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原功「BOX!」

フューリー対ワイルダー再々戦10・9に決定 2カ月半延期の影響はいかに

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ、初防衛を目指す王者のタイソン・フューリー(32=イギリス)対前王者デオンテイ・ワイルダー(35=アメリカ)の12回戦が10月9日(日本時間10日)、アメリカのネバダ州ラスベガスで行われることになった。この試合は7月24日にラスベガスで開催される予定だったが、7月に入ってフューリー自身とチームのメンバー数人が新型コロナウィルスに感染していることが判明したため延期が決まっていた。

延期が発表されたのは試合まで約2週間に迫ったタイミングだった。7月5日に受けた検査の翌日、フューリーの陽性が判明。チームのスタッフにも陽性反応者がいたため、ワイルダー戦は先送りにせざるを得ないと判断されたのだ。

延期も突然だったが、リセットの決定も早かった。一時は9月が候補として挙がっていたが、人気者のサウル・カネロ・アルバレス(31=メキシコ)の次戦が内定しているため、それを避けて10月上旬という日程が確定したようだ。なお、7月24日の前座として組まれていたヘビー級の無敗ホープ同士の対決、エフェ・アジャグバ(27=ナイジェリア)対フランク・サンチェス(29=キューバ)戦、同じく世界ランカー同士のヘビー級12回戦、ロバート・ヘレニウス(37=スウェーデン/フィンランド)対アダム・コウナツキ(32=ポーランド)戦もそのまま10月9日にスライドした。

フューリーとワイルダーは過去にWBC王座をかけて2度対戦したことがある。2018年12月の初戦はワイルダーが9回と12回にダウンを奪って引き分けに持ち込み、辛くも8度目の防衛に成功。2020年2月の再戦では逆にフューリーが2度のダウンを奪って7回TKOで快勝、王座を奪っている。初戦は年間最高試合の声が出るほどのドラマチックな試合で、再戦は1700万ドル(18億7000万円)近い入場料収入があった。当然、第3戦に対するファンや関係者の期待は高いものがある。

興味深いのは常に多弁なフューリーが「これまで以上に強くなった姿を披露するよ。10月9日には彼を完全にKOしてみせる」と強気のコメントを発しているのに対し、ワイルダーが沈黙を貫いている点だ。第2戦では互いに“口撃”し合ったことでワイルダーはペースを乱され、試合当日には重量18キロのコスチュームを身に纏って入場する派手なパフォーマンスを披露するなど心身ともに十分なコンディションをつくれなかったという苦い経験がある。それが今回の沈黙に繋がっていると思われ、不気味なムードを醸し出している。また、ワイルダーは第2戦後にトレーナーを変えており、延期によってコンビの連携を深める時間が増えたこともプラスといえそうだ。

戦績はフューリーが31戦30勝(21KO)1分、ワイルダーが44戦42勝(41KO)1敗1分。初戦のオッズは11対8でワイルダー有利、再戦は11対10でフューリー有利と接近していたが、今回は3対1でフューリー有利と明確な差が出ている。

2カ月半の延期がどちらにどんな影響を及ぼすのだろうか-。

リングにかける

あのピストン堀口道場も…ボクシングジムの休会ラッシュ止まらず

ファイティングポーズの堀口恒男(1948年撮影)

東京五輪が開催されたが、無観客だけでなく、いつもとさまざま違う状況が垣間見られる。とはいえ、各競技、各種目で世界のトップを決める大会に変わりない。優勝者には金メダルが授与され、世界一の称号が与えられる。

知識や徳望がすぐれ、世の模範と仰がれるような人を聖人と呼ぶ。この「聖」の字をつけた呼称がある。スポーツ界では、球技の名選手として野球のタイ・カッブ、ゴルフのボビー・ジョーンズを球聖と呼ぶ。大相撲では横綱常陸山が角聖と呼ばれる。

ボクシングには拳聖と呼ばれた名選手がいる。ピストン堀口こと堀口恒男。大正時代に米国で学んだ渡辺勇次郎が、21年に日本拳闘倶楽部創設が日本ボクシングの始まり。31年に全日本プロフェッショナル拳闘協会が結成され、堀口は33年にプロデビューした。

栃木・真岡で同郷の渡辺が模範試合を開催し、真岡中柔道部だった堀口は飛び入り参加した。プロ相手に戦って才能を見込まれた。元世界王者と引き分け、日本、東洋フェザー級王座獲得など5分けはさみ47連勝した。日本ミドル級王座も獲得し、50年の引退まで176戦で138勝(82KO)24敗4分の戦績を残した。

戦争の影響で世界挑戦のチャンスには恵まれなかったが、41年に世紀の一戦を制した。兵役から復帰後に26連勝のやりの笹崎広と対戦して5回TKO勝ち。剣聖と言われた宮本武蔵になぞらえて、拳聖と称されるようになった。

相手をロープに追い詰めて休まぬ連打でピストン戦法と言われた。無類のスタミナで10分間のミット打ちでも息が切れなかったという。リングネームは本名だが、戦法からピストン堀口と呼ばれるようになった。

その堀口が由縁の名門ジムが、7月いっぱいで休会した。弟3人もプロボクサーで、37年に住んでいた神奈川・茅ケ崎市内に練習場として開いた。引退半年後に36歳でれき死したが、その後に長男昌信氏がピストン堀口道場として開いて引き継いだ。近年は元日本ランカーの孫の昌彰氏が運営していた。

ジムの入っていたビルがあった土地では、病院が新築工事中となっている。昨年4月に緊急事態宣言で道場を休場し、7月には平塚市内に仮住まいとなっていた。関係者によると移転先が決まらず休会したという。

国内では原則37歳というボクサー定年があるが、会長やトレーナーに定年はない。70歳代になってもミットを受ける会長もいる。元気は何よりだが、ここにきて息子に代替わりしたり、違う後継者に看板を譲るジムがいくつかあった。世代交代の時期と言えるようだ。

さらに昨年コロナ禍となって、この1年半の間に9つ目の休会となった。アマジムへ移行するために退会したジムも2つある。新ジム開設3つ、休会から再開も3つあるが、休会と退会合わせて11は異常に多い。

五輪開催中も東京・後楽園ホールで2興行あった。こちらは観客入れも半分に制限。2日間の観客数は707人と733人と現状では満員で、熱烈ファンが毎試合惜しみない拍手を送っていた。

プロモーターたちは何とか首をつないでいこうと努力するが「厳しい」と口をそろえる。ジムの退会、休会理由はさまざまながら、コロナ禍の影響は大きい。「コロナ・パンチ」がボディーブローのように効く、ジムの休会ラッシュとなっている。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

リングにかける

寺地拳四朗は東京五輪より9月防衛戦に集中!でも興味示す競技は?

寺地拳四朗(2021年7月5日)

新型コロナウイルス感染症の影響で開催も危ぶまれた東京五輪だが、メダルラッシュにわいている。スポーツは結果がすべてではないと思うが、日本選手の金メダル獲得はやはり、うれしい。そんな世界的イベントを「たぶん、見ないです」と言い切った男がいる。WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(29=BMB)だ。

寺地は9月10日、京都市体育館で同級1位矢吹正道(28=緑)との9度目防衛戦に臨む。同じ世界を相手にするアスリートとして、他競技のトップ選手に興味はないのか。聞いてみたが、変わらない柔和な表情で「ほかのスポーツは見ないんで。もっと磨いていかないといけないことは多い。ボクシングが大事なんで」と返してきた。

捉え方はそれぞれだろう。確かに他競技の選手の活躍に大きな刺激を受ける選手は少なくない。そこから交流が始まり、情報交換でお互いの成長につなげるという話もよく聞く。寺地はボクシングの世界だけに集中するというスタンスなのだろう。

ただ1点、「楽しそうですよね」と興味を示したのがダンスだった。ひとくくりに「ダンス」といっても、多くのジャンルがあると思うが、寺地はそれもボクシングにつなげて考えている。「ダンスを習いたいですね。体の使い方とか、いろいろ(ボクシングに)つながってきそうじゃないですか」。

かつて、フェザー級の世界主要4団体の王座を獲得したナジーム・ハメドというボクサーがいた。「悪魔王子」の愛称で、ダンスのようなリズムで変則的なボクシングで人気を博し、日本の元WBA世界ライトフライ級王者・山口圭司ら多くの“崇拝者”がいた。独特の雰囲気を持った選手だったと記憶する。

寺地がダンスを学んで、そのスタイルに変更するとは思えないが「個性」を求めていく姿勢は大事だと思う。五輪・パラリンピックの後、9月に行われる世界戦。寺地の新たな可能性も楽しみにしたい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

原功「BOX!」

親子世界王者最有力候補「デストロイヤー」コナー・ベン、成長の証し見せる

1990年代にミドル級とスーパー・ミドル級で世界王座を獲得したナイジェル・ベン(イギリス)の息子、コナー・ベン(24=イギリス)が31日(日本時間8月1日)、イギリスのロンドン近郊ブレントウッドで元世界ランカーのアドリアン・グラナドス(31=アメリカ)と対戦する。18戦全勝(12KO)のベンは現在、ウェルター級でWBA9位、WBC10位、IBF13位にランクされている。層の厚いことで知られる階級だけに先の道のりは簡単ではないが、タフで知られるグラナドスを倒せば周囲の期待度はさらに膨らむはずだ。

父ベンは1987年から2006年まで約20年にわたって活躍した人気者で、「ダーク・デストロイヤー」の異名があった。1990年4月に手に入れたWBO世界ミドル級王座は2度目の防衛戦で失ったが、1992年10月に獲得したWBC世界スーパー・ミドル級王座は4年間に9度の防衛に成功。通算戦績は48戦42勝(35KO)5敗1分だった

息子ベンは1996年9月28日が誕生日だから、父親のラストファイトの1カ月半前に生まれたことになる。アマチュアで22戦(20勝2敗)したあと2016年4月に19歳でプロデビュー。ルーキー時代は経験値の低い相手と戦って勝利を重ねたが、2018年7月にWBA米大陸王座を獲得してからは一転して強豪と手合わせする機会が増えた。昨年11月には、つい3カ月前まで世界ランカーだったドイツの選手を大差の10回判定で下し、今年4月には同じくコロンビア出身の元世界ランカーに1回80秒TKO勝ちを収めている。伸びのある左ジャブを突いて距離とタイミングを計り、機を見て右ストレートを打ち下ろす。「デストロイヤー」のニックネームを持つ24歳は、まだ雑な面もあるが一戦ごとに成長している印象だ。

今回の相手、グラナドスは長いこと世界15傑の常連だった強豪で、13年のプロキャリアで33戦21勝(15KO)8敗3分1無効試合の戦績を残している。元世界王者との対戦も6度(4敗1分1無効試合)あり、経験値は高い。加えてKO負けは一度だけというタフガイでもある。グラナドスはパンチ力もあるだけに侮れないが、12対1のオッズが出ているように地元のベンが圧倒的有利であることは間違いない。

ちなみに130年を超す近代ボクシング史上、兄弟世界王者は35例を超すが、親子世界王者になると6組しか誕生していない。現在、スーパー・ウェルター級でWBO1位にランクされるティム・チュー(オーストラリア)が“7例目”の最有力候補と目されているが、ベンに対する注目と期待も負けず劣らず高いものがある。ちなみにチューとベンは階級がひとつ違うだけということもあり、近い将来、ひょっとしたら親子世界王者同士が大舞台で拳を交える日が来るかもしれない。

リングにかける

4団体統一狙う井上尚弥に立ちはだかるか?増しつつあるリゴンドーの存在感

ギジェルモ・リゴンドー(2014年12月31日撮影)

ボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)が4団体統一を狙う階級に「不気味」な王者がいる。WBA世界同級正規王者ギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)は8月14日(日本時間15日)、米カーソンのディニティヘルス・スポーツパークでWBO世界同級王者ジョンリール・カシメロ(31=フィリピン)との王座統一戦に臨む。この勝者が将来的に井上と拳を交えるだろう。「モンスター」の対抗王者は発信力のある他団体王者よりも影が薄いからこそ、侮れない存在と言える。

当初からカシメロとの統一戦に臨むはずだったリゴンドーは不遇な立場にあった。一時はWBC王者となったドネアにポジションを奪われ、カシメロ戦が消滅した。しかしドーピング検査に関した両陣営の取り決めが遅れ、ドネアら家族に侮辱発言したカシメロ側のミスでキャンセル。二転三転し、リゴンドーが元のさやに戻った。すると、これまで正規王者として静かだったはずのリゴンドーが発信を開始した。

あらためて興行主から統一戦が発表されると、VADA(ボランティア・アンチドーピング協会)の書類を提出したことをSNSで明かし「私はきれいなファイター。ボクシングに汚れたファイターを入れてはいけません」とカシメロを挑発するようなコメントを出した。さらに米専門サイト、ボクシング・シーンのインタビューでは「カシメロの夢を台無しにするプランがある。トレーナーのロニー・シールズといくつかの新しいトリック(技術)を取り組んでいる。彼をKOしても驚かないでください」とも豪語した。

さらに「カシメロの周りにボクシングのサークル(囲い)をつくり『エルチャカル(肉食動物ジャッカル)』が何であるかを彼にみせる」と牙をむく姿勢を示した。もともと五輪で2度金メダルを獲得し、プロでも世界2階級制覇王者。井上も6月14日のジムワーク再開時に「リゴンドーが倒す可能性も十分にある。カウンターパンチがうまい。(カシメロの)スピードのない大振りなパンチならばリゴンドーの格好のえじきになりますね」と予想していた。全盛期ではないものの、ヒット率の高い左ストレート、軽快なステップワークは健在で、リゴンドーは決して侮れない存在だ。さらに発信力も増してきた今、不気味さのオーラも大きくなっている。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

大相撲裏話

1年4カ月ぶり地方開催、名古屋場所のコロナ感染対策実績が福岡につながる

名古屋場所初日、協会あいさつする八角理事長(中央)(7月4日撮影)

昨年3月の春場所以来、1年4カ月ぶりの地方開催となった名古屋場所。コロナ禍での開催も、ここまで大きな混乱は見られず千秋楽を迎える。名古屋場所の出羽海担当部長(元前頭小城ノ花)も「場所前から感染対策を徹底してやってきた。感染症対策の先生の指導のもと、できる限りのことをやった」と胸を張る。

とはいえ、例年通りの地方場所とはいかない。例えば山響部屋。名古屋場所では例年、介護施設の一部を宿舎として使用してきた。しかし、もしも協会員や施設利用者から感染者が出てしまったら…。互いが互いのことを考慮した結果、名古屋市内のホテルを宿舎として利用することになった。当然、土俵はないが、協会は了承済み。出羽海担当部長は「安心、安全が第一ですから」と話す。

ホテル生活となった山響部屋。部屋の力士らによると、1室を2人までで使用。貸し切りの食事会場で、机の上にアクリル板を設置してホテルが用意した食事を食べる。運動が出来る部屋を貸し切り、四股や股割りなどの軽い運動をして場所入りするなど、慣れない環境ながらにできる限りのことをしている。協会員一丸となって開催した今場所の実績が、11月場所の福岡開催へとつながる。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

宇良勝ち越し、戦後最大のカムバック劇 苦難の時乗り越え三役目指す

宇良(右)は突き落としで栃ノ心を破る(撮影・小沢裕)

<大相撲名古屋場所>◇12日目◇15日◇ドルフィンズアリーナ

多くの力士に勇気を与えるカムバックだ。人気力士の宇良が、元大関の栃ノ心を突き落として勝ち越しを決めた。17年九州場所以来の幕内復帰で、勝ち越しは同年夏場所以来。苦難の時を乗り越え、最後は頭から土俵下に転落して1回転した宇良は、まるで子どものような笑みを浮かべた。

取組後は勝ち越しに「うれしいです」と話すも「まだ終わっていない気持ちが強い。残りの相撲があるんで、そっちに集中したい」と表情を緩めなかった。

今場所は序二段まで落ちながら、綱とりに挑む大関照ノ富士が主役の1人を担っている。陥落後、照ノ富士の番付最下位は西序二段48枚目。一方、宇良は西序二段106枚目で、幕内経験者の最大カムバックとして戦後1位を記録した。

その上での勝ち越しは尊い。宇良は今場所中、何度も「(幕内の)レベルの高さを痛感している」と話し「自分の体がもつか」と不安をもらしてきた。2度の両膝の大けが。今も再発の不安と闘う。復帰を決めたのも「1度でも関取に戻れたら」という思いだった。

最高位は17年名古屋場所の東前頭4枚目。空白と大けがを乗り越え、三役を目指す。「あきらめない」思いは強い。【実藤健一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

綱とりの照ノ富士へ“化粧まわし”に込められた思い「ぜひ夢をかなえて」

「気」の大きな文字を中心としたデザインの化粧まわしで幕内土俵入りに臨む照ノ富士(撮影・河田真司)

<大相撲名古屋場所>◇10日目◇13日◇ドルフィンズアリーナ

綱とりに向けて、周囲の“後押し”も心強い。

大関照ノ富士は10日目から、名古屋市に本社を置く自動車販売会社の「グッドスピード」から贈呈された化粧まわしで、土俵入りした。

赤色の化粧まわしは「気」の大きな文字を中心としたデザインで、縁起のいい富士山と鶴をあしらい、横綱昇進の願いを込めている。「気」の文字は、同社の経営理念である「気持ちに勝るものはない」から。加藤久統代表取締役社長がかねて照ノ富士と親交があり、製作が実現した。

偶然にも、綱とり場所と重なった。もともとは名古屋での開催が予定されていた昨年7月場所で贈呈するはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京開催に変更となり、1年遅れでの実現となった。同社の担当者は「たまたま大関にとっての大事な場所と重なり、巡り合わせを感じます。大関から落ちて苦しい時期を経験しているので、ぜひ横綱の夢をかなえてほしい」とエールを送った。社内でも従業員が照ノ富士の取組をテレビで観戦し、勝った瞬間は拍手が起きる。期待は日に日に高まっている。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

「気」の大きな文字を中心としたデザインの化粧まわしで幕内土俵入りに臨む照ノ富士(撮影・河田真司)
「気」の大きな文字を中心としたデザインの化粧まわしで幕内土俵入りに臨む照ノ富士(撮影・河田真司)
原功「BOX!」

井上尚弥、軽量バンタム級で驚異のKO率 日本歴代世界王者では最高

先月、WBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(28=大橋)は3回KO勝ちで両王座の防衛を果たした。これで井上の戦績は21戦全勝(18KO)となり、全試合数のうちKOが占める割合、つまりKO率は85.7%に上がった。53.5キロが体重上限で軽量級のカテゴリーに入るバンタム級では驚異的な数字といえる。これは主要4団体の全階級の現役世界王者のなかでは5番目に高いKO率だ。

最も高いKO率を残している現役世界王者は、約79.3キロが体重リミットのライト・ヘビー級でWBC王座とIBF王座に君臨しているアルツール・ベテルビエフ(36=ロシア)で、戦績は16戦全勝(16KO)。もちろんKO率は100%だ。パンチは左右ともパワフルで、しばしば痛烈なダウン、KOシーンを生み出している。

次いでKO率が高いのがスーパー・フェザー級、ライト級、スーパー・ライト級の中量級3階級でWBA王座を同時に保持している25戦全勝(24KO)のジャーボンテイ・デービス(26=アメリカ)で、KO率は96%。唯一の判定勝ちは6回戦時代のもので、2度のダウンを奪いながらフィニッシュできなかったもの。いまさらながら惜しまれる。こちらは小柄なサウスポーで、鋭く相手の懐に入って左右フックやアッパーで倒しまくっている。

3番目がヘビー級のWBA暫定王者ダニエル・デュボア(23=イギリス)で、戦績は17戦16勝(15KO)1敗、KO率は88%を超える。4番目は同じヘビー級の3団体統一王者のアンソニー・ジョシュア(31=イギリス)で、25戦24勝(22KO)1敗、KO率は88%。

こうした重量級のハードパンチャーが続くなか、KO率が5番目に高いのが井上だ。井上はベテルビエフやデービスのような目に見える攻撃型ではなく、カウンターでも倒せる万能型で、ダウンを奪ったパンチも右ストレート、顔面への左フック、ボディへの左フックなど多彩だ。特記すべきは21戦のうち16試合が世界戦で、そのうち14試合でKO勝ちを収めていることであろう。この点ではベテルビエフの世界戦5KO、デービスの(自身の体重超過で世界王座を剥奪された試合を含む)9KO、デュボアの1KO、ジョシュアの7KOを大きく上回っている。

このトップ5に迫っているのが、43戦41勝(36KO)1敗1分:KO率≒84%のIBFミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(39=カザフスタン)、30戦28勝(25KO)2敗:KO率≒83%のWBCクルーザー級王者イルンガ・マカブ(33=コンゴ民主共和国)、24戦全勝(20KO):KO率≒83%のWBCバンタム級暫定王者レイマート・ガバリョ(24=フィリピン)、34戦33勝(28KO)1敗:KO率≒82%のWBOフェザー級王者エマヌエル・ナバレッテ(26=メキシコ)らだ。

すでに現時点で日本の歴代世界王者のなかで井上は最高KO率をマークしている。そういった意味では記録面でも記憶の面でも特別な存在になりつつあるといえる。今後、どれだけKO勝ちを上積みしていくのか楽しみだ。

リングにかける

入門半年16歳今井礼夢、課題山積も徐々に手応え 議員の母からも独り立ち

初勝利を目指す今井礼夢(撮影・松熊洋介)

初勝利は確実に近づいている。プロレスリング・ヒートアップの今井礼夢(16)が。11日の新百合ケ丘大会で6人タッグマッチに出場し、敗れはしたが、成長した姿を見せた。数キロながら体重も増え68キロになり、風格も出てきた。「体力が付いている実感はある」という。

試合では、開始早々、初の場外戦で相手を殴り付けた。さらに、師匠のTAMURAから学んだ駆け上がり式ブルドッキングヘッドロックを決めるなど見せ場を作った。これまでは技をかけた後に間があったが、連続技を決めるなどスピーディーな展開で相手を追い込んだ。それでも劣勢の時間はまだ多く、最後は変形コブラツイストでギブアップ。課題はまだ山積みだ。「技の技術を上げていきたいし、経験が足らない」と自覚する。何度も対戦している新井健一郎は「自信がないように見える。やりたいことをリング上で見せていかないと」と、あえて厳しい評価を口にした。

それでも定期的に行われている道場マッチで力を付けている。実力者たちとシングルマッチを戦い「技の種類やスピードが増した」と手応えを感じた。昨年末のデビューから半年がたち、練習生のころのような不安な表情は一切ない。元SPEEDで参院議員の母・絵里子氏からは独り立ちし、今では母のことを聞かれても「(会場に)来ているのか分からない。たぶん応援してくれているんじゃないですか」などと、気にする様子もないほど、プロレスに集中している。

9月17日には川崎・とどろきアリーナでの興行が行われる。礼夢のデビュー戦の反響を感じ、代表も務めるTAMURAが会場を押さえた。有観客の公式戦は7試合を戦って未勝利。「自分的にはまだまだだと思う。もっと自信を付けて、とどろきで初勝利を挙げたい」。9月、自分の力で3カウントを奪い、大観衆の前で初の勝ち名乗りを受ける。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

11日、ヒートアップ新百合ケ丘大会の6人タッグマッチで敗れた今井礼夢(左)。右は大和ヒロシ
11日、ヒートアップ新百合ケ丘大会の6人タッグマッチで大和ヒロシの首をつかむ今井礼夢(左)
大相撲裏話

「咲かない花はない」100連敗の勝南桜を師匠はどう見ているのか

大相撲名古屋場所7日目 100連敗を喫し浮かない表情で土俵から引き揚げる勝南桜(2021年7月10日撮影)

<大相撲名古屋場所>7日目◇10日◇ドルフィンズアリーナ

西序ノ口24枚目・勝南桜(しょうなんざくら、22=式秀)が7日目の相撲で敗れ、今場所も3連敗で19年初場所の6番相撲からの連敗が「100」に達した。

長い、長いトンネル。本人は取組後の取材に応じていないためコメントはなく、師匠の式秀親方(元幕内北桜)に電話取材で話を聞いた。師匠は「100連敗というのはとても残念な記録だが、本人は悔しさを持って、しっかり努力して力をつけている」と話す。

現在は44歳のベテラン、同じ序ノ口の沢勇との三番稽古が常。師匠によると「最初は全く勝てなかったが、最近は右四つになると勝てるようになってきた。稽古場はいいが、本場所になると、緊張してしまう。稽古場での力を出せれば勝てるようになると思う」。

15年秋場所初土俵で、今月16日に23歳の誕生日を迎える。当初から不安のあった体力面は、自らの努力で克服。式秀親方は「最初は腕立て伏せを1回もできなかったんです。今は10回以上を10セットで100回以上、こなしている。スクワットも欠かさずやっている」。ただ、場所にいくと「負け続けている」トラウマに負けてしまうという。

師匠は「春のこない冬はない。咲かない花はない。必ず連敗は止まると激励している」。勝南桜の「春」は心にありそうだ。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

「大関陥落→綱取り」照ノ富士に元横綱三重ノ海も注目「今後出ない」

逸ノ城(右)を寄り切りで破る照ノ富士(撮影・河田真司)

<大相撲名古屋場所>◇6日目◇9日◇ドルフィンズアリーナ

照ノ富士の綱とりが成就するか、元横綱三重ノ海で相撲博物館の館長を務める石山五郎氏(73)も、テレビ越しで注視している。

照ノ富士は中盤戦も白星スタート。大関陥落を経験して、横綱昇進を果たしたのは三重ノ海だけだが、石山氏は「私とは比較にならない」と言い切る。「落ちてここまで戻ってくる力士は今後出ないでしょう。まず大関から落ちて、序二段で取ることが考えられない」。不屈の精神に舌を巻いた。

新大関から在位わずか3場所で関脇に陥落し、特例での復帰に向けて2桁白星が求められた76年名古屋場所は、進退を懸けて土俵に上がったという。「カムバックできなかったら引退しようと決めていた」。結果は10勝5敗で返り咲きに成功。「大関という立場上、大変な思いはある」と、当時の苦労を懐かしそうに振り返った。

横綱誕生は17年初場所後の稀勢の里(現荒磯親方)が最後となっている。石山氏は「特に大関には頑張ってもらいたい。白鵬も体の具合が悪くなっているんだから、早く新しい横綱が誕生してほしい。今の大関は、みんな横綱になるチャンスなんだから」と、奮起を求めていた。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

石山五郎氏
大相撲裏話

熱海富士が覚悟の奮闘「誇れるような力士に」災害に見舞われた故郷思い

<大相撲名古屋場所>◇4日目◇7日◇ドルフィンズアリーナ

時乃平を寄り切りで破り土俵を引き揚げる熱海富士(撮影・鈴木正人)

18歳のホープが、災害に見舞われた故郷に思いをはせて奮闘している。静岡県熱海市出身の西幕下55枚目、熱海富士(18=伊勢ケ浜)が、初めての幕下挑戦で1番相撲から2連勝とした。高校相撲の強豪校、静岡・飛龍高を経て昨年11月場所初土俵。序ノ口、序二段で優勝するなど、順調に番付を上げている期待の若手は、3日に熱海市で起きた豪雨被害に胸を痛めた。

土石流被害があった伊豆山地区は、実家から車で10分ほどの距離にあるという。「稽古が終わって兄弟子から『熱海、大丈夫か?』と言われてすぐに携帯を見ました。自分の知り合いは無事だったけど、行方不明や身元の分からない人がいるので…」。

地元の知人には、すぐに安否確認も兼ねて連絡した。小学校時代の担任教師らが、逆に励ましのメッセージをくれたことがうれしかったという。しこ名に「熱海」が入っている現役力士は自身だけ。兄弟子の大関照ノ富士にあこがれる大器は「熱海の代表といったら“顔じゃない”けど、熱海の人が誇れるような力士になりたい」。人なつっこい笑顔が特徴的だが、覚悟を込めた言葉は力強かった。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

熱海富士(右)は時乃平を寄り切る(撮影・渦原淳)

原功「BOX!」

7人目の「4団体統一王者」はチャーロかカスターニョか

スーパー・ウェルター級のWBAスーパー王座、WBC王座、IBF王座を持つジャーメル・チャーロ(31=アメリカ)と、同級WBO王者のブライアン・カスターニョ(31=アルゼンチン)が17日(日本時間18日)、アメリカのテキサス州サンアントニオで対戦する。勝者が4団体の統一王者になる注目の一戦だ。

先月19日にWBC世界ミドル級王座の5度目の防衛を果たした双子の兄ジャモールとともに兄弟世界王者として知られるチャーロは、14年のプロ生活で35戦34勝(18KO)1敗の戦績を残している。24歳のときにWBC王座を獲得して3度の防衛を果たしたが、V4戦で物議をかもす判定負けを喫して一度は失冠。しかし、1年後の2019年12月に11回KOでリベンジして王座を取り戻し、昨年9月にはWBA、IBF王者に8回KO勝ちを収めて3団体統一を成し遂げた。

KO率は51パーセントと特別高いわけではないが、7度の世界戦では6勝(5KO)1敗と倒しまくっている。以前はスピードとテクニックに頼っていたが、自信を深めたいまは切れのあるパンチで倒しに行くスラッガー型に変貌した印象だ。

一方のカスターニョは身長171センチ、リーチ171センチとこの階級では小柄で、チャーロよりも身長で9センチ、リーチは14センチも劣る。その分、上体は分厚く頑丈だ。プレッシャーをかけながら頭から突っ込んで左右のフックを叩きつけるファイター型でスタミナもある。チャーロとは対照的なタイプといえる。

こちらも2度の戴冠実績がある。最初は2016年11月、WBA暫定王座を獲得(のちに正王者に昇格)。3度の防衛を果たしたが、指名試合を巡って統括団体と衝突したため王座を放棄した経緯がある。

今年2月、WBO王者を圧倒して12回判定勝ち、返り咲きを果たしたばかりだ。戦績は18戦17勝(12KO)1分。チャーロと比べると世界的な強豪との対戦は少ないが、2年前にはサウスポーの技巧派として知られるエリスランディ・ララ(キューバ/アメリカ)と引き分けて評価を上げている。それを含めアメリカのリングは8度目となるが、今回はチャーロの出身地テキサス州での試合とあってアウェーの状況といえる。

スピードと切れのあるパンチを持つチャーロと、体力自慢のブルファイター、カスターニョ。対照的なスタイルを持つ世界王者同士の対決のオッズは、9対4でチャーロ有利と出ている。

なお、旧来のWBAとWBCに加えIBFが1983年、WBOが1988年に設立されて4団体時代になってから33年。統一戦を経て4本のベルトを収集した世界王者はバーナード・ホプキンス(アメリカ)、テレンス・クロフォード(アメリカ)、オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)、テオフィモ・ロペス(アメリカ)、ジョシュ・テイラー(イギリス)の5人。ホプキンスに勝って王座を継承したジャーメイン・テイラー(アメリカ)を含めても「4団体統一王者」は6人しか存在しない。

歴史に名前を刻むのはチャーロか、それともカスターニョか。

リングにかける

ボクシング、コロナ禍もプロテスト受験者数増加、新人王戦開催で存続に必死

昨年からコロナ禍で自宅にこもり、時だけが流れていくような気分だ。たまに取材に行くことはあるが、ほぼ直行直帰する。気分転換にはなるが、やはり刺激は少ない。問題、課題は山積したままの中、平穏な毎日を過ごせることが一番か。

今年も7月に入って、もう半年が過ぎた。そんな中で東京五輪はやるようだ。開催の是非は棚上げで、観客制限か、無観客かが問題になっている。どうなんだろう。開催しても、世界が集まるスポーツ最大の祭典が、異常ないびつな大会となる。

いざ始まれば、世の中は五輪一色となるかもしれない。それも2週間あまりで大会は終わる。熱しやすく冷めやすい日本人気質。一方でコロナ禍の終息はいまだ見えない。スポーツの今後が心配される。

プロボクシングでは、この1年半でどんな影響があっただろうか。コロナ禍以前の19年と比較してみた。まずは国内での興行数と試合数。

◆19年 175興行、1328試合

◆20年 90興行、544試合

◆21年 44興行、242試合

昨年は3~6月の4カ月は興行がなくなり、実際に開催されたのは9カ月しかない。19年からは6割減となった。今年は6カ月でこの数字と、決して増えているとは言えない。

ちょっと気になった数字もあった。中止となった試合数。19年は55試合、20年は50試合、21年はここまで29試合と増加ペース。ケガ、体調不良や計量失敗が理由。日程の変更もままあり、コロナ禍での練習制限、体調管理の難しさを示しているようだ。

近年は国内興行の難しさから、海外へ積極的に出て行く傾向が強まっていた。しかし、海外も試合開催や渡航制限があり、世界戦も海外戦も減っている。

◆19年 世界戦34試合、海外戦93試合

◆20年 世界戦9試合、海外戦11試合

◆21年 世界戦9試合、海外戦8試合

今年は9月までに4試合の世界戦が予定されている。井上尚弥を筆頭に海外戦を中心に増加の傾向だ。ただし、今年の海外8試合のうち世界戦以外は2試合だけ。世界戦以下のレベルになると、特にアジアの状況がままならず、今後は見通せない状況にある。

興行も時間制限、経費の問題などから、特に6回戦以下の試合が減っている。これはボクシングにとって最大の問題とも言える。試合ができないなら、競技を続ける、競技を目指す選手が減り、競技人口の減少となる。プロテストの受験者数を調べてみる。

◆19年 561人、合格445人

◆20年 332人、合格282人

◆21年 287人、合格247人

昨年は4割減だったが、今年は増加傾向にある。ちょっとホッとする。合格率は79・3%、84・9%、86・1%と上がっている。アマ経験者のプロ転向が多く、五輪イヤーという側面があるだろう。代表を逃したり、ここを節目に転向する選手がいる。ここでも問題がある。プロになっても試合相手がいないのだ。特に東南アジアから招へいできないことが大きい。

感染拡大の中でも、昨年は年をまたいで新人王戦を開催した。世界に例のない、日本独自のトーナメント戦。今年も各地区予選が始まっている。東日本では新宿フェイスで、8日から4日間連続で集中開催する。業界の存続への必死の努力がうかがえる。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

大相撲裏話

進退懸ける横綱白鵬の姿に弟弟子石浦、炎鵬も奮起「成長した心持って臨む」

名古屋場所2日目、貴源治(左)の張り手を顔面に受ける炎鵬(撮影・鈴木正人)

土俵人生を懸ける横綱白鵬の姿に、弟弟子らが奮闘しないわけにはいかない。共に新弟子の頃は付け人を務めるなどし、関取に上がってからも土俵内外で刺激を受けてきた。横綱の背中を見続けてきた石浦と炎鵬は、今場所はより一層気合が入っている。

「いい成績を残してやろうという気持ちは、いつもよりかなり強くなっています」と話すのは石浦だ。先場所は負け越すも、7勝8敗と踏みとどまったことで幕内に残った。そのため、横綱土俵入りでは露払いを務めることになった。「幕尻だけども露払いを務めることができるのは光栄。引き締まる思いです」と言葉に力が入る。

先場所東十両筆頭ながらも、返り入幕を果たせなかった炎鵬。横綱土俵入りに参加できなかったことを悔やんでいる。だからこそ、通常は幕下以下の若い衆が務める付け人業務を買って出た。自身も関取のため付きっきりとはいかないが、初日は自身の取組後も会場に残り、白鵬の出番の際は同行した。「横綱に稽古をつけてもらう度に心が強くなった。成長した心を持って今場所に臨みたい」と話す。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

土俵入りする石浦(19年撮影)
大相撲裏話

名古屋で力士の足下支える「荒木田土」 季節や天候加味した熟練の水加減

土俵築を行う呼出し衆(09年9月)

大相撲名古屋場所(4日初日、ドルフィンズアリーナ)が目前に迫った。昨年春場所以来、1年4カ月ぶりとなる地方場所開催。本場所で使用される土俵の土は東京場所と同じ「荒木田土」だが、季節や天候などによって水分量の調整が必要になるという。6場所全てで土俵用の土を納入している初野建材工業(埼玉・川越市)特販部の内田英明さん(62)に話を聞いた。

同社が取り扱う荒木田土は川越市内で採取され、大相撲の他にもプロ野球のマウンド、テニスコートやゲートボールなどでも使用されている。荒木田土は粘性があり、ヒビ割れが起こりにくいなどの特徴がある。伝統的に荒川沿いで採取された荒木田土が、国技館の土俵に使われていた。同業務に携わること約30年という内田さん。「荒木田土は生物にも優しい。力士も裸で相撲を取っているわけだから、肌について荒れちゃったりしたら危ない。混入物がないので、自然にも優しいんですよ」と説明した。

17年の名古屋場所前に行われた力士会の際や同場所中に、力士から滑りやすいなどの指摘があり、日本相撲協会は同年九州場所から荒木田土を地方場所でも使うように統一した。巡業でも全体の3分の2で納入するなどの実績がある。

7月の名古屋は湿気が多く、厳密な比率に関しては公表できないというが、東京と比較して若干水分量を多くする。逆に乾燥する11月の九州場所や1月の初場所では、水分量を少なめに。土俵築(どひょうつき)を指揮する呼び出しの大吉らと対話を重ね、年々改良を図っているという。内田さん自らも毎場所前、土俵築の現場に参加。「あまり水を入れすぎてしまうと、軟らかくなって呼び出しさんが土俵を作りにくくなってしまう。長年の勘じゃないですけど、水加減を手で触って確認して分かることもある」と力を込めた。

巨体の力士が戦うため、土俵に掛かる負担は大きい。「200キロ近い人たちが四股を踏んだり、1日に何番も取組をする。それが15日間続いて、年6場所ある。すぐ壊れてしまってはいけないし、力士の方にケガをしてもらいたくないのが大前提。私どももそういうことを大事に納入させてもらっています」。周囲の支えが1年4カ月ぶりの地方場所開催を後押しする。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲裏話

白鵬「進退」かけた名古屋場所 角界支えた誇り、気概を胸に、おとこ気を

白鵬(2020年7月22日撮影)

程なくして大相撲名古屋場所(ドルフィンズアリーナ)が始まる。4日が初日だ。コロナ禍にあって名古屋での本場所は2年ぶり、地方場所開催は昨年3月の春場所(大阪)以来となる。その春場所は無観客開催だったから、お客さんが入っての地方場所となると、一昨年11月の九州場所が最後だった。地方の好角家にとっては、待ちに待った本場所興行となる。

話題に事欠かず見どころはあまたあるが、照ノ富士(29=伊勢ケ浜)の綱とり以上に、個人的には横綱白鵬(36=宮城野)に注目している。史上初めて2度目の「一人横綱」として111日ぶりに臨む初日の土俵は、全国のファンが固唾(かたず)をのんで見守るだろう。言わずと知れた「進退」のかかる場所だからだ。

数々の最多記録を樹立し最強を示す一方で、横綱の「品格」を指摘され、何かと物議を醸す言動がここ数年ほどあった。その1つ1つを掘り下げるつもりはないが、問題提起してくれる力士としては得難い存在だと思う。絶対的な強さも備えているから、なおさらだ。大相撲史上に残る希有(けう)な存在とも言えるだろう。

状況は瀬戸際だ。休場しても「出れば優勝」で存在感を示していたが、それも昨年3月の春場所まで。以降の6場所(全90日)は出場が14日だけで全休が4場所。横綱審議委員会(横審)からは「注意」の決議が継続されたままだ。白鵬自身、土俵人生を本場所に例えて「もう10日目を過ぎている」と36歳の誕生日を迎えた3月11日に話している。とうに腹はくくっているのではないか-。

「進退」-。その2文字が初めて白鵬について回ったのは、昨年の11月場所前だった。出場が微妙だった横綱について、師匠の宮城野親方(元前頭竹葉山)は「もし出られなかったら、あれですね。来場所に進退をかけて頑張るしかないですね」と踏み込んだ。前言撤回は、その翌日。休場が決まった日に師匠は「白鵬の進退にかかわる発言をしましたが、決して本心でなく軽率だったと深く反省しております。訂正して取り消させていただきます。たいへん申し訳ありませんでした」と書面で異例の謝罪をした。

そして3月の春場所。2連勝しながら3日目から休場したことで、再び進退問題が再燃。この時、やはり取材に応じた宮城野親方は、白鵬が手術後に5月の夏場所も休場し、名古屋場所で進退をかける意向であると説明している。ただし、白鵬自身が明言することはなく、初めて「進退」を口にしたのは今月12日の綱打ち後のことだった。「はじめは(進退の意味が)最後の場所という意味なのかと思っていたけど、その後、この進退という言葉の意味を理解できるようになりましたね。やっぱりこう、進むのか、退くのか止まるのか、というね。そういう意味があることがわかったので。とにかく今はやることをやって、頑張りたいと思います」。

個人的には、あまり「進退」という言葉は使ってほしくない。土俵に立てば相手があることだ。一切の情は排除しなければ戦えない。「相手は負ければ最後の土俵になるかもしれない…」などという感情が少しでも入れば、精神的な影響が出ないとも限らない。まあ「そんなに気が優しかったら土俵は務まらないだろ」と親方衆に一喝されるかもしれないが、同部屋対決や兄弟対決が本割で組まれないのは、そんな「情」の世界だからだと思う。対戦相手に変な邪念が入らなければいいが…。

幸い、白鵬自身は「名古屋場所、秋場所、その先も頑張るという気持ちで、やっぱり早い段階で体を治して頑張りたいという気持ちで」と、手術に踏み切った理由を話している。これは救いだ。土俵に立つ以上は威風堂々と、そしてどんな名選手、名力士にも訪れる散り際はすがすがしく-。たとえ身を引いても、大功労者であったことは異論の余地がない。角界を支えてきた誇り、気概を胸に、おとこ気をたっぷりみせてもらいたい。【渡辺佳彦】

原功「BOX!」

モンスター井上尚弥 フィリピン勢蹴散らし2階級4団体王座統一に現実味

去る19日(日本時間20日)、バンタム級のスーパー王座とIBF王座を持つ井上尚弥(28=大橋)がアメリカのネバダ州ラスベガスで3回KO勝ち、両王座の防衛を果たした。IBF1位にランクされる指名挑戦者のマイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)に何もさせず、ボディブローで3度のダウンを奪うという圧巻の完封劇だった。今後、4団体の王座統一を目指している井上が世界的なスター選手になるにはライバルの存在と話題性が不可欠だが、ここに来て近未来の好敵手が具体的に見えてきた。

モハメド・アリにはジョー・フレージャー(ともにアメリカ)というライバルがいた。80年代のミドル級ではシュガー・レイ・レナード、マービン・ハグラー、トーマス・ハーンズ(いずれもアメリカ)、そしてロベルト・デュラン(パナマ)の4強による直接対決が人気を博した。21世紀に入ってからも、6階級制覇の過程でマニー・パッキャオ(フィリピン)がマルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスら人気と実力両面で秀でたメキシコ勢と何度も拳を交えたものだ。その先に真の栄光があったことはいうまでもない。

すでに3階級制覇を成し遂げている井上は先のダスマリナス戦を含めて16度の世界戦で16勝(14KO)を収めているが、客観的に見て力の拮抗した相手、あるいは大きな話題を集める相手は皆無だった。それほどに井上の力量が飛び抜けているのだ。

こうしたなか、ここにきて井上にとって理想的な流れができつつある。8月14日(日本時間15日)にWBC王者のノニト・ドネア(38)とWBO王者のジョンリエル・カシメロ(32)のフィリピン出身者同士が統一戦を行うことになったのだ。当然、その勝者と井上による4団体の王座統一戦が計画されるものと思われる。すでに井上は2年前にドネアに判定勝ちを収めているが、その試合は年間最高試合に選ばれるほどの激闘だった。井上対ドネアが実現するならば前回以上に世界的な注目を集めることは間違いない。悪役キャラで知られる強打者のカシメロとの対戦になっても新鮮味があって興味を引くはずだ。パッキャオがメキシコのトップ選手たちと連戦したように、「モンスターvsフィリピン勢」という分かりやすい構図とストーリーが見えてきたことは井上にとって大きなプラスといえる。

井上自身は1.8キロ重いスーパー・バンタム級への転向に関して、「適正体重じゃないと上のクラスに行く意味がない」と慎重だが、バンタム級で4団体制覇をしたあと体の成長に合わせてスーパー・バンタム級に上げる可能性が高い。早ければ来年のいまごろは4階級制覇に照準を合わせているかもしれない。

そのスーパー・バンタム級ではアメリカ勢が井上を待ち構えている。WBC王者のブランドン・フィゲロア(24=23戦22勝17KO1分)、WBO王者のスティーブン・フルトン(26=19戦全勝8KO)、WBA暫定王者のライース・アリーム(31=18戦全勝12KO)の3人に加え、ウズベキスタン出身でアメリカ西海岸に活動拠点を置くWBAスーパー王座とIBF王座を保持するムロジョン・アフマダリエフ(26=9戦全勝7KO)である。4王者とも無敗で、合計の戦績は69戦68勝(44KO)1分。しかも4人全員が身長、リーチで井上を上回っている。井上にとっては挑戦のしがいがある階級といえるだろう。「モンスターvsアメリカ勢」という構図になれば話題性も十分だ。

バンタム級でフィリピン勢を総なめにしたあとで転級。スーパー・バンタム級でアメリカ勢を連破-そのころには2階級で4団体王座を統一という壮大なプランが現実味を帯びているはずだ。

リングにかける

「モンスター」井上尚弥が描いた戦略図、相手もん絶させた「左ボディー」

20日のタイトルマッチでダスマリナス(右)に強烈なボディーをヒットさせる井上(AP)

久しぶりにボクシングの「醍醐味(だいごみ)」を堪能した。WBA世界スーパー、IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦が19日(日本時間20日)、米ラスベガスで行われた。

王者に君臨する井上尚弥(28=大橋)は挑戦者のIBF同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)から2回、そして3回に2度と計3回のダウンを奪ってTKO勝ちした。圧巻の勝利だったが、興味深かったのはその倒し方。3度のダウンはいずれも左ボディーで相手をもん絶させた。

ボクシングは拳を交える前に「減量」という戦いが必ず待ち受ける。そのコンディションの持ち方によって当然、戦い方も左右される。相手の状態を見極めた上での戦い方も大事な要素といえる。

思い出したのが97年11月のWBC世界バンタム級タイトルマッチ、辰吉丈一郎が王者シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)に挑んだ一戦だ。当時、眼疾から復帰して連敗の辰吉はがけっぷちに追い込まれていた。一方のシリモンコンは上り調子の若き無敗の王者。戦前の予想は辰吉の圧倒的不利だった。

試合前日、シリモンコンの発熱が明らかになった。無敵の王者にとって、最大の敵が減量。厳しい体重調整による体の悲鳴が発熱として表れた。しかし、何とか計量をクリアした当日。リングサイドの記者席から見上げた両者は、体が倍ぐらいの違いに見えた。「辰吉が殺される」と震えたほどだった。

しかし、試合は辰吉が勇敢に進めた。勝機となったのが左ボディー。厳しい減量を乗り越えてきたシリモンコンのコンディションはやはり、万全とは言えなかったのだろう。脇腹に辰吉の左ボディーが突き刺さり、ベルトを奪い取った。

その試合と先日の井上の試合を重ねるのは乱暴だが共通する「左ボディー」のキーワードにはそそられる。現役ボクサーに聞いた話だが、1発で意識を飛ばすのは顔面に食らうパンチだが、ダメージの蓄積でどうしようもなくなるのがボディー攻めという。井上も2回の一撃で瞬時にKOへの戦略図が描かれたはず。試合の中で相手の状態を見極め、攻略図を描く。それができるからこその「モンスター」だろう。

王者には年内にも、4団体統一のプランが浮上してきた。「モンスター」はどこまで進化するのか。「左ボディー」の引き出しも披露して、楽しみは無限に広がった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

20日のタイトルマッチ ダウンし、苦しい表情を見せるダスマリナス(AP)