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au版ニッカン★バトル

リングにかける

判定勝利に物足りない選手も KOが全てではない「やりきった」表情を

試合に勝利するも悔しげな表情でマイクパフォーマンスする朝倉海(2021年9月19日撮影)

秋の祭典“格闘技ウイーク”が終わった。19日にRIZIN30大会、20日にK-1横浜大会、23日にはRISE横浜大会が行われ、3日間で約50試合の迫力ある熱いバトルが繰り広げられた。

東京オリンピック(五輪)・パラリンピックも終わり、燃え上がったスポーツの火を絶やさないよう、ファイターたちがリングの上で躍動し、大いに盛り上がった。その中で、勝利しても物足りない表情をする選手が多かったのが印象的だった。RIZINのメインで勝利した朝倉海が、判定勝利に「メインを任せてもらったのに…」と語るシーンがあった。RISEでは、ベイノアがねぎ魔神に勝利しながら納得の試合ができなかったことに「ねぎの試合だった」と肩を落とした。

格闘技の魅力の1つとして、ファンが自分たちにはできないものを見せてくれることがある。人を殴ったり、蹴り倒す姿を見ることで、スカッとしたり、ストレス発散になるのだと思う。その象徴的な形がKO。ファイターたちは戦う以上、KO(または1本勝ち)で相手を倒すことを狙う。

今回のKO決着は、

RIZIN…10試合中2試合

K-1…23試合中13試合

RISE…17試合中2試合

対照的な結果となったが、もちろん、KOがすべてではない。それでもRIZINやRISEを見たファンは「少なかったかな」と思った人もいたと思う。K-1中村プロデューサーは「K1はKOを狙って戦う競技。KOを狙う姿勢、倒しに行く攻撃を評価していく」と常々話しており、その通りの結果となった。

一方でRIZIN榊原CEOは、今大会を「リスクがあるが、1本やKOを目指して負けても評価は下げない。倒しに行ってほしい試合もあった」と振り返った。

RISE伊藤代表も「納得していない試合もあった。組まれている意味を分かっているのかな。ここでいい試合をしなければ、次はないという気持ちでやってくれないと」とあえて厳しい言葉を投げかけた。

RISEで那須川と対戦した鈴木は手数が少なく、有効打があまり奪えずに敗れた。「もっと強引に入っていけば良かったが、カウンターを意識し過ぎた」と話した。判定決着となったが、それこそが那須川の強さを物語った試合だった。那須川は「勝たないといけないことだけを考えていた。判定についても人それぞれあるだろうし、賛否あっていい」。リング上で相対する選手同士にしか分からない駆け引きもある。

レベルの拮抗(きっこう)している選手同士が戦うため、接戦になることは必至だ。数カ月の練習、過酷な減量をした上で、勝つ内容も求められる格闘家の世界は改めて厳しいものだと感じた。ファンもその思いを理解した上で見るからこそ、熱い声援を送る。だからこそ選手たちには、KOでも判定でも、勝っても負けても「やりきった」という表情でリングを降りてほしいと思う。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

ベイノア対ねぎ魔神 ねぎ魔神(左)に3回判定勝ちしたベイノア(2021年9月23日撮影)

兄矢吹と弟力石「あしたのジョー」に魅入られた「ワルの兄弟」ドラマに期待

9回、寺地(左)に強烈な右ストレートを見舞う矢吹(撮影・上山淳一)

見ていて久々に鳥肌が立つ激闘だった。22日に京都市体育館で行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ。世界初挑戦の矢吹正道(29=緑)が、王者寺地拳四朗(29=BMB)との壮絶な殴り合いを制し、10回TKO勝ちで新王者となった。周囲で今年の年間最高試合の声もあがるが、全く異論はない。

試合後にこのまま、引退の可能性も示唆した矢吹だが、23日の一夜明け会見でも「昨日言った通りですね」と曲げなかった。その一方で「兄弟でチャンピオンが自分の目標。自分はかなえたんで、弟をチャンピオンにしてやりたい」と言った。

世界戦でセコンドについた弟は力石政法(27=緑)。9勝(5KO)1敗で日本ライト級6位にランクする。17年12月、兄と一緒に緑ジムに入門した。本名は佐藤だが、兄が矢吹で弟は力石。不滅のボクシングマンガ「あしたのジョー」に魅入られた兄弟だ。

兄は少年時代、補導歴50回以上と荒れていた。その兄いわく、弟は「それ以上」という。それだけに2人の絆は深い。緑ジムの松尾敏郎会長が「兄弟、本当に仲いいですよ」と話す。荒れていたからこそ、支え合う。セコンドとして兄の世界王座奪取を支えた弟が、今度は主役の座を狙う。

松尾会長いわく「素質は高いですよ。世界チャンピオンクラス。兄ちゃんよりもあるんじゃないですかね」。強いから対戦相手がなかなか見つからない。力石は「ファイトマネーはいらないから、試合を組んでほしい」と松尾会長に頼んだこともあるという。

引退も示唆した兄のこともあり、今後は不透明だが兄弟、同じリングでタイトル戦のシナリオも見えてきた。兄は世界、弟はまず日本。警察の手を焼かせてきた「ワルの兄弟」が、多くの人を感動させる華やかな舞台へ。「あしたのジョー」兄弟に、そんなドラマを期待したくなった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

コロナに負けず「亀田3兄弟」の新たな形態、会長興毅氏が描く復活への道筋

亀田興毅会長(2021年5月22日撮影)

新型コロナウイルスの影響は、スポーツ界にも多大な影響を及ぼしている。ただ、立ち止まっているわけにもいかない。

元世界3階級制覇王者・亀田興毅氏(34)の3150ファイトクラブは、9月25日に大阪で計画した初の有料興行を延期した。その際に興毅会長は言った。「会長としては2つ続けて死です」。5月の初興行を無観客で行ったが、約750万円の赤字を抱えた。その経験を踏まえ、今回は延期を選択した。会長として新たな興行の形態を模索し、さまざまな試みをぶつけたいが、その思惑をコロナが阻む現状にいらだちを隠せない。

苦しめるコロナ禍だが、その中で進んでいることもある。元2階級世界制覇王者の弟・大毅(32)が、本格的にトレーナーとして始動した。興毅会長は「あいつはほんま、教えるのがうまい」と太鼓判を押す。その手に託されたのが、元WBA世界ミニマム級王者の宮崎亮(34)だ。不祥事などもあり1度は引退を決めたが、興毅会長の下で約5年ぶりの再起を決めた。その興行が延期となったが、大毅トレーナーと復活への道筋を描いている。

3150ファイトクラブは長男の興毅が会長、次男の大毅がトレーナーで、3男の和毅が現役で世界王者を目指す。一時期世間の注目を浴びた「亀田3兄弟」の新たな形態が、具体的に活動している。「必ず天下をとる。和毅は絶対に世界王者に戻す。ボクシングはおもろい。見といてください」と興毅会長は熱弁をふるう。

大毅トレーナーは現役時代、世間の多くの批判を浴びた。だからこその強みがある。興毅会長は「大毅は人に優しい。人の痛みが分かるねん。だから教え方もうまいんやと思う。なかなかそんな人間、おらんからな」と話す。大毅トレーナーが手がける元世界王者の宮崎。まもなく第2の幕が上がる。

大毅トレーナー本格始動の模様は、YouTube番組「会長。亀田興毅~亀の恩返し~」(YouTubeチャンネル=OROCHI TV)で詳細に伝えている。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

元K1王者武居由樹が感じた井上尚弥の“殺気”「対峙して本当に怖かった」

第80回フェニックスバトル 竹田梓(左)にパンチを放つ武居由樹(2021年9月9日撮影)

6月上旬のことだった。元K-1スーパーバンタム級王者武居由樹(25=大橋)はリングで同門の先輩、WBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28)とマスボクシング(軽めのスパーリング)で拳を交えた。ラウンドは世界戦と同じ12回。武居にとっては濃密な36分間だったという。

6月20日、当時のIBF同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)との防衛戦を控えていた井上のため、ダスマリナスと同じサウスポーの武居がマスボクシングの相手を務めた。パンチを当てず、試合の動きを再確認するための軽めの実戦トレーニングだが、武居は井上と向き合った感想を素直に口にしていた。

「初めて尚弥さんとマスをしましたが、マスであっても少し気を抜いたらやられるというか、『殺される』という感覚が分かりましたね。本当に『これが世界一なんだ』という経験でした」。

K-1時代の武居はK-1の3階級制覇王者武尊(30)に続く看板スター選手だった。17年から始まったK-1年間表彰式「K-1アワード」では、武尊を抑えて初代の年間MVPも受賞した。ムエタイなど海外選手らとも次々と対戦してきた自負もある。そんな武居が「いろいろな選手とやりましたが、1番対峙(たいじ)して本当に怖かったです。良い経験で、これ以上の経験は他では味わえないです」とも振り返っていた。井上の持つピリピリした“殺気”の経験は、武居の「血」となり「肉」になったという。

9月11日のボクシング転向2戦目で、武居は戦績5戦(5KO)無敗の竹田梓(高崎)を右ジャブ、左ボディーストレートの後、最後に右フックでダウンを奪い、1回2分57秒、TKO勝ち。冷静なメンタルで的確なパンチを打ち込み、涼しい顔で勝ち名乗りを受けた。3月のボクシングデビュー戦に続き、2戦連続の1回TKO勝利だった。

ボクサー武居のキラー・インスティンクト(殺し屋の本能)ぶりに大橋秀行会長(56)は「相手はカウンターがうまく、スピード、パンチ力もあり、対策も万全にしてきた動きだったのに倒した。びっくりした。これは普通の1試合じゃない。10試合分ぐらいの価値がある」と評価した。

リングの場数はK-1で数多く経験している武居ながらボクサーの経験値は2試合のみ。それでもボクシングに転向した武居の成長曲線は、大橋会長の予想を上回るほど急激に上へと伸びている。このB級(6回戦)での2連勝でA級(8回戦以上)ボクサーに昇格した。

「大橋ジムのスパーリングは見て勉強になります。尚弥さん、(元WBC世界バンタム級王者井上)拓真さん、(東洋太平洋、WBOアジア・パシフィック統一フェザー級王者)清水(聡)さんをはじめ、すごい先輩たちばかりなので吸収することが多いです」。

同門ボクサーの技術に触れ、感じつつ、吸収しようと試みるの貪欲さは武居の才能。井上から感じた世界に通じる「殺気」も、武居には大きな成長エネルギーとなっていたのだろう。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

WBSS世界バンタム級トーナメント決勝 ドネアにパンチを放つ井上尚弥(2019年11月7日撮影)

初代タイガーのように…ジュニアの魅力伝えるため戦う高橋ヒロム

IWGPジュニアヘビー級選手権、高橋ヒロム(左)はイーグルスのロン・ミラー・スペシャルに苦もんの表情(2021年9月5日撮影)

珍しく悔しさをあらわにした。新日本プロレスの高橋ヒロム(31)は、5日の新日本メットライフドーム大会で、IWGPジュニアヘビー級王者のロビー・イーグルスに敗戦。ロン・ミラー・スペシャルでつかまり、必死にもがいたが、絡まった足は全く動かず。「クソ~」と言いながら、リングをたたき、無念のギブアップとなった。

試合後のツイッターでは「悔しい」を33回も並べた。プロレス担当になってまだ短いが、あんなに悔しがる高橋を見たのは初めてだ。大会前には「勝つしかない。それだけ」と闘志をみなぎらせていた。

高橋ヒロムのツイッターより

危機感を抱いていた。「最近はヘビー級にあこがれる選手が多いのかな。悔しいですよ。このままではジュニアが終わってしまう」。普段の試合では、笑顔を振りまき、さまざまなパフォーマンスで観客を魅了する。明るい性格の原点は、幼いころからのポジティブな精神。2月に右大胸筋断裂のケガを負ったが「やってしまったことは仕方ない」と前向きだった。そんな高橋も今回の敗戦は「まあ、いっか」で終わらせることはできなかった。「ジュニアのすごさを見せた上で勝つ」と意気込んだ試合で敗れてしまった。

高橋 昔はジュニアの方がすごい時代もあった。初代タイガーマスクや小林邦昭さんは、ヘビー級のインパクトを超えていたと思う。俺自身も圧倒的スターにならないといけない。

記者からジュニアの魅力を聞かれた高橋は考え込んだ。「自信を持ってやっているが、聞かれた時にはパッと答えられない自分がいる。魅力を持たせられない俺自身も悪いのかな…」。責任を感じ、ジュニアのための入門テストを会社に提言。「小さい人間でも才能や根性を持った選手もいる。5年、10年先を見据えて、育てていかないと。深刻な問題だと思う」と語気を強めた。

高校時代、周囲から「お前みたいな小さいやつが(プロレスを)やれるわけない」と言われた高橋。171センチの体で、ジュニアらしい軽快な動きと、ヘビー級に負けないパワーで新日本を引っ張ってきた。これからも魅力を追求し、価値を高めながら、自らも王者返り咲きを目指す。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

IWGPジュニアヘビー級選手権、イーグルスにTIME BOMBを浴びせる高橋ヒロム(2021年9月5日撮影)

コロナ禍で海外進出、世界への道切り開く横浜光ジム 自ら乗り込みアピール

横浜光ジム石井一太郎会長(2017年4月19日撮影)

ボクシングは大体2、3カ月前に試合が決まり、年間3、4試合こなす。昨年からそれもままならない。特に世界戦は大半が外国人相手だけに、渡航制限などもあってなかなか決まらない。それでも9月に日本人3人が防衛戦予定も、コロナ禍の影響を受けた。

WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔は緊急事態宣言延長で、有観客から国内の世界戦で初の無観客に変更となった。WBC世界ライトフライ級王者寺地拳四朗は感染して延期。日本人では昨年11月のWBA世界ライトフライ級スーパーフライ級王者京口紘人以来2人目のことだった。

興行、試合も減り、マッチメークも普段以上に難しい状況が続く。そんな中で果敢に勝負に出たジムがあった。「メキシコに打って出る」と、横浜光ジムの2人が海外進出した。

3度防衛中の日本スーパーウエルター級王者松永宏信と、日本ウエルター級6位坂井祥紀。中量級は海外の層が厚く、日本人になかなかチャンスが回ってこない。そこでこちらから乗り込んで、アピールしていく戦略だ。

8月20日にプエブラで、松永は左ストレート一発で初回TKO勝ちした。坂井はメキシコで10年にデビューし、昨年里帰りして日本王座にも挑戦した。この日はメインで3度ダウンを奪って3回TKO勝ち。松永の相手は3日前に変更、坂井の相手は前日計量で体重超過し、当日にパスした。メキシコらしいアクシデントもあったが、進出第1戦をクリアした。

石井一太郎会長は名刀政宗とも言われた関光徳会長の下で東洋太平洋王者となり、海外修行の経験も豊富だった。関会長の死去後は実業家の宮川会長の下でトレーナーに。宮川会長が急死して会長代行となり、12年から正式に会長となった。

「指導者になるつもりはなかった。しかも会長なんて」と振り返るが、今や若手の敏腕プロモーターと言える。16年からプロモーション事業としてA-SIGHを設立。早くからユーチューブ・チャンネル、投げ銭などのクラウドファンディングなどに取り組み、今回の海外進出は新たな戦略だ。

興行は現地プロモーターとの共催だった。招待ではないため、経費なども自前となる。ユーチューブのメンバーシップを導入し、有料会員限定配信でリアルタイムの情報や裏話などを配信。収益のすべてはこの海外活動のための資金とするという。

海外進出では過去にも実績を持つ。赤穂亮はマニラ、高橋竜平はバンコクで地域タイトルを獲得し、世界挑戦へとつなげた。高橋は米ニューヨークにある格闘技の殿堂マジソン・スクエア・ガーデンで、日本人初の世界戦という歴史も刻んでいる。

メキシコはボクシング王国で選手も興行も多い。米国のプロモーターたちも注目している。そこで勝ち、アピールしていくことで、世界への道を切り開いていく。コロナ禍でも積極的なチャレンジが実を結ぶことを期待しよう。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

日本スーパーウエルター級王者松永宏信(2019年11月2日撮影)

元年俸120円Jリーガー安彦考真、ペルテス病と闘う少年に捧げる勝利

2回、小比田隆太(左)をKOで破った安彦考真(2021年8月27日撮影)

元年俸120円Jリーガーで昨年から格闘家に転向した安彦考真(43)が、8月27日に行われた「EXECUTIVE FIGHT~武士道~」でKO勝ちし、デビュー2連勝を飾った。この試合で安彦はどうしても勝利を届けたかった人がいた。

大腿(だいたい)骨頭の血行障害により骨頭の壊死(えし)が生じる難病「ペルテス病」と闘う広木勇太君(小6)。昨年9月に発症し、現在もリハビリを続けながら、装具や松葉づえでの生活を送っている。安彦は数年前、サッカーのJ2水戸時代に父の仁さんと仕事で知り合って以後、今夏プレミアリーグのブライトンに移籍した三笘らと一緒に交流を持つようになった。

Jリーガーを目指し「サッカーのセンスがあった」(安彦)という勇太君は、昨年「足の付け根が痛い。歩くのが辛い」と訴え、その後病院で難病と診断された。昨秋のイベントで再会した時に病気のことを知った安彦は、両親に心配をかけないように明るく振るまう勇太君の姿に自分も元気づけられたという。

「自分の戦う姿が少しでも力になってくれたら」。格闘家に転向したのは自分の夢のためでもあるが「全国の人に勇気と元気を与える。それができないとやっている意味がない」と話す。試合では「(予想は)9分9厘、向こうだと思っていた」と言いながらも試合終盤にKOを奪い、目標であるRIZIN出場に望みをつないだ。勝利後、安彦はリング上で勇太君への思いを口にした。

安彦 サッカーが大好きでやりたくてもピッチに立てない小学生がいて、その子が僕の姿を見て、少しでも頑張ろうと思ってくれたら。どんな困難なことでも(打開する)可能性はある。自分にもまだまだ何かできるんじゃないかと。勝ち負けだけでなく、格闘技に挑戦する姿を見せて、日本を元気にしたい。

もらったトロフィーは勇太君にプレゼントするという。逆境を跳ね返して勝利をつかんだ安彦の熱い思いは、再びピッチに立つためにリハビリに励む勇太君の胸にしっかり届いたに違いない。【松熊洋介】

デビュー2連勝を飾った安彦考真(後方左)と広木勇太君(前列中央)の家族(安彦考真提供)
デビュー2連勝を飾った安彦考真(後方)と広木勇太君(安彦考真提供)

WBA暫定王者廃止 業界正常化へ生き残りへ「改革」の試み止めるな

94年12月、WBC世界バンタム級統一王座決定戦で激しく打ち合う辰吉丈一郎(左)と薬師寺保栄

王座乱立で批判を受けているプロボクシング団体のWBAが25日(日本時間26日)、暫定王座を廃止する改革を発表した。同団体のヒルベルト・メンドーサ会長がオンラインで会見し「すべての暫定王座は終了した。暫定王者は指名挑戦者になる。次のランキングに暫定王者はいなくなるでしょう」と表明した。

WBAでは1階級だけでスーパー、正規、暫定、さらに一部にはゴールドと4種類の王座が存在している。その背景には、WBAが得る王座の承認料。また、世界戦を行う場合の「認定料」もそこに加わる。そんな裏事情が、一般のファンに受け入れられるわけがない。今回の改革の一案は、ボクシング界の正常化として素直に受け止めたい。

そもそも「暫定王者」とは。目的としては正規王者がけがなどで長期、試合ができないケースでまさに「暫定」として設置される。日本における世紀の一戦、94年12月のWBC世界バンタム級王座を争った辰吉丈一郎-薬師寺保栄。薬師寺が正規王者で、現役王者で眼疾を患って復帰した辰吉が暫定王者と日本人同士の初の王座統一戦としても、注目を集めて盛り上がった。

興行としてプラスをもたらす側面もあるが、最近の王者乱立ぶりはボクシングファンの理解を得られなかったはずだ。体重制のギリギリまで身を削って戦うボクシングにおいて、その団体の階級で世界王者はただ1人のはず。限られた椅子を求めて戦う過程に醍醐味(だいごみ)があるはずが、大人のエゴがその体系を壊しつつあった。

それでなくとも、新型コロナウイルスでボクシング業界は大打撃を被っている。無観客でも何ができるか。興行主は「従来」から脱した、新たな枠組みに挑むしかない。世界の主要団体も同じだろう。この苦しい時代で生き残るために、「暫定」廃止にとどまらない新たな試みが求められていると思う。【実藤健一】

コロナ禍も盛り上げたいボクシング界、井岡会長の新たな“仕掛け”に注目

ラッパーとしてデビュー間近の井岡弘樹会長(左)(撮影・実藤健一)

新型コロナウイルスの影響は収まりが見えないが、ただただ傍観しているわけにはいかない。室内競技で影響を受けやすいボクシング界も、9月に向けて興行の発表が増えてきた。

注目のひとつが9月16日にエディオンアリーナ大阪第2競技場で行われるグリーンツダジムと井岡弘樹ジムの合同興行。試合の楽しみはもちろんだが、元2階級制覇王者の井岡弘樹会長が先頭に立って盛り上げる。今月20日に大阪市内の井岡弘樹ジムで行った会見。会長は「ラッパースタイル」で登場した。

ボクシング界も、今までと同じ興行形態では厳しい時代となった。何とか盛り上げたい、注目してほしい思いが、その姿からは伝わった。井岡弘樹会長は会見で「自分の試合に集中してほしい。一緒にチャンピオンを目指してやっていきたい」と決意表明。興行の中で「ラッパー」として登場する予定という。

井岡弘樹会長はオンラインでボクシング+エクササイズで「ボクシエット」を展開するなど、コロナ禍の時代にいち早く対応してきた。以前のようにテレビの地上波で、世界戦であっても中継されることは一部選手に限られ、少なくなってきた。「従来」から脱却する取り組み、新しいアイデアと挑戦には、積極的だった。

もちろん、井岡弘樹会長が主役になるわけではなく、厳しい練習を乗り越え、魂をこめて戦う選手たちの“色添え”としてラップを披露する。現役時代は18歳9カ月の最年少でWBC世界ミニマム級王座を獲得。その後も一線で活躍し、自分を露出するべくメディア対応も熱心だった。

その経歴があって、今がある。ボクシング界を、特に最近停滞気味の西日本を盛り上げたい思いは、関わる者だれもが同じ。井岡弘樹会長の新たな“仕掛け”に注目したい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

“完成形”に体作り上げた棚橋弘至、復帰戦の飯伏幸太にベルト渡さない

棚橋弘至

今月14日(日本時間15日)に日本人初のIWGP USヘビー級王者に輝いた新日本プロレスの棚橋弘至(44)が、9月4日の埼玉大会(メットライフドーム)での初防衛戦の相手に、病気欠場中の飯伏幸太(39)を指名し、対戦が決定した。

米ロサンゼルスで行われた大会で、ランス・アーチャーにハイフライフロー3連発で勝利。その後新日本の公式ユーチューブで「お互いリスクがあって、かけるモノが大きくて。復帰戦は俺とやれ。それぐらいの荒治療、荒療法が今のお前には必要だと思うから」とメッセージを届けた。

棚橋は、誤嚥(ごえん)性肺炎で7月10日から欠場していた飯伏に代わり、25日の東京ドーム大会で、鷹木とのIWGP世界ヘビー級選手権試合に出場した。悔しい思いが続いているであろう飯伏の気持ちを理解し「お前がIWGP(世界ヘビー級)を目指すのは、もちろんわかってる。けど“寄り道”してっても悪くはないと思う」と、自らのベルトをかけた戦いの相手に指名し、復活のチャンスを与えた。

これに対し、飯伏は「“寄り道”って何ですか? 僕の今の一番の近道、それは棚橋さん、あなたと闘うこと。だから、僕も100%で、全力で闘わせてもらいます」と受けて立つ覚悟を見せた。

とはいえ、初めて奪ったベルトを復帰戦の飯伏に簡単に渡すわけにはいかない。現在5月下旬から「100日ダイエット計画」を実行中。9月の埼玉大会、その後のG1クライマックスを見据え、筋肉量は変えずに、体脂肪だけを落としながら、理想の体に近づきつつある。

これまでもリングに登場時は肉体美を見せるポーズをとり、観客を沸かせていた。昨年はコロナ禍で大会が中止となったこともあり、減量後にリバウンドして“ぽっちゃり体形”になることもあった。「体の仕上がりとリング上のパフォーマンスは比例する」と考える棚橋。“完成形”の体を作り上げ、9月4日、飯伏を迎え撃つ。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

72歳リック・フレアー10年ぶり現役復帰?WWEスターの娘より動向注目

自らの公式SNSで鍛えた上腕二頭筋を誇示した「狂乱の貴公子」リック・フレアー(右=フレアーの公式インスタグラムより)

日米マットをまたにかけた72歳のレジェンド、リック・フレアーは今だファイトを希望している。

米プロレスWWEとの契約解除が発表されたのは今月3日。自身のSNSで声明を発表した「狂乱の貴公子」は「WWEに対し、まったく怒っていないとみなさんに伝えたい。WWEと私は将来に対して違うビジョンを持っていた。彼らも私も成功を続ける。ありがとう」などとコメント。円満退団を強調していた。

昨年1月から結んだ新たなWWEとの契約を解除したフレアーは約2週間後の15日、メキシコシティーで開催されたメキシコのプロレス団体AAAによる年間最大の祭典トリプルマニア29大会に登場していた。娘でWWEの前ロウ女子王者シャーロット・フレアーの婚約者でもある元WWE・US王者アンドラデのセコンドとしてAAAメガ(ヘビー)級王座挑戦をサポートした。フレアーのサプライズ登場に会場は大きなどよめきが起こっていた。

試合途中にはAAAメガ王者ケニー・オメガに対し、アンドラデと一緒に逆水平チョップを次々と打ち込んだ。敵セコンドに入ったコナンには得意技・足四の字固めを成功させ、健在ぶりをアピールした。米メディアによると、自家用ジェット機でメキシコまで向かい、ノーギャラで将来の息子となるアンドラデをサポートしたようだ。

リング復帰への強い意欲を示すSNS投稿もあった。トレーニングルームで上腕二頭筋を誇示する写真とともにフレアーは「飛行機墜落事故、落雷、そして4年前に(心臓病手術で)ほぼ死ぬ可能性もあったネイチャーボーイ(フレアーの愛称)を止めることができると思うか? WOOOOO!」と不死身のレスラーであることを訴えていた。

米プロレス専門メディアでは現在、WWEの対抗団体となるオメガやクリス・ジェリコらが所属するオール・エリート・レスリング(AEW)と契約を結ぶのではないかと報じられている。近年は心臓病、白血病を告白してきたフレアーだが、本格的にレスラーとして試合復帰すれば、11年9月以来となる。次はどのリングに登場し、何をするのか-。既に10年以上も公式試合をしていない72歳のフレアーの動向は現在、WWEのスターとして活躍する娘シャーロットよりも注目されている。それだけ米国で存在感があるということなのだろう。レスラー復帰ならば、ぜひ再来日してほしい。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

五輪中もプロレス興行は有観客 変わらず熱い試合を熱いファンに届ける

観客数を制限し開催された新日本プロレスWRESTLE GRAND SLAM in TOKYO DOME(2021年7月25日撮影)

7月25日、盛り上がる東京オリンピック(五輪)に負けじと、都心のど真ん中「東京ドーム」では新日本プロレスの選手たちが大暴れしていた。五輪は無観客だが、ドームには人数を制限した上で、約5300人が入場。メインのIWGP世界ヘビー級王座初防衛に成功した鷹木信悟(38)は、勝利後にマイクを取り「本音を言えばちょっとさみしいな。世間は相変わらずのコロナ禍で、感染予防、ソーシャル。1番苦しいのはお客さんだろ。緊急事態宣言の中、家で五輪を見ていてもいい中、プロレスを選んでくれたことに感謝する」と集まったファンに語りかけた。

五輪期間中でも、どの団体もプロレス興行は通常通り有観客で行っていた。特に週末には多くの観客が駆けつける大会もあり、小さな会場ではあるが、満員札止めとなった興行も。昭和の時代から続く歴史あるプロレスには根強いファンがいるのだと感じた。ある団体の関係者は「プロレスのお客さんは五輪関係なく来てくれる人もいる。夏休みで子どもたちも多かった」と明かす。

プロレスラーの中には学生時代にレスリングや格闘技をやっていた選手も多くいる。新日本のジェフ・コブは04年アテネ五輪レスリング男子フリースタイル84キロ級のグアム代表。現在は120キロだが、レスリング時代の安定したフットワークと怪力でレスラーたちを投げ飛ばす。ノアで活躍する杉浦貴はアマチュア時代からレスリング日本代表で五輪を目指していた。出場はかなわず、30歳でプロレスに転向。必殺技は「オリンピック予選スラム」と名付けた。

開催が1年延期となり、さらに中止の可能性もあった。杉浦は「なくなるかもしれないという中で、モチベーションは上げづらく、選手はかわいそう」と気持ちを察した。さらに「人生をかけていると思うし、4年に1回で、勝負できなくて区切りが来ちゃう人もいる」と自身のレスリング人生と重ね合わせる。

五輪は無観客となったが、期間中に開催したのは観戦に訪れた海外の人たちにも、日本のプロレスを見てほしいという思いもあった。その思いはかなわなかったが、新日本の後藤は五輪直前の試合で「オリンピックより熱い試合を俺たちは見せていきたい。新日本プロレスから目をそらすなよ」と力強く語った。昨年から首都圏に何度も緊急事態宣言が出される中、選手に感染者が出たものの、大きなクラスターはほとんどなく、開催してきたプロレス界。五輪前も、五輪中も、五輪後も熱い試合を熱いファンに届け続けている。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

あのピストン堀口道場も…ボクシングジムの休会ラッシュ止まらず

ファイティングポーズの堀口恒男(1948年撮影)

東京五輪が開催されたが、無観客だけでなく、いつもとさまざま違う状況が垣間見られる。とはいえ、各競技、各種目で世界のトップを決める大会に変わりない。優勝者には金メダルが授与され、世界一の称号が与えられる。

知識や徳望がすぐれ、世の模範と仰がれるような人を聖人と呼ぶ。この「聖」の字をつけた呼称がある。スポーツ界では、球技の名選手として野球のタイ・カッブ、ゴルフのボビー・ジョーンズを球聖と呼ぶ。大相撲では横綱常陸山が角聖と呼ばれる。

ボクシングには拳聖と呼ばれた名選手がいる。ピストン堀口こと堀口恒男。大正時代に米国で学んだ渡辺勇次郎が、21年に日本拳闘倶楽部創設が日本ボクシングの始まり。31年に全日本プロフェッショナル拳闘協会が結成され、堀口は33年にプロデビューした。

栃木・真岡で同郷の渡辺が模範試合を開催し、真岡中柔道部だった堀口は飛び入り参加した。プロ相手に戦って才能を見込まれた。元世界王者と引き分け、日本、東洋フェザー級王座獲得など5分けはさみ47連勝した。日本ミドル級王座も獲得し、50年の引退まで176戦で138勝(82KO)24敗4分の戦績を残した。

戦争の影響で世界挑戦のチャンスには恵まれなかったが、41年に世紀の一戦を制した。兵役から復帰後に26連勝のやりの笹崎広と対戦して5回TKO勝ち。剣聖と言われた宮本武蔵になぞらえて、拳聖と称されるようになった。

相手をロープに追い詰めて休まぬ連打でピストン戦法と言われた。無類のスタミナで10分間のミット打ちでも息が切れなかったという。リングネームは本名だが、戦法からピストン堀口と呼ばれるようになった。

その堀口が由縁の名門ジムが、7月いっぱいで休会した。弟3人もプロボクサーで、37年に住んでいた神奈川・茅ケ崎市内に練習場として開いた。引退半年後に36歳でれき死したが、その後に長男昌信氏がピストン堀口道場として開いて引き継いだ。近年は元日本ランカーの孫の昌彰氏が運営していた。

ジムの入っていたビルがあった土地では、病院が新築工事中となっている。昨年4月に緊急事態宣言で道場を休場し、7月には平塚市内に仮住まいとなっていた。関係者によると移転先が決まらず休会したという。

国内では原則37歳というボクサー定年があるが、会長やトレーナーに定年はない。70歳代になってもミットを受ける会長もいる。元気は何よりだが、ここにきて息子に代替わりしたり、違う後継者に看板を譲るジムがいくつかあった。世代交代の時期と言えるようだ。

さらに昨年コロナ禍となって、この1年半の間に9つ目の休会となった。アマジムへ移行するために退会したジムも2つある。新ジム開設3つ、休会から再開も3つあるが、休会と退会合わせて11は異常に多い。

五輪開催中も東京・後楽園ホールで2興行あった。こちらは観客入れも半分に制限。2日間の観客数は707人と733人と現状では満員で、熱烈ファンが毎試合惜しみない拍手を送っていた。

プロモーターたちは何とか首をつないでいこうと努力するが「厳しい」と口をそろえる。ジムの退会、休会理由はさまざまながら、コロナ禍の影響は大きい。「コロナ・パンチ」がボディーブローのように効く、ジムの休会ラッシュとなっている。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

寺地拳四朗は東京五輪より9月防衛戦に集中!でも興味示す競技は?

寺地拳四朗(2021年7月5日)

新型コロナウイルス感染症の影響で開催も危ぶまれた東京五輪だが、メダルラッシュにわいている。スポーツは結果がすべてではないと思うが、日本選手の金メダル獲得はやはり、うれしい。そんな世界的イベントを「たぶん、見ないです」と言い切った男がいる。WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(29=BMB)だ。

寺地は9月10日、京都市体育館で同級1位矢吹正道(28=緑)との9度目防衛戦に臨む。同じ世界を相手にするアスリートとして、他競技のトップ選手に興味はないのか。聞いてみたが、変わらない柔和な表情で「ほかのスポーツは見ないんで。もっと磨いていかないといけないことは多い。ボクシングが大事なんで」と返してきた。

捉え方はそれぞれだろう。確かに他競技の選手の活躍に大きな刺激を受ける選手は少なくない。そこから交流が始まり、情報交換でお互いの成長につなげるという話もよく聞く。寺地はボクシングの世界だけに集中するというスタンスなのだろう。

ただ1点、「楽しそうですよね」と興味を示したのがダンスだった。ひとくくりに「ダンス」といっても、多くのジャンルがあると思うが、寺地はそれもボクシングにつなげて考えている。「ダンスを習いたいですね。体の使い方とか、いろいろ(ボクシングに)つながってきそうじゃないですか」。

かつて、フェザー級の世界主要4団体の王座を獲得したナジーム・ハメドというボクサーがいた。「悪魔王子」の愛称で、ダンスのようなリズムで変則的なボクシングで人気を博し、日本の元WBA世界ライトフライ級王者・山口圭司ら多くの“崇拝者”がいた。独特の雰囲気を持った選手だったと記憶する。

寺地がダンスを学んで、そのスタイルに変更するとは思えないが「個性」を求めていく姿勢は大事だと思う。五輪・パラリンピックの後、9月に行われる世界戦。寺地の新たな可能性も楽しみにしたい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

4団体統一狙う井上尚弥に立ちはだかるか?増しつつあるリゴンドーの存在感

ギジェルモ・リゴンドー(2014年12月31日撮影)

ボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)が4団体統一を狙う階級に「不気味」な王者がいる。WBA世界同級正規王者ギジェルモ・リゴンドー(40=キューバ)は8月14日(日本時間15日)、米カーソンのディニティヘルス・スポーツパークでWBO世界同級王者ジョンリール・カシメロ(31=フィリピン)との王座統一戦に臨む。この勝者が将来的に井上と拳を交えるだろう。「モンスター」の対抗王者は発信力のある他団体王者よりも影が薄いからこそ、侮れない存在と言える。

当初からカシメロとの統一戦に臨むはずだったリゴンドーは不遇な立場にあった。一時はWBC王者となったドネアにポジションを奪われ、カシメロ戦が消滅した。しかしドーピング検査に関した両陣営の取り決めが遅れ、ドネアら家族に侮辱発言したカシメロ側のミスでキャンセル。二転三転し、リゴンドーが元のさやに戻った。すると、これまで正規王者として静かだったはずのリゴンドーが発信を開始した。

あらためて興行主から統一戦が発表されると、VADA(ボランティア・アンチドーピング協会)の書類を提出したことをSNSで明かし「私はきれいなファイター。ボクシングに汚れたファイターを入れてはいけません」とカシメロを挑発するようなコメントを出した。さらに米専門サイト、ボクシング・シーンのインタビューでは「カシメロの夢を台無しにするプランがある。トレーナーのロニー・シールズといくつかの新しいトリック(技術)を取り組んでいる。彼をKOしても驚かないでください」とも豪語した。

さらに「カシメロの周りにボクシングのサークル(囲い)をつくり『エルチャカル(肉食動物ジャッカル)』が何であるかを彼にみせる」と牙をむく姿勢を示した。もともと五輪で2度金メダルを獲得し、プロでも世界2階級制覇王者。井上も6月14日のジムワーク再開時に「リゴンドーが倒す可能性も十分にある。カウンターパンチがうまい。(カシメロの)スピードのない大振りなパンチならばリゴンドーの格好のえじきになりますね」と予想していた。全盛期ではないものの、ヒット率の高い左ストレート、軽快なステップワークは健在で、リゴンドーは決して侮れない存在だ。さらに発信力も増してきた今、不気味さのオーラも大きくなっている。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

入門半年16歳今井礼夢、課題山積も徐々に手応え 議員の母からも独り立ち

初勝利を目指す今井礼夢(撮影・松熊洋介)

初勝利は確実に近づいている。プロレスリング・ヒートアップの今井礼夢(16)が。11日の新百合ケ丘大会で6人タッグマッチに出場し、敗れはしたが、成長した姿を見せた。数キロながら体重も増え68キロになり、風格も出てきた。「体力が付いている実感はある」という。

試合では、開始早々、初の場外戦で相手を殴り付けた。さらに、師匠のTAMURAから学んだ駆け上がり式ブルドッキングヘッドロックを決めるなど見せ場を作った。これまでは技をかけた後に間があったが、連続技を決めるなどスピーディーな展開で相手を追い込んだ。それでも劣勢の時間はまだ多く、最後は変形コブラツイストでギブアップ。課題はまだ山積みだ。「技の技術を上げていきたいし、経験が足らない」と自覚する。何度も対戦している新井健一郎は「自信がないように見える。やりたいことをリング上で見せていかないと」と、あえて厳しい評価を口にした。

それでも定期的に行われている道場マッチで力を付けている。実力者たちとシングルマッチを戦い「技の種類やスピードが増した」と手応えを感じた。昨年末のデビューから半年がたち、練習生のころのような不安な表情は一切ない。元SPEEDで参院議員の母・絵里子氏からは独り立ちし、今では母のことを聞かれても「(会場に)来ているのか分からない。たぶん応援してくれているんじゃないですか」などと、気にする様子もないほど、プロレスに集中している。

9月17日には川崎・とどろきアリーナでの興行が行われる。礼夢のデビュー戦の反響を感じ、代表も務めるTAMURAが会場を押さえた。有観客の公式戦は7試合を戦って未勝利。「自分的にはまだまだだと思う。もっと自信を付けて、とどろきで初勝利を挙げたい」。9月、自分の力で3カウントを奪い、大観衆の前で初の勝ち名乗りを受ける。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

11日、ヒートアップ新百合ケ丘大会の6人タッグマッチで敗れた今井礼夢(左)。右は大和ヒロシ
11日、ヒートアップ新百合ケ丘大会の6人タッグマッチで大和ヒロシの首をつかむ今井礼夢(左)

ボクシング、コロナ禍もプロテスト受験者数増加、新人王戦開催で存続に必死

昨年からコロナ禍で自宅にこもり、時だけが流れていくような気分だ。たまに取材に行くことはあるが、ほぼ直行直帰する。気分転換にはなるが、やはり刺激は少ない。問題、課題は山積したままの中、平穏な毎日を過ごせることが一番か。

今年も7月に入って、もう半年が過ぎた。そんな中で東京五輪はやるようだ。開催の是非は棚上げで、観客制限か、無観客かが問題になっている。どうなんだろう。開催しても、世界が集まるスポーツ最大の祭典が、異常ないびつな大会となる。

いざ始まれば、世の中は五輪一色となるかもしれない。それも2週間あまりで大会は終わる。熱しやすく冷めやすい日本人気質。一方でコロナ禍の終息はいまだ見えない。スポーツの今後が心配される。

プロボクシングでは、この1年半でどんな影響があっただろうか。コロナ禍以前の19年と比較してみた。まずは国内での興行数と試合数。

◆19年 175興行、1328試合

◆20年 90興行、544試合

◆21年 44興行、242試合

昨年は3~6月の4カ月は興行がなくなり、実際に開催されたのは9カ月しかない。19年からは6割減となった。今年は6カ月でこの数字と、決して増えているとは言えない。

ちょっと気になった数字もあった。中止となった試合数。19年は55試合、20年は50試合、21年はここまで29試合と増加ペース。ケガ、体調不良や計量失敗が理由。日程の変更もままあり、コロナ禍での練習制限、体調管理の難しさを示しているようだ。

近年は国内興行の難しさから、海外へ積極的に出て行く傾向が強まっていた。しかし、海外も試合開催や渡航制限があり、世界戦も海外戦も減っている。

◆19年 世界戦34試合、海外戦93試合

◆20年 世界戦9試合、海外戦11試合

◆21年 世界戦9試合、海外戦8試合

今年は9月までに4試合の世界戦が予定されている。井上尚弥を筆頭に海外戦を中心に増加の傾向だ。ただし、今年の海外8試合のうち世界戦以外は2試合だけ。世界戦以下のレベルになると、特にアジアの状況がままならず、今後は見通せない状況にある。

興行も時間制限、経費の問題などから、特に6回戦以下の試合が減っている。これはボクシングにとって最大の問題とも言える。試合ができないなら、競技を続ける、競技を目指す選手が減り、競技人口の減少となる。プロテストの受験者数を調べてみる。

◆19年 561人、合格445人

◆20年 332人、合格282人

◆21年 287人、合格247人

昨年は4割減だったが、今年は増加傾向にある。ちょっとホッとする。合格率は79・3%、84・9%、86・1%と上がっている。アマ経験者のプロ転向が多く、五輪イヤーという側面があるだろう。代表を逃したり、ここを節目に転向する選手がいる。ここでも問題がある。プロになっても試合相手がいないのだ。特に東南アジアから招へいできないことが大きい。

感染拡大の中でも、昨年は年をまたいで新人王戦を開催した。世界に例のない、日本独自のトーナメント戦。今年も各地区予選が始まっている。東日本では新宿フェイスで、8日から4日間連続で集中開催する。業界の存続への必死の努力がうかがえる。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

「モンスター」井上尚弥が描いた戦略図、相手もん絶させた「左ボディー」

20日のタイトルマッチでダスマリナス(右)に強烈なボディーをヒットさせる井上(AP)

久しぶりにボクシングの「醍醐味(だいごみ)」を堪能した。WBA世界スーパー、IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦が19日(日本時間20日)、米ラスベガスで行われた。

王者に君臨する井上尚弥(28=大橋)は挑戦者のIBF同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)から2回、そして3回に2度と計3回のダウンを奪ってTKO勝ちした。圧巻の勝利だったが、興味深かったのはその倒し方。3度のダウンはいずれも左ボディーで相手をもん絶させた。

ボクシングは拳を交える前に「減量」という戦いが必ず待ち受ける。そのコンディションの持ち方によって当然、戦い方も左右される。相手の状態を見極めた上での戦い方も大事な要素といえる。

思い出したのが97年11月のWBC世界バンタム級タイトルマッチ、辰吉丈一郎が王者シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)に挑んだ一戦だ。当時、眼疾から復帰して連敗の辰吉はがけっぷちに追い込まれていた。一方のシリモンコンは上り調子の若き無敗の王者。戦前の予想は辰吉の圧倒的不利だった。

試合前日、シリモンコンの発熱が明らかになった。無敵の王者にとって、最大の敵が減量。厳しい体重調整による体の悲鳴が発熱として表れた。しかし、何とか計量をクリアした当日。リングサイドの記者席から見上げた両者は、体が倍ぐらいの違いに見えた。「辰吉が殺される」と震えたほどだった。

しかし、試合は辰吉が勇敢に進めた。勝機となったのが左ボディー。厳しい減量を乗り越えてきたシリモンコンのコンディションはやはり、万全とは言えなかったのだろう。脇腹に辰吉の左ボディーが突き刺さり、ベルトを奪い取った。

その試合と先日の井上の試合を重ねるのは乱暴だが共通する「左ボディー」のキーワードにはそそられる。現役ボクサーに聞いた話だが、1発で意識を飛ばすのは顔面に食らうパンチだが、ダメージの蓄積でどうしようもなくなるのがボディー攻めという。井上も2回の一撃で瞬時にKOへの戦略図が描かれたはず。試合の中で相手の状態を見極め、攻略図を描く。それができるからこその「モンスター」だろう。

王者には年内にも、4団体統一のプランが浮上してきた。「モンスター」はどこまで進化するのか。「左ボディー」の引き出しも披露して、楽しみは無限に広がった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

20日のタイトルマッチ ダウンし、苦しい表情を見せるダスマリナス(AP)

新日本支えた「ドラゴン」&「組長」様々な因縁や物語ある両者の“戦い”

7月4日に行われる藤原喜明と藤波辰彌のトークショー(シャイニング提供)

「ドラゴン」と「組長」がトークバトルを行う。7月4日、新日本プロレスなどで活躍した藤波辰彌(67)と藤原喜明(72)が、東京・紀尾井町サロンホールで対談する。

72年入門の藤原は、同11月のデビュー戦の相手が、2年目の藤波だった。その後2人は新日本を支え、ともに海外遠征で力を付けていった。84年2月、雪の降る札幌でWWFインターナショナルヘビー級王者・藤波に挑戦する長州を、藤原が試合前に凶器で襲撃。知らされておらず、試合をぶち壊された藤波は裸で雪が降る中、外に飛び出し「こんな会社、辞めてやる」と吐き捨てるように言った。不信感を抱き、その後の猪木とのコンビを拒否。一方の藤原は「テロリスト」の異名を取り、表舞台に登場するようになった。

93年にはG1クライマックスで7年ぶりに対戦。藤波が藤原得意の関節技で勝負する白熱した展開となった。藤原のワキ固めをブロックして14分30秒、一瞬の首決めエビ固めで勝利。試合終了後、2人はリング上で、固く抱き合った。藤波は「時間の経過とか考えられなかったよ」と試合後、安堵(あんど)の表情を見せ「もう1度と言われたら、二つ返事でOKする」などと語っている。藤原も「懐かしい気持ちでいっぱい。ひょっとしてそれが敗因になったのかな。藤波は天才で、オレは雑草。けれど、何だかさっぱりしている」と笑みを浮かべた。

その後は他団体でも対戦したり、タッグを組んだりしながらプロレス界を引っ張ってきた2人。現在もタレント活動も行いながら、リングに上がり続けている。7月4日、さまざまな因縁や物語がある両者の“戦い”に注目だ。

当日は会場内にて“組長”自ら描いたイラストをプリントした「藤原組オフィシャルマスク」や、藤波辰爾デビュー50周年の記念ロゴの入った「メモリアルマスク(2色)」と「メモリアルリストバンド(3色)」も個数限定で販売予定。

▼イベント申し込み http://bit.ly/shining210704(定員になり次第締め切り)

▼問い合わせ (株)シャイニング 046・283・1090

▼イベントURL http://shining-event.sakura.ne.jp/210704/

愛称は「マトリックス」ロマチェンコ、世界が注目のスターに中谷正義が挑む

26日に米ラスベガスで開催されるロマチェンコ(左)-中谷正義戦のプロモーション画像(米トップランク社公式SNSより)

ボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)による防衛成功の熱が冷めやらぬうちに、同じ「聖地」米ラスベガス・ヴァージンホテルで26日(日本時間27日)、世界トップのライト級注目ファイトがセットされている。

元東洋太平洋同級王者でWBO世界同級5位の中谷正義(32=帝拳)が、元3団体統一同級王者ワシル・ロマチェンコ(33=ウクライナ)とのノンタイトル12回戦に臨む。

昨年10月、現3団体統一同級王者テオフィモ・ロペス(米国)に判定負けし、王座陥落するまでロマチェンコは階級を超越した最強ランキング、パウンド・フォー・パウンド(PFP)上位を争う常連だった。王座陥落した現在でも米老舗専門誌ザ・リングでPFP9位に入るほど。世界ボクシング界のスーパースターの1人と言っていい。

アマチュア時代から規格外の戦績だった。オリンピック(五輪)では08年北京大会フェザー級、12年ロンドン大会ライト級で2大会連続金メダル。世界選手権も09年、11年と金メダルに輝き、アマ戦績は396勝1敗。この1度の黒星は07年の世界選手権決勝だった。米プロモート大手トップランク社と契約を結んでプロ転向。18年には世界最速となる12戦目で世界3階級制覇を成し遂げた。プロ16戦のうち15戦が世界戦という戦績から想像しても、ロマチェンコがノンタイトル戦に臨むことは珍しい。その対戦相手として中谷に白羽の矢が立った。

中谷との試合は約8カ月ぶりの再起戦となる。この間、18年にメスを入れた右肩を再手術した。欧米のボクシング界は、卓越した攻守のテクニックからハイテク、精密機械、マトリックスとも呼ばれるロマチェンコの復調ぶりに注目している。米専門メディアでは早くも中谷戦後の展開を予想。現3団体統一王者ロペスとの再戦、あるいはWBC王者デビン・ヘイニー(22=米国)に挑戦するプランを報じる。無冠にもかかわらず、常に世界ベルトに絡む話題が続くのはロマチェンコのスター性だろう。

一方、中谷は帝拳ジム移籍初戦となった昨年12月、米ラスベガスでスター候補で当時のIBF5位フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に9回TKO勝ちした。1回、4回にダウンを喫した後、9回に左ジャブでダウンを奪い返し、ワンツーで沈めたファイトは米国で高い評価を受けた。現在はライト級でWBO5位、WBA8位、WBC9位、IBF10位と4団体でトップ10入りしている。

19年7月にIBF世界ライト級王座挑戦者決定戦で判定負けした現3団体統一同級王者ロペスへのリベンジを口にする中谷にとっては世界挑戦を手にするための大チャンスと言っていい。ビッグネーム撃破で得るものは非常に大きいだけに、日本のファンにとっても興奮のカードとなる。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)