分かりやすい。その動画の中でモクスリーは囚人を演じている。刑務所の独房の壁を力ずくで壊し、有刺鉄線のついた塀を跳びこえて、脱走。WWEはモクスリーにとっては刑務所のように不自由な場所だったということだろう。

その後、AEWと契約を結ぶとともに新日本への参戦も決定。モクスリーは「新日本からのオファーは、パーフェクトなタイミングだった」と振り返る。実際に参戦してみて、新日本は思い描いた以上に過酷で、刺激的な「スポーツ」の舞台だったという。さらに、その中で「自分のアートを見せられる」。キャンバスに自由に筆を走らせるように、モクスリーは生き生きと戦っている。

プロレス新米記者である筆者はWWEのアンブローズについて、ほとんど無知だった。だが、新日本に初登場した6月の両国大会でその魅力に一気に引き込まれた。技術や引き出しの多さ、マイクのうまさなどプロレスラーとしての長所はたくさんあるのだろうが、何よりたたずまいがいい。その大会でのバックステージ取材後、通訳のK嬢と顔を見合わせ「色気がすごいですね…」と話したのを覚えている。

試合を重ねるにつれ、モクスリーへの観客の声援もどんどん増えてきたように感じる。子分として引き連れるヤングライオン海野翔太とのやりとりもユーモアにあふれて、楽しい。参戦から約2カ月で新日本のマットにすっかりなじんでいる。すぐ順応できたのは持ち前の才能がなせる業かもしれないが、努力もかいま見える。27日、名古屋大会の試合開始の約3時間前。黒いTシャツとジーパンで会場入りしたモクスリーは、1階のフロアレベルから会場全体と誰もいないリングを真剣な表情でしばらく見つめていた。お決まりになっている客席からの入場はどこからするか、どんな戦いを見せるか。そんな考えを巡らせていたのかもしれない。またG1期間中は常に次に対戦相手の研究をしているとモクスリーは明かす。28日の内藤との試合では、内藤がよくやるロープワークの後に寝ころぶポーズを再現。挑発すると同時に、内藤へのリスペクトさえ感じさせた。

少年時代のモクスリーは、さえない現実から逃げるために故郷オハイオ州シンシナシティのビデオショップ、フリーマーケットで世界中のプロレスビデオを買いあさっていたという。多種多様なプロレスを自分の中に取り込み、成功する夢を膨らませた。新日本プロレスも、そんなモクスリー少年の憧れの対象だった。「G1で優勝して、東京ドームのメインでIWGPヘビー級に挑戦したい」。その夢は現実になるか。残り2週間、モクスリーの姿と、G1戦線をしっかり見届けたい。【高場泉穂】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

追い詰められミスした吉本…拳四朗はミスせんかった

タコリン(左)に右アッパーを入れる拳四朗(2019年7月12日撮影)

人がミスするのは、どういう時やと思います?

先日、雨上がり決死隊の宮迫、ロンドンブーツ1号・2号の亮が闇営業問題に関する謝罪会見をした。

ギャラをもらったのに、もらってないとウソをついた。良心の呵責(かしゃく)から「謝罪会見」を所属の吉本興業に頼んだら、岡本社長に拒否され、ついには契約解除されたとか。その経緯を明かしたから、今度は闇営業から話が飛んで、吉本興業の隠蔽(いんぺい)工作疑惑という大問題に発展してしもた。

ウソがあかんいうことは、宮迫や亮の最初の隠蔽で明らかやったのに、ウソの上塗りに走った。「愚かやな」と誰もが思いますわな。事態が表面化した時、2人に先輩芸人たちが告白を諭した。きっと、それが最善の処し方です。岡本社長も平常時、冷静な時やったら、そんな愚は犯さんかったんちゃいますかね。組織を守る意識とかが先走ってしもたんかな-。

人は追い詰められたら、ミスをする。

7月12日、エディオンアリーナ大阪で6度目の防衛に成功したWBC世界ライトフライ級王者拳四朗は、ミスをせんかった。

会心の右カウンターで、4回1分ジャストTKO勝利を飾ったけど、試合後に「強かったッスよ。パンチあったし、何発かもらった」と苦笑いした。ニュアンスとしては、対戦相手の同級1位タコニンは7度の世界戦で最強-。そんな話しぶり。タコニンは距離をつぶそうと強引に飛び込んできた。ハードパンチャーの上、サウスポーの嫌らしさもあった。実際、1回は2、3度懐に入られて、横に回ってしのげず、後退する場面があった。その展開が続くようなら、正直危ない展開はあり得たと思う。

それでも、きっちり勝った。自分の生命線「左ジャブを生かした距離感」を信じ、貫いてTKOした。要するに、慌てず、怖さに対応し、克服したわけです。

拳四朗は「距離感は、より自信がついたかなと思う」と言い、父親でもあるBMBジムの寺地永会長は「打ち負けなかったですね。これまではもっと下がる場面もあったけど。終わってみたら、パンチのパワーも回転も勝ってた。特に回転で勝ったんは、想定外でした」と喜んでた。

拳四朗の目標は、具志堅用高さんがWBA世界ライトフライ級王者として記録した「13連続防衛」の日本記録。まだ半分にも届いてへんけど、ひょっとして…と思わせるムードが出てきたんちゃうかな。

追い詰められてもミスせんかった。山を1つ越えて、たくましくなった。

【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

タコニンをTKOで破り6度目の防衛を果たした拳四朗はチャンピオンベルトを指さし笑顔を見せる(2019年7月12日撮影)

教育係大石真翔も涙、大鵬3世納谷まだまだ強くなる

鈴木秀樹(左)にエルボーを見舞う納屋幸男(撮影・たえ見朱実)

プロレスのDDT東京・大田区総合体育館大会のバックステージで、1人の男が涙を流していた。DDTのベテラン大石真翔(まこと=40)だった。リアルジャパンから移籍してきた大鵬3世、納谷幸男(24)の教育係として入団から面倒をみてきた。この日の鈴木秀樹とのシングル戦では、セコンドについていた。

納谷は、リアルジャパンから見違えるようになっていた。弱々しさや、自信のなさが消えた。技術的にはまだまだだが、ベテランの鈴木にひるむことなく立ち向かった。ゴングが鳴ると、いきなり体当たり。続けざまにエルボー6連発から、右ハイキック5連発とたたみかけるような攻撃で会場を沸かせた。

鈴木の強烈な反撃や、場外乱闘でのパイプイス攻撃にも心は折れなかった。痛がるしぐさも見せず、やられても、やられても何度も立ち上がった。相手への恐怖心も消えていた。相手をにらみ付ける目は、最後まで強い光を放っていた。最後は、鈴木の変形ネックロックにギブアップしたが、その表情はすがすがしかった。鈴木から背中をたたかれ「やればできるじゃん」と声を掛けられると、頭を深々と下げた。

バックステージで鈴木に「ボクの方が効いてますよ。練習したかいがありましたね」と声を掛けられると、大石は鈴木の肩に手を当てて泣き崩れた。「鈴木との試合が決まってから、彼の悩みや、この試合にかける気持ちとか、ずっと相談を受けていたからね。今日の試合で彼のトラウマも払拭(ふっしょく)されたと思います」と言って大石はまた涙ぐんだ。

リアルジャパンでは、大鵬3世ということもあり、大事に育てられた。ただ、リアルジャパンの興行は年3、4回。より実戦の多い場所を求め、佐山の承諾も得て移籍を決意した。納谷は「DDTに来て、気持ちが大きく変わった。ここで一から若手と一緒にプロレスを教えてもらって、どんなにやられても食らい付いていこうという気持ちになれた」と納谷も満足顔だった。

リアルジャパン時代も戦ったことがある鈴木は「あれだけの体のサイズがあって、やるべきことをやれば、ボクなんかよりずっと強くなる。今日は、ボクも気持ち良かったです」と温かいまなざしで言った。自分を変えようとして飛び込んだDDTで、大石に出会い、鈴木という好敵手を得て、納谷は大きく成長しようとしている。【桝田朗】

鈴木秀樹(右)にキックを叩き込む納屋幸男(撮影・たえ見朱実)

フューリー復活 大金星ルイス加わり混迷のヘビー級

井上尚弥がまたも文句のつけようのない試合を見せた。期待以上の2回決着とすごいヤツだ。中継局以外のテレビ出演も増えるなど、一般への怪物ぶりの認知がさらに広がったよう。うれしい限りだが、2週間後にはさらにびっくり仰天の出来事が起きた。

6階級制覇王者パッキャオも「ボクシング史上最大の番狂わせの一つ」とツイートで驚きを表した。ヘビー級でIBF、WBAスーパー&WBOの3冠王者アンソニー・ジョシュアがまさかの陥落となった一戦。新王者は世界的無名のアンディ・ルイス。プロ初ダウン後に4度ダウンを奪い、見事に逆転TKO勝ちした。

ジョシュアは英国から米国初進出に対し、ルイスは米国生まれも両親はメキシコ人。身長で10センチ、リーチでは20センチ以上のサイズ差があった。ロンドン五輪金でプロでは22戦全勝(21KO)に対し、アマでは北京五輪予選で敗退し、プロでは1敗も16年に世界挑戦に失敗していた。

当初は元キックのジャレル・ミラーが挑戦予定もドーピング違反し、4月に試合したばかりのルイスは代役だった。オッズは1-33の大差がついた時期もあった。デストロイヤー(破壊者)の異名を持つが、188センチで122キロというポッチャリ体形が、今の時代では異彩とも言える風貌と言えた。

90年代に同じような体形のボクサーがいた。バタービーン。ヘビー級の4回戦王者として、ビッグイベントの前座にもしばしば登場。人気者となって、K-1や総合格闘技にも進出し、日本でも試合している。色物的存在だったが、ルイスは本物だ。

チョコレートバーのスニッカーズが大好物。王座獲得後には同社からお祝いメッセージが発信され、早速スポンサー契約、CM出演で交渉中と報じられている。野球少年だったが父の勧めでボクシングを始めた。見かけからは想像もつかないスピードある攻撃力は見事だった。

ジョシュア陣営は再戦を熱望し、ルイスも受けて立つ構えだ。5月にはWBC王者デオンタイ・ワイルダーが右一発でV9に成功したが、昨年末はタイソン・フューリーと引き分けに、来年再戦が計画されている。一時期はワイルダーとジョシュアとの4団体統一戦が期待された。フューリーが復活し、新たに大金星ルイスが加わり、一転して混迷のヘビー級となった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

武居由樹、那須川&武尊の「強さ+α」で華咲かせる

武居由樹対玖村将史 両手を広げ優勝を喜ぶ武居(中央)(2019年6月30日撮影・大野祥一)

6月30日、1万500人の観衆で埋め尽くされた東京・両国国技館の中心にいたのはK-1スーパー・バンタム級王者武居由樹(22=POWER OF DREAM)だった。14年に生まれ変わったK-1をけん引してきた史上初の3階級制覇王者で、現スーパー・フェザー級王者武尊が拳の腱(けん)断裂による手術で欠場したことを受け、両国大会で開催が決まったスーパー・バンタム級世界最強決定トーナメント。優勝候補筆頭で出場した武居は1日3戦という過酷なトーナメントを有言実行で制してみせた。

大会前日まで自らがK-1を背負う覚悟を示し続け、かつてない重圧を味わったという。大会が近づくと眠れない夜が続き「過去最高のプレッシャーがあった」というが、フタを開けてみれば、3戦連続KO勝ちでの圧勝劇。00年代のK-1をけん引してきた中量級のエース魔裟斗氏が「猫のようだ」と表現する上半身の動き、下半身の柔らかいステップから繰り出される鋭いパンチとキックで圧勝した。

17年4月の第2代スーパー・バンタム級王座決定トーナメント(代々木第2体育館)で優勝して以来、約2年2カ月ぶりにメインイベントを締めくくった武居は「今、格闘技界を引っ張るすごい2人がいますが、ボクも置いていかれないように。K-1を盛り上げます」と言った。あえて名前は挙げていないが、武尊、そして「神童」那須川天心のキックボクサー2人であることは容易に想像できた。

現在のキックボクシングは国内外で団体が細分化され、世界最強が誰かを非常に証明しにくい環境にある。その中で武尊は現役ムエタイ王者ら実力者とファイトし、その「看板」にたがわぬ強さが伝わってくる強敵、難敵を次々と倒してきた。何よりマイクアピールも格好いい。「K-1最高!」の決めぜりふで会場を1つにしてしまう本格派だ。

一方、那須川は何より無敗という大きな看板がある。かつて400戦無敗と言われたヒクソン・グレイシーのような「すごく強い」という妄想をかきたて、RISEやRIZINで「どこまで強くなるんだ」という期待感を持たせる。ファンを喜ばせる「演出」的な部分も魅力。武居の挙げた2人には「強さ+α=華」という方程式が存在している。

いつも2人の存在が頭にあるという武居は「すごい選手なので、そこに並べないと意味がない。階級も近いですし、意識します」と言葉に力を込める。いずれ対戦するかもしれない、とのイメージも持っている。

「格闘家としてはいつかはやりたいかなと思いますけれど。まだまだ自分の実力では…。実力と知名度だったり…、という次元では及ばないと思います」

17年のK-1年間最優秀選手を獲得するなど実力は申し分ない。あとは武尊、那須川とは持ち味が違う「+α」が備われば、武居らしい花が咲くだろう。キックボクシング界を背負う新たな逸材として今後の進化を見守っていきたい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

大会一夜明け会見でリラックスした表情を見せる武居由樹(2019年7月1日撮影・吉池彰)

 日刊スポーツのバトル担当記者のとっておきコラム。プロレス、ボクシング、総合格闘技の現場からお届けします。